銃口からはこれまでにない一撃を繰り出せた。弾丸のサイズは明らかにケテルが撃ってきた砲弾と勝負にもならない大きさなのに、私の撃った深緑色に輝く弾丸はケテルの砲弾を貫いて、ケテルの砲身に入り込んで炸裂した。
どばん、鉄が溶けるように砲身が破裂し、そのままケテルの砲塔自体もボコボコと膨れて爆発した。
「う、うそぉ!?なにあれ!」
「す、すごい」
赤司さんと愛清さんの驚く声が聞こえた。私自身もびっくりはしてる。本当にこんな無茶苦茶なことができるなんて。動悸が止まらない……いや、これほんとに。もしかしなくても身体に悪いのかな、この力。
「エリカさん!流石ですわ!」
褒めてくれるのは嬉しいけどさ、ハルナ。たぶん、終わりじゃないよね。
砲塔が一撃で吹っ飛んだケテルはギゴギゴと四つの足を動かして立ち上がる。昨日ミカさんと共に戦った先輩の最期の姿を模した虚妄のサンクトゥムがそうだったように、目の前のケテルも、おそらくチヒロちゃんたちが知るものとは違うんだろうね。
吹き飛んだ砲塔が瞬く間に再生されていく。
「なるほど。一撃で仕留められないからとなるとそうか」
最初の一撃でこっちを仕留めるつもりだったのであの大きな艦載砲みたいなのを積んでたんだろうけど、それはできないとなれば次は面制圧。再生された砲塔には大きなガトリング砲とミサイルランチャーらしきものが見える。
このままじゃ確かに危ない。こっちは無茶苦茶な力が出せても手数が少ないライフルなんだから。
でもさ、今は頼れる相棒がまたいてくれる。
『エリカ!扉を開ける!』
「わかっているな!?」
『また無茶を……でもわかっちゃう私が嫌…!』
チヒロちゃんはわかるはずだ。私が次に考えること。相手が無慈悲な兵器であっても、ここに寄越したのは意思ある相手だ。その目的は次元エンジンこと箱舟のリアクターの防衛。
こっちを出会い頭に仕留められなかったのが悪い!
『各務さん!?何をされるつもりで』
『桐藤さん、悪いけど、あの狛犬さんの悪癖はこういうとき、有効なことが多いから』
後方で、ガゴンと大きな音が響く。扉が開いたのだろう。
「フウカさん!中に飛び込むのです!」
「ハルナ、でも!」
「いいですから!」
あの頃を知ってるハルナもわかったみたいだ。トラックが急加速して中に入っていく。チラリと後ろを見れば、扉が開いたその奥に、大きな光っている機械が見えた。あれこそ箱舟の次元エンジンだろう。
私は軽く地面を蹴って、一気に扉の中へ入り、箱舟の次元エンジンを背にする。ケテルはこちらを追って同じく入ってくるけど、ガトリングもミサイルも撃てない。まださっきのような単発の砲ならうまくできたかもしれないけど、そのような面制圧に特化した装備、流れ弾が後ろに行けば撃てないだろう。
「各務!あのデカグラマトンは基地施設の防衛用と見た!」
『ご明察、狛犬さん。デカグラマトン、ケテル。ヒマリたちが交戦したデカグラマトンの中でも特殊なタイプだよ。装備をさっきみたいに変えてくる』
「その分小回りが効かないな?アテが外れたな。色彩」
奇襲という方法ならば成立する手だったようだけど、残念ながらこうなってしまえばね。これならあとはこのデカブツを屠ればいい。赤司さんは……うん。次元エンジンの制御盤を見つけたのか、端末で接触してる。
『チヒロ。5分保たせて』
『了解、会長。狛犬さん、よろしく』
「任された」
やろう。弾丸を装填、飛び込むか、と足に力を込めた時だった。ケテルの動きが妙だった。身を大きく捩るように振るわせると、砲塔が歪んで、ぐにゃりと形が変わっていく。ガトリングガンとミサイルランチャーが消え、次に現れたのはどう見ても武装に見えない通信装置のようなもの。
まさかそういう特殊兵器か、と身構えるが、ケテルが砲塔の両サイドに装備した装置を展開した瞬間──地面から夥しい数の影のようなものが現れ、何かの形になっていく。いや待って。
ケテルは小回り効かないからってそれはないでしょう!
「小賢しいにも程がある!美食研!赤司とトラックを守れ!敵は物量で押しつぶすつもりだ!」
次に現れたのは小型の、ミレニアムでよく見られる箱型のドローン。マシンガンを内蔵していて、小型だから数を揃えられると厄介な代物。ケテルはそれらを制御する装置を身につけたらしい。
『ハルナさんたちはそのまま、トラックを中心に陣を!』
「心得ていますわ、ナギサさん。イズミさん!あなたの弾幕が頼りですわ!」
「えぇ!?私!?」
「でもその通りですね。頑張りましょうか」
『エリカ。なんとかケテルを破壊して。たぶん止めないと無限湧きすると思う』
だろうね。チヒロちゃんの言う通りだと思う。ケテルは装備を変えたことで非武装になったのか、といえばそうでもなく、砲身の頭頂部などにどうみても対空砲らしき砲身が見える。
厄介な。
「だが、動きは遅いだろう。今度はこちらが一撃でっ!」
全力で飛んだ。ケテルを中心に召喚されたドローンの半分がその場に残ってこっちを攻撃してくるけど、弾幕は私の後に遅れて形成される。ケテルの装備した対空砲も稼働しているけど、遅い。
そのまま、一発ケテルの装置、左側に向かって射撃。力を込めているので貫ける。そう思った。が、ケテルの周りのドローンが波のようにぐわっと動いてケテルとの間で壁になる。気持ちが悪い動き。
私の一撃は阻まれる。まさかそんな防御をされるとは思わなかった。
ケテルは私の着地を狙っているようだけど、残念ながら私も飛び上がってそのまま落ちるわけじゃない。今ならできるはず。実家ではできなかった技の一つを。
何もない、空中。いや、そこにはある空気を蹴る。ボンっ、と足元で音が鳴る。私は空中で軌道を変えて、着地をずらす。装填はその間に行って、こっちに襲いかかるドローンを複数まとめて破壊する。
『は?エリカ今何したの?』
「ニンポを使った。……あ、いや、ちょっと、できるかなと思ったらできただけ」
『どうみても空中を蹴って動かれていましたが』
「ナギサちゃん、すごいでしょ?」
『確かにすごいですが!?』
誤魔化す。つい使ったけどそもそも実家のことはあんまりみんなに知ってほしくないので。それにしてもいざ使うと便利だ。地面蹴って超加速はなんとかものに出来てたけど、空中での移動はできなかったんだよね。
今の身体能力ならできるらしい。
「……ただ、手数が足りないな。あのドローンの壁を抜けるほどの貫通力がない」
百鬼夜行の百花繚乱、その部長はとんでもない速さと早撃ちで一人十字砲火ができるらしい。私も今ならできるのだろうけど、どうしても装填がそこまで早く出来ない。あの召喚された色彩に呑まれてるドローン、小型なのをいいことに何機も重なって固くなっていた。
あれをぶち抜けるほどの威力がこの状態となっても出せない。というより、さっきのケテルの砲弾を撃ち抜いた時は射撃だけに集中していたから威力が出せたのかも。それならとやってみようとするけど、当たり前のように複数のドローンが私を囲むように突っ込んでくる。
二度はさせないと学習しているらしい。腰につけておいた手榴弾を抜いて、放り投げて迎撃する。ミレニアム製の普通のものよりも炸薬量が多いもので、複数の相手を一気にする時は便利なものだった。
といっても、この手榴弾にも限りはあるし、今も背後で波のように襲いかかるドローンをハルナたちが迎撃している。さっき調月会長は5分保たせてほしいと言っていたけど、おそらくそんなには保たない。
とにかく、物量が凄まじいのだ。
「せめてあともう一人いれば……!」
この状況を打破できる。その時だ。
「手こずっているようですね、手を貸しましょう」
ケテルの背後からその四脚の下を潜り抜け、敷き詰められているようにいる小型ドローンたちを弾き飛ばし、撃ち抜きながら私の横でターンして止まったのは──アビ・エシュフを装備したケイさんだった。
「どうしてここに?」
「言ったでしょう、借りを返すと。それに、アリスたちによる破壊工作中に要救助対象、砂狼シロコを発見……というより、火事場泥棒をしているところに遭遇しましたので、現在先生たちと合流させています」
よかった!シロコさんが見つかったんだ!
一番気がかりなところではあったから、本当によかった。
「それで手が空いたから?」
「はい」
ケイさんが特徴的な、開放バレル型のレールガンを構える。ナイスタイミングだと言うしかない。
「作戦はあるのですか?」
「そのレールガン、どれぐらい威力あるんだっけ」
「現在リミッターを全て解除していますから、ほぼ貫けないものはないと思ってください」
よし。それなら私の役目は囮に決定だ。
「火力と機動力。ケイさん、私が囮になる。あなたがケテルを仕留めて」
「迷わず囮役を……わかりました。時間はかけられないのですよね?一回の交叉で撃破しましょう」
わかってくれてる。ケイさんの目を見て、私は頷くと、またしても飛んだ。ケテルは空中をジグザグに飛ぶという私のおかしな機動に目を取られてこっちを向いた。対空砲が私に向けて放たれる。
狙わずに射撃。またしてもドローンが壁になる。それでもドローンの壁の後ろに回り込むように跳躍して、また撃つ。これも阻まれる。
それを何度も繰り返す。やっていくうちに、ケテルがドローンで包まれているんじゃないかと錯覚するほどの壁ができていた。
「──オーバードライブ。レールガン、エネルギーチャージ150%」
まるでケイさんの声は、ミカさんやナギサちゃんが魔法を唱えるときの澄んだ唄声のように聞こえた。
「ここが貴方たちの旅の終着点です……!光よ、貫けっ!」
さっき、箱舟に突入直前に見たとんでもない威力のビーム。それの小規模版のような青い光がレールガンから放たれていた。ケテルは壁を作って耐えようとするけど、私の弾丸よりも貫通力のある一撃はドローンの壁を突き破り、ケテルの砲塔を貫く。
大穴が空いた砲塔が爆散し、さっきまでたくさんいたドローンたちが一気にどろりと溶けるように消えた。
「やったかな?」
「なっ…!?エリカ、それはフラグです!言ってはいけません!」
「え」
流石に倒れたか、と思ったらケイさんに怒鳴られた。ちょっとアリスちゃんに似た声で怒られたのでビクッとした。
でも本当に今の警告は正しかかった。爆炎の中からケテルの本体らしき四脚戦車の車体部分だけが飛び出してきた。ケイさんは流石に今の一撃が重かったのか動けていない。その先にはハルナたちもいる。
直接攻撃をしようってこと?
「だけど、もうこれで終わりでしょう!」
ガードもできない、破れかぶれの突撃を許すわけにはいかない。
ケイさんの前に降り立ち、弾丸を装填した。狙いは砲塔の基部のあたり。外しはしない。
引き金を引いた後には、影のように溶けていくケテルの車体が崩れていく様が見えた。
『──次元エンジンの掌握完了。よく保たせてくれたわ』
「はぁ……助かった〜」
無事、色彩ケテルの襲撃を凌いだ私たちは次元エンジンの掌握に成功していた。赤司さんがその場にへたり込んでいたけど、気持ちはわかる。私もケイさんが来なかったらどうなっていたことやら。
「ケイさん、ありがとう。助かったよ」
「……はぁ。言ったでしょう、借りは返すと」
「借りって言うほどの借りあったかな?」
「……………まぁ、エンジニア部の部室での一件がありましたから」
あぁ!あのときの。確かに言われてみればあのときのアリスちゃんの身体はケイさんに乗っ取られてたんだよね。そういうことね、借りって。私が納得していると、ケイさんがまたため息をついた。
「ため息つくと幸せが逃げるって言うよ」
「迷信ですよ、そんなの。それと、これはついでなので忠告しますが、エリカ」
「なにかな?」
「その“力”は多用しないことを推奨します」
まさかそんなことを言われるとは思わず驚く。まさか、彼女はこのよくわからない力の正体を知っているか、もしくは勘づいている?
「ねぇ、ケイさんはこれを知っているの?」
「いいえ。しかし見当はつきます。ただ、それは私の憶測に過ぎないので、言うべきではないと思っています」
「それでもいいから」
「ダメです。………一つだけ、私から言えることは貴方にも意味がある。それを忘れないでください」
どういうことなの…?何もわからない。心臓の破裂しそうな鼓動はもう落ち着いて、さっきのような力の充足感はない。気が昂っていた。それだけでは説明がつかない不思議な力。神秘解放、と私は思い出した記憶からそのままなぞって言った。
ミカさんの弾を光らせるのは神秘を使っているってことだけど、私のさっきやったことはそれをもっと、強く表に出す行為なのだろうか。
よくはわからないけど、少なくとも、心臓への負担が凄そうだし、そう言う意味では体にものすごく悪そうだ。ここは素直に、ケイさんの忠告に従い、ここぞというときに使うべきだろうな。
『エリカさん、お疲れ様でした。これであとは敵首魁を探すだけです』
「そうだね、ナギサちゃん。作戦も最終段階に移行、って感じかな」
『はい。あと、エリカさんたちがそちらの次元エンジンを制圧したおかげで、調月会長からは箱舟の破壊も可能とのことでした』
そんなことできるんだ。さすがだ。
『正確には自爆シークエンスね。構築は制圧と同時に完了したわ。先生が敵の首魁を止めたら最後に使って船は離脱。箱舟を完全に破壊して作戦は完了よ』
なんとかここまでは来れた。あと少しで、この戦いは終わる。今はとにかく先生たちに合流しよう。
「C班の任務完了。これより先生たちに合流する。ケイさんもいいね?」
「異論はないです」
「なんとかなりましたわね」
「そうだね、ハルナ。じゃあ、ナギサちゃん、今から移動するよ。引き続きナビよろしくね」
『はい、エリカさん。任せてく──』
爆発音と共に、ナギサちゃんからの通信が途絶えた。え?
「ナギサちゃん?」
「ヒマリ?何が起きたのですか?ヒマリ!」
ケイさんも明星さんに呼びかけていた。なんだ、何が起きた今度は。まさか、またウトナピシュティムが襲撃を…!?
「一度船に戻るぞ!」
「フウカさん車を!急いで!」
「わかってるよ!」
「本当に悪辣ですねぇ、相手」
もしナギサちゃんに何かあったら私、私は──!
『ゲホッ、げほっ、こちらウトナピシュティム、カイチョー!聞こえる!?』
風倉さん!?無事だったのか!
「風倉、状況!」
『なんか船にバックドア仕掛けられてて、ハッキングされて自爆シークエンスをこっちに使われたみたい!』
「被害は!」
『人的被害はほぼなし!あっても転んで擦り傷!でも船自体のダメージが深刻で……航行システムまで持ってかれてるって!』
なんてことだ。つまり、もうウトナピシュティムは動けない。脱出も困難になった。
『完全にやられましたね。あの別世界のシロコさんが手榴弾を使って撤退した際に何かをしたのでしょう。リオ、悔やむのはあとです。チーちゃん。攻撃元の探知は?』
『もうしてる!』
全員に対しての通信が届いた。明星さんも無事なのか冷静に対応をしてくれている。チヒロちゃんもハッキング元をすぐに探っていた。ナギサちゃんの声が聞こえない。大丈夫なのだろうか。
『エリカさん!私です!』
「ナギサちゃん!よかった……!」
『なんとか。風倉さんが庇ってくださって』
風倉さんが……!
「風倉、よくやった!」
『いや、まぁ……一応SRTだし……』
「本当によくやった。それで、貴様の怪我はないのか?」
『ないよー。あと、ミユから外の敵が少し増えたみたい。船の迎撃装備も箱舟の中のは壊れちゃったし、今、代行が先生に戦力の分配を指示仰いでる』
「了解した。頼むぞ」
人員が無事ならまだなんとかなる。次の一手は先生の指示を待つしかない。幸い、この制御室に敵がまた来ることはないみたいなのが救いだ。
『………よし、わかった!攻撃元はナラムシンの玉座!この箱舟の中枢!先生たちが今いるところの真下だよ!』
『チヒロ、それは確か?』
『間違いないよ、先生』
『了解。んじゃ、いくかね。あの鉄仮面ぶん殴りに』
先生は敵の首魁の場所へ攻め入るみたいだ。
『戦力の再編成を行います。先生と同行する生徒を挙げますので確認を』
代行からの再編成の指示が入る。指示書はそれぞれの携帯に表示された。この速さはおそらく調停室長だ。私の名前は……あった。先生との同行だ。美食研究会とゲーム開発部は船に合流して残った生徒たちの防衛みたいだ。
先生と同行するのはアビドスの子達に加えて、ミヤコちゃんと空井さん。二人の指揮を取れってことかな。
「エリカ、アビ・エシュフを貸します。徒歩よりは早いはずです」
「いいの?」
「はい。私はそちらのトラックで戻りますので」
合流するにあたって、ケイさんがアビ・エシュフを貸してくれた。空は飛べないみたいだけど、足にローラーがついていて、これで走れるみたいだ。操作方法は前のエリドゥの時に使ったものと同じなのですぐ乗れそう。
「エリカさん!」
「ハルナ?」
「ご武運を。そして、どうか無事に戻ってきてくださいまし。わたくしたちのもとへ」
ここまできて、私は自分を投げ出すなんてしない。みんなで戻るんだ、地上へ。
アビ・エシュフに乗り込む。装着方法も変わらない。手に持つ装備こそないけど、移動だけなら十分だ。トラックの方を振り返る。ハルナに目を向けた。
「ハルナもね。………こちら草鞋野、これより先生たちへ合流を目指す。桐藤、先導を頼む!」
『任せてください!エリカさん!』
「風倉はすまないが美食研のナビをしてほしい」
『了解。会長も頑張ってね』
ここからが正念場だ。私はどうしてか名残惜しさを感じながらハルナから視線を外し、アビ・エシュフを前進させた。向かうのは先生たちがいるところ、更にその先、今回の騒動の黒幕、首魁であるプレナパテスを名乗る相手がいる箱舟の中枢だ。
お読みいただきありがとうございます。感想、ここすき、いつも大変励みになっています。
次回からようやくプレナパテス決戦です。
主人公ちゃんの神秘解放は星5化に加えて強制的に固有武器完凸するようなものですが、無理やりなので(肉体的な意味で)心臓に悪いです。
次回はまた未定です。お待ち頂けますと幸いです。