今回も今日と明日投稿します。
それではどうぞ。
「セイア様。自治区内の戦闘は落ち着いたようです」
「わかった。損害が軽微な隊を元に再編成。避難所周辺の防御を固めるように」
「かしこまりました」
「ふぅ……トリニティ内の虚妄のサンクトゥムも処理が済んだか」
ティーパーティーのテラスでセイアは一息つく。古聖堂に現れた虚妄のサンクトゥムの攻略は無事に終了したことがセイアに報告され、さらに連動して自治区内で暴れていた聖徒会のミメシスも数が減っていた。
トリニティ外の虚妄のサンクトゥム攻略に自治区内の各組織トップが駆り出されたこと、また結果的にハナコが虚妄のサンクトゥム攻略の指揮を担当したため、実質的にセイアが指揮官として正義実現委員会、救護騎士団等の各組織へ指示を出していた。
再編成などの伝令を任せたティーパーティーの役員がテラスを出て行ったのと入れ替わり、テラスへと入ってくる生徒がセイアの目に映る。微妙に制服が着崩れているハナコだった。
「お疲れ様です、セイアちゃん」
「お疲れ、ハナコ。………少々、はしたない格好のようだが」
「ふふっ。サクラコさんが“覚悟“を前に私も”覚悟“を見せていましたので」
なんの覚悟だ、とセイアは聞きそうになったが、そういえばアリウス自治区でかつての聖徒会が着用した制服が見つかったと極秘の報告を受けていたことを思い出す。それがどういう形であったかは古い家の出身である以上、セイアは知っており、何が起きたのかある程度察しがついた。
「無事に終わったのならよかった。今すれ違った子には自治区内の動ける隊を再編成させている。一つ目の山は乗り切ったと思っていい」
「セイアちゃんもまだ終わりでないと思っているんですね」
「敵の首魁はまだいるのだからね。それをどのように抑えにいくかわからないが……おそらく、我々ができるのは事が済むまで帰る場所を守り続けることだろう」
「帰る場所…ですか」
「せめて、太陽に近づきすぎない程度にしてほしいものだ。特にナギサはね」
「ミカ様ではなく?」
「そうか、ハナコは知らないか。意外と後先見ないのはナギサの方でね」
「………それは流石に驚きです」
「トリニティのティーパーティー筆頭……その荷が消えた状態のナギサはどこまでついていくだろうな、彼女に」
ハナコは常に冷静で、追い詰められれば非情な選択さえも取れる“ティーパーティーの桐藤ナギサ”しか知らない。故に、ただの少女となったナギサがそこまで盲目的かつ、どこまでも愛する誰かの隣にいようとするとは驚きの事実だった。
そして、そんな少女をそこまで歪めるほどにこの学園は先がなかったのだと改めて苦い顔をする。
「そういう顔をするあたり……ハナコ、君もティーパーティーには向いていないな」
「だからあそこまで、強引な改革を?」
「ナギサをティーパーティーのホストとして、歪めてしまった時点で手遅れだったんだ。……私は傍観者でありすぎた。贖罪にすらならない、あれはただの自己満足。復讐だよ」
セイアの自嘲じみた表情に、ハナコは何も言えなかった。晄輪大祭の裏で行われた粛清と言っていいトリニティの改革はトリニティに落ちていた深く大きい影を消すことはできたが、桐藤ナギサという少女を救うものではなかったとセイアは思っている。
「それでも、何もしないよりは、きっとナギサ様は救われたと思いますよ」
「だといいのだがね。さて、辛気臭い話はやめにしよう。ハナコ、現状の共有を改めて──」
これ以上、過ぎ去ったことをこの状況で語っても仕方がないとセイアは切り替えるように話をしようとしたが、その瞬間、言葉を止める。
「セイアちゃん?」
ハナコが怪訝な表情で問いかけるが、セイアの顔色がみるみる悪くなっていく。まさか、また体調が悪化したのかとハナコはセイアに駆け寄るが、セイアはハナコに手で待ったをかけた。
「……なんだこれは………!この、そこ抜けた、悪意は…!」
「セイアちゃん、一体どうしたんですか…!?」
今、セイアを襲っていたのは強烈な、悪意が群れを成したかのようなビジョン。悪い予感、そんな域を超える死の予感。そしてそれは、自分に向けられたわけではないことも、セイアにはわかった。
「誰か!すぐにシャーレの作戦本部に繋いでくれ!」
セイアが呼びかければ、待機していたティーパーティーの役員たちがただちに通信用の設備を整える。ヘッドセットを渡されたセイアは役員に繋がったことをハンドサインで示されると、ただちに呼びかけた。
「先生聞こえるかい」
『セイア?聞こえてるよ。どうしたの、何か問題が──』
「そちらの状況は?」
すぐに先生が応答し、セイアは先生に被せるように発言する。通信先で先生は何か尋常ならざる事態が起きていると即座に判断し、セイアの問いに答えた。
ペロロジラなる怪獣が現れ、ミカとエリカが囮となり、対抗可能な戦力が待つ場所へ向かっている。セイアはそれを聞いた時、自身が受けた悪い予感とは違うとすぐに判断する。
「感じたんだ。今、ミカとエリカが受けているものとは別の、強烈な、多数の悪意だ」
『多数の悪意?なんですかその不確かな感覚は』
「君はゲヘナの……すまない。そうとしか言えないんだ。だが、間違いなく、我々は何かを見落としている」
アコの言葉を受け流し、セイアは出来る限り冷静に作戦本部へ訴えかける。ハナコはこの場から出来ることは一つだけあった。彼女は携帯を取り出すと、通話履歴の一番上を押し、電話をかける。
「……応答が……!」
その相手は珍しく数コールしても応答しない。
『セイアさん。具体的なものは見えていないのですね?』
「ナギサか。そうだ。………ただ、おそらくこれは取り返しがつかない。このまま何もせずにいれば多数の犠牲を出す。そういうものだ」
『………エリカさんとミカさんは上手く囮役を果たせています。あの大きなペナンシェではなく……もっと別の脅威?』
『相手が色彩ならミレニアムで観測できてるはず。ヒマリ部長!何かわからないんですか?』
『ユウカ。こちらで虚妄のサンクトゥムのエネルギーの分布を再確認しています。……リオ、急いでください』
セイアの予感を示すものは未だ、誰も認識できていない。ハナコは通信を聴きつつ、辛抱強く電話をかけ続ける。こんなにも今かけている相手が出ないことは初めてで、ハナコはらしくもなく焦りを感じていた。
「(お願い。無事でいてください……!)」
その悪意は、誰かの頑張りすぎから生まれてしまったものだった。
無人の街を、悪意は這うように、滑るように──道路を黒く染めるかのような群体が、流れていく。放置された車両は道路の真ん中にあれば、それらの目から放たれた光線によって爆破炎上する。
「なんだアレは……!?」
異様としか言いようのない群体を目にしたのは、トリニティの正式採用戦車の一つであるクルセイダー巡航戦車に乗り、キューポラから顔を出した白洲アズサだった。彼女は自身が目にしたものが現実なのか一瞬、目を疑う。しかし、お嬢様然とした容姿から考えられないほどに鍛え上げられたゲリラとしての感覚が、警鐘を鳴らす。
「ヒフミ!逃げて!」
「え?一体何が……って、なんですかあの真っ黒なペロロ様の集団!?」
「あれは敵だ!さっきのペロロジラと同じ!」
「じゃあアレ、シンの方だったんですか!?私としたことが判別できなかったなんて」
「退避急いで……ぅ!?」
車内にいるアズサと共にクルセイダーに搭乗する阿慈谷ヒフミに退避を指示するも、それよりも早く色彩ペロロジラから分離したペロロ・ミニオンの群体、その先頭の一部から光線が放たれた。
アズサは幸運にも首をひねったことで、ギリギリ回避に成功するが、他の光線がクルセイダーの装甲を掠め、僅かに赤熱化し、赤い線を残す。
「ヒフミ!」
「出します!」
快速自慢の足にものを言わせ、ヒフミはクルセイダーを急発進させる。戦車の走行にも耐えられるD.U.の車道舗装に白い擦過痕を残すほどの加速で、アズサは揺られながらもこのまま逃げるだけではダメだと、愛用のアサルトライフルを車内から取り出し、構える。
「追ってくる…!迎撃する!」
「60kmを超えたのに…!なんて速度なんですか!?」
ペロロ・ミニオンの群体は戦車としてはかなりの速度が出ているクルセイダーを追ってくる。光線の射撃精度が高くないためヒフミはバックモニターを見ながら回避は出来ているが、まぐれでも当たれば終わりである。
「アズサちゃん!迎撃は無理です!」
「……悔しいけど、そうみたいだ。撃っても撃っても、次がくる」
数が多すぎるため、アズサのアサルライフルでは群体に有効打を与えることはできなかった。このまま顔を出していても危ないとアズサは一度車内に戻ると、ヒフミが必死に運転を続けているのが目に入る。
最悪の場合は彼女を連れて飛んで逃げることもアズサは視野に入れる。アズサは有翼の生徒であり、ある程度の飛行も可能な力も持ち合わせていた。
「……ん?ヒフミ、携帯が鳴ってる」
「え!?で、でも、この状況で」
「代わりに出る」
逃げるため、必死に運転をし続けるヒフミは電話に出ることはできず、アズサがヒフミのスカートのポケットに手を入れ携帯を取り出す。バイブレーションに気が付かないほど揺れがあるせいかヒフミは出れなかった。アズサが気がつけたのはわずかにポケットから光が溢れ、生地が揺れているのが見えたからだ。
「誰だ」
『アズサちゃん!?ヒフミちゃんは!?』
「ハナコ?」
応答すれば、聞こえてきたのは聞くことはないようなハナコの焦った声。アズサは車内の手すりに捕まりつつ、ハナコの声に耳を傾けた。
『今、どちらに?』
「D.U.シラトリ区。交戦中」
『戦闘中ですか…!?まさかペロロジラと』
「ううん、違う。分離したペロロ・ミニオンに追われてる」
『ペロロ・ミニオン………?それって』
「少し前に補修授業部のみんなで見に行った映画のキャラクターだよ」
アズサは、補修授業部はペロロジラと、その分離体であるペロロ・ミニオンのことを知っていた。補修授業部はペロロジラを題材にした映画を見ていた。
「アレはなんなんだハナコ。光線を放ち、全速で逃げるクルセイダーについてくる。しかもやたら数が多い」
『追われているんですか!?』
「うん」
アズサがバックモニターに目を向ければ、距離は取れているが、まるで波のようにペロロ・ミニオンは押し寄せている。
『すぐに作戦本部に救援を手配します!』
「そうしてほしい。最悪の場合は私がヒフミを連れて──ぅあ!?」
『アズサちゃん!?』
車内が大きく揺れる。アズサはその状況でもなんとか捕まって状況を把握し続ける。ヒフミが衝撃で大きく前面に体を揺らされているのが目に入る。ヒフミが額を正面の、少人数運用のために設けられている外部カメラ用のモニターに打ち付けていた。
それでもヒフミはその技量ゆえか、必死に車体のコントロールを続けている。
「くっ……!」
車体が傾き、回転していることがアズサにはわかった。遠心力と揺れでヒフミの携帯を撮り落としかねず、強く握ったせいで画面を誤タップし、ハナコとの通話は途切れる。
何が起きたのかアズサはようやく理解する。おそらくは履帯が、それも転輪ごと光線で破壊された。
数秒、クルセイダーは滑走し続け、最終的に何かにぶつかって停止する。
「ヒフミ!ヒフミ!?」
「………………」
アズサが呼びかけたが、ヒフミは反応せず、俯いていた。駆け寄って、衝撃を与えないようゆっくりと体を起こすと、たらりとアズサの手に血が落ちる。ヒフミは顔面を強打したせいで、額を切っていた。
ドライバーは意識不明、クルセイダーも動かないとなれば、アズサの判断は素早く、即座に荷物をまとめ背負うと、ヒフミを持ち上げクルセイダーから抜けだす。ペロロ・ミニオンはいまだに猛烈な勢いで迫りつつあったが、アズサの間髪入れない動きでまだ距離が少しある。
「……すぅー………」
アズサがヒフミを両手で、お姫様抱っこの形で抱えると、クルセイダーの上で大きく羽を広げる。羽根に力を込め、アズサは空を見上げる。飛翔にはかなりの体力を使う。さらにアズサは近くの10階以上はあるビルに飛び移ろうとしていた。
「(荷物もあるし、ヒフミも抱えてる。おそらく飛べばこれ以上の作戦行動は厳しい。……どうにか、上がったら状況報告だけはしないと)」
アズサのヘイローが仄かに光を増す。無意識に神秘を強め、アズサは飛翔する。力強い上がり方で、あっという間にアズサはビルの屋上に飛び乗った。
そして、間をおかずにヒフミの応急処置を彼女は行う。ゲリラ屋らしく、アズサは普段からすぐに傷を縛れるように包帯やガーゼを持ち歩いていた。ヒフミの頭の傷は浅く、軽く切っただけのようで、切れ方も綺麗なもので、アズサはこれなら傷も残らないと処置しながら感じていた。
ヒフミの処置を終えてアズサはビルの屋上から道路を覗き見れば、あれほど追ってきたことが嘘のようにペロロ・ミニオンたちは分電盤を破壊して止まっていたクルセイダーの横を通り過ぎている。
「……どういうこと?私たちを追っていたんじゃ…?」
追われていたという意識をアズサも持っていたが、全く見向きしていない。こうしてアズサがビルから顔を出しても光線が飛んでこない。アズサはもう少しペロロ・ミニオンたちの様子を注視する。
すると、あることに気がついた。先頭集団が進路上にあるものだけに攻撃をしていたことに。
「まさか……私たちは、たまたまあの集団の進行方向へ逃げていたということ?」
そうでなければ説明がつかない光景に、アズサは納得する。だが、そうなると次の疑問が湧く。あのペロロ・ミニオンがどこへ向かっているのか。
アズサの携帯が鳴り、彼女は即座に応答した。
「私だ」
『アズサちゃん!?無事ですか!?』
「ハナコ。すまない。ヒフミが負傷した」
『え……』
この世の終わりのようなハナコの声が聞こえ、アズサは伝え方を誤ったと思い、訂正する。
「大丈夫。少し頭を打って気絶しただけ。クルセイダーがやられたからなんとかビルに逃げ込んだ」
『お二人は無事なんですか!?』
「私たちはもう大丈夫。だけど、気になることがある」
アズサはハナコにペロロ・ミニオンのことを伝える。そうすれば、すぐにハナコは内容を了解した。
『すぐに作戦本部に伝えます』
「わかった。おねがい」
通話を切り、アズサはその場にぺしゃりと、へたり込む。
「ふぅ……なんとか、なったかな。……あれはペロロジラ?ペロロ・ミニオンとは逆方向に離れていってる」
動けなくなったアズサは周囲を見れば、遠くにペロロジラの頭が見え、離れていく。Pロロ・ミニオンとは違い何かを追っているように、アズサには思えた。
アズサからの情報、それはハナコにより迅速にシャーレの作戦本部に伝達された。
「トリニティの戦車にはIFFも搭載させています。まだ車体の電源が入っていればクルセイダーが動けなくなった位置が割り出せるかと」
『チーちゃん、聞きましたね?』
『もうやってる』
報告を受けすぐにナギサはヒマリヘ、クルセイダーの敵味方識別信号を辿るように伝える。ミレニアムならばトリニティの識別信号の暗号化ぐらい、簡単に解いた上でさまざまな手を使ってクルセイダーの現在位置を割り出せると思っての判断だった。
それに応えるミレニアム側も、チヒロが既に手を動かしている。
「………ちょっとえぐいね、アコ」
「……さすがに、これはカヨコさんに同意見です」
緊急時だからこその動きだったが、カヨコとアコはミレニアムの技術力に若干、引いていた。
「エリちゃん、そっちはどう?」
『目標の交差点まであと3分です!』
「わかった」
同時並行で、ペロロジラの誘因は進行している。先生はエリカとミカならば失敗はありえないというシャーレの生徒たちに全幅の信頼を寄せ、こちらはあと、先生が呼んだ“ヒーロー”たち次第だった。
『……見つけた。クルセイダーの反応はここ。周辺のカメラへの接続………完了。本部のモニターに映すよ』
チヒロの手により作戦本部の大型モニターにクルセイダーの現在位置と、周辺のカメラの映像が映る。その中で一つのカメラがペロロ・ミニオンの波を捉えた。
『アレだ!先生、あのペロロの群体が“悪意”だ!』
セイアが予感の正体を言う。色彩のペロロ・ミニオンは作戦本部にいる誰しもが、悪意の塊と言うに相応しい様相だった。
『リオ』
『解析したわ。アレはペロロジラから分離したものね。おそらく、聖園ミカの一撃を受けた際に飛散したものよ』
『嘘!?じゃあ私のせいで』
「いや、ミカの気に病むことじゃない。怪獣映画ならやらない手だけど、今回相手にはボスがいるわけだし、汚い手を使ったんだよ相手が」
先生がミカをフォローする。先生としても、相手がこちらを滅ぼそうという気があることをペロロジラが使われた時点で一瞬抜けてしまっていた。
「(……やだねぇ。私がやるなら同じこと考えるな。つくづく相手は汚い手を使わないやつのほうがバカって考えか。やってくれるね)」
悪辣な手段に、先生は空の先にいる相手を睨んだ。先生である以上はやらない、本来の素の彼女の性格ならばする手口は、彼女の神経を逆撫でするには十分だった。
「リオ、あのペロロの進行方向、たぶん避難所でしょ」
『よくわかったわね。えぇ……あの群体の行き先は避難所よ』
「やってくれたね、色彩。ペロロジラは囮だ」
作戦本部内にどよめきが広がった。
「カヤ!即座に避難所のヴァルキューレに避難民の退避指示を」
「ま、間に合います!?あ、風倉さんも手伝ってください!シラトリ支所の交信に割り込みを!防衛室長の権限で許可します!」
「はーい」
それでも、リンはカヤへ指示を出し、カヤも急ぎ対応を行う。
『先生、誘因後こちらも避難所に向かいます』
「エリちゃん?でも、君たちは」
『ミカさんも戦闘は無理でも避難誘導ぐらいであれば可能かと』
『エリカちゃんの言うとおりだよ!』
「わかった。お願い。でも無理しないで」
避難誘導にエリカとミカが加わることは問題なかったが、先生はじゃああのペロロ・ミニオンはどうやって止めるのかと頭を悩ませる。
「迫撃砲隊はこちらにはいませんし……先生、あの数を制圧できる戦力が」
「ナギサの言うとおりなんだよね。これからペロロジラと戦う子達がいればいいんだけど、あっちには回せないし」
先生はいっそ大人のカードを使うか?と頭に過ぎる。だが、それは本当に最後の手段であり、他に手はないかと彼女は必死に考える。
しかし、D.U.周辺に機動力と殲滅力を兼ね備えた機動兵器の類はなかった。フリーの生徒も心当たりがあるが、あの波のような数の相手をできる力はない。
「迎撃できる装備はないんですか!?え?シラトリ支所は機動隊がメインって……」
カヤが先んじてヴァルキューレシラトリ支所の装備を確認している声が先生に届くが、都合よくそのような装備はないようだった。
「アコ、避難所にウチの部隊は?」
「給食部の護衛に議長の近衛隊と風紀委員はついていますが少数で…それに、今回は機動力重視だったので戦車隊もいません……」
「………マズいね。せめて主力部隊がいてくれれば」
ゲヘナ側の戦力も心許無く、ペロロ・ミニオンの侵攻を止める力はなかった。
「エリカちゃん!ここだよ!」
「よし!本部へ、目標交差点に到達!」
ミカさんを担いでなんとか目標の交差点には着いた。背後を振り向けば、ペロロジラが建造物を薙ぎ倒しながらこっちに向かってきてる。街をぐちゃぐちゃにされてしまったのは辛いけど、これしか手はない。
あとは先生が呼んだという援軍の子たちがここに来ているか。
「……あれか?」
「援軍の子達?」
あたりをきょろきょろと見れば、いた。援軍ってまさかあの子達?
「あの全身タイツの人たちなに」
「カイテンジャーだ。有名なテロリスト」
交差点の中にいたのは5色のヒーロースーツを纏った、見間違えるわけもない強烈な印象を受けるヒーローのような姿をしたテロリスト、カイテンジャー。シャーレに来てから二度もカイテンジャー絡みではやられてるので、今すぐ捕まえに行きたい。
向こうはこちらに気がついていないようだ。
「あれがカイテンジャーなんだ。実物は初めて見たかも」
「そっか、ミカさんは生徒会長だったから要注意人物のことは知ってるよね」
「一応ねー。けど、ほんと先生って気にしないんだね。生徒なら」
「今は非常時だから、手があるならなんでもなんだよ」
「それもそっか」
今度は耳が上空を何かが飛んでくる音を捉えた。なんだろう。上を見上げれば赤い空の中で黒点が一つ見える。それは途中で分離して、二つに分かれた。一つは交差点の真上で静止する。
すると、交差点の中のカイテンジャーたちが急に踊り…?いや、なんかポーズを決めると、突如どこからともなく、大きな寿司型の機械たちが這い出てきて、カイテンジャーたちは華麗な身のこなしでそれぞれ機械に乗り込んでいった。
そうして、5つの寿司型の機械が変形して、合体していく。
「ペロロジラは?」
「どうしたのエリカちゃん」
「あんな隙の大きい動きをしていたら攻撃されるかもって」
「距離あるから大丈夫じゃない?」
私の懸念をよそに、カイテンジャーの機械──ロボットになったそれは変形合体を完了させる。なるほど、先生はこれをぶつけようと。そして、おそらく今空にいる何かが、このロボットを巨大化させる。
巻き込まれる危険性がある。退避しないと。
『こちらはミレニアム、飛鳥馬トキ。これより試作巨大化光線銃を発射します。カイテンジャーはそのまま動かずに待機。草鞋野さんは退避を』
「草鞋野、了解!退避する」
空にいるのは飛鳥馬さんのようだ。……そういえば、夏に飛鳥馬さんはカイテンジャーに扮して私を襲ってきたんだよね。なんだか因果を感じる。
警告に従い、ミカさんを背負ったまま今いるビルの屋上から飛んで逃げる。直後、空から極光と言えばいいのか、ふっといビームのようなものがカイテンジャーのロボットに直撃して、一瞬にしてカイテンジャーのロボットがペロロジラ並に巨大化していく。
「すごっ。ほんとにおっきくなったよ!?」
「これならいけそうだね」
ミカさんと同じく、私も内心驚いていた。これならいけるかもしれない。
『KAITEN FX Mk.∞ッ!ここに見参!いくぞ怪獣!』
前口上を発して、カイテンジャーのロボットは極力建物を破壊しないように頑張ってペロロジラに突撃していった。被害を減らそうという心構えに関してはちゃんとヒーローという自覚自体はあるらしい。これで無茶苦茶なテロリストじゃなければいいのに…。
「よし。ここはもうあれに任せて、私たちは避難所に急ごう」
「……間に合うかな?」
「間に合わせる。しっかり捕まってて」
次は避難所の避難誘導。なんとか被害を出させたくない。相手はミカさんの決死の一撃を利用してきた。そこが私は許せない。
全力で私はまた地面を蹴って、大きく飛んだ。ハルナ、どうか無事でいて。
お読みいただきありがとうございました。次回はまた明日です。
いつも感想、ここすきありがとうございます。大変励みになっています。
ちなみに、ちょこちょこ出番のあるクルセイダーちゃんはかなり魔改造されているので、最低二人で運用可能な実質見た目がクルセイダーのガンダ◯の61式戦車です。
そして遂に公式と愛称も被っちゃった本作の主人公。
ワイルドハント楽しみ…!