頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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休みってその前に忙しいとより一層楽しめますよね。気分も同じこと言えます。

という章です。


第二章 絶対とは、存在することのない幻想である
Area-01「子ウサギタウン射撃場 #訓練 #憧れ #パトロール」


「ねぇアロナ、エリカの水着姿、見たくない?」

 

『そう言われましても…』

 

 まだ夏はしばらく先だけど、徐々に気温が春の過ごしやすいものからの変わっていくので私はふとそんなことを思った。普段から頑張ってくれているエリカには当然のことながら夏休みをあげたいし、できれば私も一緒に遊んであげたい。

 

 決して、この仕事から逃げ出したいわけではなく、純粋にそう思うのだ。

 

『先生?まさか仕事をサボろうなんて思ってませんよねー?』

 

「やだなぁ、そんなことはないよ」

 

 ダメだ。アロナがいる以上、私の気持ちは見透かされている。

 

「けど、エリカは休ませてあげないといけないからさ」

 

『それには同感です。エリカさん頑張ってますからね!』

 

 シッテムの箱をデスクの上にあるスタンドにかけて、私は椅子に背もたれに体を預ける。例によってエリカは今いない。補習授業部の一件以降、彼女はコハルと仲良くなったのかよく一緒に遊びに行っているようだった。

 

 一度、彼女には補習授業部の子たちと触れ合ってもらったんだけど、ハナコが言うにはコハルのエリちゃんへのなつき具合は尋常じゃなかったらしい。元からエリちゃんのヴァルキューレ時代からのファンだったようで、尊敬していたとのこと。

 

「友達が増えてるのは素直に嬉しいな」

 

『はい!エリカさんの机の上に、最近写真が増えています!』

 

「うん。わかりやすくていいね」

 

 エリちゃんのデスクの上にあった写真立ては少し大きくなっていた。これまでの2枚に加えて、3枚目はコハルちゃんとの写真。まるでファンとの撮影会かな?と言わんばかりもので、よく撮れていた。4枚目はまさかのハルナとの写真。そりゃ筋金入りのテロリストであるハルナと、元々捕まえる側のエリちゃんの面識がないはずがなかったけど、思ったより二人の関係は良好で、あのエリちゃんが珍しく振り回されていた。

 

「ハルナ、わかりやすかったな〜思春期の男子か?ってぐらい格好つけてたし」

 

 たぶん、ハルナはエリちゃんのことが好きなんだと思う。

 

 料理が上手いというところで、ゲヘナの給食部のフウカたんもハルナは気に入っていて、納得の理由なんだけど、邪魔をしていたはずのエリちゃんになんであんななのかよくわからない。

 

 エリちゃんからも上がったユウカからの支援要請の報告書は何かのドラマかと思うような美女とのデートをしていた。あんなことして全くそういう方向に意識していないエリちゃんもある意味すごい。

 

『先生、人の恋路を笑っちゃうのはよくないと思いますよ』

 

「いやいや、笑っちゃいないよ。青春してるな〜って思っただけ」

 

 こんな気持ちになるのは、ミカやナギサのことがあったからか。生徒会長に収まるような生徒たちはとてもじゃないが、生徒の枠に収まりきれずに“大人”に背伸びして生きている。その結果の一つが、この前の補習授業部の事件であり、アリウス分校によるテロ。

 

 エリちゃんは私に、またしても絶対を証明してみせた。では、私は?先生としての役目を果たしきれたのだろうか。

 

「果たせてないよねぇ……」

 

 ミカ。私が、初めてここに来て救うことができなかった生徒。彼女はあぁするしかなかったのか。あんなことになる前に、止めることができたんじゃないのか。

 

 そして、ナギサも説得することはできなかった。

 

『先生!先生はなすべきことを成しました!補習授業部の皆さんを救って…』

 

「ねぇ、アロナ。私の腕って、こんなにも細いんだね」

 

『先生?』

 

 そりゃ、エリちゃんだって支えきれてないわけだ。

 

 自惚れすぎなのかな、これぐらいが私の能力。もしそうなら、どうすればいいんだろう。

 

『先生、私は……』

 

「いや、だとしても、だね。私の手が届くまで伸ばせばいい。そうだよね」

 

 落ち込んでも仕方がない。エリちゃんの空元気の出し方はこういうとき、見習ってもいいかなと思う。私が足を止めても周りは止まることなく動いていて、子供たちの走る速度は大人とは比較にならないぐらいに早くて、追いついてくる。

 

「私は先生、だからね」

 

 さて、そんなわけだから仕事に取り掛かろう。幸いにしてエリちゃんがくる前にあった書類の再作成に等しい修正は来ないので、こうしてちょっと考える時間も作れるようになった。そもそも、エリちゃんが外出できてるのは私の仕事が滞っていないからこそだ。セリナのおかげで体調もいいから最近は快眠でエナドリ飲むことも減った。コンビニ弁当も食べてるけど、サラダも食べるようにした。

 

 サラダ系は私が買うようになってからソラがちょっとレパートリーを増やしてくれた。助かる。

 

「よしよし、何から片付けようかなぁ〜〜」

 

『楽しそうですね、先生』

 

「楽しくない」

 

『そんなこの世の終わりみたいな顔をされましても』

 

 アロナとふざけ合いながら君に決めた、と書類を手に取った瞬間だった。電話が鳴った。しかも内線である。ここにかかってくる内線は最近やっと直した、シャーレビルの一階受付と、元からかかってくるある場所からだ。

 

「アロナ?出てくれない?」

 

『出れません!』

 

「……う〜〜ん、嫌な予感しかしない」

 

 私に内線をかけてくる子はほぼ一人しかいない。

 

「はぁい、こちらシャーレ、今忙しくて出れません」

 

『出れていますよ。先生』

 

 そう、我らが連邦生徒会会長代行、リンちゃんである。

 

「ごめんごめん。それで、どうしたの?デカグラマトンのこと?」

 

『いえ。今その件はこちらで動きようがありませんので』

 

「じゃあなにかな?」

 

『少々、こちらに来ていただけませんか?久しぶりに直接お会いして話しをしたいのです』

 

 たしかにリンちゃんと直接会うのは最近なかった。電話が主で、顔を見たのは一ヶ月ぐらい前だったかな。けど急になんだろ?怒られるようなことしたかな。書類もばっちりだし。ま、リンちゃんに呼ばれたならここに缶詰というわけにはいかないね。行くか。

 

「よくわからないけど行くよ」

 

『お待ちしています。お茶ぐらいは出しますから。それと、草鞋野さんはどうされていますか?』

 

「今日は外に行ってるよ」

 

『そうですか。なら仕方がありません。先生お一人でいらしてください』

 

 エリちゃんが逆にいない方がいいのかな……?なんだか事件の予感がする。私はシッテムの箱を持って、席から立ち上がった。今日は当番も来ない日だ。このまま行っても問題ないだろうね。

 

「よし、行ってきますか」

 

『行きましょう!』

 

 

 

 

 

 

 

 手に持っている双眼鏡の先に見える白い的の真ん中にはしっかり穴が開いていた。

 

「命中!すごいねコハルちゃん」

 

「ありがとうございます!これならハスミ先輩の足手まといにならないですよね…?」

 

「いやいや、普通に優秀なスナイパーだと思うよ?さすがエリート」

 

 D.U.地区に遊びにきていたコハルちゃんを見回り中にみつけて声をかけたら、射撃の練習を見てほしいと頼まれたので、人気の少ない子ウサギタウンにある射撃場に来ていた。ここ、いつも空いてるからいいんだよね。なんだかんだでD.U.地区ってキヴォトスの首都だし、中心部は人が多い。

 

 私に褒められてコハルちゃんは羽をぱたぱたさせていた。かわいい。

 

「そういえば、コハルちゃんもだけど、なんか正義実現委員会ってスナイパー多いよね?」

 

 ふと気になったので聞いちゃおうかな。この前のハルナと闇オークションに潜入した時に戦った正義実現委員会の子たちは指揮官の子も含めライフル、それも射程が長い装備の子がほとんどだった。接近戦用に多少はカスタムもされてたけど、ベースがどれも狙撃に対応できるもので、ちょっと普通の編成じゃなかった。

 

 私の質問にコハルちゃんはわりとあっさり答えてくれた。

 

「今の委員長がその……すごい強いんです。だから基本的に、委員会の子はほとんど後方支援役なんです」

 

「強いって、どれぐらい?」

 

「えっと、動画がサイトに上がってたので……これです」

 

 コハルちゃんが見せてくれたのは遠巻きだけど、ショットガンを二丁持った黒髪の生徒が一人で大暴れしている様子だった。うわぁ、なんだこれ。速いし関節が曲がっちゃいけない方向に曲がってるように見えるぐらいグリングリン動いて攻撃避けてる。

 

 しかも人どころかビルが穴あきチーズみたいになって倒壊してくし…戦術兵器か何か?

 

 これぐらい強ければ単騎突入させて他の子たちは全員後方支援、暴れている委員長を中心に包囲殲滅を選択するだろうから、正義実現委員会の装備が長射程の装備に偏りがちなのも納得だ。

 

「なるほどね。こうなると確かにコハルちゃんみたいな狙撃手を増やすのもわかるね」

 

「はい。副委員長のハスミ先輩も優秀なスナイパーなんです」

 

 コハルちゃんが憧れているというハスミさん。補習授業部の一件の時に先生は遭遇したみたいで「ものすごい大きかった」と言っていた。大柄な人なのかな?って思って写真を見たら確かに体が大きいし、一部も「大きかった」し、強そうだった。

 

「コハルちゃんみたいな子に尊敬されてるなんて副委員長さんは嬉しいだろうね」

 

「え、えっ、そ、そんなことないと思います」

 

「あるよ。上に立つと、育てた子が自分を尊敬してくれたらすっごく嬉しいんだ。それに、その子に恥じない姿も見せないと、って気も引き締まるし」

 

「そうなんですか……?」

 

「そうだよ。きっとコハルちゃんも後輩を持つようになればわかると思う」

 

 コハルちゃんを撫でてあげると気持ちよさそうに目を細める。先生がやると「変態!死刑!えっちなのはダメ!」とものすごく嫌がられてたけど先生は一体なにをしたんだろう?

 

「そういえば、コハルちゃんはどうしてD.U.に?買い物とは聞いたけど」

 

「あ、はい。今度、補習授業部で海に行こうって話になってて」

 

「なるほど。水着を買いに来たんだ」

 

「そうです。けど、ハナコが変な水着勧めてくるから自分で欲しくて、一人で来ました」

 

「大丈夫だよ。きっとハナコちゃん最後にいいの選んでくれるって」

 

「わ、私は!最初から普通に選んでほしいんです!」

 

「あ、あはは。まぁ、そこは、しょうがないね」

 

 ハナコちゃん、平然とものすごい水着を勧めてきそうなのはわかるなぁ。先生に聞いた為人だと、頭は切れるし人の動かし方も心得ていて、一見緩そうな見た目に反して身のこなしもいいらしいんだけど、ふざける時はしっかりふざける子で特に下ネタが多いって言ってたかな。

 

 補習授業部の子たちは仲良くしてるし、コハルちゃんもこうは言ってるけど友達みたいだから、私も一度ちゃんと向き合ってみたいな。

 

 それにしても、水着って聞くともう遠くないうちに梅雨の時期だし、水着を準備するのはいいね。

 

「早めに準備するのは誰から聞いたの?」

 

「ハナコからです。なんでなんですか?」

 

「よく知ってるねハナコちゃんは。水着はシーズンだと争奪戦みたいになるから」

 

「え、そうなんですか!?」

 

「ほんとにね。ひどいと通報も入るよ」

 

「水着買うだけなのに!?」

 

「おかげでヴァルキューレの子たちは仕事で買うタイミング逃しちゃって、みんながっかりしてたなぁ」

 

 かくいう私もその一人で、欲しかった水着を自分の手で燃やす羽目になるとは思ってなかった。それぐらい夏前の水着売り場は戦場なんだよね。特にD.U.は最新の水着も多いから一番ひどい。今年も警備局に通報入るかな。それで抑えきれなくて生活安全局にも応援が入って。

 

「なんだか私も水着欲しくなってきた」

 

「なら、一緒に買いに行きましょうよ!先輩!」

 

「いいね。コハルちゃんもまだでしょ?一緒に選ぼっか」

 

「はい!」

 

 パトロールついでに、一緒にショッピングモールに行くことにした。そんな時だった。射撃場から出ると、車の走ってくる音が聞こえた。この地区だとあんまり走ってないからよく聞こえるな〜。それに、なんかものすごい聞き馴染みのある音。

 

「どうしましたか?」

 

「ううん、なんか車の音が聞こえて」

 

「聞こえます?」

 

「あ、ごめん。種族的に聞こえてるんだよね、ちょっと遠くの音」

 

 数十秒ほど待っていると、2〜3ブロックほど離れたところから車が私たちのいる道路へ曲がってきた。なるほど、どうりで聞き覚えがあるわけだ。

 

「すごい偶然だね」

 

「ヴァルキューレのパトカー…?ですよね」

 

「そう。それも私の使ってたやつだ」

 

 別に専用車があったわけじゃないけど、独断専行しまくりな私が勝手に使いすぎたせいで誰も乗らなくなってしまった車だったんだよね。セダンタイプのパトカーで、私の銃のようにちょっと古め。馬力はあるけどそれだけで燃費も悪い。足回りもお世辞にもいいとは言えなかった。

 

 てっきり私がヴァルキューレ出ちゃった時に廃車にされてそうなものだったけど、ナンバーもそのままだし、生活安全局の所属を示す番号も振られたまま。誰が乗ってるのか気になったのでそのパトカーに手を振ってみた。

 

「おーい!」

 

 本当はよくないけど、あわよくば最寄りの駅まで乗せてもらおうと思ってたりする。私のこと嫌いな生徒じゃなきゃいいけど。

 

 けど、そんな心配は杞憂だった。止まったパトカーに乗っていたのは私のよく知っている。私の憧れた子だったから。

 

 パトカーが止まり、運転席の生徒が手回し式のウィンドウを下げていく。“彼女”はとても驚いた顔を浮かべ、そして次には目尻にきっと無意識に、涙を浮かべていた。

 

「草鞋野、副局長?」

 

「久しぶりだね、キリノちゃん」

 

 中務キリノちゃん。私がヴァルキューレを抜ける前、最後に持った部下の一人で、お巡りさんらしいお巡りさん。綺麗な長い銀髪を一房の三つ編みにして、制服の着こなしはしっかり、優しそうな顔のまま、とってもいい子だ。

 

「え?マジで副局長?」

 

「フブキちゃんもいたんだね、久しぶり」

 

「マジで副局長じゃん」

 

 助手席から顔を覗かせているのは合歓垣フブキちゃん。キリノちゃんとは違って、正直…サボりがちな不良警官だけど、やるときはしっかりやるし、ドーナツが大好きでよくパトロール中に買ってあげてた。

 

 キリノちゃんは目尻の涙をごしごしと拭くと改めてこちらに向き直った。いつもの元気いっぱいな顔だ。

 

「どうされたんですか?こんなところで」

 

「友達の射撃訓練を見てたんだ」

 

「ご友人ですか?そちらの……トリニティの方ですよね?」

 

 視線が向けばコハルちゃんは私の後ろに隠れてしまった。そういえば、コハルちゃんは人見知りだった。補習授業部の子たちや先生への暴言、それに私をアイドルか何か?と思うような興奮度合いで忘れがちだけどね。正直なところ、小動物みたいでものすごい可愛いし、きゅんとする。

 

「あぅ……」

 

「あ、すいません。怖がらせてしまいましたか?本官はヴァルキューレ警察学校、生活安全局所属の中務キリノです!」

 

「し、しもぇこはる、です…」

 

「よろしくお願いします!失礼ですが、中等部の方でしょうか」

 

「いやどう見てもトリニティ高等部の正義実現委員会でしょこの制服」

 

「あ、そうですね。大変失礼しました!」

 

 キリノちゃんとフブキちゃんは相変わらずのようで、今はいいコンビなのかな?嬉しいな、二人とも成長してる。最初の頃は本当に水と油って感じで仲悪かったもんな〜。

 

「二人はどうしてここに?」

 

「本官たちはパトロール中です!」

 

 やっぱりパトロール中だったかぁ。乗せてもらえるかな?

 

「キリノ、副局長たち乗せて行ってあげれば?」

 

「え?しかし、勤務中ですよ?」

 

「別に大丈夫だって。そもそも、副局長は休学してるだけで退学したわけじゃないんだから」

 

「むぅ…まぁ、いいですかね」

 

 私が言い出そうかと悩んでいたらフブキちゃんが気を利かせてくれて乗せてくれることになった。しかし言ってないのによくわかったね。

 

「ごめんね。これからこの子と水着を買いに行こうと思ってたんだ。近くの駅まででいいからね」

 

「なるほど。それなら子ウサギタウン駅までですね。後ろに乗ってください!」

 

 ちょうどガードレールの切れ目だったので私たちはスムーズにパトカーの後部座席に乗り込んだ。コハルちゃんは恐縮しっぱなしなのか縮みこまっている。

 

「大丈夫だよコハルちゃん。二人とも私がよく知ってる子だから」

 

「そう、なんですか?」

 

「安全局時代の部下なんだ」

 

「そうそう。私たちコキ使われてたよ。副局長、あとでドーナッツ、奢ってくださいね」

 

「もしかして、それが目的?」

 

「もう乗ったから奢らないは無しですよ」

 

 フブキちゃん、ずいぶん厚かましく…いや前からだね。

 

 あぁなんだろう、懐かしいなぁ、この感じ。あのとき運転していたのは私だったけど、助手席にキリノちゃん、後部座席に寝そべるフブキちゃんを乗せて、雑談しながらパトロールしてたっけ。

 

「出します!」

 

「よろしく、キリノちゃん」

 

 低音気味の排気音が聞こえる。四人も乗ったせいかエンジンは唸り気味。私が乗っていた頃も余裕がなさそうで、たぶん二人が乗り続けたんだろうね。これに。

 

「それにしても、正義実現委員会の子と仲良くなるってどうしたんですか?」

 

「フブキ、ほら、副局長は今シャーレに所属していますから」

 

「あぁ、なんでも屋みたいなことしてるんだっけか。確かにそれなら色んな自治区にいってるからおかしくないか」

 

「なんでも屋って言うと若干語弊があるけど、うん、色んな自治区には行けるから勉強になるよ」

 

「まだ勉強するんですか?副局長」

 

「流石です!」

 

 そうそう、こうやって雑談しながら外を眺めて異常がないか確認する。

 

 コハルちゃんの方へ目を向ければコハルちゃんも私を見ていた。

 

「どうしたの?」

 

「いや、その、なんというか、私が思ってたヴァルキューレとイメージが違うっていうか」

 

 あ〜、まぁ、警察って言うぐらいだから厳しいのかなってことかな。もちろん私だって厳しくすることはあるけど、ずっとそんなわけじゃない。市民の安全を守る前に疲弊しちゃ元も子もないから。

 

「コハルちゃん。正義実現委員会はずっと気を張ってる?」

 

「そんなことは、ないです。たまに、お茶会をしたり……私はその!あんまり、縁がありませんでしたけど……」

 

「似たようなものだよ。私だって勤務中にお腹が空けばご飯食べるし、フブキちゃんが駄々をこねればドーナツを買ってあげたりしたし」

 

「いや、駄々はこねてないでしょ」

 

「こねてましたよ。私だって今日、ドーナツ屋さんに寄らされたじゃないですか」

 

「余計なこと言わんでいーの」

 

 コハルちゃんは私たちの話を聞いて、くすりとした。うっわ、すごい可愛いな今の。この子、本当にとんでもなく可愛い。みんなこれ気がついてるのかな?ハナコちゃんは気がついてるんだろうなぁ。

 

「しっかし、副局長。変わんないね〜。制服もほぼそのままだし」

 

「そうだね。シャーレ専用の制服って無かったから改造して作ったんだけど、これだとヴァルキューレのコスプレみたいに思われてたまに勘違いされちゃうから、そろそろ考えてるんだけどね、制服」

 

「私は見慣れた副局長の姿が見れて嬉しいですよ!」

 

「ありがと、キリノちゃん。ただ、本当に変えないとね」

 

 実際この前の調査で襲われたのはこの制服のせいもある。生活安全局からのものなので愛着あるけど、もう誤魔化しきれない時期に来てると思うんだよね。

 

「変えるとしたらどんなのにするんです?副局長」

 

「うーん、基本は連邦生徒会の部活だし、連邦生徒会の制服に似せるのかな?色を変えたりとかすればそれっぽいかも」

 

「何色とか、副局長の好きな色ってありましたっけ」

 

「特にこだわりはないけど……」

 

 フブキちゃんと会話しつつもしシャーレの制服があるなら、って思って色はとなると、私あんまりそのあたり拘りないからなぁ。窓の外をもう一度見ると大きな公園が見えてくる。ここは確か子ウサギ公園だったっけ?子ウサギって言う割にはでかいけど、このあたりが過疎気味なので全く人気がない。

 

「……ん?」

 

 なんだろう?何か違和感ある。公園のここから少し遠くに見えるところ……木の擁壁……?その先にも何かある。いや、あれ銃座だ。

 

「中務、止めろ」

 

「はっ!」

 

 車を止めさせる。なんだろう。何かがおかしい。ここの公園はあんなものなかったはず。

 

「え、なに?なんで止めたの副局長」

 

「……合歓垣、スコープであの……雑木林の先、見れるか?」

 

「ん〜〜〜見れないこともないと思うけど」

 

 フブキちゃんに銃座らしきものを銃のスコープで見させる。フブキちゃんはたぶん本人が動きたくないから、という理由でスナイパーだ。けど、決して狙撃手として低レベルなわけじゃない。

 

「あの、草鞋野先輩、わたしも……」

 

「コハルちゃんは大丈夫だよ。ちょっと気になっただけだから」

 

 手伝ってくれるのはありがたいけど、流石にシャーレの依頼でもないので手伝わせることはできない。休学中にヴァルキューレとして振る舞うのはアレだけど、二人がいるとどうしても身体が勝手に思い出してしまう。

 

「どうだ?」

 

「いやおかしいよ。なんでこんな公園にあんな陣地が」

 

「陣地だと?」

 

「間違いないよ。誰が作ったのかわからないけど簡易的な陣地だね。あの擁壁みたいなのたぶん浅い塹壕」

 

 こんな場所に陣地を作る理由がわからない。ただ、何者であっても不法占拠だ。見つけてしまった以上は見逃すわけにもいかないし、ここにはキリノちゃんとフブキちゃんがいる。二人がヴァルキューレの生徒である以上、放置はできない。

 

 キリノちゃんが車の無線を手に取った。

 

「こちら安全局パトカー2号、中務。指令台応答願います」

 

『こちらヴァルキューレ指令台。安2号、どうぞ』

 

「現在地、D.U.子ウサギタウン、南西。D.U.中心部より52kmです。どうぞ」

 

『了解。D.U.中より52km、子ウサギタウン南西。安2号、どうされたか』

 

「公園内に不法占拠物件を確認。ただの不法占拠ではなく何者かが築いた陣地と思われます。どうぞ」

 

『陣地。詳細な規模は』

 

 キリノちゃんの手にある無線をフブキちゃんがちょいちょい、と手招きし今度はフブキちゃんは無線に出る。

 

「あー、こちら安2号、合歓垣。横から失礼。規模は簡易。繰り返す、簡易」

 

『簡易。了解。人影はあるか』

 

「確認できず。指示を請う」

 

 誰もいなければ生活安全局で現地調査して撤去札を貼るだけの話になるけど、どうにもあの陣地新しそうだし、無人ということはないと思う。指令台を通して安全局とかに繋がってると思うけど、今の安全局って動きが悪い…それは元からか。

 

『安2号、こちら指令台』

 

「はい、安2号、中務です」

 

『対応は通常通りされたし』

 

「撤去札ですか?どうぞ」

 

『そうです。どうぞ』

 

「了解しました。生徒、市民が確認された場合は条例に従い勧告します。以上、通信終わり」

 

 結局、特別な対応はなし、か。簡易的な陣地に不法占拠の撤去札?流石にその判断はどうかと思う。

 

「副局長、指導になりました」

 

「ぬるい」

 

「いやぁ、けどこれ以上あります?」

 

「フブキちゃん…!副局長にそんなこと言ったら」

 

「……ただ、それしかない、か」

 

「飛びだしちゃう……え?」

 

 指令台からの指示はぬるいけど、実際こうするしかない。誰かが暴れてるわけじゃない。物があるだけ。それに誰かがいても規定通りに指導するだけなんだよね。

 

「誰が飛び出すと?中務、合歓垣」

 

「「誰も飛び出しません!」」

 

「よし。……じゃ、二人ともよろしくね」

 

 私がそう言うと二人はポカンとした。いやいや、君たち忘れてるの?

 

「私、今はヴァルキューレじゃないから指導できないよ?」

 

「えっ!?けどいつも通りだったじゃん!」

 

「いやぁ、つい」

 

 ごめんね、と笑って返すとフブキちゃんが大きくため息を吐いて、キリノちゃんは苦笑いした。ただ、何かあったらシャーレとして、二人からの支援要請という形で手助けはできると思うから大丈夫かな。

 

「ははは……ちょっと心配ですが、ひとまず仕事をしましょう。もう少し公園の入り口のほうに近づきますね」

 

 キリノちゃんが車をまだ走らそうとする。その瞬間だった。

 

「あれ……なにか光って………っ!先輩伏せて!」

 

 私の隣に座っていたコハルちゃんが私を思いっきり引き寄せて窓からの死角に入れたあと、ゴッ、と鈍い音が鳴った。

 

「っぅ……コハルちゃん…?」

 

 まるでスローモーションのようだった。コハルちゃんは力を無くして、がくっとドアの内側に横たわる。すぅ、っとヘイローが消え、気を失ったのがわかった。

 

「キリノ!狙撃!出して!」

 

「わかりましっ、!?」

 

 車がアクセルを吹かした瞬間、パンっ!と破裂音が聞こえて直後に大きなスキール音と共に車がスリップする。咄嗟に私はコハルちゃんを抱き抱え、車内に叩きつけられるのを防ぐ。

 

「うわっ、わっ!」

 

 キリノちゃんが上手く車をコントロールしたのか、その場でスリップしただけで済んだようだ。

 

「副局長!ご無事で!?」

 

 私はいいけどコハルちゃんがまずい。たぶん私をかばって撃たれた。しかも額にクリーンヒットだ。コハルちゃんをなんとかシートに横たえて状態を確認する。大きな外傷は……なし。けど、額には青たんができるかも。

 

「私はいい!中務!緊急連絡!」

 

「は、はい!指令台!応答を――」

 

 頭を一発撃たれたぐらいじゃ強いデコピンを受けたようなものだけど、あたりどころがよくなかったのかも。後遺症は残らないと思うけど、見てもらわないと。シャーレまでいけば鷲見さんが(呼べば)いるはずだ。

 

「どうします副局長」

 

「迂闊に出るな。出た瞬間を狙われる可能性がある」

 

「了解」

 

 まさか攻撃されるとは思ってなかった。理由もなくいきなり攻撃されるとは思えない。ならなんで?

 

『安2号、どこの方角からの攻撃かわかるか』

 

「方角?えっと、車が回転しちゃったから……もとはあそこにいて」

 

 まさか…!まずい!

 

「中務!伏せろ!」

 

「っ!」

 

 間に合った。咄嗟に伏せたキリノちゃんめがけて弾丸は飛んできて…なんと手の中の通信機だけを見事に破壊した。

 

『安2号!?応答せよ、安に』

 

 そして、指令台からも通信が途切れる。車についてたアンテナもやられた。無線傍受されてたんだ。

 

「うっそぉ。どういう腕?」

 

「つ、通信不能、です」

 

 もし今の通信機の破壊が狙ったものなら、相手の実力はとんでもない。それこそ、私の知る限りここまでの狙撃ができるのはSRTの生徒ぐらいなもので、そんなレベルの相手が向こうにはいる。

 

「うぅ…あ、わたし、どうして」

 

「コハルちゃん、大丈夫?」

 

「せん、ぱい?…ぅあ、あたま、いたぁ」

 

「どう痛い?私のことわかる?」

 

「でこぴん、されたみたいで、あと、先輩は先輩、です」

 

 よかった。コハルちゃんが意識を取り戻した。今の状態では問題なさそうだった。けれど、とにかく今は安静にしてもらって、と。

 

 安全局とはいえヴァルキューレに対して発砲したとなれば警備局が出てくる。けど、それを待っていられない。

 

「二人とも、ここで待機。コハルちゃんをお願い」

 

「副局長はどうされるんですか?」

 

「あの陣地に行ってお話してくる」

 

「えぇ!?危険ですよ!」

 

「たぶんこのまま待ってればここに制圧に来るよ。その前に手を打たないと」

 

 私は銃を取り出して、車のドアコックに手を当てる。

 

「コハルちゃん、ちょっと待っててね」

 

「……気をつけてください」

 

「もちろん。無事に君を帰らせないと、ハナコちゃんに怒られちゃうからね」

 

 本当にこれはそうでハナコちゃんがもし私のせいでコハルちゃんが傷ついたと知れば非常に不味いし、そもそもトリニティの子がD.U.で襲われたなんてなれば、ついこの前テロがあって尚、エデン条約を進めているトリニティが生徒会に抗議しかねない。

 

「よし。行こう…」

 

 先生に電話をしたいところだけど、通常の電話回線まで傍受されてるとなるとまた狙撃される。だから行くしかない。私はドアを開けて一気に飛び出した。

 

 




コハルが撃たれちゃいましたが、実は庇おうとしなければ銃弾は窓から窓を貫通するだけで済みました。
ヴァルキューレとしてのエリカの口調は使い分けているので、仕事中も砕けた話し方する時もあれば固い口調のときもある設定です。
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