頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

130 / 143
Area-32「決戦③ 激闘は秤を揺らし」

 ウトナピシュティムの前での防衛戦は激しさを増していた。箱舟によって制御ができなくなりほとんどの対空兵装などが無効化された状況のため、ここぞとばかりに色彩の戦力が攻め落とさんと集結している。

 

 そのような状況の中、ウトナピシュティム前まで戻ってきたゲーム開発部や美食研究会の面々は防衛戦を張っていた。

 

「うぅっ!?」

 

「ユズ!」

 

 不意の攻撃によりユズの乗る量産型アビ・エシュフの右脚部が撃ち抜かれ大破。ユズは膝をつく。そこに追撃をしようとする聖徒会のミメシス数体をケイがレールガンで撃ち抜いた。

 

「ご、ごめん、ケイちゃん」

 

「お礼は後です!機体を放棄してください!」

 

「う、うんっ」

 

 多勢に無勢というのが正直なケイの感想だった。ケイ自身はエリカにアビ・エシュフを貸しているため生身での戦闘であり、いくら身体のリミッターを非常時故、解除していても元より多対一に向いた装備をしているわけでもない。

 

 現状、ウトナピシュティムに迫り来る敵を多く屠っているのは弾丸を多くばら撒いているモモイや、イズミ。正確無比な射撃でブリッジに突撃しようという敵を絶対落とすミユだった。

 

「ケイちゃん、ありがとう、脱出できた」

 

「わかりました。第三艦橋、ウタハはいますか!?」

 

『ケイかい!?大丈夫かい!』

 

「大丈夫じゃありません!ユズの一番機はこれ以上使えません!突っ込ませて爆弾にします!」

 

『了解。……自爆コードのロックは解除した!あとは頼んだよ!』

 

 使い物にならなくなったユズのアビ・エシュフの操作パネルを開くと、彼女は安全装置になっているレバーを在らん限りの力で引っ張り、バキャリと引き抜く。すると、アビ・エシュフは異音と共に警報を響かせ、ひとりでに敵集団に突っ込んでいった。

 

 ある程度の位置までいけば撃ち抜かれながら最後は火花を上げて転がって、敵集団の真ん中で大きな爆発を起こし、それなりの数の敵を巻き込んでいた。

 

「やっるぅ!ケイ上手いじゃん!」

 

「どうも。無駄口を叩いている暇があるのならもっと撃ってください」

 

「人が褒めてるんだから素直になりなよ、もう!」

 

「アリスわかります!今のはケイなりの照れ隠しです!」

 

「アリスも戦闘に集中してください!」

 

 賞賛を受け流しながら、ケイは再び飛びかかってきたType.Fを撃ち抜く。ユズは既に前線から引いて艦の近くから迎撃を再開していた。

 

「うわぁっ!うそ、ジャムった!?」

 

 今度はミドリのアビ・エシュフに装備された大型の無反動砲が何故か射撃できず隙を晒す。そこにすかさず敵が群がってくる。Type.Fの触手が無反動砲を貫き、ミドリは武器を手放す。

 

「ひっ!?」

 

 それだけでは済まず、更に触手がミドリの顔の横を通り過ぎ、アビ・エシュフの右腕の付け根に巻き付くと、電気ショックを与える。ダラリとミドリの機体の右腕部が破損し動かなくなる。

 

「や、やだっ、この、離れてっ!離れてよ!?」

 

「ミドリ!こいつゥ!」

 

 救援にモモイが駆けつける。唯一近接戦装備を与えられているモモイのアビ・エシュフは左腕に装備されたシールド裏からヒートブレードを展開し、ミドリの機体に絡みついた触手を切り裂くと、そのままの勢いでType.Fにもブレードを突き刺す。突き刺したまま腕を勢いよく振り、空中で真二つに裂いた。

 

「大丈夫?!ミドリ!」

 

「あ、ありがとうお姉ちゃん」

 

「いい加減こいつらしつこい!ブリッジ!?なんとかならないの!」

 

『あともう少し!もう少しでコユキがなんとかしてくれるから持ち堪えて!』

 

 たまらずモモイがウトナピシュティムのユウカに問いかけると、コユキによる電子戦が佳境を迎えていることが伝えられる。それでもモモイは際限なく増える相手に不安を隠せずにいた。

 

「モモイ!アリスたちは負けてません!」

 

「……そうだね!アリス!」

 

 一瞬とはいえ雰囲気が圧されかけたことに気がついたアリスが勢いよく敵集団の一角をビームキャノンを使い蹴散らし、声を張り上げた。モモイもそれに乗って、再び大型のアサルトライフルを構えて迎撃に戻る。

 

 ミドリは残された背中のビームキャノンを展開し、出力調整の上で連射する。

 

「あの子たちも頑張ってはいますわ……しかし」

 

 ウトナピシュティムの格納庫入り口付近のコンテナを遮蔽物として活用しながら、ハルナは火力の高い敵を優先して狙撃し続けていた。ゲーム開発部の火力で支えてきた防衛線も限界はそう遠くないことが明らかだった。

 

「ふふ。流石に絶体絶命ですね」

 

「本当にそうですわね。アカリさん」

 

「こんなところで終わるのは嫌ですけどね」

 

「同感ですわ」

 

 いつもと変わらぬ軽口を叩くように見えたアカリも、僅かに汗が滲む。飄々としたアカリでさえも追い込まれつつある証拠だった。

 

「このっこのっこのーっ!」

 

 ジュンコはもはや乱射といって良い形でミユを狙う敵を迎撃し続けており、動きに精彩さはカケラもなかった。

 

「……万が一の時は、狛犬さんのところに行かせるぐらいはしてあげますよ」

 

「なんてことを言いますの、アカリ」

 

「冗談です。半分」

 

「ここにはわたくしの友人もいますの。彼女が傷付けば、エリカさんも傷つきますから」

 

「わかっています。じゃあ、出来る限り、戦いましょうか」

 

 このままウトナピシュティムの防衛戦が圧殺されるのが先か、それとも敵の制御を奪うのが先かの瀬戸際で、アカリはらしくもないことを言いながら前線に駆け出す。それをハルナは援護する。

 

「(わたくしたちは負けませんわ。そうでしょう、エリカさん)」

 

 

 

 

 

 

 

「にーはっはっはっ!こんなもんですかねぇ!」

 

 電脳空間での戦いは概ねコユキの勝利と言って良い状況になっていた。

 

『あと100秒を切ったわ。攻勢をかけてきている核を叩いて』

 

「つまりラスボスってことですね!ちょちょいとやっちゃいます!」

 

 残り時間は少ないが圧倒的なまでの制圧力でコユキは天狗になっていた。ゆえに、その攻撃を避けることはできなかった。

 

 突如、コユキの背中に衝撃。気を失うことはないものの、コユキは大きくよろめいた。

 

「ギャー!?なんですなんです!?」

 

『コユキ!どうしたの!?何があったの!?』

 

「なんかいきなり撃たれ──!」

 

 実体としての体でなくとも、ゾッとしたコユキはその場から兎のようにぴょんと大きく飛び退く。立っていたワイヤーフレームの見える地面に弾丸が突き刺さるのを確認する。

 

『残り70秒!コユキ!急いで!』

 

『………確認しました。コユキ、それが“核”です!破壊してください!』

 

 ユウカとヒマリの急かす声を受けながら、コユキは攻撃をしてきた相手に向き直る。

 

「あれが“核”……?」

 

 現れたのは黒い影。シルエットだけしか認識できない人型の何か。だが、コユキにはわかった。その影がなんであるのか。

 

「ユウカ先輩!?」

 

『分析したわ。おそらく“向こう側”のユウカのデータを元にしたアバターね。あれがあちらの演算を加速させている“核“を具現化したものと見て間違いないわ。あと50秒。仕留めなさい』

 

 そんな無茶を、とコユキは言うことさえできない。ユウカの影は両手のマシンガンを構え、突撃してくる。その姿はコユキの見慣れたものだった。

 

 模擬戦において、コユキはユウカに勝てた試しがない。ユウカの運動神経は良いとは言えないものだったが、戦闘の組み立て方に関しては持ち前の計算力によって十二分にキヴォトスにおいても上澄みにいる生徒だ。

 

 この目の前の影もそうなのかとコユキはたじろいだ。

 

「けどっ!そんな偽物なんかに!」

 

 だとしても、逃げることはコユキにはできない。コユキはイメージする。この空間ではコユキの持つ能力が攻撃力に変換されている。ならば、それと同じくコユキの思うままに物事を変換できるはずだと。

 

『…!これはコユキ自身で演算を……!?』

 

「そぉれっ!」

 

 コユキは左手を振りかざす。すると、何もない空中から現れたのは猫のような奇怪な姿をしたキャラクターの大きな人形。それをデコイにコユキは迫り来る影の側面に回り込む。

 

「おりゃー!」

 

 横からマシンガンを連射。ユウカの影に直撃……したが、当然のようにコユキも見慣れたバリアがそれを阻み、反撃に二挺のマシンガンから弾幕を張られ、コユキはいとも容易く蜂の巣にされた。

 

『コユキ!』

 

「うっそぴょーん!」

 

 蜂の巣にされたコユキの姿が崩れ、テクスチャが崩壊し、消え失せる。

 

 ユウカの影の真横にコユキは既にいた。

 

「BANG!」

 

 声と共に影は夥しいまでの弾丸で貫かれていく。

 

『残り15秒!コユキ、そのまま完全に破壊して!』

 

 リオの言葉に従いコユキは1マガジン全てを撃ち切るつもりで引き金を引き続ける。

 

「間に合えーっ!」

 

『あと10秒……っ!破壊確認!リオ、チーちゃん!』

 

 コユキの前で影が崩壊し、消え去る。それは箱舟側からのハッキングが一時停止したことを意味する。

 

『今!連結解除!』

 

 チヒロの掛け声と共に、コユキの視界は真っ暗になる。そうしてすぐに耳には現実の音。彼女は間も置かずにVR機器を頭から外し、どうなったのか確認する。

 

「ノア先輩!どうなったんですか!?」

 

「コユキちゃん!上手くいきました!成功です!」

 

 コユキの手をずっと掴んでいたノアから聞き、コユキはリオたちが向かっているモニターに目を見やる。モニター内のタイマーは残りコンマ5秒で停止していた。

 

『ウトナピシュティムの制御権、取り戻しました。またコユキの攻撃のおかげでこちらから逆攻勢をかけて箱舟の制御権の再奪取に成功。箱舟の自爆シーケンスの再検証に入ります』

 

「エリドゥのシステムも無事よ。ウトナピシュティムへの支援再開」

 

 電脳空間でのコユキの戦いは完全勝利で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………報告。ウトナピシュティムとの連結解除確認」

 

 ナラム・シンの玉座での戦いは明らかなもう一人のシロコによる時間稼ぎであり、双方に大きな損害は出ていなかった。A.R.O.N.Aからウトナピシュティムの自爆による排除の失敗、更に演算機能を利用した虚妄のサンクトゥムの再顕現も不可能となったことを彼女は悟る。

 

「箱舟の自爆シーケンスの起動を確認。下層ブロックから点火開始されています」

 

「………………そう」

 

 もう一人のシロコはついに引き出しの底まで覗かれたと理解した。アトラ・ハシースの箱舟を失えば残された力で成せることは一つしかない。

 

『先生!聞こえますか!?こちらは自爆シーケンスを作動させました!』

 

「了解!どうすんのリンちゃん!?」

 

『箱舟下層の開放型ブロックから爆破していきます!一気に爆破させると何が起こるか…!』

 

 先生にも作戦の最終段階が伝わり、ここまで来たという感覚があった。あとはと目の前を見やる。もう一人のシロコはプレナパテスとA.R.O.N.Aの前に立ち、未だ余裕を見せている。

 

『ノノミ先輩!私はギリギリまで支援します!』

 

「ありがとうございます!アヤネちゃん!」

 

『ホシノ先輩は!?』

 

「苦戦してます!」

 

 ノノミの言う通り、ホシノは向こう側のエリカを中々捉えられずにいた。ホシノも大きな傷などはないが、それは相手側も同じ。延々と逃げられ、埒が明かない状態だった。

 

 戦況はこう着状態。それも、プレナパテス側がまだ天秤の錘を持ったままで。

 

「(アロナ。このままだとジリ貧になるかもしれない。みんなを支援できる?)」

 

<えっと……あまり推奨できませんが、大人のカードと一緒に生徒の皆さんの力を底上げはできます!>

 

「(推奨できない理由は私への反動かな?)」

 

<そうです!でも、先生は>

 

「(使うさ。私にできることならなんでも)」

 

 先生はこの状況を打破するために大人のカードを手にする。シッテムの箱と同時に生徒への支援を行い、この場にいる生徒たちの戦闘力を底上げするために。

 

「砂狼シロコ。演算を停止。これよりシッテムの箱は戦闘支援モードに移ります」

 

「わかった」

 

 何事かをA.R.O.N.Aが告げると、彼女の姿は嘘のようにその場から消える。セリカが驚いたような声を出した。

 

「なんか消えたけど!?」

 

「………みんな、構えて」

 

「先生……?」

 

「ノノミ。あっちも私なら、おそらく──」

 

 これまで全く動くことのなかったプレナパテスが動き出す。マントの下から出てきたのは黒く焼けこげたカードと、弾痕が3発ほど残る“シッテムの箱”。

 

「あれって…!」

 

「先生がいつも持っているタブレットに、大人のカード……!」

 

 シャーレの先生の証たるものを目にし、セリカもノノミも、本当に相手が先生なのだと認めるしかなかった。先生は身構える。戦闘での大人のカードの利用はほとんど先生も経験はない。生徒たちには秘密の行動を起こす際に“生徒募集”を行う程度。

 

 シッテムの箱との同時使用でどこまでのことができるのかはアロナとも先生は考えたことがない。

 

 対して、相手は世界を滅ぼすために戦いを挑み、今まさに使用しようとしている。

 

「何をするつもりなの」

 

 シロコがもう一人のシロコに問いかける。

 

「先生は諦めない。どんな状況になっても。それはシロコ、あなたもわかってるはず」

 

「うん」

 

「諦めないなら私はあなたたちを倒すしかない。どんな手段を使っても」

 

 もう一人のシロコが、空間の裂け目を生み出しその中から何かを掴み、引き抜く。現れたのはアビドスの生徒全員が見慣れた心強い“先輩の盾”。

 

 そして、右手にはシャーレを知る生徒が皆知っている“正義の証の銃”。

 

『それはホシノ先輩の……!』

 

「右手の武器は、会長の拳銃です…!」

 

 アヤネとミヤコの驚きをよそに、もう一人のシロコが初めて、構えたとわかる動きをする。これまでは手加減をされていたとその場の生徒全員がようやく理解する。

 

「大人のカードと大人のカード。同じ力、同じ人。でも、私たちの経験の差は絶対にあなたたちに埋められない」

 

 プレナパテスがシッテムの箱を操作すると、そこはナラム・シンの玉座ではなくなった。そこはシャーレの存在するD.U.外郭地区の市街地になっていた。空気も、日差しも、何もかもが幻覚ではなく本物だとその場にいる者たちは感じる。

 

「な、なんだこれ!?どういう原理なんだ!?」

 

「RABBIT2!警戒を!」

 

<せ、先生!座標も、何もかも、本当にD.U.の外郭地区に皆さんはいることになっています!>

 

「………なんでもできるとは知ってたけど、このレベルでかぁ」

 

 空間ごと作り変える。そういうものだと先生は直感的に理解した。ここまでの力の行使は先生にはできない。これがもう一人のシロコの言う差かと先生は見せつけられた。そうだとしても、それで抗うことを止めることはなかった。

 

「こっちだってなんもしないわけにはいかない。今からみんなを支援する!いつも以上に戦えるように!」

 

 大人のカードを掲げ、先生はシッテムの箱と共に生徒たちの潜在能力を解放する。それは決して一気に戦況を傾かせるようなものではない、微々たるものであったが、シロコは体の奥から湧き出るような力を確かに感じていた。

 

「ん。もう負けない」

 

「……弱い私とは、もうこれでお別れ」

 

「私は弱くなんてない。みんながいるから」

 

「…そうやって甘えて、一人になった時に何ができるの?」

 

「一人になんかならない」

 

「なる。私がそう。私がいるだけで、世界はそうなるから」

 

「私はそうならない。私たちはもう、知ったから」

 

 シロコ同士の睨み合いは狼同士、孤高の存在の決闘のようだった。この二人が一歩踏み込めば、この局面は最終局面へと移るという感覚が誰しもあった。

 

「運命を知ったならそれを受け入れて」

 

「絶対に受け入れない」

 

「…………そう。ならもう、これでおしまいにする」

 

「こっちのセリフ。ここを壊して、私は先生たちと地上に帰る」

 

 シロコが引き金を引く。決戦の火蓋が切って落とされる。シロコの射撃は空を切る。次の瞬間には目の前に銃口。首を曲げ、耳元で拳銃から放たれた弾が通り過ぎる。もう一人のシロコの動きは先ほどまでとは比較にならないほど速かった。

 

 それでもシロコは僅かながら先生の支援によって身体能力が向上し、一方的にやられることはなかった。

 

「避けた…?」

 

「だから言った。私は弱くなんてない」

 

「生意気」

 

 バックステップし、シロコは距離を取り牽制する。至近距離からの攻撃を避けることはもう一人のシロコであっても難しく、ホシノの盾を使い受ける。

 

「RABBIT1!」

 

「はあああっ!」

 

 サキの援護射撃を受けつつ、ミヤコが突貫する。盾で攻撃を受けたという硬直。そこを隙としての動きだった。

 

「……エリカと同じSRTらしい動き」

 

 体を捻り、もう一人のシロコはミヤコの攻撃も盾で受ける。意外とこのまま縫い付ければ勝機はあるのではないかとミヤコは突撃しながら考えるが、突如足元がぐにゃりと崩れた。

 

「え──」

 

「だから、足元を掬われる」

 

 顔面から倒れていくミヤコの視界に映ったのはアスファルトの黒々とした色ではなく、砂漠の砂の黄土色。玉座の景色が再び変わる。今度は乾き切ったアビドスの砂漠の風景ヘと。

 

 もう一人のシロコが砂漠の砂にものともせず、一歩でミヤコへと迫る。ミヤコの側面へと回り込むと、彼女は大きく体を回し、回し蹴りをミヤコの後頭部めがけて放つ。バランスを崩し、回避行動などできないミヤコはもろにそれを受けて顔面から砂の中に顔を埋め、砂が舞った。

 

「RABBIT1?!クソっ!」

 

「あなたもそう。教科書通りだから」

 

「なにっ………がっ」

 

「そうやって対応が遅れる」

 

「けほっ……RABBIT2!?」

 

 首元へのハンマーによる打撃で、サキは意識を失う。幸いにもミヤコは砂がクッションになったことと、可能な限り体を前に倒したおかげか気絶こそしなかったが、サキが倒れる様を見ることしかできなかった。

 

「嘘でしょ、一瞬でSRTの子達を…!」

 

「シロコちゃん!こんなことはやめてください!」

 

 ノノミが叫び、ガトリングをもう一人のシロコに放つ。すかさず盾は砂に突き立てられ、彼女は飛び上がる。太陽を背に影を作りながら、新たな武器をもう一人のシロコは取り出す。

 

「ノノミ。私は止めない。もうそれしかないから」

 

 その手にあるのはノノミと同じガトリング。差異があるとすれば、ノノミの持つものより傷が多く、まるでしばらく放置されていたものを持ってきたように見えた。そして、ノノミめがけてガトリングは掃射される。

 

「ノノミ先輩っ!」

 

 セリカが手を取り、弾丸の雨から逃れるように走り出す。容赦無く二人に向かってもう一人のシロコはガトリングを撃ち続ける。

 

「砂狼さん!」

 

「んっ!」

 

 サキの安否を確認することはできないまま、ミヤコはシロコに呼びかけセリカとノノミの援護のためにその場で膝をつきながらもガトリングを撃つもう一人のシロコに射撃する。砂漠で射線は通っている。直撃コースとミヤコは見たが、またしても足元の感触が変わる。

 

 今度も硬い感触。目の前の風景は砂漠からトリニティの街並みに変わっていた。

 

「地形を変えて遮蔽物を…!」

 

 ミヤコの射撃は突如生えるように現れた建物の壁に吸い込まれていた。もう一人のシロコはその建物の影からアサルトライフルによる反撃を行い、ミヤコは飛び退いて避ける。サキはどうなったのか、と見回せば、カフェのテーブルらしきものに突っ伏していた。

 

『先生!サポートをしようにもこれでは……!』

 

「地形をこうも変えられちゃね」

 

 次々と状況を変えられ、まるでテーブルを常にひっくり返されるような感覚に、生徒たちをサポートしたい先生とアヤネは窮していた。これでは戦術の組み立てなどできず、常に相手に翻弄され、生徒それぞれの力量だけを頼りにするしかなくなる。

 

 結果が、盤石な状況ならば崩されづらいSRTの生徒から真っ先に狙われたという状況。もう一人のシロコは狙ってやったと先生は見ていた。

 

「(そういえばホシノはどうなった!?)」

 

 この場所で戦っているのは目の前の生徒たちだけではない。向こう側のエリカとホシノも戦っていたはずだった。地形が変わってから姿が見えないことに先生は気が付く。

 

 すると、先生の背後から何かが飛んでくる気配がし、それは先生の真横を通り過ぎ、インターロッキング舗装の上をズササと滑り止まる。制服が少々傷ついたホシノが先生に向かって叫んだ。

 

「先生っ!逃げ──!」

 

 先生は顔を振り向かせる。彼女は自らに迫る光を見た。




お読みいただきありがとうございます。次回もまた明日です。

先生絶体絶命で次回へ。
プレナパテスの地形変化、いざやられると無茶苦茶すぎると思いますし、いきなり地面が砂漠に変わったら対応なんてできなさそう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。