頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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今話から第二部です。


第十章 良薬とは、心にも苦いものである
Area-01「定食屋“いなり屋“ #意外な組み合わせ #日常 #新しい日々」


 宇宙でキヴォトスの命運を懸けた戦いから5日が経過していた。あの日、先生にアビ・エシュフに乗せられた私は単独でキヴォトスへと降下した。落ちた先はなんと、作戦に参加したみんなが降り立ったミレニアム郊外の草原地帯だった。

 

 まさかあんな自由落下で辿り着けるなんて奇跡──と思ったがそんなことはなく、箱舟中枢にたどり着く直前のリフト内での白石さんの点検。あのときに彼女が降下座標を打ち込んでくれていたらしい。

 

 結果、白石さんから告げられたのは無事を祝う言葉と貴重な大気圏突入データのお礼である。翌日チヒロちゃんにぶん殴られたらしい。

 

 そして先生は私が落ちた数分後に流星のように光りながら落ちてきて、私たちの元に帰ってきてくれた。全裸で。よって、嬉しいやら身を犠牲にされようとした怒りやらで混乱した私により公然わいせつ罪により逮捕された。いや、すぐに行政府の長たる七神代行によって釈放されたけどね。

 

 あの別世界のシロコさんは、こっちのシロコさん曰くちゃんと地上に降りて、おそらくどこかへ潜伏しているとのことだった。色々と話を彼女としたらしいけど「ん。多分大丈夫。私だから」となんとも説得力ある説明をシロコさんはしてくれた。先生も会ったらしいけど、詳しい話は教えてくれなかった。それはいつものこと。先生のお悩み相談モモトークの内容はシャーレ所属の生徒であっても秘密なのだ。

 

 あの戦いはたくさんの不思議なことにも直面した。別世界というのもそうだし、あの先輩の銃を手にしていたもう一人の私。戦いの中で私が何者かによってこれまで認識や記憶を操作されていたこと。

 

 何よりも、私の実力はその誰かによって下駄を履かされていたこともわかった。あの心臓を爆発させるような力。神秘解放というものをやらなければ、私の実力は5日前の半分もない。

 

 無理を承知でミカさんと模擬戦をしてもらえば、私はミカさんの動きを認識できても身体がついていかず、防戦一方となってしまった。シャーレはその性質上、少数での業務が多いので、結構な死活問題である。ミカさんもいるけど彼女は一人しかいないのだ。

 

 私自身のたくさんの問題を抱えながらも、私たちの世界は事件の翌日、いつも通りの朝を迎えていた。いやもちろん、事件の後処理は山積みという状況でだ。

 

 それでも、空から変な塔は降ってこないし、空は赤くもならなければ、怪獣も襲ってこないし、宇宙に要塞なんかもない。非日常は一瞬、日常はずっとだ。

 

「はい、お冷です」

 

「ありがとニコちゃん」

 

 なので今日も今日とて、お昼はいつもの定食屋さんにやってきて、ニコちゃんからお冷とおしぼりをもらう。

 

「あ、今日はビックカツカレーだって。エリカちゃんも食べる?」

 

「ミカさん?まさか毎日そんな脂っこいものを?」

 

「わたくしは脂っこいもの苦手ですし、よろしければナギサさんとエリカさんでシェアしませんこと?」

 

「……はぁ」

 

 なんだけど、今日は賑やかだった。ちょっと大きめのテーブルに案内されて、目の前にはミカさん。まぁ、彼女がいるのはいつものことだ。今日はパトロールの日なので一緒にシャーレのパトカー(事件中しれっと色彩の軍勢によって破壊されたので新しく至急された新車!)でパトロール。

 

 で、そのミカさんの隣にいるのは、事件の後処理でそれなりに忙しいはずのナギサちゃんだった。彼女は律儀にシャーレの制服に袖を通してさも当たり前のようにいる。

 

 さらにその横にはハルナ。こっちはいつもの制服で、いつもの調子だった。

 

 そして最後に、ミカさんの横と私の間に座るのはチヒロちゃん。ため息をついていた。気持ちはわからないでもない。

 

「えっと、ミカさん。とりあえず私は今日、豚丼の気分だから。ハルナ、それ胃もたれすると思うしナギサちゃんにほとんど食べさせることになるよ」

 

 私の指摘にミカさんは「そう?じゃ私もそれでー」と合わせてきて、ハルナは「そんなことありませんわ!」と言っていた。いやムキにならんでも。

 

「ナギサちゃんは何食べたい?」

 

「私もでしたら、エリカさんと同じものを」

 

「むっ。ならわたくしも」

 

「じゃあ、豚丼4人分かな。チヒロちゃんは?」

 

「………………いや、そもそもこの集まりはなんなの?」

 

 あえて聞かないようにしていたことをチヒロちゃんが聞いてくれた。そう。本当にこの組み合わせはよくわからない。まず、朝の時点でナギサちゃんはミカさんと一緒にシャーレに登庁してきた。理由は教えてくれなかった。

 

 ハルナとチヒロちゃんはパトカーを出そうとしたときに乗り込んできた。チヒロちゃんは嫌々そうだった。ゲヘナとミレニアム、さらにお嬢様と(表向き)パソコン関係の技術者であるチヒロちゃんは接点はない。

 

 実際のところは私を通してチヒロちゃんとハルナは知り合いである。仲は………まぁ、普通だろうか。

 

 そんなよくわからない組み合わせでお昼時だったのでとりあえず定食屋さんに入ったのである。なんでか入った時に一瞬ニコちゃんがピシッと固まったけど、大方テロリストであるハルナが性懲りも無く姿を表したからだろうと思いたい。

 

「あら各務さん。愚問ですわね。これは祝勝会でしてよ」

 

「宴会にしてはただお昼食べにきただけじゃない?」

 

「わたくしたち以外の方の都合が合うのが今日でしたからこうして集まりましたの」

 

「それ遠回しに私のこと暇人って言ってないかなお嬢様」

 

 ………仲は、悪くないはず!

 

 それにしても祝勝会?ってなるのは私もチヒロちゃんと同じだけど、あぁそっか。あの宇宙での別れ際に言ったことか。律儀なハルナのことである。探してくれていて、ほんとにナギサちゃんたちを誘おうとしたけど予定が合わなくて、一緒にお昼ということだろうか。

 

「申し訳ありません、各務さん。私の予定が合わず無理を言ってしまいました」

 

「いや、桐藤さんのことを責めてはいないから!?」

 

 チヒロちゃんも流石にナギサちゃんにはたじたじだった。いい子にチヒロちゃんも弱いのだ。普段見てる子が問題児だらけなので。

 

「ねー、早く注文しようよー。お昼休み終わるんだけど」

 

「ミカさん、そういう言い方はよくないですよ」

 

「あ、いや、ナギサちゃん。ミカさんの言う通りだし頼もう。チヒロちゃんはほんとどうする?」

 

「私もみんなと同じでいいよ」

 

「ニコちゃん!豚丼5人!」

 

「はーい!」

 

 とりあえず注文は済ませた。ニコちゃんは本当に働き者だ。そろそろSRTの凍結は解いてもいいんじゃないだろうか。ミヤコちゃんたちは敵の本拠地に乗り込んだし。そして空井さんは気を失ったけれど特に後遺症もなく、私に何故か謝りにきていた。

 

 気にしないでと言っても作戦行動中に動けなくなったことは彼女の教範的にも許容できなかったらしい。咎めるつもりはないので、次はこうならないように一緒に頑張ろうとだけ言っておいた。何故か納得されなかった。また、風倉さんもナギサちゃんを庇って額を切っていた。私には黙っていたらしい。それは流石にと言ったら「会長には言われたくないですな〜」と反論された上で、RABBIT小隊全員も頷いていた。何も言えず私は半べそかいて帰った。

 

 そんなこともありつつ、SRT特殊学園の生徒たちも日常に戻っていて、私のSRT特殊学園生徒会長としての権限は一連の事件もあってかしばらく付与されたままになった。

 

「それにしてもエリカちゃん。カヤちゃんこっちに来るとは思わなかったね?」

 

「それは、うん。でも、あの子も大変な目に遭ってるし」

 

 私がSRTの会長のままなのはもう一つ理由がある。そう、防衛室の一時閉鎖である。この前の事件の発端……ではないけれど、カイザーPMCの一部によるクーデターの手引きをしたのはやはり防衛次長で、あろうことか、虚妄のサンクトゥムの混乱に合わせて彼女は元DINGO小隊の面々と共に姿を眩ました。

 

 それと共に防衛室の役員の9割が自主退室。元の学園に戻るというとんでもない事態になっていた。

 

 カヤちゃんは何も言ってはくれない。防衛室閉鎖によって行き場をなくしたカヤちゃんは元の母校に戻ることもなくシャーレに一時的に、私と同じ補佐官という役割で所属することになり、今は黙々と先生と共に、色彩によって被害を被った街の復興の手助けをしている。

 

「まさか不知火室長がこのようなことになるなんて」

 

 ナギサちゃんはエデン条約事件で出会っている。私を救ったのはSRTを連れたカヤちゃんだ。知らない相手ではないので、このような形で失脚に近い状態となった彼女を少し気にかけている。

 

「連邦生徒会の一室が閉鎖というのはあまりありませんわね。流石にニュースになっていましたが、あの件は混乱を防ぐために伏せるようですし」

 

「まぁ、そのまま公表されたら不知火さんも責任を追及されるからでしょ。被害者なのに」

 

 当然、情報統制されてクーデターの関与の件は秘匿された。でなければチヒロちゃんの言うとおり、おそらくはその絡みで二度も誘拐されたカヤちゃんは責任を追及されることになっていた。このことは七神代行も、他の室長たちも流石にあまりにも……とのことだった。

 

「おかげでシャーレの仕事増えたけどね。聞いてよナギちゃん。昨日なんかバスジャック解決したんだよ?」

 

「解決というかミカさんが1発殴って犯人気絶したからバスジャックにもならなかったけどね」

 

「ひっどーいエリカちゃん!」

 

 流石に今のは違うけど、実際ミカさんの言うとおり、防衛室が担ってきた業務の幾らかはシャーレに回されるようになった。

 

 業務の内容は主に特殊な武器や戦車などの兵器、それらの使用・所持などの許認可だ。もっとも、私だって元防衛室の役員である。生活安全局の局員として窓口対応も経験がある。なので、特に問題なく回っているし、シャーレが窓口になったおかげか気軽に来てくれる生徒も増えて結果オーライではあった。

 

「なんというか、変わってないね。エリカの仕事ぶりは」

 

「どゆこと?かがみん」

 

「かがみん……まぁいいや。聖園さんは気になる?エリカの昔の事件解決方法」

 

「気になるかも!」

 

 いや、チヒロちゃん恥ずかしいから勘弁して。言わないでほしい。

 

「あら、各務さん。それならわたくしを差し置いて語るなんて。わたくしも話しますわよ」

 

「黒舘さんのは脚色されすぎ。いい?エリカは昔、銃撃つの苦手だったから結構強引でね──」

 

 やめて〜!

 

 

 

 

 

 

 

 チヒロちゃんから未熟な頃の私を話されて恥ずかしい思いをしつつも、ミカさんには若干ドン引きされながらも楽しんでくれはしたようなのでよかったと思うしかない。豚丼はおいしく頂いた。

 

 定食屋さんからの帰り道、当然パトロールなんかこのまま行けないので一旦シャーレへ戻ることになる。その車内で、私は助手席に座っていた。運転席には誰がいるって?ミカさんである。

 

「聖園さん運転できるんだ」

 

「うん。一応ティーパーティーの3人は免許持ってるんだー」

 

「思えば夏の時も、ナギサさんは帰り道運転されてましたわね」

 

「あぁ、あのオレンジパウンド高校の事件?」

 

「各務さん何故ご存知で」

 

「黒舘さん。あのとき小鳥遊さんいたでしょ?私がサポートしてたの。あっちは砂漠の砂大量に持ってかれたからそれで来てたけど」

 

 ティーパーティーは決してそれが義務なわけじゃないけど、免許を3人とも持っていた。

 

「セイアちゃんなんか車持ってるし」

 

「そうなの!?」

 

 驚きの情報で思わず私は声を上げてしまった。あの百合園さんが。

 

 これはナギサちゃんが捕捉してくれた。

 

「実はセイアさん、多趣味でして……車もわざわざトリニティ製のクラシックスポーツカー、それもオープンカーに乗っています。それ以外にもワイルドハント自治区のメーカーの真っ赤なスーパーカーでしたり色々」

 

「へぇー、流石に意外かも。運転好きなんだね」

 

「はい。ただ、その」

 

「その?」

 

「エリカさんは同乗されないほうがよろしいかと」

 

 それどういう意味なのか。下手ということなのか。

 

「あはは。だろうね。セイアちゃん運転めっちゃ荒いもん」

 

 話が変わってきた。

 

「………聖園、まさかとは思うがスピード違反の常習じゃないだろうな」

 

「そんな易しいもんじゃないって、この前なんか──」

 

「ミカさん!……いくらエリカさん相手といえど、トリニティ名家の品位を貶める発言は慎むように」

 

「ごめーん」

 

 聞かなかったことにしておこう。そしてこの車に乗っている時に出会わないことを祈るばかりだ。

 

「ナギサちゃん、百合園さんに言っておいてね。事故っても私、助けないからね」

 

「よく言っておきます……」

 

 勘弁してほしいものである。知り合いがスピード違反で捕まって保護者として呼ばれるのはいやだ。交通局、怖いんだよなぁ。

 

「それで、エリカと聖園さんはしばらく忙しいの?」

 

「それはね。少なくとも向こう2週間は先生とカヤちゃんはD.U.に釘付けだろうから、他の自治区からの要請が入ったら動くのは私とミカさんになると思うよ」

 

「もし来たら初めてかもね、エリカちゃんと一緒に自治区からの本格的な支援要請受けるの」

 

 実はそうなのだ。ミカさんと正式な形で支援要請が来れば初めての出動だ。ミレニアムでのケイさん、アリスちゃんの騒動の時はそうではなかったし、エデン条約事件でアリウス自治区に向かった時も支援要請ではなく事実上は独断での行動だ。

 

「ミカさん。エリカさんにご迷惑をかけないように」

 

「ナギちゃん。そんなわけないじゃん。私、ちゃんとシャーレの部員だもん」

 

「まぁ、そこはミカさんの言う通りかな。ナギサちゃん、ミカさんの評判も結構いいんだよ?」

 

「そうなのですか。それはよかったです」

 

 仮に支援要請が来ても、ミカさんとなら問題ないというか、弱体化している今の私からすれば助かっている。どうしても荒事が多いので。

 

「ふふ……なんでしょう。お二人を見ていると懐かしいですわね。各務さん」

 

「……正直、それは思ったかも」

 

「チヒロちゃん、ハルナ?」

 

「なんでもない。まぁ、二人とも何かあったら言って。遠隔でのサポートはいつものことだから」

 

「かがみん助けてくれるの?」

 

「まぁ、前からそうだから。そこの狛犬さん、ほっとくとすぐ無茶するからね」

 

 うっ。事実だ。とはいえ、チヒロちゃんのサポートは心強い。ミカさんと私では実際強引に事件解決しがちだ。いや、繊細な状況ならミカさんも流石のお嬢様力でなんとかしてくれるが。

 

「早々にそうなるとは思わないけど、チヒロちゃん。よろしく」

 

「はいはい。あ、聖園さん青だよ」

 

「ごめーん」

 

 車が進む。昼食後には心地いい揺れと共に。

 

 まさかこのときはそんな舌の根も乾かぬうちにあんな依頼が飛び込んでくるとは思わなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「えっと〜……ミヨちゃん?だっけ。もう一回言ってくれる?」

 

「うぅ。その、すいません、無茶な依頼であることは承知なのですが……」

 

 目の前にいるのはあまりD.U.では見かけることがないワイルドハント芸術学院の制服を綺麗に着こなしたとっても可愛らしい子。どことなく、穏やかで荒事からは遠いところにいる、トリニティのお嬢様なんて言われてもおかしくない印象。

 

 そんな子が、今、支援要請を持ってきていた。

 

 シャーレは改めて言うと、上は世界を救ったり、下は猫探しまでなんでもやる、生徒のために先生が快刀乱麻を断つ形で問題解決を行う連邦生徒会の一部活である。よほど倫理に反していなければ極力生徒(や市民)のお悩みや問題を聞き入れ、支援要請という形で協力をするのだ。

 

 だから、この桜井ミヨさんが持ち込んだ支援要請も受けることは確定している。確定しているが。

 

「満月の夜にしか咲かない金木犀……探してもらえませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 数日前、世界は救われた。それでも世界は物語のようにエンディングを迎えるわけではない。

 

 ワイルドハント芸術学院からの奇妙な支援要請が──終わらない激動の日々の再開だった。

 

 




お読みいただきありがとうございます。次回はまた明日です。

主人公弱体化となりました。本気を出すと割と真面目にヘイローがそのうちブッ壊れます。
カヤちゃんがシャーレに移ったり、いきなりミヨちゃんが現れたりでひっちゃかめっちゃかですが、楽しんで頂けたら嬉しいです。

ミカとミヨ、原作でも絡んでほしいね。
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