年末で忙しくてなかなか執筆時間とれないので生存報告的に投下です。
今話で日常は終わりです。
エリドゥのセントラルタワーで行われたナギサちゃんと、調月会長の会談はスムーズに終わった。元々非公式なものなので、今後のトリニティとミレニアムの同盟に関してはより実務者間協議を重ねて年明け以降に公式発表したいらしい。
調月会長の横には明星さんもいたけど「あくまでオブザーバーです」と言い張ってほとんど発言はなかった。ただ、ナギサちゃんは初めて会う調月会長だけでなく、明星さんがいたことは気分的に話しやすかったようだ。
「どうだった?」
「特筆すべき事項は今回の会談ではないかと」
「そっか」
「調月会長は確かに、噂に聞く通り合理性の塊のような方でしたが、意外にも柔軟なところもありました」
「茶葉関係の関税緩和とか?」
「はい」
ナギサちゃんの感覚はなんとなく私にもわかる。一ヶ月前に比べれば、あのときは非常時だったのもあっただろうけど、今日会った調月会長はどこか所作にやわらかさが増えていた。
僅かにはにかんでくれたり、冷徹な合理主義者でありながらも生徒たちの心の贅肉へ理解を示すリーダーにも見えた。
「手応えはあったと言えますから、セイアさんにはいい報告ができそうです」
「よかったね、ナギサちゃん」
「えぇ。……エリカさんがお側にいてくれたおかげです」
「そんなことないって。ナギサちゃんがしっかりしてるからだよ」
私なんかほぼナギサちゃんの横で直立不動だったからね。調月会長の横には私と同じく室笠さんが控えていて、彼女も笑みを絶やさず不動だった。あ、いや、ナギサちゃんも思わず褒めるような紅茶を淹れてたりしたけど。
「それにしても、ミレニアムはあのような優秀なメイドがいるとは思いませんでした」
「C&Cはそうだね。メイド部としても家事代行で有名だよ」
「そうなのですか?」
「そうそう。携帯から検索すれば専用のホームページもあるよ」
ナギサちゃんが言われて携帯を弄り出したのを横目で見る。
今はまた車でエリドゥの中を移動中だ。会談が終わったけど、次の用事はシャーレとしての用事。ナギサちゃんも同行していいというので、向かっているのはエリドゥ内の宇宙港。一ヶ月前の事件では機械人形と戦ったマスドライバーがある場所。
「これですか。……まぁ、予約が一年先まで」
「それは初耳。すごいね」
どうやら家事代行業が思いの外ふるってるみたいだ。その割に、室笠さんはよく先生の当番をやっていたけど、やっぱりそこは部活の範疇を出ないように代行をする日も絞っているのかもしれない。
「ナギサちゃんはどう?メイドさんとして見た室笠さん」
「今すぐにでもトリニティにお誘いしたいと思いました。とても瀟洒で、主人の格を示せるほどの使用人としての風格を感じました。彼女がメイド部のメイド長ですか?」
ものすごくわかる勘違いをナギサちゃんがしていた。部長は美甘さんだ。そのあたりの構成員の情報まではナギサちゃんに行っていないのだろうか?
違うよ、と言おうかなと思ったら「すいません、違いましたね」とナギサちゃんはホームページを見たようだ。
「美甘さん、という方がメイド長なんですね。可愛らしいお方です」
信号で止まったのでよかった。思わず吹き出すところだった。美甘さんに可愛いなんて真正面から言ったら怒られそうだ。けれど、ナギサちゃん何を見てそんなことを言ったのか。
「ナギサちゃん、ちょっと携帯の画面見せてくれる?」
「構いませんよ。どうぞ」
見せてくれた画面に映っていた美甘さんの写真は彼女が絶対しないようなとんでもなく純真な笑顔をしていた。服も着崩していないし、まるで元気で朗らかで、小柄なメイドさんという印象だ。
おまけに「誠心誠意、明るくお仕えします」とまで書かれていた。
これ絶対、写真をなんかいじくってるし、誰かの趣味で美甘さんがまるで可愛いメイドさんかのようになっている。いや、美甘さんもスカジャンとかナチュラルヤンキーな立ち振る舞いで誤解しちゃうけどすごくいい人。
ただそれとこれとは別。これある意味詐欺では……?
「エリカさん?何かおかしなことが」
「全然!」
青になったので前を向いて発進。ナギサちゃんはなんとも疑わしい、という目を向けてきた。うん、私の耳が動きまくりなので全く誤魔化せてない。
「エリカさん」
「運転中だからさ、ほら」
「もちろん邪魔はしませんが、頭の上のお耳がとても可愛らしくぴこぴこと、されていますね」
「うぅ」
あとでこっそり美甘さんのことは教えてあげよう。ただこんな詐欺めいたホームページの記載は一体誰が書いてるんだろう………やっぱり室笠さんなのか。それとも、調月会長か。
「まぁ……今は気にしないでおきますね」
「そうしてください……」
気を取り直して運転に集中しよう。調月会長たちミレニアム側は別ルートで移動をしている。別室で待機させてたゲーム開発部の子達も一緒に連れて行くらしい。賑やかな見学会となりそうな予感。
「それにしても、まさかこうも車移動が多くなるとは」
「ごめんね。窮屈だよね。車も市販車だし」
「いえ、そんな。エリカさんの運転は丁寧ですし、むしろ……」
「むしろ?」
「色んな意味で好都合ですから」
どういうことだろうか。よくわからない。あまり人目に触れないといえばそう。会談に合わせて私もナギサちゃんもそれぞれ本来の制服に戻ってはいるけどね。あぁ、そうだ。さっきのエリドゥに来た時に見せてもらったものについて聞いてみよう。
「ねぇ、ナギサちゃん。あの、天童さんたちを浮かせた力のことなんだけど」
「あれはミカさんが持っている力と似たようなものです」
「つまり魔法?」
「有り体に言えば……私は物心ついた頃から出来ていましたし、小説のような魔力、そんなものを感じたことはないので、実際どういうものかはわからないのです」
「なるほど。ミカさんといい、本当に天使の子って色々不思議だね」
「そうでしょうか?」
「うん。それと、ナギサちゃんが祈ってる姿はすごく綺麗で神々しかったよ」
ミカさんも、鷲見さんも、なんだかトリニティの子たちはミレニアムとは真逆のちょっと理外の力を持ってる。百合園さんだってそうだし。トリニティにはおとぎ話のような力を持つ子がもしかしたら秘密にしてるだけで結構いるのかも。
ナギサちゃんの返事がないのでちらりと見れば、なんでか彼女は窓の外を見ていた。耳が少し赤い。疲れているのだろうか?
「ナギサちゃん、前を見て。見えてきたよ、マスドライバー」
視線を戻せば、目的地の宇宙港にあるマスドライバーが見えてきた。ナギサちゃんも前を向いて、釘付けになる。
「なんて大きな……あれが宇宙まで物を打ち出すことができるというマスドライバーですか」
「そうみたい」
落ち着いて昼間に見てみると本当になんと巨大な構造物なのか。宇宙進出一歩手前まで行っているミレニアムの技術力の結晶とも言えるかも。
「宇宙といえば、先ほどの話ではないですが、ミカさんはお星様の声を聞くことができますし、あの宇宙港で戦っていたというのも、何か縁があるかもしれません」
お星様と言うナギサちゃん可愛いなと思いつつ私は素直にミカさんの印象の一つを告げた。
「確かに、ミカさんって天使様、ってよりはなんだか女神様って感じではあるけど」
「ミカさんにもそのような」
「え?素直な感想なんだけど……」
「………気持ちはわからなくもないですが。あぁ、いえ、そうかもしれません。女神というものは慈愛だけを持つものではありませんし」
「そうなの?」
「はい。そういうものです。よければ、そういったお話を纏めた本を貸しましょうか」
「読める時間があればいいんだけどねぇ」
そんなものはない、というのが悲しいシャーレの現実である。
シロコさんと買った自転車はとりあえずシャーレの駐輪場に停めてある。乗る時間が全くない。時間は作る物なんて言われたりもするけど、そうもいかないので勿体ない。仕事で活用しないと。
「………そもそも、先生がエリカさんに仕事を振りすぎなのではないでしょうか」
「うーん、先生一人に任せたら先生が冗談抜きで過労死しちゃうんじゃないかな……」
見せてあげたい、先生と出会ったばかりの頃を。初対面の時はたまたま綺麗だったけど、気がつけばどんどん私物で溢れかえり、職場とは思えないカオスになっていく執務室。隈をファンデーションで誤魔化し、ふらふらなはずなのに笑顔は絶えずにいる。ストレスのせいか「抜け毛増えたんだよねー」とか言ってたり、机の上は栄養ドリンクの空き瓶だらけ。
「先生、空元気は得意だから放っておくと危ないというか……この前の事件でもレールガンに真正面から突っ込んだりとか…」
「エリカさんの無茶具合が先生とよく似ているのはわかりました。次は先生とエリカさんをトリニティに招待します」
「えぇっ!?それされたらシャーレが」
「ミカさんに頑張ってもらいます」
ミカさん一人では無理でしょ!人手が足りなさすぎる……。
「まぁ、一人では厳しいのは私でもわかります。他にも当番の生徒はいるのですから、連携して行えばよろしいかと」
だけど、そこは流石にナギサちゃんもわかっていた。
「シャーレの下であれば各校もイデオロギーを越えて連携できるのではないかと私は思っています。生徒のため。その一点はどの学園の指導者も同じですから」
「そうだといいね」
「ハルナさんと顔を合わせてもミカさんは平気だったそうですから」
「………それは特例だと思うナー」
「そうでしょうか?」
忘れちゃいけないがテロリストの前にハルナは名家のお嬢様である。求められればそれなりのことはするし、TPOは弁えてくれる時もある。対して他のゲヘナの生徒はどうなんだろうか。……温泉開発部とは会わせちゃいけない気がする。
「まぁ、今の話は今後の課題ってことで」
「………わかっているとは思いますが」
「大丈夫だって。そんな早々また大変なことにはならないよ」
ナギサちゃんが心配そうな顔をしてるけど、毎回事件が起きてたらキヴォトスがどうにかなっちゃう。百合園さんの予言だって心配だけど、そのために準備は進めてる。きっとどうにかなるはずだ。先生と共にみんなで協力すれば。
マスドライバーに到着すると、おそらくはセミナーの警備担当者さんたちが警備をしていて、私とナギサちゃんは軽い身体検査をされてから通された。無人の四脚ロボットとか、サイズダウンしたアバンギャルドくんも配備されていて、かなり物々しい。
マスドライバーの中にあるという格納庫に案内してくれる人は生塩さんだった。
「お疲れ様です。ではどうぞこちらへ」
「よろしくお願いします」
マスドライバー施設のゲートを潜り抜けて内部に入って行く。生塩さんの足取りは澱みなく、もう何回もここに来たかのように進んでいく。
侵入者対策なのか、内部の通路はだいぶ入り組んでいて、方向感覚を失うような作りだ。
「生塩さん。ここはやっぱり、かなりの重要施設なんですね」
「草鞋野さんは気づかれましたか」
「どういうことでしょうか、エリカさん」
「何度も曲がったり、ぐるぐるしてるような感覚になってないかな。ナギサちゃん」
「そういえば……」
「わざと入り組んだ構造、迷路に近い感じだね。制圧されたらマズイからそのために対策してるんだよ」
「なるほど」
この前は搬入用のエレベーターとか階段を使ったけど、どれも内部には繋がってないから知らなかった。これも調月会長がほぼ一人で考えているのならすごいけど、もしかしたら基本設計に明星さんも関わってるし、こういった部分は会長一人ではないのかもしれない。
「桐藤会長、もう少しですのでお付き合いください」
「構いません。現在はシャーレの付き添い、おまけのようなものですから。お気になさらず」
「ありがとうございます」
生塩さんもナギサちゃんも、綺麗な人同士で様になってるなぁ。なんて感想を受けつつ、ひらすら生塩さんについていく。数分後、ようやく周囲の雰囲気が変わってきた。直線の廊下になって、奥にものものしい扉が見える。
扉まで辿り着けば、生塩さんが扉の横にある黒いスリットのようなものを覗き込んで、扉の鍵が開いた。すごい。虹彩で認証を…?
「本当にSF小説のようですね。生塩さん」
「いいえ、これがリアルなのですよ。桐藤会長」
生塩さんを先頭に、中へと入った。
「…!」
私とナギサちゃんは息を呑んだ。これまでの窮屈な空間から一気に解放され、広がったのは巨大な格納庫。そして、その格納庫の中に佇んでいるものに目を奪われる。
左右を見渡してようやく全容がわかるそれは明らかに戦闘用の艦艇だ。色合いは深い青に、形は艦首からV字型。艦橋と思われる部分にはアビドスで発見した古代兵器らしきものが見える。
武装も展開していて、全部は見えないけど、側面には天童さんが使っていたスーパーノヴァがサイズアップして搭載されていた。ほんとにあれ宇宙戦艦用のものだったんだ。
「こ、これは……!?」
「──ウトナピシュティムの本船。アビドスで発見された艦艇のようなオーパーツ。それをエンジニア部が設計した宇宙戦艦の艦体へ搭載した…それがあなたたちの前にあるものよ」
圧倒される私たちの前に現れたのは早瀬さん、明星さん、白石さんを連れた調月会長だった。彼女は私たちと同じく宇宙戦艦……ウトナピシュティムと呼んだものを見上げた。
「正式名称はウトナピシュティム・ヴィマーナユニット装備。大気圏内外両用の惑星強襲揚陸艦……といったところかしら」
何を言っているのか全然わからないけどとんでもないものが目の前にあるのはわかった。
ナギサちゃんも同じなのか、目線を調月会長と戦艦の間を行き来している。
「あぁ、一言だけ誤解をする前にお伝えしておきますと、あのオーパーツをこんなふうにしたのは先生とウタハですからね」
「「え」」
私とナギサちゃんが声を合わせて明星さんを見た。くすくすと彼女は笑っていて、白石さんは微笑のまま固まっていた。
「ど、どういうことですか」
なんとか声を絞り出してナギサちゃんが問い掛ければ、調月会長がよどみなく答えてくれた。
「そもそも、私たちミレニアムは解析以上のことを頼まれていない。こんな大規模改修を行ったのは先生とウタハが悪ノリした結果よ」
先生何をしてるんですか。
「まぁ待ってくれ、お嬢様方。何も悪いことばかりじゃない。ウトナピシュティムの解析をしてわかったが、あれは戦艦ではなくおそらく超巨大な量子コンピューターに飛行機能を付けたものだ。簡潔に言えば空飛ぶコンピューターだったんだ」
なんだろう。ものすごく言い訳っぽく聞こえる。まるで何股もしていたことがバレたイケメンのように白石さんが見えた。
「だけど、見た目はどう見たって宇宙船だ。なら宇宙戦艦にするしかないというのが先生、つまりシャーレとエンジニア部の共通見解だったんだ」
先生はともかく、私とミカさんは承諾してないけど?
「論理に飛躍が見られるわね。ウタハ」
「君もノリノリで資材を使わせてくれたじゃないか!?」
「私は咎めているわけではないの。事実を桐藤さんと草鞋野さんに説明しているのよ」
「ぐぅ……!」
「ぐぅの音は出ましたね、ウタハ」
「私を弄ぶとは……流石だな二人とも」
3人の仲が悪くないのはわかった。
あのオーパーツの正体が船じゃなくて量子コンピューターだったのは理解した。でもなんでそこからこんなものに至るのか理解できない。ロマンってやつなのかな。ご丁寧に船体側面にはシャーレのマークが入っている。番号も01とシャーレのマークの下に入っていた。
「さきほど、調月会長はこの船を強襲揚陸艦と仰りましたが、シャーレになんでそんなものが必要なのですか」
「先生曰く、主人公の船は強襲揚陸艦でないといけないそうよ」
「どういう意味なのですか……?」
ナギサちゃんが私を縋るように見てくる。
「ごめん、私にもよくわからない」
「まぁ、この改修のおかげで使いやすくはしたから、映画撮影ぐらいには使えるんじゃないかな」
「作っておいて使う気はないのですか!?」
「え?とりあえず作りたいから作っただけだからね」
ナギサちゃんが白石さんの回答に呆然としていた。私もそうだった。空を飛ぶ戦艦なんかもうとんでもない兵器なのに、本気で白石さんと、あと先生は使い道なんてこれっぽっちも考えていなかったらしい。
ナギサちゃんからすればこんなの脅威でしかないはずだし、抑止力的な使い方をされると誰だって想像しちゃうけど、そういう目的で生まれたものではなかった。
「……なんだか聞いてると、まるでオモチャみたいな扱いに見えてきたんだけど……」
「エリカ。正解だ」
「こんなでっかいのがオモチャなんて思わないよ!」
「ふふ、チーちゃんと同じ反応してますね。さすが元相棒」
チヒロちゃん、おいたわしや……こんな同級生に囲まれてツッコミ気質な彼女は平気だったのか。
「よければ詳細な説明を聞くかい?今見学中のゲーム開発部があそこでコトリの説明会に参加してるが」
白石さんが指を差した方では、確かにゲーム開発部の子達が揃っていたけど、天童姉妹が揃って頭から煙を吹いているように見えるし、モモイさんも顔が赤くなっている。豊見さんは楽しそうにずっと説明を続けていた。
「またの機会にしておくね」
「そうか。残念だ」
あれは私も同じ状態になる。そしてナギサちゃんの貴重な時間を確保してもらっているので、今日は都合が悪い。うん。そう思っておこう。
「まぁ、艦内構造の見学はしてもらおうかな。時間はあるかい?」
「ナギサちゃん、いいかな?」
「問題ないかと」
「じゃあ、お願い」
「任されたよ」
一応、シャーレとしてこの状況を見にきたので内部の確認はしておこう。というか、先生どうして情報共有をしてくれないのか……うーん、先生のことだからこれはイタズラだろうなぁ。
あとで感想を聞かれそうだ。
「──ですから、ウトナピシュティム自体の航行システムでは宇宙空間への単独での離脱ができないため、ヴィマーナユニットの艦種に搭載された陽電子砲で真空状態を作り出して、真空チューブ列車と同じ理論で大気圏外まで離脱を可能としています!あ、真空チューブ列車の原理についても補足で説明しますね!名前の通り真空を作り出して──」
ウトナピ……?と呼ばれているこの宇宙戦艦のタラップは豊見さんの説明会をしている横にあるので通り過ぎたけどなんだか言ってることがちんぷんかんぷんだった。天童姉妹は笑顔のまま表情が固まりつつ耳から煙が出続けてるし、モモイさんもとうとう頭全体から湯気が上がりつつあった。
大丈夫なのかなあれ。
「ユウカ」
「わかっています…ッ!」
絶対止めたいであろう早瀬さんが調月会長に制止されていた。あれかなぁ、もしかしてほんとは入ってきちゃいけないゲーム部を抑えるためにやってるのだろうか。たぶん豊見さんにそんな意識はなさそうだけど。
そういえば明星さんはどうやって階段を上がるのかと思ったらタラップの両壁に設置されたガイドに何かを引っ掛けて最後尾からゆっくり登っていた。
「それすごいね、明星さん」
「ありがとうございます。オデュッセイアに売り込み中の新製品ですよ」
「流石だね」
「当然です。天才ですからね」
明星さんの圧倒的な自信に私は笑うしかなく、ミレニアムの子たちの発明は日々生活を豊かにして行こうという面も感じられてなんだかいいなと思った。タラップを上り切って艦内に入れば、艦内は意外にもミレニアムの校舎内にも似た雰囲気だった。
「ここがウトナピシュティムの周りを囲んでいるヴィマーナユニット内だ。主にヴィマーナユニットは4つのエリアで構成されている」
入り口にちょうどよく掲示されている案内図を見せながら白石さんが説明してくれる。
「艦首付近の陽電子砲ハイパーノヴァ砲を格納する部分や、艦載機を搭載するハンガー。艦体中央前部は作戦室や食堂などの部屋、後部は居住空間。最後部は機関部だ」
彼女曰く、細かく言えば船体の表層部は対空砲や主砲のスペースがあったりするらしい。すごい。本当に空飛ぶ戦艦……と言えばいいのか。
「すいません。艦載機とは?」
「桐藤くん。本艦は当初の構想通り、船外活動可能なパワードスーツを艦載機として搭載している。現在の主力機は量産型アビ・エシュフだよ」
「……えっと」
「これよ」
すかさず調月会長が手に持っていたタブレット端末で画像を見せてくれた。一ヶ月前にも戦ったアビ・エシュフの両腕がキャノンじゃなくてアームユニットになってるタイプみたいで、本来人が露出してる部分もすっぽりと全身を覆うスーツのようなもので覆われていた。
その前に、あんな高性能なパワードスーツがもう量産されてるって恐ろしいんだけど。
「当然、空戦も可能。これを搭載するこの艦はまさに機動戦艦ね」
「いや強襲揚陸艦だよ、リオ」
今気がついたけど調月会長もこれものすごくテンション上がってないかな。明星さんは……なんだか二人のことほっこり眺めてない?もしかしてこの二人が一歩間違えれば即時外交問題になりかねないのにナギサちゃんにも見せてるのって。
「あのさ……すごい失礼なこと聞いていいかな、白石さん」
「なんだいエリカ」
「もしかして、これ完成したのをほんとにただ見せたかった、だけ?」
「当たり前じゃないか。カッコいいだろう?」
構えるのはやめよう。そうだった。こんなノリだったよ。ナギサちゃんをちらりと見れば、警戒する必要が皆無になってしまったのか少し脱力していた。
「桐藤さん。ご理解頂けましたか?」
「えぇ、明星さん。……素敵なご友人をお持ちのようで」
ちょっと疲れたような笑みをナギサちゃんが明星さんに向けていた。
「色々見せたいし、コトリよろしく説明したいが時間は有限だ。今回は艦橋に上がるだけにしよう。こっちだ」
考えてもしょうがない。これだけのものが出来たら誰だって自慢したくなるよね。
白石さんについていって、途中から内装の雰囲気が変わる。ここが本船って言ってたほうの中なのかな。
「白石さん。ここが古代兵器側の方なのかな」
「そうだよ。古代と言う割には私たちが作ったヴィマーナユニットと違和感は少ないが」
「少なくとも、ウトナピシュティムを作り出した者たちは現代のミレニアムを凌ぐ技術力があったことは間違いないわ」
「リオの言う通りですね。考古学はこの場にいる全員専門外ですからなんとも言えないですが」
三人の天才さんの見解を聞きつつ、ほんとにとんでもないものを掘り当てたんだなと思うと同時に、これを欲していたものがおそらくカイザーだったと思うと、ちょっと不安だ。こんなものを手に入れて、巨大とはいえ1企業に過ぎない彼らが何をしようとしていたのか。
しばらく中を歩いて、エレベーターに乗ったりしたあと私たちはこの船の艦橋にやってきた。
「ここはそのままだね。だが、この艦橋のデザインは素晴らしい」
掘り起こした時からそのままだという艦橋はかなり広いし、窓が大きく視界も良好だ。これだけの大きな船だけど、座席数がそんなに多くないのは驚きだった。
「これは……動かせるのですか?調月会長」
「ウタハ、どうなの?」
「もちろん。そもそもウトナピシュティム本体は元からあるし、ヴィマーナユニットは後付けだからね」
なんともうこの船は動かせるらしい。空を飛ぶ船、と言われると興味が流石に湧いてくるけど、流石に今日はそこまでの見学はできないかな。
「……ミレニアムの技術力。しかとこの目で確かめさせていただきました。とても、頼りになります」
「それはよかったわ」
ナギサちゃんの言葉に対して調月会長は硬い返事だった。
「エリカさん。シャーレとして、この船のことは?」
「もちろん先生に報告するけど先生はある程度知ってるんじゃないかな」
そうだよね、と白石さんたちを見れば目を逸らした。絶対報告してるよこのこと。全く先生ったら何を考えて。
「会長。少しいいですか?」
「ユウカ、どうしたの」
ずっと調月会長のそばに控えていた早瀬さんが調月会長に声をかけた。なんだか深刻そうな顔をしてる。それに、生塩さんも携帯を取り出して、どこかに電話をかけ始めた。
調月会長は早瀬さんが持っている携帯の画面を見て目を細めている。
「見学会は終わりよ。たった今、連邦生徒会から非常対策委員会の招集がかかったわ」
「それは……しかしなぜ」
「詳細は不明ね。キヴォトスの危機としか書かれていないわ」
ナギサちゃんの困惑は私も同じだ。非常対策委員会の招集なんて只事じゃない。けれど、キヴォトスの危機となれば、百合園さんの予言のこともある。
「トリニティはどうするつもりかしら。ミレニアムは一応、行くつもりよ」
調月会長、ミレニアムは参加するらしい。ナギサちゃんはどうするんだろう。
私にも届いているのかなと見てみれば、メールが入っていた。開催時間はなんと今日の午後すぐ。今からトリニティに戻っては間に合わない。参加するなら現地での合流がベターだと思う。
「一度、トリニティに連絡をさせてください」
「参加するなら言ってちょうだい。移動はこちらで手配するわ」
「お気遣い、ありがとうございます」
ナギサちゃんはトリニティに電話するみたいだ。当然ながら委員会には先生も参加する。私も行かなくてはいけないだろう。
私はまだこのときは知らなかった。これから始まる騒動が、いつもの事件とは比較にもならない──この世界そのものの危機であることを。
──非常対策委員会、招集宣言より8時間前。D.U.外縁部。旧SRT訓練施設。
小型の拠点を模した訓練施設。そこは現在、FOX小隊が拠点として利用していた。シャーレ、防衛室の管理となり訓練用とはいえある程度の設備も整備され、日常生活を送れる程度の機能を備えていた。
「なかなかいいじゃないこの入浴剤。安いのにいい匂いだし肌にいいみたいだし。あの猫ちゃんも悪くない趣味ね」
FOX小隊の小隊員であるクルミは施設の屋上に備えられた仮設浴場で入浴をしていた。浸かっている湯は白く濁っており、フローラルな香りが仮設浴場のテント内に漂っていた。
この入浴剤は僅かながら交流が生まれたアビドス高校のとある生徒からクルミがモモトークで紹介されたもので、苦学生気味なFOX小隊とアビドス高校の生徒の間ではお買い得品の情報交換がされていた。
「はぁ。オトギもすぐ入ればよかったのに」
贅沢にも共同生活でクルミは浴場を独り占めしていた。小隊長であるユキノと副長であるニコは休んでおり、今日の寝ずの番はオトギとクルミの交代制だったからだ。
「それにしても、一時期は大変なことになるかもだったけど、今はこんなお風呂もゆっくり入れるようになったし、なんだかんだであの防衛室長もやるようになったなぁ」
FOX小隊の現状は後輩たちの活躍も含め、廃校と決まった時から比べれば十二分に良好なものになっていた。
カヤや先生によりキヴォトスそのものの危機に投入され、突破口を開くことができた実績は大きく、FOX小隊はSRT不要論を唱えていた派閥の声は小さくなっているとカヤから聞かされていた。
当初はここまで上向きの状況になるとはクルミも思ってはおらず、望外の結果だった。
「それに、草鞋野先輩もこの前、SRTの会長として事件解決してくれたし……ユキノの夢叶ってるじゃん」
加えて、エリカをシャーレとしてではなく、SRTとして事件を解決させるという流れにカヤがしたことはFOX小隊、特にユキノにとって廃校に抗おうとしていた当初の目的を達したと言ってよかった。
「ま、全部が全部なんとかなったわけじゃないけど、これならそのうちSRTもなんとかなるかなぁ〜……はふぅ」
クルミは肩までお湯につかり、体を弛緩させ湯に身を任せる。日々の訓練の疲れを癒すには十分すぎる効能があった。サバイバル生活から僻地の詰め所での生活程度に落ち着いたことで、クルミはリラックスし、目を閉じる。友人も新たに増えていきそうで、これからの生活に広がりが見えてきた。
だから彼女は忘れていた。ここまで辿りつくために通った道が、正道でなかったことを。
「…………ん?オトギ…?」
クルミの耳がテントの外から聞こえてくる足音を捉える。長湯が過ぎたから注意でもしてきたのか。
「ごめん、長湯だったかな。今出るわ」
クルミは浴槽から出ようと体を起こし、テントの出口へと体を向けた。その瞬間、彼女は咄嗟に後退しようとした。
「むぐっ!?」
しかし、クルミは突如乱入してきた大きな影に一瞬で口元を掴まれる。万力のような握力と、重機のような腕力がそのままクルミを持ちあげる。
「(ぐっ、い、息が。それに、首、これ、やばい)」
もがこうにも、顔を掴まれ下手に暴れれば深刻なダメージを負いかねない状態であり、クルミはどうすることもできず襲撃者の顔を見る。見覚えのある顔だった。特徴的な狼のような耳は髪色と同じく金色の毛並みで、毛先は桃色のメッシュ。髪型はツインテール、175cm以上はあろうという身長の高さ。
そして、右手にはまるでアサルトライフルを握るかのようにSRTで採用されていた対物ライフルが握られていた。クルミは左手一本で掴まれていた。
「なにしてんの先輩。なにくつろいでんの?」
「(こ、こいつ、確か、1年の)」
「アタシたちはさ、くっさいおっさんの下で泥水すすって訓練してたのにさ。なにこんな拠点でくつろいんでんの?」
「(DINGO小隊の……っ!)」
「あんな殺人犯の下でSRT復活とかふざけてんの?諦めたアタシたちがバカみたいじゃん」
「(DINGO、3──大上サナエ…!)」
SRTからヴァルキューレに転籍した4小隊のうち、DINGO小隊の狙撃手を務めていた大柄な少女。大上サナエ。クルミは顔を知っている程度であったが、技量は高くないことだけは聞いたことがあった。
「(こ、んのっ……!)」
「ッ!?いったっ!?」
クルミは容赦無く犬歯を立ててサナエの掌に噛み付いた。クルミは離され、このまま一度距離を取ろうとしたが、腹部に冷たい鉄の感触が突きつけられた。
「なんてね」
「しまっ」
「ドーン♪」
接射。対物ライフルを腹部になんの防具も付けずに、空中で受けたクルミは吹き飛ばされた。テントの生地を突き破り、全裸のまま空中に投げ出される。クルミの体は屋上から外れ、このままでは地面へと落下しかねなかった。
「このっ!」
なんとかクルミは屋上の壁に捕まり、ギリギリ落ちることは避け、そのまま即座によじ登るが、混みあげてきた嘔吐感に耐えられずその場で吐瀉物を屋上の床にこぼす。僅かに血が混じったそれを見て、クルミは自身の体のダメージは決して低くないと判断する。
「げぼっ、げほっ、えほっ、ぅえ、はっ、はぁっ、よくも、後輩がナメた真似、するじゃん」
「後輩?ふざけんなよ。チビが。あんたらみたいなやつを先輩なんて呼びたくない」
サナエが悠然と歩いてくる。彼女の全体像をようやくクルミが確認する。SRTの正式装備、それら全てが黒を基調としたものとなって、隊の紋章も牙を模したものに変わっていた。
「あんたよわっちかったって、オトギから聞いたけど。図体通りのパワーはあるじゃん。ドーピングでもした?」
「言うわけないでしょ。SRTはそんなこともわからなくなったの?はぁ」
口元を拭いつつ、クルミは立ち上がる。装備どころか衣服も無しの完全な丸腰であり、相手は逆に完全装備な上に、体格でも負けている。クルミに今できることはほぼなく、オトギが騒動に気ついてくれることを願うばかりだった。
「お仲間は連れてきたの?」
「あんたたち雑魚ギツネ仕留めんのに本気出す狼がいると思ってんの。はっ、バカじゃん」
「いちいち馬鹿にするあたり自信ないのが丸わかりよ。余裕ないのね」
クルミは嗤ってみせる。本来、SRTでは学ぶことがない安全局や公安局で学ぶはずの探り方をクルミは使っていた。
「…………痛めつけるだけでいいって言われたけどムカつく。どうなっても知らないから」
「やってみなさいよ。だいたい、あの距離で撃たれて倒れてないのよ。仕留められると思ってんの?ハッ!まだまだね、1年」
「うっざ」
サナエが対物ライフルを構える。クルミは耳を澄ませる。
「(………匂いはしないけど、異常な力。こいつ、黄金の一滴みたいなの飲んでるわね。流石に私たちを一人ではやれないだろうからもう一人ぐらいはいるか。バックアップ、おそらく後方支援のオペレーターか何か)」
「いい加減、黙れよチビキツネ!」
「(……来た!)」
射撃と同時に、クルミはエリカ仕込みの歩法を使い、今度こそ屋上から飛び降りた。3階以上の高さからの落下。なんの装備も無しで降りれば重傷となることは確実であり、サナエはクルミの行動に驚愕し、動きを止めた。
「は!?なにやってんの!?自分から──ぎゃっ!?」
頭部にガツンと衝撃が入り、サナエはよろける。彼女は衝撃を受けた方向に振り向けば、給水タンクの上に立っている影が見えた。対物ライフルを構えた。オトギだった。
「おーおー、完全にクスリやってるね。久しぶりだねDINGO3。ずいぶん強くなったみたいだ」
「FOX4…!」
「堕ちたもんだね。SRTの生徒が、アレに手を出すなんて」
「どの口がっ!」
「でも匂いがしないし…似たような何かかな」
黄金の一滴特有の金木犀の香りがしないことにオトギは疑念があったが、対物ライフルのヘッドショットを受けて平気にしているサナエは間違いなく正常な状態ではなかった。
『オトギ!ドローンありがと!降りたわ!』
「了解。いいって。それより早く着替えるのと、二人を起こして……嫌な予感がする」
『わかった!』
単騎でやってくることにオトギは嫌な予感が止まらなかった。クルミは飛び降りた先でドローンを掴み軟着陸に成功し、無事に戦線離脱に成功した。オトギにこれからできることは残りの隊員たちのために時間稼ぎをすることだった。
「隠れるのが苦手だったもんねぇ。図体デカいしどんくさいからさ」
「あっ?馬鹿にするなっ」
「(うーん。挑発してもあのアリウス生みたいに暴走しない。こりゃ本格的に別の何か?どうしたものかな)」
相手が無敵ならば弾を無駄にする必要はないとオトギは言葉を使っての時間稼ぎをまず狙っているのと同時に、黄金の一滴服用者に見られる異常な高揚による理性の崩壊を確かめたが、サナエはある程度の理性を残しているように見えていた。
「まぁさ、誰に雇われたのか知らないけど。ここに踏み込んで無事に帰れると思ってるのならちょっとおめでたいかな。それじゃあ、もうしばらく付き合ってもらおうか」
「誰があんたなんかと。……時間稼ぎ、付き合ってくれてありがとう」
サナエが嗤う。オトギは察した。むしろ、時間を稼がれていたのは自分たちだったと。彼女の耳が捉える。飛翔物の音、複数。着弾はあっという間だった。
「迫撃、砲!?」
オトギは給水塔から飛び降りる。元いた場所は簡単に被弾で吹き飛ぶ。サナエはまだその場にいるにも関わらず、砲撃は明らかに面制圧、殲滅を目的とした量だった。
「まだ自分がいるのに、君は正気か!?」
「正気?それはこっちのセリフだよ!なに今更正義の味方ヅラしてんだよ!ウサギもキツネも……!私たちはちゃんと正しい方向に進んだってのに…!」
何もオトギは言い返せなかった。
「(薄々は思ってたけど……まいったな)」
この砲撃が間違いなくFOX小隊の命すら脅かすものだと悟ったのはオトギの足元が崩れた瞬間だった。
「(これは、まずい。すぐに、みんなと合流して、先生と先輩に報告を──)」
──同時刻。子ウサギタウン子ウサギ公園。RABBIT小隊キャンプ。
「DINGO1、狐狼ミエ…!」
「久しぶりですね。RABBIT1、月雪ミヤコさん」
RABBIT小隊のキャンプ地は既に戦闘開始され、ミヤコは襲撃者と向き合っていた。
襲撃者は腰まで届く手入れの行き届いた金糸の髪を低い位置でリボンで結び、ミヤコのような作り物の耳ではなく生きた狼の耳が突き立つ。凛とした表情の中で陰を孕んだ蒼い瞳が炎の中に立つミヤコを捉えていた。
「ヴァルキューレに移籍したはずでは…!それに、なぜ襲撃なんて…!」
「私たちSRTは絶対の正義を振るう武器。それはあなたもわかっているはずです」
「違います!正義とは、そんな意志のないものでは!」
襲撃者──かつての同級生である狐狼ミエの右手にある古風な狙撃銃がミヤコに向けられる。襲撃してきた生徒は狐狼ミエともう一人であり、初動での砲撃でミヤコは他の生徒と分断されてしまった。
「くそっ!お前こんなに強くなかったはずだろっ!」
「それはお前たちがたるんだだけだ」
「言うじゃないか…!DINGO2、多神!」
炎の壁の向こうで、サキはもう一人の襲撃者、プラチナブロンドに狼耳の小柄な生徒と白兵戦を繰り広げていた。熾烈な攻防で、徒手空拳すら混ざり、サキの鉄帽も数度火花を散らす。至近距離での容赦ない射撃だった。
サキに目を向けていたミヤコの頬を一発の銃弾が掠める。
「よそ見とは随分私たちを舐めるようになったのですね。RABBIT1」
「……どうしてこんなことを…!」
「どうして?それはあなたがわかっているはずです。不法な真似をし、それなのに裁かれず、我儘を通して居座って、結果お情けでごっこ遊びを続けさせられている」
ミヤコは一歩後ずさる。正道ではないことはミヤコもとっくにわかっていた。だがそれを開き直れるほど、彼女は単純ではなかった。
「私たちは諦めた。正道に戻った。警察官としての役目を果たすために。それなのにあなたたちは……まともにやった私たちが馬鹿みたいではないですか」
「……だからといって、私たちを襲撃することは正しいことだと?」
「約束を守れない子供は罰せられるべきです。今日から、この世界はそうなる。だから私たちがあなたたちを罰しに来た」
正義を名乗る者が今、ミヤコの前に立っていた。ミヤコは目を閉じ、思考する。
──”正義とは、正当な権限のもとに行使されるべき権利である”。絶対の正義は存在しない、しかしそれでも己の正義を示すための言葉だ。SRTの正義は揺るいではいけない。だからこの理念を心して任務に挑め。
──ミヤコちゃん。恐れないで。私たち警察組織は、恐れてしまったら、ただの暴力になってしまうから。
「観念しましたか」
ミヤコは目を開く。その目はどう見ても、諦めた人間がする瞳ではなく、ミエとは対照的な光を灯していた。
「誰が諦めるものですか。”正義とは、正当な権限のもとに行使されるべき権利である”。SRTの理念がある限り、私は私の正義を信じます」
「………残念です。しばらく、大人しくして」
「RABBIT各位へ、ただちに撤退」
「なっ…この状況で撤退なんて」
「知っていますか?ウサギは逃げ足が速いんですよ。……私たちはウサギですから」
「逃すか──!?」
ミヤコが笑い、突如サブマシンガンを乱射する。彼女の立っている周りには自爆ドローンが何台も転がってきていた。それらは全てミエに向かってきており、何台かがミエの直前でミヤコに撃ち抜かれ、爆発した。
そして、連鎖的にドローンは爆破し、爆炎が二人を遮る。
「業腹だがここは逃げる!」
「貴様…!逃げるのか!教範通りの堅物が!」
「だからこそだ!」
「がっ!?」
接近戦を繰り広げていたサキは鉄棒で頭突きし、相対していた生徒、多神ヒメカを怯ませ煙幕を投げその場から離脱する。爆炎と煙幕が晴れた頃にはそこには元DINGO小隊の二人以外の姿はなくなっていた。
「……奇襲したにも関わらず…小隊長。なんだこれは」
「ロクな補給は受けられないはずです。敗走させられただけでも十分かと」
「しかし我々の姿が露見した」
「追撃はFANG4のシャドウウルフ……ドローンで行います」
「時間稼ぎ。保つのか」
「保たせるのが仕事です」
逃げた同級生たちから意識を切り替え、次の行動へと移ろうとしたミエに、通信が入った。
『こちらFANG3。FOX小隊の無力化成功』
「了解。こちらもRABBIT小隊を敗走させた。防衛室長の確保に移る」
『FANG3、了解。先生の確保は』
「そちらは隙を伺う。防衛室長の確保、移送後。FANG小隊各位は0900までにサンクトゥムタワー近くのセーフハウスに集合」
『FANG3、了解』
キヴォトスの危機は、草鞋野エリカが、気がつくよりも先に始まっていた。
お読みいただきありがとうございました。
次回はまた未定です。
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改造された本船はパッと見、某SEEDに出てくるアガメノムン級に近い形です。
ちなみにですが、本作のカイは山海軽に戻る必要がなくなっています。