頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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連続投稿2日目です。

ケイちゃんかわいいね。


Area-28「アトラ・ハシースの箱舟 #制圧戦 #自己犠牲 #神秘解放」

 多次元解釈バリアの突破の手段がアリスによるこちらもアトラ・ハシースの箱舟を利用した一手だということはすぐに理解した。しかし、提案などできるはずもない。それをすればアリスの身に何が起こるのかなど、想像するまでもなかった。

 

 癪ではあるけれど、モモイがかつてアリスに語ったとおりの自己犠牲による多くの救済。そんなものを私も認めること、それどころか勧めることもできはしない。

 

 王女の侍女であるから?否、これが感情であるのなら、私はアリスを失いたくない。つまりは、恐怖。喪うことへの、恐ろしいという感情。その恐ろしさは、これまでの僅かな時間で私に暖かさというものを憶えさせた、本当に癪だが、モモイのせいだ。

 

 私の大切なアリスを喪うわけにはいかない。だから、私は声を上げなかった。

 

「ケイ、やりましょう!アリスたちで…!」

 

 それなのに、やはり、アリスは多次元解釈バリアを破ることを選択した。反対しようとした。だが、アリスの腕の中にいた存在に私は圧倒され、口を開けず、あまつさえ、今の体に搭載された電脳、機械的なものでしかないはずの私の、脳裏とでも言うべき場所に声が入ってきた。

 

<聞こえますか?今私はあなたの脳内に語りかけています……>

 

 抜き身の神秘。恐怖ではなく畏怖。神秘解放による神聖の露出。ありえない現象が目の前の草鞋野エリカに起きていた。なのに聞こえてきたのはあまりにも俗っぽいよくあるネタだった。

 

 とはいえ、アリスが決断に至った原因に私は臆することはできない。

 

<何者ですか?アリスに、何を吹き込んだのですか>

 

<力があるのなら為すべきことをするべき、と。力があるのなら、それを振るってこそ。そうしなければエリカさんが死んでしまいます>

 

<そのためにアリスを犠牲にするというのですか。そんなことは許容できません>

 

<私もそのようなことはしません。エリカさんの周りで不幸が起きるのは私も本意ではありませんから。犠牲になるべきは既に存在しない、物語の外にあるべきものです>

 

 草鞋野エリカの中にいる何か、神聖そのものは自らを犠牲にすることを躊躇いなく言い切った。自己の価値などないと言外に語っていることは容易に理解できた。

 

 そして、おそらく私が同じ立場であれば、私もアリスのために自らを犠牲にすることに判断の余地はないとわかっていた。

 

<……できるのですね?>

 

<はい。私はそこそこ強いですよ!>

 

 女神のような、と表現してしまうのはゲームの影響なのか。そういった威厳ある雰囲気を持ちながらも時折、緩い印象も与えてくるのは生徒の残滓だからなのだろうか。

 

 その言葉に嘘がないというのであれば、私とアリスが力を使えばなんの問題もなく多次元解釈バリアごとき破れるだろう。敵がどんな存在であれ、こちらの力を模倣しているだけの存在に負けることなど、オリジナルたる私たちにありえない。

 

<いいでしょう。ですが、もしそれが嘘だというのであれば、私は草鞋野エリカのヘイローを破壊します>

 

<……………>

 

 地雷、というものがあると、これはミドリが教えてくれた。それを踏み抜いたと直感した。それでもわかったことがある。草鞋野エリカのことはシャーレの生徒ということで調べて記憶していた。その経歴も当然。

 

 不自然な情報の欠けはあったが、草鞋野エリカの人生を大きく歪ませた事件にまつわる登場人物の中に、彼女の保護者たる生徒がいたことはわかっている。

 

<絵庭サロネ。確証のないものに、私の最も大切な──人を懸けるのです。無茶なことを言っている当人が何も覚悟を見せないことに私は信用もできませんし、自身を真っ先に犠牲とする人を信頼もできません>

 

 私自身がそうだからだ。

 

<……いいでしょう。そこまで言うのであれば絶対に彼女と、あなたのことは守って差し上げます。ですが、一つだけ。おそらく私は力を使い果たし、当分は自力でエリカさんを助けられません。何かあればしばらくは支えてあげてください>

 

<勝手なことを言いますね。私はアリス以外、そのようなことはしません。ですが、アリスを助けるのならば、借りは返します>

 

 まっすぐな目を向けているアリスに私は向き直る。首を縦に振り、私は勇者に剣を与えることを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

「いてて……なんとか上手く突入できた?」

 

 アリスとケイ、そして──サロネのおかげでウトナピシュティムは無事、アトラ・ハシースの箱舟の多次元解釈バリアを突き破って要塞に文字通り強襲揚陸していた。映画も真っ青な突入の仕方だったけど、衝撃が凄まじくて交通事故かよって感じで座席のベルトに締め付けられた。

 

 サロネは平気だったのか。あの子は亡くなっているとはいうけど、おそらく何らかの力でエリちゃんの中にいる。アリスとケイが生み出した巨大なレールガンというか、エネルギー砲を生み出した力はたぶん、シッテムの箱や大人のカードと同じ……反動は尋常ではないはず。大丈夫かな。

 

 エリちゃん自体はいつも通りに戻っているみたいだけど。ケイが何か知っているかもしれない。終わって地上に戻ったら聞いてみよう。

 

「損害報告!」

 

「はい、艦長。艦首ハイパーノヴァ砲は無事ですが、艦首自体は大破しています。他、衝撃によりヴィマーナユニット自体からウトナピシュティムが正常なパージ不可です」

 

「ヒマリ先輩!それ大丈夫なんですか!?」

 

「ユウカ。離脱時には強制排除できるようですから問題ないかと。ウタハ、そうですよね?」

 

『もちろんだ。ただ、突入前の衛星砲からの被弾や突入時の衝撃で艦そのものへのダメージも大きい。航行システムや演算システムもエラーを吐き出している。艦長、先生。しばらくこの艦は動けないよ』

 

 ウタハからの損害報告を聞いてマジかとなる。どちらにせよ、こっちの目的はここにいるかもしれないシロコの捜索とアトラ・ハシースの制圧、そして破壊だから撤退までになんとか直ればいいはず。

 

「……よし。リン、エンジニア部の子達には船の修理を優先させよう。帰る足がないんじゃね」

 

「はい。エンジニア部の皆さん、お願いします」

 

『わかった。ただ申し訳ないが一人ほど手を貸して欲しい。手元でいいんだ』

 

「なら私がやるよ。いい?」

 

 カヨコが真っ先に手を挙げてくれた。助かるかな。私が頷くと、カヨコは足早にブリッジから出ようとして、

 

「──今回は私の方が早かったね」

 

「ッ!?」

 

 いきなりブリッジの中に現れた、もしかしたら別世界のシロコに銃を向けていた。いや待て待て!こんな簡単にここまで来れるの!?

 

 シロコはまさか先手を取られるとは思わなかったのか顔をしかめて、いつもシロコが使ってるアサルトライフル──少し年季は入った──を構えられずにいた。

 

「先生が言ってた。どうにもそっちは悪辣だって。だから来ると思った」

 

「………そう。でも、そんなの関係ないよ」

 

 空気を切るような音がした。次の瞬間にはカヨコの真後ろにシロコが立っていた。今の、エリちゃんの……!?

 

「カヨコさん!きゃあっ!?」

 

 援護しようと銃を抜いたアコの手が撃たれて弾かれる。やっぱり、あのシロコはシャーレに現れた時もそうだけど、エリちゃんの技を真似てる。早撃ちに、瞬間移動みたいな移動速度。あと、異様なまでに高い局所への射撃精度。

 

「アコ……!ぐっ…!」

 

 足払いをしてカヨコを制圧しようとシロコが動くけど、カヨコは上手く飛び跳ねて退いた。

 

「どうして?ここまで来るなんて」

 

 シロコはまたしても私に銃を向けずに問いかけてきた。この子はどうしてこんな真似を。そうするしかないのか。

 

「シロコ。私はあの鉄仮面をぶん殴りにきたんだよ。君にそんなことをさせるね。それに……いるんだよね私たちの世界のシロコは」

 

 表情は変わらない。まいったね。元よりシロコはポーカーフェイスだけど輪をかけてそうみたいだ。どうする。ここで私が撃たれたり、彼女が暴れてブリッジを壊されたら終わりだ。

 

「答えたくなければ無理に答える必要はないよ」

 

「先生はどうするつもり?ここを」

 

「シロコ。さっきも言ったけど私はプレナパテスをぶん殴るのと、ウチのシロコを探す。それと、この箱舟をブチ壊すよ」

 

「…………わかった。じゃあ、もう、容赦はしない」

 

 流石に早撃ちされたらアロナでも間に合わないんじゃ、なんて思って覚悟の上で言ったけど、シロコは銃を向けてこなかった。

 

「シロコ先輩!止まってください!」

 

「……………ッ………!」

 

 アヤネが銃を向けていた。そんなことしたくないだろうに、顔を歪めて、あのアヤネがだ。そうして初めて、シロコの動きが目に見えて鈍った。まるで、そうされるとは思わなかったのか。

 

 さっきアコにしたように、即座にシロコはアヤネを無力化しなかった。

 

「警告します!銃を捨て、手を頭の後ろに!その場に伏せてください!」

 

 畳み掛けるようにナギサがエリちゃんの拳銃を抜いてシロコに向ける。モエもSRT生らしく構えている。気がつけば四方からシロコは銃を向けられていた。それでも、なぜだろう。止められる気がしないのは。

 

「……どうしてその銃を……」

 

 そして、初めてシロコが驚いていた。ナギサの方、正確にはその手にあるエリちゃんの拳銃を見て。

 

「ッ──!?風よっ!」

 

「くぅ……!?」

 

 突然、ブリッジ中に台風のような風が舞い、ナギサに恐らく飛び掛かろうとしたシロコの動きが止まる。一瞬とはいえその場に止められたシロコに、仕返しとばかりにカヨコが飛び込む。

 

 が、忍者のような素早さでシロコは跳躍して、カヨコはその場を通り過ぎた。

 

「伏せて!」

 

 さらに、シロコは飛び上がった瞬間に何かを手から落としていた。

 

「手榴弾……!?」

 

 アヤネの言葉のとおり、落とされたのは手榴弾。マズい。アロナ!

 

<スーパーアロナちゃんガードっ!>

 

 私自身も伏せて、アロナにガードを頼んだ。間に合った。鼓膜破けるんじゃないかってぐらいとんでもない音が鳴った。続いて爆風。アロナのおかげで直撃は受けてない。危なかった。

 

「けほ、けほっ……シロコ先輩、どうして……!」

 

 立ち上がってブリッジ前方を見ればシロコは立ち去っていた。アヤネを始め、生徒たちも直撃はなかったのか一番近かったカヨコも服が少し煤ける程度で済んだみたい。よかった。

 

 ただ、今の爆発でブリッジの中は幾つかのモニターが落ちてるし、床もめくれてるところがある。相応のダメージがあったみたいだ。

 

「被害は、皆さん」

 

「……見ての通りでしょ、先輩。少なくとも私の仕事はもう終わったかな」

 

 モモカの使っていたモニターは大破していた。破片が飛んだらしい。モモカ自身は上手く影に隠れられたのか無事みたいだ。

 

『ヒマリ、何があったんだい。ブリッジにダメージ判定が出ている』

 

「ウタハ、襲撃を受けました。幸い、こちらに人的被害はありませんが幾つかのシステムがダウンしています。……エリドゥ、聞こえますか?リオ?」

 

『状況は把握しているわ。無事のようね』

 

「えぇ。当然です。それより、物理的な面以外は手が足りません。地上から支援、できますか?」

 

『もちろん。ヴェリタスも含めて支援するわ。……あと、先ほど現れた砂狼シロコ、彼女はどうやら箱舟の演算を利用して空間移動ができるようね』

 

「……つまりワープですか。シャーレに現れたのも納得です。で?使えるんですか?」

 

『元からの目標である箱舟のエネルギー制御を司るリアクター……次元エンジンの制圧と、ウトナピシュティムによる電子的な攻勢をかければ制御権をある程度奪取できるはず。上手くいけば、最悪の場合こちらも利用できるわ』

 

「ワープによる緊急離脱。本当に最後の手段ですね。わかりました。……先生、連邦生徒会長代行。聞いての通りです」

 

 さっきの襲撃がどうにも気がかりだ。一貫してあのシロコは私に銃を向けずに言葉をかけている。警告のつもりでここにきた。そう思いたいところだけど。

 

 なんでも、とにかく今はやることをやっていくしかない。

 

「じゃ、私も行くよ。リン、みんな。頼んだよ!」

 

「ご武運を、先生」

 

 待ってなプレナパテス。会いに行くからさ。

 

 

 

 

 

 

 

 ウトナピシュティムは箱舟への突入成功していた。………私は意識を失っていたはずだけれど、ハルナ曰く私は何かをアリスちゃんとケイさんに話していて、そのあと箱舟のバリアを打ち破るためにアリスちゃんたちと船外に出たとのこと。

 

 ケイさんからは「借りは返します」とだけ言われて格納庫に戻った。なんだろう、夢遊病か何かにでもなったのか私は。意識を失っていた?間に何か夢のようなものを見た気がする。あまり気分のいいものではなかったけど、どういうわけか実家のことを久々に思い出していた。

 

 あんな家のことを何故今更。……ただ、今の私なら使える技もあるかもしれない。活用できるものは活用しよう。

 

 それと、突っ込んだ直後に相手側のシロコさんが襲撃してきたらしい。幸いにも怪我人は出なかったみたいだけど。ナギサちゃんも魔法で抵抗してしまったらしい。あの力はあまりひけらかしたくなかったはずだけど、そうも言ってられなかったみたいだ。

 

「大丈夫ですの?エリカさん」

 

「問題ないよ。それより、愛清さん大丈夫ですか?運転」

 

「任せてください!それに元々この車ウチのなんで…」

 

 愛清さん普段からどんなひどいことをハルナたちにされてるんだろう。視線を向けたら美食研究会全員から目を逸らされた。これは地上に戻ったら問いたださねば。ナギサちゃんが躊躇いなく手を握るほどの滲み出る人格者に対して何をしているのか。

 

 強制的な接舷には成功してるので、あとはこの格納庫のゲートが開かれれば私たち突入班の仕事の開始だ。

 

 やることは単純。私と美食研究会と愛清さんで一つの班なのだけれど、宇宙に上がる前にケイから教えられた詳細な箱舟の構造を教えられていて、私と美食研究会の役目は箱舟内のリアクターの制圧だ。これを奪取しないと箱舟も止まらないし、地上で虚妄のサンクトゥムへのエネルギー供給が止まらない。

 

 そして、ホシノちゃんたちと先生、ミヤコちゃん、サキちゃんは敵首魁がいるであろう広間への強襲。ゲーム開発部はその援護だ。

 

 少しだけ離れているミヤコちゃんたちを見ると、二人は私に任せてほしいと言いたげな目を返してくれた。頼むよ、先生のこと。

 

『エリカさん?聞こえますか』

 

「……感度良好。聞こえるぞ、桐藤」

 

『こほん。そういうことであれば私も。草鞋野補佐官、これより私があなたと美食研究会を補佐します』

 

「了解した。全員聞いたな」

 

 ナギサちゃんの生徒会長としての凛とした声音は身が引き締まる。

 

 みんなもそうかなと目配せしてたら愛清さんがギョッとしていた。うーん、いつものことなのでもうなんとも思わないったら思わない。

 

「えっと……」

 

「愛清さん、気にしないでほしい。仕事の時はこうだ」

 

「……ま、真面目な方なんですね!」

 

 精一杯振り絞ったみたいな返しだった。気にしない。気にしない。

 

 ハルナは見ればいつもの通り、鰐淵さんも変わらずニコニコ。赤司さんは緊張してるのか表情が硬く、獅子堂さんはなんか形容し難いハンバーガーのような何かを食べていた。いや、色がね……ハンバーガーのしていい色をしていないんだ。

 

「最終確認だ。我々C班の目的は先生たち本隊と分かれ箱舟のリアクター制御を奪取する。それと同時に先生たちが敵首魁を止めればこの騒動は収束するはずだ」

 

「するはず、というのが嫌ですねぇ。どうにも相手方は性格が悪そうですし、この箱舟?でしたか。それをキヴォトスに落とすとかしそうじゃないですか」

 

 鰐淵さんが笑えない想像をしてくる。そんな自爆まがいのことをしてくるのか。あり得なくはないのが怖いところ。

 

「だとしてもその時は対処するしかない」

 

「ふふ。でしょうね。けど、そのときは狛犬さんが頑張ってくださいね。私、正義の味方なんてまっぴらごめんですから」

 

「無論だ。君たち民間人を過度に巻き込みすぎている。そのときは逃げてくれて構わない」

 

「…………高潔すぎるのも考えものですねぇ。そうでしょう、ハルナ?」

 

「わたくしは逃げませんわ。逃げたところで、美食への道は途絶えるでしょうから」

 

『私もエリカさんだけを置いて逃げるような真似はしませんよ。エリカさんの無茶、止めなくてはいけませんから』

 

「あら。狛犬さん、罪な人ですね」

 

 明らかにからかってきてませんか?この人。だから苦手なんだ鰐淵さん。掴みどころがなくて、こういう感じなので。

 

 愛清さんから視線を感じたので見たらなんか微妙な表情をしていらっしゃる。勘弁して。

 

『ブリッジより格納庫、突入班へ。これより作戦を開始します』

 

 アナウンスは天雨さんからだった。声の奥に僅かに震えてる感じがした。

 

『ハッチ前方にはもう要塞の兵器が集まってきてるから解放と同時にすぐ全力で全員斉射してちょうだい!特にゲーム開発部、いいわねっ!』

 

「え?私たち?」

 

『そうに決まってるでしょ!なんのために全員にアビ・エシュフ装備させてるの!?後ろのキャノン信じられないぐらい高いのよ!?せめて使って!』

 

 早瀬さんの悲鳴のようなお願いに改めて私はゲーム開発部の子達を見る。確かに5人が装備してる量産型アビ・エシュフの背中には飛鳥馬さんが乗っていたものと同じキャノン砲が見えた。

 

 アレを一斉射は殲滅力がすごそうだ。

 

「そ、そんな高いの……これぇ……」

 

「ユウカ!でも最終決戦装備は高いのが相場です!」

 

「それぐらいの犠牲で済むなら安いものではないですか」

 

『そういう問題じゃないのよケイ!とにかく5人とも無事に戻ってきなさい!装備と一緒に!』

 

 早瀬さんなりの激励なんだなぁ。それに、あれだけ高価で強力な装備をミレニアムが与えたのはせめてもの……ってことかな。

 

 ゲーム開発部の子達が箱舟内部に通じる格納庫のハッチ前に横一列で並んで、全員がキャノン砲を展開する。なんだかものすごい絵面だ。宇宙戦艦の中なのもあって現実とは思えない。

 

『作戦開始、5秒前。5、4、3、2、1──』

 

 大きな音を立ててハッチが開いていく。同時に5機のアビ・エシュフが一気にエネルギーをチャージする。聞くことがないような慣れない高音。たまらず耳ペタして音から耳を守る。

 

 ハッチが降り切る。そうすれば、そこには目を疑うような光景が広がっていた。一面の赤、赤赤赤赤赤赤──かつてケイさんが呼び出したType.Fという名前のボールに触手が生えた機械が埋め尽くすように待ち構えていた。

 

『──0!』

 

「トキ直伝の必殺技です!みんなで、ファイヤー!」

 

 が、アリスちゃんの掛け声と同時にゲーム開発部5人による一斉射が行われ、動き出そうとしたType.Fは全て光に飲み込まれていく。そして、爆発。大きな爆煙が広がった。さぁ、始めよう!

 

「前進!これより箱舟を制圧する!」

 

 出来る限りの声の大きさで叫ぶ。愛清さんは素直に従い、アクセルベタ踏みで発進した。箱舟の中は重力が働いているので、車も動ける。

 

 格納庫から飛び出し、煙を突き破れば、先ほどの余波を生き残ったType.Fたちがこちらを攻撃しようとするけど、それらは全て車上の獅子堂さんが得物の機関銃で迎撃し、破壊されていく。

 

 弾力装甲を持っている相手に容易く攻撃が通じたのは獅子堂さんの使っている弾丸が対弾力装甲用の特別製弾丸だからだ。もちろん私たち全員に支給されているけれど、相手全てがそうではないので私たちの班は制圧力の高い獅子堂さんと赤司さんに渡している。

 

『リアクターまでの道をナビゲートします!愛清さん、よろしいですか?』

 

「お願いします!」

 

 ドライバーの腕は上々。給食部の部長という明らかに戦闘職ではない部活なのに愛清さんはこういった車両での突撃に慣れているのかと思ってしまう。そもそも、いきなり煙に突っ込んで先陣を切れるとは。

 

『こちらA班、出発したよ〜。じゃ、みんなあとでね』

 

『B班はこれより砂狼シロコの探索及び箱舟内部の破壊工作を行います。モモイ、構いません。ぶっぱしてください』

 

『マジ?アリス、やっちゃお!』

 

『はい!』

 

 ホシノちゃんとケイさんからも出撃したという通信が入る。もうこれであとはこの箱舟の戦いで終わらせる。全てを。

 

「うわなんか出てきた!」

 

「ふふっ。迎撃しちゃいましょう」

 

 当然、向こうは何もしてこないわけじゃない。壁の至る所が開いてガードロボット……これエリドゥで見た四脚型だ!?まさかここでも戦うことになるなんて。

 

『ガードロボットです!え、調月会長……?あ、はい。エリカさん!性能はご存知ですね!』

 

「一度戦っているからな。各員機体上部のターレットが展開したら電撃がくるぞ!」

 

 並の生徒なら一撃で行動不能にするほどの強烈な電撃を飛ばしてくるガードロボットが私たちの乗るトラックを囲もうと次々と出てくる。それらを私たちは出てきた片っ端から撃ち落としていく。

 

 鰐淵さんはグレネードで正面に現れてスクラムを組もうとしているガードロボットを破壊して進路を確保してくれている。

 

『次の通路を左折です!』

 

「あそこを左……!」

 

 破片やロボットを避けながらで揺れる車体を器用に愛清さんは前に進ませている。乗っている私たちも振り落とさないように気をつけながらだ。ナギサちゃんからのナビゲートに従い、愛清さんはドリフト気味に通路を左折した。

 

「ちょっといくらなんでもこんなに多すぎない!?」

 

「ほんとだよー!弾は無限にもらってるけど!」

 

 赤司さんと獅子堂さんの言う通りで、どれだけ撃ってもガードロボットは無限湧きする。エリドゥの時もそうだった。無駄に弾を消費させようという魂胆が見え透けている。ただあのときと違ってこっちは攻撃を前提として装備も整えてる。

 

 それにしてもガードロボットだけで迎撃というのもなんか不自然。Type.F全てを使い切ったとは思えない。何か他に迎撃の戦力として出てきそうなのはいるか。

 

「え、人!?」

 

 愛清さんが驚いて声を上げ、ブレーキを踏もうとしていた。人?こんなところに……?そんなはずはない。

 

「構うな!そのまま轢けッ!」

 

「えぇっ!?」

 

 進路上にいたのは人じゃない。聖徒会のミメシス!こんなところでも出てくるなんて!

 

 ライフルで狙撃し、頭を撃ち抜く。これで……アレっ!?

 

「通じていない!?」

 

 嘘っ!?なんでミメシスに弾が通じないの。というか、なんだろう、虚妄のサンクトゥム攻略戦時にできた、力を込めての射撃が、できない!?

 

「わたくしが!」

 

 動揺していたらハルナが代わりにミメシスを撃つ。ハルナの射撃は効いているのか、2発程度でミメシスが雲散した。残りのミメシスは──。

 

「ほ、ほんとに轢いちゃった」

 

「ふふっ。人間じゃないから平気ですよ」

 

 トラックに轢かれて吹っ飛ばされた。倒すことはできないけど、床に転がったのでこちらをすぐには撃てない。鰐淵さんが愛清さんに気休めに言葉をかけてくれていたので感謝。

 

 いや、ほんとにどうしたんだ私。地上での戦いで力を使い果たした……?でも疲労感みたいなものはあるにはあるけど、精魂つき果たした感じもない。

 

「それにしても、狛犬さん、なんだか驚いてましたね?あのさっきのハイレグシスターの幽霊を一撃で倒せない、そのことに」

 

「……あぁ。やれていたはずだが、急に……」

 

「どうしたんですか?調子悪いんですか?先輩」

 

「問題ない。赤司。地上での戦いでの疲れがあるのかもしれん」

 

 鰐淵さんと赤司さんから声をかけられたのでそれとなく返してくおく。こうしている間にも襲ってきているガードロボットへはちゃんと攻撃が通じている。ミメシスは特殊な存在だけど、これまでなんの問題もなくやれていたはず。それがここにきてなんて。

 

「エリカさん、不調であればわたくしが」

 

「問題ない。通じないならそれなりのことをする。君は援護を」

 

 こんな状況で心配はかけられない。ハルナにはこのまま援護をしてもらう。彼女を一番前で戦わせるなんてことはしたくない。

 

『エリカさん!無茶をしてはいけませんからね!』

 

「わかっている。……次、くるぞ!」

 

 ナギサちゃんからも言われつつ、飛び込んできたガードロボットを迎撃する。トラックに乗り込もうというのか、天井から落ちてくる個体が増えた。愛清さんが怯まず全速力で走ってくれているので、撃ち落とせばトラックが通った後を落ちて爆発していく。

 

 ナビに従い、トラックが右折し、今度は急な坂になる。一瞬車体がジャンプし、着地で大きく揺れる。素晴らしいハンドル捌きで愛清さんは車体を安定させた。

 

「……君、ヴァルキューレに来ないか?機動隊に向いていそうだ」

 

「えっ!?そんなことないと思います!」

 

「いや、素晴らしい運転技術だ」

 

 思わず勧誘していた。この子すごい。

 

「エリカさん。流石にエリカさんといえどそれは許容できません。彼女は料理人ですわ」

 

「冗談だ。……いや、ほんとに冗談だからハルナ」

 

 アルカイックスマイルはやめて!

 

「でもほんとに上手だよね。ハルナより」

 

「ジュンコさん?」

 

「事実だからしょうがなくない!?」

 

「ダメですよハルナ。後輩をいじめては」

 

「アカリが優しいの怖……」

 

「うふふ」

 

「ちょ、その目元暗くすんのやめてっ!?」

 

 楽しそうだな………でも、そのおかげで私も深刻に捉えすぎずに済んだかも。

 

 坂は意外にも長く、降りきった先にミメシスが待ち構えていて迎撃態勢だ。ガードロボットや、ようやくType.Fまで出てきている。電撃やレーザー、銃弾。多種多様な弾幕がこちらを襲った。

 

「流石にちょっと邪魔ですね。狛犬さんが頼れないなら、少しは働きましょうか」

 

「アカリ、どうされるおつもりで?」

 

「蹴散らしますよ。──それっ」

 

 鰐淵さんが席から立ち上がり、ボンネットに飛んでさらに蹴って坂の下まで一気に降った。降りながら彼女は相変わらずアクセサリマシマシのアサルトライフルからグレネードをポンっと発射すると進路上を固めていたミメシス複数とガードロボットを弾き飛ばす。

 

「ちょっ!?イズミ援護!」

 

「了解〜!」

 

 残りのType.Fは綺麗に赤司さんと獅子堂さんが平らげる。鰐淵さんはそれをまるでわかっていたかのようにしていて、本当に底がしれない。彼女は突っ込んでくるトラックの進行方向からひらりと退くと、左手を上げていた。

 

 意図はわかるけどっ!

 

 私がその手をとって、引き上げる。華麗と言っていい身のこなしで鰐淵さんはトラックの荷台に舞い戻った。

 

「感謝です。狛犬さんなら引き上げてくれると思いました」

 

「無茶をする。しかし助かった」

 

「別に助けたわけじゃありませんよ〜。私は帰りたいので」

 

「それでもいい」

 

 これこそスタンドプレーだらけなのに美食研究会が成立している理由なのだろう。改めて目にするとすごい。

 

 車が坂を降りきり、再び平坦な道に戻ったと思えば左折する。徐々にだが迎撃してくるガードロボットの数が減っている気が。代わりにミメシスやType.Fみたいな通常の装備とかでは対抗しづらい相手が増えてきた。これは目的地に近づきつつあるのかもしれない。

 

『あともう少しで箱舟の機関室です!』

 

 ナギサちゃんからもそろそろだと言われる。

 

「着いたらどうすればいいんだっけ?」

 

「ジュンコさん。わたくしたちは辿り着き次第、制御を奪うのです。エリカさんが持っている端末を使ってそれをしますわ」

 

 赤司さんとハルナが話している内容のとおりで、私は小型のタブレット端末を渡されていて、調月会長からはこれをどんな手段でもいいので箱舟の機関室に繋げればあとはやってくれるらしい。

 

 細かい作業内容も聞いたけどちんぷんかんぷんだった。専門家に任せましょう。

 

 最後の角を曲がり、ついに正面にとても大きな扉が現れる。

 

「うわーでっかい扉」

 

 獅子堂さんのどこか間の抜けた声に反して扉は絶句するほどでっかい。10m近い高さがある。

 

「桐藤!正面に大きな扉がある。どうすればいい?」

 

『少々お待ちください。ウトナピシュティムよりエリドゥ、聞こえますか?C班が目標の機関室目前です。大きな扉があるのですが』

 

『こちらエリドゥ。エリカ、扉の横に制御用の端末があるから繋いで。操作方法はケイから聞いたから、任せて』

 

 応答してくれたのはチヒロちゃんだった。彼女がやってくれるらしい。

 

「草鞋野、了解。愛清さん。車をあちらの端末に」

 

「わかりました!」

 

 そういえば、今度は完全に敵の迎撃が途絶えた。……どういうことだろうか。

 

 嫌な予感がする。いつものような勘ではなく、経験則から来る、何かを見落としている感覚。相手は悪辣だ。それはペロロジラの時からそうだ。僅かな油断を与えるのに余念がない。そんな気がする。

 

 今もそうだ。目標前の扉。辿り着いたという一種の安堵感。

 

 車が端末前に止まる。私は本当にここで端末まで歩いていいのか、と躊躇った。……自分の勘を信じろ。私が経験したことは嘘にはならない。

 

「赤司さん、悪いが、あの端末への接触は君が」

 

「え?どうしてですか?」

 

「………嫌な予感がする」

 

「嫌な予感……?」

 

 本当にするんだ。そして、それは、的中してしまう。してほしくない時に限って。

 

 私たちは今、制御室の扉の前にいる。つまり、扉が開かなければ袋小路、行き止まり。扉までは一直線。私たちはたどり着いた。違う。敵からすればどうだ?

 

 

 

 相手は私たちを追い詰めたのだ。

 

 

 

『ッ!?エリカさん、ハルナさん!巨大な反応がそちらに!』

 

「なんですの!?」

 

「赤司頼む!これを差し込めばいい!」

 

「え、えぇっ!?」

 

 端末を赤司さんに押し付け、私はトラックを全力で蹴った。うっ!?いつもより速度が出ない!?

 

 しかし、それでも動かないわけには!

 

「うっ……!なんだあれは!?」

 

 思わず声が出てしまう。さっきまで通った道、その角から巨大な影が滑るように現れる。出てきたのは巨大な四脚戦車のような姿の、色彩に侵された何か。こいつは一体…!?

 

『うそっ!?エリカ気をつけて!そいつはデカグラマトンの一つのケテル!』

 

 バカなっ!虚妄のサンクトゥムで再現するだけではないのか!?驚いている場合ではない、砲がこちらを向いている。まずい、撃たれたらひとたまりもない。だが、今はそんなことを言っても防ぐ手立てもない。

 

 やられたっ!ここまで悪辣なのか…!

 

 どうすればいい!何をすればいい!?もうあの異常な威力の弾は撃てない。ミカさんやホシノちゃんのような力は出せない。けれど、ここで何もしなければ後ろの子達が危ない。目を向ける。ハルナがいる。あの子は私に叫んでいる。危ないと。

 

 守らなくてはならない。あの子のことは。私のことを、大切にしてくれる子は。こんな私を、友達だと言ってくれるあの子のことを。

 

「………ぇ?これ……」

 

 私の力は、ないのかもしれない。それでも、こんな追い込まれた状況で、私の中に、何かが流れ込んでくる。それは、記憶。箱舟に乗り込んだ直後、家のことを思い出したように、完全に記憶から消えていたもの。

 

 あのときもそうだった。背後には、ナギサちゃんたちがいた。

 

 それが、自分の意思で発した言葉とは思えない。意識を失いかけていたから、うわごとだったのかもしれない。

 

 ただ、間違いないことがある。今の私は自分自身の意思で、同じ言葉を発せるという根拠のない確信がある。

 

「……そう。こんな反則みたいなことをしてくるのなら、私も反則をするしかないよね」

 

「エリカさん!お退きになって!」

 

 どこに退くの、ハルナ。私は退かない。そう、ずっとそうだ。私は、私の力で、誰かが明日笑っている姿が見たい。それで私が笑顔になれるなら、それはきっと、とても素晴らしいことだから。

 

 そのために、所属がどこであろうと関係ない。百鬼夜行でも、ヴァルキューレでも、SRTでも、ティーパーティーでも、シャーレでさえも、関係ない。

 

「手段を選んでこないのなら、私も選ぶ必要はないよね」

 

 ハッキリと思い出す。勝手に動いていた身体。ホシノちゃんの驚いた顔。思い出せたのはそこまで。私の記憶がどこか不自然、違和感があると思っていた、これが正体。私の身体には何かおかしなところがある。

 

 傷の治りが異常に早いのと、何か関係はあるのだろう。困惑もある、自分自身が信用足らない疑念もある。

 

 それでも、今を切り抜ける力となってくれるのなら。

 

 私自身が、引き金を引く!

 

「だから──神秘、解放ッ!」

 

 心臓が爆発したかのような一際大きな鼓動が胸の奥で鳴る。足元から紫色の光が吹き出して、体の周りを綺麗な水晶が回って、頭の上に昇っていった。そうして、ガラスが割れるような音と共に、今度は光の粒子が私の身体に降り注ぐ。

 

 さっきまでの物足りない身体の感覚が充実する。何がどうだかわからない。驚きが絶えないけれど、なんとなくわかる。目の前の悪と言っていい力に対抗できるだけの正義が今の私には宿った気がした。

 

 銃口を向ける。ライフルに刻まれたトリニティの校章が一際きらりとする。装填された弾丸に私は胸の奥から無限に引き出されるかのような力の感覚を流していく。不可思議な感覚だけど、それが本能的にできるとわかる。

 

 この行動が追い込まれた獣人族特有のものなのか、それとも思い出した記憶なのかはわからない。

 

 現れたデカグラマトン──ケテルというそれが砲口を閃かせた。大口径の艦載砲のようなものを受ければただでは済まない。私と、背後にいる彼女たちも。

 

「ここから先には行かせない!」

 

 ケテルから砲弾が放たれるのと同時に、私は指を引いた。

 

 




お読みいただきありがとうございます。感想、ここすきいつも励みになっています。

原作アプリでケイちゃんもとうとう実装され、原作でも開放型バレルのレールガン採用は嬉しい限り……。本作ではアバンギャルドなボディじゃない状態ですが、まとあと変身を残している状態に。

次回はまた明日です。
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