『D レベル 自爆シーケンス を 実行 します 速やかに 当該区画より 退去 してください』
『エリカさん!次のレベルまで急いでください!』
先生たちがいるナラム・シンの玉座へ向かっていたけれど、道中は簡単にいかなかった。当然のように私を阻む色彩の軍勢がいた。それらをケイさんから譲ってもらったアビ・エシュフの装備で文字通り薙ぎ倒しながら前進していたけど、その間に状況は大きく変わってる。
ナギサちゃんの指示に従いながら私は歩みを進める。アビ・エシュフの脚部に内臓されたローラーは結構素早く動ける。これなら体力も温存できそうだ。
「見えた!飛び込む!」
目の前で閉まりかけの大きな隔壁があり、そこに私は滑り込む。私たちの作戦目標である箱舟の破壊はついに始まっていた。私は移動に時間をかけすぎて、その中を前に進むしかなくなっている。
『エリカさんのCレベルへの移動を確認!明星さん!』
『わかりました。自爆シーケンス、Dレベル実行!』
一気に破壊するとまずいとのことで、こうしてちょっとずつ爆破していってるらしい。既にさっきまで私が美食研究会と突撃した箱舟の下部は爆破解体によってなくなっている。
脱出に関してはどうするのか聞くと、調月会長が相手の技術を利用して地上へのワープをさせてくれるらしい。つくづくすごい。
「先生たちの位置まであとどれぐらいだ!」
『次のBレベル、箱舟の中心部です!Cレベルは層が薄いので、あと少しかと!』
どうやらもう少しらしい。とはいえ。
「この敵の数は厄介だ!」
滑り込んだ隔壁の先にあったのは上層へのリフトなんだけど、その前にはうじゃうじゃとエリドゥにもいたガードロボットが待ち構えている。私は両手で指鉄砲を作ると、アビ・エシュフの両手も同じ形をとって、マニピュレーター側の人差し指先端がスライド。そのまま本当に指鉄砲となった。
それを私は目の前のガードロボットに連射する。それだけでは足りないので、背中に背負っているキャノン砲も展開して蹴散らしていく。
「邪魔だぁ!」
リフト直前のガードロボットを蹴飛ばし、飛びかかろうとしてくるものもアビ・エシュフの左腕でアッパー気味に殴り飛ばす。スライディングしながらリフトの中に私は背を預けると、降りてくるリフトのシャッターの裏からもガードロボットに射撃しリフト内への侵入を防ぐ。
リフトはウトナピシュティム側で操作してくれるので、すぐに上がってくれた。
『エリカ、聞こえるかい?私だよ』
「白石さんか」
『あぁ。そろそろ私たちエンジニア部は退去する。その前に君の機体をチェックしたい』
脱出も同時に開始されたようだ。白石さんたちも例に漏れず、早々に地上に戻されるらしい。
「ウトナピシュティムは放棄するということか?」
『残念ながらね。まぁ、ウトナピシュティムそのものは無くなるけど、ヴィマーナユニットはいつでも作れるから、大気圏内専用の空中戦艦ぐらいはまた作れるさ』
エンジニア部の子達の夢の一つであるウトナピシュティムは間違いなくこの箱舟と運命を共にする。それを惜しむ気持ちはあるようだけど、もう白石さんは次のことを考えているようだ。その前向きさにはなんだか助けられる。
『やはり急増品だからあまりに状態はよくない。ナラム・シンの玉座に辿り着くまで保てばいいところだ。少なくとも左腕部のアクチュエーターが限界で次に格闘戦をすれば壊れる』
「了解した。……調月会長には申し訳ないが恐らく使い潰すことになる」
『仕方がない。エリカ、一つ伝えておきたい。量産型アビ・エシュフだが、念の為腰裏に大気圏突入用のバリュートと冷却パックを積んである。万が一の時は大気圏突入も可能だ』
この機体、とんでもないことできるみたいだ。単独で大気圏突入ができるらしい。とはいえ、私もワープによる緊急離脱をするので、使うことはないと思うけど。ただ、そんな手段があるのなら、少なくとも乗り捨てて完全大破という状況は避けたほうがいいかもしれない。
「わかった。覚えておく」
『うん。そうしてくれ。よし、簡易的なチェックは完了だ。あとは頼んだよ』
「あぁ」
『……どうやら私たちの番のようだ。それじゃあまた地上で』
白石さんとの通信が切れる。どうやら、彼女たちは地上に脱出できたようだ。簡易的なチェックのためにメンテナンスモードだったアビ・エシュフが再起動する。起動時にはさまざまなメーターや数値が表示されて、先生が好きなロボットアニメ?みたいだ。
「再起動完了。桐藤」
『はい。リフトが止まったらそのまま真っ直ぐ行けば、箱舟の中枢部です』
「了解した」
決戦の舞台は目の前。私は全速力で突撃すべく、構える。
『隔壁開きます!』
ガクンと衝撃が伝わるほど急激にリフトが停止し、目の前の隔壁が開いていく。開いた先の通路には色彩の軍勢の姿はなかった。拍子抜けする。だが、好都合だ。一気に駆け抜ける。
そして、あそこに辿り着けばもう、大丈夫だ。
「桐藤、助かった。貴様は離脱しろ」
『え?ですが、私はエリカさんを最後まで』
「……もう大丈夫。ハルナもだけど、無理はしないで」
あとは先生の指揮に従い、戦うだけだ。ここまでのナビゲートをしてくれたナギサちゃんは十分に働いてくれた。それに彼女はトリニティの生徒会長。こんな死地にまで来てくれた。そして、役目を全うしてくれた。
彼女にはたくさんの帰りを待ってくれる人がいる。
「ウトナピシュティムへ、これより敵中枢に突入する!支援に感謝する!」
『エリカさん!待ってください!私は!』
「大丈夫!絶対に帰るから!──いくぞ!」
『………わかりました。エリカさん、ご武運を。私、待っていますから。かならず帰ってきてください!』
ナギサちゃんからの通信は終了する。彼女も地上に帰った。ウトナピシュティムから退去をしている生徒たちの情報はアビ・エシュフに共有された。今のナギサちゃんを皮切りに、ウトナピシュティムの艦橋員も徐々に退去を開始したようだ。
艦の防衛はウトナピシュティム自体の制御を取り戻したことで撤退までの時間はウトナピシュティム自体の装備で保たせられると、既にゲーム開発部は退去、次に美食研究会、最後に霞沢さんのようだ。
だからか、中枢へ向かう回廊を進む中、ハルナから通信が入る。
『エリカさん。ナギサさんが地上に降りられたようですわ』
「知ってるよ」
『………最期までお供させてくださいとはわたくし、言いませんわ』
薄情な話、ではなく、それはハルナも──私に帰ってこいと言っていることは察するまでもなかった。
「それでいいよ。先に帰って、美味しいお店でも探しておいてよ」
『あら……それはデートのお誘いで?』
「まさか。みんなで行こうよ」
『…………つれない人。でも、そうですわね。探しておきますわ、エリカさんも気に入るお店を』
「うん。お願い」
『では、またあとで。エリカさんはこういう約束、破りませんものね。信じていますわ』
「当然。あ、チヒロちゃんが苦手なものはちゃんと省いて探してね」
『それはわたくしの機嫌次第ですわ。では、ごきげんよう。エリカさん』
美食研究会が退去した。残るは霞沢さんのようだ。……思えば、彼女にはあまり声をかけられていない。ただ、殿である以上、神経を張り詰めているところに声はかけたくない。
彼女は小隊、否、このキヴォトスでも随一の非凡なスナイパーだ。おそらく、私では足元にも及ばない。だから、任せられる。彼女のような後輩がいることで、私は前へ進める。
中枢部の入り口が見えてきた。解放されている。私は躊躇うことなく中へと踏み込んだ。
「は?」
が、入れば広がったのは宇宙要塞の中ではなく──どこか見慣れたトリニティの街並み。そして、
「先生!逃げ──!」
「……ぁ……」
ホシノちゃんの叫びと、何者かに背後を取られた先生の姿。間に合うか、いや、間に合わせる。長大な狙撃銃を持った何か。私はアビ・エシュフに限界以上の力を込めて地面を蹴らせる。
生身よりも跳躍速度が出ない。だから、腕を伸ばす。アビ・エシュフの腕も連動して、私の腕以上に伸びる。
光線。そうとしか思えない光が先生へと伸びていた。やらせない。
「やらせるものかァ!」
アビ・エシュフの左腕部に光線が直撃する。それは腕を貫くことなく、その場で腕を爆発させた。私はアビ・エシュフを強制解除して、先生の後ろに着地する。アビ・エシュフはそのまま地面を擦って、建物の壁にぶつかって止まった。
「草鞋野、現着!先生、ご無事で!?」
「…はっ〜!エリちゃん!ありがと!助かった!」
「いえ!こちらこそお待たせしました!」
周囲を確認する。先生の周りにはホシノちゃん。ボロボロだ。誰にやられたのか。ミヤコちゃんは少しふらふらだ。ダメージを負っているのは間違いない。空井さん……っ…気絶している。
シロコさんは誰と交戦してる?あれは、少し大人になったようなもう一人のシロコさん。どういうわけかホシノちゃんと同じ盾に加えて、聞いた通り私の銃を使っている。かなり苦戦しているのは目に見えた。
十六夜さんに、セリカちゃんもシロコさんの援護をしようにも上手くいっていないようだ。
そして、目の前。先生を狙った相手は………馬鹿な。
「私……!?それにあの銃は」
どれだけ探しても見つからなかった先輩の、神話の女神が持つかの如き装飾が施された、美術品のような長大な狙撃銃。それをまるでゾンビみたいな姿勢の悪い、おそらくは私が持っている。
「エリちゃん、あのエリちゃんの持ってる銃知ってるの?」
「………詳しくはまた今度。ただあれは絵庭先輩の狙撃銃です」
「そっか」
「先生。あの私は、あのシロコさんのような」
「……ううん。あのエリちゃんは、もう死んじゃってる。たぶん、色彩が動かしてる」
やってくれる。あれが私自身だというのなら、その死体を利用して先生たちにけしかけるなんて。倫理のカケラもない。なるほど、色彩というものがどういうものかわかった。これは間違いなく──悪だ。これは、打ち倒すべきものだ。
それに利用された生徒がいるのなら、私は許さない。
「エリカちゃん!」
「小鳥遊。大丈夫か?」
「大丈夫。それより、あのエリカちゃん、ちょっと厄介そうだよ」
厄介か。あの私が死んでいるというのなら、おそらく負担も何も無視して全力なのだろう。それこそ、ケイさんに乱用を止められたあの力を使っているのかもしれない。多用するなと言われながらも、ここはもう全力で行くべきだろう。
さっきは勢いで出来たけど、もう一度できるか。私は意識を自分の心臓に集中させる。奥底から何かを引っ張り上げるように。
「神秘解放……フゥ──……」
穏やかに、でも先ほどと同じく破裂しそうな鼓動が始まる。よし、上手く引き出せた。
「エリカちゃん…!?その力…!」
「小鳥遊はわかるのか」
「……うん。でも、今度はエリカちゃんなんだね」
やっぱり、ホシノちゃんはエデン条約事件の時に私がどうしていたのかを知っている。詳しいことは聞きたいけど、今はそのときじゃない。
急に、周りの景色が変わる。今度は、エリドゥのセントラルタワーの前にあった広場。先生の背後狙った相手の私は、不恰好な形でジャンプして私たちを飛び越えると、一度、あっちのシロコさんと合流する。
相手側のシロコさんの背後には鉄仮面の大人。あれがプレナパテス。
「サキ!」
ミヤコちゃんが空井さんに駆け寄る。何があったのか。だが、もうこれ以上は戦えないのはわかる。ここは退かせるべきだろう。
「RABBIT1、月雪!貴様も撤退しろ!」
「草鞋野会長…!?ですが」
「命令だ!ウトナピシュティム、RABBIT1、2を撤退させてくれ!」
「先輩!私はまだ」
「貴様は小隊長だろう!目的は既に達した!行け!」
「………了解。RABBIT小隊は撤退します…っ」
シュンっ、と空井さんを抱えたミヤコちゃんが光に包まれ消えていく。あれがワープ。
改めて、私は先生の前に立つ。ホシノちゃんと並んで。
「………エリカ」
相手のシロコさんは私を見て、なんだか複雑な表情だ。その手にある銃は見間違えるはずもない私の銃。私は死んで、彼女に銃を託したのか。その結果があの死体となって敵にいいように使われる姿。
情けなさが湧いてくる。こんな結末を私は受け入れたのか?いや、そうだろうな。きっと、私は甘えてしまったのだろう。私が死んでも、きっと、と。自分自身のことだからわかってしまう。
だけど、そうじゃないんだ。私は、もう、生きなきゃいけない。チヒロちゃんが、ハルナが、ナギサちゃんが、私を待っている。待ってくれている。
「砂狼シロコだな」
「………うん」
「私は連邦捜査部シャーレ補佐官、兼SRT特殊学園生徒会長の草鞋野エリカ。あなたには多数の破壊行為に伴う容疑がある」
世界の危機?並行世界からの敵?関係ない。そんなものは。どこにいても、どんなときも、私は私の為すべきことをなすだけだ。
一歩前に出る。
「警告する。ただちに武器を捨て、その場に伏せろ。さもなくば、実力を以ってあなたを拘束する」
ライフルを構える。銃口の先で、シロコさんが目を見開き、何かを思い出すように目を閉じ、再び私を見た。………どうして、そんな目をしているのに、そちら側にあなたはいるんだ。
「エリカ」
「………」
「私は止まれない」
ここで素直に言うことを聞くのならそもそもこんなことをしていないだろう。ならもう、やるしかない。彼女を止め、プレナパテスを止める。
「エリちゃん。あのプレナパテスも私でさ、向こうのエリちゃんと同じく生きてないみたいだから」
「そうですか」
そういうことなのだろう。プレナパテスの手にあるのは先生と同じシッテムの箱。先生といえど、別世界。何より、彼女がこの状況を引き起こしているのなら、躊躇うことはできない。
「先生、指揮を」
「任せて。……ホシノ、エリちゃん。あの相手のシロコとエリちゃんをお願い」
「草鞋野、了解」
「わかったよ、先生。シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃんは先生の護衛をお願い」
どうやら私たち二人で相手を抑えるつもりのようだ、ホシノちゃん。当然これにはセリカちゃんとシロコさんが反対した。
「待って。私もやる」
「そうよ!ここまで来て後は任せてなんて!」
「さっきエリカちゃんが後輩さんたちに言ってたけど、もう私たちは目的を達してるから」
そうなのだ。ここで戦って相手を完全に打ち倒す必要はもうなくなっている。箱舟の破壊は進んでいるのだから。
『Cレベル の 自爆シーケンス が 実行 されます 当該区画 から 退避 してください』
この中枢の下の区画がもう爆破されようとしている。時間はもうあまりない。
『先生。私とユウカはここまでです。残りの区画は自動であと10分後、一斉に自爆させます。気をつけて』
「ヒマリ、ここまでありがとう」
『いえ』
『先生!絶対に帰ってきてくださいよ!でないと私──!』
明星さんと早瀬さんも退避した。ウトナピシュティムに残っているのはおそらく、七神代行と、アビドスの子達が引くまで残るつもりのアヤネちゃんだろう。
『先生。私はギリギリまで残ります。脱出シーケンスは先生にタイミングを全て委譲します。よろしいですね?』
「わかった。………そういうことみたいだから、悪いけど、そろそろ帰らせてもらうよ」
ホシノちゃんも私の横で武器を構え、あろうことか盾を十六夜さんに渡していた。
「ホシノ先輩……?」
「ごめん。もうみんなを守ってる余裕ない」
「まさか」
「馬鹿なことは考えてないよ。……エリカちゃん、任せるよ」
そういうことか。相手も私たちの意図を察して陣形を変える。あっちのシロコさんはホシノちゃんのように前に、死んでいる私は後方に。
ただ、それは読み違いだろう。
「小鳥遊」
「いいよ」
“前衛”は私なのだから。
「ッ!?エリカが前……!?」
シロコさんへ向かって飛び込む。彼女はホシノちゃんの盾を構えた。甘い。狙いは君じゃない。構えられた盾、その縁を踏む。実家の知識を思い出した私にはこれぐらいの足場でも踏んでいける。
「なっ?!」
飛び越えて、更に先へ、狙撃位置を取ろうと下がった私に向かって銃を向ける。相手は既に死んでいるというのなら、もう遠慮はいらないだろう。
相手は先輩の銃を構えている。あの銃がまさかあんな光線を撃てるとは思いもしなかった。それに、この的確に距離をとってこようという動きは、私じゃない。色彩はどうやら、悉く悪辣らしい。
「私の死体を使って絵庭先輩を真似るか!万死に値する!」
銃口がこちらを捉える。銃口の向こう。私の姿は間違いなく先輩と重なる。なるほど、アレは私の動揺を誘おうというものなのだろう。でも、関係ない。私はもう決めている。何があってもみんなのところに帰ると。立ち塞がる障害を前に、私は迷わない。
ピュンっ、という音と共にビームが飛んでくる。それを私は空気を踏んで回避する。
「いや何アレ」
「わ、草鞋野さんが空を」
「どうなってんの」
先生や十六夜さん、セリカちゃんの驚愕といった声が聞こえた。そういえばまだ見せていなかった。
そんな反応は置いておき、私は相手の頭上をとる。獲った。
引き金を引き、こちらも極大に力を貯めた弾丸を放つ。それは明らかに直撃するが、弾は向こうの私をすり抜ける。
「影分身……!?伊達に私を使っていないか!」
背後。また空を蹴って前転気味に避ければ、相手は左手に持ったクナイを私の背を開くように振っていた。久田さんと同じく、おそらく身体能力を活かした影分身。草鞋野家でも忍術として存在はしている。
リロード。とはいえ、相手は空中で飛べないだろう。今度こそと脳天めがけて射撃。が、振っていたクナイはよく見れば起爆札付き。私の撃った弾は相殺され、爆破の衝撃で私は吹っ飛ばされる。
その先に、相手側のシロコさんがいつの間にか装備をよく見るアサルトライフルに変えてこちらを狙っている。
「エリカはやらせないよ」
「…くっ!」
だけど、ホシノちゃんもこっちにいる。こちらを狙っていた相手のシロコさんはショットガンを放ちながら距離を詰めたホシノちゃんに盾を構え、その場から引き下がる。私はホシノちゃんの援護があって、無事着地を済ます。
「どう?」
「想像以上だ。互いに出来る出来ないの差はあるだろうが、あちらはまるで迷いがない」
「……死んでる、から?」
「だろうな」
おそらくは機械、ロボットのようなものなのだろう、あの私は。戦闘に最適化した行動しかしてこない。
「他に何かあるか?戦っていたのはわかる」
「やたらさっきは先生のことを射線に巻き込んできたね」
「なるほど。やりにくいな」
「距離も私のスピードじゃ詰めきれなかったから。でも、エリカちゃんのその速さなら問題なさそう」
なるほどね。それならあの私へは超接近戦を挑んだほうがいいというわけか。あの光線を放つ銃は厄介だ。万が一にでも一瞬の隙を突かれて先生に撃たれたらたまったものじゃない。
それに、あのシロコさんと戦うよりは、もう死んでいる私を倒す方がやりやすい。
「手早くあの草鞋野エリカを片付ける」
「了解。……いいの?」
「私自身があのような醜態を晒し続けることに耐えられない。もし私に意思が残っているのなら同じことを考えるだろうな」
立つ鳥跡を濁さずとすればいいところを向こうの私は何をしているのか。加えて、シロコさんに私と同じ辛い気持ちを味合わせて。これは怒りだろうか。うん、怒りだ。私が私を許せない。
その怒りが心臓をもっと燃え上がらせる気がする。
「エリカはやらせない」
「どいて、シロコちゃん。もうあのエリカちゃんは」
「絶対に、もう二度と。やらせない。あのときみたいに、私が弱いからそうだったように」
シロコさんは、彼女は、一体何を見たのか。その目は、その瞳は。
目配せし、私とホシノちゃんは同時に動き出す。今度は二手に分かれて。プレナパテスの持つシッテムの箱が輝いている。視界の中で世界が切り替わる。エリドゥの広場から、今度は百鬼夜行の街並みに。
「それは悪手だな!」
ならばと私は狭い道から飛んで瓦屋根の上に乗る。おそらく、百鬼夜行の伝統的な街並み故の狭い幅員に私たちを入れて、向こうの私に上から狙撃させようという魂胆か。だが、今の私はそれに付き合う義理はない。
忌々しくも、忍びとしての動きができるなら使わない手はないのだから。
「また接近して……!」
「もう邪魔はさせないよ!」
「ホシノ先輩……!」
シロコさんはホシノちゃんが抑えてくれる。
私と向こうの私は屋根を何軒も踏んで跳んでいく。互いの射撃は当たらない。確かにあの私は絵庭先輩のスタイルを真似ているけれど、射撃の癖は間違いなく私そのものだ。それは相手も同じ。
だから射線が見える。
「しかし、これはどうだ!」
先読みし、相手が踏もうとしている屋根の部分を撃ち抜く。相手はそのまま崩れた屋根を踏み、バランスを崩す。屋根を蹴り、更に空中も蹴って、私は突っ込む。接射ならただでは済まない筈だ!
が、相手は脇を通してあの長い銃をこちらに向けた。読まれている。
閃く銃口。回避は間に合わない。私は咄嗟に銃を突き出した。
「……!」
私のライフルに刻まれていたトリニティの校章に光線が当たると、光線はまるで見えない力に弾かれたようにあらぬ方向へと流れていく。ナギサちゃんの加護なのだろうか。
光線は照射されいて、そのまま相手は振り向いてこちらの頭を焼き切ろうというのか銃口を振ってくる。上に向かって動く光線とは逆に、私は光線を受けた衝撃を生かしてそのまま後転する。
相手の着地を許したが、こちらも武器はライフルだけじゃない。腰から手榴弾を抜き、全力で私はぶん投げた。ただの手榴弾じゃない。ミレニアム製のナパーム弾だ。
「ゾンビのようなものなら火には弱いだろう!」
百鬼夜行はそれに木造の建物が多い。投げられたナパーム手榴弾は着弾と同時に大きな火柱を立てる。その中から、服の裾を燃やしながらも、相手の私は飛び出してくる。動じている様子は当然ない。
だけど、その火から逃れるという行動自体は隙になっている。
「ここまでだ!」
火から飛び出した直後に、私は一気に距離を詰め、相手の心臓の位置に銃口を突きつける。絵庭先輩の銃は長い。だからこうして張り付いてしまえば私には向けられない。相手の私の顔は、髪が煽られ顕になる。
「う……!?」
そこには何もない。底なしの、穴のような深い暗闇が私の顔だった。そうか、完全に理解した。これはもう、私の身体でもない。
「こんなもの、まやかしだッ!」
弾丸を打ち込む。相手の私の姿をした何かの胸は容易く風穴が開き、堕ちていく。
すると、それが地面に落ちる前に、穴からひび割れるように光が広がっていった。
──そう、それでいい。私。
………私はこうはならないよ。私には、私の帰りを待っている大切な人がいるから。そこに帰るまで、私は諦めない。頑張ることを。
「エリカ……!あぁっ……!」
「もらったっ!」
「ッ!しまった──!?」
ホシノちゃんが脇腹にショットガンを突きつけているのが見えた。
響く射撃音。それと同時に、向こう側の私と、百鬼夜行の街並みは消え去っていった。
お読みいただきありがとうございます。次回で第一部完結です。続きはまた明日。
生徒同士の戦いの決着回です。自分との対決はロマンですよね。
ほぼほぼ相手の主人公はミメシスみたいなものでした。