それではどうぞ!
要塞都市……あ、いや、今は技研都市エリドゥにやってきたのは実に1ヶ月ぶりだ。あのときは都市の中をゆっくり見る余裕なんてなかったけど、こうして車でゆっくり走ってみると、たった一人の生徒が作ったなんて到底思えない、ちゃんとした都市だ。
「ミレニアム自治区内はよく整備されていると思いますが、まさかそれ以上とは」
「そうだね。もうSFの世界だよ」
「空にはカーゴ型のヘリでしょうか……?小説などでは空を飛ぶ車、なんてものがありますが、まるで物語の世界そのものです」
エリドゥの様子はだいぶ変わっていて、どうやら一部のミレニアム自治区住民に開放を始めたのか、かなりまばらだけど車の行き交いもあるし、研究職らしき生徒の姿もある。調月会長の負債の精算をしなくてはならないから、一般開放はそのためのものなのかな。
「ミカさんからある程度の話は聞いています。ここでデカグラマトンなるものと戦ったそうですね、エリカさん」
「うん。意志を持つ超大型兵器みたいで、未だにどうして現れたのかも、暴れるのかもよくわかってないよ」
「トリニティではまだ確認されていないですが、明確な脅威………警戒しようにも、というところでしょうか」
ナギサちゃんはデカグラマトンのことはそこまで詳しくない。トリニティでは今のところ、デカグラマトンが確認されていないからね。
「デカグラマトンはいないけど、ミメシスは残ったままなんだっけ?」
「えぇ。アリウス生のうち、協力的な生徒たちが図書委員会と調査を進めていますが、聖徒会が使用していたとある離島でも自然発生的にいて、遭遇しています」
エデン条約事件で戦った幽霊シスターはベアトリーチェを倒したりしても出現するようになってしまったようで、トリニティではその処理が未だに続いているらしい。アリウスの子たちの中にはミメシスに関わることであれば協力を申し出る子もいるみたいだった。
「先生が古聖堂地下で遭遇したというヒエロニムスという怪物。あの類がトリニティの中にまだいないとも限りません。そういった点でもミレニアムの分析力は頼りにしたいと思っています」
「特異現象捜査部だね。確かに適任」
あのスランピア・トリニティ内で出くわしたネズミとカラスみたいなのも似たようなものだと思うし、先生曰くたぶんアレもミメシスらしい。ゲマトリアが生み出した技術だっていうけど、あの怪人さんたちは一体全体何者なのだろうか。
そういった不可解なものの解析には特異現象捜査部が間違いないし、ナギサちゃんの頼ろうとしている先は正解だ。
「……トリニティ内の政争は落ち着きましたが、問題は山積みです」
「シャーレも協力するよ、ナギサちゃん」
「心強い限りです。本当に必要な時は、頼らせてもらいます」
ナギサちゃんの穏やかな笑みを見て、私はやっぱり彼女はこうして何気ない、穏やかな日常の陽だまりの下で、微笑んでいる姿が一番だと思った。彼女が無事でいてくれることが、何よりも平和であることのように思えた。
「エリカさん?」
「あっ、ごめん」
ボーッとしてしまった。幸い、後続車はいない。車を発進させよう、と前を向いたら歩道を走っている集団がいた。人がほとんどいないからその姿はよく目立つ。5人組。先頭の一人と、そのあとに続くもう一人の背中にある装備は特徴的だ。ミレニアムで開発された未来の装備、レールガン。
「ゲーム開発部?」
「どうされたのですか、エリカさん」
「ん、いや、あの子達知り合いで」
「あぁ、あの……随分と先を急いでいるようですが」
ナギサちゃんもゲーム開発部を見たけど、確かにあの子達急いでいる。方向が一緒だから乗せ……ようにも定員オーバー。話ぐらいは聞こうかな?
「ナギサちゃんちょっとごめんね。あの子たちに話しかけるよ」
「どうぞ」
車を発進させて、路肩へ寄せていく。軽くパッシングしてあげると、先頭を走っている子は気がついたようで足を止める。つられて残り4人も足を止めた。
振り向けば、一番前にいたのは天童ケイ……一ヶ月前に騒動の中心となった天童さんの、今は双子の妹という扱いになっているあの子だった。髪型が天童さんと違って肩あたりで髪の毛を切っていて、制服もシャツがグレーになっていて、見分けがつきやすくなっている。
「みんな、おはよう。どうしたの?」
「……草鞋野エリカ」
ものすんごい嫌そうな顔をケイさんがしていた。才羽姉妹も私たちを見て「おはようございます」と挨拶して、花岡さんもぺこりと会釈する。
「エリカ!おはようございます!どうしたんですか?」
「おはよう、天童さん。みんなこそそんな纏まってどこいくの」
「私たちは宇宙船ドックに行こうと思っています!」
宇宙船ドックってこの前のよくわからない艦艇のようなものを収容してる場所だけどなんで一般生徒の彼女たちがそれを知って……あぁ、ケイさんの情報処理能力とかヴェリタス経由で知ったのかな?
「一般生徒は立ち入りできないと思うよ」
「その口ぶりでは、あなたはあの場所に何が入ったのか知っているのですね」
ケイさんがより強く私を睨んだ。え、なに。この子達一体なにを……。
「エリカさん、あの黒髪の短い子は……」
「天童ケイさん。隣の天童アリスさんの妹さんだよ」
「ずいぶんと因縁がありそうですが」
「…………ナギサちゃんには一度話してると思うけど、一ヶ月前の事件で色々あった子」
名前とかは伏せているし、天童さん絡みはぼかしているけど、さすがナギサちゃん。ある程度察してくれたのか頷いた。
さて、問題はケイさんがどうしてか私に墓穴を掘らせてくれたけど、この子達が宇宙船ドックに向かう理由がわからない。見物、という割にはケイさんの様子がずいぶんと穏やかじゃない。
「ミドリさん、一体どうしてそんなに急いでたの?」
こういうときはミドリさんに聞いてみよう。一番はっきりと答えてくれるはず。
「それが、ケイちゃんがエリドゥに邪なものがあるって聞かなくて」
「邪なもの?」
「ケイはもののけがいるって言ってます!」
「もののけ…?」
私とナギサちゃんで独特な言い回しに首を傾げた。
「す、すいません…!二人とも最近名作ロボットアニメの劇場版を見て……!」
「やはり調月リオは信用なりません。王女を脅かす。電話で問い詰めても『私は感知していない』の一点張り」
「ケイはリオを宇宙遊泳させると言ってます!」
「いやダメでしょ!宇宙服は着せないと!」
「お姉ちゃんそういう問題じゃないって!」
双子2組の元気の良さに私とナギサちゃんはなんだかほっこりしてしまったかもしれない。なんだ。ただアニメを見てちょっとテンション上がってるだけかな。まぁ、一般生徒と言っても彼女たちはこの前の事件の当事者だし、エリドゥは初めてじゃない。
私たちはもう行こう。
「ごめんね邪魔しちゃって。私たち用事あるからここで」
「失礼しました」
じゃあね、と軽く手を振りながら行こうとしたら、突如ケイさんが動いた。
「ッ!?」
「きゃあっ!?」
シフトをバックに入れてアクセルベタ踏み。私たちの乗っている車があった場所にはケイさんの武器であり、以前は生塩さんが使っていた鍵のような形をしているレールガン、スーパーノヴァMk-2。
その砲身があった。
「い、一体なにを」
「ナギサちゃん、車降りて」
「それは」
「危ないから」
どうにもケイさんの様子がおかしい。彼女だけはどうやら何か切羽詰まってる様子が。
私とナギサちゃんが車を降りると、私たちの進行方向にケイさんがレールガンを持ったまま出てくる。
「ちょっ!?ケイ何してんの!?」
「ケイちゃん!ダメだよ!」
「…ど、どど、どうしよ、草鞋野さんに迷惑を」
部員の子達からの制止を完全に無視。これはまずい。どうやらどうしても私に聞きたいことがあるようだ。
どうしたものか。このままだと会談に遅れる。ナギサちゃんが万が一怪我でもしようものならコトだ。ミレニアムとトリニティの同盟にのっけからヒビが入る。そのあたりをケイさんに説明しても無駄だろうな。
それに、あのエリドゥでの事件は、後から思い返せばデカグラマトンを除いて全員が何かを守るために戦っていた。それが学園そのものか、別の誰か、自分自身の違いはあれど。
天童ケイという生徒、彼女が必死になるということは何かを守ろうとしている。おそらく、今回は自分ではなく──。
「ケイ!一人じゃエリカには勝てません!タッグマッチです!」
「おうじょ…………アリス、危険ですから下がってください」
──天童さんを守るため。そんなふうに思えた。
「エリカさん、彼女たちは一体どうして」
「どうにも、ケイさん、あの子が何か先走ってるみたい。なんにせよまだあの子1年生だからね。そういうこともあるよ」
「どうするのですか?」
「ちょっとおとなしくしてもらおうかなって。ヴァルキューレ式で」
「………それって」
「ちょっと生意気な後輩は少し、お話してあげないとね」
ライフルを抜く。今はトリニティの制服だから、見た目上違和感はない装備だ。
「私も手伝います」
「ダメ。絶対ダメ」
「ですが」
「いやいや、怪我したらどうするの。それに、何も向こうも本気で潰そうってわけじゃないよ」
最初からやるつもりならとっくにレールガンで車ごとやってる。そうしないあたり、やっぱりあの子は私と話したいだけだ。ちょっと不器用なんだなぁ。
「というわけで、天童さん。よくわからないけど、相手になるよ」
「!」
まだ銃口は向けない。それでも、少しだけ睨む。天童さんはまさか私がそんな顔を向けてくるとは思っていなかったのか、肩を跳ねていた。
「王女もろとも?草鞋野エリカ。まさか」
「いや別にこてんぱんにはしないって」
「こちらを侮るとは、不愉快な……!」
……なんだろう、ケイさん真剣なはずなんだけど、もしかしなくてもだいぶこの一ヶ月でアニメに影響されまくってるのではないだろうか。
ナギサちゃんは私の言葉に従って歩道側に退避。さすが彼女らしく、ゲーム開発部の中に混じった。フレンドリーファイアできないだろうから、ってことかな。
「どうすんのこれ!先生とかユウカに怒られんじゃん!」
「すぐに電話しないとお姉ちゃん!」
「あぅぅぅ……」
困ったなぁ。怪我を負わせないように、ってなるとやっぱり二人の持つレールガンを止めないと。奇しくも、あのエンジニア部でのリベンジマッチってことになった。あの時と違ってロボットはいない。あとは、私の体調は万全だ。
「ケイ!」
¬キルスイッチ狙いでまずは一発、と早撃ちをしたらなんと天童さんがケイさんを庇うように出てきて、非展開状態のレールガンを盾にしてきた。あのレールガン、かなりの強度なのか弾が弾かれてしまった。
重いはずなのになんて素早さ!
「貴様……!王女に、王女を盾にさせたな!」
「いやどう見ても天童さんが自分から盾に」
「私を守らせたなっ!」
「アリスはメイン盾ですから!」
なんだろう、この姉妹、噛み合ってないのに噛み合ってるのは。盾になった天童さんの横からケイさんはレールガンの砲身を見せてきた。彼女はよく見れば撃とうとした瞬間に、膝立ちになっていた。
あれ?
「外した!?」
「ケイ!エイムが!」
あまりに見え見えの射撃姿勢なので当然避けた。弾丸は遠くの車道上に落ちる。なんだか出力もだいぶ低い?というか、アレって生塩さんですらかなりの反動があって扱いきれてなかったし、もしかしてケイは持て余してる?
「ケイ、クソエイムじゃん!」
「うるさいですよ才羽姉」
「でも外してるし!」
「ミドリと勝負して無様に負けてたガバエイムに言われたくないです」
「はぁぁぁっ!?そういうケイだってミドリに負けたじゃん!」
「私はこの低スペックに加えて機能制限がかかった身体のせいで決して実力がないわけではありません」
「言い訳じゃん!」
えぇ……急にモモイさんとケイさんの言い争いが始まってしまった。ただ、今のケイさんの発言でなんとなくわかった。どうやら彼女はこの前の事件もあってか、あの機械の身体にものすごい制限をかけられているようだ。
膝立ちで射撃したのも反動に耐えられないからではないだろうか。
もしかして天童さんが助太刀したのってこれを見越して?
「天童さん、あの、ケイさんってどうなってるの?」
「エリカ!ケイは今、戦闘モードになると戦闘力が3割ぐらいになる縛りプレイをさせられてます!」
「忌々しいあの生徒会長が付けた首輪です。……処理能力までも落とす徹底ぶり。不快この上ありません。しかし、草鞋野エリカ。あなたは紙耐久。私のスーパーノヴァの前には無力です」
「当たらなければどうということはないと思うけど」
「「!」」
なんでか私の言葉に二人が驚いた顔をした。
「ケイ!エリカが赤いです!青いですが!」
「装備の性能の差が戦力の差でもないと?悔しいですがこのスーパーノヴァを超える生徒の武装は現時点でありません」
絶対アニメの何かだ。なんだか本気でどうこうしようという感じじゃないので、時間もない。このままどうにか終わってくれないかな。
困りました。エリカさんが攻めあぐねています。
このエリドゥという近未来都市にやってきましたが、目の前で繰り広げられているのはどこでも見る生徒同士のトラブル。エリカさんの前に立つ双子の生徒はおそらく、エデン条約時に、ミレニアムで見たレールガンを持っている生徒。
当たればただでは済まないはずですが、エリカさんに攻撃を加えたケイ、という生徒の練度は低い様子です。身体能力を制限されているような言葉も出ていましたが、そんなことがミレニアムは可能なのでしょうか?
「あ、あの、ご、ごめんなさい!ごめんなさい!うちの部員が邪魔をしてしまい!」
目の前の状況を眺めていると、どこか遠慮がちな子が必死に頭を下げています。彼女が、エリカさんが言うこの5人、ゲーム開発部の代表者なのでしょうか?健気な印象を受けます。
「いいえ。まだ……時間的には大丈夫です」
時計を確認しますと、少し余裕があります。元々、早めの出立でしたから。今日に関して言えばエリカさんが偶然早めに出たからですが、何かと今日のエリカさんは巡り合わせがいいのかもしれません。
いつも、大変な目に遭われていますし、彼女のやりたいことが上手くいく日の1日ぐらい、許されるのではないでしょうか。
「それに、あの様子では大事にはならなさそうですから。大丈夫かと思いますよ」
「すいません!すいません!」
エリカさんは強い。彼女の全力というものは過去数度見ていますが、何よりもやはり速さが武器ではないでしょうか。私の周りの方はどの方も、力自慢です。ミカさんは昔からそうですし、ミネ団長やツルギ委員長、サクラコさんも決して見た目通りの華奢さではありません。
ですから、これまで目で完全に追いきれない方というのは初めてでした。
しかし、あのアリスという方はエリカさんが本気ではないにしても、彼女の早撃ちにあんな重たい装備で反応してみせました。思えば、晄輪大祭で彼女はあのレールガンを振り回していました。あれぐらいは簡単なのでしょう。
ただ、言動もどこか幼なげで、敵意も邪気もありません。若干、エリカさんにレールガンの銃口を向けることが躊躇っているようにも見受けられますが。
「あ、あの……えっと、聖園さんのお知り合い、ですか?」
今度は、ミドリ、と呼ばれていた方が声をかけてきました。名前のとおり、身につけている装飾品は姉妹の方と同じ形で色が緑で統一されています。可愛らしい姿です。
「どうしてそう思われたのですか?」
「え?いえ、その、羽とか……あと、なんだか高貴そうな雰囲気、でしょうか」
ミカさんと雰囲気が似ていると言われて、そのような言葉が出てくるあたり、彼女はいい嗅覚をしています。セイアさんと出会った頃は「君たちはおめでたいぐらいに似たもの同士だ」「目が4つもあるのに正面しか見えないのかい?」などと散々でした。……今思えば、彼女なりの忠告で、それを聞いていればあんな馬鹿な真似はしなかったかもしれません。
「でも、草鞋野さんみたいな、警察官みたいな雰囲気もあります」
それを聞いて、私は少しニヤけてしまったかもしれません。彼女との始まり。私をただの一人の生徒、女の子にしてくれた、あの夏の二日間。私は今でもあの日のことを忘れていません。大事のための小事として個を切り捨てず、目の前の正義を果たすヴァルキューレ警察学校の警察官さん。
偽りとはいえ、その道を邁進する彼女の部下となれたこと。あの出会いがなければ、私は変わることにもっと時間がかかっていたかもしれません。
「だいたい、正解です」
「え、じゃあ……」
「ですが、今は身分を明かせないのです」
口に人差し指を当てて、お願いします。たまにこうやってエリカさんは格好つけます。基本的に、エリカさんは可愛い容姿をしているので、こういう仕草をしていると背伸びしているように見えてしまいがちです。
厳しい警察官としての姿のときはがむしゃらですから、このようなことは絶対しません。そちらのほうでされたら、似合うと思います。
ミドリさんは察してくださったのか、頷いてそれ以上は問いかけてきませんでした。
「エリカ!ケイと勝負してください!」
「うーん、しなくちゃダメかなぁ」
「当然です。でなければ通しません」
あのケイという子との実力差はかなりのものですから、エリカさんはおそらくできるだけ戦わずに解決したいようです。
私も手伝いたいのですが、ここでミレニアムの生徒を撃つなど外交問題に即発展してしまいます。エリカさんも今はトリニティの制服を着ていますが、そこは現在、シャーレの籍に戻っていますから問題はありません。
手を出そうとすればエリカさんが止めるでしょうし……ふむ。
では、手も足も出さずにお手伝いをすればよいのでしょうか。それならば、手はあります。
私たち今代のティーパーティーホストには、それぞれ、他人には説明できない不可思議な力がありました。セイアさんの未来予知…は失われてしまいましたが、ミカさんの”星の呼び声”と彼女自身が言っている隕石を呼び寄せる魔法。
そして、私にもあります。この力が一体何に由来しているかはわかりません。それでも、出来てしまうのですから、使えるものは全て使います。エリカさんを見習って。
「………ふぅ………お三方とも、少し、下がってもらえますか?」
「え?」
「お姉ちゃん、ちょっとこっち」
「なになに?」
素直に歩道にいた三人は私の後ろに行ってもらえました。ちょっと、疲れてしまいますが、飛びながらではありませんし、消耗は最低限で済むはずです。
両手を胸の前で重ねて、祈ります。これには時間がかかるのです。ですから、普段はそもそも使うことすらできません。
「あれ?なんか風吹いてない?」
「ほんとだね、お姉ちゃん」
私の羽が風で揺れます。風の起こりは正面から。エリカさんの前にいるお二人の足元で。
「アリス!いけません!スカートが!」
「見てくださいケイ!スーパーモードみたいです!」
「逆立っているのでどちらかというとバーサーカーモードです!」
ゆっくり、怪我をさせないように。
「──風よ、やさしく、旅人を攫いたまえ」
「うわっ!?」
「こ、これは、未知のエネルギーが…!?」
ふわりと、双子が浮き上がります。私の力。それは、風を操ること。祈りを捧げて、集中しなくてはいけないために普段はまず使うことができません。ミカさんのようにただ呼んでるだけとは違いますから。
「ケイ!浮きました!」
「こんなまるで、風…?空気が、こんなにも柔らかく…!?」
エリカさんが驚いてこちらを見ています。あまりひけらかすものではありませんから、すぐに二人を説得しましょう。
「お二人とも。上級生にそのような態度をするのはよくありません。聞きたいこと、知りたいことがあるのであれば、銃を向けずに聞くべきです」
「くっ………一体何者ですか……!」
「ごく一般的なトリニティの生徒ですよ」
あまり長く力を使っていると疲労するので、このあたりで止めておきます。ゆっくりと二人を下ろして、地面に座らせます。
「お嬢様ってすごいねミドリ」
「………絶対この人も偉い人だと思うよお姉ちゃん」
これで諦めてくれるでしょうか?座らせた二人の方を見れば、ケイという方はまだ諦めていないのかレールガンに手を伸ばしていました。困りました。これではエリカさんが戦わなくてはいけなくなります。
現に、エリカさんの雰囲気が変わりました。
「あんまり、怖い思いはさせたくないけど……しょうがない。天童ケイさん」
「……」
「警告します。武器から手を離し、手を頭の後ろに、その場で膝をついて。さもなくば──」
「コラーッ!」
武装解除を迫るエリカさんお言葉は怒声がかき消しました。声のする方を見れば、エリカさんよりも深い青髪の方。確かあれは、ミレニアムのセミナー、その会計である早瀬さんではないでしょうか。
彼女は両手にサブマシンガンを持ち、まさに鬼の形相と言っていい表情でアリス、ケイという生徒へ迫っていきます。
「げぇっ!?ユウカじゃん!」
「モモイ!アンタらも何やってんの!」
「えぇ!?私たちも!?」
「ミレニアムを滅ぼす気かーっ!」
「お姉ちゃんまずいよ!アレいつもの比じゃない怒り方だよ!」
「えぇ!?なんでぇ!?」
どうやら、事態は終息しそうです。エリカさんも戦う必要はないと察したのか、銃を下げました。
厳しい姿を演じることはできるのでしょう。ですが、エリカさんの根本にある優しさがきっと傷つきます。これで終わりでしょう。
エリドゥ、セントラルタワーのオペレーションルーム。明かりがつき、デスクなどが追加され司令所としての機能を増強されたそこで、リオ、ヒマリ、エイミが市街地で騒動を起こしていたゲーム開発部を見ていた。
「ユウカを行かせたわ」
「あれだけ不機嫌なのによく話を聞かせられましたね」
リオによりシャーレ当番をキャンセルされたことでユウカの機嫌は最悪の一言であり、リオには貼り付けたような笑みで対応を繰り返していた。
「代わりに来週はシャーレに行って良いと休暇を取得させたから」
「乙女心を弄んで、ひどいものですね」
ヒマリは内心ため息をつく。ノアあたりから後日折檻されるのは目に見えており、かつてあったはずの冷徹な天才生徒会長というイメージは崩れ去っていた。それはそれで以前よりかはマシであることにヒマリは重ねて頭が重くなった。
「………あなたに言われたくないわね………」
一方で、リオはかつて「弄ばれた」側であり、目の前の少女にお前が言うなという気持ちでいっぱいだった。
「はい?……それにしても」
話題を切り替えるようにヒマリはカメラに映るナギサに目を向ける。ミカ同様、不可思議な魔法としか言えない力を見せてきた彼女に、ヒマリの知的好奇心は刺激された。
「ふふっ、まさかまた特異現象が観れるとは思いませんでした。トリニティは摩訶不思議なサンプルばかりです」
「まるで悪の科学者の物言いね」
「はぁ?私は大正義清廉潔白スーパーヒロインですが?」
「絶対部長は違うと思う」
黙っていたエイミがヒマリを否定する。彼女はまさか絶大な信頼を置いていた後輩に裏切られるとは思わず愕然とした。
「エイミ。あなたは私の味方ではないのですか?」
「会長がいるから今は会長の肩も少し持つよ」
「…………少し………」
愕然としたが、すぐにヒマリはくすくすと笑った。リオは相変わらずの辛辣なエイミの物言いに悲しさを隠せずに肩を落とした。
「まぁいいです。それで、わざわざ私を呼んだのはどういうことですか?」
「アカネから、会談ということで、顔見知りのあなたがいた方がいいと聞いたのと、どうにもあの”本船”を運び込んでからケイが落ち着かない様子だったから」
天童ケイ、と呼ばれることになった元AI<Key>の状態を、ヒマリは新たな後輩として見守っていたために知っていた。
モモイとは犬猿の仲になっているが、同じ妹枠としてミドリとは良好な関係になり、ユズはアリスが従う部長としては見ており、学内でもアリスの妹として知られ始めていた。
「ケイが?………あの船、無名の司祭絡みだということですか」
が、アビドス砂漠で発見された船型の遺物がエリドゥに搬入されてから不安定になっているという。それが何を意味するかヒマリはすぐに予想したが、リオは首を横に振った。
「いいえ。技術体系が違いすぎる。ケイの協力で鹵獲した不可解な軍隊と共通するようなものは何一つもなかったわ」
「となれば、古代キヴォトスで無名の司祭と敵対関係にあったものたちによる遺物、と考えることもできますね」
「考古学は専門外よ」
「それは私も同じです。ウタハ、エンジニア部が最近いませんが、解析に回しましたか」
考古学でなく、機械の類であれば共通の友人でありマイスターの称号を持つ天才技師に任せるのが常であり、今度はヒマリの言葉にリオは首を縦に振る。
「解析と使えるように改修を任せてあるわ。勘違いしそうだから先回りさせてもらうけれど、後者は先生からのオーダーよ」
「先生が……?あんなものをどうしようというのですか」
「呆れたわ。ヒマリ、あなたはミレニアムの生徒ではないのね」
飛び出したのは露骨なまでの呆れ顔と暴言だった。
「いきなり生徒会長が発してはいけない暴言を吐いてくれて、どうもありがとうございます」
「……悪かったわ。宇宙戦艦と聞いて、先生はウタハと浪漫を語って結果、エリドゥの構造物を再利用して予算を9割減の上、宇宙戦艦となるように改造をしていたわ」
ウタハの試算した宇宙戦艦の開発造船費用にヒマリは目を通したことがあったが、とても現実的な費用ではなく、その1割でようやくある程度は真っ当な金額と言えるものであった。エリドゥの再利用と聞き、あまりに強引な生徒への還元方法に、繊細に見えて時折信じられない大雑把なリオにヒマリは相変わらずだと短くため息をつく。
「していた。つまり出来ていると」
「えぇ。だからシャーレと、これの確保に関わった同盟校のトリニティにまず見せる……のがいいと、アカネから聞いたわ」
「外交力を鍛えたらどうですか」
リオの外交力が高くないことは承知していたが、まさか完全外付けとなっているとはヒマリも思っていなかった。
「セミナーでは担当を決めて活動をしている。今はいないからアカネに任せているだけよ」
「いえそういう話ではなく」
どこかズレた回答にヒマリの頭が痛くなったところで、エイミが二人の会話に割り込んだ。
「あ、会長、部長。ユウカがケイとモモイに説教してる」
「………あの二人にだけ当たりが強いわね」
「ストライクゾーンの外れ際だからじゃないですか?ユウカの好みはわかっているのでしょう」
「人の趣味をあけすけにするつもりはないわ」
ユウカの趣味をリオは知っていたが、後輩の趣味に口を出すほど無粋ではなかった。それは単純に自らに矛先が向かないからであった。
「これで終わりそうね。予定時刻には間に合うわ」
「まぁ、トリニティですから、そのあたりはしっかりしてるでしょう」
ゲヘナなどとは違い、価値観は共有できる相手だとヒマリはナギサを認識していた。
「桐藤ナギサ、彼女は凡人ですが、その手管はあなたのように、いつの間にか事が済んでいるような痛みを感じさせない優しいものではありません」
「報告は聞いているわ。トリニティほど、このキヴォトスでしがらみのある自治区はない。そこを治めているのだから、凡人ではなく、傑物と言える。侮りはしない」
油断するなと言う忠告に、リオは侮ることなどしないと答える。ミレニアムにはない「歴史」を持つことで、公式通りのような絶対の解などありえない、人の不条理に満ちた部分も治めてきた相手だとリオはナギサを認識している。
「そうでしょうけれど………」
ヒマリも、リオが侮ることなど早々ないとわかっていたが、あえて聞いていた。
しかし、そこまでの強い警戒をするほどだろうかと、ヒマリは画面の中でまるで純真な少女のように笑う彼女を見て、含みのない、素直な言葉を溢した。
「あの様子、以前会ったような影がありません。初めての外交相手としてはいいでしょうね」
お読みいただきありがとうございました。
次回はまた未定です。
感想やここすき、いつも大変励みになっています。よろしくお願いします。
アリスとケイが見たものはお察しかもしれませんが某機動戦士シリーズです。
そして、今作のナギちゃんは迫撃砲がない時は魔法(?)で支援してくれます。なんで風属性かと言えば元ネタがラファエルと言われてるからですね。イメージはコスト重めの範囲型スペシャルです。