エリドゥのセントラルタワーにて、リオはチヒロ、ヴェリタスのメンバーと共にウトナピシュティムの自爆シーケンスの解除を急いでいた。
「解除っ……!これでもダメ!?」
『こんな演算速度が可能なものが相手にあったなんて………こんなものがあったことに気がつけなかったこと自体が、私たちの』
「ヒマリ。弱気なことを言っている場合ではないわ」
『そんなことはわかっています!次、行きますよ!』
何度も自爆シーケンスの解除を試みても即座に再開させられ、ウトナピシュティムに乗った生徒たちに残された時間は少ない。焦りがヒマリのメンタルを追い込んでいた。それを叱咤したとしても、リオは現実問題、このままではもう間に合わないことは目に見えていた。
「(………多次元解釈の応用でウトナピシュティムの状態を固定……いえ、これはその場しのぎ。なら、箱舟からの攻撃を増幅していると思われる装置の破壊……ダメね。相手のこれまでの手口からしてサブプランを恐らく無限に用意している)」
宇宙の向こうにいる相手の手口からして、リオはその場その場での対応は全て更なる手札を切られ、一方的に疲弊させられると考えていた。
「これは…!リオ会長、また空が!」
「……!」
状況をモニターしていたノアからの凶報にリオはハッとする。
『ウトナピシュティムを利用して更に虚妄のサンクトゥムの再生を加速させています!くっ…!ここまでとは……!』
空が再び赤く染まっていることをリオもモニター内のカメラ映像で確認し、更に再び虚妄のサンクトゥムが顕現する様子が見てとれ、いよいよ持ってリオは追い込まれたとらしくもなく圧倒されていた。
「……先生の言うとおり悪辣……いいえ、違うわね。もはや、執念。こちらを絶対に滅ぼそうという」
世界そのものへの殺意と言い換えていいほどのものに、リオはやむを得ないと目を閉じた。
「ちょっと、会長……!なんで手を……!」
チヒロはそんなリオを見て、まさか諦めたのかと思ったが、そうではなかった。リオは再び目を開けると、ノアへと振り返った。
「この手だけは使いたくなかったのだけれど。ノア」
「はい?」
「……コユキを呼んでちょうだい」
「コユキちゃんを?待ってください、何をさせるつもりなんですか」
「相手の演算速度は私たちでは対処不能よ」
「ですが、いくらコユキちゃんでも」
「だから、全てを彼女に託すわ」
その場にいる生徒たちも、宇宙のヒマリも、ユウカも驚く。あのリオが、全てを託す。しかも、問題児も問題児な黒崎コユキに。
「この相手に打ち克つには完全なる打倒が必要。そのために、コユキにこの都市全てのリソースを与える。あの子の演算能力とエリドゥの演算能力を合わせれば……」
「会長。そんなことをして、コユキちゃんに何かあったら」
「コユキに来るダメージは全て、都市が引き受けるわ。だからこれは最後の切り札。私が隠していた、本当の切り札よ」
リオの語る意味をノアは理解する。エリドゥの演算機能はウトナピシュティムへ遠隔ながら電子戦での支援を行なっている。今も、自爆シーケンスを一時的に何度も止めることができているのはエリドゥの力があってこそだった。
それを全て攻撃に回して、ウトナピシュティムへのハッキングを圧倒し、完全に打ち倒そうというのだ。負ければエリドゥは破壊され、ウトナピシュティムも自爆。そこにいる生徒たちはヘイローを破壊される。
そうなってしまえば、残りの先生たちも帰れず、全てが終わる。
「仮にエリドゥの演算システムが破壊されてもウトナピシュティムの制御を元に戻せば、ウトナピシュティムの演算システムで逆に攻勢を再度行い箱舟の制御を奪い取れる。………もう時間はないわ」
自爆シーケンスまで残り数秒というところで、カウントダウンが止まる。
『これは、どういう』
「ヒマリ。一時的に多次元解釈を応用してウトナピシュティムの状態そのものを固定したわ。ノア、今のうちにコユキをここに。このヘッドギアを装着させてコユキとエリドゥを同期させる」
「……わかりました。コユキちゃんを呼んできます!」
「よろしく」
「暴虐の女神エニューオー。闘争ある場所に彼女は現れ、そしてそれら全てを呑み込む」
「エリカ、ちゃん?」
アトラ・ハシースの箱舟、ナラム・シンの玉座にてホシノは絶望を前にしていた。かつての彼女の先輩のように、生気を失い、魂が抜け、もはや二度と彼女の名前を呼ぶことがなくなった姿。
決して、ホシノ自身が知るエリカではなくとも、今度こそ守ると誓ったはずの少女の遺骸は少なくないダメージをホシノの心に与えていた。
「闘争のある場所に現れる…だって?」
サキが、もう一人のシロコの語った言葉に何かを気がついたかのように反応する。先生もサキの反応に、同じく気がついたかのように目を開く。
「……先輩は、事件が起きそうな場所に、必ずと言っていいほど、現れます」
「そういうからくり、ってことなのか…?」
「肯定。SRTの生徒の解釈は正しいです。草鞋野エリカの神秘、神聖が保有する特性は平時、キヴォトスにおける闘争の場へ自らを誘う力を持っています」
A.R.O.N.Aがミヤコとサキの言葉を肯定する。それが意味することもその場にいるものたちは理解する。エリカが歩む道の前にかならず立ち塞がる困難。それらが全て、目の前のもう一人のシロコが語るような運命であると。
「そんなもの、そんなこと、認められません!まるで、先輩が争いを呼んでいるような!」
「…………エリカは呼んでいない。でも、エリカはいつもそこに足を踏み入れる」
「だからあなたが、先輩を撃ったと…!?」
「あなたのことはよく知らない。でも、あなたも同じ。弱いから、そうなった。エリカを止められなかった」
「私は……!」
「落ち着けミヤコ、RABBIT1!」
「サキ!」
「安い挑発に乗るんじゃない!あんたらも!……例え相手がなんでも、あいつらを止めないとこっちがやられるんだ!」
一喝、と言えるサキの叫びに、フリーズしていたホシノがようやくハッとして構え直す。先生もまた、首を振る。そうだ、と。例え相手がなんであっても、為すべきことは一つしかない。
この場でプレナパテスらを打倒する。そうでなければ、もはやキヴォトスに明日はない。
「………君の言うとおりだね、エリカちゃんの後輩ちゃん。みんな。私があのエリカちゃんを抑える。みんなはあっちのシロコちゃんを」
「いいの、ホシノ一人で?」
「先生。たぶんあのエリカちゃん……死んでるなら容赦ないよ。あの子がいつも怪我をしがちなのは優しいから。でも、そうじゃないなら、私も抑えられるかどうか」
「……強いとは思ってたけど、エリちゃんはそこまで」
「そ。だからそうしたほうがいいよ。出来るだけ私も頑張るからさ」
だから先生が指揮を取ってもう一人のシロコに対処したほうがよい、というのがホシノの判断であり、先生もそれに頷く。
「要請。砂狼シロコ。これより凍結していたサンクトゥムを一次的に活性化。演算を加速します」
「わかった」
「演算加速後、一時的に先生への防御及び演算以外の行動は不能。援護を」
演算の加速。意味は先生にはよくわからなかったが、おそらく今置かれている状況が更に悪化することは理解できていた。
「(アロナ。もしかして相当ヤバい?)」
<ヤバいなんてもんじゃないです!そもそも今、ウトナピシュティムは箱舟に利用されて演算装置にされています!そこにあの私が干渉して更に演算を加速──虚妄のサンクトゥムを再顕現させようとしています!>
「(ヤバいどころじゃなかった)」
先生は改めてプレナパテスの手口である、追い詰めたつもりが逆に袋小路に追い詰められている感覚に歯軋りする。だが、その悪辣さは本来先生──否、■■という女性の大人であろうという姿勢を剥ぎ取った姿であり、理解できてしまっていた。
「ウトナピシュティム、リンちゃん聞こえる!?地上に虚妄のサンクトゥムが出るかもしれない!」
『こちらウトナピシュティム!了解しました!しかし、どのように対処を…!』
『先生!今ウトナピシュティムの制御はほとんどできません!地上の分析はとても…!』
リンとユウカからの返答があり、先生は現状手詰まりであることを理解する。なら、ここで出来ることは少なく、単純なものだった。A.R.O.N.Aを名乗ったもう一人のアロナを止めるしかない。
「やるしかないか…!みんな、戦うよ!あの傘持った方の子をとにかく止めて!」
先生の声に、その場にいる生徒たち全員が武器を構える。シロコもノノミの手を借りて立ち上がる。その目から戦意は未だ衰えていなかった。
「……先生、諦めないんだね」
「ったり前よシロコ。往生際悪いの、知ってるでしょ」
「うん」
「悪いけど、今も頑張ってるみんなのためにここにいる私たちも諦めるわけにはいかないんだ。この箱舟は破壊させてもらうよ、シロコ。それに、そこで黙ってる私」
「そういうわけで。ちょっとおじさんと遊んでもらおっか。エリカちゃん」
先手はホシノからだった。現れてからロボットのように停止している向こう側のエリカに向かって盾を構え突撃する。それに対して、向こう側のエリカが取ったのは得意の歩法を使った後方への跳躍だった。
その上で、長大なライフルを構える。狙いはホシノ………ではなく、その背後の先生であった。
「っと!」
それは発砲音というにはあまりにも静かすぎる音。華美な装飾が施された狙撃銃から放たれたのは純白としか表現できないほどの浄化の光、とでも言うべき光線だった。ホシノは直感的にまともに受けてはいけないことと、先生への直撃はこのままでは避けられないことを感じ、咄嗟に盾を射線上に突き出す。
盾に触れ、静かな光線のはずがまるでゾウに踏まれたかのような重圧がホシノの腕にかかる。
「(……!これは……こっちも神秘ちょっと解放!)」
たまらずホシノはある程度の神秘を盾へと纏わせ光線を表面で弾く。細い光線は弾かれた先、ナラム・シンの玉座の壁に当たり大きな爆炎を上げる。
「うっそぉ」
声は間が抜けていたが、ホシノは本気で驚愕していた。エリカの全力、それも迷いを捨てた本気の一撃。ある程度は覚悟をしていたが、想像以上の力であることにホシノは後輩たちの前といえど、いつもの昼行灯じみた姿を維持できないと悟る。
向こう側のエリカはホシノが一歩詰めればまた一歩下がる。絶対に距離を取り、ホシノの間合いにいれないことを徹底している。
「やりづらい…スタイルを変えよう」
盾を前に、堅実な形での突撃は間を詰められないとホシノは判断し、即座に盾を畳み背中に背負う。髪を結びたいところであったが、ホシノは流石にそんな暇はないとショットガンを両手で構え、全力で床を蹴った。
その一歩の加速は、エリカにも迫るもの。向こう側のエリカが生者であれば驚愕に染まるほどの速さ。
しかし、死者である向こう側のエリカは飛び込んできたホシノに対して冷静に対処する。彼女は着地の瞬間に、今度は後退ではなく前から来るホシノを飛び越すようにジャンプする。
「チッ…!」
本当に死んでいるのかとホシノは相手の動きに舌打ちするが、真下から見上げた相手を見てホシノは一瞬固まった。
「……!?」
顔、それがあるはずの場所にあったのは底なしの闇のような影。まるで貌がブラックホールにでもなったのかとホシノは衝撃を受ける。それだけでもホシノの動きを止めるには十分だったが、向こう側のエリカは狙撃銃ではなく、左手で懐から何かを取り出し構える。
それは札が付けられたクナイだった。
「忍者じゃないんだからさ……!」
ひゅんっ、と投げられた3本のクナイ。ホシノは隙を突かれ回避は不能と判断。ショットガンを腰にマウント、盾を間もなく開き、盾の裏に差し込んだハンドガンを引き抜く。先生からは瞬きにも満たない合間の刹那の動き。
ドドンッ、と連続して短い銃声。同時にホシノの頭上で爆裂するクナイ。この場にエリカが間に合っていれば彼女はそのクナイに取り付けられた札がなんであるかわかっただろう。
起爆札。そのように呼ばれる爆弾の性質を持つ札だった。
「やってくれるね」
爆炎を切り裂いてホシノは向こう側のエリカに向き直る。着地の瞬間を狙おうにも向こう側のエリカはあろうことか先生をホシノ射線に入れてきていた。回避すればホシノの弾が先生に向かう。
手段を選ばず、目的を達する動きの容赦のなさ。このやり口に厄介さを感じていたホシノは少し前にアビドス自治区で起きた事件でエリカと共に戦った時のことを思い出す。
「(確かに強いけど、エリカちゃんの戦闘スタイルとは似ても似つかない?)」
エリカの本来のスタイルは足の速さを生かした撹乱や体術を絡めた接近戦だ。そして何よりもガード不能と言っていい早撃ちの技術。今戦っている相手がとっている戦法はひたすら距離を保った引き撃ちであった。
「(………エリカちゃんじゃない?)」
肉体こそ間違いなくエリカなのだろうが、ホシノは違和感があった。だがその正体を探る暇はない。
「どこまで逃げても私は逃さない。いくよ」
再びホシノは、向こう側のエリカへ飛び込んだ。
一方、もう一人のシロコに挑みかかったのはまずはシロコとミヤコだった。
「さっきのようにはいかない──!」
「遅いよ」
「だけどっ」
勢いよくシロコは突撃し、もう一人のシロコへと迫る。回避を絞ろうとわざとばら撒かれた弾丸に、もう一人のシロコは大きく避ける。そこへ、ミヤコが回り込む。もう一人のシロコはミヤコと面識はなかったが、SRTの生徒であることや向こう側のエリカの姿を見て、エリカの後輩であることは明らかだった。
「これなら!」
「遅いよ」
エリカそっくりの瞬間的に地面を何度も蹴る特徴的な歩法。ミヤコは何度もそれを見た。だからこそ、目で追えなくても次に何をされるのかわかっていた。
「たああっ!」
「……!」
ミヤコのフォローにサキが機関銃を撃ちながら、ミヤコの背後を取ったもう一人のシロコに突撃してきていた。
即席のチームでよく連携が出来ていることにもう一人のシロコは驚いた。
「やるね」
「シロコ先輩!」
「セリカ…」
突撃してきたサキをひらりと避けるついでに、鉄帽の上から左手のハンドガンのハンマーで殴りを入れ、サキを怯ませると、更にそこへセリカが素早く猫のように突っ込んでくる。
それをあえてもう一人のシロコは待ち構え、互いのライフルをぶつけ、互いの顔の横を銃口が通り過ぎる。
「こんなことすぐに止めて!私たちは許さない!」
「許される気なんてないよ。それに、許されたいなんて思ってない」
「何言ってんのよ!先輩は!?」
「むしろ恨んで、憎んで」
「そんな厨二病みたいなことを…!」
セリカは怯むことなく蹴りを繰り出そうとしたが、組み合った状態からもう一人のシロコは消えるようにすり抜ける。速いと驚く間もなくセリカは背後に気配を感じ、勢いよく猫の獣人らしく体を前へしなやかに曲げる。
彼女の頭があった場所をもう一人のシロコの放った弾丸が通り抜ける。
「シロコちゃん!」
今度はノノミがシロコに掴みかかる。もう一人のシロコはまさかノノミがここまで接近するとは思わず虚を突かれた形となる。そこまで素早くはないはずだがどういうわけだともう一人のシロコが思えば、なんとノノミは自慢の怪力を生かしたガトリングを置き、素手で向かってきていた。
捕まえられればもう一人のシロコといえど、抜けるには手間がかかり、何よりノノミを強く痛めつけなければ抜け出せない。ノノミ自身もそうなっても逃すつもりはない。伸ばされた手をもう一人のシロコは軽く弾いて、一度距離を離す。
「いたた……もうっ、逃げちゃダメですよ!シロコちゃん」
イタズラをする子供にかけるような声音に、もう一人のシロコは胸の奥が軋むような想いだった。
先生はエリカのように動くもう一人のシロコへの対処が厳しいことに早々に勘づいていた。ホシノが一方の対処に追われている以上は複数人で挑むしかない。もう一人のシロコの動きは明らかに複数と戦い慣れているもので、簡単にいなされているのが目に見えていた。
また、明らかに手加減もされている。
「(その気になればこっちをいつでもやれるぞって感じがするな。ただ、アビドスの子達とはやっぱり戦い辛そう)」
箱舟への強襲揚陸時のアヤネに銃を向けられた際の表情や、ノノミへは露骨に軽い手出しで済ませていることからもう一人のシロコは、シロコを除くメンバーとは戦いたくないという様子が先生には見て取れていた。
それを突破口にしようとは考えず、どちらかといえば先生はもう一つの世界で何がシロコを襲ったのか想像してしまっていた。
「(……止めなくちゃならない。でも、それでもあのシロコとアビドスの子達で戦わせるのは…酷すぎやしないかな)」
こんな状況でも、プレナパテスは身を捩ることも何もしない。本当にただそこにいるだけのように立ったままだった。
「(何を考えてるの。向こうの私は)」
先生は、鉄仮面の中にある意思を読み取ることはとても出来そうになかった。
黒崎コユキは問題児だ。倫理観というものは蒸発し、お金は使われてこそと天賦の才を以って、ありとあらゆる暗号をドアノブをひねるが如く開き、大いなる力には責任が伴うことも理解せずに自由気まま、欲望を果てなく満たすために行動をしてきた。
その報いは当然自身に跳ね返ったが、それでも見放されることなくコユキは今も尚、ミレニアムサイエンススクールに在籍し、所属も生徒会組織であるセミナーのままである。加えて、定期的にシャーレへと出向き、彼女を問題児と知る者からは考えられないほど先生のお願いには従順で、無邪気な笑顔を振り撒きながらも活動を続けている。
これがどれほど幸運なことであるか、コユキは理解できていない。理解できていないが、少なくとも悪くない世界で生きている。寂しい思いはしていないとはわかっていた。
だが、倫理観がなくとも、どれだけの大いなる力を持っていようとも、黒崎コユキはただの少女にしかすぎない。他の多くの、トリニティの強大な力を持つ少女たちのように。その精神性は決して全てが唾棄されるようなものではなく、大切な人が傷つくことは嫌だと、そう言える、思える優しさは誰にも否定できない形で存在していた。
だから彼女は、突然の無茶振りに応えていた。滅多に頼られることがないリオ──生徒会長からのお願いを聞いていた。
『無事に入れたようね』
「暗号解くんですよね!?解くだけなんですよね本当に!?」
『そうよ』
「絶対嘘だー!会長の鬼!悪魔!」
『………………鬼……』
聞いてはいたが文句は言っていた。
今、コユキの目の前にあるのは電子的なワイヤーフレームで構成された世界であり、彼女はエリドゥの莫大な演算リソースと接続され、ウトナピシュティムを襲う箱舟の攻撃に対抗するために電脳空間に潜り込んでいた。
コユキの容赦ない言葉にリオは傷ついたが、時間もないため気を取り直してコユキに指示を出す。
『とにかく時間がないわ。これからあなたにはこの電子空間でウトナピシュティムを攻撃する敵の排除をして、その核となっているものを破壊してもらう』
「で、できるんですかそんなこと!?」
『できるわ。……あなたの力は私もよく知っている。こと、暗号の解除……それひとつに絞った演算能力ならば、あなたに敵うものはこのキヴォトス上には存在しないわ』
「急に会長に褒められるのなんか気味が悪いんですけど……」
『私は事実しか言わないわ』
「それで、ほんとに何すればいいんですか?ノア先輩からとりあえず連れてこられて、よくわからないもの頭につけられてここにいますけど」
『さっきも言ったけれど、あなたにはここで戦ってもらうわ』
戦う、という言葉のとおりコユキの手には普段使いしているマシンガンがあった。しかし、銃そのものの色が現在のピンクではなく、黄色になっている。また、コユキ自身も着ているものも制服ではなく、外部で金融犯罪をする際に名乗っていたコードネーム“白兎”時に身につけていたバニーガール姿だった。
本気で戦うといえば確かにこの格好だが……とコユキは思い、実際モチベーションは上がる装いのため、深くは考えないことにした。
『そして、今のあなたの強さはそのまま……あなたの暗号解除の力と同等になっているわ』
「………えっと〜よくわかんないんですけど」
リオの話す内容をコユキは理解できなかった。理解しようとも思わなかったが。
『来るわ。あなたが敵を倒すたびにこちらは暗号解除を繰り返す。倒し切れば完全に相手の処理速度を上回れるわ。制限時間はあと…300秒』
「5分で敵を全滅ってことですか?どれぐらいの数なんですか?」
明らかに無茶な内容であったが、敵の数もわからないのでコユキは聞いた。答えが返ってくる前に、目の前にその回答が広がった。
「へ……?」
ワイヤーフレームで構成された街の影から次々にそれらが現れる。ミレニアム製の箱型ドローンや、乗り手がいないカイザー製の大型パワードスーツゴリアテ。トリニティの戦車であるクルセイダー巡航戦車。
様々な通常兵器がコユキの前に姿を現し、埋め尽くしていく。
「………いやいやいやいや!?」
コユキの戦闘能力は高くない。セミナー内では低い方である。彼女は決して万の大群を個で凌げるような英雄じみた力は持っていない。
『コユキちゃん!頑張ってください!それに、コユキちゃんが頑張ってくれないと、ユウカちゃんが……』
『そうよ、コユキ。今あなたにはキヴォトスの命運がかかっているのよ』
「んな無茶苦茶な!?あんな数一人じゃ無理です!」
『いけるはずよ。とにかく撃ちなさい』
「………ええい!こうなりゃヤケです!」
そもそも逃げ場はなく、コユキが何もしなければ宇宙の向こうでユウカと先生が死ぬ。その事実がある以上、コユキは引き金を引くしかなかった。放たれた弾丸は普段であれば戦車を一撃で破壊することなどできないが、今回は違った。
「あれ」
まるで空き缶を撃ち抜くように銃弾が次々と装甲を貫いて、コユキの目の前の兵器群はパズルゲームのように連鎖爆発していく。
「…………」
まさか、とコユキは普段使いしている試作の万能手榴弾を投擲すれば、空中で炸裂し多数の弾丸を降らせて敵が更に溶けていくように爆発する。
「なるほど!わかりましたよ会長!私の攻撃力、カンストってことですね!」
『そういう理解で構わないわ。その調子でどんどん敵を破壊してちょうだい』
暗号解除の力全てが攻撃力に変換された状態でコユキは攻撃を続ける。キヴォトスで敵うものがいない力とはつまりまごうことなき最強の力。それを攻撃力というステータスに変換し、コユキが敵を撃つごとに強制的に暗号解除を繰り返していく。
相手の処理能力を上回るために、常に変わるアルゴリズムを更に変えさせ処理をパンクさせ、そこを突く。それがリオの切り札──。
『これぞ私たちの切り札。ドスうさぎちゃんよ』
「ダサ」
『……ダサい……』
そのネーミングはコユキにバッサリと切られていた。
お読みいただきありがとうございます。次回も明日です。
まさかのコユキ活躍回です。なかなか原作ではリオと絡んでくれないので悲しい。でも絡んだらなんか絶妙にユウカたちより生意気になってくれそうな気がするコユキ。
実際シロコテラーは原作で直接的な戦闘描写はありませんでしたけど、いざアビドスと戦ったらノノミにはかなり手が出しづらそう。