頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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皆様、どうぞ本作を今年もよろしくお願いします。

今回は今日と明日の連続投下になります。


Area-07「サンクトゥムタワー #会議室 #三大校 #尾刃カンナ」

「姉御、SRTがクーデターを引き起こそうとしてるってアレ、マジなんすか?」

 

「与太話だ。少なくともあのバカの下に着いた連中は短慮なことはしない」

 

「けど現場検証で兎小隊の装備が遺留品で出てきたっすよ」

 

「指紋は取れなかっただろう」

 

 D.U.の中心地、サンクトゥムタワーに程近い道路を走る公安局の捜査車両の中で、カンナは公安局副局長であるコノカからの言葉に否定を繰り返した。ハンドルを握るコノカは上司・先輩であるカンナの言葉に「まぁそうっすけど」と頷く。

 

「ただ状況証拠に絞れば、SRTによる防衛室長の襲撃。それも二度目…って感じっすけど」

 

「そうだな。これ見よがしに制服を血だるまにした1回目。まるで自白していると言わんばかりに部屋を荒らして遺留品を大量に残した2回目。SRTにしては雑だ」

 

「……その気になりゃ、あいつらそもそも、眠ったまんま連れてきそうですもんね。特に狐の方は」

 

「だろうな。兎……RABBIT小隊に関しても小隊長は仕事が丁寧なほうだ」

 

「じゃあ姉御は最初から今回の犯人も兎に罪を擦りつけようとしてるって?」

 

「そもそもとして、防衛室長の戦闘力はお世辞にも高いと言えない。…前任の彼女なら違っただろうが、今の不知火室長は官僚タイプだ。武官というものじゃない」

 

「抵抗する間もなくやられるってことっすか」

 

「あぁ。SRT相手に抵抗出来たのならそもそも、前回攫われた時に怪我をしていたはずだ」

 

 カンナは一ヶ月前のカヤが攫われた事件で上がってきた資料を全て読み記憶していた。今思い返しても、カヤは抵抗らしい抵抗もできず一瞬で意識を刈り取られ気がつけばアビドス砂漠にいたという。

 

 違法採掘場でもほとんどはレッドウィンター出身の人材資源室長から学んだというアジテーションでの扇動が主な活動で、直接の戦闘などは民間協力者が行なっていたと聞いていた。

 

「そうっすか。そうなると、なんというか2回目もですけど、逆に”真面目”って感じがしてきますね」

 

「お前もそう思うか。鑑識も不思議がっていたよ。あまりに遺留品が多くてまるで、映画のような惨状をそのまま再現したような現場、とな」

 

「…………ここまで全部推測っすけど、姉御は犯人、目星ついてるっすよね」

 

「犯人はSRTの関係者であることは間違いない」

 

「そこまで言ったらもう決まったようなもんじゃないすか」

 

「どうだろうな?RABBIT、FOX共に音信不通。RABBITは拠点も破壊されている。そのまま考えればこの2小隊も関与していると思うが」

 

「はぁ……なんかウチら、厄介なことに巻き込まれてないっすか?」

 

「そうだな」

 

「そうだなって……そもそも、なんであたしは先輩連れてサンクトゥムタワーに向かってるんすか」

 

 信号で車両が止まると、コノカはカンナに顔を向けて問いかける。今、彼女はカンナの指示によって、本来ならヴァルキューレ本部にカンナの代理として居なくてはならないにも関わらず無理やり運転手として連れ出されていた。

 

 そして、コノカの目に映るカンナは普段の姿ではなく、髪はゴムで結びポニーテール、装備もプレートキャリアや使用しているハンドガンにもアクセサリが追加されていた。

 

 カンナが現場で銃を握り、戦闘を行うということは少なくなっていた。コノカは後輩として、部下としてそのことをよく知っている。かつて、草鞋野エリカと共に”狛犬”・”狂犬”と呼ばれていた頃とは想像できないほどに。

 

「その装備だって。凶悪犯でもいるんすか、この先に」

 

「副局長」

 

「あーあー、聞きたくないっす」

 

「聞け」

 

「そういうとこ、ほんと姉貴にそっくりっすよ姉御。良くない」

 

「誰が誰に似てるって?」

 

 コノカは答えず、青信号となったことで車を再発進させる。

 

「……はぁ……お前は、わかっているんだろう」

 

「何にもわかってないっすよ」

 

「何かを言う前に答えるやつがあるか」

 

「だから、なんも知らないっすよ。その方が、都合がいいっすからね」

 

「嘘をつくなら、最初からつく嘘などなければいい、か」

 

「そういうことっすよ」

 

 隣に座るコノカがそんな察しの悪い部下ではないとカンナはわかっている。だからこそ、今の言葉が出てきていることも理解していた。

 

「やはり、お前が副局長でよかったよ」

 

「そりゃ勿体ないお言葉で」

 

「あいつなら、一緒に地獄に堕ちてくれそうだからな」

 

「それはそれで、姉御的にはいいんじゃないっすか」

 

「………」

 

「無言で笑顔になるのやめてもらっていいっすか…?」

 

 滅多に見せないカンナの年相応な笑みにコノカは顔を青くしつつ、運転を続ける。

 

「サンクトゥムタワーが見えてきたな。そろそろ本題に入るぞ」

 

「了解。どうぞ」

 

「私に入ったのは特命だ。草鞋野エリカを捕えろというな」

 

「やっぱそうっすか。誰が、って言うのは聞かない方がいいっすかね」

 

「いや、いい。お前には言っておく。防衛次長からだ」

 

「……防衛次長?誰っすかそれ」

 

「防衛室の次席だ。防衛室長の不在につき一時的に権限が移譲されたらしい」

 

「はーん…なるほど。んで、今のSRT会長も兼任してる姉貴は危険、と。その前にシャーレっすよね、エリカの姉貴は」

 

「関係ない、の一言だった。あいつはトリニティの生徒会長と共に非常対策委員会に来る。会の終了後、任意の同行又、従わなければ拘束しろとの命令だ」

 

 コノカは無茶な指示だと防衛次長という生徒の命令に呆れていた。草鞋野エリカという警察官が一体どんな実力なのか正確に把握できていない。

 

「無茶な命令っすね」

 

「あぁ。新人時代はともかく、ブランクのある今の私では大して何も出来んだろうよ」

 

「でも行くんすね」

 

「防衛室からのオーダーは断れん」

 

「じゃあ、あたしはアレっすか。そのバックアップっすか」

 

「いや。そうではない。そもそも車で送ってもらうのは次の交差点まででいい」

 

「……………どういうことっすか」

 

「コノカ、これから先、何が起こるかわからんが、ロクな状況にはならんことだけは見えている」

 

 車が交差点を越え、路肩によりハザードを焚く。カンナはシートベルトを外し、懐から生徒手帳を兼ねた警察手帳など、自身をヴァルキューレの生徒と証明するものをダッシュボードの上に置いた。

 

「先生の失踪が公になれば恐らく大混乱が始まる」

 

「それと姉御がそういうもんをここに置いてくことになんか関係あるんすか」

 

「お前に公安局を預ける。指揮系統はお前が全て握れ。外圧は全て無視しろ」

 

「いつものことじゃないっすか」

 

「お前は余計なしがらみがないからな。私ではダメなんだ」

 

「そっすか」

 

「……頼む」

 

「頼まれなくてもやりますよ。姉御のためなら」

 

「送迎、助かった。すぐにお前はヴァルキューレに戻れ。先生と防衛室長の捜索を急がせろ」

 

「了解。姉御も気をつけて。姉貴と少しはやり合うんでしょ?」

 

「そうだな。腕試しぐらいには思っておくさ」

 

 最後にカンナは笑い、車から降りた。そのまま振り返ることなく彼女は立ち去っていく。コノカはその姿を最後まで見届けることなく、即座にUターンして来た道を戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 非常対策委員会の開催されるサンクトゥムタワーの会議室。私はそこに移動する前から気が気ではなかった。サンクトゥムタワーへの移動中、ミレニアムの用意してくれた車中で七神代行から伝えられた先生とカヤちゃん、同時に行方不明となったRABBITとFOX両小隊。

 

 容疑者は状況証拠からSRT特殊学園の生徒であり、今もどこへ先生たちが消えたかはわからない。

 

 私は今、シャーレの生徒として会議室の隅に立っているけれど、七神代行が話す内容の半分も入ってきていない。正体不明のエネルギー、そのことに対して異常があった時の相互の協力依頼。理解できたのはそれだけだった。

 

 ………先生と、カヤちゃん、それにあの子達がどうしているのかはわからない。それでも、私が残っているのならば、今はシャーレの次席として、しっかりしないと。

 

「──概要は理解したわ。ただし、そのエネルギーの正体に見当はついているのかしら」

 

 発言したのは調月会長だった。隣にいるのは生塩さんで、彼女は会議の発言内容を全てメモしているのか、しきりに手元のタブレット端末にペンを走らせている。

 

「いいえ。調月会長。超高濃度エネルギー体…とまでしかわかっていません」

 

「ミレニアム近郊の新しい都市、このような状況で明かすのは避けたかったけれど、新都市、技術研究都市エリドゥの上空に出現したものに関しては早急に解析をさせるわ。ノア」

 

「はい、会長。概要をまとめ、特異現象捜査部他、新エネルギー探究部、エンジニア部、ヴェリタス…声をかけられる部へのメッセージをただいま送りました」

 

「そう。……この通りよ、ミレニアムは連邦生徒会に協力する」

 

「ありがとうございます」

 

 一番に協力の姿勢を見せたのはミレニアムだった。その様子を見ていたナギサちゃんも頷き、続けて発言する。

 

「トリニティはミレニアムのような解析、分析の技術力を持ち合わせてはいませんが……万が一、そのエネルギーが災害を引き起こすようなものであれば、近郊の自治区生徒の避難所を設けることは可能かと思っています」

 

「ナギサ様…よろしいのですか?」

 

「ミネ団長。未曾有の災害が起きてから、想定外でした……と言うのは簡単ですが、取れる手立てを取ってからそれは言うものです。シスターサクラコもよろしいですね」

 

「私は構いません。それがゲヘナの生徒であろうと、有事の際は博愛の精神であるべきです」

 

 トリニティ側からはナギサちゃんの他に、蒼森団長と歌住さんが参加していた。ミカさんは立場上、ティーパーティーではなく一般生徒なので参加しない。百合園さんは何かあった時のためにトリニティに控えている。

 

 ナギサちゃんの毅然とした態度に、対面に座っているゲヘナの生徒会組織──パンデモニウム・ソサエティーの議長、羽沼議長はさっきまでわざと帽子を深く被って狸寝入りをしていたはずが、いつの間にかしっかりとナギサちゃんを見ていた。

 

「ほお……随分とミレニアムとトリニティは準備がいいじゃないか」

 

「準備というものはありません。羽沼議長。私は、今、出来うることをしようとしているだけです」

 

「このような具体性のない脅威と呼ぶべきかもわからないものにか?」

 

「具体性……それは」

 

 おそらく、ナギサちゃんが具体的な根拠というべきものがないのに七神代行に協力を表明したのは百合園さんの予言ありきだ。それは明かせない。知っているのは私やミカさん、先生だけ。

 

 ナギサちゃんが答えられずにいると、羽沼議長は鼻で笑った。

 

「聞いて呆れるな。そもそもとして、先生はどこだ?こんな胡散臭い議題の会議に来たのはシャーレの先生がオブザーバーにいるものと思ったからだ。そうではないか?連河書記長」

 

「ん?そうか?確かに先生はなんでいないんだ?」

 

 そういえば、ゲヘナとチェリノちゃんたちレッドウィンターには先生の失踪が伝わってない。ミレニアム、トリニティ側には私がいたから伝わってる。だから、今の羽沼議長の言葉を受けて、調月会長とナギサちゃんが目を合わせてしまった。

 

 すると、羽沼議長がゆっくりと私の方へと視線を向けた。

 

「ん?どこを見ているんだ議長は……おお!そうか、エリーシャはいたな!エリーシャ、カムラッドはどこにいるんだ!」

 

 チェリノちゃんが問いかけてくる。チェリノちゃんの隣にいるトモエさんも冷静な表情で目を向けて来ている。先生のことを正直に私から答えるべきか。どうすべきか私が悩んでいると、七神代行が代わりに答えてくれた。

 

「……先生は現在、行方不明です」

 

「なんだって!?大変じゃないか!トモエ!すぐにレッドウィンターも先生を探すんだ!」

 

「はい、会長」

 

「いや待て、書記長。おかしいと思わないか?」

 

「どういうことだ議長」

 

「先生の話題を出した時、目の前の2校の代表者は目線を交わしていた。つまり、先生のことについて何らかの情報は前もって知っていたということだ」

 

「そうなのか…?」

 

 嫌な予感がする。おそらく羽沼議長は七神代行の言葉を全く信じていない。出鱈目だと思ってる。

 

「どうせ先生が攫われたというのは出鱈目だ。大方連邦生徒会が匿っているのではないか?」

 

「いいえ、そのようなことは」

 

「それに、最初からミレニアムとトリニティがスムーズに協力をしようというのも違和感があるな。あぁ、そういえば噂では貴校らは同盟を組んだのだったか」

 

「……トモエ、どういうことだ?」

 

「つまり、羽沼議長はこう仰りたいのかと。この場が、我々レッドウィンターとゲヘナを陥れる場なのではないかと」

 

「そういうことだ」

 

 いや、そんな、どうして羽沼議長はそんなことを言うの!?みんな善意で──!

 

「マコトちゃ…議長の言い分も一理あるわね。現に、トリニティは残りのティーパーティーはいない。何かあってもバックアップは取れる。それに……ミレニアムは会長が長期不在でも体制を維持できるほどに生徒会組織の統制が取れている」

 

 羽沼議長の隣に座るものすごい妖艶な大人っぽい人が言う。彼女は誰なんだろう。羽沼議長の腹心の一人なんだろうけど。

 

「……私の長期不在?どこでそんなことを聞いたのかしら」

 

「どこでかしらね」

 

「つまり、バックアップのない我々ゲヘナとレッドウィンターのトップをここで消せば、3大校のバランスが簡単に崩れるわけだ。主席行政官。そうではないというのなら、先生失踪の犯人ぐらいの目星は付いているのか?」

 

 七神代行が目を伏せる。犯人……状況証拠から現在の容疑者はRABBIT小隊。でも、彼女たちには先生をどうにかしようなんて動機はもうない。FOX小隊の子たちだってそうだ。

 

「……犯人はヴァルキューレにて現在捜査中です」

 

「そうか。ではシャーレの草鞋野エリカ。補佐官である貴様は何も聞いていないのか?」

 

「わ、私は──」

 

 急に振られて、私は口篭ってしまった。どうしよう、なんて答えれば。七神代行のように、ヴァルキューレで捜査をしている最中と言えばいい。それだけのはずなのに。

 

「羽沼議長。草鞋野補佐官は先生の最も側にいる生徒です。そんな彼女に問うのは酷ではありませんか?」

 

「あの時のように随分と仲が良さそうじゃないか。桐藤会長」

 

「あの時?なんのことを仰っているのかわかりません。彼女はあくまで、シャーレの生徒です。それ以上でも、それ以下の関係でも……ありません」

 

 あの時って、まさか夏の。ナギサちゃんのこと、やっぱりバレてた…!

 

 私は、何も言えずに……ナギサちゃんの立場も危うくしているのに庇われている。シャーレの生徒である私が。

 

「まぁいい。先生がいない以上、このような会議に参加し続けるわけにもいくまい。帰るぞ、サツキ」

 

「えぇ」

 

「イブキとイロハを連れて来なくて正解だったな」

 

 羽沼議長たちが立ち上がり、そのまま出て行こうとする。チェリノちゃんは呆然としていたが、トモエさんが携帯に目を落とすとチェリノちゃんに耳打ちする。

 

「なに…!?オイラがいない間にクーデターが…!それならすぐに…い、いや、しかし、カムラッド、それに、エリーシャが」

 

 チェリノちゃんは私を見て迷っているようだったけど、トモエさんがまた何かを耳打ちして、名残惜しそうに立ち上がった。

 

「くっ。失礼するぞ!学内で今週5度目のクーデターが起きたのでな!エリーシャ!困ったことがあったらすぐに言うんだぞ!わかったな!」

 

 私は返事を返せず、頷くことしかできなかった。会議室の中は最悪の空気が形成されている。ミレニアムもトリニティも、気まずい様子だった。

 

「ナギサ様。我々も戻りましょう。セイア様の御言葉のこともあります」

 

「……ミネ団長」

 

「私も団長に賛成です。ナギサ様。例えゲヘナがあのような態度であろうと、脅威と思えるものは既に視られているのですから」

 

 会議はもう成り立たないと思ってか、蒼森団長がナギサちゃんに退席を促していた。歌住さんも賛成のようで、彼女はもう席を立とうとしている。トリニティ側は七神代行の説明したエネルギー体の存在の真偽は問わず、百合園さんの予言の可能性を信じて行動をしてくれているのかもしれない。

 

「わかりました。……調月会長、何かわかれば情報共有願います」

 

「了解したわ」

 

 ナギサちゃんも立ち上がる。彼女は退室しようとする前に、こちらを見た。この会議場には連邦生徒会の一般役員も数多くいる。私たちは、普段のような姿を見せられない。

 

「……草鞋野補佐官。先生のご無事を祈っています。本日はここまでの護衛、ありがとうございました」

 

「いえ。桐藤会長も……お元気で」

 

 交わせる言葉は固いものでしかないないけど、目線だけは友達として合わせて、彼女は一礼して去っていった。蒼森団長と歌住さんが代わりに付いてくれるから、帰りは大丈夫だ。

 

「私たちも戻るわ。ノア」

 

「はい」

 

「草鞋野エリカ。先生の件、トキも音信不通よ。……あの子ことだから、簡単にはやられないでしょうけど」

 

 そうだ。先生とは、飛鳥馬さんも一緒にいた。私は…先生のことばかりで、生徒のことを考えられていなかった。まさか、彼女も攫われた…?あの子は腕利のエージェントだ。護衛だってお手のもの。それなのに、先生が連れて行かれたということは本当に、彼女のことをあしらえる相手。

 

「こちらでも何か分かれば連絡する。ノア、戻りましょう」

 

「はい、会長。草鞋野さん。ご武運を」

 

 ミレニアムの子たちも出ていく。残されたのは連邦生徒会の役員と私だけだ。七神代行は立ち上がり、こちらに歩み寄ってくる。

 

「草鞋野さん。……先生の件は、申し訳ありませんでした」

 

「七神代行!?」

 

 そして、突然頭を下げられる。モニターの操作をしていた交通室長や調停室長が驚き口元を抑え、他の役員もどよめている。代行がこんな簡単に頭を下げるのはよくないこと。それなのに、彼女は澱みなく…。

 

「頭を上げてください!そもそもとして、今回の件は我々ヴァルキューレが…」

 

「今の草鞋野さんはヴァルキューレではありません。先生が狙われるということは十二分に考えられた事態です。……防衛室長が襲われたという時点で、現在のキヴォトスの安全保障を担う者たちが標的にされることはあり得たのですから」

 

 狙われたのは先生、防衛室長。巻き込まれた飛鳥馬さん。

 

 容疑者はSRTの2小隊。この2小隊が春先の頃なら、私だって動機があったと、今はハッキリ言える。でも、今の2小隊は絶対にそんなことはしないと私の”勘”が告げていた。

 

「七神代行。本官はこれから、先生の捜索と防衛室長の捜索に加わります。ヴァルキューレが先行して捜査をしているのですよね」

 

「はい。主導は警備局です」

 

「…なるほど、ヘリの搭乗員が警備局員だったのですね。わかりました。まずはそちらにコンタクトしてみます」

 

「お願いします」

 

 今回の失踪事件は1ヶ月前の事件とは違い、明確な連邦生徒会に対しての妨害意識が見えて来た。

 

 冷静になってくると、羽沼議長の言い分も理解が出来てしまう。先生は確か、この前の支援要請で、羽沼議長とも顔を合わせていた。そこで信頼を勝ち取っていたから羽沼議長、ゲヘナは来てくれた。それなのに、先生がいない。代わりにいたのはあまりに協力的なミレニアムとトリニティ。そして権限のない私。

 

「それでは失礼します。七神代行、かならず二人を救出してみせます」

 

「無理はしないように。よろしくお願いします」

 

 敬礼して、私は会議室を出た。廊下を歩きつつ、頭も動かし続ける。

 

 サンクトゥムタワーに忍び込んでヘリ搭乗員を短時間で制圧し成り替わるなんて簡単なことじゃない。そもそもとして、ヘリポートに上がるためにはどこかで入館のゲートを通らなくてはいけないはずだ。

 

 防衛室時代に、カヤちゃんとヘリに乗ったことがあるから知っている。

 

 相手はSRTに匹敵するプロ、もしくは──内部に手引きをしているものがいる。

 

 サンクトゥムタワーを降りて、まずはシャーレに戻らないと。現場検証がされているはずだけど、私も現場を見ておかないと。タワー地下の駐車場にやって来た時にはとっくにナギサちゃんたちの姿はなく、来た時には誰かが乗っていたシャーレの車は伽藍堂だった。

 

「…………なんとか、私がしないと」

 

「健気なものですね。草鞋野さん」

 

「ッ!?」

 

 突如、背後から声をかけられた。気配に気がつけなかった!?振り向けば、そこに立っていたのは連邦生徒会の制服を着た生徒。張り付いた笑顔が仮面のように見える。防衛次長だった。

 

「防衛次長……?どうしてこちらに」

 

「いえ。防衛室長が不在ですので、現在私に権限は移譲されています」

 

「それは…そうでしょうね」

 

 彼女がここまで私を送るなんてあり得ない。お世辞にも彼女との仲はよくないのだ。どういうわけか、防衛室時代から彼女は私を一方的に敵視している。そんな気がする。なのに、ずっと顔はうっすら笑っていて、はっきり言って不気味だ。

 

「ちょうど今頃でしょうか。七神行政官へ不信任決議案が出されたことでしょう」

 

「え……?」

 

 不信任……確か、それって過半数の室長が賛成しないと出せないものだったはず。そんなものを、どうしてこんな状況で。

 

「七神行政官はこれまで何度も、防衛室の権限を脅かして来ていました。そのような中で、非常対策委員会は我々防衛室の権限を完全に侵害した上に、防衛室長の失踪があったにも関わらず強行したのです」

 

 強行って……彼女にそんなつもりはないはずだ。七神代行は、真っ直ぐな人だ。私が言えたことではないけれど、不器用なぐらいに。こんな私でも……普通の生徒のように送り出してくれた人だ。

 

「さらに、先生というオブザーバー不在での3大校のバランスを崩しかねない状況の誘発。多くの行政官が彼女に任せたままではキヴォトスは危ういと判断しています」

 

「待ってください。現に、詳細不明ですが、超高濃度エネルギー体が観測されています!」

 

「その観測すら防衛室に任せないのですよ。我々防衛室はキヴォトスの安全保障を司るというのに」

 

「それは……!」

 

 それは、確かに、どうして七神代行は任せなかったんだ。

 

「故に、我々防衛室は任せてもらえないのであれば、出来る範囲で現状を打破したいと考えています」

 

「現状の打破って……」

 

「即ち……先生及び防衛室長誘拐の容疑者であるSRT特殊学園、その生徒会長代理であるあなたに、事情を伺いたいと思っています」

 

「事情なんて、こちらが知りたいぐらいです。それに、あの子達が二人を攫う理由なんて」

 

「本当にそうでしょうか?現場に残された遺留品にはRABBIT小隊のもの、そして先ほど、サンクトゥムタワーではFOX小隊が装備している対物ライフルの弾丸が見つかっています。2小隊は現在行方不明……もはや答えは出ていると思いますが」

 

 否定したい。けれど、今の私にはその材料がない。脅威は百合園さん未来視、潔白の証明は勘と所感。具体的な根拠・証拠と呼べるものがない。

 

 防衛室長が私に歩み寄ってくる。顔はずっと変わらない。薄い笑みを浮かべている。呼吸をしているのかさえ怪しいほどに、動きが少ない。彼女は私の前に立つと、手を伸ばした。

 

「ご同行を、草鞋野エリカ補佐官。そして、潔白が晴れたのちに、捜査に協力頂けないでしょうか」

 

「…………」

 

 不信任案こそ唐突だけれど、それは彼女だけが決めたものじゃない。それ以外、防衛室として独自に治安維持を行うのは彼女たちの権限であり権利だ。何より、室長が再び被害に遭っているのだから。

 

 私にはアリバイがある。今日はずっと、ナギサちゃんたちといた。それ以前に、私からSRTの子たちへの指示命令はここ最近ない。SRT生徒会長としての権限も一ヶ月前の事件が最後だ。

 

 防衛室に協力することは、おかしいことじゃない。

 

 なのに、私は、この目の前の人がどうしても──信用できない。苦手だから、とか、そういうわけではなく。

 

 

 

──本当に?

 

 

 

──彼女は本当のことを言っていますか?

 

 

 

 ”勘”とも言うべきなのか、言葉のようなものが頭の中を走った。

 

「……………」

 

「草鞋野さん?どうしたんですか」

 

「防衛次長。申し訳ありませんが、私はシャーレの生徒として独自行動を取らせて頂きます。先生と防衛室長の捜索を最優先に」

 

「そうですか」

 

 防衛次長は差し出していた手を引っ込めて、そのままこちらを向きながらゆっくり下がっていく。ある程度離れたところで、また彼女は私と向き合ったけれど、今度は表情が抜け落ちていた。

 

「草鞋野さん。勘違いされていたようですから言いましょう。私は、重要参考人として任意同行を求めました」

 

「任意、同行ですよね」

 

「えぇ。しかし、SRTの生徒が誘拐を行ったという確固たる物証がある以上、あなたを逃すわけにはいきません」

 

「そうですか」

 

 肩にかけていたライフルに私は手を伸ばす。

 

「容疑者が目の前にいて、かつ逃走を考えているというのであれば……ここは、専門家に任せましょう。では私はこれで──後はお願いしますね。尾刃公安局長」

 

 え。

 

「……了解しました」

 

 どうして。

 

「警告する。武器を捨て、その場に伏せろ」

 

 なんで、あなたが。

 

「さもなくば、身の安全は保証しかねる」

 

 銃口が、私の眉間に向けられている。

 

「シャーレ補佐官、草鞋野エリカ。あなたを先生及び不知火防衛室長誘拐事件の容疑者として拘束する。無駄な抵抗はするな」

 

 完全装備のカンナちゃんが私の前に現れ、私を容疑者として、見ていた。

 

 




お読みいただきありがとうございます。
次回投稿は明日の22時になります。

メンタルボロボロのところに信頼していた人が銃を向けて来たという話。きついですね。

感想やここすき、いつもありがとうございます。大変励みになります。よろしくお願いします。

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