頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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連続投稿は一旦ここで止まります。


Area-02「子ウサギ公園 #簡易陣地 #トラップ #漢解除」

 私は頭が真っ白になっていた。慌てて通信をする。

 

「RABBIT2、何故撃たせたのですか!?」

 

『いや、威嚇だぞ』

 

『ご、ごめんサキちゃん……ヴァルキューレじゃない人に当てちゃった』

 

『はぁ!?何をやってるんだ!ミユ!』

 

『うぇ、だ、だってまさか反応されて、庇われちゃうなんて、思ってなくてぇ』

 

 隊の統制を取れていないのが仇となった。サキが指揮権を越えてミユに威嚇射撃を指示し、まさか反応されるとは思わない距離で狙撃が露見し、そのせいで当たるはずのない弾がパトカーに乗っている子に当たってしまった。しかも、ミユが言うにはヴァルキューレではない生徒に。

 

 どうして乗っていたかはわからない。けど、誤射の事実は消えない。そこから更に、モエが傍受した無線から応援が呼ばれるとサキがミユに撃たせてしまい、パトカーを沈黙させた。

 

「RABBIT2、小隊長は私です。勝手な指示はやめてください」

 

『うるさい、指図するな』

 

『そうそう。ここはSRTじゃないんだしさぁ』

 

 隊員が言うことを聞かない。これほど怖いことはない。私たちは決して、ここでゲリラ戦をやろうというわけじゃない。

 

『ら、RABBIT1へ、パトカーから一人出てきたよ!』

 

『迎撃しろ!』

 

「発砲は禁止!繰り返します!発砲は禁止!」

 

『え、えっ』

 

 なんとかミユを止めさせる。ミユはさっきみたいな不測の事態を除けば、もう放たれた弾丸は進路を変えない。当たってしまう。つまり、結果は変えられなくなってしまう。これ以上の攻撃は避けたい。

 

「私たちの目的はデモなんですよ。ヴァルキューレと戦う必要はありません」

 

『しかし、傍受した無線では撤去すると』

 

「規定に則れば勧告でまずは終わります。話せば少なくとも今日は凌げました」

 

『チッ……』

 

 私は双眼鏡で浅いながらも作った塹壕からパトカーの外に出た相手を確認する。出てきたのは獣耳のある生徒で、制服は生活安全局のもの。あのパトカーは生活安全局のものだったようだ。

 

『生活安全局の、人みたい』

 

『だろうねぇ、通信で安全局パトカー2号って言ってたし』

 

『なんだ。生活安全局か』

 

 侮ったような隊員たちの言葉に胸を痛くする。生活安全局は確かに戦闘力という面で見れば心もとないけど、そもそも、市民や生徒のために現場で一番働いているのが彼女たちだ。非常時ではなく、日常で一番よく見るお巡りさん。…SRTを知らなければ私が入りたかった局。

 

 発見されたのもきっと彼女たちの普段からの見回りで養われた観察眼があってこそだと思う。こっちは無線を傍受して気がついたのだから。

 

 相手の特徴をよく観察する。青い髪に、装備は一般的な安全局のもの。ただ、右手に持つリボルバーが見たことがないものだ。フレームが白いからヴァルキューレの装備なのは間違いないけど。

 

「獣耳に青い髪、生活安全局の制服を着た生徒1。公園内に侵入」

 

『無警戒すぎるな。トラップがそこら中にしかけられてるんだぞ?』

 

『踏めば楽しい空の旅になるねぇ』

 

 陣地にするにあたり、当然トラップはしかけた。SRTの教範に則りサキが。

 

 それにしても、何故かこちらに向かってくる生徒に私は見覚えがある気がする。

 

「え?止まった?」

 

 相手はそのトラップを見越してか、ある位置で止まった。そうして、青髪の生徒は装備していた拳銃を狙いをつけずに地面へ撃った。直後、大きな連鎖爆発が起きる。トラップを見破られてた!?

 

『なんだ!?』

 

「トラップを解除されました!」

 

『嘘でしょ!?生活安全局なんでしょ、相手』

 

『生活安全局ごときがなんで……!?』

 

 更に青髪の生徒は地雷原の先に用意していた捕獲用の罠も見破った。適当な重さの岩を見繕うとそれを罠の踏み板に投げつけ、強引に解除する。

 

 ずんずんと進んでくる相手に、私はどうすればと考えてしまう。

 

『このままだと突破されるぞ!おい!』

 

『まぁそれはそれで…単独の相手に全火力ぶつけたらどうなるんだろうねぇ、へへへ』

 

『み、ミヤコちゃん、どうしよう』

 

 ワイヤートラップも簡単に飛び越えられ、飛び越えた先の二段構えのトラップも見越され避けられる。後からくる人たちを考慮してしっかり罠も破壊している。こちらの手の内がまるで全てわかっているかのような動きだ。

 

 けど、彼女はどう見てもSRTの生徒じゃない。あれだけ鮮やかな動きなら絶対私の記憶に残るはずだ。FOX小隊の先輩たちのように。

 

『もう迎撃するぞ!いいな!』

 

「待ってください!迂闊な攻撃は!」

 

 聞こえてくるサキのマシンガンの連射音。少し離れた位置のキャンプ、つまりは本部の方。青髪の生徒は音を聞いて木の影に隠れ、またすぐ飛び出してを繰り返す。罠の方へ誘導するようにサキが撃つも、読まれているのか上手く誘導できない。

 

『くっそぉ!なんなんだアイツ!?』

 

 むしろ、攻撃をしたことでサキたちの位置を特定された。青髪の生徒が何かを手に持つ。ヴァルキューレで使用されているスモークグレネードだ。けれど、明らかに何百メートルも離れてる距離から投げても届くはずはない。

 

 ないはずなのに、彼女は投げた。瞬間、爆煙のような煙幕が私の斜め後方で上がった。

 

『え、煙幕!?どこから!?』

 

『げほっげほっ!?ちょっ、なに今の!?』

 

『……撃ち抜くよりも速く、投げられた……!?』

 

 スモークグレネードをまるで水平発射したかのように、相手は投げつけた。その結果、射撃で位置が特定されたサキは被弾。信じられない。この実力の高さは並じゃない。

 

「生徒会長クラス……?」

 

 無駄な抵抗は避けた方がいいかもしれない。話し合いで済むならば済ませて、帰ってもらうほうがいい。

 

「相手の実力は自治区の幹部クラスと思われます。現時点で反撃を禁止。私が直接交渉します」

 

『交渉!?何を交渉するんだ』

 

「帰ってもらうよう説得します」

 

『けど、こっちが先に撃っちゃったし…当てちゃったし……』

 

「それも説明はします」

 

 私は塹壕から出て、銃を構えつつ前進する。交渉が通じる相手かわからない。けれど、何故か確信めいた何かがあった。こちらに向かってきている相手は、話は確実に聞いてくれるという予感が。

 

 

 

 

 

 

 

 嫌な予感ほどよくあたるもので、公園に入ってすぐトラップを強引に処理してみたら、踏めば空に飛んでしまう地雷原があったり、そのあとも執拗な量のトラップがあった。そして、それらの仕掛けかた全てがSRTでの研修で聞いた教範通りのもので、私はこの公園の陣地を組んだのがSRT特殊学園の生徒だと確信しちゃった。

 

「ニコちゃんたちじゃないといいけど」

 

 規律に厳しいユキノちゃんが指揮するFOX小隊がこんな不法占拠をするとは思えないし、ニコちゃん、オトギちゃん、クルミちゃんの3人とも不正行為には厳しい。となると、SRTに偽装した工作?なんて考えちゃうけど、もう無くなるSRTに対してそんなことをしても意味がない。

 

「いやぁ、それにしても久々に本気でスモーク投げたなぁ」

 

 攻撃されたので、反撃と威嚇ついでにスモークグレネードを投げたけど、発射点とおぼしき遠くの防塁に直撃してちょっと崩せたと思う。攻撃も止んだので射手も怯んでるかな。ここ最近はこっちから積極的に相手を制圧、ってことはできないことが多くて後手に回ることが多かったから少し気分がいい。

 

 トリニティで自警団の子にボコボコにされたのは少し悔しかったので。

 

 がさり、と足音が聞こえる。数は一人分だろうか。ゆっくり、警戒している動き。足音は一定で、かなり訓練されてることがわかる。

 

「出てきてください」

 

 ある程度の距離まで来ると、向こうから声をかけてきた。可愛らしい声だった。たぶん、一年生ぐらいの子かな?私は木の影からゆっくりと姿を見せる。もちろん両手を上げて、交戦の意思がないことを示す。もし本気で制圧しようとしたら、こんな呼びかけなんて相手はしないからだ。

 

「……やっぱり」

 

「生活安全局の方ですね」

 

 当たってほしくない予感ほどなんで当たるんだろうね。陣地の方から来た子はかなりの重装備でセーラー服の上にプレートキャリアやSACKを身につけて、肩には小隊の紋章。ウサギ……FOX小隊からすればこの子はRABBIT小隊だろうか。

 

 こんな重装備ができる生徒はそうそういない。構えている短機関銃も本体が白くて、あれはヴァルキューレの装備と生産元が同じだ。つまりは警察組織用のもの。

 

「そういう君はSRTの子だね」

 

「所属、姓名を名乗ってください」

 

「人に名前を聞くときは自分からだよ」

 

 努めていつも通りに、けれど後輩に接するように気安く。目の前の子は表情を少しムッとさせたけど、答えてくれた。

 

「SRT特殊学園、一年生。RABBIT小隊所属、小隊長の月雪ミヤコです」

 

 一年生。つまりは今年からSRTになるはずだった子。ニコちゃんたちの後輩だ。

 

「月雪さんね。私は連邦捜査部シャーレ所属、草鞋野エリカです。よろしくね」

 

「え?シャーレ……?ヴァルキューレではないのですか?」

 

「ごめんね。制服がないからヴァルキューレの頃の改造して使ってるんだ」

 

「では何故生活安全局のパトカーから出てきたんですか?」

 

「ちょっと偶然ね。とりあえず銃を下ろしてくれないかな。君がSRTなら条例とか色々知ってるよね?そうなると、シャーレが君達に、現段階では何もできないのも」

 

 もし、キリノちゃんやフブキちゃんがシャーレへ「支援要請」をしたのなら私は目の前のこの子を含め、不法占拠している場所への是正勧告ができたと思う。でも、それはないので今の私が彼女たちに何を言っても公力のない「文句」にしかならない。

 

 だからそれを示したのだけれど、何故か月雪さんは銃を降ろさず、余計に顔つきが険しいものになった。

 

「……思い出しました。草鞋野エリカ、生活安全局の副局長」

 

「元だけどね」

 

「帰ってください」

 

「え」

 

「帰って、ください!」

 

 い、いきなり怒鳴られた!?

 

「ま、待って、話を聞かせて!」

 

「嫌です!あなたとは…話したくありません!」

 

「えぇ……」

 

 初対面でこんなにハッキリと嫌われてるのはちょっとショックを受けるけど、まぁ、うん……おかしくはないんだ。どれだけ私がシャーレの支援要請で生徒を助けても、私にかけられた汚名は消えない。

 

 けれど、それでも、今の私はシャーレの生徒だから、この子と向き合わなくちゃいけない。それが今の私の役目だから。

 

「帰らないよ。どうしてここにこんな陣地を作ってるのか、教えてほしい」

 

「答えたくありません。嘘つきのあなたには」

 

 結構きつい。嘘つきかぁ………。

 

「私、あなたと会ったことあるかな」

 

「ありません」

 

「無いのに、そんなことを言うの?」

 

「私は、あなたのように不正をする人を捕まえるためにSRTへ入りました」

 

 月雪さんの目が私を射抜く。あぁ、この目は見覚えがある。カンナちゃんが以前、見せてくれた――私自身が、犯人を前にした時の目だ。“絶対”捕まえると、意気込む時の。

 

「……そっか。それなら尚のこと、こんなところにいちゃダメだよ」

 

「SRTの校舎が不当に撤去されようとしているのを、黙っていろと?」

 

 校舎が撤去されるのは初耳だった。だとしても、SRTの廃校はもう決定事項だったはず。だから、ほとんどのSRTの生徒はヴァルキューレへと転入手続きが進められてる。彼女たちはそれに従っていない。なぜだろう。

 

「撤去のことは初めて聞いたよ。……なるほど、それでこれはデモをしようとしていたんだね」

 

「腐っても“安全局の狛犬”ですか。察しがいいですね」

 

「ありがとう」

 

 私がお礼を言ったら月雪さんの表情が歪んだ。

 

「褒めたつもりはないのですが……噂の超法規的捜査権を持つシャーレといえど、私たちを止めることはできないはずです」

 

「確かにそうだね」

 

 超法規的捜査権、そういえばシャーレはやろうと思えば全ての自治区に強引に介入できるんだった。それは生徒個々の問題も含めて。でも、今まで強引な手は取ったことがない。先生も、私も。難しい問題でも、屁理屈だったとしても道理は通してきた。

 

「月雪さんはSRTに残りたいの?」

 

「その質問に答える必要がありますか?」

 

「あー…ごめん、無理に聞くつもりはないけど、教えてくれたら嬉しいなって」

 

 お願いすると、彼女はまたしても苦い表情になって、少し銃を下げた。私もこれ以上は撃つことはないと思ったので銃を仕舞う。月雪さんの目が僅かに見開く。

 

「何故銃を?」

 

「お話をするのに、必要はないかなって。さっきまで使ってたのもトラップを壊すためだし、スモークも威嚇程度だからね」

 

 私が改めて戦う気がないことを伝えれば、月雪さんもようやく銃を下ろしてくれた。表情は変わらず、険しいままだ。

 

「………ヴァルキューレに入ったところで、“揺るぎない正義”はありません」

 

「それは…」

 

「“正義とは、正当な権限のもとに行使されるべき権利である”。私の尊敬する先輩たちから教えてもらった言葉です。他の自治区の治安維持組織は政治的に身動きが取れない、肝心な時に役目を果たせていない。それはヴァルキューレも同じです。何より、あなたの存在そのものがヴァルキューレに正義がないことを証明しています」

 

 辛いなぁ。胸の奥にぐぐっと何か刺されたような、苦しい感じ。目を背けたくなるけど、私は耐えて、月雪さんを見た。

 

「そんな中で、SRTだけは……何の影響も受けず、純粋に“正義”を為すことができます。連邦生徒会会長の下で、誰もが持つ、権利を、正義を」

 

「そこまで言うのなら、どうしてここでデモなんてしているの?あなたたちがしていることは不法占拠。……あなた達の先輩が示した“正義”とは程遠いでしょう?」

 

「ハッキリとした理由もなく、突然学校を閉鎖して、私たちSRTはいらないと、まるでいらなくなった武器のように扱うことが正しいことだと言うのですか」

 

 答えられなかった。月雪さんの言う通り、SRTの閉鎖の話は防衛室にいたとき、突然入ってきた。当時の私はただの雑用なのでそれに口を挟むことはできなかったけど、不知火防衛室長から“SRTは危険だ”という理由で閉鎖が決まったというのは聞いた。

 

 そして、それを最も強く提言したのはヴァルキューレの警備局長だ。彼女は私やカンナちゃんと一緒にSRTに研修へ行ったことがある。そのとき目の当たりにしたSRTの制圧力に恐れをなしていた。警備局の役割はSRTがいる以上本当に必要なのか、あんな力を持って何をするのか、と。

 

 強大すぎる力を指揮する連邦生徒会長が消えれば、残ったSRTはまるで暴力にいつ変わってもおかしくない爆弾に見えていたのかかもしれない。

 

 だから、なんとしても止めないといけない。もし彼女たちが大きな抵抗をすれば、余計に苦しい立場になってしまう。私の役目は、シャーレの生徒として、困っている生徒を助けること。閉鎖の撤回はできないと思う。それでも、まだできることがあるはずだ。

 

 きっと、先生なら、彼女を救おうとするはずだ。

 

「私は、正しいとか、正しくないとか、論じることはできないと思う。けれども、シャーレの生徒として、今目の前で困っている生徒を放っておくことはできないよ。私の、先生もきっとそう言うと思う」

 

「何を……」

 

「月雪さん。私がダメなら、どうか先生に話してみてほしい。生徒の私では力になりきれないなら、大人である先生に」

 

「……傲慢です」

 

 え?

 

「あなたは、あなたはっ、次があったから、そんな風に言えるんです!私には次がありません!SRTはもう無くなるんです!」

 

「ま、待って、私は」

 

「来ないでください…!」

 

 再び銃口が私に向けられる。銃口からはしっかりと拒絶が見て取れた。

 

「……無用な攻撃をし、無関係な生徒を撃ってしまったこと、謝罪します。そして、威嚇射撃で過剰にヴァルキューレの装備を破壊してしまったことも謝罪します。全ての責任は小隊長である私にあります」

 

 月雪さんがゆっくりと後退していく。止めないと、いけない。きっと、ここで止めないと、彼女たちはもう、言葉では止められない。私は下がる彼女に離れないように一歩踏み出した。

 

「RABBIT4」

 

 コールサインが呼ばれた直後、私の腰に据えていた拳銃を差し込んでいたホルスターの留め具が壊れ、草の上に落ちた。

 

「次は当てさせます。草鞋野さん……私はあなたのような人も、あなたを使うような大人も――大嫌いです」

 

 その言葉を最後に月雪さんはその場から脱兎のごとく、駆け去っていく。私の手は、何も掴むことができず、空を彷徨う。

 

「お願い…待って…!」

 

 私の声は、直後に聞こえてきたたくさんのサイレンの音がかき消し、私はこの日初めて――止めなくてはいけない人をその手からこぼれ落とした。

 

 

 

 

 

 

『わからないわよ、何があったかなんて…』

 

「そっか。ごめんね。あと頭大丈夫?」

 

『馬鹿にしてるの!?』

 

「いやいや、そういう意味じゃなくて撃たれたところ」

 

『なんともないわよ。頭に銃弾当たって気絶するなんてたまにあるじゃない』

 

「たまにあるんだ……うん。なんともないならよかった。セリナにも見てもらったんでしょ」

 

『診てもらったわよ。けど、ハナコたちにもこのことは話してないわ』

 

「え?そうなの?なんで?」

 

『私だって………今、あんなことがあったなんて言ったら、大変なことになるの、わかるわよ』

 

「ごめんね。気を遣わせて」

 

『謝らないでよ。相手も誤射だったって言うし。私が出しゃばったから当たっただけなんだから。じゃあね。私、忙しいの』

 

「悪いね、電話しちゃって」

 

 コハルとの電話は切れる。RABBIT小隊のデモから3日ほどが経過していた。あの日、リンちゃんからSRT特殊学園の生徒たちの一部が抵抗しているという話を聞いて、何か対応案がないか相談を受けている最中に連邦生徒会へデモの通報が入ったんだよね。

 

 それで、最初は警備局だけで対応したら全滅したので、公安局が次に対応したら同じ結果。最後に私にお鉢が回ってきて、そこに居合わせたキリノ、フブキというエリちゃんの元部下たちと一緒にRABBIT小隊を制圧した。何故かコハルがいて驚いたけど、なんでもエリちゃんと水着を一緒に買いに行く途中でこの事件に巻き込まれてしまったらしい。

 

 そして、肝心のエリちゃんはどこにいたのかと言えば、公園の隅で何故か放心状態で座り込んでいた。私が近寄ると我を思い出したかのように、RABBIT小隊の面々を心配していたので、事の顛末を伝えるとあまりにもひどい落ち込みようで、その日はずっと私ともほとんど話をせず、コハルとの水着を買いに行く話もご破算になっちゃってた。

 

 次の日にエリちゃんがシャーレに来た時はいつも通りの態度だったけれど、明らかに空元気だな、というのがわかっていて辛かった。

 

『エリカさん…大丈夫でしょうか』

 

「大丈夫だったら、心配してないよ」

 

『そうですね』

 

 アロナの心配する気持ちも痛いほどわかる。今、エリちゃんはシャーレにいない。彼女の机の上は変わらず綺麗なまま。ただし、一つだけ変わったものがあった。それは写真立てが倒されて写真が見えなくなっている事。

 

「何があったのかは…………聞いているけどね」

 

 RABBIT小隊は今、ヴァルキューレのシャーレ近くにある留置所にいる。制圧した翌日に取り調べが行われ、私もエリちゃんのことが心配なので、RABBIT小隊の指揮をしていたという月雪ミヤコに話を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんでした」

 

「え?」

 

「………気が立っていたから、というのも、個人的に思うところがあったのも、理由にはなりません。私はあなたの部下である草鞋野さんにひどい言葉をかけてしまいました」

 

 取り調べの開始と同時にミヤコは頭を下げてきた。彼女は私のことを大嫌いだと言っていたけど、それを飲み込んで頭を下げている。書記のヴァルキューレの生徒も驚いたのか少しこちらを見ていた。

 

「……なにがあったか、教えてくれる?それと、あの子は部下じゃなくて、生徒だよ」

 

「生徒……」

 

「うん。君と変わらない、生徒」

 

 ミヤコから聞いた警備局とのいざこざの前にあった、エリカとの邂逅。エリカはパトカーが撃たれ、コハルも気を失ったのにも関わらずミヤコたちとの対話を望んでいたということ。シャーレの生徒として、あの子は立派に役目を果たせていた。

 

 そして、同時に私は――ナギサに言われたことを思い返す。見たことがない人に、エリカのことを証明できるのかと。

 

「――以上が、あのときにあったことです。たとえ、彼女が不正を過去に働いていたとしても、私へのあの時の態度は嘘ではなかったと、今更ですが思います」

 

「そっか」

 

「取り返しのつかないことであることも承知はしています。それでも、後悔していることを、誤解なくお伝えしたかったのです」

 

「ミヤコは優しいね」

 

「え……」

 

 素直に、思ったことが口に出た。

 

「私は、エリカが過去に起こしたって言われてる不正はなかったと思ってる。でも、それは今、君には証明できない。けれど、ミヤコはそんな自分が嫌いな相手でも、ちゃんと見て話して、理解しようとしてくれたんだね」

 

 拒絶したくなるほどの嫌のものを、しっかりと見ることができるだろうか。嫌ならば問答無用で撃ってしまうことができるこのキヴォトスで。きっと、ミヤコは自分が正しくないことをしているという自覚もある。それでもなお、ミヤコは自分の信じた正義を貫ける場所を残したいんだね。

 

 軽々しく、今の彼女にエリちゃんのような「次がある」ことは言えない。だから、今は前に進もうとする彼女たちを支えてあげたいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 あの日の取り調べは最終的に「SRTは復活できない」という点で私はミヤコと話を続けることはできなかったけど、エリちゃんにミヤコの言ったことは伝えたい。ちゃんとエリちゃんが果たそうと思ったことは相手に伝わっていたのだと。役目は果たせているのだと。

 

 問題はどう伝えるかだね。それにひどいことを言ってしまったら謝るのが一番大事だ。本人にも言われてしまった人にも。

 

「仲直り、頑張ってさせないとね」

 

 大切な生徒たちがいがみ合うものほど悲しいものはない。今日、RABBIT小隊の処遇についてヴァルキューレで話すことになってる。判断は何故か私に委ねられるらしいけど、その説明は――エリちゃんがシャーレに来る前に所属していた連邦生徒会の防衛室、その室長の不知火カヤという生徒からされるらしい。

 

「こっちはこっちで、なんだかね」

 

 複雑な気持ちだ。カヤという子がどんな子かわからないけど、悪い子でないことを祈りたい。

 

 




本作のミヤコは中等部の頃は当初エリカに憧れており、SRTの存在やエリカの汚職疑惑がなければ生活安全局に入って身近な優しいお巡りさんになりたいと思っていました。しかし、エリカに対する報道の直後に起きたFOX小隊の活躍で、エリカに対する憧れが反転してFOX小隊に非常に強い憧れを抱くことになりました。

あそこまでキツく当たったのは隊が言うことを聞かない。無関係の生徒を誤射した等々、イライラも重なっておりエリカのことを思い出した瞬間、ミヤコの僅かに残っていた余裕が消え去ってしまったからです。

その後、原作通り先生に制圧され冷静になって、ミヤコは「あそこまで言う必要があったか」と頭抱えてました。銃を収めてまで話そうとした相手に何を言っていたんだと。

ちなみに、ミヤコはFOX小隊とエリカが関係あることを知りません。だから嫌いな人の理念を平気で言えてました。怖いですね。

今度こそ次回は気長にお待ち頂けますと幸いです。この章を終わらせたらカオスな全盛夏イベに行きたい。

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