頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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連続投稿は一旦ここまでです。


Area-13「シャーレビル周辺 #因縁 #憎悪 #決着」

 先生たちがゴリアテ改の小隊から襲撃を受け始めた頃、真反対の方角に位置するD.U.外郭地区に存在する報道系の職業学校、クロノススクールの分校前マンホールが開き、中から出てきたのはハルナを始めとした美食研究会、そして本来であれば彼女たちと行動を共にすることはあってはならないカヤだった。

 

「(ふふふっ!先生も素直が過ぎますね。私が演説をすればクーデター打倒の旗振り役はこの私になります!これでついに連邦生徒会会長の座は私のものに…!)」

 

 カヤの野心は様々な経験を積んだこの期に及んでも変わっていなかった。

 

「守衛の一人や二人はいるものかと思いましたのに」

 

「黒舘さん、陽動が上手くいっているのですよ」

 

「わかっていましてよ。彼女が陽動をしているのですから」

 

「愚問でしたね。これは」

 

 エリカに絶大な信頼を寄せる二人はカイザーの姿が全くと言って見当たらないことをエリカによるものだと疑わなかった。そんな二人を後ろから眺めていたアカリは「恋は盲目ですねぇ」と内心呟いていた。

 

『イズナです!聞こえていますか!?』

 

「聞こえていますよ久田さん。敵はいないのですよね?」

 

『はい!カヤ殿!引き続き周囲を見張っていますね!』

 

「お願いします」

 

 忍者なる未知の存在にカヤは最初面食らっていたが、素直で真っ直ぐで明るく優しいイズナのことは既に気に入り始めていた。彼女となら友達になれるのではないか、ともカヤは思っていた。

 

「(獣人の生徒は皆いい子ばかりですからね………いやニコさんは怖いですが)」

 

 SRTとの関わりがある以上、自然とカヤの周りには獣人族の生徒が多かった。容姿的な意味でもカヤは彼女たちを嫌いになることはなかったが、ニコだけは恐ろしく、腹部を殴られたことは実は軽いトラウマになっていた。

 

「さて、ではいきましょうか」

 

「あ、ちょっと待って」

 

「なんですか?」

 

 クロノス分校に入るため歩き出したカヤをジュンコが呼び止める。カヤが振り向けば、ジュンコは複雑な表情になっていた。

 

「時間がないのですよ。手短に」

 

「うっ。いやけどさ、これいいのかなって」

 

「何か問題でも?」

 

「あのさ、自分で言うのもアレだけど、私たちもテロリストなんだけど……」

 

「そうですね」

 

「なんで連邦生徒会の制服着せられてるの?」

 

 ジュンコがスカートをつまみ上げる。あろうことか、一部では最悪な類のテロリストとして扱われている美食研究会の4人は連邦生徒会一般生徒の制服を着せられていた。どこから調達したのかと言えば、現在は単独行動で姿を消しているトキが持ってきたものだった。

 

 カヤはジュンコの疑問に「なんだそんなことですか」とくだらない質問だと言わんばかりの反応を見せる。ジュンコは「いちいち偉そうな人だな」と心の中でイラッときていた。

 

「私は連邦生徒会の室長ですよ?しかも防衛室。本来であればあなた方といるところを見られたら失脚は確実です。それに、あなた方もここで悪目立ちすれば後の活動に支障をきたすでしょう。お互いに都合がいいんですよ」

 

「まぁまぁ。こんな機会滅多にないですし、楽しむのもいいかもしれませんよ?」

 

「アカリはなんで平気そうなの!?なんかこれ、いつもの数倍ヤバいことしてると思うんだけど!?」

 

 バレてしまえばテロリストが政府側の人間に扮しているという一発で矯正局行きが確定するもので、ジュンコは戦々恐々としていたが、ハルナは以前にナギサがヴァルキューレ生に扮したことを知っていたり、アカリは大して気にすることもなく、先ほどから静かなイズミは棒付きキャンディーをしゃぶり続けていた。

 

「赤司ジュンコさん、でしたね?」

 

「な、なに」

 

 カヤがジュンコに振り向く。いたって自然体でカヤはジュンコに微笑んだ。

 

「手段を問えるのは余裕のある人間だけです。残念ながら今の私には余裕がありません。これから私がすることは歴とした1学校の権限の徴用です。今この瞬間戦っているエリカさんたちのためにも、使えるものはなんでも使うんですよ」

 

 悪びれもせず人を”使う”と言うカヤに、ジュンコは顔を引き攣らせる。彼女の中で連邦生徒会の生徒も恐ろしいと決定づけられた。

 

「おしゃべりはここまでです。行きましょう」

 

 再びカヤが歩き出す。ここまで来て退く選択肢はジュンコにはなく、彼女は諦めてお行儀よくカヤに付いていくことにした。

 

 クロノス分校の入り口には守衛もおらず、カヤが自動ドアから中に入れば受付を担当しているらしきクロノス生が突如入っていたカヤたちに目を見開く。

 

「こんにちは。私は連邦生徒会、防衛室長の不知火です。非常事態に付き、貴校の放送施設を徴用致します」

 

「え?えぇ!?どういうことですか!?待ってください、今上級生に確認を」

 

「確認は不要です。これは命令、指示、お願いではなく、決定事項ですので。施設の案内を」

 

 毅然と言い放つカヤに受付の生徒は戸惑っていた。カヤがチラリと目の前の生徒を見れば生徒証には1年生であることが示されている。

 

「ふむ…ではこのように考えてください。今からあなたはこのクーデター下における転換点に立ち会うことができます。特ダネですよ」

 

「…………ほんとうですか?」

 

「保証しますよ。さぁ、案内を。まぁ、仮に協力せずとも、彼女たちが制圧してでも借りますが」

 

 もはや恫喝である。カヤの背後にいる美食研究会の面々はそれぞれができうる限りの威圧的な姿を見せつける。特に、恐ろしいまでの美女としての魅力を使ったハルナとアカリに、受付の生徒は折れてしまった。

 

「わかりました……こちらです」

 

「話がわかる方でよかったです。あぁ、音声のみで構いませんよ。強制的に声をD.U.全域に飛ばせればいいので」

 

 

 

 

 

 

 

『──キヴォトス、D.U.にお住まいの皆様。私は連邦生徒会、防衛室室長、不知火カヤです』

 

「副局長、なんか放送が無差別に」

 

「なんだァ?」

 

 ヴァルキューレ本部、公安局の執務室自席で仮眠を取っていたコノカは部下たちに起こされる。あくびをしながらコノカが席から立ち上がり、眠る前に飲みかけていた冷め切ったコーヒーの入った紙コップに手を伸ばし、最悪な味のそれを眠気覚ましに飲み干す。

 

「まっず。お前これ、総務がこの前買ったクソマズコーヒーじゃないか」

 

「淹れたの副局長ですよね!?」

 

「んで?なんだこの放送は」

 

『現在、我々はD.U.を掌握したテロリスト達に対して反抗作戦を行っています。シャーレ近く、外郭地区に住んでいる生徒の皆さんはお気付きでしょう。今この瞬間も、必死に戦う人たちがいます』

 

 カヤの声は彼女の内心を全く反映することのない綺麗なもので、純粋な救いを求める声にも、その場にいたヴァルキューレの生徒には聞こえた。

 

「誰だ?」

 

「防衛室長って名乗ってましたよ」

 

『今、私たちの平穏は身勝手な野望を持つ人たちによって脅かされています。このまま大人しく貝のように口をつぐみ、望まぬ未来を訪れることを待つのでしょうか?私は…望みません。先陣を切って戦っているシャーレは自由で開かれた本来のキヴぉトスを取り戻そうとしています』

 

「…………」

 

「副局長?」

 

 コノカは何が始まったのか理解した。そして、連絡こそないがひっそりと送り出した生活安全局の二人も上手く事を進めているのだと納得した。カヤの放送はコノカを動かす合図として機能した。

 

「うっし、お前ら!出動準備だァ!」

 

「えぇ!?いいんですか?」

 

「当たり前だろ!連邦生徒会の防衛室長がテロリスト共相手に戦ってんだ。あたしらが動かんでどうするよ」

 

 コノカの指示に、公安局員たちは顔を見合わせる。

 

「それに姉御もたぶん動いてる」

 

「局長が!?」

 

「ったり前だろ。ほら、だから行くぞ」

 

「しかし、上の指示は」

 

「ほっとけ。連中は例の分校の処分で忙しいみたいだからなぁ。……そっちは終わったら姉御も連れてパーッとやろう」

 

 とある分校がカイザー側に寝返ったことを既に公安局は掴んでおり、彼女達の仕事はこの難局を乗り越えても変わらず待っていた。そのことに彼女達は文句を言わない。ヴァルキューレ公安局の生徒達は、尾刃カンナという生徒が信じる正義を支えたいと思っているからだ。

 

 コノカが椅子にかけていたジャケットを羽織ると、ようやく公安局員たちもそれぞれ動き出す。

 

「まずは先生の現在位置を割り出せ!そっちに合流だ!」

 

「了解!」

 

 慌ただしく彼女達は飛び出していく。公安局所属のパトカーが駐車場のゲートを突き破り全台が出ていくのにそれから10分とかからなかった。

 

『ですからどうか、皆さん。力を。力を貸してください。変わらぬ明日を積み重ねていくために。私たち生徒には、変わることも変わらないことも選択できる自由があるのですから』

 

 

 

 

 

 カヤの演説が行われている中、トキはソラを連れてシャーレビル近くまで辿り着いていた。彼女たちの目的は監禁されているという連邦生徒会会長代行、リンの捜索だった。

 

「こんな抜け道があったとは。助かりました」

 

「いえ、いつもバイトの時間に遅れそうな時は使っていたので」

 

 動きやすいアビ・エシュフ用のパイロットスーツに着替えたままのトキは、土地勘のあるソラの手助けにより、想像した以上にシャーレビルへと近づけていた。クーデター部隊の本隊と思われる戦力はシャーレビル前に展開されていたが、迎撃に駆り出された部隊が多いのか、ビル周囲全てを囲むことはできていない。

 

「………あれはゴリアテ?いえ、それにしては……」

 

「パワードスーツってものでしょうか?飛鳥馬先輩」

 

「おそらくは。カイザーもこんなことをしでかす以上はそれなりのものを持ち込んだのでしょう」

 

 見たこともない大型のパワードスーツを目にした二人はカイザーの本気度を伺い知る。とはいえ、先生が立ち上がった上に、カヤの演説による煽動の効果は現れ始めたのか、静かだった朝の街は徐々に騒がしくなってきていた。

 

『トキ、聞こえる?』

 

「チヒロ先輩」

 

 物陰に隠れているトキの耳に届いたのはチヒロの声だった。チヒロはヴェリタスの部室から現在の戦況を全て把握していた。

 

「感度良好。どうぞ」

 

『わかった。先生からも言われてるけど、トキの仕事はここからなんとかシャーレビルに潜入して端末にアクセスすること。そうすればおそらくはあそこにいる代行さんを見つけられる』

 

「心得ています。こういった類はアカネ先輩が得意ですが」

 

『そのアカネがあなたの師匠なんでしょ?ヒマリから聞いてる』

 

「えぇ。……そういえば、そちらの状況は?」

 

『セミナーとか他の部活とは随時情報共有を進めてるけど、あまり芳しくないよ。何が起こるかわからないけど、あのエネルギーそろそろ臨界点超えそうな感じみたい』

 

「時間はあまりありませんね。次の事態に備えるためにも」

 

『そう。お願い』

 

 通信はそこで途切れ、トキはアカネに教わったことを反芻する。

 

「……静謐に、しかして大胆に。言葉の前に、主人を喜ばすことこそ誉れ」

 

「なんですか、それ」

 

「私の先輩が教えてくれたメイドの心得です」

 

「……?」

 

「言われる前にやりましょう、という意味です」

 

「なるほど」

 

 ソラはトキの言葉に感銘を受ける。彼女はバイトに明け暮れていたがもちろん、将来どこの学校に入ろうか悩んでいた。彼女はメイドとして堂々たるトキの姿に憧れを抱いた。

 

「(私、入ろうかな──トリニティに)」

 

 ただし、彼女はトキがトリニティのメイドだと勘違いしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「プレジデント!お待ちを!」

 

「……ジェネラル」

 

 カイザー本社、タワーの上にあるヘリポートでヘリに搭乗しようとしていたプレジデントはジェネラルから呼び止められる。これからD.U.に行こうという状況で止められたことで、プレジデントは何が起こったか悟った。彼は搭乗員に目配せし、手で搭乗しない旨をジェスチャーすると、ヘリの中へかけていた足を戻した。

 

 彼はジェネラルが駆け寄ってくるのをその場で迎えた。

 

「察しはついている。失敗したのだな?」

 

「……申し訳ございません」

 

「いや、いい」

 

「……なっ」

 

 叱責を受ける。そう覚悟していたジェネラルは驚くも、すぐにこれまでのプレジデントの態度を思い返す。そもそも彼は最初から失敗することも前提に動いていた。元DINGO小隊、FANG小隊の回収を命じておくことは成功を信じていれば指示などしていなかった。

 

「プレジデント、あなたは」

 

「貴様らを信じていないわけではない。だが、私は商売人だ。……ジェネラル。基礎というものはどれだけ偉くなっても忘れてはならない」

 

「基礎…ですか」

 

「そうだ。私がカイザーに入社した時、最初に配属されたのはカイザー不動産の営業部だ。最初はがむしゃらだった。押すことしか知らなかった。しかしだ、それだけで頷かないお客様も当然いる」

 

「では今回のクーデターは」

 

「アビドス、オレンジパウンド、そして今回のD.U.で三度だ。先生──奴が現れた以上、カイザーは変わらなければならない」

 

「変わる…」

 

 プレジデントが歩き出す。ジェネラルはその横に続く。

 

「この後は予定通り謝罪会見を行う」

 

「よろしいのですか」

 

「一時的な株価の低下は避けられんだろう。だが、それは次への布石だ」

 

「どうするのですか」

 

「相手がノーガードならば、こちらもそうでなくてはフェアではない。正義には正義をぶつけるのが常だ」

 

 プレジデントは懐から携帯を取り出すと、どこかへと電話をかけた。

 

「………私だ。どうかね」

 

『……セイントネフティスの占用許可は生きている。それは現在のアビドス生徒会副会長、そして、シャーレも”確認”した』

 

「そうか。セイントネフティスはまだ諦めていないのだな?」

 

『雷帝の遺産さえ確保できれば彼らはあの”大蛇”を仕留められると思っている』

 

「ほお…やはり存在するか。わかった。引き続き頼むぞ」

 

『了解した』

 

 プレジデントは満足そうに頷く。彼はクーデターの失敗などまるで気にしていなかった。むしろこのクーデターはプレジデントにとって──カイザーの今後の振る舞いに関する確認作業にしかすぎなかった。

 

「プレジデント、何を」

 

「ところで、我々は確かにアビドスを廃校にできなかったが、あの土地不動産は未だ我々の手の中にある」

 

「それはそうですが」

 

「そして、アビドス高校はもはや自治区の管理者として機能していない。よって、その土地所有者が管理はしなくてはならないが」

 

「…………まさか」

 

「ジェネラルよ。大人に”失敗”など存在しないのだ。落ち着き次第、次に備えるぞ。PMCの再編もしなくてはならないのだからな」

 

「ハッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 シャーレビルが見えてきて、私はカンナちゃんたちと合流して進んでいた。クーデター軍は抵抗をしてるけど、カヤちゃんの扇動が上手く聞いたのか、手伝ってくれる生徒が増えてもうほとんど組織だった防衛戦は張れてない。

 

「後は本丸を抑えるだけか。エリカ、先生たちは」

 

「確認する」

 

 走りながらカンナちゃんに聞かれたのでミヤコちゃんを呼び出す。

 

『こちらRABBIT1。草鞋野会長ですか?』

 

「そうだ。現在こちらはシャーレビルの目前まで迫っている。そちらはどうか」

 

『公安局の皆さんが合流し、更に狐坂ワカモが先生に協力し、こちらの進撃は順調です』

 

 え、なんかとんでもない名前が聞こえた。公安局の子達が動いてくれたのはいいけど、狐坂ワカモってFOX小隊の子達が捕まえた子だ。……実は春先にシャーレで私は出会っている。彼女は先生にだけは付き従っていることを知らずに、私は挑みかかってしまい、お互い攻めあぐねた末に先生に割って入られて勝負が付かなかった。

 

 そのあとで久田さんに倒されたりしてるので、春先の頃は自信を余計に、色々と失っていた。

 

「了解した。そのままそちらは進め。あともう少しで我々もシャーレに到着する。二正面から仕掛ければ向こうも保たないはずだ」

 

『了解』

 

 まぁ、狐坂ワカモが先生の側についているのなら心配無用だ。彼女ほどの実力者であれば向こうはもう盤石だね。走りつつも周囲を見れば、ここがシャーレ前の防衛線だったのだろうけど、いたるところでスケバンの子達にカイザーPMCの人たちが袋叩きにされていた。いくらカイザーといえど、四方から生徒が殺到しちゃえばどうにもならなかったようだ。おかげで私たちはこれ以上の消耗を避けられている。

 

「カイゲンだがなんだかしらねぇがテレビ止めやがって!ドラマ見れなかっただろうがよ!」

 

「受信料払えコラッ!」

 

「ぐおっ、やめ、やめろっ」

 

 うーん。やりすぎは止めたいけど今はどうすることもできない。進むしかない。

 

 今回のシャーレ奪還作戦。本命は私たちシャーレではなく、カヤちゃんによって協力してくれる生徒のみんなだった。先生でさえも囮で、目的はカヤちゃんの放送。先生や私に届いたメッセージの中にはかなり燻っている子達もいたので、戦っている人たちがいる。圧倒している人たちがいる、ということを見せつける必要もあった。

 

 だから私は最初の攻撃は、躊躇いをなんとか捨てて、全力で戦った。あの倒してしまったPMCの人たちは心配だけど、たぶん大丈夫。そう思うことにした。

 

「脆いな。展開していたクーデター軍は本隊じゃないのかもしれんな。草鞋野」

 

 カンナちゃんの感想に私も頷く。おそらく、今回のクーデターは防衛室次長を筆頭に、七神代行を封じ込めたところに進軍。うまく隙間に捩じ込んで無血開城。その後、カイザー本体が進軍して……という感じだったんじゃないかな。

 

「うっわ。副局長、見てこれ」

 

「なんだ合歓垣。仕事中にネットサーフィンだと?相変わらず貴様は」

 

「はいはいお堅い。それよりこれ」

 

 こんな状況にも関わらず携帯を見ていたフブキちゃんがこっちに強引に携帯を見せてくる。その画面の中にあったのはある記事で、題名を見て私はやはり、となってしまった。

 

「カイザーPMC一部が暴徒化し、シャーレを占拠………切り捨てたな」

 

 カンナちゃんが読み上げる。あぁ、本当にひどい。しでかした内容はともかく、クーデターに参加した彼らは指示を受けていただろうに。

 

「いやぁ、流石だね。こりゃたまんないわ。ほんと」

 

「フブキ!こんな、こんなひどいこと」

 

「やめときなよキリノ。私らは警察官。同情なんてしちゃさ」

 

「………くっ……」

 

 フブキちゃんの言うことは私にも言っているようだった。同情なんてしてはいけないのだ。それでも、カイザーのやり方は鼻につく。あのアビドス砂漠の一件だってそうだ。こんなことを繰り返して、それでもまるで本当のタコのように足は生えてくる。

 

 いつかは、先生と一緒にカイザーと立ち向かう必要があるかもしれない

 

「中務。合歓垣の言うことは正論だ。しかし、その感覚は忘れるな。そうだろう?草鞋野」

 

「そうだ、尾刃。中務、お前の純粋さはそのまま、くすませるなよ」

 

 キリノちゃんの感じ方は大切だ。彼女のような心持ちがなければ、更生の余地がある人たちに寄り添うことはできない。

 

「ただ、これで今ここにいるPMC兵士がヤケになったら最悪だな。急ぐぞ、草鞋野」

 

「あぁ。そろそろシャーレだ。全員、意識を切り替えろ」

 

 シャーレ正面が見えてくる。車などをバリケードにして、こちらに協力する生徒達の姿が見える。攻めあぐねているようだ。よく見れば公安局の生徒も数人いる。カンナちゃんも気が付いたのか、彼女が一番に駆け出すと私たちも続いた。

 

 カイザー側は人数もそれなりにいて、戦車も何台かいる。

 

「状況!」

 

「っ!?局長!ご無事でしたか!」

 

「これは副局長の指示か」

 

「はい!公安局は現在分散して各生徒の支援をしています。ある程度は先生達のほうへ合流していますが」

 

「了解した。ここは」

 

「シャーレビルへの突入を2班ほど試みましたが抵抗が激しく」

 

 公安局の子の話を聞き車の影からシャーレ前の歩道に目を向ければ、公安局の生徒らしき子達が数名倒れていた。カンナちゃんはすごい形相になった。いや、私だってそうだし、キリノちゃんやフブキちゃんもいい顔をしない。

 

 私たちヴァルキューレの仲間がやられているのだ。そして、おそらくやったのはこの最後の抵抗しているカイザーの部隊最奥にいる大型のパワードスーツ。ゴリラのような格闘戦、パワー型なのが見てとれるそれには誰かが合体していた。

 

 見覚えがあるなぁ。あの顔を。一度捕まえようとしたからね。

 

「……あれは、オレンジパウンド自治区の騒動の時の」

 

「あなたは草鞋野副局長…!」

 

「今はシャーレ補佐官だ。あれだな、彼女達をやったのは」

 

 私が指差せば、公安局の子達は頷く。

 

「装甲も厚く、何よりパワーが違いすぎます。ライオットシールドで防げるはずもなく、吹っ飛ばされて伸びてます」

 

「格闘戦だけか?武装は他には」

 

「あのゴリラみたい腕にガトリングとミサイルを積んでますが、それだけです。基本は格闘戦のようです」

 

「了解した」

 

 見た目通りのメカゴリラのようだ。彼は元をただせば、シャーレとも因縁深いPMCの理事だ。シャーレと相対して失態を重ねてる。先生に対して、シャーレに対しての恨みは相当なもののはず。……なるほど、カイザーらしい人選で酷い話だ。

 

 おそらくはあの人が指揮官。あの人を倒せば瓦解するだろう。

 

「尾刃、中務、合歓垣。やるぞ」

 

「了解した」

 

「はい!」

 

「え、マジで」

 

 三者三様の反応を返される。フブキちゃんは本気?という顔をしつつも、ちゃんとアサルトライフルを構えている。

 

「中務、ついてこれるな?」

 

「はい。副局長とならどこまでも!」

 

 突撃するなら、私の歩法をニコちゃんの次に習得できてるキリノちゃんだ。援護は…。

 

「尾刃、お前は」

 

「露払いはしてやる。──公安局各員!私の指揮下に戻れ!」

 

「「イエス・マム!!」」

 

 カンナちゃんが局員たちに呼びかけて統制を取る。支援は彼女に任せる。あとはフブキちゃんだけど。

 

「合歓垣は尾刃の指揮下に。中務の援護を集中的に行え」

 

「了解。ま、いつも通りだね」

 

「そうだ。いつもの通り……犯人を逮捕する」

 

 今だけは、安全局の生徒のように振る舞おう。ライフルの装填を済ませる。弾はもうそう多くない。ここを切り抜けたらシャーレだから気にする必要もない。腰に付けたケースを覗く。残り8発。装填した分もいれれば9発。

 

 ライフルのトリニティの校章に触れる。ナギサちゃんも今頃、様々な対応しているのだろうか。

 

「……いくぞ、中務」

 

「はい」

 

 息を整え、私はキリノちゃんと目を合わせたあと、車の影から飛び出した。戦車は4台。2台ずつやればいい。

 

「中務、右、任せる!」

 

「はっ!」

 

 キリノちゃんが私の半分程度の速度で飛ぶ。それでも並の相手なら反応なんてできっこない。カイザーの兵士たちはキリノちゃんにまるで反応できず固まった。私も飛び、兵士の壁を飛び越える。

 

 ミカさんの戦い方を参考して、私は空中でまず一発放った。不可思議な力を乗せた一発はまるでビームみたいに光って戦車を貫く。キリノちゃんはどうしているか見れば、スモークグレネードをキューポラをこじ開けて2本投入していた。

 

「な、なんだ!?何が起きている!?」

 

 指揮官の困惑した声が聞こえてくる。

 

「総員撃て!二人を援護しろ!」

 

 そこに、カンナちゃんの指揮で公安局や、ここまでたどり着いた一般の生徒達の攻撃が始まり、これまで統制の取れていなかった攻撃がしっかりと機能してPMCの兵士たちは変化に対応しきれず次々と被弾していた。

 

 もう一台の戦車は着地して後方のエンジンに向けて一発を撃ち込めばエンジンが壊れ、機能を停止する。これで残り7発。

 

 指揮官の大きなゴリラみたいなパワードスーツを着た元PMC理事に目を向ける。彼も私を認識したようだった。

 

「……貴様は……!」

 

「久しぶりと言えばいいか。ここまでだ。ただちに武装解除しろ」

 

「ふざけるな、このまま引きさがれるものか!貴様のヘイローを破壊し、あの女も道連れにしてくれる…!」

 

 どうやら彼はもう退く気はない。いや、退けないんだろうな。こうなってしまえばもう、どうすることもできない。私にできるのは抵抗する彼を止め、無力化し、捕えることだけ。あとの裁きは然るべきところに任せる。

 

「お前達が、お前達シャーレが現れてから俺の人生は…!俺の積み上げて来たものは…!そして、部下達も!」

 

「あなたの積み上げて来たもの。あなたを慕う人たち。あなたの人生を否定するつもりはない」

 

「よくも言える!」

 

 元PMC理事が動き出す。早い。あの巨躯で加速はかなりのもの。簡単に間合いに入られ、巨腕が振るわれる。右腕が振り抜かれ、私はその腕に向かって飛び込んで回避。相手の右側面を取る。

 

 けれど、大きな腕に仕込まれたガトリングが展開し、回転するとこちらに砲身を向け、発射してくる。

 

「……くっ、流石に」

 

「舐めるな駄犬。貴様とは年季が違うのだッ」

 

 冷静ではないはずなのに、対応力がある。この最初の交差だけでわかる。あの人は強い。成して来たことが悪であっても、彼はこれまで戦って来たことがよくわかった。

 

「貴様のような小娘が正義を振り翳し、その結果がこれだ…!満足か!?」

 

「ここに来たのはあなたの意思だろう!」

 

「失敗したからはいそうですか、もういいですと辞められるものか!子供にはわかるまい!」

 

 今度はこちらから接近する。1、2、3歩と地面を蹴って一気に私の間合いに。叩きつぶすように元理事のパワードスーツの両拳が左右から迫るけれど、それを飛び越えて私は彼の頭が見えている高さまで飛ぶ。

 

「私はあなたの叫びを否定はしない。あなたにもあなたの正義があるように、私にも私の正義がある!」

 

「なら、なんだ!?」

 

「私は──」

 

 

 

 

 

「エリカさん。正義とは、なんだと思いますか?」

 

「それは、正しいことを成している人の側にあるものではないでしょうか」

 

「いいえ。正義とは、正当なる権限のもとに行使されるべき権利にしかすぎません」

 

「それはどういう……」

 

「犯罪者の成すこと。それは彼らにとっての正義です。しかし、私たちにとってはそうではありません。この世界に悪は存在しないと私は思っています。あるのは、数えきれないほどの正義だけ」

 

「ですが、事実として犯罪者はいます」

 

「えぇ。ですが、彼らも正義を主張し、あなたがそれを理解できてしまったら?」

 

「そんなこと、あるのでしょうか」

 

「いずれ、そんな状況もくるでしょう。正義は誰かの悪にもなりえる。それでもなお、私たちが正義と名乗るために、出来うる限りの恥じないプロセスを通して、我々に許される限りのことを為す」

 

「それが──」

 

 

 

 

 

「──正義とは、正当なる権限のもとに行使されるべき権利である!私は、私たちは、その権利を持っているのだから!」

 

 たとえ、どれだけ元理事が泥水を啜って、ここにいるとしても、私が彼の苦労を理解しても、銃を下げることはできない。現実として、彼らがしたことは多くの市民の生活を脅かし、先生を排除しようとした。連邦生徒会の室長までも巻き込んで。

 

「小娘が減らず口を!」

 

 発砲。しかし、なんとこの至近距離でありながら元理事は自身への直撃を避けて来た。巨大な体を上手くずらして、彼の頭の真横の装甲に弾は当たった。残り6発。

 

「公権力を投入しますっ!」

 

「中務っ!」

 

 空中にいる私を援護するために、キリノちゃんがスモークグレネードを蹴りとばして見事に元理事の顔面付近に直撃する。彼女は射撃がからっきしだけど、投擲や蹴りでの物の投入はかなり上手い。

 

「ぐふぉ!?」

 

 隙間にはまったのか元理事の顔面横でスモークが炸裂する。私は温存していたグレネードを腰から取る。ピンを抜いて即座に投げつければ、スモークの向こうで爆発し、爆風で私は吹っ飛んだ。

 

「副局長!」

 

「問題ない!中務、いいカバーだ!」

 

「えへへ。ありがとうございます」

 

 実際今のはいい援護で、助かった。キリノちゃんは明らかに成長してる。

 

「ガキがァッ!」

 

 爆煙を振り払い、スモークグレネードも外し、元理事がこちらに大きな腕2本を振り下ろす。私とキリノちゃんは回避し、大きな拳が舗装を粉々にする。あんなの直撃受けたら無事じゃすまない。倒れている公安局の子達は大丈夫なのか。

 

「許さん!許さんぞ!どこまでコケにして、貴様!」

 

 ガコガコと音を立て、元理事のパワードスーツの腕に付いたミサイルサイロが開く。遅い。発射のために足を止めた。装填。気合いを込めて、射撃。開いた穴の中、顔を覗かせていた弾頭に直撃。

 

「ぐおおおおおっ!?」

 

 左腕部は前腕から大爆発を起こし、元理事のパワードスーツは左腕を失った。これで残り5発。

 

「は、はやっ……今の見えた?カンナ局長」

 

「いや……流石に今のは見えなかった。また早くなっている」

 

 早撃ちは本当に早くなった。おかげでこんな芸当ができた。あのミサイルを撃たれては後方の子達も被害が出てしまうから撃たせるわけにはいかない。

 

「ぐ、ぅ…!このまま終われるものか…!」

 

 まだやるつもりなのか。私は構えたけど、元理事はパワードスーツを機能停止させて、固定を解除すると降りて来た。本人もかなりガタイがよくて、2mぐらいはある。元理事の右手にあるのはガトリング。パワードスーツに付いていたものではなく、ヘリなどに搭載するような大きなもの。

 

「せめて貴様だけでも、小娘!」

 

「………え」

 

「ぐぅ、おおおおおおおおおっ!」

 

 待った。今彼は何を手に持って、それを飲んだ?かすかに漂う金木犀の香り。そんな薬、私は一つしか知らない。彼が持っていた小瓶は地面に叩きつけられ粉々になる。私の鼻が感じた匂いは”黄金の一滴”とはまた違う匂いだ。同じ金木犀だけど、何かが混ざっている。

 

「ふっ、ふはははっ、これで、終わりだ。お前は、勝てない」

 

「何を飲んだ…!?それはなんだ…!」

 

「”ラストドロップ”。これがあれば──」

 

 次の瞬間には元理事が立っていた場所は舗装がえぐれ、私の顔面の前にはガトリングの砲口が見えた。

 

「貴様は終わりだ。小娘」

 

「────ッ!!?」

 

 回避できたのは奇跡だった。なんとか顔を大きく傾けて、けたたましい射撃音は私の鼓膜を直撃。右側の耳の音が遠くなる。髪の毛も弾丸に少し巻き込まれた。キリノちゃんも咄嗟に引いて、私もステップで離れようとするが、私は左腕を掴まれていた。

 

「いつの、間に」

 

「私は終わりだ。貴様らのおかげでな。だからお前も道連れだ。なに、すぐにあの女も送ってやる」

 

「先生をやらせるわけには…!」

 

「黙れ」

 

 腕が一瞬、ちぎれたのかと思うほどの強烈な勢いで私は地面に叩きつけられた。ぶちぶちと嫌な音と、激痛が走ったのは間違いないので、千切れてはいないだけで、もう左腕は動かない。

 

 それでも右手は動く。装填していた弾丸を元理事の腹部に打ち込めば、流石に彼もひるんだのか腕は離された。

 

 なんとか地面を蹴って距離を離す。左腕は動かない。だらんとしたままだ。手は動く。激痛があるけど、アドレナリンが出ているのか気絶するほどじゃない。弾は残り4発。

 

「エリカ!」

 

「来るな!こいつは普通じゃない!中務も下がれ!」

 

 カンナちゃんが飛び出そうとしている。キリノちゃんも危険だ。元理事はおそらく、黄金の一滴……その改造版を飲んだのは間違いない。誰だ。誰があんなものを!

 

「どこでその薬を……!」

 

「言うと思うのか?今度こそ終わりだ!貴様らは!」

 

 片腕が使えない以上装填はもうできない。なんとかしないと。あと、あの匂い。金木犀に混ざっていた匂いはどこかで嗅いだことがある。どこで、どこで…!

 

 元理事が今度は走りながらガトリングを撃ってくる。反動なんて無視して、こんな動きながら撃たれれば私だって避けきれない。数発もらいながらなんとかみんなの方から外れるように動く。

 

 薬を使っても動きに精彩さがある。おそらく元理事は薬に適合する体質だったんだ。最悪だ。

 

「ははははっ!無様だな!」

 

 どうする。この状況では。今もカンナちゃんやフブキちゃん。それに他の生徒達も私の援護と元理事に集中砲火をし始めたけど、まるで効いていない。痛覚の欠落も黄金の一滴の特徴だ。一体誰がまたあんなものを。

 

「フンッ。逃げるだけか。ならば……」

 

 しまった…!元理事がキリノちゃんに向いた。

 

「中務っ!逃げろ!」

 

「遅い!」

 

「キリノ!」

 

「中務を援護しろ!」

 

 あぁっ!キリノちゃんが…!ダメ!やめてっ!その子は、私のっ!大切な、後輩!

 

「その子に、手を出すなっ!」

 

 自分でも、何がどうしたのかわからなかった。でも、私は次の瞬間には元理事とキリノちゃんの間に立っていた。元理事が左腕で殴ろうとしていたところでピタリと止まり、冷や汗をかいているように見えた。

 

「………なん、だと」

 

 元理事が飛び退いて下がる。よかった、キリノちゃんは、無事だ。

 

「ふく、きょくちょう?」

 

「キリノちゃん、大丈夫?」

 

「わ、私は、なんとも。ですが、今、副局長は」

 

 何故か、キリノちゃんも私から半歩引いていた。私はどうやら、自分でも自覚できない何かをしてしまったらしい。

 

「瞬間移動だと…!?スピードがあるというわけでもない…!草鞋野エリカ…!貴様一体」

 

 元理事が言葉の途中で何かに縫い付けられたかのように固まった。

 

「ぐぅ!?体が動かん…!?なんだ、なにが起きている!?」

 

 ギシギシと音を立てながら、元理事がもがいていた。

 

「苦労しましたよ。あなたが引っ掛かるまで」

 

 元理事の近くに倒れていた公安局員の一人がすくっと立ち上がった。その声に、私は聞き覚えがあった。彼女は被っていた帽子を脱ぎ去る。現れたのは真っ白な透き通った髪と、同じ毛色の耳。立ち姿はまるで自分が芸術品だと自覚しているかのように綺麗だった。

 

「な、なんだ、お前は」

 

「視認が難しい、超極細高分子ロープ。エリカさんに巻き付かなくてよかったです」

 

 間違いない、彼女は清澄さんだ。

 

「お、お前は誰だ!?」

 

「ふふっ。誰でしょう?もっとも、私の名前は別に、ただ一人に認識されていれば別に問題はないのです」

 

 彼女は私の方へと歩み寄ってくる。

 

「エリカさん」

 

「清澄、さん」

 

「……その腕は」

 

「えっと、やられちゃって、動かないんだ」

 

「お手伝いします」

 

 彼女は私の代わりに弾丸をライフルに込めてくれた。よし、これなら。

 

「ぐぎっ、この程度の糸など」

 

「呆れた膂力です」

 

 本当だよ。糸が切れる音が見えないけど確かにする。私はライフルの銃口を向けた。ものすごく、感覚が研ぎ澄まされている気がする。銃口が片手でもブレずに、今なら何をどんなことをしても当てられる気がする。

 

「草鞋野エリカァッ!貴様らシャーレを潰すまで、私は」

 

「あんたも大概しつこいね」

 

 元理事の後ろ、そこから先生の声が聞こえた。いつの間に。

 

 先生が元理事の後ろに立っている。ミヤコちゃんたちの姿も見えるけど、静止しようとしていたのが目に見えた。

 

「き、さ、まァ!殺す!殺す!お前だけは絶対に!」

 

「ならその前に一つだけ教えてよ」

 

 完全な挑発…!先生、何をっ!?

 

「なんだと、貴様どこまで馬鹿にして──!」

 

「私の大切な生徒に何してくれたんだオッサン」

 

「死ねぇぇぇぇっ!」

 

 糸を引きちぎり、先生に危害を加えようとした元理事が腕を振り上げる。私の視界はまるで時間が引き延ばされたかのようにゆっくりと動いた。息を吸い、吐く。体の中から湧き出る力が認識されて、腕から手に流れ、ライフルへと注ぎ込まれていった。

 

 トリガーを引く。弾丸はまるでミカさんが本気になった時のように輝いていた。吸い込まれるように弾丸は元理事の後頭部に当たった。彼の動きは、止まった。

 

 元理事はそのまま、先生の真横にぐらりと倒れた。

 

「なぜ、だ。なぜ、貴様らに、私は……勝て……ない……」

 

「……さぁね。ただ少なくとも、あんたはここで負けたことでそれを考える時間はできたよ」

 

「そんなもの、ありは、しない……」

 

 周囲の戦闘が止まっていく。本当に、彼がクーデター軍最後の拠り所だったのかもしれない。私は激痛が走る左肩を無視して、倒れた元理事とその横に立つ先生の方へと歩いていく。シャーレの生徒、そして、SRTの生徒会長として私にはまだ元理事に対してしなくてはならないことがある。

 

 私が近づけば、他のSRTの子たちも駆け寄ってくる。ニコちゃんとミヤコちゃんに目配せすれば、彼女たちは拘束用のロープを取り出した。

 

「エリちゃん。君、腕は」

 

「それは、あとで」

 

 先生が心配そうに声をかけてくれたけど、私は元理事に目を向ける。元理事は抵抗する気はないのか、それとも気絶したのか、静かだった。

 

「………SRTです。あなたを公務執行妨害の容疑で拘束します。RABBIT1、FOX2」

 

「「了解」」

 

「FOX1、他SRT総員はただちにシャーレ内部に班を編成し制圧しろ。先行して飛鳥馬さんたちが潜入している。合流し、七神代行を救出せよ」

 

『FOX1、了解。隊を再編成する。RABBIT1、FOX2はその場で首謀者の拘束。FOX3は先生の直庵に残れ。他は一度指揮車に集結』

 

「指揮はFOX1、七度に任せる」

 

『了解』

 

 これでひとまず、私は動かなくていい。一旦、手当をしないと……そのはずなのに、どうしてか徐々に痛みが引き始めている。麻痺しているわけではないと思うけど。

 

 なんにせよ、クーデター軍はこれで敗走した。幸いなことに私たちの作戦の成功によって彼らは逃げ出すことができなかった。なので、即座にカイザーに引き渡すことにはならない。

 

 少しでも、いい方向に転がってくれるといいけど。このまま彼らが消されてしまうなんて、あんまりだ。

 

「エリカ!無事か!」

 

「カンナちゃん」

 

 戦闘が終結したことで、カンナちゃんが駆け寄ってくる。他のみんなも。キリノちゃんだけが、どうしてか戸惑ったままだ。

 

「私は大丈夫。腕は……たぶん放っておけば治るよ」

 

「馬鹿か!あんな勢いでやられたら腕が千切れてもおかしくない!すぐに医者に診てもらえ!」

 

「いやほんと大丈夫」

 

「「先輩」」

 

 今ここを離れるわけにはいかないので断ろうとしたらミヤコちゃんとニコちゃんから声と一緒に睨まれた。うぐっ。まぁ、うん…ダメっすね、やっぱり。

 

「エリちゃん。左腕が動かないの?」

 

「いえ、今は……うぎゃっ!ぐっ、い、いたいけど、なんとか」

 

「どう考えても死ぬほど痛い時の悲鳴だけど…?」

 

 先生からも言われてもうこれはダメだ。実際、どういうわけか動くようになったけど、痛いものは痛い。しょうがないので、軽く診てもらうぐらいはしないと。そういえばさっきまでいた清澄さんの姿が見えない。

 

 あのままいたらまずいから姿を消したかな。彼女がいなければ私はあのままジリジリと追い詰められていただけに、感謝している。もしどこかでまた会えたら、お礼は言わないと。

 

「……すいません。一度診てもらいます」

 

「先生。このバカは一度連れて行きます。警察病院なら最優先で診てもらえると思うので」

 

「頼むねカンナ。エリちゃん、わかってると思うけど」

 

「うっ。わかってます。病院から逃げたりはしな──ぇ?」

 

「エリちゃん」

 

 悪寒がした。怪我をしたからではなく、もっと、心の奥から震えるような、ゾッとするような感覚。その感覚がしたのは空から。

 

「………なによ、あれ」

 

 クルミちゃんが私の視線に釣られて空を見た。

 

 青い空。快晴のはずのそこに、禍々しい、赤いシミが生まれて、急速に広がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 中務キリノは自身が敬愛以上の感情を抱いている先輩が起こした現象に理解ができず、混乱していた。

 

 多くの生徒はカイザーPMC元理事の影になって見えていなかったが、キリノは見てしまった。稲妻を迸らせながら、キリノの目の前にテレポートし、その僅かな瞬間、蒼い髪色の裏地が金色に染まり、一瞬、見たことがない何か、白いドレスのようなものを着た姿と被ったことを。

 

「(副局長は、一体)」

 

 それはこの世界にたどり着いてしまった”色彩”が引き起こした凶兆だった。

 

 




次回はまた未定になります。よろしくお願いします。

原作だとヘリごと吹っ飛ばされてしまった理事をちゃんと大ボスにしたかった……。

次回から虚妄のサンクトゥム編になります。

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