頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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お待たせしました。今回は今日から3日間連続投下です。



Area-27「宇宙空間 #突撃 #衛星砲 #強襲揚陸」

 宇宙に船が上がった。そこまではよかった。が、その直後にものすごい船が揺れ動いた。

 

「ウワーっ!?」

 

 結果私は、今いる格納庫中でなんだか浮いてるというか錐揉みしている!これが話に聞く無重力。 言ってる場合か!?

 

「エリカさん!?何をしていますの!お身体を固定なさって!」

 

「流石に助けて!誰か!」

 

 ハルナは他の部員たちと一緒に配布された宇宙服の足裏についてるマグネットで床についてる。他の揚陸班の子達もみんな何かしらで固定されている。私はそれをし忘れた結果これである。

 

「エリカ!捕まってください!」

 

「アリスちゃん!」

 

 このまま錐揉み回転することになるのかと思ってたら量産型アビ・エシュフを装備したアリスちゃんが私にパワードスーツのアームを伸ばしてくれていた。彼女は器用に格納庫の天井に機体を固定している。

 

 伸ばしてくれたアームに私は捕まってなんとか止ま──らなかった。そのままべしっと天井に顔面からいった。

 

「ぶべっ!」

 

「あぁ!エリカが雑魚敵みたいな声を出しています!」

 

「あははっ!エリカさんもそんな声出すんだね!」

 

「お姉ちゃん!失礼!」

 

「流石にどうかと思いますよモモイ」

 

「ケイ辛辣すぎない!?事実じゃん!」

 

 情けない姿をゲーム開発部に晒してしまった。

 

「アリスちゃん、今どうなってるの?」

 

「攻撃を受けています!戦闘中です!」

 

「要塞からってこと?」

 

「はい!でもよくわかりません!」

 

 よくわからないって。ブリッジに状況を誰も確かめてないのかな。いや私自身も宇宙に上がったと思って数分後にこんな揺れまくったところで情けなくぶっ飛んでしまったのだけれど。

 

 他の子達、突入班は私と美食研究会の他、ゲーム開発部とホシノちゃんたちアビドスの子達。ホシノちゃんはどうしてるのか。

 

「先輩こんな状況でなんで寝てんの!?」

 

「無重力だからどこでもベットだー♪ですって」

 

「ノノミ先輩ちゃんとつかんどいて!こんな時なのにもー!」

 

 寝ていた。案の定、セリカちゃんに怒られている!このまま格納庫でやられちゃうのは勘弁だし何か私たちにできることないの!?

 

『これより本艦は敵要塞、バリアーに対して特攻します。総員、衝撃に備えてください』

 

『格納庫の皆さんは身体をよく固定してください!』

 

『説明します!現在この船は時速約890kmで航行していますのでそれが一瞬で0になった際の衝撃力は──』

 

『コトリ!怖いから先生怖いからそういうの!』

 

 ブリッジからの放送はひっちゃかめっちゃかだ。けど一つだけわかったのか、この船の目的地にもう到達するということ。そして問題は、この状態で果たして身体は固定されたのかということ。

 

「アリス!草鞋野エリカを抱えるように固定を」

 

「ケイ、わかりました!」

 

「でないと試作リニア詰め込まれた亀の二の舞になります」

 

 待った、なんだそれ。絶対ロクなものじゃないよね!?

 

「エリカさん!?大丈夫ですの!?」

 

「はい、ハルナは私たちと一緒に捕まっていましょうね〜」

 

「アカリさん!エリカさんが?!」

 

「大丈夫ですって、あの人、頑丈ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 ──数分前、ウトナピシュティム、ブリッジ。

 

 宇宙戦艦で敵要塞に突入なんてキヴォトスに来る前の私に言ったら正気を疑うのではないか?という状況が目の前に広がっております。いやほんとにこんなことになるとは思わんかったよ。

 

「リン先輩、目標高度に到達しました!」

 

「わかりましたアユム。アヤネさん、進路を敵要塞へ」

 

「はい!艦首回頭、敵要塞へ進路を向けます!」

 

「回頭後、最大戦速。各員、警戒を厳に」

 

 リンちゃんの艦長はかなり様になっていた。いや発進の時もちょっとさ、正直なところめちゃくちゃワクワクしちゃったというか。子供たちをこんなことに巻き込んで最悪なのにさ。

 

 それでも、やるからにはビクビクはしていられないから普段通りに振る舞おうとしてこのシチュエーション。燃えないわけがない。

 

 ウトナピシュティムのブリッジはウタハ曰く、ほぼアビドスで発見されたままの状態らしいけど、私とリンちゃんが座ってる席の手前下に用意された火器管制、CIC席だけは戦艦化に合わせて追加されてる。

 

 この戦艦のデザインはかなり私もウタハと悪ノリして実はシャーレの予算ちょっと使っている。この騒動の後のアオイにバレた時のことを考えたくないねぇ。いや、エリちゃんにもだが。

 

 総じて、いい感じにこう、種っぽい感じというかね?いいデザインのCICが真下に見えるし、ナギサが副長としてよく似合ってる。

 

 アヤネがドライバーってことで無駄なく操縦していて、今もリンちゃんの指示で一気に艦が加速してる。ちょっとシートに背中が引っ付く感じがあるし結構な加速度みたいだ。で、向かってる先はブリッジの窓から見えてるけどほんとに空間が歪んで黒い球が見えてる。

 

「あれが多次元解釈バリアーね。ほんとに黒い球だ」

 

「はい、先生。空間を歪曲させるほどの強度のようです。仮にこのまま何もせずにぶつかれば次元の間で捩じ切られて細切れとなって通過できるでしょう」

 

「怖いこと言わないでください!?」

 

 さらっとヒマリから怖い解説がされた。アコちゃんは悲鳴を上げながら顔が青くなってるよ。やめたげて。

 

「でも、そうならないようにできてるんでしょ、この船」

 

『もちろん!さっきコトリが説明してくれたがこの船にも多次元解釈バリアを張ることができる!それに、ただ張るだけではなく相手のバリアと接触すればその側から相手のバリアと次元を合わせてバリア内に突入が可能だ!』

 

 カヨコのフォローするかのような質問に艦の下、第三艦橋にいるウタハが意気揚々と答えていた。気持ちはわかる。相手のバリアをぶち抜くの、ロマンだよ。あと第三艦橋はフラグ、って言ってたんだけど作ったんかい……一応某宇宙戦艦みたいに飛び出していないから被弾して即アボンってことにはならないみたいだけど。

 

「ということですので、全力で突っ込みましょう」

 

「ほんとに大丈夫なんですか……?」

 

「まーなんとかなるんでない?」

 

 アコちゃんの不安をよそにモモカのなんとも言えない返事のあと、ほんとに艦が一直線に要塞のある黒い球に突っ込んでいく。この距離なら10分もしないうちに着くらしい。着いたら私はアビドスの子達+ミヤコ&サキと一緒に要塞に突入だ。

 

 ミユとモエは船の護衛として残ってもらう。

 

「………ん?進路上に反応をキャッチしたわ!」

 

「何これ?なにかの構造物?」

 

 そのまま突撃、とはいかないのかユウカとカヨコから報告が飛んでくる。

 

 何かが進む先にあるらしい。窓から見てもよく見えない。

 

「風倉さん、モニターに捉えられますか?」

 

「はいはい副長。映すよ〜」

 

 ナギサの指示でモエが外のカメラで進路上にあるものをブリッジ内のデカいモニターで映してくれた。ッ!?ヤベッ!

 

「回避──っ!」

 

 リンちゃんより咄嗟に叫んでしまい、アヤネは瞬時に私のお願いを聞いて艦の進路をそのままに真横に動いてくれた。めっちゃ身体が横に持ってかれる。すごいな横移動こんな早くできるんか。などと感心してる暇もなく、進路上に現れた物体。どう見ても巨大なレールガンのような衛星から何かが発射されて艦を掠めた。

 

「きゃあっ!?」

 

「ぐぅ……!アユム、被害報告!」

 

「左舷に至近弾!一次装甲一部破損!航行に支障ありません!」

 

 あぶなっ!マジで沈むとこだった!?

 

「識別信号……あった。所属はカイザーPMCみたい」

 

「カイザー?!嘘でしょ、なんで邪魔を!」

 

 ユウカの言う通りだよ。カイザーの連中がなんであいつらの味方を?いやでも連中は繋がってる様子なんて全くない。そもそも繋がってたらクーデターの時点で全部終わってたはず。

 

 なら、こういうありがちな話であるのは。

 

「待って。肩を持つわけじゃないけど、たぶんあの衛星色彩に操られてるんじゃないかな?」

 

 たぶんそうなので私が言えば、リンちゃんは「確かに」と頷いてくれた。

 

「鬼方さん。あの衛星はどういったものかわかりますか?」

 

「この船のデーターベースにあったよ。衛星砲“神の杖”。宇宙から大質量の弾丸を撃って運動エネルギーを元に地表に破滅的な破壊をもたらす戦略兵器……って書いてあるね」

 

 激ヤバな代物だった。というか、巡航ミサイルよろしくキヴォトスではオーパーツなんじゃね?そんな兵器。ゲマトリアの連中も一枚噛んでそう。

 

「なんでそんなものがあんなところに」

 

「天雨さんの疑問はもっともかと。艦長、如何様にされますか」

 

 ナギサからの問いにリンちゃんは真っ直ぐ前を向いている。

 

「突破します。桐藤会長、お願いします」

 

「かしこまりました。風倉さん、主砲展開!」

 

「イエス・マム!」

 

 このまま真っ直ぐ突破か。そりゃそう。

 

「衛星砲自体の装備はありますか?鬼方さん」

 

「今さっき撃ってきた“神の杖”って砲以外は特にないみたいだよ。ただ、再チャージがどうなるか」

 

「この船のデータベースにあったならウチのほう、会長は何も知らないんですか!?」

 

『ユウカ。落ち着きなさい。データ上、あの衛星砲は1発ごとのサイクルは長──』

 

 リオの通信での解説に安堵しようとした瞬間だった。

 

<先生!衛星砲が再チャージを完了しかけてます!>

 

 アロナからそんな声が届いた。うっそだろおい!

 

「次が来る!アヤネ!」

 

「えぇ!?」

 

「回避を!」

 

 凄まじい揺れが襲った。今度は当たった!?いや、違う、避けきれなかったからこの船自体がバランスを崩したみたいになってる。

 

「ぐ、ぅぅぅっ!」

 

 アヤネが必死に操縦桿を押し込んでなんとか軌道修正をしてくれている。だからウトナピシュティムはまだ前に進めている。

 

「反撃を…!スーパーノヴァ1番、2番、てーっ!」

 

 ナギサの叫ぶような指示が聞こえたと同時に鈍い射撃の反動みたいな振動。話には聞いてるアリスやケイの使うレールガン、それを艦載砲にして両舷4門にしたって言う主砲だ。

 

 当然、こんな船が無茶な動きしてれば当たらない。

 

「ハズレ!」

 

「先ほどの被弾でメインエンジン3番のノズルに損傷!速力2割低下!」

 

「構わず前進を!」

 

 どうする。あんな無茶苦茶な。MAP兵器を連打してくるような相手ってことでしょ?アロナ、なんとかこっちから電子的な反撃とかは?

 

<接触しないと厳しいです…!それより、このウトナピシュティム、攻撃を受けすぎたら多次元解釈バリアの展開装置に異常が出てしまいます!そうしたら要塞に突入が…!>

 

 かなりヤバイ。

 

「艦長!このままではジリジリと削られます!ハイパーノヴァ砲による正面突破を提案します!」

 

 ナギサの提案はかなり大胆だった。艦首についてる絶大な威力を持つエネルギー砲を突撃しながらぶっ放そうってこと。慎重派のナギサにしてはあまりにも強引すぎるやり方だ。……完全にエリちゃんの影響受けてるな!

 

 リンちゃんは一瞬考えて私を見た。頷く。このまま避け続けるのはたぶん無理だ。

 

「……わかりました。やりましょう。明星さん、こちらのバリアーは張れますか?」

 

「可能です。いずれにせよ衛星砲を破壊してそのまま全速で突き破るぐらいの勢いですから」

 

 やるらしい。頼むよ、みんな。

 

「これより本艦は敵要塞、バリアーに対して特攻します。総員、衝撃に備えてください」

 

「格納庫の皆さんは身体をよく固定してください!」

 

『説明します!現在この船は時速約890kmで航行していますのでそれが一瞬で0になった際の衝撃力は──』

 

「コトリ!怖いから先生怖いからそういうの!」

 

 それミンチになるやつ!

 

「リオ、こちらはこれから多次元解釈バリアを展開し、艦首砲を撃った後突入します。向こう側の多次元解釈バリアの計算は?」

 

『問題ないわ、ヒマリ。このまま展開して一気にいけるはずよ』

 

「わかりました。では多次元解釈バリアを展開──」

 

『……?待って!アトラ・ハシースのバリアの位相が変わったわ!』

 

 なんかリオから聞いたことがないぐらい焦った声が聞こえた。今なんて…?ブリッジの空気が凍りついた気がする。

 

「どういうことですか。ウトナピシュティム自体の演算とエリドゥからのバックアップがあるのですから、バリアを展開すれば自ずとこちらも相手に合わせて」

 

『無茶苦茶ね。こちらの計算速度を上回る形で常に位相──次元解釈を変えてきている』

 

「そんな……」

 

 何を言っているのかいまいちよくわからないけどなんか猛烈に嫌な予感がする。

 

「つまり、会長、相手は毎秒、数式……鍵を組み替えてきているような状態ってことですか……?」

 

『ユウカの理解が現状説明を最もしやすいわね。そういうことよ。突入に際して、バリア同士の次元を擦り合わせて同一次元にすることで私たちはアトラ・ハシースに突入しようとしていた。つまり合鍵を作るが如く』

 

「しかし、相手はそんなことわかっていたと。次元の操作など容易いと……!?」

 

『……やられたわ。これは、罠だったのかもしれないわ』

 

 悪辣そのものだった。つまり相手は最初からこうなるとわかって私たちをここに呼んだってことになる。バリアを突破できなきゃこっちは粉微塵だ。

 

 アトラ・ハシースは相手にとって切り札じゃない。やってくれるよ。プレナパテスっ!

 

「衝突まであと6分もないですよ!なんとかならないんですか!?」

 

「アコ、静かに。……とはいえ、どうすればいいの?」

 

「うっ!?回避はなんとかしますっ!何か、手段をっ」

 

 船が揺れる。アヤネが必死の操艦で時間を稼ぐ。

 

 今ここにある問題は2つ。衛星砲の突破と、多次元解釈バリアの突破。どちらも一挙に解決なんてできるの?

 

『…………手段は、あるにはあるわ』

 

「待ってくださいリオ。何を言い出すのかはわかりました。その上で言います。ダメです」

 

『………けれど、今はもうそれしか……』

 

 手はあるらしいけれど、嫌にリオの声が苦しい。まるでこれは。

 

「調月会長の取られる手段は、どなたかが危険なのですね?」

 

 同じく生徒会長であるナギサは気がついたみたいだ。

 

『わかるのね』

 

「えぇ。私もそうでした。ですから理解できます」

 

 誰かが犠牲となるような選択を、私たちは今、迫られている?それは私が、大人が背負うべきだ。生徒たちに背負わせるものではない。……アロナ、お願い、何かあるかな、秘密兵器とか。

 

<だ、ダメです!シッテムの箱と、大人のカードを使えば確かに何でもできますが……!多次元解釈の突破はどんな返しがあるかわかりません……!>

 

 でも、できる。やれる。なら私はやる。アロナ、ごめん。ちょっと無茶をするよ。

 

 席を立とうと、腰を上げた。そのときだった。

 

「え、これって……!甲板上部ハッチが稼働しています!」

 

 アユムの声が響く。

 

『アトラ・ハシースの力は元々、私たちのものです。なら、私たちが介入すれば直接バリアを破れるでしょう』

 

『任せてくださいリオ会長!アリスとケイが何とかします!』

 

 宇宙空間、甲板の上に、トキのものから幾らか簡略化されてる量産型アビ・エシュフを身につけたアリスとケイ、それにどういうわけかエリちゃんがいた。

 

 ………エリちゃん!?

 

『調月リオ会長。ここはお二人に任せてみましょう。生徒会長とは、信じるものですよ、後輩たちを』

 

 なんか変だエリちゃんが。こんな、なんというか艶がかった喋り方する?

 

『あなたは何を言っているのかわかっているの、草鞋野エリカ。確かにアリスとケイのアトラ・ハシースの箱舟による介入は現状を打破できるわ。けれど、その反動に二人が耐えられるはずが』

 

『……リオ。ここは私たちに任せてください。本来であれば私は絶対に反対している立場です。ですが、アリスと…それに私が無事でいられる確証があるからこうしています』

 

 アリスのこと絶対なケイがここまで言うなんて。じゃあ、その確証はなんなのか。エリちゃん、君なの?……ううん、違う。おそらく、今、あそこにいるのはエリちゃんじゃない。

 

<こ、これは!?先生、あそこにいるのはエリカさんじゃありません!>

 

 だろうね。

 

<あそこにいるのは絵庭サロネさんです!>

 

 私の手が届くことが絶対にない、犠牲になってしまったはずの子が、まるで、神様みたいな深い深い瞳で私たちを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 あ、これは夢だとすぐにわかった。何故か、すっぽりと忘れていたエデン条約事件の時に体験した百合園さんの夢と感覚がそっくりだったからだ。嫌にリアリティというか、意識があるというか。

 

 …なんであの時のことをすっぽり忘れてたんだろう。

 

 あたりを見渡すと私が立っていたのは壊滅したはずのD.U.ニュータウン。連邦生徒会長によって吹き飛ばされて何もかもが灰と化したはずの景色が広がっていた。

 

「なんで…?」

 

 夢だと一発ですぐわかりはしたけど、さらに風景が夢だって主張をしてきてる。というかさ、私眠る要素どこにあった。今、宇宙戦艦のウトナ、長いから噛むんだけどあれに乗って打ち上げられたところで、艦がめちゃくちゃ揺れてぶっ飛んだ。

 

 そこをアリスちゃんに掴まれてなんとか耐えてたところ、ブリッジから通信が流れてきてなんかこのままだとバリアに衝突してマズいという。そこで……そこからなんか記憶が曖昧だ。

 

「まいった。どうしよ」

 

 夢だと自覚できても起きれない。あのときはどうしたっけ?百合園さんの夢の中ではティーパーティーのテラスから出たら目覚めたはず。

 

 となると、この夢から目覚めるためには同じく出口となる場所へ向かえばいいのかな。出口、って言って周りを見渡してもミレニアムOGを町長として作られたどこかエリドゥ似の街並みが広がっているだけで、街の出口はすぐ背後にあった。

 

 シャーレのある“現在”のD.U.の外郭地区へと繋がる幹線道路。ここから出ていけばいいのかな。

 

「あだっ」

 

 そう思って走って抜けようとしたらバチんッと弾かれて私はアスファルトの上に尻餅をつくことになった。痛みは夢の中なせいか曖昧で、痛いは痛いけど気にするほどじゃない。

 

 問題はこの街の外に繋がる道路が出口ではないということ。

 

「まいったね」

 

 キヴォトスの命運を懸けた戦いの直前に目が覚めないなんて最悪だ。なんとか目覚めないと。こうしてる間にもみんな頑張ってるんだ。

 

 不可解な状況だし、何かが襲って来ないとも限らないので自分自身を確認する。制服は………シャーレの制服じゃない。ヴァルキューレの安全局のもの。武器に関してはどういうわけか、最近の装備であるトリニティ製のライフルだ。

 

 気のせいか、いつもよりトリニティの校章の金色が光っているような感じがする。

 

 思えばこの銃を使ってからミカさんみたいに弾が光ってすごい威力が出ていたし、特別なものとは聞いていたけど本当にすごいものなのかもしれない。実はナギサちゃんに最初もらった時はあまりに綺麗すぎるので儀仗的なものかと思ったのだけど、ティーパーティーのホスト専用に特注だと言うのはこういうことなの?

 

「ま、使い慣れた武器なのはいいか」

 

 もう使い慣れてしまったこの武器を私は構える。これ以外の装備はスモークグレネードを初めとしたヴァルキューレ時代のものなので問題なさそう。

 

 さて、この街の出口が他にあるということで歩くしかない。残念だけど私の弱い頭では明星さんのように特殊な状況を解決できるような推理ができる知識もない。捜査は足からってことで。

 

「でも誰もいないもんね」

 

 当然のようにこの街には誰もいない。車も走っていないし人の姿もない。聞こえる音はまるでなく、私の足音が消えていくだけ。風も吹いていないせいか本当に無音。私のよく聞こえる耳が、私の動く音しか捉えていないので本当に何にもいないのだろうね。

 

 彷徨ってもしょうがないので、私の記憶に引っ掛かるような場所に足を向ける。まず向かったのは、この街で起きた薬物中毒──つまりはキュドモス事件の初期に起きた事件を捜査するために、チヒロちゃんが一時的に作っていた拠点に向かった。

 

 夢のスタート地点だった街の外縁部から遠くない位置にある雑居ビルで、辿り着けば変わらず入り口付近にはなんとも如何わしいマッサージ店の置き看板があった。実際にはちゃんとしたお店だったので、疲れ果てた時には利用していた。

 

 階段でチヒロちゃんが使っていた部屋へと上がる。5階にあるその部屋は表向きセキュリティ関係の会社があるようになっていた。いや、表向きも何も当時チヒロちゃんがソロだった頃にやっていたバイトのやつなんだけどね。

 

 部屋の扉はロックされていて、チヒロちゃんから渡されたカードでしか開かないんだけど、とっくに処分しているのでどうしよ、と思った。でも、着ている服があの頃のだからもしやと思ってポケットをまさぐると、ヴァルキューレの警察手帳が出てきて、その中にあの時と同じくカードが仕舞われていた。

 

 律儀な夢だなぁ。

 

 カードをかざして、ピッと音が鳴って鍵が開く。何にも周りの音がないから小さいはずの解錠音が嫌に大きく聞こえる。

 

 ドアノブを回して中に入れば、少し廊下があって、奥の扉を開ければそこにはチヒロちゃんがいない拠点が残っていた。広い部屋の奥に壁一面のモニターとその前にあるデスク。複数のパソコンのタワー。私とチヒロちゃんが集めていた当時の資料などはなく、暗い部屋の中でモニターが点いたままになっていた。

 

 何か手掛かりがあるかな、とチヒロちゃんが座っていた椅子に着いて、目の前のマウスに手を伸ばす。幾つかのモニターは白く光っているだけだけど、メインのモニターはあって、そこにはかろうじで記憶に残っていたチヒロちゃんが使っていたパソコンのデクストップ画面があった。

 

 でも、画面の中にはフォルダが一個だけしかないし、フォルダ名は「新しいフォルダ」となっているだけだ。といってもこれしか今はないので開いてみる。カチカチとダブルクリック。

 

 結果は特に何も入っていない。

 

「そんな易々と糸口が見つかるわけないかぁ」

 

「そうだよ、わたし」

 

「ッ!?」

 

 ギョッとした。私は思わず肩を大きく飛び跳ねさせて振り向きライフルを構えた。気配もなかったのに背後を取られた。こんな訳のわからない状況で。

 

「もっと歩かないと」

 

「…………!」

 

 そこにいたのは子供だった。青い髪、ツンと立った耳。身につけていたのは──忌々しいあの“家”の装束。

 

 なぜ、これも私は記憶から薄らいでいた?おかしい、そうだ、おかしいんだ。いつからだ、私が“家”のこと、なんとも思わなくなったのは。

 

「それとも、無駄な努力になるから楽したかったの?」

 

「黙れ」

 

「殺しちゃう?」

 

 挑発的な言葉に、私は目の前の子供……幼い頃の私から銃を下げる。草鞋野家。私の実家であり、もう無くなった家。かつては百花繚乱と対になったほどの百鬼夜行暗部、御庭番部。

 

 その部の部長を代々輩出し、古くは戦国時代から百鬼夜行を守ってきた。そして、

 

「だってそのほうが楽でしょ?ヘイロー壊しちゃったほうが」

 

「うるさい」

 

 ヘイローを壊す技術を当たり前のように教えていた。まごうことなき百鬼夜行の闇の部分。だから衰退し、私という出来損ないを最後に途絶えた。

 

「あはは。そっか、あのお姉さんがわたしをここに閉じ込めたからわたしは枷が外れてるんだね」

 

 なにを言っているの、この幼い私は。いや、落ち着け。もう昔の私がどうあれ、今の私は変わらない。目の前のものがどういうものであっても、言葉を喋り、話をしている。つまり、“証言”になる。

 

 聞け。読み解け。カンナちゃんから教えられたとおりに。

 

「………お姉さん、って今言ったね。私以外に誰かいるの?」

 

「うん。名前は知らないけどすごい綺麗な人。わたし、すき!」

 

「私が好きになるほどの綺麗な人がいるってことだね。それで、ここは何?」

 

「匣だよ」

 

 ………箱、じゃなくて、たぶんニュアンス的に匣、って言ってるなこれ。つまりここはただの夢じゃない。目の前の私も幻ではない。

 

 私が過去のこと──警察官となる前のことをあまり気にしなくなった原因はこれだ。実家の技術、御庭番部の部員は諜報員としての側面もある。だからこんな忍術がある。

 

 変化の術。

 

 よく物語にある姿を何かに化けさせるものではなく、化粧と、“精神を化けさせる”ことで成立する術。

 

 その術を成立するための技、“匣”。嘘をつくなら最初からつく嘘を無くせばいい。自分自身を精神の中で切り分け、“匣”に仕舞っておくことでより高い次元の演技ができるようになる。これで質の高い潜入任務を行うことができる。

 

 でも、私は使えない。出来損ないの私にはできなかった。できなかった、はずなのだ。

 

「あ、やっとわかったんだ」

 

「………私はできない術だったはず。でも、匣って言ったから、あなたは正真正銘、私っってこと?」

 

「そうだよ。わたしだよ」

 

 となると、この目の前の私は自然と私が気にしなくなった実家の記憶の塊、最悪な環境で諦めることなくしがみついていたけど、最後には捨てられてヤケになったクソガキの私ってことだ。

 

 私が嫌になって、無意識に術を使っていたのだろうか。わからない。そもそもこんなことになるような術なはずがない。あと、匣を開ければそのあたりの記憶が全部わかるはずなのだ。

 

 落ち着け。さっきこの私はなんと言った。

 

「閉じ込めた人がいるんだね?」

 

「頭いいね、わたし!」

 

「……なんだろう、私ってこんなウザかったっけ」

 

 イラっと来つつも、肯定されたのでそういうこと。さっき目の前の私はお姉さんが閉じ込めたからと言っていた。どういう方法かわからないけど、第三者が私の精神をどうにかしていたらしい。

 

 一体誰が、なんの目的で?

 

「うーん、たしかにこんなに変わっちゃったらもうわたしはわたしじゃないかも。だってなんか、わたしが思ってたなんでもできそうなお姉さんみたいだもん」

 

「…………成長したんだよ」

 

「そうかな?だってわたしだよ?覚えるのおそくて、銃を撃つのも下手っぴですぐ殴る。でも力も弱いから意味なし。足は早かったけどそれだけだったし」

 

 その通りだ。でも、私は今の実力を得るために努力をしてきた。先輩に師事してからメキメキと実力が伸びていった。先輩の教え方は丁寧だった。家みたいに虐待じみたやり方じゃない。

 

「まいっか。わたしがわたしじゃないのは。それで何しに来たの?ここに」

 

「何かをしに来たんじゃなくていきなりここに来たんだけど……」

 

「そっかぁ。どうしてなんだろう。だって今のわたしは望み通りだろうに」

 

 ダメだ。意味がわからない。

 

 少なくともわかったのは、私は自身で気が付かないうちに精神を弄られていたってことだけ。それだけなら不味いのに、これまでの生活でなんら支障となることは起きてなかったし、私自身としては家のことを考えなくて楽だった。

 

 悪用すれば私を意のまま出来てしまうだろうに。

 

「はぁ。あのさ、私ここから出たいの。今、世界の命運を分ける戦いがあるから」

 

「なんかすごいねぇ。それにしても誰かのために頑張るのやめてないんだ。報われないのに?」

 

「報われたいからやってるわけじゃないから。で、どこ?この街の出口は」

 

 わからないものを考え続ける時間は今ない。一刻も早く現実に戻らなくちゃ。ここの時の流れと現実の流れがどうなっているのか。

 

 私の質問に、過去のわたしは爛漫な笑顔を見せてくる。こんなに笑う子じゃないはずだ、私は。いや、違うな。この目の前の私はヤケになっている。だからどうでもいい、そういう気持ちでいるはずだ。

 

「そんなこと、どうでもいいでしょ。だってわたしのためにならないもん」

 

 だろうね。だからもういい。“草鞋野”エリカの相手をするだけ時間の無駄だ。この捜査拠点以外で他に心当たりがある場所。幾つかあるけど、一番はやっぱりあそこだろうか。

 

 先輩のお店──フラワーショップ・エニュオ。

 

「どこ行くの」

 

「どうでもいいんでしょう」

 

「うん。でも、暇なんだもん。ずーっとこんな誰もいないところに閉じ込められて」

 

「………勝手にすれば」

 

 どうやらこの幼い私は着いてくるみたいだ。放っておこう。あの頃の私なら実力的には大したことはないし、何かされても対処できるはず。拠点を出て、走る。過去の私を振り切るように。

 

「はっやーい。それなら御庭番部の部長になれそう」

 

「ッ………!?」

 

 ふよふよ浮いていた。幼い私が。そうだ、夢の中なんだ。だから物理法則もあったもんじゃない。さっきの話からして彼女はここの住人なんだからこれぐらいはできるのだろう。やっぱり、警戒はしておこう。

 

 本気で走ればあっという間に花屋に到着する。当然のように花屋はあった。この前、ミカさんと見た時のように巨木に潰されている様子はなく、店は開いている。花も陳列されていて、私の知るお店のままだ。

 

 花の匂いは何故かすることがなく、気味が悪い。

 

「きれいなお花だねー」

 

「………」

 

「でもお墓に置くにはちょっと多すぎだよね」

 

 なんてことを言うのだ、この私は。確かにここは先輩の最期の場所だ。だとしてもそんなことを私が言うなんて。

 

「……?あれ、変なの。なんで怒ってるの?」

 

「ここは先輩の最期の場所だったとしても、そんな言い方は」

 

「え?それこそ変なの。だってさ、ここ──」

 

 幼い頃の私が突然身に纏っていた服の上を脱いで胸元を見せて……ぇ?

 

「──わたしのお墓だよ?」

 

 なんだ、その穴は。心臓があるべき場所にぽっかりと空いた穴は。

 

「意味が、わからない。私の、墓?」

 

「うん。だって、あのときヘイローが壊れたのは──わたしだよ?」

 

「何言って」

 

「忘れちゃったの?あ、だからわたしが匣にずっといるんだね。ふーん、そっか。そっか……じゃあ、わたしがわたしじゃないのもわかった。あなた、わたしじゃないね」

 

「は?」

 

「お人形さんなんだね。あのお姉さんの」

 

「待って、何?なんなの。一体」

 

「そっかー、わたしのなりたいわたし、あのお姉さんにはそれだけきれいに見えたんだねー。だから汚いわたしをここに閉じ込めたんだ。なっとく」

 

 何を言っている。誰なんだ、そのお姉さんは。

 

 私が私じゃない?どういう意味?

 

「けどそうなるとどうしてあなたはここにいるの?わたしの身体返してくれるの?」

 

「……わ、私は」

 

「まぁむりだろうけど。こわれたヘイローは二度と治らないからわたしはここ出たら消えちゃうだろうね。きおくだけになっちゃう」

 

 後ずさる。怖い。なんなんだ。いったい、目の前の私は。

 

「でもあなたがここにいるのはそうする必要があったから。匣の中にこないと今は危ないのかな?お人形さんがじっとしてればよかったけど、わたしは余計なことばっかりするからねー。あ、わたしじゃないっけ」

 

「もう、出して、ここから」

 

「わたしはむり。だってここはわたしのための座敷牢だから。どうしても出たいなら無理やり出れば?」

 

 無理やり。そんなのでも、どうやって。いや、できるのか。この銃。ここが夢、何かの記憶のような場所だから私の本質、私自身の姿がヴァルキューレ時代に戻っても、唯一そのままのこの銃が、鍵なのか。

 

 ナギサちゃんが、渡してくれた銃が、助けてくれるのか。

 

 銃口を空に向ける。そのまま、息を深く吐く。力を込める。どうすればいいのかわからないけど、無理やりというのなら渾身の力で撃ってみよう。

 

「私は眠ったままでなんていられない。私は、今、みんなのことを守るために戦うから。私は私の意思で戦ってる。だからナギサちゃん、力を貸して」

 

 風が吹く。これまで吹かなかった風が、足元から巻き上げるように。暖かくて優しい風。

 

「へぇ、お姉さんの“神秘”と違う“神秘”。こういうのはいいんだ。優しいね」

 

 何かを言っているけれど気にしない。引き金に指をかけ、私は灰色の空目掛けて引き金を引く。銃口に集った風、淡い緑色の光が弾けるように放たれて、その中から眩い大きな弾が昇っていくのが見えた。

 

 刹那、私の意識は空に吸い込まれて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「「光よ──っ!」」

 

「は?」

 

 目を開ける。目の前でアリスちゃんとケイが手を繋ぎながら信じられないほど巨大になったアリスちゃんのレールガンから目の前が真っ白になるほどのビームを放っていた。

 

 一体何が起こったの!?

 

 

 

 

 

 

 

「あ、お姉さんだ。ボロボロだね!」

 

 エリカの精神の中で、かつてのエリカだった幼女の前に彼女は降り立つ。その四肢はまるでゲームのテクスチャがバグを起こしたかのようにノイズが走り、不完全な姿となり持ち合わせていた女神の如き美貌が損なわれていた。

 

「……ふぅ。まさかエリカさんが無理やり飛び出してしまうとは。なんとか間に合ったからよかったのですが」

 

「何してたの?」

 

「……エリカさん。あなたの青春の物語を私は明るく優しくしたいのです。ですから、誰も犠牲にはさせません。弱さは悪です。今の私は正義を語れるだけの力があるのですから、振るっています」

 

「?」

 

「名も無き神々の女王が受けるはずだった負荷と、先生が受けるはずだった負荷全てを私が受け止めました。ふふっ、これでも私の神秘は格が違いますからね。これぐらいは余裕ですよ、余裕」

 

「でもボロボロだよ?」

 

「……まぁ、流石に二度とできませんね。次やったら私が消えます。おかげでしばらくはエリカさん自体を助けられないのですが」

 

「いいの?お姉さん、わたしのこと好きなんだよね」

 

「えぇ。愛しています。でも、私はもうこの世のものではありませんから」

 

 幼女の隣に立つ少女は欠損していない右目で空を見上げる。最初は幼女が語ったように、少女のための人形のようになってしまった“草鞋野エリカ”は自らの意志で今は戦っている。そして、翼がなくとも飛び立とうとする彼女を繋ぎ止める存在も増えた。

 

「……いずれ、全てを明かす時が来るのでしょう。そのときに彼女は私を恨むでしょうか?」

 

「それが怖いからわたしを切り離したんだよねー」

 

「そうですね。怖かった。でも、それでも………私はあなたに、草鞋野エリカでいてほしかったから」

 

 絶望に塗れても、それでも誰かが報われればと正義であろうとした少女を──絵庭サロネとかつて呼ばれた残滓は眩い光として、このキヴォトスという世界の希望のように思っていた。

 

 




お読みいただきありがとうございます。感想、ここすきいつも大変励みになっています。

やりたかったナギちゃんの「てーっ!」が書けたので楽しかったです。
主人公ちゃんは名実共にエリカ(偽)というわけでした。

次回はまた明日です。
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