頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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本当に長らくお待たせして申し訳ない。今年はもうちょいひんどよく…。

とりあえず今日から3日間は連続投稿です。


Area-24「エリドゥ宇宙港 #誘拐 #発進準備 #決起」

 小休止を挟んで私はナギサちゃんと車で、ミレニアムのエリドゥへとまたやってきていた。怒涛のようなクーデターからの反撃、虚妄のサンクトゥム攻略戦を経て、ここには一昨日来たばかりなのにまるで何日も経ったかのような感覚だった。

 

 エリドゥに来てすぐに向かったのはこれから宇宙に向かうための宇宙戦艦が置いてあるマスドライバー施設。既に準備が開始されているのか、施設周りも忙しそうにミレニアムの生徒が動き回っていた。

 

「ナギサちゃん、少しは寝れた?」

 

「はい。ありがとうございます。丁寧に運転をして頂いて」

 

「全然。いつも通りだよ」

 

 一晩中オペレートしてくれていたナギサちゃんは途中で眠くなったのかここまでの道のりで寝てしまっていた。起こさずにこれてよかった。私はどういうわけか眠くないのでこのまま行こう。

 

 シャーレビルにはミカさんを残してきてしまったけど、モモトークで「声ぐらいかけてもよかったじゃーん!けど、絶対帰ってきてね!」とメッセージが送られていた。言われなくても、絶対に帰る。ナギサちゃんも一緒に。

 

「先生はどちらにいらっしゃるのでしょうか?」

 

「先生は先にヘリで向かってたし、もう着いてるんじゃないかな。あそこ、ウチのヘリあるし」

 

 マスドライバー周りのヘリポートにはシャーレのマークが入ったヘリが着陸していた。DINGO小隊に奪われてたけど、放置されてたのを発見したので、独断でシャーレに協力してくれていたヴァルキューレ警備局の子達が奪還。運用してくれていた。

 

 先生はわざと私たちを置いていったのはわかってる。………優しすぎる人だと思う。大人だから、あの小さな肩に重荷を率先してかつごうとしてる。

 

 さて、これから先生たちに合流をしなくちゃいけないけど、とりあえずマスドライバーの中に入らないと。ナギサちゃんに「行こう」と声をかけて歩き出すと、どこからか猛スピードで走ってくる車の排気音が聞こえる。

 

「エリカさん?」

 

「ごめん。なんか突っ込んできそう」

 

「え」

 

 音が聞こえたとおり、目の前のマスドライバー施設の敷地入り口ゲートを派手に突き破ってドリフトしながら黄色のトラックが停車した。まさかこんな状況で敵かと私は思わず銃を抜くも、運転席や荷台の生徒たちの姿を見て手を止める。

 

「あれは……ハルナさん?」

 

 ナギサちゃんが運転席にいるハルナに気がついてか、名前を呼ぶ。ハルナもこちらに気がついたのか、何やら荷台に乗っている美食研究会の子達に指示をしたあと、颯爽と降りてくる。

 

「エリカさん、先ほどぶりですわね。ナギサさんも」

 

「ごきげんよう、ハルナさん」

 

「ええ、ごきげんよう」

 

 二人の会釈は様になるし、さすがお嬢様だ。

 

 それにしても、あのトラックの荷台にいる美食研究会の子たちは何を降ろそうとして──

 

「んむっ〜〜〜む〜〜〜〜!」

 

 ──荷台から下ろされたのは簀巻きにされた何者かだった。

 

「ハルナ、ついに現行犯だね」

 

「へ」

 

 ノータイムで銃口をハルナの額に突きつけた。ついに見てしまった。美食研究会首魁の現行犯を。まさかの美食とは関係ない拉致だけど。

 

「は、ハルナさん?あれは一体」

 

「お、お待ちになって?エリカさん。違いますの」

 

「言い訳は署で聞く。両手を上げ、そのままその場で伏せろ」

 

「ハルナさん……そんな…人攫いだなんて、嘘ですよね?」

 

「ナギサさんも!?あ、アカリさん!ちょっとこちらに!?」

 

 助けを呼んでかハルナが鰐淵さんを呼ぶと、彼女はけらけらと笑いながら簀巻きにされている子を担ぎながらやってきた。担がれてる子は有角の子で、猿轡までされてる。私を見てか涙目ながら何かを訴えている。

 

「どう見ても拉致してきたようにしか見えないが?」

 

「まぁまぁ。ほら、本人に聞いてみましょう」

 

 鰐淵さんが軽い声音で言いつつ雑に猿轡を外した。

 

「助けてください」

 

 担がれていた子は切実な声音で言った。

 

「警告する。人質を解放し、その場に伏せろ」

 

「エリカさん!?ご、誤解ですわ!」

 

「いやどう見ても誘拐してきたでしょ。拉致でしょ。何が誤解」

 

 どうやってもこれは言い逃れできないでしょ!簀巻きの子を担いでいる鰐淵さんは笑ってるのはどういうわけ?!赤司さんはなんか額に手を当ててため息ついてるし。獅子堂さんは特に動じずに何かを食べていた。

 

「とにかく全員逮捕──!」

 

 人攫いなんて絶対ダメ!有罪!

 

 

 

 

 

 

 

「すいません。忙しい時に騒ぎにしてしまって」

 

「いえ…そんなことは」

 

 美食研究会を逮捕しようとしたら助けを求めていたはずの子が「待ってください!」と私を制止したので驚いてしまい、冷静さを失っていた私は固まってしまった。その隙に(?)拘束を解かれた攫われた子は鰐淵さんから降ろされて、簀巻きにされてトラックに乗せられていた経緯を話してくれた。

 

 その経緯を聞いた結果、私はなんともいえない顔でハルナを見ていた。

 

「………宇宙でご飯食べたいからって人を簀巻きにするんだ。この状況で?」

 

「……う……」

 

「ハルナさんがそこまでされるほどとは……ということはこちらの方はゲヘナでも至高の領域にいらっしゃる料理人の方だと?」

 

 私がハルナを責めた目で見ているけど、ナギサちゃんはなんでか冷静にそんなことを尋ねていた。簀巻きにされていた有角のあどけなさを感じる子は制服の上にエプロンを着けていて、確かに料理人……料理好きな子っぽいけど。

 

 いや、あの料理に口うるさいハルナがわざわざ簀巻きにして連れてくる子だから本当にすごい子なのかな。

 

「すごい方ですよ。なんせ彼女、ゲヘナの給食部の部長さんですし、ほぼワンマンで一日千食以上を提供してますからね」

 

 鰐淵さんが言った内容が本当ならちょっとありえないので私はびっくりして目を向ける。一人で一日千食………?物理的にそんなこと可能なの?本当なら人間業じゃない。ナギサちゃんをチラリと見ると、彼女も衝撃を受けていた。

 

「あー…この人たちの話を鵜呑みにしないでくださいね。もちろん材料の買い出しとか、色んなことは部員に手伝ってもらっていますから」

 

 流石にそうだよね。と一瞬納得しかけて、今の話は調理のことを否定していなかった。

 

「えっと」

 

「愛清フウカです。あなたが、草鞋野さんですよね」

 

 簀巻きにされていた子──ゲヘナ給食部の部長だという愛清さんは朗らかな笑みを浮かべながら自己紹介してくれた。さっきまで宇宙でご飯食べたいからという理由で攫われて簀巻きにされていたにしてはもう落ち着いていた。

 

 それに、私のことを知っているらしい。会ったことはないけど……。

 

「私のことを知っているんですか?」

 

「はい。ハルナや先生からお話は聞いたことが」

 

「そうなんですね。愛清さん、改めてシャーレの草鞋野です。もしさっきみたいなことがあったら遠慮なく通報してくださいね」

 

「はは……まぁ、もう……いつものことなので……」

 

 や、やさぐれている。ハルナにジトっと目線を向ければ、彼女は顔を逸らした。何をやってるんだか。ナギサちゃんはハルナに失望してしまったらしょうがないと思ったけど、なんだか彼女は愛清さんに興味津々みたい。

 

 ハルナの美食への拘りは友達になってから知っただろうし、わざわざ攫ってまで連れて行くということからそれほどまでの技量を持っていると気になってるのかな。私も、気にならないかと言えば気になってしまう。

 

 やさぐれるほど何度も連れ出しているというのなら、あのハルナが認めているということ他ならない。よくよく考えなくても気にいらなければドカンなハルナが認めているのはとんでもないことだよ。

 

 まぁ……いいか。とりあえず、愛清さんが拘束を解かれても私に美食研究会の摘発をお願いしないどころか止めたということはじゃれあいの範疇、ってことにして、今は不問としよう。

 

「そういえば、一昨日草鞋野さんが私に乗り捨てるように言ったバイクは、フウカさんの私物なんですよね」

 

 鰐淵さんの言葉を聞いて1秒後、額を地面につけていた。

 

「本当に申し訳ありませんでした」

 

「えっ!?いや、待ってください!一応アカリから話は聞いてますから!緊急事態で、襲われてたって……」

 

「それでもです。あなたの私財を無断で破壊するような指示をしたことを謝罪します」

 

「えぇっと……大丈夫です。壊れてしまったものはしょうがないですし。キヴォトスがこんな状況ですし……それに、新車を今度ハルナに買ってもらうので」

 

 顔を上げると、愛清さんは本当に気にしていないと言わんばかりに困った笑みを浮かべていた。……さっきから思ってたけど、この子本当にゲヘナの生徒なんだろうか。言ってしまうのは本当によくないけど、なんだかとても人が出来ている感じがしている。

 

 申し訳なさが消えないけど立ち上がる。はぁ、ハルナたちが変なことをしてるから騒いじゃった。周りのミレニアムの人たちはこちらをちらちらと見ていたけど、やることがあるためか、スルーしてくれている。助かった。

 

「それとこちらの方は?ハルナの友達みたいですけど……トリニティの方ですよね」

 

「自己紹介が遅れてしまいましたね。桐藤ナギサといいます」

 

 ナギサちゃんが柔らかく挨拶をすると、愛清さんも「よろしくお願いします」と返していた。返した直後に愛清さんは何か気がついたかのように目を見開き、ハルナにバッと振り返った。

 

「……待ってハルナ。いつも言ってたお友達ってこの人のこと?」

 

「そうですわ」

 

「トリニティの生徒会長さんだよね」

 

「言っていませんでしたわね、そういえば」

 

 愛清さんはナギサちゃんがトリニティの生徒会長であることに気がついたようだった。ハルナも言ってなかったんだ。やっぱりそういうところはちゃんとしてるなぁ。ナギサちゃんの立場のことも考えてくれてるんだろうね。

 

 本当に、なんでこんな気遣いもできるのにハルナはテロリストなのか。今更考えることではないけどさ。

 

「愛清さん。今、私がトリニティの生徒会長であるということは気にしないでください。この難局を前に、私は個人として協力に来ていますから」

 

「そうなんですか…わかりました。なら、私は気にしないようにしますね」

 

「ありがとうございます」

 

 ナギサちゃんが手を差し出し、愛清さんと握手を交わす。この短時間でも愛清さんの人の良さがわかるので、二人の握手はなんてことはないものに見えた。ゲヘナ生とトリニティ生の隔たりなんてまるで感じさせない。

 

「ハルナ。まさか本当に宇宙でご飯食べたいだけで来たわけじゃないよね。ここに来たってことはシャーレに協力するためにってことだよね?」

 

 落ち着いてきたのでハルナたちの意志を確認する。

 

「いえ、ハルナは宇宙で──っむぐ!?」

 

「宇宙に行ってみたかったのですわ。それに、エリカさんの無茶を止めるにはナギサさんだけでは心配でしたの。宇宙食は努力目標です」

 

 あまりに胡散臭かった。ハルナが笑顔で、とてもいい笑顔で話しているけど、あの鰐淵さんの口をとんでもない速さで塞いでいた。鰐淵さんは顔をかなり顰めて、すぐにハルナの手から口元を離すと、懐からウェットティッシュを取り出してハルナが触れたところを拭いていた。

 

 そういえば鰐淵さんは結構な潔癖症だった。

 

「…………はぁ」

 

 愛清さんは呆れてため息をついているので、たぶんハルナは本気で宇宙食に興味があっただけみたいだ。ナギサちゃんは……流石の彼女も苦笑いしていた。心が大海のごとく広すぎじゃないだろうか、ナギサちゃん。

 

 あと私を誤魔化しのダシにされたのは嫌だけど、それでも何も言い返せない。私も色々と人のこと言えない。

 

「とりあえず、ここでずっと喋ってるわけにもいかないし、マスドライバーの中に入ろう」

 

 ともあれ、強行突破が必要な場面では、無茶苦茶できる美食研究会は心強い。私たちはマスドライバー施設に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 惑星強襲揚陸艦ウトナピシュティム、その艦橋に先生は先んじて志願してきた生徒たちと登ってきていた。志願してきた生徒と言っても、ほとんどは虚妄のサンクトゥム攻略戦時に作戦本部で支援を行っていた生徒たちだ。

 

「まさか本当に宇宙戦艦なんてものがあるなんて……こんなものを作って何をしようというのですか」

 

 艦橋にまで上がって、宇宙戦艦の威容に圧倒されていたアコがミレニアム対する疑念を口にする。アコの発言はその場にいた者たちからすれば受け取り方はそれぞれ違うものの、一様に気持ちはわかると頷いていた。

 

「ちなみにだけど、これを作ったエンジニア部は映画撮影とかでレンタルできるようなサービスを考えてるよ」

 

「はぁっ!?こんな超兵器で!?」

 

 が、アコの懸念していたことなど製作者であるエンジニア部は露ほども考えておらず、ウトナピシュティムの改造を唆した張本人である先生がアコに補足すれば、彼女は驚きの声を上げたのちに愕然とした。

 

「(いえ、しかし、納得です。過去、情報部でもミレニアムの脅威論はありませんでした。有り余る技術力が全て趣味へと投じられているようですし……まさかこんな超兵器も使おうと考えてないなんて)」

 

 表情をころころ変えて忙しいアコを横目に、カヨコは事前に聞いていた古代の遺物という話からは考えられないほど近未来的な内装に目をやる。

 

「これがアビドスに埋まってたなんて。社長から聞いた時は本当か疑っちゃったけど」

 

「……アビドスの地下にあったものがこんな立派な宇宙戦艦になるなんて……ミレニアムの技術には驚かされますね」

 

 機械弄りを日常的にしているアヤネからすれば想像も出来ないほどの技術力の差に、圧倒されるばかりだった。

 

「どれだけお金かかってるのかしら。ウチじゃ考えられないぐらいかかってそう」

 

「うーん。一般的な戦闘艦って結構高かった気がするので、それで宇宙にまでってなるとちょっと途方もなさそうです」

 

「いやぁ、もうなんだかおじさんはついていけないよ」

 

 続けてアヤネ、ノノミ、そしてウトナピシュティムを発見した一人であるホシノもそれぞれの感想を口にする。ホシノは緩く言葉を溢しながらも、仮にこの船がカイザーの手に渡っていれば、万事休すだったと改めてエリカとの砂漠での出来事は頑張った甲斐があったと胸を撫で下ろした。

 

「……まさかこんなものが」

 

「現実とは思えないな。珍しくミユも固まってるし」

 

「ひえ……」

 

「いやぁ、浪漫だね。これで敵の要塞に特攻でしょ?最高にゾクゾクする」

 

 地上での虚妄のサンクトゥム再出現に対する備えをFOX小隊に引き継いだRABBIT小隊の4人は二度と先生が攫われないように、カヤからの指示で先生の護衛役として同行することになりこの場にいた。

 

「ケイ!ブリッジです!最高にSFしてます!」

 

「アリス。走ると危ないですよ」

 

「すっご!マジで宇宙戦艦じゃん!あ。アリスあれ見て!艦長席!」

 

「本当です!行きましょう!」

 

「才羽姉!走らないでください!ミドリもなんとかしてください」

 

「あはは……でもテンション上がっちゃうのはしょうがないんじゃないかな」

 

「……わかりはしますが。ユズも部長なら一言二言……って、居ない…」

 

「ユズちゃんはいるよ、あそこ、隅っこに」

 

「あぁ…はぁ。とにかく怪我だけはされても困ります」

 

 RABBIT小隊に続いて艦橋へと入ってきたのはゲーム開発部の面々だった。ゲームなどでよく見る宇宙戦艦の艦橋そのものに興奮したモモイとアリスが駆け回り、ケイが制止しようとし、ミドリは苦笑い。ユズは人口が多くなった艦橋の隅にいた。

 

「コラーッ!モモイ!走らない!」

 

「ゲェッ!?ユウカ!?」

 

 そしてモモイの首根っこを捕まえたのはゲーム開発部の保護者と言わんばかりについてきたユウカだった。

 

「ちょっ!離してよ!?」

 

「他校の人もいるんだからお行儀よくしなさい!」

 

「別にいいじゃん!ミレニアムの中だし」

 

 不満げなモモイにユウカはため息をつく。

 

「あら、早瀬さん。あなたも志願されたんですか?」

 

「どうも、天雨さん」

 

 子守りとは大変だ、と言わんばかりのどこか小馬鹿にしたかのようなアコの表情に、ユウカは営業スマイルで応えた。二人の仲は決していいものではなく、ユウカに掴まれているモモイは普段とは全くレベルの違うユウカの発する圧に息が詰まった。

 

「おや。お取り込み中でしたでしょうか」

 

 ユウカとアコの鍔迫り合いのような視線のぶつけ合いに微妙な空気となった艦橋へ、更に楽器のような声が響く。

 

「明星ヒマリ。あなたも同行するのですか?」

 

「えぇ、ケイ。リオに地上を任せるのなら、私は宇宙に上がったほうがいいと思いまして。どちらにせよ、電子戦もありえますから」

 

 アコは新たに入室してきたヒマリに目を向ける。まるで生徒会長クラスの生徒が持つような不遜さ。アコですら気後れするヒマリの儚げでありながらも威圧的な美貌によって、彼女が反射的に噛みつこうとすることをさせない。

 

「(噂に聞くミレニアムの称号持ちの天才。さっきもモニターで見たけど、こうして目の前にすると………アコも静かになるくらいだから本物だね)」

 

 カヨコの目線を受け流し、ヒマリは先生の傍まで車椅子で移動する。

 

「思ったよりも賑やかで驚きました。先生、これで全員ですか?宇宙に上がるのは」

 

「いや、あとエリちゃんとナギサ、美食研究会。それに連邦生徒会からリンちゃん、モモカ、アユムも来るよ」

 

「なるほど。こちらもエンジニア部からウタハがヒビキとコトリを連れてきます」

 

「うん。それで全員だね」

 

 先生は艦橋の最も前の部分。操舵手が座る操縦席の前までやってきて振り返る。艦橋に入るには多い人数だが、世界を救うには少なく見える人数がそこから見えた。艦橋の入り口からまた何人か生徒たちが入ってくる。

 

 エリカに連れられたナギサ、ハルナを初めとした美食研究会。そして、モモカとアユムを付き従えたリン。

 

 どうしてか、キヴォトスの生徒には認識されていないアロナの制服とよく似た制服を纏ったエリカの瞳が、先生を認める。迷いなんてとうにないと言わんばかりの澄んだ碧の瞳だった。

 

「………さて、みんな。改めて聞くけど、これから私は宇宙に行って一連の騒ぎの元凶を止めて、捕まっている生徒を救いに行くよ。今回ばかりは、みんなの先生としてい続けられるか保証できない。私はここで降りても絶対に引き留めない」

 

 先生が語り出す。それは、皆に覚悟を問うているものではなく──その場にいる生徒たちの目に映る、一人の大人が覚悟を決めるための独白だった。

 

 この場にいる生徒たちはとっくに知っている。目の前の大人が、生徒たちのために大人になってくれているのだと。

 

「脱出手段は、ミレニアムの優秀な子たちが万全を尽くしてくれてる。けれど、相手は悪辣な手を平気で使う。帰ってこれる保証なんてどこにもない。どれだけ私が頑張っても、みんなをここに戻すことはできないかもしれない」

 

 先生が一度目を瞑り、胸元に手を置く。大人と子供が同居していた先生の顔つきは今、幼さが前に出ていた。

 

「それでも」

 

 顔を上げ、先生はもう一度生徒たちを視界の全てに収める。全員が先生のことを見守っていた。

 

「それでも、私と一緒に行くって子はお願い。力を貸して」

 

 お願いに応える声はなく──帰ってきたのは一様に頷き、各々の表情を見せている子供達の姿だった。何を今更、と言いたげな生徒さえいる。先生はありがとう、と心の中で感謝を噛み締めながら、いつもの調子に戻った。

 

「じゃ、この宇宙戦艦で敵要塞に殴り込みだァー!」

 

「「おおー!」」

 

 

 

 

 

 

 

「というわけでブリッジに配置される生徒の皆さんにはこちらを叩き込んで頂きます」

 

 みんなでおーっ!と掛け声を合わせた直後、明星さんが膝からかけていたブランケットの中からとんでもなく分厚いマニュアルのようなものを取り出して掲げていた。みんなの目が明星さんの抱えたものに向く。

 

 ………なんか明星さんの手、重いのかぷるぷるしてない?

 

「ヒマリ、それって」

 

「先生、わかりますよね?この艦の説明書です」

 

「分厚……全部読み込める?明日の早朝出発だけど」

 

「あぁ、何も全部が全部ではないですよ。担当パートごとに分かれてますからね内容は」

 

 先生の質問に答えてくれた明星さん。全部読めというわけではないことに安心する。私は流石にこんな戦艦動かすなんてことはできないし、たぶん配置はされないんじゃないかなぁ。

 

「だとしても無茶すぎるっしょ」

 

「そちらの行政官に同感です。いくらなんでも時間が」

 

 交通室長と天雨さんがそんなことを言えば、明星さんは笑顔で口を開いた。

 

「であれば、脳への直接書き込みもできますよ」

 

「はい?」

 

「ゲヘナの天雨さん。実験段階の代物ですが、生体への電子データの直接ダウンロードが可能な装置があります。読めない、ということであればそちらも案内できますが……」

 

 なんかものすごい怖いこと言ってない!?

 

「……エリカさん。彼女は何を言っているのでしょうか」

 

「大丈夫ナギサちゃん。私も理解したくないから」

 

 天雨さんは絶句していた。いや脳みそいじくり回せる機械があるって衝撃。なんだか艦橋内が凍りついてる気が。

 

『失礼するわ。その装置は開発を凍結したから今は存在しないわ。悪いけれど本か、データのものを渡すから頑張って読み込んで頂戴』

 

 通信で割り込んできた調月会長がその機械の使用を否定する。流石にミレニアムでもヤバいもの扱いみたいだ。

 

「……で、ですよね。そんなものあるわけ……あ、いえ、開発を凍結したってことはあったんですか……?」

 

「アコ。引っ掻き回すのやめて。それで、この船を動かすメンバーをどうするの?先生」

 

「今から決めるよ。独断と偏見になるけどいいかな」

 

「生徒のことは先生がよくご存知ですから、先生に一任します」

 

「ありがとリンちゃん。それじゃあね、今から名前呼んだ子はよろしくね──」

 

 それから先生による艦橋に詰めるメンバーとなる子たちの名前が呼び上げられた。

 

 操舵手はアヤネちゃん。

 

 通信手は天雨さん、交通室長、調停室長。

 

 レーダー観測員は早瀬さんと鬼方さん。

 

 電子戦担当は明星さん。

 

 納得の人選で、みんな特に異論がない。

 

「えっと、あとは……」

 

『先生。この艦は戦闘もできるからね。砲戦を指揮する副長が必要だよ』

 

「うおっ、ウタハ聞いてたんだ」

 

『もちろん』

 

 白石さんの声が艦内放送で流れてきた。彼女が言っている副長に適任な子は誰かいるのだろうか、と思ったところで私はふと横を見た。ナギサちゃんだ。

 

「エリカさん?」

 

「よし。じゃあ副長はナギサで」

 

「え。私ですか……!?」

 

「ナギサはトリニティで迫撃砲部隊の指揮官も兼任してるもんね」

 

「よくご存知で」

 

 先生も知っていたけれど、ナギサちゃんはティーパーティーのホストであると同時に、迫撃砲部隊の指揮官なのはトリニティでは有名な話。砲撃の爆風の中でもナギサちゃんは紅茶を溢さないなんて話も聞いた。

 

 護衛をしていた時はそんな側面見なかったけど、簡単に想像できちゃう。

 

「いいかな?」

 

「承りました。艦艇の砲撃は心得がないですが、精一杯努めさせて頂きます」

 

 ナギサちゃんは快く、といった感じで引き受けていた。

 

 そのあとも先生による配置決めは流れていって、ナギサちゃんの補佐には風倉さんが充てられた。風倉さんはRABBIT小隊でビークルのオペレーターも兼任していたから、いいかも。

 

 最後に、艦長は七神代行とされ、先生はそのオブザーバーとなった。

 

「──以上!艦橋の子たちはこれからミレニアムの子達からレクも受けてね!」

 

 艦橋の配置は決まった。となると残された私たちは。

 

「先生、それじゃあ他の子たちは突入班ってことかな?」

 

「そうだよホシノ。細かいことは後でブリーフィングをするから、作戦とかはその時に」

 

「りょーかい。じゃあそれまでゆっくりしておこうか〜」

 

 ホシノちゃんが代表して聞いてくれたけど、やっぱり突入班らしい。となれば装備も整えないと。ライフル一本だけじゃ心許ない。

 

「突入班となればやることはいつもと変わりないですね」

 

「なんかそれじゃ私たち強盗みたいじゃない……?」

 

 鰐淵さんの言葉に、赤司さんのなんとも言えない声が聞こえた。うん。気持ちはわからなくもない。でも、鰐淵さんのやってることは強盗よりもタチが悪い気がする。

 

「あの、先生!まだ出発まで時間があるなら、みなさんにご飯を用意したいのですが!」

 

「いいよ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 愛清さんが自発的に給仕を志願していた。この子ほんとにすごい良い子なのかも。

 

 艦橋の配置が決まったからか、ひとまず突入班になる私たちは一旦解散ムードになってきていた。といってもこの船のどこに待機すればいいのか、となっていたら天童さんが駆け寄ってきた。

 

「エリカ!久しぶりです!」

 

「久しぶりだね、天童さん」

 

「アリスでいいです!エリカ!ケイのことも名前で呼んでいますから!」

 

「それもそうだね。それじゃあアリスちゃん、どうしたの?」

 

「せっかくですからこの船の中を冒険しましょう!」

 

 どうやら船内の探検に誘われてしまったらしい。ナギサちゃんを見れば、彼女は微笑んでどうぞ、と笑ってくれた。彼女もこれからレクを受けるし、一旦ここから離れるにはちょうどいいかな。

 

「うん。いいよ」

 

「やりました!エリカがパーティーに加わりました!それじゃあ行きましょう!」

 

「うわっ、いきなり!?」

 

 了承したらグイッと引っ張られてしまった。力強いなぁ。私はそのままパタパタと天童さん──アリスちゃんと一緒に船内の散策へ出発した。

 

 




お読みいただきありがとうございます。
次回はまた明日の午後11時です。
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