「──では、今回はセイアさんがお願いします」
「わかった。元々私の役目だ。自走で行ってもいい」
「自走はダメです」
「久々に運転もしたい」
「ダメです」
「…………了解した」
来るミレニアムでのEXPOの視察は数日前の騒動以前より議題として上がっていたので、セイアさんにお願いをさせてもらいました。……自走で行きたいなどと言い出すとは思いませんでしたが。
あの宇宙での戦いを終えて、晴々とした日々が続くかと思いきや昨日からずっと雨が続いています。今日もテラスまで吹き込む風と雨で、セイアさんとの打ち合わせは荒天時用のサロンで行っています。
「ナギサ様。車両の手配は……」
「EXPO開催までには連邦生徒会も持ち直しているでしょう。しかし、念には念をお願いします」
「かしこまりました」
控えていた役員の生徒に当日の車両の選定はお任せします。ミレニアム自体の治安は良好ですし、自治区の運営も対外的には安定していることはわかっています。それでもセイアさんに何かあってはいけないので、防弾性能の高い車両をお願いしたいところです。
それもあって、セイアさんの自走は許可できません。彼女所有の車は防弾性能皆無なクラシックスポーツカー。それもオープンカー。狙撃されては一溜まりもありません。
セイアさんは納得いかない様子ですが、納得してください。
「君も皆も過保護がすぎないかい?体調面での問題は概ねクリアしていると思うが」
「確かに、一昨日の診察でこれまでの虚弱が嘘のように治っていると聞きましたが、そもそも私たちの立場からすれば自走は許可できません」
「ミカはシャーレで運転しているじゃないか」
「ミカさんはシャーレの部員として仕事をしているに過ぎません。それに横に草鞋野補佐官も乗っています」
「なら彼女が横にいれば私も運転してもいいのではないか」
「当分ヴァルキューレの留置所で保養をされたいのでしたらどうぞ」
「……悪かった。幼児のような駄々をこねてしまった」
「何もプライベートで乗るなとは言っていないのです。公務では避けてほしいだけなのです」
ようやくセイアさんは折れてくれたようです。議会制に移行したとしても私たちの一席が事故でまた欠けるなどということは避けねばいけません。あの世界が終わってしまうような自体が一度は起きたのですから、二度はないとは言い切れません。
デカグラマトンや、アビドスで発掘されたウトナピシュティムのような遺物………潜在的な脅威はいつ何時、牙を剥いてくるのか私たちはわからないのですから。
セイアさんは紅茶を飲み干すと、サロン内に控えていた役員の方達に手で一度退室を促す。本日の仕事は先ほどのセイアさんの外交スケジュール設定が最後です。あとはただのお茶会の時間。
役員の方々は素早く退室されていきました。
「ふぅ。肩が凝るね。ミカがいないと打ち合わせは進むがそれはそれでね」
「確かに私とセイアさんだけですと、スムーズに行き過ぎてしまうかもしれません」
「後で書記から議事録を貰って再確認しておこう。見落としはあるだろうからね」
「はい」
ミカさんがいないティーパーティー内でのお話はスムーズに行き過ぎてしまい、つい一日で処理する量が増えてしまう。それは決してミカさんが邪魔だった、というわけではなく、彼女のちょっとした気づきがなく何かを見落としているまま進んでしまっている。
つまりは、少し浅い位置での話になっているということ。セイアさんも私もそれには気が付いていますが、ミカさんがいないのであればそこは私たちだけで見落としがないか確認するしかない。
「それにしても、こうも雨がひどいと困りものだ。毛が落ち着かない」
「尻尾のですか?」
「耳もだね。湿気がひどいとどうにも」
セイアさんは狐の獣人ですが、毛並みは彼女の言う通りちょっとボサっとしています。もちろんよく見ないとわからないでしょうが、湿気の影響を強く受けているのでしょう。エリカさんも苦労されていたのを覚えています。
「ミカも今頃エリカに面倒を見させているのではないかな」
「どうでしょう。今回は同行される生徒さんもいるようですし、ミカさんはそういう状況では他所行きですよ」
「それもそうか」
幼馴染としてミカさんのオンオフはかなり激しいことを知っています。なんと言いますか、他所行きのミカさんは俗っぽい言い方をすれば「最高に可愛い私★」といったゴリ押し感……自身の容姿が優れていることを一切の引け目なく、それが初見の人には少し傲慢にも見えてしまうかもしれません。
普段の彼女はそうではないのです。ですが時折、ティーパーティーとしての癖が抜けないのか、シャーレで相談してきた生徒を萎縮させてしまうと私に相談もされていました。最近は少しずつ改善しているようです。
エリカさんからはそれでもミカさんの政治的な視点に助けられることもあると聞かされています。エリカさんは警護をして頂いたときも、政はさっぱりだと仰っていました。なので、自治区への介入はかなり気をつかうとか。
「同行する生徒はワイルドハントだったか。あの学院がシャーレを頼るのも珍しい」
「ミカさんからは小説家の卵のような方と伺っています。取材旅行だそうですよ」
「エリカの目的は何か花を探しているということだったか?それで古書館にも来たらしいね」
「はい。ですので、その取材旅行はついでだと」
なんでも、満月の夜にしか咲かない花というものを探しているとエリカさんから聞き、ウイさんを紹介しました。うまく助言を引き出せたようで安心しています。先生からの後押しもあって無碍には扱われなかったようです。
「それで山海経か。ナギサは門主に直接会ったのだろう。どうだった?」
「懐の深い方であると思います」
山海経の竜華門主。晄輪大祭でまさか出会うとは思わず、更にエリカさんともお知り合いとは思いませんでした。あの絵庭サロネ繋がりと聞いていますが。
幼い容姿に反して、まるで私の数倍は人生を過ごしているかのような懐の深さ。下手に触れば飲み込まれてしまうような──龍のような印象。巷で噂される山海経の底知れなさというものを纏っていると感じました。
それでも、エリカさんのことで問い合わせをすれば彼女は応じてくれました。強引でしたが、答えてくれたあたり、彼女もあのエリカさんが失脚された当時のことで思うところがあったのでしょう。
「懐が深いか。ふむ……確かに虚妄のサンクトゥム攻略時に聞いた声はどこか底が知れない気はしたが……」
「気になりますか」
「外交の役目を負う以上はね。だが、話せばわかるというのが最初からわかっているのは気が楽だよ。共通の認識を確認し、折衷案を探ることができるのだからね」
簡単な相手では無いのはわかっていますが、ゲヘナの羽沼議長と話をするよりは楽なのは間違いないでしょう。サンクトゥムタワーでの会議では彼女の右腕と思われる艶美な方も含めて、真っ向からこちらとぶつかってこようとされていました。エデン条約もあれでは破談するのもやむを得ません。
部活レベルで交流が増えたことだけでも十二分なものです。
「……あぁ、硬い話に戻ってしまった。なんであれ、ナギサの所見の通りの相手なら穏便な旅行で済むかと思う」
「それはどういう」
「エリカのことだ。行く先々で何かとトラブルに巻き込まれがちだろう?山海経自体は安定している自治区だからね」
そうでしょうか。そうだといいのですが。
以前、ハルナさんと旅行に行かれた際はトレインジャックに巻き込まれ、あわや何かの薬物を刺されそうになったと聞いていますし、アビドスで保養をして頂いた際には結局、違法な労働をさせていた組織を壊滅させています。
宇宙での戦いの際、小鳥遊委員長がとある話を聞いたとのことで私に知らせてくれました。
「……エリカさんは無意識にでも、争いが起こる場所に足を運んでしまうと」
「なんだいそれは」
「あの戦いの際……エリカさんを喪われた向こう側の生徒さんが言っていたことだそうです」
「…………なるほど。私やミカ、ナギサのように、彼女に備わっている力ということか」
「おそらくは」
ミカさんが同行された理由は先生からの指示と聞いています。あの宇宙での戦いでエリカさんは持っていた尋常では無い力を発揮できなくなったと、ミカさんやハルナさんから聞いています。
以前のような、どこか超常的な事件に対しての勘も……弱まっていると。
ですから、今の彼女は放っておけば破滅の道を辿ってしまうのではないか?そう思わずにはいられないのです。別世界で、彼女は──。
「別世界のエリカのことを考えていたのかい」
「それは……」
「いや、考えたくもない話だろう。特に、ナギサ、君は」
ホルスターの銃に触れます。エリカさんが使用していたヴァルキューレ製のこのリボルバー。別世界の生徒、砂狼さんが使っていたものはひどく傷んでいるように見えました。そこまで追い詰められ、最期には……私たちの世界のエリカさんも必要であれば、命を投げ打ってしまうでしょう。私の目の前で、あんなに血を流してもなお彼女は戦い続けていたのです。
今は、そうなるような状況を予感することもできない。
「大丈夫さ。だからミカが付いているのだろう。並大抵のことならミカの暴力が全て薙ぎ倒すさ」
それは事実そうなのでしょう。
「真正面から、と注釈が付きませんか?」
「ナギサ。忘れたのかい?そもそもミカがシャーレに行かされている理由を。彼女は君さえも欺いて外患誘致をやってのけて後一歩のところまで来たんだ。君が思うより、ミカは絡め手にも弱く無いよ」
「それは……」
「幼馴染の贔屓目なのかもしれないが、君の中にいるミカだっていつまでも変わらないわけではない。守られるお姫様にしては勇猛すぎるさ」
そうかもしれません。都合よく、私はミカさんの力をアテにしておいて、やはりどこか、まだミカさんのことを幼い頃からの印象に引きずられています。
初めて出会った時のこと。この世に、本当にお姫様のような子がいると思ったあの日。その可憐さは変わらず、お姫様のまま大きくなった彼女は私では遠く及ばない力も身につけて、今はこの世界の最前線で戦っている。
「そうですね………ミカさんとならきっと、大丈夫」
「あぁ。保証するさ」
「勘ですか?セイアさん」
「違う。これは確信さ」
ティーポットからセイアさんはお茶を淹れつつ言います。私も、信じましょう。無事に帰ってきてくれることを。あの宇宙から帰還してきた時のように、また「ただいま」と笑顔で言ってくれることを願って。
「ところで、今回同行しているワイルドハント生だが、ミカから写真が送られてきたのだが見るかね」
「構いませんが……?」
ミカさんことです。さっそく距離を詰めて自撮りでもしたのでしょう。セイアさんが携帯を取り出して、私に画面を見せてきました。
「え」
そこに映っていた見慣れない生徒に私は硬直しました。ミカさんはいつも通りの他所行きの笑顔。その隣でぎこちなくも笑う少女──彼女がワイルドハントの方なのでしょう。
「……可憐な方ですね」
おそろしく可憐な方です。ミカさんと並んで写真を撮られていると、もはや暴力的と言っていい愛らしさを詰め込んだ写真に見えます。
「如何にもエリカ好みの女子に見える」
「セイアさん?」
「………待ってくれ、冗談だ。冗談なんだ。その手のロールケーキをおろしたまえ」
冗談でも言っていいことと悪いことがありますが、これは冗談ではありません。エリカさん。信じていますよ……軟派なことはされないと。
し、しかし、認めたくはありませんがこのワイルドハントの方はエリカさんがおそらく──好みな方です。いえ、本当に、認めたくはないですが。ミカさんにだってエリカさんは他意なしに可愛いとか、綺麗とか、常日頃から言っているそうでミカさんも「いやほんとよくないね」と呆れていましたが、そこがエリカさんの良いところでもあり問題点です。
セイアさんではないですが、嫌な予感がします。
「少し山海経に」
「ナギサ、待つんだ。早まってはいけない」
「後のことはお任せします」
「落ち着くんだ。恋煩いでミネ団長を呼びたくは無い」
「はい?」
「いや本当にだ。それに、今山海経に行くのは得策ではない」
何がでしょうか。
「先ほどの会議に熱中して言い損ねていたが、諜報部からレッドウィンターと山海経のトップが近く会談すると聞いた。レッドウィンターといえば今はゲヘナと同盟中。君が行けば下手な刺激をすることになる」
「待ってください。そんな状況の山海経に行ったのですか、エリカさんたちは」
「………そうだな。しかし、シャーレだ。何かされるわけでも」
エデン条約の時ほどではないですが、それはセンシティブな状況ではないでしょうか。私はあのとき、シャーレであっても招き入れることは強い抵抗感がありました。竜華門主はエリカさんのことを知っているでしょうから、私ほど無意味な警戒を向けないでしょう……周りもそうとは言い切れません。
「本当に、何も起きないと思いたいです」
「あぁ。なんにせよ、私たちは何もできない」
「はい」
またエリカさんが傷つかないことを私は祈ることしかできない。お願いです。どうか、もうこれ以上、私の愛する人が苦難に苛まれることなどないように……。
一晩明けて、泊まっているホテルの窓から外を見ると、建物の前には黒塗りのごついSUVがやってきていた。ナンバープレートからミレニアムの登録車両であることがわかり、私は誘拐事件の被害者の子を迎えにきた車だとわかった。
予定通り、早朝。ミカさんはまだ寝ているけど、桜井さんは既に起きて着替えているので、彼女を連れて、被害者の子がいる部屋に赴き呼び出して、ホテルの外に出た。
SUVからはちょうど二人ほど生徒が降りてきていて、見知った顔だった。
「室笠さん、飛鳥馬さん。おはようございます」
「おはようございます、エリカ様」
「おはようございます」
ゴツい車から現れるにしては瀟洒すぎる二人。室笠さんと飛鳥馬さんがそこにはいた。手を前に背筋はまっすぐ、皺ひとつないメイド服を纏って表情は淑やかに。先生が言ってたけど、室笠さんが至高のメイドさんというのはわかるなぁ。
飛鳥馬さんも室笠さんに負けず劣らずミレニアムというキヴォトス最先端を行く学園の生徒というよりは、トリニティのような古式ゆかしさを醸し出していた。
「……メイド部の人……?」
ミレニアムの一般生徒にとってC&Cは家事代行の部活となっているので不思議がっているみたい。桜井さんは……チラッと見ると室笠さんたちに釘付けになっている。本物のメイドさんだから少しは資料になったりするかな?
「この度はミレニアムを代表して感謝を。ありがとうございました」
二人に頭を下げられる。
「いえいえ。無事助けられてよかったです」
私はするべきことをしただけ。ミカさんや桜井さんのアドバイスがなければもしかしたらこの子を助けられなかったかもしれない。被害者の子にSUVへ乗るように促すと、彼女も私に一礼して室笠さんたちの方に歩いて行った。
エスコートは飛鳥馬さんがしてくれるのか、彼女が車の後部座席に案内していた。
私は少し室笠さんに近寄り、小声で話しかける。
「……調月会長からの指示ですか」
「いえ。C&C内で人選を。……デリケートな話でしたので」
「デリケート?」
「山海経とのトラブルは避けたいので……」
なるほど。対外的には先生が推すほどにメイドらしいメイドさんな二人なら山海経相手であってもつつがなく生徒を回収してこれるってことかな。美甘さんでも問題ないのだろうけど、あの人のことなのでむしろその人選をしれっとやってそうである。お迎えとか面倒、とか思っていそう。
「ふふっ。それにしても、そちらのお嬢様はワイルドハントの方ですか?」
内緒話は終わりと、室笠さんが一歩下がって桜井さんを見て言う。ミレニアムからしてもワイルドハント生は珍しいのかな。
「えっと」
「申し遅れました。私はミレニアムサイエンススクールの室笠アカネです。ご覧のとおり、メイドをしております」
「ど、どうも。桜井ミヨです」
「ミヨ様。どうぞお見知りおきを。もしミレニアムに御用がありましたら私たちCleaning&Clearingをお呼びください。エリカ様のお連れということであれば格別のおもてなしをさせて頂きます」
「え、えぇっ!?」
「私、そんなVIP待遇されることしましたっけ?」
いや本当に。冗談……で言っている感じではなさそう。仮にそうだとしても室笠さんの表情から読み取れない。本物のスパイさんでもあるので、一警察官でしかない私では敵わないところだ。
「はい。エリカ様におかれましてSRT特殊学園の生徒会長様でもありますから。弊校としましても、今後も良きお付き合いをさせて頂きたいと思っています」
お客さんとしてってことかな。確かに、数日前のあの騒動でSRTの各小隊の装備はクーデター時の被害もあってほぼ喪失。支援物資やなんやらで現地調達をしたり、FOX小隊にいたっては武装をほぼミレニアム製のレールガン等、実験兵器などに頼った。
結局、装備は全て新調するけど、購入ルートはミレニアムからになる予定なんだよね。普段からエンジニア部とかの付き合いがあるからか、早瀬さんが割引してくれるらしい。……たぶん白石さんが大気圏突入のデータを私からもらったとか、あのあたりの話を聞いたんだろうなぁ……チヒロちゃんガチギレして怖かったし白石さんは泣いていた。
「……我々はどこの学園も贔屓等しません。警察組織ですよ」
「もちろん承知していますよ」
どうしたものかな。今後のことを考えると、SRTはほぼシャーレの実働部隊みたいになってしまうので、下手にこのあたりをクロノスに突かれると癒着だなんだと言われそう。考えないといけないなぁ、色々。
「では私たちはこれで失礼いたします。重ねて感謝を、エリカ様」
最後に一礼して、室笠さんはSUVの運転席に収まると、丁寧さがわかる緩やかな発進で去っていった。とりあえず誘拐の件はこれで一件落着かな。
「桜井さん。部屋に戻りましょう」
私が振り向いて桜井さんに声をかけると、なぜか彼女はびくっと肩を震わせていた。驚かせてしまった?
「どうしましたか?」
「いえ……その……草鞋野さんってSRTの生徒会長さんでもあるんですか?」
あぁ、そのこと。公表はしてないし、正式な会長ではないからね。
「代理みたいなものです。それより、SRTのことをよくご存知で」
「ニュースで活躍を見かけたんです。FOX小隊……という生徒さんたちの」
「そうですか。となると、あの違法な爆薬の取引を抑えた件でしょうか。あれは確かにFOX小隊が解決した事件としては代表的なものですね」
ユキノちゃんたちのほうはそれなりの知名度があったりする。あの事件解決後のインタビューは桜井さんも見ていたようだ。桜井さんは何かSRTについて気になるのだろうか。ちょっと考えているような表情をしている。
「どうしました?」
「あっ。いえ、初めてお会いした時から警察官の方かなと思っていたので」
「そういうことであれば、私はヴァルキューレが大元の所属です。よくわかりましたね」
一度も桜井さんにはヴァルキューレの生徒であることは言っていなかったね、そういえば。自分で言うのもだけど、私自身だいぶわかりやすいとは思ってる。昨日なんかもろにヴァルキューレ生としての自分が出ていたし。
「色々と肩書きがあったりしますが、今はただのシャーレの生徒ですから。戻りましょうか」
「はい。今日はよろしくお願いします」
「えぇ。といっても、私も山海経は初めてですから」
「それなら一緒に楽しみましょう。草鞋野さん」
「そうですね」
いやいや。待った。草鞋野さんがSRTの生徒会長も兼任しているなんて聞いてない。
「ありがと、エリカちゃん」
「お手入れ普段は自分でしてるんじゃなかったの?」
「人にやってもらったほうが早いからねー」
昨晩の経験豊富な警察官のような雰囲気は消えて、目の前にはセミロングの青髪が映えるちょっと童顔気味な女の子が、世間が羨むような髪質の絶世の美少女のお世話をしている。
本当に彼女があのSRTの生徒会長……?
「はい終わり。本当に綺麗な髪だね、ミカさん」
「でしょ?」
ヴァルキューレの警察官とは知っていたけれど、まさかSRTまで……大丈夫でしょうかこれ。この旅行が終わって私の帰る場所が矯正局になっていたなんてことはないでしょうか。
先ほどはミレニアムサイエンススクール生だという小説に出てくるようなメイドさん二人に圧倒されていました。草鞋野さんは様付けされてました。いえ、私もしてもらいましたけど……。
ちゃんと草鞋野さんには敬意を持って接しているのがメイドさんから伝わってきて、聞き間違えではなく本当に草鞋野さんは。
「ミヨちゃん?どうしたの?」
「いえ、お二人は仲がいいんですね」
考えていたら聖園さんに声をかけられてしまった。いけない。変に勘繰っていると聖園さんに怪しまれる。……生徒会長といえば、このキヴォトスでも深謀遠慮な方が多いと聞きますし、聖園さんもご多聞にもれずそうなのでしょう。
実際、初めてお会いしたシャーレではかなり怪しまれていたようです。ワイルドハントの外で初めていきなりお会いするような方では本来なく、なんといいますか、おいそれと物語の紡ぎ手となるには強すぎる方といいますか。
草鞋野さんは改めて見ると、本人の言うとおり代理、ということなのでしょう。経歴からしても政は苦手、と見えます。
「まぁエリカちゃんとは色々乗り越えてきたもんね」
「そうだね。桜井さんの小説の種になりそうなものはなさそうだけど」
「そう?」
私の嘘の目的のことを本気で考えてくれているのはとても草鞋野さんに申し訳ないと思いますし、同時にキヴォトスでは天然記念物並のいい人なのではと思います。なんと言いますか、圧倒的光、と言えばいいでしょうか。
昨日の発言も、そう考えれば本当に素直な感想なのかなと。それはそれで、なんだかこの人、絶対人たらしだと思ってきて、迂闊に引っ掛かると大変な人なのかな……うぅ……昨日シャワー中に変なこと考えてたせいかなんとも言えない気持ちに。
「でも、桜井さんにお話できることはほぼないんじゃないかなぁ」
「機密もあるもんね」
「そう。……桜井さん?」
「ひゃい!?」
「大丈夫ですか?」
「すいません!ちょっと昨日の今日なので疲れてしまったのかもしれません!」
だめだめ。しっかりしないと。心配そうにこちらを見てくる草鞋野さんはこう、ワンちゃんがこちらを見上げてくるようにも見えてキュンとする。いや本当に、変に意識しすぎですっ、私!
「それもそうだよねぇ。エリカちゃん、せっかくだし元気の出るもの食べにいこうよ」
「朝ごはんだね」
「そ。玄武商会さん行こうよ」
「……私のおごりで?」
「昨日約束してくれたじゃん」
「朝からデザート…?」
「いいでしょ?」
「わかりましたよ、お嬢様」
これでお付き合いされてないんですか?聖園さんと草鞋野さん。なんというか我儘な彼女さんと…という感じで参考にはなりますけど。いえ、親愛と恋愛は違うものですし、紙一重、なんて表現もあったりします。
………嘘をつくなら本当のことも混ぜるべきですし、今後の執筆の参考になるものはちゃんと見ておきましょう。
「私も行っていいんですか?」
「もちろん。桜井さんを一人にはさせませんよ」
自然とはにかむ彼女に、一瞬くらりとしそうになります。願ってもいない本当に参考になりそうな取材旅行だと思うけど、果たして私は色んな意味で無事にワイルドハントに帰れるのでしょうか…?
お読みいただきありがとうございました。次回はまたしばらくお待ちください。
そういえばこれまでも書いてはいたけど明言してなかった主人公(クソボケ)が周りの子に持ってる気持ち
ミカさん:ものすごい美人で可愛くて優しい子。友達で同僚。
ナギサちゃん:尊敬している人で、守りたい人。大切な友達。
ハルナ:一番辛い時に隣にいてくれた人。逮捕したくない。大切な友達。
チヒロちゃん:いつも助けてくれる古い付き合いの相棒。
カンナちゃん:勝手知ったる同期。
ホシノちゃん:とても強い人。どこか似ている…?
ミヤコちゃん:頑張っている後輩。とってもいい子。
ニコちゃん:頼れる後輩。怒ってもくれるの感謝。
桜井さん:綺麗な人。危険なこととは遠そうなので守らないと…。