頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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一昨日の甘酒酔っ払いミカが頭から離れない…。

本作は基本的に、やさしい世界…になるといいなぁと思いつつ書いてます。


Area-08「D.U.市街地 #終わらない追撃 #盗難車 #美食研究会」

「どうしてだ!尾刃!」

 

「理由は言った!」

 

「SRTが先生と防衛室長を誘拐するだと!?貴様は本気で思っているのか!」

 

「なら現場に残された証拠はなんだ!」

 

 柱の影に隠れつつ装填する。カンナちゃんは本気で私を捕らえに来ている。なんで彼女が防衛室長に従っている。どうして私を容疑者として扱っている。意味がわからず、私は混乱すると同時に、彼女に銃を向けられたという事実を信じたくなかった。

 

「それはッ!」

 

「勘では通用しないぞ!草鞋野!」

 

「くっ!?」

 

 反撃しようとするも、顔を出した瞬間に私は頭を引いた。正確な射撃が私の鼻先を通っていく。カンナちゃんの実力はかなりの脅威だ。あの子は決して捜査能力だけで公安局のトップに上り詰めたわけじゃない。

 

 狂犬──その名の示す通り狂ったような執念で犯人を追い詰め食いつき、千切ってしまいそうなほどに離さない。冷徹で冷静な印象とは似ても似つかない、諦めの悪さ。

 

 その彼女の長所を、私はよく知っている。

 

「あいつらには動機がない!SRTはシャーレと防衛室の支援を受けているんだぞ!」

 

「それでは全く足りない!独断専行してまで証拠を固めたお前らしくもないな!」

 

「十分すぎる!それにSRTの生徒は現状、春の時とは違う!SRTとしての活動も出来ている!現状として、校舎がなくても彼女たちはSRTとして過ごしている!」

 

「だが廃校という結論は変わらない!違うか!?そのためのデモだっただろう!」

 

「状況が変わっている!そんなこともわからないお前じゃないだろうっ?!」

 

 影から飛び出す。カンナちゃんに銃口を向ける。途端に、私の手が震える。僅かな込み上げるような吐き気。見たこともない真っ赤な光景が頭に過ぎる。引き金にかけた指が動かない。どうして…!

 

「…撃たないッ…!?隙だらけだぞ!」

 

「くそっ!」

 

 一歩足をついて、カンナちゃんの射撃を避ける。流れ弾が駐車している車に当たり、警報を鳴らす。うっ、耳が…!

 

 なんとかこの状況を切り抜けないと、このままだと、嫌な予感がする。ここで、カンナちゃんにやられたら、終わってしまう気がする。銃が撃てないなら、格闘戦でいくしかない。

 

 地面を連続で蹴って一気に加速する。ハンドガンでの迎撃は間に合ってない。彼女が振り向くよりも早く、背後に回り込んだ。

 

「遅い!」

 

「止められた!?」

 

 けれど、彼女を背後から拘束しようと突き出した左手は容易く、カンナちゃんは振り向きもせず掴んでみせた。完全に動きを読まれてる。

 

「お前の動きは知っているんだぞ」

 

「教えたはずだぞ。すぐに格闘戦に入るのは悪い癖だと」

 

「そうだった……なっ…!」

 

「ふ……ぐっ!?」

 

 止められたのなら、私は右足で横から蹴り上げる。それも、カンナちゃんは左腕をカバーに回して胴体への直撃は避けてくる。当たり前のように防御された。そりゃそうだ……警察官として、最後に私の戦闘スタイルを確立させたのはカンナちゃんなのだから。

 

 ただ、ダメージは0じゃない。カンナちゃんは蹴りを受けた衝撃から、掴んでいた私の手を離す。現状、私の背には駐車場の出口方向があった。

 

「尾刃!私は先生と不知火室長を探す!邪魔をするな!」

 

「逃すか!」

 

 私は一歩で大きく跳躍し、駐車場の出口へと向かう。とはいえ、カンナちゃんも単純に足が早い。私でも簡単には振り切れない。駐車場の地上出口へと飛び出す。周囲には当然、通行人や人通りだってある。

 

 とにかく今はここから離脱しないと。シャーレには戻れない。なら、どこに行けばいいのか。

 

「止まれ!草鞋野!」

 

 追って来たカンナちゃんが銃を構え、発砲。容赦がない。どよめきが上がり、周りに人々が悲鳴を上げて散っていく。

 

「正気なのか…一般人もいるんだぞ!」

 

「貴様を止めなくてはならないのに手段など…!」

 

「尾刃ッ!」

 

 本当に、どうしてカンナちゃんがこんなことを。これは彼女の本心なの?それとも、無理やりなの?わからない。

 

 反撃しようにも、こんなところで戦えない。私は目の前の幹線道路に飛び込んだ。車の台数はそう多くない。私の走る速度なら、渡り切れる。それは、私についていけるカンナちゃんも同じだ。

 

「逃げられると思っているのか。お前は!」

 

「私は、逃げていない!」

 

 逃げられないなら、なんとかして、カンナちゃんを無力化しないと。でもできるの?私に。あの子を、傷つけることなんて…。

 

 道路を渡り切って、対面の公園へと入り込む。子ウサギ公園とはまた違うけど、自然公園で木々も生い茂っている。散歩などをしている生徒たちもいる。流れ弾を気にしてか、カンナちゃんも発砲を控えるようになった。

 

 それでも、少しでも隙があればカンナちゃんは撃って来た。足を掠める。こちらの機動力を削ごうというのがわかる。

 

 どこか、周りの被害も気にせずに戦えるような場所は……子うさぎ公園は遠すぎる。シャーレ近くもだ。

 

「止まれ草鞋野!」

 

「誰が…!」

 

 腰に付けているスモークグレネードを取ってピンを抜く。やっぱり、カンナちゃんを倒すなんて私にはできない、したくない。だから、目をくらませて、一気に距離を離すしか。

 

 だけど、カンナちゃんはそうさせてくれなかった。私の左手にあるグレネードへカンナちゃんが狙撃した。

 

「ッ!?うわっ!」

 

 左手の中で、グレネードが弾ける。手のひらで爆発したせいで、手が弾け、痺れる。続けてくるのは少しだけひりひりとした火傷の感覚と、グレネードの破片で切れた肌の痛み。爆発的に広がる煙に、私は咄嗟に息を止めて、逃れるために強くバックステップを踏んだ。

 

「本気でないお前など!容易い!」

 

 煙を突き破って、カンナちゃんが急所を守りながら飛び込んでくる。銃口は正確に私の急所を捉えている。

 

「舐めるな!」

 

 カンナちゃん本人は撃てない。でもこのまま至近距離で頭を撃たれればそのまま組み敷かれる。なら手は一つしかない。引き金が引かれたのは同時。発砲音もズレはなく、弾丸の進行方向だけはズレた。

 

 時間にしては1秒もない中で、弾丸の衝突音が鳴って、私とカンナちゃん双方の頬を銃弾が掠めて、赤い線……みみず腫れを作る。

 

「捉えたぞ、草鞋野!」

 

「まだだっ!」

 

 カンナちゃんが構わず私の前に着地して、掴み掛かろうとするけど、ライフルを両手で構えて突き出された右手を左手側に弾く。

 

 そのままの勢いで私は後退して、再び走り出す。

 

「どこまで逃げるつもりだ!この私から逃げられると思っているのか!?」

 

「相変わらずしつこい……!」

 

「それが私のスタイルだからな!」

 

 どうすればいい。カンナちゃんは防衛次長に利用されてるのか。何か、脅されてるのか。それとも、カンナちゃんが黒幕の側なのか。……公園はあと少しで終わるし、また市街地だ。路地に入り込んで、逃げるしかないのか。

 

 公園の出口、その直前まで来た時だった。1台の車が乱入してきた。それはゲヘナ学園の校章もついていて、車体の色は黄色。オープントップのトラックだ。

 

「エリカさんっ!」

 

「ハルナ!?」

 

 運転席で銀髪が風に揺れる。一目見ればすぐにわかる。どうして彼女がここに!?それにその車、給食部って書いてあるけど!?

 

「お乗りになられて!イズミさん!」

 

「よいしょっと!」

 

 荷台に隠れていた子、あの子は確か、獅子堂さん。彼女は重機関銃を取り出すと、カンナちゃんに向けて乱射した。

 

「何!?ッ……黒舘ハルナ!邪魔をするな!」

 

「ふふっ、邪魔とはどちらのことでしょうか?わたくしには、あなたの方が今はお邪魔虫でしてよ。エリカさん!おはやく!」

 

「はやくのって!昨日ご飯食べすぎてお金なくて弾ないから〜!」

 

 背に腹は変えられない。どうしてハルナが助けてくれたのかはわからないけど、今は乗るしかない。ハルナが運転席から手を差し出してくる。私はその手を──取った。

 

「よっと…!ハルナ!出して!」

 

「よくってよ!ごきげんよう、尾刃カンナ!」

 

 荷台に乗り込んで掴まれば、ハルナはトラックを急発進させる。ほぼタイヤを空転させてクイックターンをすると、公園の出口に向けて進み出す。公園の出口を飛び出したのと獅子堂さんの重機関銃が弾切れになったのは同時だった。

 

 ちらりと公園の方を見れば、カンナちゃんはその場で立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 トラックが走り去る光景をカンナは見届けると、ヘッドセットのマイクのスイッチをようやくオンにした。

 

「……はぁ。全く嫌な役回りをさせてくれる。各務。貴様は私に恨みでもあるのか」

 

『今まさに出来たよ狂犬さん。まさか本当に捕まえるつもりだったんじゃないでしょうね』

 

 通信先のチヒロの声は低く、カンナはやり過ぎたことに若干肩と耳を落とした。

 

「後輩にアドバイスをされてな。嘘をつくなら、最初からつく嘘などなければいい、とな」

 

『理屈はわかるけど……尾刃さん、あなたもエリカと同じく嘘をつくの、下手だったね』

 

「そういうことだ」

 

 カンナは銃をホルスターに納め、周囲を確認する。公園から見えるビルの屋上や建物の影からの視線はなかった。

 

「進捗は」

 

『RABBIT、FOXは移動中。予定ポイントへの到着は1.5時間後』

 

「了解した。何にしても、ターゲットはバスに乗った。私も迂回してポイントで落ち合う」

 

 その場からカンナは早歩きとなって動き出す。チヒロとの通信は繋がったままだ。

 

『わかった。それで、狂犬さん』

 

「なんだ」

 

『あの次長は?』

 

「限りなく黒に近い灰色だな。そもそも、室長以外が室長と私のホットラインを知るはずがない」

 

『……そのホットラインがなんであったのかは聞かないでおくよ』

 

「あぁ。私も、貴様がなぜ、理解できないホットラインを構築しているのかもな」

 

『やんちゃな狛犬さんには……首輪と、手綱を持つ手がたくさん必要でしょ』

 

 チヒロの言い方に、カンナはクスリと笑った。

 

「それはそうだな。一人では足りん。よし、無駄話は終わりだ。……最後に一つ、カイザーの方は」

 

『動いた。D.U.の中心部からは退いた方がいいと思う』

 

「忠告感謝する。通信終了」

 

 カンナが公園から姿を消すのと同時に、エリカの乗ったトラックが走り去った方向へ、黒い大きな車両が猛スピードで駆け抜けて行ったが、カンナは既に離れていたため、確認できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ハルナの運転するトラックはどんどんD.U.の外縁部、それもゲヘナ方面へと向かっていた。このトラックに乗っているのはハルナと獅子堂さんだけで、私は獅子堂さんにお礼を言ったが「お礼は今度何か奢ってね!」とのことだった。

 

 まさか、美食研究会に助けられるなんて。

 

「ハルナ、どうして私を助けに?」

 

「あら。あなたを助けるのに、理由が必要ですか」

 

 助手席に座って、左手に包帯を巻きながらハルナに聞くけど、彼女はさっきから私を助けた理由をはぐらかすばかりだった。これは教えてくれなさそうだ。

 

 ちょっと前にミカさんが来ている時会ったけど、ハルナの様子は相変わらずだ。獅子堂さんは本当に久しぶりだったけど、こっちも前に会った時と印象は大きく変わらない。弾薬不足なのは驚いたけど。

 

「はぁ。じゃあこのトラックはどうしたの。美食研究会のじゃないよね」

 

「これは、友人から拝借しましたわ」

 

「絶対無理やりでしょ」

 

「そのような不躾な真似はしていませんわ。今回に限って、理由を話したら許可してくれましたわよ」

 

 今回は、って時点で普段はこれを盗んで走ってるみたいだ。まぁもう、そのことは今更だ。彼女たちは美食のためならある程度は何でもやるテロリストだ。車両の強奪なんて日常茶飯事だろう。

 

 私はどういうわけか追われる身になってしまった。カンナちゃんにまで銃を向けられたことがかなりの衝撃で、正直、忘れてしまいたい。

 

「あの狂犬さんにその手はやられましたの?」

 

「あ、いやこれは」

 

「そうなのですね?」

 

「……まぁ、事故みたいなもんで」

 

「あとで言っておきますわ」

 

「後で……?」

 

 なんか今聞き捨てならないセリフ出て来た。後で、ってなに。これ逃げてるんじゃないの。カンナちゃんから。

 

「エリカさん。落ち着きなさい。わたくしは味方ですわ。いついかなる時も、あなたの。それはこの名に誓います」

 

「じゃあなんで、まるで後でカンナちゃんに会うみたいな」

 

「その種明かしは彼女からしてもらいますわ」

 

 ハルナは運転しながら、センターコンソールに備えられた通信機に手を伸ばして操作すると、どこかと繋がった。通信機はトラックの見た目に反してかなりの最新機種。ミレニアム製だ。あれ…よく見ればなんかつい最近、強引に積んだような跡がある。

 

『もしもし、エリカ?』

 

「ち、チヒロちゃん!?」

 

 どうしてチヒロちゃんから通信が──いや待った!駆け出しの頃、あの偽装エビ事件の頃から少しの間、チヒロちゃんはハルナとも知り合ってる!でも私的な交流なんてないはずだけど……。

 

「ねぇ、一体何が起きてるの?私、状況がさっぱり……」

 

『尾刃さんがエリカを追い詰めたのは演技。演技……ってレベルじゃない動きだったけど』

 

「演技!?あれ本気だったよ!私、カンナちゃんに銃向けられて、頭がどうにかなりそうだったよ……」

 

 よかった。カンナちゃんは味方らしい。ドッと体に疲れがのしかかる。心が潰されてしまうかというぐらい苦しかった。……まぁ、確かにチヒロちゃんが言うように、あの動きと気迫は演技とは思えない。あれはおそらく逃げ切れなければ無力化まではするぐらいの勢いだった。

 

「よしよし、怖かったですわね」

 

 今だけはハルナの手が頭を撫でてくれたのが嬉しかった。

 

 なんとなくだけど、冷静になればカンナちゃんのことである。私と同じく嘘をつくのがどこか苦手というか、嫌いな彼女のことだ。おそらく、本気で捕まえると逆に自分を騙してたんじゃないだろうか。そう思えば一連の行動は納得だ。

 

『エリカ。結論から言えば、先生と不知火防衛室長を攫ったのはSRTの生徒であることには間違いない。でも、やったのはDINGO小隊。RABBIT、FOXとは別』

 

「DINGO小隊………っ…!?一ヶ月前に失踪した!?」

 

 まさか行方不明になっていたDINGO小隊が犯人だったなんて。一体誰の指示で……防衛次長…?でも、動機も何もわからない。いや、今は黒幕を考えてもしょうがない。

 

『そう。トキが実際に見たから間違いないと思う』

 

「飛鳥馬さんは無事なの!?」

 

『無事。先生を人質に取られて何も出来なかったんだけど、そのあと囲まれた時に誰かが囮をしてくれて助かったんだって』

 

 よかった。飛鳥馬さんは無事だ。囮って、一体誰が彼女を助けてくれたんだろう。

 

「それで今、飛鳥馬さんは?」

 

『先生を攫ったヘリの行き先を探させたけど、相手も流石にバカじゃないね。すぐにどこかのビルから車での移動に切り替えたみたい。見失ったわ』

 

「………そっか」

 

『でも、一つわかったことがあった。DINGO小隊はヴァルキューレの格好をしていたの』

 

 待った。それはおかしい。聞いた話だと、確か元DINGO小隊の子たちは警備局の官舎からいなくなった時、全部の装備を置いて逃げたらしい。それは制服も。つまり、もし今制服を着ているなんてことは普通ならありえない。

 

「まさか、ヴァルキューレに協力者が?」

 

『たぶんね。あと、さっき連邦生徒会の不信任案が出たっていうのも聞いたの』

 

「なんでそれをチヒロちゃんが……ってカンナちゃんからか」

 

『うん、そう。それで全部繋がったんだよ。これから起きること。先生たちが攫われた理由も』

 

「……どういうこと?」

 

『カイザーPMCの一部、って言うには大きすぎる戦力が今、D.U.に進軍してる。予測されるルートからして、あと3時間以内にサンクトゥムタワーやシャーレビル付近に到達するみたい』

 

 それって、まさか、いやそんなはずない。いくらカイザーPMCって言っても。

 

 ううん。ありえる。だって、夏の事件の時、私は見たじゃないか、カイザーが何をしようとしていたのか。先生は事件が終わって少し経った後に言っていた。あのレッドウィンターの衛星学園を企業の支配する学園にしようとしていたかもって。

 

「この事件に裏には、全部カイザーが絡んでるってこと?」

 

『たぶん。あと、RABBIT、FOX小隊はミレニアムで保護した』

 

「保護って、やっぱり襲撃されたってこと?」

 

『トキは先生の誘拐後にこっちへ連絡してきたけど、2小隊が避難して来たのも同時だった。で、確認したらDINGO小隊で確定したって感じだったの』

 

「……つまり、DINGO小隊が2小隊を襲撃、追い出して、そのあと誘拐の犯人に仕立てあげようとしたってことかな」

 

『おそらく。ツメが甘すぎるなんてもんじゃないけど』

 

 チヒロちゃんの言う通りだ。なすり付けるにしてもちょっと雑すぎないだろうか。もしくは、そうする必要がない、ということなのか。

 

『2小隊に関しては補給を受けさせて今そっちに向かわせてる。FOX小隊は装備が無くなったから全部ミレニアム製になっちゃったし、制服も一部の子はないからシャーレの予備分にしてる。ウタハが後で請求するって、先生に』

 

「あ……それはお手柔らかに」

 

『それはウタハに言って』

 

 2小隊も無事で、助けに来てくれてるのは頼もしい。

 

『それで、RABBIT小隊の子達から聞いたんだけど、ミレニアム製の犬型ドローンとも戦ったんだって』

 

「犬型ドローン?私もそれ、もしかしたら一ヶ月前に戦ってるかも」

 

 あの砂漠でハイランダーの子達を襲った謎の集団。あのときはてっきりカイザーのかと思ったけど────あっ!

 

「思い出した!私、アビドスでDINGO小隊の子と会ってるかも!」

 

『え、そうなの』

 

「そういうことか、じゃあ、あのときも」

 

 思い出した。あの高身長なアパレルショップの店員さん。見覚えがあるわけだ。生徒証では髪型もメッシュも入っていないし髪の色も違った。あの子はDINGO小隊の隊員、大上サナエだ。面識なかったから覚えてなかったけど。

 

『まぁ、その話は後で聞くとして、その犬型ドローンの販売先は限られてるの。そのうちの一つが…』

 

「カイザーってことだね」

 

『そういうこと。それで、カイザーと繋がりがあるヴァルキューレの分校を調べて』

 

「いやチヒロちゃん待った。なにそれ、初耳」

 

 ウチとカイザーが繋がりあるなんて聞いたことない。装備入札でカイザーがたまに装備品を入れてくることがあるけど、深いつながりはないはず。

 

『……ヴァルキューレ分校どころかヴァルキューレ自体のセキュリティ、誰が構築してあげたと思ってるの』

 

「チヒロちゃんだね……」

 

『アフターケアのために遠隔で状況の確認はできるようにしてあるの。もちろん、これはヴァルキューレの許可をもらってね』

 

「それで、何を見たの?」

 

『ある分校だけ完全にアクセス拒否されてる。電子的にじゃなく、物理的に回線を切られてね。そこをRABBIT小隊の子が偵察用のドローンを使って見てくれたけど、敷地内の裏手にカイザーの兵員輸送車を見つけたの』

 

「つまりその分校に先生と不知火防衛室長が?」

 

『可能性はあると思う。確証はないけど』

 

「ううん。手がかりもないし、今は助かるよ。本当に、ありがとうチヒロちゃん。いつも、大切な時に助けてくれて」

 

『別にこれぐらい………エリカ。可能な限りのバックアップはする。RABBITとFOX、それと尾刃さんとの合流地点は黒舘さんに伝えてあるから。しばらくは車で休んで』

 

「わかったよ、チヒロちゃん」

 

『トキもそこにいるから。じゃあ、またあとで』

 

 チヒロちゃんとの通信はここで切れた。……まさかこんなことになるなんて。私は携帯を取り出すと、大量のモモトークのメッセージが入っていることに気がついた。え、誰から?今日はほとんどサイレントモードにしてて気がつけなかった。

 

 モモトークの送り主は久田さんだった。内容を見れば、なんでメッセージを送ってくれたのかわかった。おそらく、飛鳥馬さんを助けたのは久田さんだったのだろう。内容を要約すれば、SRTらしき生徒がシャーレを襲撃、シャーレに先生の姿無し。連絡を待っている。というものだった。

 

 うん。連絡してあげよう。

 

『エリカ殿ぉ!』

 

「わっ、久田さん!?大丈夫?」

 

『主人殿姿がないですし、エリカ殿とも繋がらずイズナどうすればいいのか!』

 

「ごめんなさい。色々あって。とにかく、今の状況を話すね」

 

 ある程度、久田さんにもチヒロちゃんの話を伝える。久田さんはとっても優秀な子なので、すぐに理解してくれたようだ。

 

『状況はわかりました!それならイズナも助太刀させてください!』

 

「今どこにいるの?」

 

『D.U.の端っこです!主人殿を探していました!』

 

「わかった。ちょっと待ってね。ハルナ」

 

「なんですの?」

 

「援軍をもう一人呼びたいんだけど、今から向かう座標は?」

 

「今、運転で手を離せませんの。ポケットの中から──んっ…!」

 

 ハルナの胸ポケットに入っていた携帯を抜き出す。暗証番号は……開いた。彼女の携帯の暗証番号は知っている。私と会った日だって前に教えてくれたからだ。

 

「エリカさん、急にそんな」

 

「久田さん、座標を言うね。メモ取れる?」

 

『はい!大丈夫です!』

 

 メモアプリに残してあった座標を読み上げて、久田さんに伝えると、彼女は「承知!すぐに向かいます!しゅばばばっ!」と言って電話を切ってしまった。ほんとにすぐ来るんだろうなぁ。下手をすれば先回りされてるかもしれない。

 

「ありがとハルナ」

 

「…………もうっ」

 

「ごめん、勝手に開いちゃって」

 

「そういうことでは……はぁ…」

 

「なんでため息つかれてるんだろう、私」

 

 まぁいいや。ハルナの携帯は一旦車の飲み物入れに置いておく。そういえばさっきから獅子堂さん静かだなと思ったら荷台で寝ていた。マイペースだなぁ。

 

「ハルナ。目的地、改めて聞くけどこの座標って」

 

「もともと、わたくしたちがゲヘナへ逃げる前に用意していたセーフゾーンですわ」

 

 まだあったんだ。ただそれは美食研究会にとっては生命線の一つで、それをSRTに知られるのは自殺行為に等しい。なのに、この子たちは。

 

「よかったの?」

 

「言ったではありませんか。いついかなる時も、あなたの味方だと」

 

「………そっか」

 

 前を向くハルナの表情はいつも通りで、私も前を向いた。黒舘ハルナという人はいつもそうだった。最初に会った時から、彼女はずっと……その行為に、行動に、悔いを見せずに前を向いて走り続けてる。

 

 そんな彼女がこうして、味方でいてくれている。私は、一人じゃない。

 

「それで、このまま行くと流石に空からの追跡とか厄介だけど、どうやって目的地に行くの?」

 

「そこへは雷帝時代のゲヘナが拒否して未成で終わった地下鉄用のトンネルがありますの。トンネルに潜って進めば、セーフゾーンの井戸に繋がる梯子がありますから」

 

「思ったより本格的にやってるね……通りで見つからないわけだ」

 

「まぁ、これで使えなくなりますが、別のものを探せばいいだけですので」

 

 未成の地下鉄のトンネル、確かに存在したし、不良が溜まるので閉鎖もしていたはず。それをどうにかして使っているのかな。

 

「種を明かしますと、黒舘家も多少事業に噛んでいましたの。ツテを辿って、これを」

 

「あー、カギを手に入れたのね」

 

「えぇ。おかげで、わたくし達しか使えませんわ」

 

 突然テロリストからお嬢様パワーを見せつけられてしまった。とはいえ、使えるものはなんでも使うハルナらしい。あの未成線は途中で空から見えづらくなる道も通るし、直前に撒いてしまえば大丈夫かな、追われても。

 

「んえ……おはよ。もう着いた?」

 

「まだですわ」

 

「おはよう獅子堂さん」

 

「おはよ〜。なんか食べる?チョコあるけど」

 

 獅子堂さんが目を覚ましてそんなことを言いながら胸元、というか谷間からなんか板チョコ……のようなものを取り出した。明らかにデロデロになってないだろうか。

 

「あ、あはは、え、遠慮しておくね」

 

「そう?じゃあ私が食べちゃ──」

 

 銀紙を剥がそうとした獅子堂さんの言葉が銃声で遮られ、フロントガラスを銃弾が、後ろから貫通する。なんだと後方へ目を向ければ、チョコレートを吹き飛ばされた獅子堂さんは固まっていて、その更に先、1台の黒い装甲車が見えた。

 

「ハルナ、なんか来てる」

 

「掴まってくださいまし!イズミさん迎撃を!」

 

「弾がないよ!」

 

「待ってハルナ!私が」

 

「あなたはダメですわ!そのままシートベルトを締めていてくださいまし!」

 

「いやなんで、わぁっ!?」

 

 ハルナが急ハンドル。そうすると少し先の右前方の道路が吹き飛んだ。何事?ともう一回追いかけて来てる装甲車を見れば、ルーフから半身を出してロケット砲を担いでいる生徒の姿が見えた。

 

 射手の生徒はもう忘れられない。DINGO小隊の大上さんだ!

 

「もう来た!DINGO小隊!」

 

「なら完全に撒く必要がありますわね」

 

「けどどうするの?こっち武器なんてないし」

 

「あら。わたくしたちはまだ全員じゃなくてよ。……出番ですわ!」

 

 ハルナは片手で通信機を立ち上げると、マイクを手に取って誰かを呼んだ。直後、路地から突如、白い原付が飛び出してくる。明らかに改造されて30キロ以上を出しているその原付バイクには、更に生徒が二人乗りしていて違反のオンパレードだった。

 

「ちょっと!仮にもSRTの生徒会長代理乗せてるんだからさぁ!」

 

「エリカさん、今のあなたはわたくしたちと同じ立場ですのよ?手段は選べませんわ」

 

「ぐっ……否定できない」

 

「そういうことですわ」

 

 バイクを見る。ハンドルを握るのは鰐淵さん、後ろに乗るのは赤司さんだ。赤司さんの手にはいつもの赤い2丁のアサルトライフルではなく、鰐淵さんのアクセサリマシマシなアサルトライフルが握られ、至近距離で装甲車を撃っていた。

 

 ただ、効果が薄い。あの車種は確かSRTで使われていた戦闘用のもので、側面の装甲は銃撃戦にも耐えられるように厚いはず。

 

「何こいつ!固いんですけど!?」

 

「うふふ。困っちゃいますねぇ。ジュンコさん、タイヤを狙ってみてください」

 

 私は耳がいいので、二人の会話が聞こえて来た。当然、相手もそのままとはいかず、体当たりして二人を止めようとするけど、即座に鰐淵さんがバイクを加速させて装甲車の前に出た。

 

「FANG4!とっとと轢き潰しちゃいなさいよ!」

 

 車上で大上さんがとんでもないことを言っている。……彼女達はもう、間違いなく敵のようだ。あんな装甲車に轢かれたら、いくら生徒でも一溜まりもない。

 

「ねぇねぇ、あのデッカいの弱点ないの?」

 

「獅子堂さん。あれは生半可なものじゃないの。タイヤもガラスも防弾。装甲は手持ち火器じゃ厳しい」

 

「地雷とかは?」

 

「下部も一撃じゃ抜けないよ」

 

「反則だー!」

 

 これは獅子堂さんに同意してしまう。あの装甲車はやりすぎなぐらいに固いのに、その上で一般的なバン程度の走行性能も備えている。真正面からやり合うには戦車が欲しいというのが正直な感想だ。もしくは対物ライフル。

 

 ……あとは、私のあの不可思議な弾丸が光る状態での射撃。一応、狙って最近は出せるけど、今はこれだけ揺れる車上で、気持ちの切り替えができるかどうか。

 

 赤司さんが必死に攻撃して、鰐淵さんが華麗なドラテクで上手く装甲車を翻弄してるけど、このままだといずれこっちに被害が出てしまう。なんとかそれまでにあの装甲車を無力化しないと。

 

 ロケット弾がまた飛んでくるけど、それらは全部見当違いの方向に飛んでいく。……いくらハルナが避けてるからにしては、あまりに当たらなさ過ぎではないだろうか。

 

「下手ですわね、あの方」

 

「うん。めっちゃ撃つ時ブレブレ〜」

 

 ハルナと獅子堂さんの言う通りで、お世辞にも大上さんの射撃は上手くない。訓練された動きには見えるけど、なんだろう。壊滅的にセンスがない。

 

「ああくそ!当たんない!動くなよー!」

 

 悪態をついてるけど、明らか実力不足だ。……彼女はあまり警戒する必要はなさそうだ。体は大きいから接近戦だけは注意したほうがいいかもしれない。

 

 そんなことを考えたからか、装甲車が速度を上げて、こちらに近づこうとしている。なるほど、乗り込むつもりだ。

 

「ハルナ、相手は乗り込んでくるつもりみたい」

 

「無作法な方ですわね」

 

 ゆるいカーブを私たちは曲がっていく。目的地まではあともう少しの区画になっているので、道も荒れてきている。そろそろ、決着をつけないといけない。

 

 携帯を取り出して、未成線のあるトンネルまでの道を確認する。何か利用できるものは……あった!このあたりは再開発も滞ってる古い区画だから、通行止めになってる老朽化した橋がある。

 

「ハルナ!今から指示する方向に走って!ほんの少し遠回りになるけど!」

 

「何か思いつきましたのね!」

 

「あのバイク、壊すけどいい!?」

 

「……まぁ構いませんわ!持ち主にはシャーレが弁償すると伝えておきますわ!」

 

 バイクの持ち主の人、本当にごめんなさい。たぶんゲヘナの給食部の人なんだろうけど。

 

「二人を呼んで!赤司さんを先にトラックへ引き上げる!」

 

「お二人とも!トラックに!」

 

 ハルナが通信機で呼びかけると、鰐淵さんはすぐにトラックの横についてくれた。

 

「ジュンコ!」

 

「イズミ!」

 

 手早く獅子堂さんが赤司さんを引き上げる。非常時だからか、私の言葉に従ってくれて助かった。

 

「赤司さん!銃を鰐淵さんに!」

 

「え!?あ、わかった!アカリ、銃!」

 

「は〜い」

 

 片手運転になると、鰐淵さんが赤司さんから得物を受け取る。かなり重いはずだけど、軽々しく鰐淵さんは持っていた。よし、あとは……。

 

「ハルナそこ右!」

 

「はい!」

 

 交差点を曲がらせる。車はもうほとんどいない。人気もなくなりつつある。

 

 目標の橋は見えた。バリケードは強くない。メッシュフェンスだ。あれならこの車でも破れる。

 

「あの橋突っ切って!」

 

「あちらを?良いのですか?」

 

「大丈夫。トラック一台なら」

 

 かなり古い石橋だ。でもほぼ空荷のトラックが通り過ぎるだけなら保つはず…!でも、あの装甲車と──。

 

「獅子堂さん!そこのロープを垂らして!橋に乗ったら鰐淵さんはロープを掴んでバイクから飛び降りて!」

 

「なるほど★わかりましたよ、狛犬さん」

 

 やっぱり鰐淵さんはなんだか底が知れない。私の狙いはわかったらしい。バイクが後ろについて、獅子堂さんがロープを準備する。さっきから装甲車の上で大上さんが対物ライフルで狙撃して来てるけど、悉く外れていて、本当に射撃が苦手なのがわかる。

 

 運が良かった。

 

「フェンスを突き破りますわよ!」

 

 ガシャンと大きな音が鳴って、トラックが橋に突入する。そして、入った直後に鰐淵さんはロープを片手で掴んでバイクから飛び降りる。さらに、もう片手にはアサルトライフルが握られ、その銃口は転がっていくバイクへと向けられていた。

 

「そんなんでこの装甲車が止まるもんか!FANG4!突っ込んじゃえ!」

 

「うふふ。それはどうでしょう。これでジ・エンドですよ」

 

 バイクが装甲車と橋の間に挟まった瞬間、鰐淵さんがアサルトライフルを連射。片手でロープで引き上げられているにも関わらず、恐ろしいほどに正確な射撃がバイクに吸い込まれていく。

 

 そして、バイクは装甲車の下で爆発。橋の石が爆発の衝撃と装甲車の超重量に押されて崩れていく。

 

「嘘!?ぎにゃあああああっ──…………」

 

 悲鳴を上げ、装甲車は駆動輪が抜けたのか進めず、後部から落下して橋の下へと消えていった。幸い、川との高さはさほどない古い橋なので、たぶん命に別状はないはずだ。

 

「ふぅ。なんとかなりましたね」

 

「ありがとう、赤司さん、鰐淵さん。無茶をさせちゃったね」

 

「いいえ。まさか狛犬さんにお礼を言われるなんて」

 

「わ、私も。でも、草鞋野先輩、前にアイス奢ってくれたし…」

 

「銀行強盗解決の時にね。あのときは助けられたから。今回の件、解決できたら色々先生に掛け合ってみるよ」

 

「ほんと!?」

 

「うん」

 

「やった!」

 

 美食研究会のおかげで、なんとか危機を脱した。

 

 このままトラックはほぼ廃墟となった街を進んで、予定通り未成の地下鉄へ通じるトンネルへと鍵を開けて潜った。中は放棄されているにしては綺麗で、どうやらハルナたちは定期的に使っていたようだ。

 

「そろそろですわ。実は既に先客もいますの」

 

「飛鳥馬さんだよね?たぶん」

 

「えぇ、あともう一方」

 

「もう一人いるの?」

 

 セーフゾーンに繋がるという梯子を登りながらハルナが飛鳥馬さん以外にもう一人そこにいると言う。誰がいるんだろう。久田さん?

 

 ハルナが上り切って、次に私が井戸から出る。そこは森の中で、開けた場所に1軒のログハウスがあった。こんな場所なのに綺麗に整備されていて、使用感もある。そのログハウスのテラスに人影があった。

 

「い、いらっしゃい、ませ〜」

 

「遅かったですね。エンジェル24出張店にようこそ」

 

 いたのは、立ったままいつものように挨拶するソラさんと、テラスで椅子に深く腰掛けまるでお嬢様のようにくつろぐ飛鳥馬さんだった。

 

 なんだろう。

 

「逆じゃない?」

 

 思わず、私はそんな言葉が盛れた。

 

 




お読みいただきありがとうございました。
次回はまた未定です。お時間ください。


最終編と言えば(後半の話だけど)絆の高い生徒が大事、ということでチーちゃんの淑女協定ネットワークが活躍です。流石にナギちゃんは来れませんが画面外でチーちゃんが情報共有はしています。
カンナは万が一エリカに勝てた場合はエリカを合流地点に連れ去るつもりでした。
フウカは人助けのためということで快く(たぶん)貸し出しましたがバイクは爆破炎上しました。

感想やここすき、いつもありがとうございます。大変励みになります。よろしくおねがいします。
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