頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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Area-06「子ウサギ公園キャンプ場 #お風呂入りたい #汗 #蒸れる」

 ミレニアムで新しい制服の作成のための採寸をエンジニア部のヒビキちゃんにしてもらった翌日、シャーレに戻ってくると先生とホシノちゃんが私に、私がいない間に起きたことを教えてくれた。

 

「ミヤコちゃんの様子がおかしかった?」

 

「うん。エリちゃんとニコが写ってる写真を見たあたりから気分が悪そうになってね」

 

 先生が言うには、久々に昨日来たというイズナちゃんが私たちと出会った頃の話をしたあたりの様子がおかしかったという。

 

 どうしてそんなことになったのかはわからない。ミヤコちゃんはFOX小隊を尊敬しているようだし、私とニコちゃんが仲良さそうなのが気に食わなかった?いや、それで気分を悪くするのはいくらなんでもないか。

 

「ホシノちゃんはどう思った?ミヤコちゃんの様子」

 

「ん〜〜……そうだねぇ…あの子、なんか色々気負いすぎなんじゃないかなぁ」

 

「気負いすぎ?」

 

「余裕がないというか……昔の私に似てるというか……」

 

「ホシノちゃんに似てる……」

 

 言われてみれば、ホシノちゃんもミヤコちゃんも、廃校の崖っぷちにある学校をどうにかしたいという気持ちでいるのは同じだ。実質の生徒会長であるホシノちゃんにかかる重圧は大きい。ただ、それでもホシノちゃんは気負いすぎないようにするためかこうして時折、シャーレの当番という形で息抜きをしている。している、というより後輩たちから半分無理やり行くように言われている。

 

 今のミヤコちゃんは……隊の統制も取れておらず、味方と呼べる人は誰もいない。私たちシャーレに対しても信用はされていない。

 

「具体的にはどのあたりでミヤコちゃんは体調が悪くなったのかな」

 

「えっとね……そうそう、イズナちゃんがエリカちゃんの“理念”を言った時だったかな」

 

「私の?」

 

 私の理念、つまりは“正義とは、正当な権限のもとに行使されるべき権利である”だと思うけど、それを聞いて……?そっか。なんとなくわかったかも。

 

「エリちゃん、ミヤコがあぁなった理由わかった?」

 

「はい、先生。たぶん……」

 

 初めてミヤコちゃんと会った時、彼女は私のことを否定した。ヴァルキューレに正義がないことを私が証明している、と。そして、ミヤコちゃんが私がFOX小隊に伝えた理念を知って、SRTの正義だと言っていた。つまりは、自分で自分の信念を否定してしまったことに気がついてしまったんだね。

 

 これはかなりキツいと思う。どうしたものかな。

 

 私の考えを二人に伝えると、あちゃーといった表情をしていた。

 

「うーん、知らなくてもいいことは世の中にあるって言うけどさ〜、ちょっとこれは酷だねぇ」

 

「ミヤコが自分で蒔いた種といえばそれまでだけど…エリちゃんはそれでも心配?」

 

「はい。ミヤコちゃんは自らの過ちを認めていますし、前に進もうとしていますから」

 

 本音を言えば、少し生意気だな、とは思いもした。けれど、それで生徒の歩みを止めてしまうのは私の望むところではないから。そして、ミヤコちゃんがこれからもSRTであり続けるのなら私の“信念”はきっとどこかで、役に立ってくれる。

 

 SRTはどんなに困難な状況でも、正義を示さなくてはいけない。それこそ、世間一般から見た私のような不正を働く警察にだって。悪く言えば自己正当化と言えるけれど、ある意味”まとも”なまま、正義を成せるものか。

 

「先生、今日のRABBIT小隊の様子を見に行くついでに差し入れもする、と言っていましたけど、よければ私も同行させてもらえませんか?」

 

「もちろんいいよ」

 

「じゃあ留守は任せてね〜」

 

「ありがと、ホシノちゃん」

 

 私たちはホシノちゃんに留守を任せ、RABBIT小隊がキャンプをしている子ウサギ公園へ向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 子ウサギ公園へは電車を乗り継いで向かうしかないので、電車を使って子ウサギタウンへ行って、そこから徒歩だ。未だに車がなくて困っているので昨日ミレニアムに行った時、エンジニア部に相談したら今度試験的に作った車両を貸してくれるらしい。そのついでというか、今日は色々とエンジニア部からテストしてほしいという試作品をもらってるので試してみようかな。

 

「ついたね。早速みんなに――」

 

「先生、待ってください。SRTの子たちのテリトリーに勝手に入るのは危険ですよ」

 

「え?けど…」

 

「早速これを使ってみましょう」

 

 私は腰のグレネードに代わりに付けたものを手に取る。球体型の手榴弾のようなものだ。黒崎さんが使っていたものの改良型だそうで、エンジニア部が今度ヴァルキューレの装備更新の入札に参加するためのものらしい。

 

「何それ」

 

「白石さんからテスターに、ともらったものです。制圧用の特殊ゴム弾を上空で炸裂させて降り注がせます」

 

「なるほどね」

 

 公園の入り口、かなり丁寧に偽装されているけど、僅かに土が入れ替えられた様子があるのであそこが地雷原かな?と思ったあたりの上へ、この試作装備を投げてみる。広範囲に降らしたいので勢いよく投げてみた。

 

「エリちゃんすごいね……野球やらない?」

 

「それ、ホシノちゃんにも言われましたけど、私、チームプレーはあんまり得意じゃないので……」

 

 世界を狙える肩だよ〜ってホシノちゃんに言われたけど、前にボール投げたらどこかに飛んでいったきり戻ってこなくなったので人に投げる気にならない。

 

 ボールはしっかり地雷原らしい上空で炸裂して、ゴム弾が一気に降り注ぐ。直後、まるでギャグ漫画のような爆発が起こり、爆風が私たちを通り抜けた。踏んでたら間違いなく先生は無事ではなかったのでよかった。

 

「SRTの子、用心深いね」

 

「まぁ……ある意味キヴォトスの中では特異な子たちが集まっているかもしれませんね」

 

 特殊な才を持っている子が集まりやすい傾向があったのは確かだ。RABBIT小隊が特別優秀だけど、念の為もらった他のSRTの1年生の子たちも並の子と比べれば十分すごい子たちだ。

 

 たとえば、デモを起こした1小隊であるディンゴ小隊のコールサインFANG4こと、大島シズルという子はアンダーグラウンドソナーを用いた索敵が非常に得意で、RABBIT小隊との模擬戦闘では劣る練度を索敵とアンブッシュを多用し1勝3敗としていた。他3人が狙撃手2に、迫撃砲使い1ということもあってそうするしかなかったようだけど。

 

「そういえば、気になったんだけど、エリちゃんはSRTに誘われなかったの?」

 

 先生がそんなことを聞いてくる。SRTからのスカウトか〜。

 

「実を言えば打診されていました。まぁ、その頃から若干私を追い出そうって空気になってたかもしれませんが」

 

「それでも行かなかったの?」

 

「SRTを否定したいわけじゃないですけど、SRTが動くということはもう“取り返しがつかない”段階です。私は、その前にどうにかしたかったので」

 

「そっか」

 

 だからこそ、SRTの正義というものは揺らいではいけないのだと思う。FOX小隊の子が私の理念を気に入ってくれたのはきっとそういうことなんだろうね。まさか後輩たちにも教えてるとは思わなかったけど。

 

「それじゃあ先生、行きましょうか。他にもトラップはあると思いますので、気をつけて」

 

「大丈夫。エリちゃんがいてくれるから」

 

 先生のこういう発言、どうしてもキュンとくるけど、平静を装う。こういうことをこの人は言いがちだ。そのうち勘違いされて刺されないか割と心配。

 

 公園の中へと侵入すれば早速なのか地雷原の音を聞きつけて、空井さんが機関銃を構えて駆けてきた。

 

「げっ、先生と……えっと」

 

「エリカでいいよ、空井さん」

 

「……なら、エリカさん。なんで地雷原を?」

 

「いや、キャンプしていいとは言ったけど要塞化はダメだよ。ちゃんと許可してるから退去しろとはみんな言わないし」

 

 先生がわりと正論を言ったせいか空井さんはバツが悪そうだった。そりゃそうだ。たぶんこの子の情報からしてマニュアル通りの行動だったんだろうね。気持ちはわかる。何よりこの子たち1年生だから、本来なら指導しなくちゃいけない教官や先輩もいないんだ。

 

「武器も貴重なんだぞ。何も壊さなくても」

 

「いやいや、踏んだら私死んじゃうからね!?」

 

「……わかった。トラップは全部解除しておく」

 

「よろしくね」

 

 妙に空井さんが素直だった。それと、何故か私たちが彼女に近寄ろうとすると少し距離を置こうとするし、風が吹くと風上に立とうとしない。なんだかおかしな行動を繰り返している。

 

「空井さん、みんなの様子を見に来たんだけど、キャンプまでいいかな?」

 

「今回だけだぞ。昨日のいなり寿司の借りもある」

 

「おいしかった?」

 

「あぁ……なんだか、前に先輩が作ったものを思い出す味だった」

 

 空井さんのその勘は当たってる。あの定食屋さん、先生が言うにはニコちゃんが務めてるらしいし、私もどうりで食べたことのある味だと思った。ただ、このことは言わない方がいいかなという気はしてる。みんな気負ってしまうだろうし。

 

 空井さんが案内をしてくれて、歩き出してもやっぱり距離を置かれている。

 

「先生、エリカさん。ミヤコは昨日どうしたんだ」

 

「どういうこと?」

 

「帰って来てからずっと考え事をしてる。何か入れ知恵でもしたか?」

 

 その問いかけの答えは私も先生も「何もしていない」だ。けど、ミヤコちゃんは昨日のことで思うことが多くあったのだろうね。

 

「……エリカさん。正義ってなんなんだ?」

 

「唐突だね。逆に聞くけど、君はどう思ってるのかな?空井サキさん」

 

 視野が狭くなっていた頃のキリノちゃんを思い出し、私は昔の後輩を教えていた頃の口調になった。よくないんだけど、癖みたいなものだからしょうがない。

 

「わからないから聞いてるんだが」

 

「SRTに入った理由は先生から聞いてるよ。確かに、君がそのように聞くのは理解できる」

 

 規律ある生活。常在戦場の心構え。空井さんの入学理由にはSRTで正義を成したいというものがない。カンナちゃんの取り調べでは”不適格”としてしまうほどの回答だったという。確かにヴァルキューレとしてはそのような判断をするしかない。

 

「けれど、SRTとしてもし任務をしなくてはならない時、君は自らを正義と名乗る相手を撃てるのかな?」

 

「……どういうことだ?」

 

「絶対の正義はない。しかし、私たちは正義の執行機関だ。このキヴォトスを守らなくてはいけない。正義の裏はまた正義であり、例え彼らなりの正当性があったとしても、自らの正義を為さなくてはならない。そのとき、君は引き金を引けるのか」

 

「自分達が正しくないとしても?」

 

「“正義とは、正当な権限のもとに行使されるべき権利である”。この理念を聞いたことは?」

 

「ミヤコがしきりに言ってたのは知ってる。あんたの言葉なのか?」

 

「さぁね。けど、君たちSRTは連邦生徒会長というこのキヴォトスにおける絶対の権限のもとに行使される正義という権利なんだ。だからそうやって疑問を持って自分なりの答えを出してほしい」

 

 結局答えにはなってないけど、空井さんには少しだけ伝わったのか、それ以上は聞いてこなかった。先生のほうをチラリと見ると、先生は私を撫でてくれた。褒めてくれたのか、それとも単に撫でたかったのかはわからない。

 

 キャンプ場に着くと、そこは開けているけどガラガラでキャンプをしているのはRABBIT小隊しかいないようだった。通信機材を置いたテントや簡易的な兵舎のテントも見られ、要塞化こそしていないけど、野営地となっている。よく見たら大きなカバーがされてるけどヘリもあった。RABBITの子たち、装備を持ち出してるけど相当な量を持ってるみたいだ。

 

 いや、雑木林の奥にも索敵用のアンダーグラウンドソナーを搭載したトラックもある。すごいね。

 

「すごい装備だね。どうやって持ち出したの?」

 

「ヘリはモエが操縦できるし、トラックは他の装備を持ってくるのに私が使った。モスポールもされず野ざらしにされそうだったからな」

 

「サキ、車運転できるんだね」

 

「当然だ。SRTは様々な装備を使いこなす必要がある。ミヤコだってドローンの運用は小隊で一番上手いぞ」

 

 霞沢さんが上がってこないのは彼女が狙撃手として飛び抜けて優秀だからだろうか。彼女だけはRABBIT小隊が優秀といっても飛び抜けて練度が高い印象を受けた。キヴォトスでも最強格のスナイパーかもしれない。ハルナという腐れ縁の狙撃手の存在があるせいで余計にその実力の高さに驚く。

 

「ミユはどうなの?」

 

「ミユは……まぁ、あれだ。あいつは狙撃手としては腕がいいからな」

 

 先生が聞いちゃったけどやっぱりそういう感じらしかった。

 

 なんというか、私は少しだけホッとしていた。空井さんはもしかしたらミヤコちゃんと仲が悪いのかなと。けど、個人としては決して嫌っているわけではなく、認めるべきところは認めているようだった。

 

「ん?地雷がぶっ飛んだと思ったら先生たちか。いやぁ派手にやったねぇ」

 

 風倉さんのいるテントの前にやってくると、彼女はけらけらと笑っていた。私が彼女へ挨拶をしようとすると何故か少し下がる。なんだろう。私避けられてるのかな。

 

「で、何の用?わざわざ敵対してる相手にこんな会いにくるなんて」

 

「私たちは敵対してるつもりはないよ、モエ」

 

「あっそ。で?」

 

「みんなの様子を見に来たんだ。満足に食べられてないようだし」

 

「餌付けで屈するほど私もやわじゃないよ」

 

 飴を舐めながら風倉さんは答える。ヴァルキューレなら“修正”案件だけど、古いやり方は私もそんなに好きじゃないし、そんなことをするためにここへ来たわけじゃない。

 

「ちゃんとご飯食べてる?ここでデモをするのはいいけど、ご飯を食べないのはよくないよ?」

 

「あー草鞋野先輩だっけ?なんでそんなこと心配するのさ。私たちの勝手じゃないの?」

 

「モエ、別に私たちは君らを懐柔しようなんて全く思ってないよ。ただ生徒が困っていたら助けようと思ってるだけだよ」

 

 先生が援護してくれると、風倉さんもなんともいえない表情を見せる。

 

「別にこまっちゃいないよ。昨日のいなり寿司はおいしかったけど」

 

 いなり寿司はちゃんと食べてくれていたらしい。

 

「なんの騒ぎですか?…って、先生と……先輩」

 

 私たちが来たことでミヤコちゃんがテントから霞沢さんを連れて出て来た。私を見るなりミヤコちゃんはかなり気まずそうな顔をしている。そりゃそうだよねぇ。

 

「ミヤコ、昨日ぶりだね」

 

「………何故こちらに?」

 

「みんなちゃんとキャンプ出来てるかなって」

 

「無用な心配です。SRTではこれぐらいよくある話ですから」

 

「そっか。ところで差し入れ持って来たけど、いる?」

 

 先生が手に持っていたコンビニ袋を差し出す。中身はカップ麺だ。ミヤコちゃんは差し出されても首を横に振った。

 

「昨日はシャーレ以外の方もいた手前頂きましたが、今日はそうもいきません」

 

「けど、ちゃんとご飯食べてる?」

 

 先生がミヤコちゃんに近寄るとミヤコちゃんが半歩下がる。先生も避けられてる。なんでだろうか。

 

「数日間、無飲食での行軍の訓練も私たちは積んでいます。そのような情けは不要です」

 

 あ、先生が少しムッとした。

 

「そっか。ところで何で避けてるの?私たちを」

 

 珍しく先生がムキになってるのかそう聞くと、何故か全員が黙りきって顔を赤くしていた。え、なんで?今ここに先生含めて女の子しかいないけど。何か?

 

「先生、最低です」

 

「なんで!?」

 

「デリカシーがないな」

 

「そうそう」

 

「ボロクソ!差し入れ持って来ただけなのに!?」

 

 ミヤコちゃんの様子がおかしいからと思っていたけど、全員様子がおかしい。心配だ。

 

「みんなどうしたの?様子がおかしいよ?お腹空いてるの?」

 

「いえ、その、確かにまぁ、それは……お腹は空いていますが、それよりも……」

 

「ミヤコちゃん、お願い、教えて?」

 

 私が歩み寄ろうとするとミヤコちゃんはまた下がっていく。

 

「ダメです。近づかないでください」

 

「どうして?私、何かしてしまったかな?」

 

「先輩は何もしていないのですが、私は、今、その」

 

 風が少し私の方へ吹いた。その瞬間、全てを理解した。

 

「あー……ごめん。デリカシーなかったね」

 

「っ〜〜〜〜〜〜!」

 

 ミヤコちゃんが顔を真っ赤にして震えていた。先生はどういうこと?と首を傾げていた。もしかしたら、昨日はミヤコちゃんが何かをみんなに話したのだろうけど、その前にもっと現実的で深刻な問題が出て来たんだろうね。ご飯もそうだけど、何より私たちにとってすごく大事なもの。

 

「えっと、風倉さん」

 

「何?」

 

「野営地用の装備、これだけ?」

 

「………そうだけど?」

 

 お風呂。ミヤコちゃんたちはお風呂に入れていない。デモがあった日から数えるともう一週間だ。たぶんなんとか水浴びとかタオルで拭くぐらいはしているのだろうけど、彼女たちの装備は色々と蒸しやすいし、限界がある。

 

 どうしたものか。今の彼女たちはきっと、先生や私の援助は受けてくれない。私が頭を悩ませていると、まだ完全に復活しきっていないミヤコちゃんが顔を赤くしたまま声を上げた。

 

「そ、それよりも!先生、取引をしたいのです」

 

「取引?」

 

「昨日、みんなで話し合いました。このままデモを続けるだけでは効果が足りないと」

 

「効果が足りない?」

 

「はい。SRT特殊学園がなくなっては困ることを証明しなければ、いずれ延期された廃校は避けられなくなります。ですから、私たちに正義を示す機会が必要です」

 

 ミヤコちゃんがそれから語ったのは至極真っ当な話だった。正当なデモをできる場を借りたのはいいが、結局のところデモをしても効果は薄いというのがミヤコちゃんの判断だったらしい。先日のRABBIT小隊のデモも、残りの1年生のデモも一切報道がされていなかったのだ。だから、このままではただキャンプをして気がつけば根無し草になるのは見えてる。

 

 それを避けるために彼女たちはSRTが必要だという理由を社会に示したい――というのがRABBIT小隊が出した結論だった。

 

「それじゃあ、シャーレの手伝いをするってこと?」

 

「しつこいようですが、私たちは先生の助けを受けたくはありません」

 

「だから取引だって言ってるんだ。このバカがデモが申請が必要だって言ってたら他の小隊の連中も集めてたのに、今じゃ全員着信拒否だ」

 

「全員じゃなかったじゃん。大島ちゃんは出たよ」

 

「それでも……やりすぎ……迷惑……って言われたよ……」

 

 デモを行った他の4小隊は後で先生から聞いたけど、全員ヴァルキューレへの編入を決めて、しばらく保護観察期間に置かれたらしい。それで、迷惑……ってことかな。つまり、抵抗をしているのは今目の前にいる4人だけ。

 

「ですから、我々SRT特殊学園、RABBIT小隊が先生と草鞋野先輩だけでは手の足りない事件を解決します」

 

「飯も他も……たった1日でこれだ。どうせ立ち行かなくなるのが目に見えてる。だったら、ミヤコの言う通り業腹だがあんたらと“手を組む”こともやぶさかじゃない」

 

「まぁ?このまま無補給だといずれ素手でなんとかしなきゃいけなくなるし?」

 

「………SRTに戻れるなら……」

 

 みんなは思ったよりも冷静だった。私は先生と顔を見合わせる。4人そう望むなら、私たちの答えは決まってる。先生が私の前に出た。

 

「わかったよ。それなら……シャーレの支援要請を君たちに回すよ。ただ、SRTとしての力が必要なものだけね」

 

 それがきっと彼女たちが納得するラインだ。決してシャーレからの施しを受けたくはない。プライドというには細やかな彼女たちの反骨精神がそうさせるのだろうね。

 

「わかりました。では、取引は成立です」

 

 ミヤコちゃんがホッとしたような表情になる。虫が良すぎて、先生に拒否されると思ったのかもしれない。大丈夫だと言ってあげたい。私たちは君たちの望む道を整えてあげたいから。

 

「じゃあ、早速、みんなにおあつらえ向きのものがあるんだけど」

 

 と、ちゃんと正当な手続きを踏んでくれるならこちらも遠慮する必要はないので、私は4人に助け舟を出したくてしょうがなかったのである支援要請を渡したかった。

 

「エリちゃん、何かあったっけ?」

 

「先生、あったじゃありませんか。最近、廃品となったものや廃棄品が無断で持ち出されてるって話が」

 

「あ〜…ソラが言ってた噂ね」

 

 まだ支援要請は正式に出ていない。けれど、ソラちゃん、そして久々にモモトークで通話したキリノちゃんから聞いた話だ。最近、D.U.で妙に強力な武装をした怪しげな集団が廃品工場や廃棄品を回収している業者から廃棄品を強請っているという噂。実際のところ、廃品は処分されるものだから大きな騒ぎにはなっていないらしいけれど、噂が立つということは何かがある。

 

 それをミヤコちゃんたちにそれとなく伝えた。

 

「廃棄品の持ち出しですか?それが何か……草鞋野先輩」

 

「廃棄品の中には当然色んなものがあるよ。建物の内装といえば、そうだね、浴室の一式とか」

 

 その言葉に4人が一斉に反応した。そういうことです。廃品業者の中にはもう勝手にしろと言っている人もいるとキリノちゃんは言っていた。なら、その武装集団が持ち出したものは幾らかは譲ってもらうのも悪くないはずだ。もちろん、返還を望む業者もいるので、それを確認した上でね。

 

「草鞋野先輩ってさ〜、データベースで見たら、かなり規律に厳しいって感じだったはずだけど。不正してたぐらいだしやっぱり違うの?」

 

「どうだろうね?風倉さん。少なくとも今の私はシャーレの生徒だよ」

 

「………へぇ」

 

 それに、お風呂だけじゃない。ソラちゃんは出来ることなら信頼できる廃品回収業者を紹介してほしいと言っていた。シャーレの1階にあるとは言っても、基本的にあそこはソラちゃん一人だ。廃品目当ての襲撃をされてもおかしくない。

 

「それと、ご飯のことだけど、あるコンビニが襲われてもちゃんと大丈夫な業者さんを探してるんだけど、どうかな?」

 

 4人のヘッドセットの耳がピンと立ったように見えた。やっぱり死活問題だったんだね…。

 

「どこのコンビニですか?」

 

「私たちのシャーレ1階にあるコンビニ。お客さん来なくて大量にいつも廃棄品が出るから勿体無いし、最近は食品ロスも言われてるから」

 

「…………私たちには関係のない情報ですが、頭の片隅ぐらいには入れておきましょう」

 

「ふふっ。じゃあ、店員さんにも言っておくよ。新しい業者さんが来るってね」

 

 飢えた兎は結構貪欲なのかもしれない。何か、タガが外れてしまったようにも思えて来た。

 

「先生。それで、その犯人たちのいるところに目星はあるのですか?」

 

「一応ね。D.U.の外れにあるスラム街の奥かな」

 

「わかりました。今すぐ出動します」

 

 え!?今から!?流石に先生も驚いている。

 

「小隊各位へ、直ちに出動準備。RABBIT3、ヘリを用意してください」

 

「いいねぇ。ギリッギリの燃料で行っちゃう?ゾクゾクするよ」

 

「事は一刻を争います。ここでヘリを使用しないのではいつ使用するのですか」

 

「了解。RABBIT3、ヘリの準備に取り掛かるよ〜」

 

「RABBIT2、4、空挺作戦です。用意をお願いします」

 

「「了解」」

 

 一気にミヤコちゃんの号令で小隊が動き出す。すごい、お風呂のために統制が取れている。先生はまだ困惑気味だ。ごめんなさい。流石にあんまり知られるとミヤコちゃんたちが可哀想だから。

 

「えっと、みんなについて行っても?」

 

「ダメです」

 

「嫌だ」

 

「来んな」

 

「……ひっ…」

 

「なんか私の扱いひどくない?」

 

 先生がものすごい拒否られていて可哀想だった。ただ、4人だけ行かせるのは少し心配なのは私も同じなので、私が目をつけたのは空井さんが持って来たSRTの索敵用のトラックだ。

 

「RABBIT小隊のみんな。流石にヘリでいきなり敵地に飛び込むのは危ないよ。せっかくだし、手伝わせてほしいな」

 

「……どうするつもりですか?先輩」

 

「あのトラックを貸してほしいな。一応、前にやった研修で使ったことあるから、先行して索敵ぐらいはできるよ」

 

 それに、指揮車としても使えるから先生が乗るにもうってつけだ。

 

 ミヤコちゃんは私の提案にちょっと迷ったみたいだけど「お好きにどうぞ」と許可してくれた。

 

「ありがとう。先生、行きましょう」

 

「え?エリちゃんあんなゴツいの運転できるの?」

 

「先生、私の資料見てますよね?ある程度の特車は運転できますよ、私」

 

「そうだったね!けどなんで急にみんなこんな連帯感!?」

 

「いいじゃないですか」

 

「そうだけど!」

 

 先生を連れてトラックへと駆け寄って、車体側面観音開きのハッチを開けて中へと潜り込む。車内はSRTでしかお目にかかれない最新式の機器ばかりで、本来なら軍隊が使うような強力な装備だ。軽装とはいえ装甲もちゃんとあって、並の犯罪者相手ならこれだけでも大変な脅威になること間違いない。

 

「うわーすごいね。こんなの初めて乗った」

 

「先生はそこの通信機器がある席にかけてください。私がドライバーになるので」

 

 運転席に座り込み、幾つかのスイッチを立ち上げると、モニターが立ち上がり外の景色が映り込む。長細いのぞき穴を使う必要がなくて、運転がしやすそうだ。キルスイッチは入っておらず、エンジンスタートのボタンを押せば簡単にエンジンがかかる。

 

『RABBIT1より草鞋野先輩、聞こえますか?』

 

 エンジンをかけたことで各種機器も同時に稼働し始め、ミヤコちゃんから通信が入る。

 

「感度良好。はい、聞こえるよ。ミヤコちゃん」

 

『こちらも聞こえます。それで、武装集団が潜んでいると思しき座標はどちらですか?』

 

「あ、それなら今から送るよ。ミヤコ、モモトークのIDおしえて?」

 

『わかりました。私のIDは――』

 

 しれっと先生もミヤコちゃんのモモトークを入手していた。フレンド登録を済ませた先生が早速ミヤコちゃんに目標の座標を送る。

 

『座標確認。先生、先輩。そちらが先行しますか?』

 

「もちろん。みんなはまだ準備があるでしょ。先生、いいですよね?」

 

「いいよ」

 

『RABBIT1。了解しました。ではこれより、湯船……廃棄品奪還作戦、ぶどう作戦を開始します』

 

 ちょっとミヤコちゃんの本音が漏れてたけどしょうがない。

 

「エリちゃんの運転は久しぶりだなぁ」

 

「快適な旅を約束しますよ。それじゃあ出します」

 

 シフトを操作して、1速に入れてからアクセルを踏み込む。かなりのパワーだ。土を少し削ってから前に進み出す。林から出して、キャンプ場の中に出ると、モニターにヘリへ装備を積み込んでいるRABBIT小隊の姿が見えた。その動きは手早く、本当に早くお風呂に入りたいんだなってことがわかった。

 

 私たちは陽が沈みつつあるなか、作戦を開始した。

 

 

 

 

 

「先生たちおそいな〜」

 

 

 

 

 

 …ホシノちゃんのことを忘れていたことに気がついたのは夜が明けてからだった。

 

 




本作のRabbit小隊は周りの同級生からも若干責められてしまったり、尊敬している先輩がアルバイト生活を強いられていることを察したり、実は一番SRTの復活を盲目的なまでに願っているミヤコがエリカのせいで冷静になってしまったので割と現実的な落とし所になりました。
本当はミヤコが無茶苦茶ブルーになってしまう展開も書いてましたが書いててしんどかったのであっさりめになってます。

大雨の時に堅物なはずのサキが言った弱音がものすごく作者は印象に残っています。そして一番冷静に見えたミヤコが最も冷静でないことも。
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