頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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Area-final「それでも生きる」

 ホシノはショットガンを下ろす。色彩によって動かされていたと思われるエリカの死体を利用したものが倒された瞬間、動揺したもう一人のシロコに肉薄し、接射を行った結果、有効なダメージを与えることに成功していた。

 

 黒いドレスは脇腹が裂け、いくつもの殴られたような赤い痕が見え、ホシノは痛い思いをさせたと申し訳なさを感じていた。

 

「………終わったか」

 

 エリカがホシノへ歩み寄ってくる。もう敵対していたもう一人のシロコは抵抗する気がないのか、銃を手にしていなかった。

 

「………………」

 

 もう一人のシロコは俯き、何も言わない。そこに、先生がシロコやノノミ、セリカを連れてやってくる。

 

「シロコ」

 

 先生は呼びかける。いつも、傍にいるシロコと変わらずに。例え世界が違っても、彼女は生徒だと。こんな姿や、所業を犯しても、シロコは先生の知る彼女だと言うかのように。

 

「………先生」

 

「……教えてほしい。何が、あったのか」

 

「……私は、世界を滅ぼそうとしているんだよ。そんなことを聞いて、どうするの」

 

「私はシロコがそんな魔王みたいなことをする子とは思ってないんだ」

 

 声の調子もいつもと同じく先生は明るく、どこか軽さを持っていた。それでも、その軽さは生徒の耳に入りやすいだけで、言葉に仕舞われた温かさはずしりと、もう一人のシロコに届いていた。

 

「シロコさん。少なくともあなたは世界を滅ぼすなんてしたくないと私は知ってる。そこのシロコさんのように、自転車が好きで、アビドスの先輩たちと仲が良くて。それに、後輩たちのことも大切にしてる。そんなあなたが、はいそうですか、って世界を滅ぼすとは思えない」

 

 エリカの言葉に、シロコは俯いたまま、手をついたまま、拳を強く握る。

 

 続けて、ホシノが口をひらく。

 

「……でも、そうしてしまったのは、きっと、シロコちゃんの言うように、私たちがいけなかったのかな。私たちが弱かったから。……シロコちゃん。私、シロコちゃんのこと、置いて行ってしまったんでしょ。それはたぶん…ノノミちゃんや、アヤネちゃん、セリカちゃんだって」

 

「……めて……」

 

「シロコちゃん、私は」

 

「やめて!こんなことになったのは、私のせい!私が、私が存在していたから!全部、全部っ!」

 

 ぽたりと、俯く顔の下に雫が落ち始める。

 

「どうして、こうなったの?こんなこと、したくなんてなかった。世界を滅ぼす?なんで、どうして。セリカが行方不明になったとき?アヤネが生命維持装置を外したとき?ノノミが砂漠でそうなったとき?ホシノ先輩とエリカのヘイローが壊れたとき!?どうすればよかったの!?私は、私じゃ、私一人じゃ、何にも、できなくてっ」

 

 誰も、何も声をかけられなかった。慟哭は続く。

 

「私、頑張ったんだよ…?一人でも、みんなの帰る場所、守りたくて、借金返そうって、でも、その前に、みんな、みんな、私の前から、消えて……先生も、目を覚まさなくて、先生の代わりをしてくれたエリカも………あぁ、ああああああああああああっ──!」

 

 嗚咽に塗れて、シロコの口から語られたことはその場にいる全員に一つ事実を突きつける。それは、アビドスの生徒たちも、シャーレの先生と生徒も。この目の前のシロコを前に、等しく置いて逝ったという事実だった。

 

「私が、私がいたから、みんな。あのとき、先輩からマフラーを受け取らなければ、あのとき、あのまま凍えてしまえば、こんなことに、ならなかった!私は、もう、いやだ、こんな、存在しちゃ、いけない。わたし、わたしっ」

 

 自己の存在さえも許せない、罪の意識。

 

 それぞれが、目の前の少女の絶望に触れ、心を刺された。

 

「(………私は、結局、ユメ先輩でわかっていたことを、シロコちゃんに)」

 

「(シロコちゃん。ごめん、なさい。私、シロコちゃんのこと、一人ぼっちに…)」

 

「(向こうの私は何やってるのよ…!こんな先輩を置いて、なんでっ)」

 

 ウトナピシュティムのブリッジでもアヤネは顔を覆っていた。

 

「(こんな状態になるまで、シロコ先輩を追い詰めて…それに私は、おそらくそれをシロコ先輩にさせたとしか。なんて、ことを)」

 

 アビドスの生徒たちはそれぞれが、なぜと思うしかなかった。

 

 そして、シロコも、目の前で絶望を吐く自身に、ようやくなぜこのような状態となったのか、理解する。理解ではなく、そうなるだろうとわかってしまった。運命ではなく、置かれた状況が、そこまで絶望的なものであれば。

 

「………わたしは、先生を撃てなかった。でも、先生は、もう身体が、壊れてた。それなのに、最期の力を振り絞って、私を助けようとしてくれた」

 

「………私のことだから、わかるよ。だから、成ったんでしょう?色彩の嚮導者──プレナパテスに」

 

 何がもう一人のシロコに起きたか、先生は察することができた。かつて相対した黒服はホシノを使い、絶望と恐怖の底で、ホシノ中にあるものを引き出そうとしていた。シロコに、それが成功したのと同じことが起きたのだろうと。

 

「色彩、いや、それで別の何かがシロコのことを利用しようとして、私が成り変わったんだね」

 

 こくん、ともう一人のシロコが頷く。

 

「………ようやくわかったよ。私。なんとまぁ、傍迷惑で、私の考えそうなことか」

 

「先生、それはどういう──」

 

 何かに気がついた先生がそのように言えば、エリカはどういうことかと発言の意味を問おうとした。だが、言い切る前にナラム・シンの玉座に警報が鳴り響いた。

 

『B レベル の 自爆シーケンス が 実行 されます 当該区画 から 退去 してください』

 

『皆さん!あと2分で箱舟が完全に自爆します!先生!』

 

『ホシノ先輩!みんなを連れて退避を!』

 

 箱舟の自爆シーケンスが最終段階に入っていた。先生はアロナにすぐさま脱出シーケンスの指示をする。

 

「(アロナ!まずはアビドスの生徒たちを!)」

 

<は、はい!脱出シーケンスを作動させます!>

 

 アビドスの生徒たちは突如始まった転送に、驚く。

 

「なっ!?せ、先生!ちょっと待って!」

 

「先生!?これは!」

 

「ちょっと嘘でしょ!?こんな状況でいきなりなんて!」

 

『先生!草鞋野さんも、急いで退避を!』

 

 ホシノから順にあっという間に光に包まれてアビドスの生徒たちは退避していく。

 

「先生!エリカ!地上で──」

 

 最後に、シロコが転送され、そこに残ったのは先生と、エリカ、もう一人のシロコと、プレナパテスだった。

 

『……え?先生!草鞋野さん!』

 

 あとはウトナピシュティムに残ったリンを含め、3人の退避で作戦は終了する。そのはずだった。リンの焦ったような声が先生たちに届く。

 

「リン、どうしたの!」

 

『プレナパテスに箱舟中のエネルギーが集まっています!こんなエネルギーは……!計測不能です。このままでは地上まで影響が及ぶ可能性が──!』

 

 先生とエリカは、プレナパテスを見る。すると、彼女の体に目に見えるほどのエネルギーが集っていくことを確認する。

 

「何をするつもりですか…!?」

 

「流石だよ私。そうだよね。そうするよね!あんたは!」

 

「先生!一体どういう」

 

「あいつ、自爆するつもりだ!シロコも、エリちゃんも倒して箱舟もボロボロ!ならやるなら最後っ屁に自分もろともキヴォトスごと吹っ飛ばすつもりだ!」

 

「そんな……!」

 

 先生とエリカがついにプレナパテスの底へと辿り着いていた。しかし、プレナパテスは先生である。彼女は自身の悪辣さをよく理解していた。エリカは既に死体となっているプレナパテスに容赦なく射撃をするが、神秘解放の全力を使い果たし並の生徒程度の力しかない彼女の弾丸はプレナパテスを撃ち貫いてもそれを止めることは叶わない。

 

「効いていない!?」

 

 エリカだけにはと先生も普段は抜くことがない銃を抜いてプレナパテスに撃ち込むが、神秘の欠片もない先生の弾丸はもっと効かない。

 

『ダメです!このままでは自爆シーケンスの前にキヴォトスが!』

 

「………リン」

 

『先生、何か!?』

 

「ごめん」

 

『え──』

 

 リンはウトナピシュティムの艦橋から転送され、消えた。

 

 エリカは先生がリンを退避させたことに驚く。

 

「先生!何を」

 

「アロナ。ウトナピシュティムをオーバーライド。主砲、およびハイパーノヴァ砲を展開」

 

 アロナ。知らない名前がエリカの耳に届く。先生は誰と話しているのか。何をしようとしているのか。

 

<先生!でも!>

 

「やるの」

 

<ッ…!わかりました!ウトナピシュティムをオーバーライド!全兵装のコントロールをシッテムの箱に!>

 

 爆炎に包まれ崩壊してい区画の中で、無人となったはずのウトナピシュティムが動き出す。全ての力を使い果たし、演算機能さえも失ったウトナピシュティムはシッテムの箱により演算機能を肩代わりされ、あらゆるシステムが一時的に復旧する。

 

「シロコ」

 

「せん、せい?」

 

 先生は残されていたもう一人のシロコに声をかけた。その声は、どこまでも優しかった。

 

「……これはエリカにも言えることなんだけどさ。この世界で、君たちが苦しむなら、それは君のせいなんかじゃない」

 

「……え」

 

「生徒が苦しむのなら、それは、本当は先生が負うべきものであって、世界だとか、運命とか、そんなものに君たちを振り回させることなんてあっちゃいけない」

 

 先生はハンドガンを再びプレナパテスに向けるが、次第に先生の声が二重に、エリカとシロコには聞こえ始めた。

 

「もう一度言うよ。これは、この結末は──シロコのせいなんかじゃない」

 

 シロコが顔をようやく上げる。そこにいたのは、間違いなく、シロコが知っている──先生だった。

 

「君たちが生きてきたことを無駄なんかと、意味がなかったと、悔やんだり、責めないで。あなたたちがどんなに間違えても、どんなに失敗しても、それを認めてその未来で、それさえも思い出にして、君たちが笑えるように、私たち大人はしていかなくちゃいけない」

 

 ナラム・シンの玉座が大きく揺れ、警報も鳴り止む。自爆が実行されたため、箱舟自体の管制システムも停止したのだ。

 

「だから、君たちが苦しんで消えたいとか、そうなるような運命だとか、そのために生まれてきたなんてことは絶対にないんだよ。君たちの生きる世界がそんなものだというのなら、君たちがそんな世界で苦しんで終わりたいなんて願うなら──それは君たち子供のせいではなくて、この世界の責任者、この世全ての責任を負える者が背負うべきものだよ」

 

 先生は「だから」とシロコに微笑んだ。

 

「その責任は私が負う。シロコもエリカも、周りから赦されないことをしたとしても、そんなもの、生徒が責任を負う世界なんてあっちゃいけない。それはね、どんな世界でも、どんな場所でも、どんな時でも──君たちと一緒にいる大人が背負うべきものだから」

 

 “先生”は再びプレナパテスに向き直る。そして、アロナに指示する。

 

「アロナ。発射と同時にシロコとエリカを退避」

 

<せ、せんせい!?何を言っているんですか!?そんなことしたら先生は!>

 

「………アロナも、シッテムの箱から逃げてね」

 

<ダメです!先生を失ったらキヴォトスは!?>

 

 こうなることを“先生”はわかっていた。困った顔をしながらも、“先生”は銃を持っていない手で大人のカードを持った。

 

<し、シッテムの箱の制御権を!?先生!本当にダメですって!>

 

 シロコの身体が光に包まれていく。

 

「え……?待って、ねぇ、先生!ダメ!どうして!?また私は!先生、せんせぇ!」

 

「シロコ。みんなが待ってる」

 

「嫌だ!私は、先生がいないと!先生、私、先生に何も──!」

 

 シロコがワープする。残されたのは、あと“先生”と、エリカ。

 

<そんな……!先生、エリカさんに脱出シーケンスが適応されません!どうして!?>

 

 ここで唯一の誤算があった。“先生”は困惑する。エリカに脱出シーケンスが何故か作動しないのだ。その原因に、“先生”は思い当たる節があった。

 

「エリカ自身は、こっちでも変わらないんだ。その脱出装置はおそらく……なるほどね。最期の最後で、これかぁ……」

 

「先生……?」

 

 まるで誰かと話しているかの“先生”にエリカは困惑する。“先生”は周囲を見渡し、あるものを見つける。こんなSFで、お約束とも言うべきもの。そして、そのお約束という文脈は、この世界において絶大なまでの力を持つということを“先生”は知っている。

 

「エリちゃん」

 

「先生……!?」

 

「あと頼んだ」

 

「なにを──」

 

 まるで生徒のような膂力で、エリカはその場から突き飛ばされた。ナラム・シンの玉座が崩壊を始める。重力制御装置が破損し、箱舟の中から1G弱の重力が失われ、エリカは勢いのままに、突き飛ばされた先、何かにぶつかるとそれは起動する。

 

 エリカの身体はアビ・エシュフを装着していた。乗り捨てたはずの機体は奇跡的に爆発に巻き込まれず生きていた。

 

「先生!まさか、先生はっ!」

 

 ようやくエリカは理解した。先生が何をしようというのか。エリカは先生に手を伸ばそうと機体を動かしたが、届くことはなかった。アビ・エシュフの横たわっていた床が崩落する。

 

 エリカの手が伸ばした先、先生はいつもと変わらない、けれども、どこか寂しそうな顔で、彼女を見送っていた。

 

<エリカさんの乗った、アビ・エシュフ……離脱しました>

 

「さて、“私”。あんたの考えそうなことだ。まだ底じゃないんでしょ」

 

<先生!?もしかして、さっきから、先生は──>

 

「そう。プレナパテスの身体に私をこうしてくれたクソッタレの一部を引き込んでやったよ」

 

 銃口の先で、プレナパテスの身体が崩れ、ソレは姿を顕す。

 

 白面に、白装束。まるで何かの司祭のような姿をしたもの。

 

「き、さまぁ!」

 

「ようクソ司祭。ようやくあんたをぶん殴れるな。よくもまぁ、ウチのシロコにあんなことをさせてくれたね」

 

「驕るな──!アレはお前の知る生徒ではない!アレは神が顕現したものだ!貴様のような矮小な存在に理解することはできない畏怖、絶対者なのだ!」

 

「黙りな。ウチの子をよくもまぁふざけた呼び方してくれたね。それにあんな可愛いA.R.O.N.Aちゃんにも苦しい思いさせやがって」

 

「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなっ!」

 

「ザケてんのはお前らだよ。シロコはな?自転車が好きで、先輩や後輩も大好きで、ちょっぴり勢い余って銀行強盗なんてやんちゃもする。それに意外と友達も多くてみんなに可愛がられやすい子でさ。そんな愛すべき、アビドス高校2年生の、砂狼シロコなんだよ」

 

「貴様!」

 

「そもそも、あんたらの言う崇高だなんたらと、勝手な解釈を子供に押し付けんな。ここにいる生徒(こども)たちはな?ただ、私の世界で、泣いて笑って、時には苦しんで、それでも笑って前に進んでいく──“子ども“なんだよ」

 

「その選択を、貴様は未来永劫後悔するだろう──!」

 

「お約束みたいな断末魔どうも。まぁ、でも、私は後悔もするだろうけど」

 

 “先生”は引き金を引く。それと同時に、ウトナピシュティムが轟沈しながらも全ての兵装を発射し、崩壊していくアトラ・ハシースの箱舟の中を貫いていく。

 

「それでも、私は大人だよ。大人だから後悔し、それでも全てを背負い前に進む。その背負ったものを子供たちの導となるように時には見せながら」

 

「おのれおのれおのれおのれおのれっ──!」

 

「あんたらみたいに失敗を認めず凝り固まった遺物になんぞ、私はならない。生きているなら笑え。死ぬ時はもっと笑え。どんな後悔も失敗も、その果てがよければ全てよし。私はね、そういう人間(おとな)だよ」

 

 アトラ・ハシースの箱舟を光が貫く。それを最後に、ナラム・シンの玉座は崩壊し、先生は己の身体が光に包まれるのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

──全く、先生ったら。

 

──私の悪い癖まで似ちゃダメですよ。

 

──先生はまだ、やるべきことがたくさんありますし。

 

──また無茶する私をちゃんと見てもらわなきゃいけません。

 

──ですから、先生。

 

──まだ、ここには来てはいけませんよ。こっちの先生みたいに。

 

──そういうこと。じゃあね、私。

 

──生徒たちを、よろしく、お願いね。

 

 

 

 

 

 

 

 先生の目は覚めた。

 

 明らかに空中で。

 

「んんんんんんっ!?」

 

 風圧でまともに言葉も出せず、さらに異様に風通しがいいことに彼女は気が付く。

 

「(うっそだろおい!?)」

 

 着ていたはずのミレニアム製の宇宙服はなくなり、彼女は何一つ身につけていなかった。

 

「(生きてんのもおかしいけど、これはないでしょ!?全裸でスカイダイビングかよ──!?)」

 

 程なくして、先生は“二人”のシッテムの箱の生徒によりキヴォトスの空を駆ける流星となり無事に着陸を済ますのだが、彼女はエリカとシロコにカッコつけた手前、全裸スカイダイビングをかまして帰還したことがあまりに情けなく、締まらなかったと、恥ずかしい記憶としてこの世界最初の一大事の記憶を締めくくっている。

 

 

 

 

 

 

 

 崩壊する箱舟から離脱し、放心状態のまま大気圏に突入し、アビ・エシュフが最後の力を振り絞るように着陸と同時に脚部も大破したものの、私は無事に地上へと降り立っていた。

 

 先生の無事は、降下中にあの空から落ちる流星がそうだと、霞沢さんから報告があった。

 

 空を見上げる。その流星は青と赤が混ざり、とても綺麗だった。目がいい霞沢さんはあの中に先生がいて5体満足、なんだかもがいているようだという。着陸は無事にできるのかとみんなが心配していたが、すかさず調月会長が流星の動きを観測し、明らかに制御されたものだと分析したため、あとは先生の帰りを待つだけとなった。

 

 この草原は、どこなのだろう。通信が届いたのでキヴォトスなのは間違いない。みんなからも遠くはないのだろう。でも、まるで映画の終わりのような清々しい風景が、事件を解決したという実感と共に染み込んでいく。

 

 大破したアビ・エシュフから這い出す。ケイさんが貸してくれなければ私は帰れなかったのかもしれない。脱出シーケンスが作動しなかったのは間違いない。だから先生は私を突き飛ばしたんだ。

 

「ありがとう」

 

 白の機体は箱舟での戦闘や爆発、大気圏突入などもあってところどころ煤けていたし、装甲も着陸時に破損している。けれど、この機体は私を無事にここへ戻すという役目を全うしてくれた。お礼は返ってこなかったけど、僅かに点滅していたセンサー類が力尽きたように消灯した。

 

 手の中にあるトリニティ製のライフルを見ると、あの別世界の私が放った光線を受けたはずなのに傷はなかった。特別だとは思っていたけど、ここまでの力があるなんて。

 

 わからないことはたくさんある。それでも、私たちは帰ってきた。キヴォトスに。また、明日のあるこの場所に。

 

「………えりか、さん」

 

 振り向く。風が吹いて、彼女の髪と美しい天使の羽が揺れていた。

 

「信じて、いましたわ」

 

 銀色の髪が、夕陽に反射して煌めいていた。

 

 いつかの、絶望した私へ伝えたいことがある。

 

 罪を犯し、誰かを傷つけ、もう嫌だと、消えてしまいたいと思っても、きっと誰かは私のことを好きでいてくれて、私の手を引いてくれる。

 

 彼女たちは皆、それぞれ素晴らしくて、美しい人たちだ。そして、彼女たちは私のことを大切に思ってくれている。

 

 私はここにいていいんだと。私の帰りを待ってくれる人たちの中に戻ってもいいのだと。

 

 これからも、私は自分自身のことで、悩み、目を背けたくなる事実を突きつけられるはずだ。まだ何も、私の中にある疑問は解決していない。だとしても、私は前に進むことができる。途中で引き返しても、帰る場所があるからだ。

 

 なので、伝えよう。当たり前だけど、そういえばいつも、行ってくるとしか言っていない彼女たちに。

 

「ただいま。ナギサちゃん、ハルナ」

 

「「おかえりなさい!」」

 

 私の世界は自分だけでなく、彼女たちと共にあるのだから。

 

 私は諦めない。この世界で、生き続けることを。

 

 




ここまでお読みいただきありがとうございました!

一応ですが、最終編までやってこれることができました。
どうしても司祭をぶん殴る展開を入れたかったのでこうなりました。

次回もまた明日。第二部の一話になります。といっても半分整理のお話です。

今後とも、よろしくお願いいたします。
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