頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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石がないですが……?となっていますが楽しみですね夏イベ。


Area-16「シャーレビル大会議室 #作戦会議 #交流 #真実」

 大会議室での作戦会議、まずは現状のすり合わせや各地の被害状況などの共有から始まって、先生やミレニアム、そして百合園さんの予言とも絡めて判明した敵、“色彩”の存在。その色彩によって生み出された塔、虚妄のサンクトゥムの正体も判明。

 

 その虚妄のサンクトゥムから発せられている怪電波によって生徒たちが狂っていく可能性があることなど、私のあまりよろしくない頭では処理しきれない内容が多かった。ただ、簡潔に言えば虚妄のサンクトゥムを破壊すればいいというシンプルな対策で済むし、塔自体ではなく、そこから生み出される守護者を倒せばいいらしい。

 

 これからすべきことは実にわかりやすい、敵を倒せばいいというわかりやすいものだった。

 

 また、敵には首魁となる存在もいることから、アビドスから告げられたシロコさんの失踪と、先生から明かされたシロコさんが色彩に取り込まれ敵側に囚われている可能性も明かされた。

 

 脅威の排除と人質の解放、加えて世界そのものの危機となればSRTは堂々と活動できるので、引き続き力添えできそうだ。

 

 話はそこまでならなんとかなりそう、だなんて思っていたけど、

 

「──つまり、このまま時間をかけると滅亡するということですか?」

 

『えぇ、今日の深夜0時を境として約72時間後にね』

 

 虚妄のサンクトゥムが蓄積していっている不明エネルギーの臨界点を天雨さんが問いかけ、調月会長がエンジニア部の解析データを開示したところで会議室内の空気は再び重いものとなった。

 

『いやぁ〜三日ですか。準備も考えればほぼ一日しかなくないですか、残された時間』

 

 百鬼夜行の生徒会組織の陰陽部、天地ニヤ部長の言うことは事実だ。ここまでの作戦会議の中で、虚妄のサンクトゥムを構成する守護者の数は1つでないことが説明されてる。今現在各自地区から物資はかき集めている状況だけど、戦闘員だって揃えられるかどうか。

 

『しかし、やらねば世界は滅ぶのじゃ。座して死を待つか?百鬼夜行の』

 

『いやいや門主さん。このデータ?を見れば色彩が使ってる敵、無茶苦茶じゃないですか。並の生徒じゃどうにもならないですよ〜』

 

 私は手の中にある携帯の画面を見る。配られた作戦会議の資料に載っている色彩の軍勢の構成は1日で一気に相手にするものじゃない。確認できただけでも、デカグラマトン三体、私が以前遊園地で戦った着ぐるみのミメシス、先生がエデン条約事件で遭遇したヒエロニムスという怪物に加えて、アンノウンがあと2体いる。

 

「天地部長。議論の余地はないかと思います。私たちにできることは全力を以てこれらを打倒することです」

 

 会議中、ほとんど頷くか黙っていたナギサちゃんがここで初めて発言した。ナギサちゃんに同調したのはアヤネちゃんだ。

 

「桐藤会長のおっしゃる通りかと!それに、過去のデータを見れば全て撃退に成功している敵ばかりです!一度できたことをもう一度やればいいんです!」

 

 立ち上がって鼓舞をするアヤネちゃんは向こうみずにも見えるかもだけど、決してそんなことはない。色彩によって模倣されたデカグラマトンはビナー、ホド、ケセドだけれど、ホドに関しては私の目の前で深手を負わせている。

 

 相手が逃げないのであれば、今度は確実に倒せるはずだ。

 

「簡単に言いますが、では誰をどのように当たらせるのですか」

 

「言い方が棘あるけど、天雨さんの言う通りね。こんな状況…言い過ぎかもしれないけど、文字通りの決死隊になるわよ」

 

 でも、鼓舞され勢いだけでどうにかなる相手ではないのも事実で、場を落ち着かせるかのように発言した天雨さんと早瀬さんの言葉もよく響く。各校の生徒会長たちも、それぞれが難しい顔をしていた。

 

 私はいけと言われれば躊躇せずに志願するけれど、それはあくまで私の話だ。

 

 先生はどうするのだろうか。私が目を向けると、先生は口を開いていた。

 

「みんな、まず一つだけ言うと、私は無理強いをしないよ。正直なことを言えば、今回の事件はこれまでとは話のレベルが違う。比喩抜きに本当に世界が吹っ飛ぶからね」

 

 黙って先生の言葉を私たちは聞く。先生の声はどこまでも穏やかで、今この瞬間逃げ出しても絶対に責めない、そんな感じさえある。

 

「集めといて言うのもよくないんだけどさ、今回の色彩の襲来はまぁ、とある大人のやらかしの尻拭いなんだよ。だから、最悪私がどうにかしようとは思ってるんだ」

 

 無茶だ。先生一人でなんとかできるはずがない。弾丸一発にも耐えられない先生が。

 

「…先生。それは違うと思いますよ」

 

 そんな無茶だけど、覆す事はできない覚悟を感じられた言葉に異を唱えたのはカヤちゃんだった。カヤちゃんは防衛室を追われたも同然で、今はほとんどなんの権限もない。それでも彼女は先生のいない間、ヴァルキューレなどを通して一般生徒や市民の退避を可能な限り指示していた。

 

 不屈、そんな強い意志を今のカヤちゃんからは感じる。先生にも負けないぐらい、強い芯があるように見える。

 

「カヤ?」

 

「私は防衛室長…と、もう言えるかは微妙な立場ですが、それでもこの、不知火カヤに課された役目はこのキヴォトスの安全保障を脅かすものに対して立ち向かう事です。ですから私は今、ここにいるのです」

 

 胸を張って堂々と言ってみせるカヤちゃんに私は目尻が熱くなる。あぁこの、真っ直ぐな、この姿は──先輩にどこか、似ている。

 

「あまり私たち生徒を舐めないでください。そこで物申したそうにしているあなたも、私と同じ気持ちではないのですか?」

 

 薄く瞳を開いてカヤちゃんが視線を向けた先には、いつの間にか調月会長を押し退けて美甘さんがモニターに写っていた。

 

『オイオイ先生、そこのアホ犬の癖が映ったか?らしくないこと言うんじゃないよ』

 

 公衆の面前でアホ犬呼ばわりはないでしょ!?と言おうにも反論できないのが悔しい。そう、らしくないのだ、先生が。いつもなら気楽に、私たちに気負わせることがないはずの先生が。

 

 あぁ、そうだ。先生だって、大人である前に──私たちの延長線にいる、一人のヒトなんだ。先生にも恐れる心はあるんだ。

 

「…………あのお子さまはどちらの子かしら……?」

 

 ハルナが横で怖い顔をしていたけど美甘さんはスルーしていた。ミカさんはくすくすしている。やめて、なんかナギサちゃんも表情が微笑で固定されてるからさ。

 

『もう答えなんてとっくに全員決まってんだろ。だからアタシらはここにいる。なぁ、そこのイカしたヒゲのやつ』

 

 美甘さんが声をかけたのはチェリノちゃんだった。

 

『当然だ!カムラッド、おいらたちは負けないぞ!なんたってカムラッドがいてくれるんだからな!』

 

「先生、ご采配を。私たちは決して、先生のお願いだけでここにいるわけではありません。みんなそれぞれ、守りたいものがあるからここにいるのです。世界を守りたいとか、そういう大層な理由なんて私たち子供にありません」

 

 ナギサちゃんが静かに立ち上がり、胸に手を当てて、詠うように先生へと言葉を紡いでいく。不思議と、ほとんどの生徒がナギサちゃんの言葉に口を挟まない。慎重派の天雨さんや早瀬さんでさえも、聞き入っていた。

 

「……わぉ、ナギちゃんカリスマ全開……」

 

 本当に小さな声で呟いたミカさんの言葉は私には聞こえた。そうだね、言う通り、ナギサちゃんの凛とした姿に見惚れる。

 

「私たちはただ明日も続く日常を守りたいのです。隣にいる誰かと、大切な誰かと、なんてことはない、この学園都市の日常という小さな奇跡(ブルーアーカイブ)を──私たちは、続けていきたいのです」

 

 まるで演説のようなナギサちゃんの言葉は先生だけでなく、この場にいる私たち全員に届いたと思う。…うん、そうだね、ナギサちゃん。私も、世界を守りたいとか、そんな大義があって戦うわけじゃない。

 

「ははっ……ごめん、そんなつもりじゃなかったけど、そうだよね。みんなもそうしたいからここに来てくれた」

 

 先生は泣きそうな、けれども、いつもの軽い笑顔を見せてくれた。

 

「らしくないとこ見せちゃったねぇ。そうそう、私もさ、明後日からソシャゲのイベントあるんだよ。それができなくなるのは困るな〜って思ってたところなんだ。あとは予定だと、百鬼夜行の百夜堂で新作メニュー食べに行こうと思っててさぁ」

 

 室内に笑い声や、先生の浪費癖を叱る早瀬さんの声などが響いた。先生、支援要請が途切れた時はちゃんと趣味の時間も作ってるんだよね。このあたりは、先生が大人として時間のやりくり上手だなって思ってる。

 

「ナギサの言う通りだね。私が守りたいのはそういう日常と、みんなが普段通りに過ごしてくれる姿なんだ。それをみんなが守りたいのなら、私が全部背負い込むなんてのは間違いもいいとこ。……かっこ悪いとこ見せちゃったけど、みんな、一緒に戦ってくれる?」

 

 私たち生徒の返事は、大きく重なった。

 

 

 

 

 

 

 

「で、実際のところどうするんですか?こんな相手に充てる戦力、部隊、素早く最適に組めるんですか?」

 

 みんなの意思が統一されたところで第一声は天雨さんの現実に引き戻す確認だった。彼女の言うとおりで、私たちはこれからたった一日強でキヴォトス内に現れた複数の強敵を倒す必要がある。

 

 1体だけならまだしも、複数だから、戦力をかき集めないと。

 

『ここは先生に託すべきね。先生は全校の生徒のデータをシャーレの特権で閲覧できるはずよ。それに、データ以上の知見から最適な編成を直感的に考えられるんじゃないかしら』

 

 調月会長の提案に、みんなが再び一斉に先生へと目を向ける。

 

「え、シャーレってそこまでの権限あるんですか!?」

 

『いやはぁ〜、そこまでとは思いませんでしたよ〜。これは我々乙女の秘密も知られ放題って感じですかねぇ』

 

『カムラッドなら悪用しないと思うぞ!』

 

 天雨さんの反応はわかるし、天地部長の言葉も理解できる。それでも信じてくれてるチェリノちゃんがまぶしい。先生は苦笑いするしかないようだった。ここで私に視線が飛ばないのはちょっと驚いた。

 

「流石に無闇には見れないようにしてるよ。プライバシーは大切だからね」

 

「むしろシャーレのプライバシーを大切にしてほしいよね!ね、先生、エリカちゃん」

 

 ミカさんの無邪気な声音の釘差しに会議室は一瞬静まり返った。そこは私も同意しかないので笑顔になるしかなかった。

 

「……コホン。先生の各校生徒のデータアクセス権は連邦生徒会長、又は代理に申請を行って閲覧可能になっています。誤解ないようにお願いします」

 

 七神代行が補足してくれて、先生は「ありがと〜」とお礼を述べた。

 

『ならば今こそ、その権限を使うべきじゃろう。妾らで議論をしては夜も明けよう。ここで必要なのは迅速さと、異を挟ませぬ決断じゃ』

 

『私も竜華会長に同意するよ。私たちは異なる学校、異なる信念、異なる視点を持っている。それは時として美徳だが今は──』

 

「セイアちゃんの話は長いから聞かなくていいよ★ナギちゃん、よろしく」

 

『ミカ、君はこういう場でなんて態度を』

 

「お二人とも、おやめなさい。トリニティとしても山海経門主の言葉を支持します」

 

 ナギサちゃんの毅然とした決断に見惚れそうになる。顔をぶんぶん横に振っておいた。

 

 雑念、雑念、ダメダメ。

 

「トリニティ、ミレニアムだけじゃなくて山海経とも…?これは」

 

「アコ。どうでもいいでしょ、そんなこと」

 

「カヨコさん、あのですね、私はゲヘナの風紀委員として」

 

「先生。ゲヘナは気にしないよ。統制なんてないからね。先生の方が言うこと聞くよみんな」

 

『自由ね。みんな自立しているのね』

 

 天雨さんと鬼方さんの話を受けての調月会長の発言があまりにズレていて、なんとも言えない感じになってしまった。

 

『リオ、それ以上必要なこと以外は話さないでください』

 

『アタシも同感だ。ウチの品位が疑われる』

 

 画面外から「あとで外交のおべんきょうもしましょうね〜」と母性溢れる室笠さんの声まで聞こえてもはや格とかそういうものは吹き飛んでしまっているのではないだろうか。天地部長は微妙な顔をしてるし、竜華会長はそっぽを向いていた。

 

『いやぁ〜、こんな状況じゃなければ皆さんともう少し親睦を深めたいですにゃ〜』

 

『全くだ!そうだ、全部片付いたらレッドウィンターに来ていいぞ!』

 

「レッドウィンターってここ最近ずっと吹雪いてなかった…?」

 

 早瀬さん、チェリノちゃんへの指摘は自殺行為だよ!?

 

『むっ。確かにそうだが、弱まった時は雪合戦もできるぞ!』

 

 それはいつもなんじゃ、と思ったけど、胸を張って言うチェリノちゃんに、何故か否定的な発言をしていたはずの早瀬さんが突然首を縦に降り出した。え、なんで。

 

「それもそうね」

 

『そうだろう!なかなか話がわかるやつみたいだな!えーっと』

 

「早瀬ユウカです」

 

『ユウカか!そうか、カムラッドからよく話は聞いているぞ!来てくれたら歓迎するぞ!盛大にな!』

 

「皆さん、話が脱線してきています」

 

 ぱんぱん、と手を叩いて軌道修正をしてくれたのはカヤちゃんだった。うん、確かに脱線してしまった。でも、おかげで場の空気はだいぶ明るくなった。

 

「さて、じゃあ悪いけどみんな、私の独断と偏見で攻略メンバーを決めるよ。それと、各校の生徒会長のみんなにお願いをするけど、メンバー選出後はただちに移動を開始させて。必要な機材、物資の引き渡しは学校間のしがらみなく、速やかに行うこと」

 

 ここまでの権限の行使は初めてだと思う。先生にも僅かに緊張の色が見えるし、私も自分が言っているわけではないけど同じく緊張する。ミカさんは……ミカさんも真剣な表情になっていた。

 

「ミレニアム……リオ、色彩の出現させた敵の状態はそっちで今モニターしてるんだよね」

 

『えぇ。現在確認されている虚妄のサンクトゥムの守護者は──』

 

 会議冒頭でも話されていたけど、改めて調月会長から虚妄のサンクトゥムの守護者が解説される。

 

 アビドス砂漠の第一サンクトゥムには、デカグラマトン・ビナー。

 

 ミレニアム郊外の閉鎖地域“廃墟”の第二サンクトゥムは、デカグラマトン・ケセド。

 

 第三サンクトゥムは、またしてもミレニアム内の廃業した遊園地スランピアの一つ、“スランピア・ミレニアム”の中で蠢く、着ぐるみのミメシス、シロとクロ。

 

 トリニティ内に落ちた第四サンクトゥム、エデン条約事件で破壊された古聖堂地下のカタコンベ内では、ヒエロニムス。

 

 第五サンクトゥムは三度のミレニアム、エリドゥに現在進行中のデカグラマトン・ホド。

 

 第六と思われるD.U.シラトリ地区の守護者は現在未確認。

 

 そして最後の第七サンクトゥムは、D.U.の放棄区画で、詳細がわからないとのことだった。

 

「というかミレニアム多くないですか?何かあるのですか、そこに」

 

『ゲヘナの天雨さんだったかしら?そうね。今私のいるエリドゥには色彩への切り札になり得るものがあるわ』

 

「…………例の鑑ですか」

 

 ウトナ、なんだっけ?クーデター前にナギサちゃんと見た宇宙戦艦。あれが切り札?

 

『仔細は聞かぬぞ、調月、桐藤。時間がないからの。ただ、敵がミレニアムにそこまで戦力を割いたと見るに、戦力はミレニアムに割いた方が良さそうに見える。先生、どうじゃ?』

 

「キサキの言う通りかもねぇ。私もその方がいいかなと思ってるんだけど」

 

『待ってください、先生。リオ、肝心のデータを見せずにどうするのですか』

 

 明らかにミレニアムが狙われているという状況で、竜華会長の確認に先生が答えようとしたところで明星さんが割り込んできた。彼女はモニターに何かのゲージを表示する。それは虚妄のサンクトゥムと同じ数だけあって、最も長く伸びているゲージは2つあった。

 

『先生、それに皆さん。現在確認されている七柱の虚妄のサンクトゥムそれぞれの持つエネルギーを可視化すると、D.U.の2つが圧倒的な高さです。特にシラトリ地区のものが顕現させる存在が何になるかは検討もつきません』

 

「なるほど。明星さんのおっしゃる通りであるのならば、ミレニアムへの侵攻は陽動の可能性もあるということですね?」

 

『桐藤さんの読みは当たっているかもしれませんし、単純に相手が2正面作戦を取っているだけかもしれません』

 

「ありがとう、ヒマリ。その2つは守護者が顕現してないんだよね?」

 

『シラトリ地区のものは間違いなく。ただ、もう一つの第七は不明です。観測エネルギー値は高いのに、位置反応が微弱で、どこにあるのか。閉鎖区画にあるのはわかるのですが』

 

 D.U.の閉鎖区画。前にミカさんと一緒にアリウスの不可思議な通路への突入のために入った場所だ。巨大なD.U.には子ウサギタウンのような再開発をしようとして頓挫し、そのまま放置された区画もある。

 

 でも、あの画面に映る、前にも行った区画は……ちょっと事情が違うのだ。あのときは緊急時だから気にせず入ったけど。

 

「わかった。……よし、ちょっと時間がほしい。すぐに編成を組むから。それまでみんなは待機──」

 

「先生」

 

 嫌な予感がする。だから私は、思わず先生を呼び止めた。みんなの視線が一斉にこちらへ向く。ちょっとビクッとしたけど、我慢する。

 

「エリちゃん?どったの」

 

「第七サンクトゥムについては私が探索に志願します」

 

「急にどうしたのさ」

 

「あの閉鎖区画は少々特殊なんです。この前は緊急時なのでミカさんと入りましたけど、本来は一般生徒の立ち入りが禁止されています」

 

「どういう………あっ」

 

 先生は気がついたらしい。先生は、いつの間にか、あの事件の顛末を知っているようだから。竜華会長の目つきが鋭くなる。七神代行は眼鏡を一度外していた。

 

「エリカちゃん、この前行った廃墟だよね?あそこ何かあるの?」

 

 あるよ。

 

「何も。でも、嫌な予感がするの、ミカさん。先生、お願いします」

 

 頭を下げてお願いすると、先生は少し間を置いてから「わかった」と返してくれた。

 

「ただし、他の探索メンバーは私が選ぶからね」

 

『先生!お待ちください!会長が志願されたのであれば我々も!』

 

『そうです!』

 

「FOX2、RABBIT1!慎め!」

 

『ッ……申し訳ありません!』

 

「先生。失礼しました。メンバーの選定は先生にお任せします。すいません、我儘を聞いて頂き」

 

「そんなことないさ。どっちにしろ、正体が不明な相手で、何が出てくるのかわからないならシャーレ、エリちゃんにもお願いしてたからさ」

 

 出過ぎた真似だったかもしれない。それでも、先生に許可をもらえたのならよかった。

 

 できれば、本当は一人で行きたかったけど。

 

「じゃあ一旦会議は終わりにしよう、いいねリンちゃん」

 

「この会議は先生が参集をかけたのですから、先生が解散を決めてください。あとちゃん付けはやめてください」

 

「ごめんごめん。それもそっか。私のメンバー選定まではみんな休んでね。ただその前にアビドスの子達とセイア、ニヤ、君はちょっと残って。シロコのことで相談したいことがある」

 

『いいですよぉ。お力になれるかはわかりませんが』

 

『わかったよ、先生。ハナコ、ここを頼むよ』

 

 会議は一気に解散ムードとなって、みんな席を立ち始める。ナギサちゃんも立って、こちらに歩いてきた。

 

「エリカさん、よくぞご無事で」

 

「私は大丈夫。みんなが助けてくれたから」

 

 ハルナに目を向ければ彼女は少しだけ胸を張っていた。ナギサちゃんが素直にハルナに軽く頭を下げる。

 

「あら、ナギサさん。こんな場でわたくしに頭を下げるのはよくないのではなくて?」

 

「今の私はトリニティの代表としてここに来ていますが、実際の権限はほぼ渡しています。個人的なお手伝いとしてここに来ているも同然なのです」

 

「………トリニティにしては柔軟ですわね」

 

「私も驚いています。けれども、そのことを嬉しく思います。変化は決して、恐れるものではありませんから」

 

「同感ですわ。改めて、こうしてお会いできて嬉しいですわ」

 

「はい、ハルナさん」

 

 やっぱりこの二人が話すとなんだか二人の周りだけ高貴な感じがびんびんでなんとも居づらい。ミカさんもお嬢様だから気にしないと思ってたらなんか面倒くさそうな顔をしていた。

 

「それでこれからどうするの?先生の指示を待つみたいだけど」

 

 ミカさんが気分を切り替えたいのか、私に問いかける。どうするも何も、今できることは待つことだけ。

 

「装備の整備ぐらいはしておこう。あと取れるなら軽食とかもね」

 

「確かにー、お腹減ってきたかも」

 

 お腹をさするミカさん。私も空腹を感じ始めていたので、何か食べておかないと。

 

 

 

 

 

 

 

「副部長、落ち着かない様子ですが、どうかしましたか」

 

「別に私はなんともないよ。寝れてないから疲れてるだけ」

 

「……わかりやすい嘘ですね」

 

 ミレニアム、ヴェリタスの部室では虚妄のサンクトゥムに関係するデータの解析が引き続き行われていたが、部室内にいるのはチヒロとコタマだけだった。ハレは休憩のため一度仮眠室に入り、マキは虚妄のサンクトゥム攻略に駆り出されていた。

 

 コタマは落ち着きがない様子のチヒロに椅子を寄せて、らしくもない姿を指摘していた。

 

「何がわかりやすい嘘なの」

 

「草鞋野さん、例の放棄区画に行かれるそうですね」

 

「……先生が決めたことで、それがどうかしたの」

 

「副部長──あぁ、今は同級生として話しましょうか、チヒロ」

 

 コタマがメガネを外し、雑に置かれていたメガネ用のクロスでレンズを拭く。何年振りかにコタマから名前を呼ばれたチヒロは、やけにおしゃべりなコタマに身構える。コタマの口数はそう多くない。

 

 その彼女がこうして話しかけていることに、チヒロは遅れてようやく自身が冷静でないことを自覚した。

 

「あなたは、本当はどこまで知っているんですか?あの事件のこと」

 

 チヒロは口を開かず、天井を見上げた。チヒロのメガネには薄暗い部屋で明滅するモニターの光が映り込み、その視線を覆い隠す。コタマは急かすこともなく、眼鏡をかけなおし、飲みかけだったエナジードリンクを飲み干す。

 

「…………ヒマリは、私があの事件のことを調べていたと思ってるみたいだけど、違う」

 

「どういうことです?」

 

「私がしたのは、一切の記録の消去。ネット上でのデータ、物理データの破壊。全部、エリカの目につくもの全てから──絵庭サロネの情報を可能な限り消した」

 

「……あの頃、ヘイローが生徒の手によって壊されたという話はアングラで大きな話題になっていましたが、不自然なぐらいに情報がありませんでした。副部長だったんですね」

 

「エリカは、たぶん本当のことを知らない」

 

「はい?」

 

 チヒロは深く仕舞っていた記憶を呼び起こす。通信が途絶し、エリカの後を追って降りた花屋の地下。そこで広がっていた光景を。

 

 

 

 

 

 ──部屋の中央、血の池の中で、まるで胸部が貫かれたかのように破れた服を着たエリカが、弾切れをした銃を、まるで樹木のような何かに包まれた肉塊に、引き金を引き続けていた光景を。

 

 




お読みいただきありがとうございました。ここすき、感想いつもありがとうございます。大変励みになっていますのでいただけると嬉しいです。

本作では虚妄のサンクトゥム戦の期間は短めです(レイドはゲーム的な部分かなと)。
第七サンクトゥムは実際には顕現しなかったやつですが本作では出現位置とかを変えて登場です。
チェリノちゃんも割とユウカのストライクゾーンに入っているのではと思います。

次回は明後日、24日火曜日22時投下となります。少しお待ち頂けると幸いです。
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