明星さんの命名した堕落の悪夢、かつて私が戦った絵庭先輩の変質した化け物は私の記憶の中にあるそのものの動きをしてきていた。
「きゃっ!?」
突き出された巨腕からささくれるように皮膚が剥がれ、棘となって射出される。マシンガンのように放たれたそれをミカさんは回避したけど、外れた棘は後ろにあったコンクリートの壁を貫いていく。
「ちょっ、なにあれエリカちゃん!?」
「当たるなよ!前に当たった時は簡単に体を貫いた!」
そういえば、あのときも脇腹を貫かれて──……お医者さんが、綺麗に治してくれた。
「嘘でしょ!?」
足を止めて当たればその場でヘイローが破壊されることは間違いない。そして、厄介なのはあの怪物は決して射撃だけじゃないところだ。
「くるぞ!」
ドンっ、という大砲のような音と共に怪物がぶっ飛んでくる。
アレは絵庭先輩の変質したものである以上、彼女の戦闘センスを持っている。すなわち、私の戦闘スタイルの大元となった動き。取り回しの悪い、狙撃銃を扱うために、対多数を行う上で必須な一撃離脱。
私の目の前に一瞬で飛んできた怪物は腕をひきしぼり、バズーカのように肘を爆発させてパンチを振り抜いてくる。あのときは未熟だった。けど今は違う。
軌道を読んで回避し、その場でくるりと回って怪物の横をとった。そのまま脇腹にめがけて、全力の射撃。光を纏った弾丸が容易く体を打ち貫く。
「こっちもっ」
ミカさんが合わせて、彼女も弾を光らせて怪物を貫く。一瞬にして怪物の上半身がひき肉のようになっていく。
流石のミカさんも顔をしかめるけど、相手は色彩が再現したせいか、前に私が戦った時と違い、血も流さない。ただ木屑のような肉片が飛ぶだけ。
致命傷、誰がどう見たってそうだけど、私はそのまま一旦退く。ミカさんも私とのアイコンタクトを受けて、怪物から離れた。
「グロいんだけど、エリカちゃん」
「そんなことを言っている暇はないぞ」
「やっぱアレ、これでもやられないんだ」
私たちの目の前で、穴だらけになった怪物はみるみるうちに再生する。黄金の一滴による身体のブーストの極限状態は肉体の再生さえも加速させる。あのとき、絵庭先輩がどれほどの量を摂取したのかはわからない。
『……あんなものを、エリカさんは倒したというのですか?』
『いえ、おそらく、実際のところは自壊していったのでは。草鞋野さんが戦った本物は生徒という依代あってのもの。いくら薬でのブーストが異形化をさせても、元の肉体が限界を迎えれば、ある程度のところで』
「明星さんの言うとおりだ。あのとき私はおそらく、限界を超えた絵庭元防衛室長にトドメを刺しただけだ」
でないと、今よりも遥かに弱い私が、一撃でやれるはずがないのだ。現に今も、ミカさんが大ダメージを与えている。
「じゃあどうするの?今いるのはっ」
またしても棘の射撃が来たので、私たちは左右に分かれて回避。あの棘はかなり厄介なので、グレネードを腿から引き抜いて全力投擲。突き刺さったグレネードが怪物の右腕を吹き飛ばす。
「今いるのはさ、そういうのじゃないでしょ」
『聖園さんは鋭いですね。えぇ、先ほどからお二人が攻撃を当てるたびに、第七サンクトゥムのエネルギーは減っています』
「ヒマリちゃん、それほんと?」
『本当ですよ。美少女は嘘をつきません』
「そりゃ、よかった!」
ミカさんが一気に跳躍して、なんと怪物に強烈なキックを浴びせる。あの巨体が吹っ飛んだ!?
「流石だ!追撃!」
「オッケー!」
転がる怪物めがけて、私とミカさんで同時に射撃。私はもっと力を込めて撃てば、なんか明らかに銃口以上の光弾が放たれ、怪物の肩を大きく抉る。ミカさんももはやビームのマシンガンもかくやという光り方で弾が飛んでいた。
上半身がズタズタになり、怪物は数秒動きを止めたけど、あっという間に再生している。
あれだけのダメージを受けてもなんともないのか、今度はミカさんに殴りかかった。ミカさんは普段ならそのまま真正面から殴り返すだろうけど、羽も使って全力で回避する。
怪物が振り抜いた拳は地面に突き刺さり、すぐに抜かれた。
「あっぶな。あのまま殴り返してたら私の腕、開きになってたよ」
ミカさんはよく見えている。怪物の腕の先が刃のように薄くなっていた。あの機能は元の怪物にはない。あれは本当に、色彩が真似ただけの紛い物だ。そうと確信できれば、私も正直やりやすい。
二度も、彼女を殺すような真似はしたくなかったから。
「明星さん!エネルギーの減り方はどちらのほうが速い!?」
『僅かに聖園さんです。草鞋野さんは手数の問題があると思います』
『お二人で連携を!ミカさんが前衛、エリカさんは後衛をされたほうがいいです!』
ナギサちゃんの指示は的確だ。私とミカさんは素直に従った。
「じゃ、エリカちゃんよろしく!」
「任された!」
怪物は早いけど、今の私なら目で十分に追える。それにあのときは一人だったけど、今はミカさんもいる。二人ならいける。
「聖園!バランスは崩す!確実なタイミングでダメージを与えていけ!」
「りょーかい!任せてよ、狛犬さん!」
装填。腕がまた再生したので、一撃で吹き飛ばす。腕がちぎれた衝撃で体勢を崩せば、ミカさんは本気で戦ってくれているのか、羽も使って怪物を飛び越すように動いて、可能な限り長く、広範囲に弾丸を浴びせる。
当然、そうなれば怪物はミカさんの着地を狙おうと残った腕を振り回そうとするけど、軸足になっている左足の膝を打ち抜けば、自身の勢いと重さで、ダメージを受けた膝から千切れて倒れ込む。
再生するまでの時間は3秒とない。倒れ込んだ隙に一気に私とミカさんはありったけの弾を叩き込む。
『いいペースです!』
明星さんが言うにはそれなりの速度で減っているらしい。
「ヒマリちゃん、ちなみにあとどれぐらい?」
『このペースだとあと5時間ぐらいですかね』
「「は?」」
思わず私とミカさんは間の抜けた声が出た。あと5時間?このペースで動けと?
「冗談!弾がもたないよ!」
再生した怪物が再びミカさんに襲いかかるけど、ミカさんは大きく退き、怪物は近い私に向いて、全身を使ったタックルをしてくる。私と同じ歩法だけど、大きいから初速は出ない。私も余裕を持って回避する。
「明星さん、弾もだが、こちらも体力に限界がある」
いくら私たちがタフでも、体力は有限だ。簡単にいなしているように見えるのは、私とミカさんが全力で戦っているからだ。こんな後先考えない力加減で戦っていれば、保って2時間といったところだろうか。
「セーブすれば一晩とかはいけるけど、コイツ相手にセーブとか無理だよ!」
ミカさんが一瞬で駆け寄ると、怪物に向かって羽で飛び上がった上で強烈な踵落としを決めて、怪物の左腕がべキャリと音を立てて折れる。
「そこだ!」
なら一撃一撃を重くするしかない。私はもっと力を込めて弾を撃つ。それなりに大きな光弾が怪物の上半身半分を抉る。うっ、なんかこれ連打してるとくらっとくる。
「エリカちゃん、なんか調子悪い!?」
「いや、平気………すまない、あまり全力での射撃は多様することはできなさそうだ」
「やっぱり。私もあの弾光らせるの、慣れるまで二年ぐらいかかったからさ」
そんな大技なのこれ。でも、確かにミカさんの言うとおりかも。これ、なんか、自分の奥底にある力みたいなのを強く消費してる気がする。思えば、この弾丸光ったりするのなんなんだろう。
「聖園、今聞く話ではないが、この弾が光るのはなんなんだ」
「魔法じゃない?」
「絶対違うと思うが」
「じゃあなんだろ。ヒマリちゃんこういうの詳しい?」
『……私も詳しくはわかりませんが、お二人は自身の神秘を弾丸に強く乗せているのでは?』
神秘ってなに?
「なにそれヒマリちゃん」
『私たち生徒、それぞれが持っている固有の力でしょうか。強い生徒は自覚、無自覚にかかわらず、自身の神秘を使いこなしていることが多いと私は認識しています』
なにそれ知らない。そんな力あるの私たち。ミカさんも初めて知ったのか驚いていた。
『私たちに身近な例では、聖園さんの隕石を降らす力もその類では思いますが』
「え、あれそうなの?」
『私たち生徒は他人のヘイローを視認することはほぼできませんが、きっと聖園さんのヘイローは太陽系──銀河のような形をされていませんか?』
「よくわかったね!?」
怪物が再生して腕そのものを弾丸にして放ってきた。私とミカさんは通信を聞きつつもも回避する。自分のヘイローの形……私は鳥■居■──風と炎が合わさったような不定形というか、説明が難しい。
ミカさんのヘイローの形が銀河のようなって、全く想像がつかないないなぁ。
「まぁそんなこと、話してる余裕は今、ないと思うけどっ!」
『それもそうですね』
ミカさんが明星さんとの雑談を打ち切った。怪物の動きはどんどん鋭さを増している。さっきまではミカさんと私の射撃を真正面から受け止めて再生力に任せていたけど、だんだんと腕を使っての防御や射線切ろうという動きが見えてきた。
学習してきている。あの怪物は色彩とかいうのが模倣したある意味ロボット的なものではなく、自律している。
「エリカちゃん!そっちいった!」
「チィッ!」
緩くだけれど、稲妻のような軌道を怪物が取ってくる。狙いが、つけられない!
ミカさんが横槍を入れようと銃を構えたら、怪物は突如動きを止めると、両足を地面に強く突き刺した。これ、まずいやつ!
「聖園!飛べェッ!」
間に合った。ミカさんは私の声を聞いて、全力で空中へと飛び上がった。直後、ミカさんが立っていた地面から、巨木、つまりは怪物の伸びた足が生えてくる。
「いい加減キモいんだけど…!」
当然、私のところにも生えてきた。伸ばされた足は私たちを追って更に伸びてくる。足の先端がガバリと口のように開いた。今相手は動きを止めている。残り少ないグレネードをまた一つ手に取って、反転。
迫り来る怪物の口めがけて突っ込んだ。
『エリカさん!無茶です!』
ナギサちゃんの悲鳴のような声が聞こえる。大丈夫。
私は口に吸い込まれる前に、グレネードをその場で浮かせて、一度は失敗した久田さんの歩法を使った。大きく空中に私はぶっ飛んだ。背後ではグレネードを喰った怪物の足が爆発する。
「これは経験がないはずだ!」
あの怪物が私と戦った経験を持っているのなら、あの時とは違う戦法を使う。ライフルを空中で構え、怪物に向かって一直線に落下する。
「邪魔っ!」
視界の隅で、ミカさんが高速で空中を移動し、怪物の足を蹴ってボキリと折っているのが目に入った。彼女は私のことを迎撃させまいとサブマシンガンを連射しながら私とは違う方向から突っ込む。
狙いは、あの怪物のコア。本来であれば変異した元になった肉体の、心臓がある部位。あのとき、私は最後に貫■■たことで、止まった。
「え──…?」
今の、なんだ。私の記憶にない、わたし、ワタシ、わたし?
「エリカちゃん!」
「ッ!?しまっ──」
ミカさんの声が聞こえた。トリガーが遅れた。怪物がこちらを向いていた。怪物の右腕が音もなく、違う、音が聞こえるよりも早く変形した。それは、ワタシの記憶にある、狙撃銃。華美な装飾を施され、とても実戦用には見えない美しい長槍のような姿。
銃口がこちらを向く。射線の先にあるのは私の胸。私は今、空中にいる。ダメだ、避けられない。怪物の銃口から何かが放たれる。時間が何倍にも引き伸ばされた。飛んでくるのはまるで化け物を倒すための杭のような弾丸。先端は鋭く、直撃すれば一撃で私の心臓は破裂することだろう。
走馬灯なんて、見る時間はなかった。
「エリカちゃん!」
轟音。私の耳に届いたのはそれだけだった。呼びかけた声は、あの子に届かなかった。
『ミカさん!?何が起きたのですか!?エリカさんのカメラと、反応が』
ナギちゃんの声が聞こえた。
何が起きたって?そんなの。
「許さない……許さない……!」
放たれた弾は、エリカちゃんの体を通り過ぎって行った。あんな大きな弾が貫けば、その結果は、明らかで。
あはは。あぁ、そっか。せっかく大切な友達になれたと思ったのに。ナギちゃんの好きな人だったのに。私は、私は。
「………消えてよ、化け物」
怪物は目の前にいた。股座を蹴り上げる。重い。でも、かまわない。吹き飛んだ怪物の地面にめり込んでた足はちぎれた。木みたい。
銃をぶっ飛ばした怪物に向ける。消えちゃえ、消えちゃえっ!
今までになく、おっきな光弾がたくさん出る。空中で、怪物の体がどんどんちぎれていく。
「そのまま細切れにしてあげるよ、あははっ!」
『ミカさん!ミカさん!?応答を!』
うるさいな。全部壊してやる。あの子を殺したあの化け物も、あの子が苦しむような世界も。私は守れなかったから。所詮は魔女だから。
怪物は空中で再生を繰り返す。なんとか腕を向けて私に向かって、狙撃銃みたいな腕が私を狙うけど、崩れては再生する体が狙いをつけられていない。無様だね。
「けし飛ばしてあげる」
星を呼ぶ。私を呼ぶ声が囁く。何か大きな意思のような、この地上の何よりも大きな何か。
『…!聖園さん!ダメです!何を呼ぼうというのですか!?そんなことをすればあなたごと!』
『あ、明星さん?なにを、言って、何が起きているのですが、ミカさんと、エリカさんに』
『リオ!すぐに対衛星迎撃ミサイルを!ホドに使った!?バカなんですか!?なんで地上目標にっ』
「うるさいよ。二人とも」
本当にうるさい。消してやる。あの子のことを殺したあの怪物をこの世から。
おっきなお星様に潰されて、消えちゃえ──!
「はぁ。全く、寿命が削れてしまうではありませんか、エリカさんの」
「──え?」
さっきから濃すぎて臭い金木犀の匂いが、また濃くなる。でも、この匂いはなんか、違う。トリガーを引いたまま、私はエリカちゃんの声がした方を見た。
瓦礫をどかしながら、エリカちゃんは立ち上がっていた。その左腕は、ちぎれてなくなって、血がたくさん、吹き出していた。だめ、死んじゃう。いやだ。はやく、あの怪物を殺して、えりかちゃんを病院に。
「神秘解放」
「は?」
ぼきゅっ、そんな音と一緒に、エリカちゃんの左腕が、生えた。
「それに、私の記憶を呼び起こしてエリカさんの油断を誘おうなんて、とても悪趣味なんですね、色彩というのは」
あれ、誰。エリカちゃんじゃない。エリカちゃんの姿をしているのに、誰か、別の人。
トリガーを引く指が止まった。嫌な感じ。エリカちゃんの姿をした、あれは誰。その場から飛び退いた。星の声が聞こえない。
大きな音を立てて、怪物が地面に落ちてきた。
「仕方がありません。エリカさんの体に負担をかけてしまいますが手早く片付けましょう」
何を言ってるの?あなたは誰なの?
エリカちゃんの姿をした誰かが、私を見た。
「下がってください」
「下がって、って、何を」
しようっていうの?と聞く前に、エリカちゃんの姿が、消えた。
何今の、私、見えなかった?エリカちゃんの速さは、見えはするレベルのはずなのに。
まさか、って思って怪物の方を向き直したら、再生して立ち上がった怪物が、青い影に四方から何度も撃たれて粉々になっていくのを繰り返していた。
『これは一体……!?ゲージが凄まじい勢いで…!』
『ミカさん!一体どうしたというのですか!?エリカさんは何をしているのですか!?』
わかんないよ、そんなの。私が聞きたいよ。
十分は青い影が怪物をぐちゃぐちゃにしていた。私は何もできなかった。
「っと…なるほど、再生部分だけは成功していたのですね。これは当時の私ではわからなかった部分です。しかし、私の肉体では完成はできなかったという仮説は当たっていましたか」
このマイクが周りの声を収音するものじゃなくてよかった。あのエリカちゃんの体を動かしてるのは、誰なのか、バカな私だってわかってしまった。そして、話してる内容も。
「それに比べて………ふふっ。さぁ、エリカさん、終わらせましょう。今なら、こんなこともあなたはできるのですから──!」
ソレが凶悪に笑った時、私は目を背けた。あの子が、あんな顔をしたのを、見たくなかった。
バチバチと、音がした。風が吹いてきた。まるで、近づくもの全部拒絶するみたいな、乱暴な、ナギちゃんの風とは違う、暴風。それと、こんな真っ赤に染まった下なのに、エリカちゃんの体を白く照らすほどの激しい稲妻。
「知恵と生命を司る黄金の一滴よ、我が僕に永遠を与えよ…!」
エリカちゃんの髪の裏側が金色に光っていた。右手にあった、コハルちゃんと同じライフルが、何か、淡い緑色の影を纏ってる。まるで、神話の女神様が持つような、槍。
「我が身は我が僕と共に、さぁ、畏れよ、平伏せよ!我が名は──」
止めなきゃダメだ。あれは、あのままエリカちゃんに撃たせたら、エリカちゃんは戻ってこれなくなる。そんな気がする。
「ヒマリちゃん、ゲージは?」
『あと一押しというところまで……何が起きているのですか?』
答えられないよ、こんなの。でも、そっか、それなら。
ナギちゃんに全部知られる前に、この悪夢みたいな状況を終わらせる。
「ねぇ、最後の一撃は私にやらせてよ」
「──……なぜですか?エリカさんに任せてあげてください」
「え?ごめん、聞こえなかったよ。だから、落とすね」
エリカちゃん。エリカちゃんはその先輩さんのこと、もしかしたら眩しすぎてちゃんと見れてなかったのかも。友達だから言うけど、女の趣味、昔は悪かったんじゃない?
あーあ。ほんと、おかしいね。シャーレに入って、先生のことサポートして、なんにも難しいこと考えずに済むかな、なんて思ったりもしたけど、シャーレの方がよっぽどティーパーティーより頭使うよ。
今日はまだ落としてないから大丈夫。あぁ、聞こえる。私を呼ぶ声が。
「なるほど………それがあなたの神秘、ですか。天使には過ぎたものですね」
「知らないよ。でも、私は、私の大切の人のために祈るだけだよ」
星が落ちてくる。怪物めがけて一直線に。怪物が私に向かって飛び出そうとしていたけど、その前に、怪物は落ちてきた星に潰された。
『第七サンクトゥム、反応消失……一体何が』
『エリカさん!ミカさん!応答を、応答をしてください!』
んえ?なに?なんか私意識飛んでた?
「……えっと、なに、どうなってるの?」
ヘットセットは生きてる。明星さんの声と、ナギサちゃんの声は聞こえる。
マイクが……ダメだ。壊れてる。というか、なんか左腕涼しいと思ったら袖が無くなってるどころか、なんかものすごい血まみれになってる!?なにこれ、なんなの!?何が起こった!?
「っ!そうだ、ミカさんは!?」
「エリカちゃん!」
「ミカさん!」
少し離れたところから私に駆け寄ってくるミカさん。よかった。彼女は健在だ。そうだ、怪物。敵はどこに。
「ミカさん、敵は!?」
「それならほら、あれ見て」
ミカさんが指を差した方を見れば、大きなクレーターができていた。いやいや、怪物はそれでも再生しかねない。油断はできないって。
「まだだよ。再生するかも」
「そこは大丈夫みたいだよ。ね、ヒマリちゃん」
『はい。第七サンクトゥムの反応は消失しました。それより、草鞋野さんは無事なのですか?』
「うん。ほらカメラで見えるでしょ」
『エリカさん!よかった!私、あなたに何かあったら』
一体何が起きたの。私、あの怪物に撃たれたと思ったらもう倒されてるし……ミカさん、だよね?やったのこれ。それに、ナギサちゃんがこんな心配そうな声までして。
「ミカさん、本当にこれ、ミカさんだけで?」
「うん。すごいでしょ★」
…………ありえなくはない。隕石の破壊力は私たちの一撃よりも高いだろうし。
『待ってください、エリカさん、その左肩の血痕は…!?』
「ミカさん、マイク貸してくれないかな、私の壊れてるみたいで」
「いいよ、はい」
「ありがとう。ナギサちゃん?聞こえるかな、私は大丈夫だよ」
この肩の血は、なんなんだ。私の左腕がまるで一度吹き飛んだみたいな。
『エリカさん!あぁ、よかった……お声が聞けて……先ほど、大きなノイズのあと、エリカさんの反応も、付けていたボディカメラも消えてしまって』
「たぶん攻撃されて吹っ飛んだ時に壊れちゃったのかも」
『そうでしたか……』
何が起きたのかわからないけど、ひとまず目標は達成できた。だけどこの、言いようのない気持ち悪さ。ミカさんは、知っているのだろうか、何が起きたのか、本当のことを。
私がミカさんを見ても、彼女は微笑むばかりで何も言わない。
「さ、エリカちゃん、他のところの応援に行こ?」
「え、でも」
「私たちシャーレじゃん。行こうよ」
「………うん」
釈然としない。けれど、ミカさんの言うとおりだ。
作戦は継続中だ。私とミカさんという戦力をこのまま浮かせておくわけにはいかない。他のサンクトゥムの援護に向かわないと。
「ミカさん、一度戻ろう。先生に報告しないと」
「りょーかい」
「ナギサちゃん、一度そっちに戻るよ」
『はい!』
私とミカさんの再配置は先生に決めてもらわないと。私たちは怪物の消えたクレーターを背に、シャーレへと向かう道に戻った。
「ふふふっ、そういうことですか」
エリドゥのセントラルタワーにいるヒマリは通信を切り、これまで調べた絵庭サロネの情報や、黄金の一滴の成れ果て、エリカの超再生能力など、様々な点が線でつながったことで、解を得た笑みを浮かべてしまっていた。
「………チーちゃん、あなたが必死にデータを全て削除するわけです」
ヒマリはとうに知っていた。チヒロが絵庭サロネのデータを削除していたことを。
「草鞋野エリカこそが………完成体、というわけですか」
空間投影のモニターに、ヒマリは黄金の一滴の分析結果を映し出す。
「アリウスでの実験データは有益でした。この薬に適合不適合がある以上、何を目指そうとしたのか、想像は付きます。………弱い者は正義を語れない、権利も得られない。絵庭サロネ、あなたは──まごうことなき、悪、だったのですね」
お読みいただきありがとうございます。感想、ここすき、いつもありがとうございます。大変励みになっています。頂けると嬉しいです。
次回はまた未定です。