頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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今回の連続投稿はここまでです。

ちなみに水着てぱては全員引きました。


Area-20「D.U.シラトリ区 #怪獣 #神の一撃 #カーゴランチャー」

 私とミカさんは第七サンクトゥム攻略後、シャーレでの補給を受け、そのまま続けて第六サンクトゥムが現れるかもしれないD.U.シラトリ区へとやってきていた。区内は既に住民の避難が済んでいるため、街中は完全に無人だ。

 

 避難所がある公園にはハルナたちもいるはずだけど、挨拶に行く暇はない。

 

「他のところも順調そうでよかったね、エリカちゃん」

 

「そうだね、ミカさん」

 

 ミカさんが言う通りで、他のサンクトゥム攻略は順調に進んでいるらしく、私たちがシャーレから離れた時には第一サンクトゥム、アビドスのビナーがあともう少しで倒れそうというところだった。

 

 作戦開始から既に5時間が経過していて、もう夜明けなんだけど、空が赤くて今が朝なのかは見ただけではわからない。

 

『こちらシラトリ32。南4丁目3番地先、異常なし』

 

『了解。引き続き警戒されたし』

 

 私たちはシラトリ区の港に程近いビルの屋上で待機しているけど、私は警察無線を回してもらっていた。ヴァルキューレのシラトリ支所は警ら隊で区内の異常がないか見てくれているみたいだった。

 

「ふああ…ちょっと眠くなってきたかも」

 

「寝てもいいよ。私は起きてるから」

 

「え、でもここ何にもないけど」

 

「上着を敷いて寝れば?」

 

「汚れちゃうじゃん!」

 

 どうやらミカさんは今着ているシャーレ制服のコートを敷くのがいやらしい。ちょっと顔を膨らませていた。私だったら敷いちゃうけど、まぁ、ウチの制服白いから汚れが目立っちゃうか。

 

 ただ眠いのは事実なので、このまま寝不足でというのもよくない。いっそ、シラトリ支所にでも行って受付のソファでもいいから貸してもらおうかな。

 

 もしくは何か眠気覚ましがあれば……うーん、SRTのレーションの中にカフェイン入りのチョコレートがあったはずだけど、アレは持ってきてない。となると……。

 

 まわりをきょろきょろと見渡すと、今いるビルの屋上はオフィスビルの屋上なおかげか、屋上入り口の近くに自販機があった。幸いなことに電気は通ってるので、たぶん買えるはず。自販機に歩み寄ると、ミカさんも暇なので私にひょこひょこと付いてきた。

 

「どうしたの?お飲み物?」

 

「ミカさんの眠気覚ましになりそうなものないかなぁーって」

 

 自販機のラインナップを見れば…あったあった。だいたい自販機に2つぐらいはセットされてるエナジードリンク。銘柄は妖怪MAX。味は特に書いてないので、おそらく普通のやつだろうか。

 

 カフェインの含有量は140mgかぁ。あんまり飲み物でとっちゃうと後で利尿作用もあって作戦行動中は避けたいけど…。

 

「もしかしてこのエナジードリンクってやつかな」

 

「そう。飲む?」

 

「うーん……あの変な匂いの飲み物でしょ。ちょっとヤかも……」

 

「ならコーヒーは?」

 

「エリカちゃんの飲んじゃってるから自販機の飲めなさそう…」

 

「嬉しい事言ってくれるけど、眠気覚ましないと眠いよね」

 

「それはそうだけど…エリカちゃんはそういえば平気なの?」

 

「非常時だから気合い」

 

「うわ。なにそれ」

 

 なにそれって言われましても非常時は目が冴える。代わりに解決したら一気に眠気がくるけど。

 

「ヴァルキューレってみんなそうなの」

 

「そんなことないよ。ちゃんと仮眠は取ってるよ」

 

「エリカちゃんがつまりおかしいと」

 

「おかしいって言われるのはなんか嫌なんだけど」

 

「えー、じゃあオオカミさんだから夜強いのかな」

 

「なんか色々語弊がありそうな言い方。普通だよ」

 

 あと私は狼ではなく犬の獣人だよ。

 

「なーんだ。じゃあナギちゃんと一緒に寝てもわんちゃんみたいなわけだ」

 

「それ今話すこと?」

 

「いつでもいいじゃんね」

 

 イタズラっぽい笑みを浮かべてるミカさんに私はなんとも言えない気持ちになった。そもそもナギサちゃんにそんな不埒なことをするはずがない。私が。いや、ナギサちゃんが私を軟禁したとき妙に一緒のベッドで寝かされること多くて、寝る時はペット扱いなのかってぐらい抱きしめられて撫でられたけど。

 

 ………暖かくて気持ちはよかった。

 

「ともかく、話してれば気が紛れるかもしれないけど、ずっとは無理だから何か飲もうよ。私も飲むから」

 

「ちぇー、つれないなー」

 

「つれなくないです。で、何飲む?」

 

 強引に話を終わらせる。……いや、ナギサちゃんのことを考えるとちょっとその……うん。私にも人並みの諸々があるんだと思わされなんだかよくない。さっき死にかけたっぽいので、余計に獣人特有の本能も刺激されているので、はい。

 

 ミカさんから自販機に目線を戻す。

 

「何飲もうかなー」

 

 ちなみにミカさんは自販機で飲み物を買った事がない…ということもなく、シャーレに来てからはちょこちょこ買っているのを見かけている。味はともかくとして、自分で決めてささっと飲み物が手に入るのはいいらしい。

 

 ものすごいお嬢様だったんだな、と改めてその話を聞いた時思わされた。ナギサちゃんがペットボトルの紅茶を飲んでる姿は確かに想像し難いし、たぶん口に合わないんじゃなかろうか。

 

「……奢り?」

 

「聞かれなければ奢ってたかなぁ」

 

「えー、やだやだ、奢ってよー」

 

「おねだりしないでよっ」

 

 ミカさんにはバレてる。私がもう、有翼の子に弱いの。そして、ミカさんは私が知る中でお世辞抜きでずば抜けて可愛いのでぶりっ子されても嫌味に感じずかなりキく。正直やめてほしい。

 

「わかったわかった。奢るから」

 

「やたっ。じゃあこれ」

 

 ミカさんが指さしたのは妖怪MAXだった。

 

「……嫌だって言ってなかった?」

 

「ダメだったらエリカちゃん飲んでよ」

 

「絶対自分で全部飲んでね」

 

 財布から小銭を投入して自分の分も買った。がちゃこんと缶が出て、ミカさんに1本渡す。

 

「はい」

 

「ありがと!」

 

 受け取ったミカさんは慣れた様子でプルタブを摘んで開ける。ぷしゅっ、と音が鳴った。

 

「わぉ。炭酸ジュースなんだ」

 

「そうだよ」

 

「うーん…やっぱり匂いは変かも」

 

 缶なのに完全に挙動がテイスティングなので、ミカさんもナギサちゃんと同じく上品。言葉遣いとかが軽く感じてしまうけれど、やっぱり普段シャーレで仕事をしている時や、ちょっとした休憩時に飲食をするときの所作は綺麗だ。

 

 ミカさんが一口妖怪MAXを飲むと、なんとも言えない顔になった。

 

「まずい?」

 

「いや、なんか知らない味…なんだろこれ…香辛料というか、なんか色々混ざったのを甘さで無理やり纏めてるような……」

 

「………目は醒めそう?」

 

「いろんないみで」

 

 目的は達せそうなのでとりあえずヨシとしよう。私も缶を開けて、さっさと飲み干す。私もエナジードリンクは特に好きというわけではない。普段からデスクワークの時、コーヒー飲んでるし。

 

 最終的にミカさんは鼻を摘んで一気に飲んでいた。結局ダメだったらしいけど、あんなこと言っときながら全部飲むのはミカさんの意外と真面目な性格だと思う。

 

 空けた缶は自販機備え付けのゴミ箱に突っ込んだ。さて眠気覚ましも済んだことだし、待機に戻ろう。

 

「う〜、変な味する」

 

「流石に口はゆすげないから我慢するしかないね」

 

「そうだよね…。でもほんとなんか目が覚めたかも」

 

「でしょ?」

 

「何入ってたのアレ」

 

「コーヒー二杯分ぐらいのカフェインと多量の砂糖他色々」

 

「……うわぁ……なんか体に良くなさそう」

 

「よくないよ。元気の前借りだからね」

 

「それをなんかいっぱい飲んでる子達いたよね、ミレニアム」

 

「ヴェリタスの子達かな?チヒロちゃんも注意してたけど、ほんとに飲み過ぎは体に毒だよ」

 

 お母さんのように注意してるチヒロちゃんはちょっと面白かったけど、口には出さなかった。実際、小鈎さんはミカさんも知っての通りとんでもない量を飲んでいるので、本当に心配してたみたいだ。

 

「チヒロちゃんってあのメガネかけてた子だよね。エリカちゃんと付き合い長いんだっけ」

 

「そうだね。一人で無茶してた頃は色々手助けもしてくれたよ」

 

「じゃ、相棒って感じなんだ」

 

「……そうかなぁ?」

 

 私もあの子には手綱を握られてたような。怒ったチヒロちゃんが怖いのは事実なので…。

 

「なんか聞いちゃいけないこと聞いちゃったかな……」

 

「いや別に。ただ普段優しい人を怒らせるのはダメだなって」

 

「それ現在進行形でナギちゃん怒らせたりしてる人が言う事…!?」

 

「うっ。それを言われてしまうと…はい…」

 

 今制服はもちろん着替えてあるけど、あんな血まみれでシャーレに戻った時はナギサちゃんに心配されお小言を頂いた後、私は救護班が控えているシャーレビルの保健室へとぶち込まれた。その間ミカさんはナギサちゃんになんで私を見ていなかったのかと怒られていた、らしい。

 

 私はやはりナギサちゃんから見てペットのワンちゃんなのか…?

 

「ま、まぁ、とりあえず、仕事しよう。いつ敵が現れてもおかしくないんだから」

 

「露骨に話題を逸らしたね、エリカちゃん」

 

「聖園。我々は既に配備中なんだぞ。私語は慎め」

 

「ドーベルマンみたいになってもダメだよ」

 

「………勘弁して」

 

 ミカさんにいじられているのでどうしたものかと思っていたら、突如地面が物凄く揺れた。いや、地面じゃなくて、ビルがだ。

 

「わっ…!?なにこの揺れ」

 

「危ない!」

 

「ひゃっ!」

 

 バランスを崩したミカさんを抱き止めつつ、耳を伸ばして音を、首を回して周囲を確認。砲撃などの様子はない。家屋に損害は見られない。

 

 地震……?でも、地震となれば、獣人の私は揺れるよりもっと前に予兆を感じる。じゃあこれはなんなんだ。揺れにリズムがある?

 

「え、エリカちゃん」

 

「待て。少し静かにしていろ」

 

 どしん、どしん…少しずつ、揺れるたびに衝撃も大きくなってくる。揺れの発信源はどこだ。音は…鈍っているけど聞こえる。何かフィルターを通したような、とても大きな、これは──足音?

 

 音の方向。港……シラトリ区の鐘崎港のある方向からだ。つまり、水中から迫るもの。

 

 警察無線では揺れの情報しか入ってこない。ここから見れるか?辺りを見渡す。ビルの給水塔。ミカさんを抱えて私は給水塔に飛んだ。

 

「うひゃあっ!?」

 

「っ……見えた。あそこが港……」

 

「エリカちゃん!ほんと、どうしたの!?」

 

「何かが来る!海から!」

 

「え、海からって」

 

 港が見えて、カントリークレーンが大きく揺れている。コンテナも今にも崩れそう。もう海の中にいる何かが港の目と鼻の先にいる。一体何が──!?

 

「「え」」

 

 私とミカさんの視界が真っ白に染まった。海面が突如爆発したとしか形容できない。

 

 爆発の次に現れたのは巨大な光の柱。水中から伸びたそれは港のクレーンを掠めただけで溶かし、伸びた先にあるのはシラトリ区にある高層ビル。直撃を受けたビルは容易く貫かれ、直後に爆発し、高層階が崩れていく。

 

「なに、あれ」

 

 ミカさんの呆然とした声が、私の意識を目の前の現実に戻す。

 

 ソレは、ぬるりと、海面から姿を現した。

 

 第七サンクトゥム同様に黒に反転した色合い、しかし形はよく知っている。何より、ソレがこんな世界を破滅させるような真似をするはずがない。だが、現実として、今目の前で、無人ではあるがビルを破壊してみせた。

 

「あれって、ペロロ……?」

 

「馬鹿な…!架空のキャラクターが、こんな」

 

 モモフレンズのキャラクターであるペロロ。阿慈谷さんが先生にプレゼントして、シャーレの執務室内やカフェ、他にも至る所に飾られているので私やミカさんは嫌でも毎日見るあの特徴的な鳥なのか何なのかよくわらないのが、数十メートルはあろうかという巨体になり、怪獣のように現れた。

 

「こちら草鞋野!本部聞こえるか!?鐘崎港に第六サンクトゥムを確認した!巨大な怪獣のようなもの!」

 

『エリカさん!?一体どういうものが』

 

 応えたのは私たちのオペレーターを担当してくれているナギサちゃん。

 

「桐藤!ミレニアムの明星さんは何も観測していないか!?」

 

『えっ、あ……観測しているようです。映像を回せないでしょうか』

 

「ボディカメラの映像を回せ!見えるはずだ!」

 

『了解しました。……えっと、これですね』

 

 制服を代えた時に再度付けたボディカメラを本部のモニターに繋げばこのペロロが見えるはず。

 

「あ、待ったエリカちゃん。今繋いじゃ」

 

「早く確認させないでどうす──」

 

『……エリカさん?』

 

 何故か冷たいナギサちゃんの声が届いた。

 

『なぜ、ミカさんのお胸がアップで映っているのですか?』

 

「へ」

 

「あちゃー……」

 

 どういうこと。カメラを確認すれば、今お姫様抱っこしてるミカさんの影にレンズが入ってしまっている。

 

「………いや、これは急いで高いところに登ったので」

 

『すぐに!降ろしてくださいね』

 

「イエス、マム!」

 

 素早く丁寧にミカさんを降ろして、私は胸を張ってペロロにカメラを向けた。ミカさんはため息をついている。いや、私なんか悪いことした!?

 

『エリちゃん聞こえる?』

 

「感度良好!先生、どうぞ」

 

『ちょっと今こっちみんな呆然としてるから口出すけど、目の前の幻覚じゃないよね』

 

「先ほどあの怪獣らしきものが放ったレーザーかビームが高層ビルを破壊しました」

 

 カメラをビルに向けた。

 

『ペロロジラかぁ〜……』

 

 先生はあのペロロを知ってるらしい。

 

「先生は知っているのですか?」

 

『うん。夏にヒフミと見に行ってね。まぁ、今目の前にいる通りの怪獣映画って感じ』

 

 本当に非現実なものが現実に現れているらしい。

 

「先生、指示を」

 

 なんであってもアレがあのまま暴れれば大惨事だ。何か手を打たないと。先生に指示を仰ぐけれど、先生も唸っていた。

 

「う〜ん……正直、エリちゃんとミカでもどうにもならない相手というか、アレってたぶん“怪獣映画”って概念付与されてるから通常の攻撃通じないと思う」

 

「先生やけに詳しいね?ヒフミちゃんと映画見たから?」

 

『ううんミカ。ちょっと、あぁいう架空の存在を生み出してけしかけてきた連中と戦ったことがあってね』

 

 聞いた事ない先生の話だった。ときたま先生は私たちに内緒の支援要請を受けてるけど、まさか人知れず何かの秘密結社と戦って……あ、待った。ゲマトリアっていう集団がいる。色彩はどうにもこのキヴォトスに現れた脅威を模倣してるので、あのペロロジラというのも、実際に使われたものだったのかもしれない。

 

『ま、それは今重要な話じゃないので置いといて、あの怪獣を倒すには今のところ手が無いってとこ』

 

「隕石落とそっか?」

 

『迎撃されるのがオチだと思うよ』

 

 ミカさんの力でもダメだと先生は言う。でもこのまま何もしないのは…!

 

『第一、第三、他のサンクトゥムの攻略もほぼ完了に近い状態です。戦力を集結させるのはどうでしょうか、先生』

 

 カヤちゃんからの提案からどうやら他のサンクトゥムも戦闘が終わりつつあるらしい。でも、今から戦力を集めても。

 

『いやカヤ。間に合わない。それに、あの怪獣は君達で倒そうとするとちょっとコツが必要でね。真正面から戦うなら“お約束”を守らなくちゃいけないの』

 

『お約束ぅ?先生、相手はこっちを滅ぼそうとしてるのにそんな悠長な』

 

『強大な力にはなんかしらの制約が付きものだからねカヤ。ヒマリ、どう?』

 

『えぇ、先生の読みは当たっていると思いますよ。先生から頂いたデータを元に、“本来のペロロジラ”との戦闘をエリドゥでシミュレーションしましたが、対抗するにはダメージ下限が非常に高く設定されています』

 

 ちょっとよくわからないでいると、明星さんが補足をしてくれた。

 

『簡潔に言えば、同等の巨大な力をぶつけなければダメです』

 

『先生。連邦生徒会として同等の戦闘力の捻出は難しいかと』

 

『リンちゃん、そりゃそうだ。けどヒマリ、そんな悪い顔してるってことはあるんでしょ?策が』

 

『失敬な。私の顔はオールウェイズ正義の美少女顔ですよ。……まぁ、なければ口は挟みませんから』

 

 どうやらミレニアムには何か対抗策があるらしい。それなら、私たちにできるのはもうこの状況を確認して退く事だけだ。

 

『ん?RABBIT3より会長さんへ、なんか暇になったからそっちの怪獣モニターしたけど、なんか予測進路ヤバいんだけど』

 

「こちら草鞋野。RABBIT3、報告は簡潔にしろと何度も」

 

『このまま進むとアレ、避難所行くけど』

 

 え。

 

「マズくない?エリカちゃん」

 

 待った。あんな怪獣が避難所のある公園になんて行ったらマズいなんてもんじゃない。さっき放たれた光線がもし避難所に直撃なんてしたら…!

 

 あそこには、ハルナがいる。

 

「先生!こちらで遅滞戦闘、ないしは被害の少ない場所への誘因を提案します!」

 

『エリカさん!?無茶です!』

 

 ナギサちゃんの悲鳴のような声が聞こえる。けれど、今ここにいるのは私たちだけだ。

 

「エリカちゃん。私は死にたくないんだけど」

 

「……私だけでも」

 

「馬鹿なこと言わないでよ。冗談抜きで、いい加減にして」

 

「しかしっ、このままみすみす、見捨てろというのか!」

 

「毎回毎回、死ななきゃ安いって突っ込みすぎ!私たちの気持ちも少しは考えて!」

 

「っう…………」

 

 ぐっ、と胸ぐらを掴まれて、足が浮く。ミカさんに私は片手で持ち上げられていた。

 

「それで無茶してまた大怪我して、ハルナちゃんが喜ぶ?さっきだってナギちゃん泣きそうになってたのに。………だいたい、あんな怪獣止める力もないのにどうやって戦うの」

 

「それは」

 

「ないでしょ、手段なんて」

 

 手を離される。給水塔の上だからバランスを崩して落ちそうになるけど、なんとか体勢を整えて落ちずに済む。ミカさんは変わらず怒ったままの表情だけれど……少しして、呆れたようにため息をついた。

 

「そもそも、さっきの私のことも計算して言ってるでしょ」

 

 何も言えなかった。私は、私はこの無茶に彼女を付き合わせようと無意識に…?

 

「頼る気が少しでもあったのは安心したかも」

 

「そ、それは」

 

「じゃ、その信頼に応えてあげる」

 

 ミカさんが微笑むと、翼を大きく広げて¬ゆっくりと飛び上がる。

 

『ミカさん!?何をされようとしているのですか!』

 

「大丈夫だよナギちゃん」

 

 それは神話のような光景だった。ミカさんが両手を赤い空に、いや、もっとその先に伸ばす。

 

「エリカちゃんは一人にしちゃうとワンちゃんみたいに一直線で危ないからさ」

 

『ミカ、私だけど。どういうこと?何をする気?』

 

「先生、大丈夫。無理はしないから」

 

 ゾクっとするような、尋常じゃない気配がミカさんから漏れ出す。そして私は見た、可視化されるほどに輝くミカさんの、まるで銀河のような形をした美しいヘイローを。

 

「じゃ、エリカちゃん。お望み通り……一緒に逃げよっか」

 

「え…?」

 

「──聞こえる、私を呼ぶ声が。聞こえる、星の呼び声が」

 

 いつもと違う、慄くほどの強烈な威圧感。身体の奥底から、私の本能が畏怖を感じる。

 

「天上の先、無間に広がる宇宙へ、私の祈りが届く場所」

 

 ぎゅっと、ミカさんが胸元で手を重ねて祈る。

 

「主よ、我が願いに応え給う──星よ、立ち塞がりし万難を討ち払え!」

 

 ミカさんの詠唱が済んだ瞬間、彼女は素早く私を抱きしめて、そのまま一気に今いるビルから飛び降りて、ビルを背に翼を使って飛び出した。何が起きるのか、なんて聞く暇もなかった。

 

 刹那、轟音。世界が終わったのかと思うほどの衝撃波。その衝撃波に煽られながらもミカさんは私を抱えたまま飛び続ける。

 

「ふぅ。すっごい威力。本気で落としたのは何年ぶりだろ」

 

 少し離れたビルの屋上に着陸して私は離されると、さっきまで港があった場所は大きな爆煙に包まれていた。コンテナも吹き飛んでるし、周りの建物も悉く薙ぎ倒されている。間違いなく、巨大な隕石が直撃したとわかる。

 

「ミカさん、一体なにを」

 

「先生もさっきこの作戦始まる前に言ってたけどさ、ちゃんと頼ろうよ。言葉にして」

 

「……返す言葉もないです」

 

「それに言ったじゃん。私とエリカちゃんなら大抵の敵はどうにかなるって」

 

「でもあんな巨大な怪獣なんて」

 

「倒す手段はヒマリちゃんたちが持ってるんでしょ?だから私たちは逃げる。それが間に合うまで、人が少ない方に」

 

「けど、ミカさんが付き合う──」

 

「必要あるから。だってエリカちゃん、一人じゃあんなのに潰されて終わりだよ。私より弱いのに」

 

 あと、とミカさんが私の前にずいっと迫る。笑っているけど、目が笑ってない。

 

「次、あんなこと言ったら本気で殴るから」

 

「…………ごめんなさい」

 

「わかればいいんだよ」

 

 頭が冷えた。いい加減、私も学習しろと言いたい。焦ると、すぐこれだ。

 

 改めて港の方を見る。煙の中から、ゆっくりと、ペロロジラと呼ばれた怪獣が姿を現す。大きな目がこちらを見ていることは明らかだし、こころなし目つきも鋭い気がする。

 

「こっちを認識したみたいだよ、ミカさん」

 

「さすがにあんだけのダメージ受けたら反応してくれたね」

 

 ペロロジラはまるで画面が荒れたかのように身体の一部が崩れていたけど、それはすぐに元へと戻っている。私とミカさんがさっき戦ってた第七サンクトゥムのように、色彩のエネルギーが尽きるまでは無敵らしい。

 

「うーん、あのレベルの隕石をいっぱい落とせたらなんとかできたけど、今ので力使い果たしちゃった」

 

「え、それってまずいんじゃ」

 

「うん。だから、エリカちゃん。私のこともお願い!」

 

 ミカさんが私の背に抱きつく。おんぶしろということらしい。拒否権はないので銃を肩にかけつつ、私はミカさんをおぶった。

 

『──長…!草鞋野……長!』

 

 隕石の落着の影響で通信が途絶してたのか、途切れ途切れで風倉さんの声が聞こえた。

 

「こちら草鞋野!聞こえるぞ!風倉!」

 

『よか……た!先生!繋がったよ!』

 

 途中で声がクリアになる。

 

『エリカ!ミカ!無事!?』

 

 先生の声はかなり心配されているようだった。

 

「問題ありません!ただし、聖園は充電切れ!これから敵怪獣の誘因を開始します!」

 

『誘因!?何したの!』

 

「それは後ほど!明星さん!聞こえているか!?」

 

『えぇ、聞こえていますよ。……先生、あの巨大な存在に対して対応できる戦力に心当たりは?』

 

『心当たり?………お約束ならあるにはあるけど、サイズが』

 

『問題ありません。説明は省きますが、ミレニアムには物体を巨大化させる技術があります。あるといっても、突貫で作ったものですが』

 

 やはり対抗手段がミレニアムにあるらしい。

 

『……わかった。ならいるよ、適任な子達が』

 

『ふふっ。では話は簡単ですね。不知火防衛室長。D.U.シラトリ区で避難所が稜線に隠れる場所はありますか?』

 

『この白上谷という街区はちょうどシラトリ区でも海抜0m以下の地帯のはずですよ!』

 

『結構。先生、そちらにその適任の生徒たちを』

 

『了解!呼ぶよ』

 

『草鞋野さん、聖園さんはそこから南西方向………ふむ、ちょうどいいですね、白上谷1丁目交差点、ここに向かってください』

 

 南西、というのはわかるけど、詳細な位置がと思っていたら背後のミカさんが携帯を取り出して地図アプリでナビを出してくれた。

 

「ここだよ、エリカちゃん」

 

「助かる。さて、すまないが聖園」

 

「謝る必要なんてないよ。エリカちゃんは絶対守ってくれるもんね」

 

「……了解した」

 

 あの怪獣の気を引く以上、ここから目標地点まではビルを飛んでいく必要がある。やるしかない。ミカさんを抱えたまま。

 

『エリカさん、ミカさん、どうかご無事で…!私も、ここからできる限りのサポートをさせてもらいます!』

 

「頼む、桐藤。RABBIT3、観測用のドローンを回せるか。回せるなら桐藤に映像を回してやってほしい」

 

『りょうかーい』

 

 さぁ、怪獣と鬼ごっこだ。追いつかれたらおしまい。追いつかれるわけがない。

 

「いくぞ!」

 

「よろしく!エリカちゃん!」

 

 私はミカさんを乗せて、ビルからビルへ跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ミカたちが色彩ペロロジラから逃げ出した頃、ミレニアムのエリドゥにあるマスドライバー施設では遊園地にある虚妄のサンクトゥム攻略に向かったケイに変わり、エリドゥの防空を担っているトキが補給を受けていた。

 

 既に色彩によって生み出されたホドの撃退には成功し、残ったのはまばらな不可解な軍隊を模倣した戦力だけで、掃討戦に局面が移っていた。

 

「飛鳥馬さん!補給完了です!」

 

「わかりました」

 

 エリドゥにはウトナピシュティムの整備を行っているエンジニア部の部員たちが詰めているため、トキの扱っているアビ・エシュフの整備補給も彼女たちが担っている。

 

 補給の完了したアビ・エシュフにトキは歩み寄り、その身を預ける。無茶な挙動は極力さけてきているが、それでも数時間の連続稼働は間違いなくアビ・エシュフの各部に負担がかかり、既に左腕部はトキの専用機に搭載されていた4連装のキャノン型から、量産機に使われているマニピュレーター型に交換されている。

 

「……起動完了。再出撃します」

 

「みんな!飛鳥馬さんが出るよ!」

 

 いつの間にか機付きのようになっていたエンジニア部の部員が周囲に呼びかけ、即座に誘導を行い始める。孤独だった時とは違い、誰かに支えられての出撃はトキにとって暖かく、心強いものだった。

 

 発進はマスドライバー上から、マスドライバーのレール本体横に備えつけられたカタパルトから。そのため、彼女は専用のリフトでそこまで上がるが、そのリフトまでの道中でリオから通信が入る。

 

『アビ・エシュフは発進中止。トキ、戻って』

 

「会長。何か」

 

『シャーレから緊急の要請よ。装備を換装後、急ぎD.U,へ向かってもらうわ』

 

「かしこまりました」

 

 主人からの願いにトキは頷き、来た道を戻る。エンジニア部の生徒たちも別の指示を受けているのか、慌ただしく駆け回っていた。

 

『トキ、聞こえますね?』

 

「ヒマリ部長?」

 

『えぇ、私です。トキにはこれから試作装備をアビ・エシュフに換装してもらいます』

 

「その試作装備とは?」

 

『時間がないので説明を省きますが、研究をしていた物質巨大化装置をある座標で使用してもらうためです』

 

 ヒマリの言う装置は、トキが聞くまでもなく格納庫に運び込まれる。それは全長3mはあろうという巨大なビーム砲のようなもので、アビ・エシュフに搭載するものとしてはオーバーサイズだった。

 

「あれですか……搭載可能なのですか?」

 

『右腕部をあの装置に換装します。発射の反動はありません』

 

「わかりました。換装を」

 

『話が早くて助かります』

 

 装置の前に素早くトキは回り込み、移動式のクレーンを持ってきたエンジニア部にアビ・エシュフの右腕を預らせ、躊躇いなくパージする。ヒマリの言う物質巨大化装置は既にアビ・エシュフに装着可能となるようなアタッチメントが設けられていた。

 

 大型な装備だったが、素早く接続は行われる。ウタハによって鍛え上げられたエンジニア部の部員たちは末端に至るまで、高い技術力を保持していた。

 

「換装完了!」

 

「了解。出撃準備に移ります」

 

 今度こそトキはリフトへと向かい、マスドライバーの上へと昇る。

 

 マスドライバーから見えるエリドゥの景色は、色彩ホドが内部まで侵攻した影響で多少荒れていたものの、都市機能は健在であり、防衛施設も万全に稼働を続けているため、空から迫る敵を防空施設が対処していた。

 

「…バランスが」

 

 突貫で装備された装置にアビ・エシュフのオートバランサーが悲鳴をあげていた。トキはどうにか動くが、これでは戦闘機動は不可能だろうということが容易に想像できる。

 

『トキ。ミッションを説明するわ』

 

 しかし、困難な依頼でも遂行するのがC&Cであり、トキはそれ以上の不平は告げない。リオからの声に、いつも通り、ミレニアム最高のメイドであるべく応える。

 

「はい、会長」

 

『指定座標はD.U.シラトリ区のこの地点。現在、現地では敵性怪獣が出現、進行中』

 

「これは……なんですかこの、形容し難いものは」

 

 トキが身につけるバイザーに、エリカとミカが捉えたペロロジラの姿が表示され、たまらずトキは言ってしまう。リオも「そうね」と同意しつつ、話を進める。

 

『作戦はこのとおり。草鞋野エリカと聖園ミカが怪獣を誘因。予測ではあと8分で目標地点に到達予定よ』

 

「8分……会長、御言葉ですが、ここからミレニアムには」

 

『えぇ、飛んでも30分はかかるでしょう。だから、あなたをカーゴに詰めて射出するわ』

 

 トキの後方にある別のリフトから、明らかに飛行能力を有していないコンテナが競り上がってくる。申し訳程度に側面にミレニアムの校章がマーキングされているが、どう好意的にトキが見てもそれはコンテナでしかなかった。

 

「………………」

 

 さしものトキも、これは無茶すぎるのではないかと主人の言葉を疑う。

 

『安心してくださいトキ。その女のデザインセンスがゴミカスなだけで中身はちゃんとしてますから』

 

『この合理的なデザインのどこが悪いの?トキ、カーゴに搭乗しなさい』

 

 本当に大丈夫なのか、とトキは感じたものの、状況は切迫しておりトキは迷うそぶりを外に出さずカーゴと呼ばれたコンテナへと迫る。

 

 そうすると、コンテナの側面が開き、中はアビ・エシュフが固定できるケージが用意されていた。

 

『指定座標に接近次第カーゴをパージ、遠隔でエリドゥによる自動照準、装置を作動。作動後、トキはそのまま装置をパージしてシャーレに離脱しなさい』

 

 乗っているだけでいい、とリオは言う。そのことを理解したトキは主人を信じるしかない。

 

『リオ、一応聞きますが人を乗せて発射したことは?』

 

『データ上問題はないわ』

 

 このときばかりはトキも本当に大丈夫なのかと主人のことを信じきれなかった。

 

 




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