頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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正月休みが終わる!?


Area-09「セーフゾーン #合流 #再起 #ラッキースケベ」

 カイザーコーポレーション、プレジデントの執務室では彼の腹心であるジェネラルによる説明が行われていた。

 

「──では、改めて聞こう。ジェネラル」

 

「はい。こちらをご覧ください」

 

 ジェネラルがモニターを操作し、プレジデントは表示されたD.U.の地図を進むカイザーPMCの部隊を確認した。

 

「現在、PMCから抜擢した”義勇軍”が侵攻中です。先ほど、サンクトゥムタワーを確保したとの報告が入りました」

 

「連邦生徒会の生徒の処分は」

 

「七神リン連邦生徒会会長代行は捕縛。現在、シャーレへ移送中です。他の生徒は一部が逃走、他はサンクトゥムタワー周辺より退去させています」

 

 モニターに「第一段階成功」と表示され、プレジデントは椅子の上で足を組み直す。代理とはいえ、このキヴォトスの頂点に君臨していた生徒を抑えたのは上々の成果であった。

 

「損耗は」

 

「ほぼありません。抵抗はなかったに等しいとのことでした」

 

「ほぅ。ヴァルキューレなどが多少は動くと思ったが」

 

「これに関しては七神リンに対する不信任案が受理されたことが大きいようです。義勇軍の侵攻は上手く空白状況を突けたかと」

 

「フン。あの小娘、少しはやるではないか。不知火カヤは反骨精神が透けて見えたが、防衛次長もそう見える」

 

「盗聴を許すのはプレジデントといえど、軍事部門を預からせて頂いているものとして許容しずらかったものですが」

 

「子供は大人の背を見て育つとも言うだろう。ジェネラル、貴様とて新兵を弱卒から精強に育てるとして、全てを手取り足取りとはいくまい」

 

「そうですな……出過ぎた発言でした。申し訳ありません」

 

「構わん。貴様との仲だ。続きを」

 

「はっ。サンクトゥムタワー制圧後、シャーレの制圧も完了しました」

 

 ジェネラルの指がシャーレを指すとモニター内のシャーレがカイザーの勢力圏内に染まる。

 

「守備隊もいなかったのか」

 

「先生は既にFANG小隊が確保していました。護衛の生徒も姿を消しているためそのままビルを確保しています」

 

「あまりにも呆気ないな。こうまで簡単に行くと、どこかに落とし穴があると思ってしまうな」

 

「お気持ちはわかります。故に、ブービートラップの類も確認しましたが、1階の入館ゲートに無力化されたC4のトラップが残されているだけでした」

 

「そうか。つまり?」

 

「作戦は成功です。セカンドサンクトゥム計画は順調に進行しています」

 

 プレジデントは満足そうに頷いた。

 

 彼らの言うセカンドサンクトゥム計画の内容は端的に言えば連邦生徒会からカイザーに行政を司るものがすげ代わり、キヴォトスが生徒主導から企業主導の企業都市へ変わるというものだった。

 

「サンクトゥムタワーの制御権の奪取も間もなく完了するとのことです」

 

「わかった。奪取完了後、直ちに戒厳令を発令しろ」

 

「了解しました。発令後、D.U.周囲をカイザーPMC正規軍により取り囲み、D.U.を閉鎖します」

 

 モニター内のD.U.の地図が赤い線で囲まれる。

 

「プレジデント。これでD.U.いえ──キヴォトスは我々カイザーの手に堕ちました」

 

「ジェネラル。油断をしているぞ?まだ、D.U.だけだ」

 

「……そうですな。私としたことが」

 

 プレジデントは席から立ち上がり、背にしていたガラス張りの大きな窓から遠く離れ、微かにしか見えないサンクトゥムタワーを見やる。

 

「今回の義勇軍、軍団長は誰だ?」

 

「社員番号D00181です」

 

「Dクラス社員だと?」

 

「いえ、元はAクラスです。カイザーPMCの理事を担当していました」

 

「あぁ……彼か。レッドウィンターから引き揚げたというが、名誉挽回というところか」

 

「はい。生徒への復讐心の醸成は十二分であり、実力と後が無いという点を満たすのは彼だけでした」

 

「明日の朝、ここを発つ。その後、サンクトゥムタワーから全ての自治区に向け声明を出す」

 

「了解しました」

 

「今晩ぐらいは保たせてほしいものだな。……万が一の場合は?」

 

「現在、D.U.を封鎖している正規軍が敗走した義勇軍、いえ、反乱軍を撃滅します」

 

「結構。一応聞こう、不安要素は」

 

 プレジデントに問われたジェネラルは不安要素と聞かれ、彼は悩まずに答えた。

 

「シャーレの生徒1名がFANG小隊の追跡を逃れ、どこかへ潜伏しているとのことです」

 

「生徒一人では何もできまい。作戦失敗時、FANG小隊……それと防衛次長、あの小娘は拾ってやれ。あれはまだ使える」

 

「指示しておきます」

 

 プレジデントは間もなく手に入る世界に手を伸ばす。彼はこれから先に広がる栄華を夢想した。

 

 

 

 

 

 

 

 セーフゾーンにやってきて最初に見たのが、まるで家のようにくつろぐ飛鳥馬さんと、横に控えているソラさんだった。トドメがエンジェル24出張店というセリフである。いや商品は?とよく見てみれば、いつもレジ裏に陳列されている弾丸が幾らか並べられて手作り感満載な値札がついていた。

 

「あ!弾弾!」

 

 それに飛びついたのは獅子堂さんだった。彼女は逃げる前に弾を撃ち尽くしているので欲しかっただろうけど、どう見ても在庫は獅子堂さんの得物には合ってないものばかりだった。

 

「……あの、エリカさん。彼女は」

 

「飛鳥馬さんのこと?」

 

「えぇ。あなたをお迎えに向かう前は、非常に優秀そうなメイドさんだったのですが」

 

「優秀だと思うよ。私2回ぐらい戦って私がやられてるし」

 

「戦って……?」

 

 おっと、これは余計な話。

 

「あぁごめん、こっちの話。飛鳥馬さん、ちょっとお茶目なだけだから」

 

「お茶目で済むのでしょうか」

 

 飛鳥馬さんが優秀なメイドさんであることと、飛鳥馬さん自体がお茶目な子なのは両立する。だから今、明らかにアコギな売り方をしようとしている飛鳥馬さんの姿も…いやアレは止めた方がいいかもしれない。

 

「飛鳥馬さん!」

 

「おや、草鞋野さん。あなたも買いますか?」

 

「私はいいよ。それより、ソラちゃんまで連れて来てくれたんだね」

 

 よく見たらだいぶ売れてない不良在庫っぽい弾丸のことは置いといて、私はソラちゃんを連れて来たことを飛鳥馬さんに聞く。流石にふざけるのを辞めて、飛鳥馬さんは姿勢を正してくれた。さっきまでのおふざけをしていた学生から、一瞬でどこかの良家のメイドさんに変わるのは正直慣れない。

 

「はい。先生が攫われた上、まだ襲撃者が何かをして来ないとは思えませんでしたので、彼女も一緒に脱出してもらいました」

 

「た、助かりました!オーナーにも飛鳥馬先輩が連絡してもらって」

 

「聞きましたか?私、飛鳥馬先輩がやりました」

 

 控えめにピースする飛鳥馬さんになんだかちょっと可愛いなと思いつつも、やっぱりこの子ちょっと不思議ちゃんだなという感想も出てしまう。経緯はともかく、飛鳥馬さんはシャーレが危ないと判断してソラちゃんも連れ出してくれたようだ。助かる。

 

「それで、あらましはチヒロちゃんから聞いたけど、相手はDINGO小隊だったって」

 

「はい。実力は低いようですが、結果的に奇襲や誘拐は成功している以上、作戦遂行能力は高いと思われます。簡潔に言えばやり方が汚い」

 

「やり方が汚いって」

 

「ネル先輩ならもう少し気の利いた罵倒ができると思いますが、私の綺麗な口からはこれが限界です」

 

「そっか………」

 

 美甘さんなら非常にバリエーション豊かな言葉が飛び出すことだろう。

 

「それより先生はどうしたのよ!連れてかれたって」

 

「その点に関しては申し訳ありません。そちらの赤毛のお嬢様。私の不覚です」

 

 赤司さんに、飛鳥馬さんは突如深々と頭を下げる。彼女に、というよりはこれこの場にいる全員に、かな。赤司さんはまさかいきなりこんな頭を下げられるとは思わず、驚いていた。

 

「い、いや、謝ってほしいとかじゃなくて」

 

「いいえ。事実として、私は草鞋野さんから先生の護衛を預かっているにも関わらず、メイドとしての職務を果たせずに、むざむざと先生を連れて行かれています」

 

 結果だけを言えばそうなんだろうけど……飛鳥馬さんほどの子が何も出来なかったのは先生が人質に取られたからだ。

 

「先生を人質に取られたんだよね」

 

「はい。……まさか、先生に銃を突きつけられるとは思わず」

 

 完全にDINGO小隊は一線を超えている。先生は撃たれれば簡単に生命の危機に陥る。エデン条約事件でそれは大半の生徒が知ることとなった。だからシャーレの中には銃火器使用禁止の貼り紙もある。

 

 先生に銃を突きつけていたという事実は美食研究会の子たちも少なからず驚いたようだ。赤司さんもそんなことになっていれば何も出来ないと納得したのか黙ってしまった。

 

「せ、先生は無事なんですよね!?草鞋野さん、このままシャーレがなくなるなんてことないですよね!?」

 

 ソラちゃんはまだ中学生だ。普段からシャーレのコンビニにいることも多いし、荒事には慣れてない。相当心配だと思う。私は頭の中でこれからのことを考える。考えると言っても、やることは非常に単純だ。

 

 先生たちを助けて、カイザーを退ける。それだけだ。

 

 私はソラちゃんを見た。

 

「大丈夫。そうしないために、私はここまで来たんだから。飛鳥馬さん、援軍が来るまでまだ時間が少しあるの。ミレニアムとの情報共有は?」

 

「しています。会長への連絡も済ませてありますが、流石に表立ってカイザーとの対立は難しいと」

 

「そうだろうね。なら──」

 

「──相手が盤石となる前に急襲するのが先決だな」

 

 私たちの背後から、私のよく知る、頼もしい人の声が聞こえた。振り向けば、そこには……。

 

「なんで水着……?」

 

「各務に言え。あいつめ……川を泳げとはふざけたルートを……」

 

 防水の袋を頭に紐で固定して、水を滴らせた競泳水着姿のカンナちゃんがそこにはいた。どうやらここまで来るのに川を泳いでいたらしい。絶対寒い。今秋だよ。

 

「あら、狂犬さん。水も滴って随分と別嬪になりましたわね」

 

「黒舘。貴様とは馴れ合うつもりはない。この件が終わったらエリカには悪いが貴様を逮捕する」

 

「あら、できまして?警察官でないあなたが」

 

「私人逮捕というものを知っているか。世間知らずのお嬢様」

 

 顔を合わせるなりカンナちゃんとハルナはこれである。わかってたけど本当にこの二人の仲が悪いというか、そりゃテロリストと公安局長が仲いいなんてあっちゃいけない。生活安全局の副局長はどうだって?私だって本当は仲良くしちゃいけないんだろうけど、もうシャーレの部員なので。

 

「待って二人とも、喧嘩はダメだって」

 

 間に割って入れば、二人とも流石に理性的なのですぐに睨み合いはやめてくれた。カンナちゃんはかなり申し訳なさそうな様子で私を見た。

 

「……エリカ、まず謝らせてくれ。すまなかった。さっきは」

 

 頭を下げられた。

 

「どうしようかな、手も怪我したし」

 

「なにっ!?見せてくれ!今すぐ手当を…!」

 

「あははっ、大丈夫だよカンナちゃん。平気。すぐ治るから」

 

「お、お前」

 

「ありがとうカンナちゃん。カンナちゃんも辛かったよね。こうして、来てくれただけで嬉しいよ」

 

 少しだけからかって、私はそう言った。カンナちゃんからすれば、あれが最善だった。最善を尽くして私を「逃がして」くれたんだ。それを責めるなんて到底できない。まぁ、怖かったし、苦しかったのは事実だったけどね。

 

 カンナちゃんはたじろいだ後に、大きくため息をついた。

 

「はぁ……お前は……全く。変わったな。前はそんな冗談など言えなかった」

 

「そうだね。もう私は、ヴァルキューレの生徒じゃないからさ」

 

「そうだったな……今日は私も同じだ。改めて、よろしく頼む。ここにはただの尾刃カンナとして来た」

 

「よろしく。ただの……ってことは」

 

「生徒手帳も何もかも置いて来た」

 

「………それはやりすぎじゃないかな」

 

「ケジメだ」

 

 うーん、この子らしいというかなんというか。多分、コノカちゃんに全部お願いしたのかな。きっと、コノカちゃんのことなので、上手く切り抜けてカンナちゃんの帰るところは用意してくれているだろう。

 

「じゃあなになに?狂犬さんは味方ってこと?」

 

「さっき聞いたわよねイズミ!?」

 

「え?そうだっけ」

 

「馴れ合うつもりはないと言っている。それより………へくちっ…!……着替えさせろ」

 

 くしゃみが可愛いカンナちゃんは着替えさせてあげようと思う。心なし耳もなんかしおれてるし、川を泳いだならシャワーぐらい浴びさせたい。

 

「ハルナ、ログハウスにシャワーある?」

 

「もちろんありますわ。どうぞ、お使いになって」

 

「今ばかりは礼を言う。助かった」

 

 カンナちゃんはそう言ってログハウスに向かっていく、すると、飛鳥馬さんがカンナちゃんの先に入り口の扉を開いた。扉を開く、というだけなのにすごい洗練された所作だ。

 

「わざわざすまな」

 

「よければ背中をお流しします」

 

「いや、流石にそこまでは」

 

「いいえ。この最強メイドにかかれば微妙な生臭さも全て消してみますのでお任せください。さぁ」

 

「臭いは微妙に気にしていたがそんなに臭うのか。自分で洗える。待て、聞いているのか!?んぬっ!な、なんだこのメイドは!?おい、エリカ!こいつは──力強っ…!?」

 

 バタン、と扉は閉まった。まぁ、うん。飛鳥馬さんにかかればカンナちゃんはピカピカになるだろう。

 

「エリカさん。援軍の到着まで、わたくしたちはそれぞれ過ごしていますわ」

 

「わかったよ、ハルナ。車の整備は?」

 

「それは私がしておきますね〜」

 

「ありがとう、鰐淵さん。私はどうするか色々考えてみるね」

 

 美食研究会のみんなはそれぞれ、やるべきことをし始めた。ハルナも一旦、ログハウスの中に入ったので、色々と準備があるようだ。獅子堂さんだけはテラスでお菓子を食べ出してマイペースだ。

 

 赤司さんと鰐淵さんはトラックの整備をするらしい。さっきも激しいカーチェイスしてたからね。コンビで動いてるのかな。

 

「エリカ殿ー!」

 

「久田さん!?」

 

 じゃあ私はこのあとのことを、と思っていたら久田さんの声が聞こえた。声のした方を見れば木のてっぺんに立っている久田さんを見つけた。彼女は「とうっ!」と言いながら高い木の上から難なく着地すると、一瞬で私の前にやってきた。

 

「エリカ殿!ご無事で!」

 

「久田さんこそ。ありがとう、来てくれて」

 

「いえ!肝心な時にこのイズナ、主殿を助けられず…!」

 

「そんなことはないよ。だって久田さんが来た時にはたぶん攫われてたし」

 

「……そうでしょうか。ともかく、ここには主殿のためにやってきました!エリカ殿!どうぞイズナを、如何様にもお使いください!」

 

「そんなことしないよ。一緒に先生たちを助けよう」

 

「はい!」

 

 久田さんがいてくれれば百人力だ。なんたって本物の忍者だ。やろうと思えばこの子は単独での潜入破壊工作強襲救出、なんでもござれだと思う。特に今回は相手がカイザー…最悪、ヴァルキューレの一部が敵になる。

 

 久田さんみたいな群を圧倒する個の力を持つ子はいるだけで頼りになる。

 

「それで、イズナは何をすればいいでしょうか!」

 

「今は休憩してて大丈夫だよ。たぶん、今日の夜動くことになるだろうから」

 

「わかりました!では、イズナは休んでいます!」

 

 しゅばっ!と効果音が鳴りそうな勢いで目の前から消えたと思ったら久田さんはログハウスの屋根の上に音もなく座って瞑想を始めた。い、一瞬でどうやってあそこまで。気を抜いていると本当に久田さんは追いきれない。

 

 ふぅ……とりあえず、私も考えつつ体を休めないと。ただちょっと試してみたいことがある。

 

「………やってみよ」

 

 久田さんの歩法。私とはまた違う独特なものだけど、脚力に物を言わせたものだってことはわかる。少し時間があるし、試せないかな?体を休ませようと思って早速これは自己矛盾してないか?

 

 けど……なんだろう、先生と一緒にいることも多いせいか、ちょっとさ…忍者、気になって来てしまった。

 

「えっと……」

 

 意識して、よくわからない体の中のスイッチを切り替える。弾が光るようになる時はこういう集中が少し必要だ。体のスイッチが入れば、身体能力も上がるので真似できるはず。久田さんは私と違って一瞬で何度も地面を叩いてるわけではなく、うーん、感覚で言うと、ぱぱんっ、って感じで2回?地面を強く蹴ってるのかな。

 

 ただ、足音も極端に小さいので設置面が少ないというか。

 

 目標物は久田さんのちょっと後ろの屋根。そういえば上方への大ジャンプってしたことないんだよね。飛んでも斜め方向への平行ジャンプというか。使えたら便利だし、試してみよう。

 

「よし、せーのっ──!」

 

 

 

 

 

 

 

 黒舘ハルナはログハウス内の2階に用意されていた自室で着替えを行っていた。着替えと言っても、スカートからスキニーのパンツに変えるだけであり、彼女は一度、下着以外の腰から下に身につけたものを脱いでいた。

 

「ふぅ……エリカさんも休んで頂けると良いのですが」

 

 エリカの心労は見るに耐えず、ハルナは心を痛めていた。チヒロによって今回のエリカ救出作戦は実行に移されたが、出来ていなければどうなっていたのか。当初はそのうち潰そうと考えていた淑女協定ネットワーク(モモトークのグループ)が役立つとは思ってもいなかった。

 

「……私とナギサさんでは動けなかったでしょう」

 

 立場を捨てられないナギサと、立場を捨てられるハルナ。双方とも簡単にはエリカを助けにはいけないとわかっていた。ナギサは背負ったものを下すことなど到底できず、ハルナは自身にある力は大勢を覆せるものではなく、せいぜい身を守る程度にしかならないと自覚していた。

 

「認めたくはないですが、各務さんはやはり、エリカさんの相棒…なのですね」

 

 チヒロはカンナに次ぐ付き合いの長さであり、トキとRABBIT小隊、FOX小隊の報告を受けて今回のエリカ救出作戦を即座に実行した。それはずっと、何もできない、手を伸ばした頃には傷つき倒れている──見届けることしかできなかった少女の決死の願いだった。

 

 

 

──今は力を貸して欲しい。エリカが、また傷つく前に。

 

 

 

 純粋な願いを恋敵だからと蹴るほど、ハルナは懐が狭いわけではなかった。願いを聞き入れたハルナは美食研究会を初めて美食探求以外の目的で集めた。スタンドプレーで成り立つ集団でしかない美食研究会の面々はハルナの無茶な要求を快く承諾した。

 

 アカリはいつもの調子で軽く頷き、イズミは特にエリカに悪感情があるわけでもなく、ジュンコはエリカとの仲は良好寄りだった。

 

 給食部への説明をハルナが行い、普段から無茶苦茶ことに付き合わせているフウカがその真っ当すぎる理由を耳にしてハルナが本物か疑ったことを思い出し、彼女はくすりとする。悪い物でも食べたのか、とも言われ、そこまで普段からおかしいことをしているのかとハルナは自己を顧みたが、そんなことはとうの昔に承知の上で美食研究会として活動をしていた。

 

「バイクの件は本当に謝りましょうか」

 

 真っ当な理由で借りた以上、ハルナは美食研究会の会長としてではなく、ゲヘナの名家である黒舘家の令嬢としてフウカに謝罪をしようと考えていた。許されるかはともかくとして、今回は個人の願いで借りたのだから。

 

「さて……着替えてしまいませんと」

 

 ハルナは脱いだものを畳み、ベッドの上に置いたところで、突然部屋の窓ガラスが吹き飛んだ。

 

「きゃああっ!?」

 

 思わず悲鳴を上げハルナが屈むと、ベッドの枕側にある壁に人ぐらいの影がぶつかり、跳ね返ってベッドの上に落ちた。なんだとハルナが見ると、窓を突き破ってきたものの正体がわかった。

 

 エリカだった。

 

「え、え、エリカさん?!」

 

「あたまふらふらする〜」

 

「な、なにが!?あぁ、ガラスが刺さって!?エリカさん!しっかりなさって!」

 

 

 

 

 

 

 

「……自業自得だな」

 

「ラッキースケベってやつ?」

 

「RABBIT2、3。言い過ぎだ」

 

「言い過ぎってことは少しは思ってるんじゃないの?FOX1も」

 

「……………ノーコメント。RABBIT3」

 

 ハルナの私室にダイナミックエントリーをしてしまった私は多数の裂傷と、ハルナのパンツがものすごく大胆なことに目を奪われたことでビンタされて頬が腫れていた。そんな状態でRABBIT小隊とFOX小隊が来たものだから、誰がやったのかと軽い騒ぎになった。

 

 それで事情を明かしたらこれである。いや、うん。着替え中の女の子の部屋に飛び込んでしまったので、いくら同性と言ってもこの批判は甘んじて受け入れるべきだ。あのニコちゃんも微妙な顔をしていた。……主に、久田さんの足捌きを真似してぶっ飛んだことに対しての呆れだろうけど、ニコちゃんは。

 

「こほん。気を撮り直して、草鞋野補佐官。SRT特殊学園、FOX小隊及びRABBIT小隊、合流します」

 

 ユキノちゃんが号令すると、綺麗に横一列に並んだ2小隊が敬礼する。私も返礼した。事前の情報通り、FOX小隊の子は全員シャーレの制服になってしまっていて、オトギちゃんとクルミちゃんはサイズが急いで合わせたのかだいぶつんつるてんだった。

 

「えっと、とりあえず、私はシャーレとして活動するから楽にしていいよ、みんな」

 

 一応、SRTの生徒会長として動くためにはカヤちゃんの許可が必要なので、そう伝えるとみんな直立不動から各々の姿勢をとる。ユキノちゃんとミヤコちゃん、あと空井さんはバシッと背筋伸ばしたままだけど。

 

「とりあえず、私が言えたことじゃないけど、ユキノちゃん大丈夫?」

 

「問題ありません。見た目が派手なだけでほとんどは擦り傷です」

 

「……そっかぁ」

 

 まず気になったのがユキノちゃんの全身ぐるぐる巻きの包帯である。FOX小隊に何があったのか聞くと、なんと根城にしていた建物を砲撃で破壊されたらしく、その崩落に全員巻き込まれたらしい。

 

 で、就寝中だったニコちゃんを庇った結果、ユキノちゃんが瓦礫で怪我をした。幸いにも軽傷以下だけど、心配したニコちゃんがぐるぐる巻きにしたらしかった。ニコちゃんはほぼ怪我はなく、クルミちゃんはここでもまた大上さんが出て来て彼女との交戦で腹部を打撲。

 

 オトギちゃんが一番怪我も少なかったけど、装備を完全に喪失したらしい。

 

「それで装備の方はミレニアムに融通してもらったみたいだけど、オトギちゃんすごいねそれ」

 

「いやぁ……なんかあの随分カッコイイマッドな人に使ってくれって言われちゃって」

 

「それ白石さんだね……」

 

 FOX小隊の子達は普段使っていたものに極力近い装備を渡されたみたいなんだけど、オトギちゃんだけ様子がおかしいものを渡されていた。そう、オトギちゃんの背中にあったのは対物ライフルではなくエンジニア部製のレールガンだった。

 

 形状は調月会長が作った剣のような、鍵のような形の、今はケイが使っているものと似ていて、それよりも更に軽量化されたのか全体的に1.5回りぐらい小型化されている。

 

「装備の完熟訓練もできないためあまり推奨できないので断りたかったところでしたが、威力はRABBIT2とFOX3が晄輪大祭で目の当たりにしています。少数精鋭での作戦となると、利用できるかと」

 

「悪くない判断だと思う。試射ぐらいはさせてもらえたんだよね?オトギちゃん」

 

「もちろん。ただ、正直手に余るかな、と。移動しての攻撃は不可能ですよ、先輩」

 

「吹っ飛ばされたもんね、オトギ」

 

「クルミだって吹っ飛ばされたでしょ」

 

 流石に体格的な問題で発射の反動は抑え込めないらしい。基本的には狙撃ポイントを用意して支援砲撃って形かな。クルミちゃんが吹っ飛ばされる様はちょっと想像しやすい。悲鳴を上げてふっ飛んだんだろうなぁ。

 

「FOX2、ニコちゃんは大丈夫?」

 

「はい、先輩。私としてはその、先輩と同じ制服を着れて少し嬉しいです」

 

「そう?まぁでも、防弾性能はお墨付きだからいい性能だよこの制服」

 

「そうですね……」

 

 若干ニコちゃんの耳が下がっていた。やっぱりSRTの制服が恋しいのだろうか。

 

 RABBIT小隊はFOX小隊と違って装備を持ち出せたのかいつも通りの様子だ。

 

「ミヤコちゃんたちはひとまず大丈夫そうだね」

 

「体は大丈夫でしたが……キャンプが」

 

「あいつら、私たちのキャンプを燃やしたんだ!あれはSRTじゃなくて傭兵のやり方だぞ」

 

 RABBIT小隊のキャンプはDINGO小隊の小隊長、狐狼さんと、副隊長の多神さんに襲撃を受けて焼き払われてしまったらしい。

 

「いやぁ、前に会った時は大したことない連中だったもんね。なのにあんなガンガン燃やして……」

 

「悦ぶなよモエ。お前の機材も全部パーだったろ」

 

「でもサキ、シャーレのお金でミレニアムの機材もらえるって言ってたじゃん」

 

 これ全部終わったらシャーレの予算は諸々足りるのだろうか。早瀬さんがなんとかしてくれることを祈ろう。少しは値引きしてくれるかもしれない。

 

「す、すいません。先輩、隊員たちが」

 

「大丈夫だよ、ミヤコちゃん」

 

「そうでしょうか」

 

「たぶん」

 

「たぶん!?」

 

 引き攣った笑みしかミヤコちゃんに返せなかった。

 

「ミユ殿!元気でしたか!?」

 

「あ、く、久田さん……こ、こんにちは」

 

「こんにちは!」

 

 霞沢さんは久田さんに声をかけられて恐る恐るとはいえ、挨拶を交わしていた。どういうわけか久田さんはあっさり霞沢さんを認識できるらしく、なんでなのか霞沢さんに聞いたことがあるんだけど「その、あの、失礼ですけど……久田さんって、ワンちゃん、みたいで」というよくわからない返事が返って来た。

 

 もう少し掘り下げると、どうやら動物みたいな勘の鋭さがある、ってことみたいだった。

 

「とりあえず、無事にみんなが合流できたのは嬉しい。みんながいれば鬼に金棒だよ」

 

「そう言ってもらえると嬉しいです」

 

 ミヤコちゃんがようやく笑顔を見せてくれた。彼女はきっと、同じ1年生であるDINGO小隊の凶行を気にしているはずだ。それでも前に進んでいるように見せてくれるのは彼女の強さだろうか。

 

「それで、草鞋野補佐官。今後の行動予定は」

 

 ユキノちゃんが聞いてくる。他の面々も雑談を止めて聞き入っている。やっぱりSRTの子達はちょっと違うね。

 

「作戦会議はするけど、やることは単純だよ。先生と不知火防衛室長を救出する。そこから今晩中にシャーレを奪還かな。D.U.の現状はこのあと、チヒロちゃんから報告受けるから」

 

「了解しました。各小隊とも装備の点検、準備をします」

 

「お願い」

 

「全員聞いたな!装備点検、連携の確認だ!今回は要人の救出任務だ!補佐官の期待を裏切るな!」

 

『イエス・マム!』

 

 みんな気合いが入ってる。この気合いが空回りしないからすごいんだみんな。私もあとはチヒロちゃんからD.U.の現状を確認して、救出作戦の確認だ。先生、カヤちゃん、どうか無事でいてほしい。

 

 




次回はまた明日の22時です。

感想やここすきもらえると、とても嬉しいです。

本作のカイザーはやり口が結構汚いですが、原作でジェネラルとプレジデント現場に来すぎでは…?と思いあんな感じにしてます。
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