頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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お待たせしました。今回は今日と明日投稿します。


Area-10「山海経ビジネスホテル #副局長 #モーニングコール #七囚人」

 竜華門主に襲撃された翌日。私たちは特に何かをされることもなくホテルで目を覚ました。桜井さんの推測どおり、本当に単独で彼女は動いていたようだ。

 

「まさかここで副局長にお会いできるとは思ってもみませんでした!」

 

「私もね、キリノちゃん」

 

 昨日の夜にあんなこともあったので午前中は休憩しようとミカさん、桜井さんと決めて、私はその間にコノカちゃんたちがいる近くのホテルにやってきていた。こっちはビジネスホテルって感じだ。

 

 せっかくなのでコノカちゃんが連れてきたキリノちゃんたちに挨拶をしようと来れば、護送車の運行前点検をしているキリノちゃんがいたので、挨拶をして今に至る。

 

「それにしても、コノカちゃん……志真副局長と二人って知り合いだったっけ?」

 

「はい。私というよりはフブキがなんですけど、休憩スペースでたまーにお会いして限定スイーツとかのお話をしていたそうです」

 

 なるほどね。コノカちゃん家系?って言うのかな、そういうラーメンとかすごいの好きなんだけど、お菓子とかも嫌いじゃない。そこから仲良くなったのかな。

 

「それに、あのクーデター騒ぎの時に副局長と公安局長をお迎えに上がったのは志真副局長の指示でしたからね」

 

「そうだったんだ……それで今回も声がかかったと」

 

「はい。姉貴の後輩なんだからいいだろ〜、とのことでした」

 

 その頼み方はどうなんだと思ったけど、公安局副局長からこうも頼られるのは元上司として鼻が高いなぁ。本来は局を跨いでというのはあまりないけど、私とコノカちゃんが互いに副局長時代は縦割り緩めにして動きやすくしてたからね。

 

「それでコノカちゃんはどこに?」

 

「例の誘拐犯の引き渡し交渉に向かわれています」

 

「もう行ったんだね。フブキちゃんは……聞くまでもないか」

 

「まだ寝てますね……」

 

「ふむ……どれ、モーニングコールでもしてやろう」

 

 正規の指示ではないのもあって、あくまで犯人の引き渡し後に働いてもらおうと連れてきたからコノカちゃんは見逃してるのかな。とはいえ流石にフブキちゃん、それは見逃せないな。

 

「中務、携帯を貸してくれ」

 

「はっ!どうぞ!」

 

 キリノちゃんに副局長時代のように声をかけ、携帯を借りる。彼女らしい飾り気のない綺麗な白い携帯だった。渡される際にすでにフブキちゃんにかかっている。

 

 十数コールぐらいして、ようやくフブキちゃんは応答した。

 

『………んふぁぁ……何、キリノ。コノカ副局長も寝てていいって』

 

「おはよう、合歓垣」

 

『……んぇ、副局長!?な、なんで!?』

 

 面白いぐらいに彼女は狼狽えていた。いや、そんな反応しなくても。

 

「ごめん驚かしちゃって。おはよう、フブキちゃん」

 

『………っはぁ〜、ビビった。やめてよ…副局長』

 

「まさかそこまで驚くとは私も思わなかったよ」

 

『いやビビるって。寝坊したのかと思ったよ』

 

「そういえば前あったね、一回」

 

『トラウマ植え付けた本人が忘れてるなんてさぁ…』

 

「そんなに!?」

 

『そりゃそうでしょ』

 

 確かに絞りはしたけどそこまで……?そういえば、あれ以降フブキちゃんは寝坊とかしてなかった気がする。

 

『で、どうしたんです』

 

「午前中は私たち休憩してるから、挨拶に来たんだ」

 

『いやいや、休憩って言ったんなら休んでくださいよ。相変わらずだなぁ…』

 

「休んでるよ?」

 

『……いやぁ、休むなら部屋でゆっくりでしょ。わざわざ後輩の顔を見に来ても…』

 

「二人に会えるかなって」

 

『………………はぁ。降りるんで待っててください』

 

 電話そこで切れた。キリノちゃんに返す。

 

「降りてくるって」

 

「流石のフブキも副局長相手では出てきてくれますね」

 

「うーん、なんか悪いことしたかも」

 

「大丈夫ですよ」

 

 それから数分後、フブキちゃんは出てきた。明らかに寝起きって感じで眠そうだ。

 

「おはよ」

 

「おはよう、フブキちゃん」

 

「副局長も相変わらず元気そうで。んでキリノは点検?」

 

「もちろん!フブキも中の備品、確認してくださいね!」

 

「いやいや使ってんないんだから点検も何もないでしょ」

 

「規則ですから!」

 

「はぁ……まぁやることないからやるけどさ……」

 

 うんうん。なんだか二人を見てると元気が湧いてくる。私の自慢の後輩だからね。

 

 二人が車両の点検に取り掛かるところを見つつ、コノカちゃんは大丈夫だろうか、と今いるホテルの駐車場入り口へと目を向けたらちょうど人影が見えた。コノカちゃんだ。

 

「二人とも、コノカちゃん戻ってきたよ」

 

 キリノちゃんたちに声をかけると、手を止めて二人ともこっちにくる。

 

「早すぎませんか?」

 

「だね」

 

 どうやら戻ってくるには早すぎるらしい。心なし疲れているようにも見える。あの様子だとうまくいかず、戻ってきたというところかな。

 

「コノカちゃーん!」

 

 私が呼べば、彼女はこちらに気がついたのか急にしゃんとして駆け寄ってきた。

 

「姉貴〜!」

 

「お疲れ様!」

 

「お疲れ様っす!どうしたんすか?昨日の今日で」

 

「様子を見にきただけだよ」

 

「流石っすね。……中務と合歓垣は点検かァ?姉貴の後輩らしくて結構!」

 

「ありがとうございます!」

 

 キリノちゃんとコノカちゃん、案外熱血なところは合ってるんじゃないかなぁ、って思ったり。フブキちゃんは苦笑いだ。

 

「それでコノカちゃん。交渉に向かったって聞いたけどその様子だと」

 

「そうだ!そうなんすよ姉貴!聞いてくださいよあのカタブツどもの話」

 

「堅物……?」

 

 そこからコノカちゃんの話を聞いたが、犯人引き渡しの交渉のために玄龍門の詰めている六和閣に行ったら門前払いも同然だったらしい。ちゃんとコノカちゃんはヴァルキューレとしての正式な文書も携えて提示もしたけど、そもそも受け取ってくれなかったみたいだ。

 

「──って感じで。連中ありゃ本当に生徒会っすか?スジモンの間違いじゃないっすか?しまいにはわらわら出てきやがって騒ぐなら連行すっぞって」

 

「噂には聞いてたけどまさかそんな…」

 

「こっちがヴァルキューレだ、つってんのに話すら聞いてくれねぇ。こりゃ骨が折れるっすよ」

 

「………山海経も竜華会長以外は話に聞く通りの厳しさみたいだね。無事にコノカちゃんが帰ってきてくれてよかったよ」

 

 大きなトラブルにならなかっただけよかった。そのあたりはコノカちゃんも副局長なので弁えている。ぶっ飛ばせばおしまい、という時もあるけど、ちゃんと役職者らしいところも身につけてくれている。

 

「コノカ副局長、それならどうするのこれから」

 

「どーするもこーするもなぁ。ありゃそれこそ先生の力借りねぇと無理だぞ」

 

 私が貸したいところだが、昨日のことはこっそりコノカちゃんには伝えてある。できることなら助けてあげたいところだけど。うーん……って先生は今日くるんだ。

 

「コノカちゃん。先生ならそういえば別件で山海経の玄龍門にくるよ」

 

「まじっすか!?」

 

「相談してもいいかも。先生なら竜華会長と話せるだろうし」

 

「いやぁ〜!やっぱ姉貴最高、女神!助かったっす!」

 

 イェイイェイとコノカちゃんは小躍りしていた。相変わらずだなぁ。流石に先生の力を借りれば問題ないだろう。

 

「とはいえまぁ、本番は引き渡し受けてからっすけどねぇ」

 

「だろうね」

 

「どういうことですか?」

 

「中務ァ、姉貴が捕まえたやつ闇バイトの人員を攫って集めてるヤツだったんだ。本丸がここのどっかにあるぞ」

 

「あっ」

 

 そうなのだ。問題はあのハイウェイで捕まえた人が攫われた子をどこに連れていこうとしていたのかだ。

 

「ハイウェイで止めちゃったからどこに向かおうとしていたのかわからないんだよね」

 

「そうなんすよ姉貴。山海経に潜伏ってのが厄介っすよ。あの調子じゃ連れてったやつに吐かせてもウチが踏み込めるかどうか」

 

「コノカ副局長。流石に犯罪組織がいたら匿うことはないのでは?」

 

「だといいがな」

 

 竜華会長の耳にも入れば流石にそんなことはないと思いたい。

 

「にしても闇バイトね。生活安全局にも相談くるけどまぁなんで申し込むんだか」

 

「合歓垣、金がどうしても欲しいって時の判断力は鈍るどころじゃねぇからなぁ」

 

「コノカ副局長も経験あるの?」

 

「どうだろうなぁ」

 

 ひっひっひっ、と笑うコノカちゃんにフブキちゃんはなんともいえない顔になっていた。コノカちゃんのヴァルキューレに入るまでのことは私も知っているけど……うん。今の立派な警察官となった彼女にはもう遠い話だ。

 

「まぁ冗談は置いといて……攫われた方の生徒はミレニアム支所から情報もらったすよ姉貴。薬学系の研究を触ってるやつでした」

 

「………嫌な予感がするな」

 

 偶然というにはあまりにもな話だ。まさかとは思うが、山海経内に黄金の一滴を研究している場所でもあるのか?

 

「やめてよ。副局長の嫌な予感がするって時、絶対ヤバいヤマじゃん」

 

「でもフブキ、そういう時こそ本当にマズくなる前に防げるじゃないですか!」

 

「いやそうだけど……」

 

 山海経とレッドウィンターの交流会は明日から。その裏で何が起きているのか。

 

「まぁ身構えときゃなんとかなるだろ。うし、お前ら点検頼むぞ」

 

「はい!」

 

「はぁい」

 

 とりあえず一旦話は終わりということなのかコノカちゃんは二人に護送車の点検の続きを命じた。

 

「姉貴はちょっちこっちに」

 

 どうやら私とだけ話したいらしい。彼女はホテルの中に戻るようなので、私もついていく。ビジネスホテルだと思ったのは間違いなかったみたいで、私たちが止まっているホテルよりも内装は実用的というか華美な装飾はなかった。

 

「すんませんね、姉貴」

 

「構わない。話があるんだな?」

 

「っス………やっぱ気が引き締まりますよ、その声」

 

 コノカちゃんの部屋に通され、扉を閉めたところで私は目の前の公安局副局長と向かい合う。どこか緩んだコノカちゃんの姿勢から隙というものが消えている。

 

「姉貴。正直言いますけど、ちょっとこのヤマ、ヤバいかもしれません」

 

「お前も黄金の一滴関連だと思うか」

 

「えぇ。あの二人を連れてこなきゃよかったすよ」

 

「……局長に相談は」

 

「姉御にも伝えるっすけど、応援は無理っすね。ご存じのとおり、あの分校の件はわりと未曾有の汚職事件っすよ。そこに……気を悪くしたら申し訳ないっすけど、過去の汚職事件に関わるアレに構うなんて体力は今のヴァルキューレにはないっすね」

 

 だろうね。

 

「私はいい。ただヴァルキューレの現状はそこまで悪いのか」

 

「そもそも直轄の防衛室が吹っ飛んでるんすよ?おかげで責任は全部ウチに来るわ、一部の連中の間じゃ不知火防衛室長が悪いなんて騒ぐ始末で。まぁ、幸か不幸か、赤い空だの何だので今のところはマスコミにもまだ伝わってないんで内部のゴタゴタで済んでますが」

 

「椅子を磨いている暇があるのなら矯正局長の爪の垢でも煎じて飲めと言いたいな」

 

「ごもっともで。矯正局長といえば、例の分校の連中の引き受けでてんやわんやみたいっす」

 

「……落ち着いたら差し入れの一つはやったほうがいいな」

 

「そうっすね。姉貴のケーキとか喜ぶと思いますよ」

 

 あのカイザーに乗っ取られた分校の件はやはり相当尾を引きそうだ。むしろ、コノカちゃんたちだけでもよく動かせたというか、もしかしたらカンナちゃんが何かしたのかもしれない。あの子のことだ。内部のゴタゴタなんて関わりたくもないだろうに。

 

「それで姉貴の方は黄金の一滴の原材料を探してるって人物っすか」

 

「正体は今のところわからない。山海経の医療関係者を名乗っていたようだが」

 

「山海経でそのテの有名なやつと言えば、申谷カイじゃないっすか?」

 

「奴か?」

 

 申谷カイ。矯正局から脱獄した七囚人の一人。それこそ、内部での処理こだわる山海経でさえも追放した危険な人物。罪状は詐欺、教唆、そして──薬物による多数の健康被害。

 

 当然、取り調べでもろくに話は聞けなかったという。

 

 薬学に関する見識は確かなもので、山海経だけでなく他の自治区のことも精通していたらしい。黄金の一滴に関する知識が全くなかったとは言い切れない。

 

「まさかな。だとすればどうしてワイルドハントにいたか」

 

「それもそうっすね。あそこはこことは別方向に厳しいっすから。当然、公開手配されてる七囚人の手配書なんかも貼ってるでしょうし。ただ奴の口先は結構なモンらしいっすよ」

 

 桜井さんを誘導しようとしたという相手。シャーレを公然と動かしてというところもまさかとは思うが……いや、決めつけるには早いな。情報がとにかく足りない。

 

「まだ決められんな。ただ、候補の一つ、最悪のパターンとしては想定しておくか」

 

「そうっすね。ガチで絡んでたら上も動くしかないと思うっす」

 

「あぁ」

 

 七囚人とくれば当然ながらヴァルキューレは動くしかない。申谷カイは特に人の生命にも直結する問題を起こしている。危険度といえば七囚人の中では最高に近いだろう。

 

「一応、先生には相談してみるっすけど、それはそれとしてちょっと山海経も歩こうかと思ってるんすよ」

 

「闇バイトのアジトか」

 

「どこにあるんだか。といっても、薬学系の生徒攫ってとなるとそれ関係の部活とか絡んでるんすかねぇ。申谷カイの古巣とか?」

 

 申谷カイの古巣といえば錬丹術研究会。今は秘匿されてる当時の捜査資料にも載っていた。しかも当時の部長……会長、だったかな?薬品を取り扱っているし、実際山海経内では薬品の生産や販売も一部で行っていたはず。

 

 薬品という一歩間違えれば大規模な被害が発生する可能性があったからこその矯正局行き。今の当該の部活が手を貸しているなんてことは……。

 

「ありえないとは言えんな。とはいえ、今の竜華門主の管理下でそのようなことも考えづらいが」

 

「姉貴、性善説に寄りすぎっすよ。シャーレならそれでいいかもっすけど」

 

「そうだな。すまない」

 

 疑ってそうでなければいい。それだけの話だ。

 

「にしても、その門主が姉貴を襲うとはやっぱ連中はカタギとは言えねぇ。なんか腹立ってきたな」

 

 パシッ、と掌に拳を突き立てるコノカちゃんに、そう言ってくれるのは嬉しいけど竜華会長も事情があったのだろうしそこまでヘイトを向けないであげてほしい。

 

「ふぅ。まぁまぁ、コノカちゃん。竜華門主も本意ではなかったから」

 

「だから姉貴は優しすぎですって」

 

「うーん、優しくしてるわけではないんだけどなぁ」

 

「出た姉貴の口癖。久々に聞いた」

 

 そんな口癖と言うほど……あぁ、ヴァルキューレの時にお菓子とか作ってみんなに上げていた時に言ってたかもしれない。作りたいから作ってたし、一人じゃ食べきれないからついでに楽しんでくれればぐらいだったんだけどね。

 

「まぁ、ともかく、姉貴。ウチらは犯人引き取るまでは滞在して捜査するんで。とはいえ、あの二人は制服なんで目立ちすぎますし、あたしが動きますけど」

 

 コノカちゃん、ちゃんとビシッと制服を着てくれるのは式典や何かあったときぐらいで、基本はアロハシャツを上にスカートは制服のをものすごく短くしている。そのため公安局のジャケット脱ぐともうどこにでもいるギャルである。

 

 山海経みたいにヴァルキューレがほぼいないのならジャケットを脱ぐだけで観光に来たどこかの学園生の出来上がりだ。

 

 とはいえ、一人で大丈夫だろうか?

 

「バディ無しはちょっとどうかな」

 

「つっても姉貴とデートしちゃだめっしょ。あたしは嬉しいっすけど」

 

「まぁ私は支援要請中だからね。かといってミカさん貸すのもね」

 

「聖園さんっすか?あー……流石にお偉いさんとは息が詰まるんで」

 

「可愛いよ?」

 

「姉貴ほんとサラッと言いますねそういうの」

 

「いや事実……」

 

「あたしは面食いじゃないんで〜」

 

「まるで私が面食いみたいじゃん!」

 

「いやぁ、姉御も綺麗系ですし?姉貴の周りみんな可愛い子ばかりじゃないっすか」

 

「それ言ったらコノカちゃんもだけど」

 

「おっとそういうのはナシっすよ」

 

 冗談を言い合いつつも実際のところコノカちゃん一人にするのもなので、誰かコノカちゃんをフォローできてかつこういった捜査に慣れてる子はここにいないだろうか──いや、いる!というか来る!

 

 私は携帯を取り出して即先生にコールした。

 

『ん?エリちゃんどした?』

 

「お疲れ様です!先生!ちょっと相談が!」

 

『おっ。いいよいいよ。エリちゃんからの相談は貴重だ』

 

「………貴重ですか?」

 

『だってエリちゃん事後報告多いからさ』

 

 微妙に釘を刺されてウッとなったが事実だしこれまで何度も何度も先生に言われてるのでもう本当に申し訳ありません。

 

「そのあたりはその、頑張るので……」

 

『そうだね。先生はエリちゃんに頼られると嬉しいからさ。私もエリちゃんのこと褒めて撫でたいし』

 

「あはは……そうされるようにしたいです。それでその、相談の内容なんですが──」

 

 私は先生に、コノカちゃんが私の捕まえた誘拐犯が向かおうとしていたアジト、闇バイトの現場を探すのに相棒となれそうな子を貸して欲しいことを伝えた。その子とはおそらく、今先生の隣で車を運転しているニコちゃんのことである。

 

『なるほどね。わかった。そっちには午後にはつきそうだからさ、着いたら話すよ』

 

「了解です。お待ちしています」

 

 よし。これなら大丈夫かな。コノカちゃんは静かに私の電話が終わるのを待っていた。

 

「コノカちゃん。一人シャーレから付けられるよ」

 

「誰っすか?というか先生の護衛じゃないんですか?」

 

「いや、先生の移動のためにドライバーをしてくれてた子だよ。SRTの吉野ニコ、って言うんだけど」

 

「吉野っすか?え、こっちに来るんすか」

 

「知り合いだったの?」

 

「いや、昨日シャーレに行った時にいたんすよ。茶を淹れてくれました」

 

 それはまた昨日の今日で。コノカちゃんがシャーレを尋ねたのは今山海経に来ている件を話したかったのかな。それで私たちがいなかったけど、ニコちゃんことなのでわざわざ来てくれたからとおもてなしをしたんだろうな。

 

「ニコちゃんなら潜入捜査は得意だよ。FOX小隊の制服は一番街中に溶け込みやすいからね」

 

「一番のノーマルなセーラータイプっすもんね狐のは。腕章なければ百鬼夜行のどこにでもいそうな子……にしちゃえらい可愛い顔してますけど」

 

「あはは……そうだね。ニコちゃん結構そのあたり目立っちゃうんだよね」

 

 ニコちゃんが可愛いのは結構満場一致の話で、今バイトしている定食屋さんの割烹着姿はSNSに上げられて軽くバズっていたらしい。それでもあまり店舗に人が来ないのがD.U.外郭地区の過疎具合を示してるけど。

 

 それでもあの子の器量の良さはコノカちゃんの助けになるはずだ。

 

「けどいいんすか?」

 

「何が?」

 

「いや、ちょっと、あんまり姉貴にこういう話をしたくはないんすけど………SRT生徒会長として微妙な立場なのは知ってるっすよね」

 

 ちょっとだけコノカちゃんが目つきを副局長らしい厳しいものにしている。微妙な立場、というのは言うまでもなく防衛室長誘拐や先生誘拐、それに伴う警備局生徒への傷害、果てはクーデターへの協力などの事件を起こした元SRTのDINGO小隊のことだ。

 

 あの小隊の起こした事件はまさに、SRT解体の理由の一つである連邦生徒会長の失踪により制御権が浮いたSRT──“暴力装置”が暴走すればどうなるかという答えの一つだ。

 

 RABBITとFOXはほぼシャーレの管理下に置かれ、他の小隊はヴァルキューレに編入された。だから、今更SRTの責任に………となるのはおかしいように思えるが、現実として校舎が閉鎖され事実上は廃校したはずのSRT特殊学園は私という生徒会長を仮にでも置いて、キヴォトスからの消滅を免れている。

 

 そう、免れてしまったのだ。存在がある以上、今のSRTにヴァルキューレが向けられるものは厳しい。

 

「警備局からの目はやっぱり」

 

「姉貴を知ってる連中はともかく、元SRTのやつとか、キュドモス事件を真に受けてる奴らはまぁ、御冠っす。討伐隊をなんで組まない。責任も取らないのかって」

 

「ごもっともだね。けど……あの子たちはおそらくはカイザーが囲ってるだろうに」

 

「そうっす。今回の件の奴らの動き見てれば、それがわからんほど馬鹿じゃねぇでしょうに。あのタコの厄介さを知らない入りたての奴らには困ったもんっすよ」

 

「早かったね。即実行部隊切り捨てからの謝罪会見。次にD.U.の復興に参加。カイザーのプレジデントが被害にあったD.U.の企業、連邦生徒会に謝罪行脚。不気味なぐらいにしっかりしてるよ」

 

 色彩の襲来直前に起きたクーデターに関してカイザーの動きはもはや最初から失敗したらこうすると言わんばかりの対応の素早さだった。だからといって断れるほどの体力が今のD.U.にはない。

 

「捕まえたカイザーの連中もダンマリ。特に指揮官やらされてたあの偉そうなのは完全黙秘。ありゃ覚悟決めてますわ。たぶんなんも引き出せんでしょう」

 

 あの人か。夏の時もそうだったけど、カイザーそのものに忠誠を誓っていたんだろう。あぁいう人は……もうこちらがどれだけ更生だなどと言っても届かない。せめて公正な場で、裁きを受けてもらうしかできることはない。

 

 カイザーのことは置いておくとして、SRT生徒会長代理として今は静観すべきだとはわかっている。それでも、万が一あの薬が関わっているのであれば、それはキヴォトスそのものの危機に直結するのだから、SRTは動かなくてはならない。

 

「話を戻すけれど、本当に黄金の一滴に絡んだ何かをしようとしてるのならSRTは動くよ」

 

「そうっすよね。そりゃ当然。まぁ、あんな脅すようなこと言いましたけど、そもそも山海経なんてヴァルキューレが介入できないんすよ。あたしは今回のここでのヤマは……シャーレにやってもらうしかないと考えてるっす」

 

「やっぱりダメ元?」

 

「そらそうっすよ。まー冷静に考えりゃ、山海経にこうして入れただけでも儲けもん。上もこうなることがわかってて人数割けないって話だったんでしょうね。そこで姉貴たちシャーレっすよ」

 

「SRTじゃなくて?」

 

「そ。どうせ姉御もこの話が来た時点であたしが姉貴に頼るって読んでたんでしょうね」

 

 カンナちゃんのことだ。そうだろうね。

 

「シャーレの生徒としてなら介入できるからってことだよね」

 

「ですです。それに、シャーレなら“後始末”じゃなくて“予防”ができる。これはあたしらも、SRTもできないことっすから」

 

 やっていることはそれこそ、桜井さんに薬を探すように仕向けた人と同じだ。それでも、その目的はまるで違う。

 

「ニコちゃんは先生からの“生徒募集”で指示を受けてるからシャーレの生徒としてここにくる。そして、コノカちゃんは先生に支援要請をして、ニコちゃんは先生の指示でその支援要請に協力する」

 

「ま、どうよく言っても三店方式っすね。でもそれなら吉野もただのシャーレの生徒してここいらを歩けるってことっす。後からガタガタ言われても、モノがありゃみんな黙るし、先生のケツモチもある」

 

「そうだね。……だからこそ、この信用と信頼を裏切らないようにしないと」

 

「まーあるでしょ。人が動きゃその先に何があるって話っす」

 

 もはや濁りもない黒がここにはある。目の前の公安局副局長がそれを見逃すことはない。本当に手放してはいけないものは絶対に手放さない。コノカちゃんはそれをわかっている。

 

「……志真公安副局長、頼んだぞ」

 

「……了解。草鞋野生活安全副局長」

 

 ビシッと敬礼するコノカちゃんを見たのはいつぶりだろうか。カンナちゃんも私も、あなたがこんな立派な警察官となってくれたことは誇らしく、そして頼りにしている。

 

 私も姿勢を正し、返礼した。

 

 




お読みいただきありがとうございました。次回はまた明日です。

公式にSRTが残ってしまったので元生徒のクーデター関与で実は結構立場がヤバめになってる主人公&2小隊。大変ですねぇ。
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