頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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今回かなり長くなってしまいましたが、これでこの章は一旦終了です。
連続投稿は次章の2話まで、つまりは明後日までです。
今回は約1名ひどい目に遭う生徒がいますが、決して彼女のことは嫌いではないです。


Area-07「D.U.廃墟地区 セント・シリウス学園跡 #廃墟 #廃品 #再利用」

「怪しい武装集団?」

 

『はい!副局長!最近、D.U.で確認されたんです!なんでも廃品業者を強請っているとのことで』

 

 ミレニアムでの採寸の帰り、ガラガラな電車の中でキリノちゃんからモモトークでの通話がかかってきたと思ったらなんとも事件の匂いがするものだった。

 

『てっきり副局長のことですから、もうお耳に入っているものかと思いましたが』

 

「キリノちゃん、私だって四六時中外にいるわけじゃないからさ。物理的にその場にいなければ事件に出くわさないよ」

 

『それもそうですね!』

 

 キリノちゃんからの評価が絶大すぎる。私も流石に分身の術は使えない。イズナちゃんに一度やられた時も、あれは猛スピードで動いてる残像だったし、分身の術があるのなら教えてほしい。先生に教えてあげたい。

 

「それで?」

 

『最新の武装を持っているそうで、業者さんも抵抗できないと言っていました。中にはどうせあとは処分するだけだし、どうでもいいという方もいますが』

 

「いずれにせよ、強請はだめだね。安全局以外は動いていないの?」

 

『まぁこの程度の騒ぎですから……安全局で動いているのも本官だけで』

 

「……わかったよ、キリノちゃん。私も調べて見るね」

 

『助かります!それと、廃品だけでなく食品の廃棄品…これは賞味期限切れの商品の回収車も強請に合ってるそうです』

 

「食品も?…………D.U.だとスラムの方かな。わかった。それと、武器が最新って?」

 

『少なくともそんな強請犯が持っているのはおかしい装備とのことでした!実際に使用はしていなさそうですが、なおのこと不可解です!』

 

「ということはウチの…じゃなくて、そっちの装備じゃ対抗も厳しいね。次期装備の入札もしばらく先なんでしょ?」

 

『はい。ただ装備局の友達から聞いたんですけど、予算次第では現行のまま行くとも言っていました』

 

「うーん。ますますSRTの閉鎖が痛いね。了解。キリノちゃんも無茶しないでね。ヤバそうだったらシャーレの支援要請を使ってもいいから」

 

『副局長の力を借りられれば百人力です!もしもの時はお願いします!』

 

「任せて、キリノちゃん。大切な後輩だもん。格好つけさせてね」

 

『はい!』

 

 通話はそこで切れる。キリノちゃんからの信頼に応えるためにもちょっと動いてみよう。

 

 廃棄品、ってことだし、ソラちゃんも何か知ってるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 ――という話があって、私はRABBIT小隊に今回の話を持ち込んだわけだった。私のいつもの感覚が告げている。これは何か、大きな事件なのではないかと。いずれにせよ、後輩が困っていたので、実際RABBIT小隊の問題とキリノちゃんを助けるには一石二鳥の策だった。

 

 相手が最新の装備を持っているというのが気がかりで、SRTの力を頼りたかったのもある。

 

「ねぇ、エリちゃん」

 

「なんでしょうか、先生」

 

「なんでみんな私たちを避けてたんだろう。それに、一昨日はあんなに連帯感なかったのに」

 

「先生。いいじゃないですか。RABBIT小隊も纏まったことですし」

 

「なんかエリちゃんらしくないな〜」

 

「可愛い後輩のためですから。初めて見せますもん、先生には」

 

「そっか。エリちゃんのこと、また一つ知れたかな」

 

「ふふ。もっと知ってくださいね」

 

 話をしつつ、目標の地点から数百メートルのところに近づく。このあたりでいいだろうか。私は車を止める。停車位置は幹線道路から外れた林の中で、遠くに廃れた校舎のようなものが見える。D.U.地区に昔あったという学校の廃墟だ。いつの間にそんなの調べたんだって話は強請が頻発しすぎたせいで普通に後を付けた業者さんがいたので、そこに偶然話を聞けたからだ。

 

「先生、ちょっとすいませんね」

 

 運転席から離れて、先生の側行き、少し体が触れる。

 

「……そういえばエリちゃん香水つけてるよね」

 

「嫌でしたか?今更ですけど」

 

「ううん。好きな匂いだよ」

 

「……か、かぐのは流石にやめてください。恥ずかしいです」

 

「あ、ごめんつい」

 

 シロコさんも初対面で嗅がれたらしいし、先生、たまにそういう癖が出てびっくりしちゃう。ちょっとドキドキしつつも、先生の前にあるパネルを操作する。ボタンはなく全て液晶の操作パネルはミレニアム製で、チヒロちゃんが開発を手伝ったって言ってたかな。

 

「えっと、ソナーは私下手だから、暗視カメラで行こうかな」

 

 流石に本職の観測員じゃないので、音紋とかは見分けられない。なので、素直にカメラを使うことにした。パネルを操作してあげると、また別の画面にカメラが起動したウィンドウが出て、外の映像が映る。操作することで車体上部から伸びて、高い位置からの撮影ができた。

 

「すごいね。夜だけどくっきり」

 

「はい。さすがはミレニアム製です」

 

「え、これミレニアム製なの?」

 

「ミレニアムも外資を稼ぐのにこういった装備の入札に参加するんですよ。さっき公園で見せたボールもそのためのものです」

 

「へー。ウタハたちってよく凄いもの作ってるけど、こういう保守的なのもやるんだね」

 

「あ、これ車体自体はヴァルキューレ製で、乗っけている索敵装置がミレニアム製なんです。作ったのもチヒロちゃん…ヴェリタスですね」

 

「意外。こんな警察の装備も作ったりしてるんだ」

 

「チヒロちゃんは結構こういうバイトやってるんですよ」

 

 おかげ様で、私としてはあまり乱暴な言い方はしたくないけど、ゴミ同然だったヴァルキューレのセキュリティがものすごいハイレベルになったのは助かった。おかげでサイバー犯罪には一定の対策ができるようになったし。

 

 そんな彼女の作品であるこの“レッドハウンド”という偵察トラックは偵察に必要な全ての機能を網羅していてSRTに納入されたもの。ゴロツキ相手には完全にオーバースペックだ。

 

「見えますね。歩哨も入り口にはいませんし、校舎内に明かりが見えます」

 

「スケバンとかかな?それともヘルメット団?」

 

「どれもありえそうですが、彼女たちに強力な武器を持たせればもう少し暴れていたと思います。強請にしか使っていないのがおかしいですね」

 

 縄張り争いも多いスケバンやヘルメット団の各分派に強力な武器を持たせれば即、警備局がD.U.では飛んでくる事態になる。

 

「RABBIT小隊へ、こちらシャーレです。どうぞ」

 

『こちらRABBIT3〜、感度良好〜』

 

 風倉さんが応答した。通信の向こうからはヘリの音が聞こえる。

 

「目標の校舎廃墟に光が見えます。4階建ての校舎の3階です。外周に敵は見当たらない」

 

『了解〜。聞いたみんな?』

 

『RABBIT1より、シャーレ・草鞋野先輩。索敵ありがとうございます。RABBIT4は上空から支援を3と一緒に。RABBIT2は私と一緒に突入します』

 

『RABBIT2、了解』

 

『RABBIT3、りょうか〜い』

 

『……RABBIT4、了解』

 

 模範的な復唱から、気の抜けたもの、普段の様子とは真逆の冷徹さも感じられるもの。特に霞沢さんの変わりようがすごい。

 

 ヘリはかなりの高度まで上がっているようで、音は遠い。とはいえ、相手がある程度の練度であれば何かしらのアクションをしてもおかしくはないけれど、動きは見えない。けど、心配だ。PMC崩れだったら、とかちょっと。

 

「エリちゃん、心配だったら行ってもいいよ?」

 

「ですが、先生を一人にするのは心配です」

 

「大丈夫だよ。シッテムの箱もあるから。それに危なくなったらすぐ逃げるよ」

 

「……わかりました。指揮をお願いします」

 

 少しでも不安なのが見抜かれてしまったらしい。先生が許可してくれたので、私も行こうと思う。ただし、相手が重装備ならこっちもそれなりの準備をしよう。幸いにも私は今日、“いつもの装備”じゃない。

 

 久しぶりに捜査用のヘッドセット。そして、重犯罪用の“本来使っている装備”を持ち出す。普段使っている拳銃は副兵装に、ヴァルキューレでは予算の問題で導入を見送られたアサルトライフルを主兵装に変更。左手にはライオットシールド。

 

 ヴァルキューレの校章が本来は描いてあるシールドはその部分にシールで覆って隠してある。

 

「エリちゃんすごいね。そんな装備で動けるんだ」

 

「重装備の相手にはこれぐらいでした。私が副局長だから通せた装備ですね。通常の隊員の装備よりも強力かと」

 

 流石にシールドを持って大ジャンプだとかそんな芸当はできないけど、格闘戦は十分にやれる。

 

「先生、行ってきます」

 

「うん。気をつけてね。待ってるよ」

 

 トラックの扉を開けて外に出て、すぐに閉める。シャーレの生徒として、と言いつつもニコちゃんたちの後輩…となれば放っておけない私はどうしてもヴァルキューレ気分が抜けないのかな。先生はきっと、私にも“望んだこと”をさせてくれているんだ。

 

 私は降下前であろう、ミヤコちゃんに通信をかけた。意識を切り替える。

 

「RABBIT1、月雪、応答しろ」

 

『え?わ、草鞋野先輩?雰囲気が…』

 

「通信は簡潔に、かつ端的にしろ」

 

『ッ――!申し訳ありません。RABBIT1です。どうぞ』

 

「先生から許可をもらい、貴官らを援護する。1階からこちらは突く。混乱に乗じて屋上から突入しろ」

 

『了解しました』

 

『こちらRABBIT2。あんたは公安局や警備局じゃないだろ。そんな強行捜査できるのか?』

 

 装備のセーフティを解除し、ライオットシールドを構える。空井さんの疑問はもっともだ。生活安全局は突入なんてまず普通はしない。そもそも、私だって事件に居合わせるのが基本で突入をする必要がない。

 

 でも、部下(主にキリノちゃん)が遭遇した事件でどうにもならない時、私が警備局到着前に突入していた。だからできる。

 

「できるから言っている。貴官も聞いたことがあるだろう。安全局の狛犬の名前は」

 

 “公安局の狂犬”。その対となるから“安全局の狛犬”。それが私の異名の由来。それを覚えている人なんてもうほとんどいない。そして、この名前も遠くないうちにこの制服と共に置いていく。

 

『RABBIT2、口を慎みなさい』

 

『……フンっ。お手並拝見だな』

 

「いくぞ!」

 

 私はその場から全速力で駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 相手は明らかな犯罪者であり、凶悪な武装を所持している…という条件が整えばエリちゃんはきっと銃を抜くだろうなとは思っていたけど本当に抜いて、それに本気になっていたようだった。あんな重装備が本来の装備とは思わなかった。ミヤコたちにも劣っていない。

 

 指揮をするにあたって、エリちゃんはボディカメラをつけてくれていたのでその映像が私の前にある画面に展開されていた。トラックの側から駆け出したけど、まずその速度が異常だった。もはや飛んでるとさえ錯覚するような加速感。続けて、校舎前のグラウンドにたどり着いた瞬間、彼女は銃を一度シールドの裏にマウントすると手にスモークグレネードを持った。

 

『煙幕投擲!』

 

 掛け声と共に、手首の軽いスナップで飛んだグレネードは真っ直ぐ飛んで明かりが点いている3階の窓から中に入って爆発的な煙幕が漏れ出す。コントロールが良すぎる。

 

 煙幕の中から悲鳴が上がり、なんとか窓際に逃げ出した人影が映る。なんだあれ、やたらファンキーな格好をしたアンドロイドの市民…というかゴロツキ?

 

『チクショー!なんだってんだ!?』

 

 相手が手に持っている銃に見覚えがあった。あれは…そうだ、アビドスで遭遇したカイザーPMCの銃。高性能なもので生徒はなかなか持てないというものだったはず。なんでそんなものをこんな人が?

 

『動くな!手を上げろ!』

 

『あんだ!?ゔぁ、ヴァルキューレ!?どうしてここが』

 

 エリちゃんはすかさず銃を構えて相手に向ける。

 

『警告する!貴様たちには窃盗の容疑がかけられている!ただちに武装解除し、降伏せよ!』

 

『誰がするかー!一人だ、やっちまえ!』

 

 また煙の中から逃れた数人が上階からエリちゃんに向かって撃ってくる。エリちゃんはシールドを構えて攻撃を全て受け止める。そっか、ミヤコたちのために囮になるつもりなんだね。

 

 銃撃は使用している銃の性能がいいからか、かなりの衝撃を受けているように見えるけど、エリちゃんは微動だにしていない。

 

『……先生。カイザーPMCの使用している銃と似ています』

 

「エリちゃんも昔戦ったことがあるんだよね」

 

『はい。あの頃とは形は少し違いますが』

 

 それどころか冷静に相手を分析している。種族的に夜目もよく効いてるみたいだ。

 

「何かありそうだね」

 

『はい。ただ、練度は最低です。本当に武器だけをどうにか入手したのかもしれません』

 

「そんなに弱いの?」

 

『私がシールドをあえて大きく構えているので当たっていますが銃身が反動でブレまくりです。かなり外れてますね』

 

 となると、相手は本当にただのゴロツキということになるなぁ。エリちゃんにはどうしてもらおうか。このまま待っていてもいいけど、あの上階から撃ってきてる人たちも時間稼ぎな気がする。

 

『RABBIT1から草鞋野先輩へ、これより降下します!』

 

『了解』

 

 ミヤコたちがそうこうしている間に上空に到達し、降下してくる。撃っているゴロツキたちは自分達の銃撃のせいかヘリに気がついていなかった。

 

『RABBIT1、2。なんらかの組織と思われる相手だ。一部戦力はこちらに釘付けにしているが首魁は逃げようとしている可能性が高い。急げ』

 

『了解しました!急ぎます!』

 

『了解した』

 

 エリちゃんの指示の出し方がカンナにも劣らないぐらい怖い。本気のエリちゃんこんななんだね。

 

 しばらく銃撃を受けていたエリちゃんだったけど、相手の一部が弾切れだということがわかると、急激に動きを変えた。ライオットシールドを力任せにグラウンドの土の上に叩きつけて立てかけると、その後ろで膝をついて両手でライフルを構えた。

 

『警告に従わず発砲された。こちらも発砲する』

 

 言い方こそ硬いけど、エリちゃんはいつもの手順で銃を構え、そして引き金を引いた。けたたましい連射音とマズルフラッシュが画面を明滅させる。放たれた弾は全て正確に相手の武器を捉え、弾かせる。

 

『ひ、怯むな!持つ者の傲慢を許すな!』

 

 相手の一部はまだ抵抗を続けている。弾は全てシールドに阻まれているので当たらない。

 

 エリちゃんが遅滞戦闘を続けていると、ちょうど彼女の正面にあった校舎入り口から3人分の人影が出てきた。当然武装している。

 

『増援か……先生、このまま2人がくるのを待ちます』

 

「大丈夫?無理してない?」

 

『大丈夫ですよ。全然平気ですから♪』

 

 ギャップがすごい。エリちゃんの声音がいつもの割と可愛いめの高い声から、低い貫禄のある声の乱高下。これ、こういうの好きな子落ちちゃうでしょ絶対。コハルみたいな熱烈なファンがいるのも納得。

 

 新たに現れた3人は真ん中の1人が髭のようなパーツをつけており、服装からもリーダー格のようだった。

 

『ヴァルキューレかと思ったら単独でこんなところに来るとは……一体なんの真似ですか!』

 

 相手は当然ながらキレていた。当然エリちゃんの対応は冷たい。

 

『武装を解除し、手を上げ、地面に伏せろ』

 

『我々をなぜ襲うのですか!?』

 

『……貴様たちはなんだ?』

 

『我々は“所有せずとも確かな幸せを探す集い”…“所確幸”!』

 

 聞いたことない集団だなぁ。

 

『聞いたことがない』

 

『ヴァルキューレの生徒なのでしょう!清貧な生活とは無縁でしょうからね!』

 

 なんだろう、そういう思想派集団?エリちゃんは一応話に耳を傾けつつ警戒を緩めていない。正面の3人のうち2人は何せロケットランチャーを構えている。流石に直撃を受ければただでは済まないものだし。

 

『我々はただ、このあらゆるものに恵まれたキヴォトスで、生きるのに最低限必要なもの以外を捨て、自然そのままで生きる“無所有”から幸せを見つけ、生きている。物を欲せばそのために働き、すり減っていく。それでは幸せになれない。だから静かに働かず暮らしているというのに』

 

『ならその武器はなんだ?流浪者の類にしては過ぎたものだと思うが』

 

『この武器は親切な方々がトレーラーごと寄付してくれたのです。このキヴォトスで銃は生きるのに必要最低限なものですからね!』

 

 たぶんこの人たち、この時点で色々怪しいし、話をしても理屈こねて会話が成立しないタイプかな。エリちゃんはどうするんだろう。

 

『清貧というからには贅沢な嗜好品の類は求めていないのだろう』

 

『無論です!』

 

 ほんとかなぁ。じゃあ、あの廃品回収業者から強請ってるって話はどうなんだろう。

 

 しばらくエリちゃんたちの睨み合いが続くと、ミヤコから通信が入ってきた。

 

『RABBIT1から草鞋野先輩へ。校舎内に強奪したと思われる廃棄品の家具や、賞味期限切れの食品、ヴィンテージモノのワインや、価値のありそうな装飾品が見つかりました』

 

『了解。よくやった。こちらに首魁が逃げてきた。来い』

 

『了解。向かいます』

 

 往々にしてこういう手合いはこうだよね。ドラマでもそう。それにしてもエリちゃんが本当に副局長だったんだなって初めて思った。普段のエリちゃんってわりと隙あるし、口調も丁寧だし、砕けた態度も可愛らしい容姿も相まってとってもいいし、何より耳と尻尾が動きまくりでワンコである。

 

 イズナが忠犬系なら、エリちゃんは人懐っこい活発な大型犬というか。

 

 それがこんな狼のような鋭さを持ってるのはすごい。

 

『廃品回収業者に強請をかけたのはお前たちか?』

 

『そんなことするわけないじゃないですか。私たちは彼らから生活必需品を譲り受けただけです!まだ使えるものもたくさんあったのに…』

 

『確かに、そういった類のものもあるか』

 

『わかっていただけますか』

 

『だが、正規の手続きを踏まずに廃品業者の手にあるものを奪っているのなら別だ』

 

 エリちゃんが銃を構え直し、盾も手に取り直す。声音で空気感が変わったのがわかってしまう。相手もエリちゃんがこれ以上は話を聞く気がないと思ったのか、たじろぐ。ただ、上階からも狙われ、正面にも敵がいて重火力。この不利をエリちゃんはどうするつもりなんだろう。

 

 ………こういうときのために、私がいるんでしょう?

 

「ミユ、お願い聞いてくれるかな?エリちゃんの援護を」

 

『RABBIT1より、RABBIT4へ。先生からの援護要請に応えてください』

 

『……了解』

 

 ヘリはかなり高い高度にいる。それに多少なり揺れる中で、ミユの援護は…凄まじい精度だった。エリちゃんのボディカメラにはまるで虚空から撃たれたかのように上階にいる相手集団の面々がバタバタと倒れ、一部はそのままテラスから落ちてくる。

 

『えっ!?な、なにが!?皆さんどうしたんですか!?』

 

『警告する。

 

 あなたには黙秘権がある。

 

 あなたの供述は法廷で不利な証拠として用いられる場合がある。

 

 あなたには弁護士の立ち会いを求める権利がある。

 

 あなたには自分で弁護士を依頼する経済力がなければ、連邦生徒会公選弁護人をつけてもらう権利がある。

 

 あなたは以上の権利を用いることができ、供述をしないことができる』

 

 その警告が最後通牒なのか、カメラ越しにもエリちゃんの雰囲気が一段変わったとわかった。これまではRABBIT小隊の囮として戦っていたけど、目の前に首魁がいて、かつ証拠があるということで容赦の必要がなくなったのかもしれない。

 

『くっ……我々の生き方を邪魔されるわけには…!いかない!』

 

 エリちゃんの目の前にいる2人がロケットランチャーを躊躇なく放った。まずい、と思った瞬間にカメラの映像がブレた。かろうじて見えた映像からわかったのはおそらくエリちゃんは一歩、地面を蹴って一発目を避けたあとに、さらにもう一度地面を蹴って二発目を回避した。それを繰り返し相手に接近する。

 

 たぶん、まるで稲妻を描くようにエリちゃんは動いた。盾を持ったまま、軽やかに。

 

『はぁっ!』

 

『ぐぼぉ!?』

 

 エリちゃんが正面左の相手をシールドで叩きつけて吹き飛ばす。飛ばされた相手は校舎の壁をなんと突き破って消えてしまった。つ、強過ぎ!?

 

『なっ!?』

 

『次だ!』

 

 もう1人のロケットランチャー持ちにもエリちゃんは遅いかかる。相手のボスと思われる相手を一瞬で避けて、もう1人の前にたったエリちゃんは相手を足払いして転ばすとそのまま地面に向けて相手を盾でプレスした。歪むアンドロイド市民のボディ。あっという間に意識を失う。

 

『う、うわっ、わっ!?』

 

 尋常じゃないエリちゃんの力に相手は泡を食って逃げ出した。けれど、こんなエリちゃんが強いなら逃げ出すのも不可能なんじゃ。

 

『逃げられると――』

 

 当然追う。けど、エリちゃんが動こうとしたところで、突然目の前の校舎の壁が吹き飛び、中から二つの影が転がってくる。ミヤコとサキだった。2人は受け身をしっかりとって、飛び出してきた方向に銃を向ける。

 

「ミヤコ!サキ!どうしたの!?」

 

 私が心配になって声をかけると、余裕がないのか2人は声を出せていない。だけど、そこもエリちゃんは見越してかすぐに声を出した。

 

『状況!』

 

『…っ…すみません!正体不明の人型兵器が起動!襲い掛かられました!』

 

 人型兵器?なんだろう、と思ってたら校舎に開いた穴の中からソレは出てきた。カリフォルニアロールを両腕につけた4mほどの人型ロボット。全体的に箱を繋げて作りましたって感じの角ばったデザインだけど、ツインアイだったりしてちょっと子供心くすぐられる。

 

 いや、待った。今おかしい要素あった。なんで腕にカリフォルニアロール?

 

『デカルト。とっとと消えてください』

 

『ぐ、グリーンさん』

 

『これ以上はあなた方の“怠慢”に付き合う必要はないので』

 

『た、たいまん…!?くっ、やはりあなたも現代社会の哀れな存在…!』

 

『一応私たちはサラリーを貰ってるからね』

 

『お、覚えていなさい!我々を利用して…!』

 

『さようなら』

 

 デカルト、というらしい集団のリーダーは私がいる方とはまた別の林の中へ逃げていった。まさかあのロボットカイテンジャー?なんでこんなところに!?

 

 

 

 

 

 

 

 なんかよくわからない思想集団を抑えようとしたらカイテンジャーが出てきた。ちょっと混乱しそうになる。脈絡がなさすぎるんだけど。ミヤコちゃんや空井さんはひとまず無傷のようだ。

 

 それにしても、あのデカルトという人を逃してしまった。やってくれるなぁ。あと、このロボットから聞こえてくる声、すごい聞き覚えがある。あのときはだいぶ雑音がひどかったけど、今回はクリアだ。

 

「カイテンジャーグリーンだな」

 

『またあなたですか。あのときのお巡りさん』

 

 アビドスで出会ったATMロボを使ってきたカイテンジャーグリーン。あのときよりロボットは見た目がマシだし、大きい。

 

「なぜここに?」

 

『カイテンジャーの懐は寒いから。廃品でも利用できるものは利用しないとね』

 

「つまり、連中のおこぼれを?」

 

『最近彼ら、いい武器を貰って調子に乗っていたから、少しそそのかせば簡単だったよ』

 

 カイテンジャーの目的がいまいちわからない。あのときはお金を集めていて、今回は廃品集め。たぶん話からして、所確幸が強力な武器を持っている件とは別件。失敗した。流石にカイテンジャーがここにいるなんて思わなかった。

 

「カイテンジャー…こいつがあの指名手配犯か」

 

「初めて見ました。しかし、なぜロボット?」

 

 ミヤコちゃんと空井さんは初遭遇だったようだ。目的はわからないけど、あの時と違って今回はこっちから仕掛けられる。

 

『エリちゃん、どうするの?』

 

「先生、おそらくアレは無人機です。そして彼女たちは指名手配犯であり余罪もあります。容赦はしません」

 

『無理しないでね?』

 

「大丈夫です。任せてください」

 

 前回やられてるから先生からの信用がないのが悲しい。あのときから進化はしてそうだから注意しないと。

 

『さて、いいテストにはなりそう。他の連中が実戦データがほしいってうるさくって』

 

「2人は無理せず援護を」

 

「了解」

 

「指図するな!」

 

 ミヤコちゃんは素直に、空井さんは反抗的だけどちゃんと距離を取ろうと後退する。私がロボットに向き直った瞬間、相手は動き出した。両腕の手が変形すると、その中からガトリングガンが見えた。

 

 大口径のガトリングガンであり、放たれた瞬間に私は回避を選択肢した。地面を蹴って大きく飛び上がり、右手のライフルで相手の関節部を狙う。ただそれを読まれたのか、左腕の関節には当たったけど右腕は避けられる。

 

『また関節狙い?けど、着地はどうするの』

 

 飛んだので当たり前だけど着地を狙われる。そこを上空からの援護。霞沢さんの狙撃が相手の手先に当たり、射線がズレる。弾丸は外れて、私は安全に着地できた。

 

『上にいる…?ヘリ?ならこれで、と』

 

 もし、このロボットが前回の改良品となれば、と私は読んで跳躍した。案の定、肩のアーマーの上部が開いてVLSが見えた。まずい!ヘリを狙ってる!?

 

「風倉!狙われているぞ!」

 

『いやロボは流石に想定外なんだけど!?』

 

 相手が機械で、もう容赦するつもりもないので私は盾を右肩の付け根に向かって、全力で投げた。ロボの右肩から腕ごと外れて残った左側のVLSが放たれる――前に、私は肩の上に飛び乗って左手に拳銃を引き抜いて右手のアサルトライフルと共に肩の付け根に連射した。

 

 が、すぐに残った左腕に叩き潰されそうになったのでまたジャンプして避ける。結果、ミサイルが4発ほどヘリに放たれた。

 

『フレア放出!ミユ!』

 

『シッ――!』

 

 放たれたミサイルは3発がフレアに引かれて、回避不能な残り一発をなんと霞沢さんが迎撃してみせた。回避で揺れるヘリから高速のミサイルを撃ち落とすなんてまるで曲芸…!やっぱりすごいなあの子。

 

 今度はこっちの番!

 

「たぁっ!」

 

 アサルトライフルを腰の裏にマウントして、右の腰につけていたスモークとは別のグレネードを投げつけた。狙ったのはロボットの顔面。ただ、当然防がれる。腕を前に出されてグレネードは腕に突き刺さった。

 

『流石にそれは反応できる』

 

「RABBIT2!援護を!」

 

「チィ…!」

 

 後方からミヤコちゃんたちの援護射撃。相手は当然避けようとするけど、そうはさせない。私はグレネードを付けていたラッチに設けられたボタンを押し込んだ。途端に、グレネード……に見えていた“装置”が作動する。

 

 盾を前に出して、盾越しに、相手の腕に突き刺さった装置から激しい放電がされた。私が投擲得意と言ったら渡されたのがこれだ。白石さん曰く、手で掴めるサイズでありながら家庭1日分の使用量の電力を貯めておき、放つことができる電撃武器だ。

 

 さすがに人体に使うのはダメだよね〜〜って思ってたらちょうどいいテスト相手だった。

 

 動きを止めたロボにミヤコちゃんと空井さんの射撃が刺さる。さらに上空からは霞沢さんの狙撃が次々と的確に関節などのウィークポイントを打ち抜いていく。

 

『機体損……こう…不能……やっ……り…バリア……ないと…ダメか』

 

 音声も途切れ途切れになっていて、至る所から煙も上げてるのでもう動けないかな。よし、ならトドメを――。

 

『もう我慢できない。撃つよ?撃つね!』

 

「え?」

 

 頭上のヘリから複数の発射音。なんだろうと見れば光弾が夜空によく映える。み、ミサイル!?私たちまだいるけど!?

 

「おいバカ!モエ!まだ私たちいるぞ!」

 

「緊急退避!先輩!」

 

 ……待った。この位置じゃ間に合わない!後退する距離が足りない!

 

「ごめんね2人とも!」

 

「えっ、ひゃっ!?」

 

「うおっ!?」

 

 たぶん退避が間に合わないので一気に2人に近づいて脇に抱えて、さらに地面を蹴った。直後、背で大爆発。爆風に煽られながらもなんとか着地して、土をえぐりながら止まる。危な。カイテンジャーのロボ自爆するの忘れてた。

 

「ふぅ〜〜セーフ」

 

「い、いきなり抱えるな!」

 

「あ、ごめんね」

 

 空井さんを下ろし、ミヤコちゃんも下ろす。

 

「すいません。助かりました」

 

 ミヤコちゃんはわりと素直にお礼を言ってくれた。

 

 それにしてもどうなった……と振り向けば見事に廃校舎は大きく崩れ、今の爆発で起きたのか気絶させた所確幸の構成員が逃げていた。当然武器は回収して。ロボは当然ながら粉々になっているのでチヒロちゃんの解析にかけてみるしかないかな。カイテンジャーめ…まったく!

 

「ば、バスタブが……」

 

 空井さんが呆然としていた。参ったな。みんな今の作戦でさらに汗かいてるだろうし、お風呂なんとかしてあげたい。シャーレで入らすのはきっとみんな嫌がるので何か方法はないかな。

 

「どうしましょう……」

 

「と、とりあえず、まだ生きてるものもあるだろうし見てみない?」

 

 あまりにもみんなが不憫なのでもう少し粘ってみることにした。

 

『私も手伝おうか?』

 

「お願いします…先生」

 

 元はと言えば私が自分の都合もあってみんなに来てもらったので申し訳なさもあった。あと、全員逃げられたから手柄もない。カイテンジャーのせいだといえばそうなんだけどさ。

 

『も、モエちゃん……ね、ねんりょう……』

 

『おっと、流石に堕ちるから先帰るよ〜、流石に他人を心中させるのはやだし』

 

「了解。RABBIT3、4はキャンプへ帰還を。残ったメンバーで捜索します」

 

『了解〜。いい報告待ってるよ〜』

 

 ヘリが離れていく。規模の大きい戦闘になったせいだね。

 

 先生が来るのを待っていると、なんと先生は普通にトラックを動かしてグラウンドまで出てきた。先生運転できたんだ大型の車。

 

「お待たせ〜」

 

「先生、こういう車動かせたんですか?」

 

「すごいでしょ」

 

 Vサインする先生にちょっとかっこいいな、って思ってしまったのは内緒。先生はそのまま私たちの前に立ってずんずん歩き出した。危ない危ない。残党が絶対いないとは限らないし。私は当然ながら先生の左斜め前に立って盾も構える。

 

「サキ、私たちも行きましょう」

 

「言われなくてもわかってるよ」

 

 ミヤコちゃんと空井さんもついてくる。崩れた校舎はもちろん倒壊の危険があるので要注意だ。ロボットの爆心地の横を通る。まだ微妙に残骸が燃えているので煙っぽい。

 

「それにしてもカイテンジャー、こんなところで出くわすとは」

 

「はい。廃品を使ってまでというのは涙ぐましいですけどね」

 

 実際、お金ないからこういうことしてるんだろうなぁ。ただ、気になるのが前回よりはロボットが動いていたこと。この前のはなんだかんだで私に腹パンした以外はまともに攻撃すらできてなかったし、徐々に進化してるのがわかる。

 

「あとでリンちゃんにこれは報告しとこう」

 

「そうですね」

 

「おい、なんだそれは。カイテンジャーって指名手配犯だろ?なんでシャーレが追ってるんだ」

 

 空井さんが気になったらしく聞いてくると、先生が答えてくれた。

 

「ん?連邦生徒会から頼まれてるんだよ。色々あってね」

 

「……あのような凶悪な指名手配犯の調査は本来ならSRTが頼まれてもおかしくないようなものです。そういうことですね」

 

 先生を若干睨みながらミヤコちゃんが言う。察しがいいなぁ。先生はそれ以上は何も言わず、笑って誤魔化した。

 

「そういえば話を戻すけどさ、みんな何を探してるの?」

 

 空気を切り替えるための先生の言葉は見事に空気を悪くする方向で切り替わってしまった。先生…!ダメですって、聞いたら。

 

「あなたには関係ありません」

 

「同感だな。言う必要がない」

 

「違法なものじゃないことを祈るよ…」

 

 その後、廃墟の中を探索したけど目ぼしいものは見当たらなかった。バスタブらしき残骸とかは見つかったけど、使えたものじゃない。それに、湯をどう沸かすんだというそもそもの問題があった。

 

 一度探索を終えて、どうしたものかと私たちは頭を悩ませていた。先生も探索の最中に何を探しているのか察したらしく、一緒に考えてくれている。

 

「シャーレには頼りたくないよね?」

 

「当たり前だ!まだあんたらは敵だ!SRTの役目も奪ってるしな!」

 

「これ以上先生に貸しを作る気はありません」

 

 先生がまたミヤコちゃんのツンドラ対応と空井さんの敵視に晒されてる。ドラム缶風呂……って一瞬考えたけど、見える範囲にあるのはサビサビだ。穴は無さそうだけどあれを使うとなるとしっかり整備しないと無理そうだ。今そんな時間はない。

 

 シャーレがダメ…なら、シャーレ以外ならいいのかな。幸い、ミヤコちゃんは私に対しては比較的普通に接してくれているように思える。試してみよう。

 

 ちょっと気が引けるけど、携帯を取り出して私はこんな真夜中に電話をかけた。まさか出ないだろう、なんて思ったら4コール目ぐらいで出た。

 

『白石です。こんな夜更けにどうしたんだいエリカ』

 

「こんばんは。ごめんなさい、こんな遅くに」

 

 白石ウタハさん。ミレニアムのエンジニア部の部長で、ハルナの一件以来はそこそこ付き合いが出来た子だ。もう夜中だというのに、白石さんの電話の向こうからは明らかに何らかの機械が動いているのか、動作音や注意喚起用の音声が漏れてる。働き者だ…。

 

『いや、まだ作業のキリが良くなくてね、問題ないよ。それで何かな?この前渡した電撃くん15号の調子が悪かったかい?』

 

「そっちは大丈夫です。さっき使用して絶大な効果を確認しました。あとでレポート渡します」

 

『よかった。じゃあ、本題を聞こうか』

 

「……ものすごく都合のいいこと聞くけど、そちらで野外入浴用の装備って開発中だったりします?」

 

『エリカ、そんな都合よくいきなり聞かれて、ほいっと便利道具を出せると私を思っていないかい?』

 

「ご、ごめんなさい!気を悪くしたら」

 

『あるよ』

 

「え」

 

『それぐらいエンジニア部なら朝飯前さ。もし良ければ今からでもミレニアムまで来てくれ。前にSRTの装備入札で落ちた野外入浴用施設のセットがある。廃棄するのも勿体無いからもらってくれると助かるよ』

 

「あ、ありがとう!」

 

『なに。メカニックなら“こんなこともあろうかと”と言えるのは夢なのさ。じゃあ、待ってるよ』

 

 都合が良すぎて本当か疑いたくなるけどエンジニア部に行けばなんとかなりそうだった。

 

「先輩?今の電話は?」

 

「ミヤコちゃん!待ってて!私が今から用意してくるから!」

 

「いや、あんたの助けはいらな――」

 

「大丈夫!廃棄品だから!じゃあ、行ってきます先生!」

 

「エリちゃん?大丈夫?それとどこに?」

 

 善は急げだ!早速ミレニアムに行こう!

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……ごくらくごくらく〜」

 

 目の前にモエ自慢の爆弾2つが浮かんでいた。私はそれから視線をずらし朝焼けの空を見上げた。

 

 先輩の情報で怪しげな集団を襲撃したものの、カイテンジャーという今の私たちでは迂闊に手を出せない存在のせいで狙っていたバスタブなどの入浴装備は手に入らず、結果として草鞋野先輩の力を借りることになった。

 

 今入浴しているのはミレニアムサイエンススクールで作られて、私たちSRTに装備として入札しようとしていたという野外入浴セットだった。内容は言ってしまえば銭湯をテント内に再現したようなものだった。耐熱性に優れた防水シートを浴槽のように骨組みで張ってそこに外付けの湯沸装置を使ってお湯を注ぎ、さらにシャワーを幾つも並べている。

 

 設営も簡単で、こんなに優れた装備が選定から漏れるのはなんだかおかしな気がしますが、そうでなければ今頃私たちは非常に不衛生なまま過ごさなくてはいけませんでした。

 

 ……意地を張って、先生の申し出を断るのは正直なところ悪いとは思っているけれど、だからといって今この気持ちを曲げる気にはなれない。

 

「………きもちいいです……」

 

「ミユ、のぼせないように気をつけてくださいね」

 

「うん……」

 

 ミユも気持ちよさそうに浸かっていてホッとする。

 

「お前、ミユには甘くないか?」

 

「え?そんなことはないと思いますが」

 

「いや、甘いよ。まさか……」

 

「何を想像しているのかわかりませんが、私は小隊長として隊員を気遣っているだけです」

 

 サキもモエも、何を考えているのか。特にモエの視線がなんともうざったいもので、私はため息をついた。

 

「それにしても、あの狛犬さん、異常な強さだったね。ただ最初は絶対手を抜いてたでしょアレ」

 

 モエが草鞋野先輩のことに触れた。モエにどういうことなのか聞けば、空から見ていたから私たちが内部でカイテンジャーのロボットに飛ばされるまでの様子を見ていたらしい。草鞋野先輩はほぼ直接攻撃をせずに盾で耐えていたとのこと。

 

 相手が素人とはいえ、重装備だったから最初は動かなかったのかと思ったけれど、カイテンジャーが現れる前に見せた動きが凄かったらしい。

 

「まるで稲妻だったね。瞬きの一瞬でゴロツキのロケランを避けて一気に2人ノックアウト。しかも盾で気絶させて銃は使わず」

 

「………目では追えたけど……早くて照準が追いつかないかも……」

 

 ミユの目で見えても手での照準の補正が追いつかないのはさすがと言うべきなのか。それほどの力を持ってなお、不正に手を染めたというのだろうか。

 

「あと、警告してたね。5つの」

 

「警告ですか」

 

「そそ、明らかにヤバい連中だろうに律儀だったねぇ」

 

 沈黙が訪れる。朝焼けの中で囀る小鳥の声がテントの外から僅かに聞こえた。

 

「絶対の正義はない、か」

 

 そんな中で、サキが呟いた。

 

「サキ?」

 

「……昨日、エリカさんに言われたんだよ。相手が正義を名乗っても、お前たちは引き金を引けるのかって」

 

 私は自分の手を見た。トリガーにかける人差し指の感覚。指を引けば簡単に弾が出て、相手に打撃を与えられる。それは言葉も同じだ。指先を唇に這わせればあのとき先輩に投げつけてしまった言葉が頭を離れない。

 

「……ありがとうございます。昨日、私の話を聞いてくれて」

 

「なんだ藪から棒に」

 

 自分の正義を否定してまで行った行為。その意味。それを理解し、それでも前に進むならと私は今一度、みんなに昨晩聞いてみた。小隊長としてではなく、1人のSRTの生徒として。

 

 その答えが、デモではなく“SRTが必要だと示す”こと。この“選択”が報われるかはわからない。それでも、と足をすすめて、その先があるのなら。

 

 たとえSRTに入った理由に“正義”がなくても、みんなの中にあったSRTの生徒としての自覚が、選んだものだと思いたい。

 

「“正義とは、正当な権限のもとに行使されるべき権利である”。絶対の正義はない、だとしても己の正義を貫くための言葉。SRTの揺るぎない正義の根幹」

 

「大層な理念だよね。それ。けど、それって自己の正当化じゃない?」

 

 モエの言う通りだと思う。これはある種の誤魔化しだ。放ったものは何も取り消すことができない。言葉も、弾丸も。

 

 それを誰かの命令でなく、自らの意志が持つ“権利”で示す。

 

 万人共通の絶対の正義など存在しない。自分だけの正義を持って職務を全うする。

 

「モエ、正義とはそうなのかもしれません。あなたが大量の炸薬を使うことを正義だと思うように」

 

「いやいや、ただの爆弾魔だろ」

 

「教範絶対のサキだってそれが絶対の正義だって言えんの?」

 

「当たり前だ!教範は先人たちが記した正しさが残されたものだからな!」

 

「おぅ…マジで言い切った」

 

「ふふっ…サキの言うそれも正義なのでしょうね」

 

 私たちに命令できるのは連邦生徒会会長だけ。けれど、彼女は今いない。私たちは使い手に放置された武器も同然だ。そうであれば、SRTが何故突然このような状況になったのか、私はなんとなくだけれど、納得をしてしまった。

 

 納得はしたくなかったけど、私の冷静な部分が認めろと言ってくる。

 

 だから。

 

「ミユ、サキ、モエ」

 

 湯船から立ち上がる。夏前の僅かに冷ややかな朝の空気がお湯に濡れた身体には冷たかった。身を引き締めろ。そのように言われた気がした。

 

 目の前の隊員たち……いや、まだ学校に入ってから友達と言える存在すらいなかった私は同級生の3人にそれぞれ目をやった。

 

「お願いします。SRT復活のために、協力してくれませんか?」

 

 頭を下げた。これまでずっと、小隊長として引っ張ろう、3人のためにSRTをと思っていた。けれど、違う。みんなも同じだ。SRTに戻りたい。それはどれだけ性格の合わない私たちでも、同じ道を歩めるものなんだ。

 

「フン、当たり前だ。無駄なことをしてSRT復活を遅らせるなんて嫌だからな」

 

「ま、あんな装備使えるのSRTぐらいだし?」

 

「………わ、わたしも……SRTに戻れるなら……」

 

「ありがとう、みんな」

 

 犯した罪は消えない。あなたを傷つけた言葉は忘れない。

 

 そんな私の意志を尊重して選ばせてくれたあなたがいるところに正義があるのなら。

 

 もう一度、この私の正義を。

 

 今一度、あなたを信じてもいいのですか?エリカ先輩。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ?武器を渡したホームレスが壊滅した?」

 

『謎の爆発と共にな。根城は吹き飛んでいたよ』

 

「……誰が彼らを?」

 

『逃げ延びたやつを尋問したらすぐに吐いた。青髪に犬耳のヴァルキューレの生徒と、ウサギのようなヘッドセットをした見たことがない制服の生徒だそうだ』

 

「そうですか」

 

『SRTの生徒だろう。目的は達せられたのかね?』

 

「……要望は通しておきましょう」

 

『そうだな。こちらは仕事を済ませた。となれば当然、代価が必要だ。良い結果を期待しているよ。不知火カヤ防衛室長』

 

 カヤの手にある携帯電話の通話が終了する。無機質な通話終了の音を耳から離して、カヤは携帯を執務室の床に叩きつけた。当然画面は割れ、跳ね返った携帯は彼女の脛にあたった。

 

「いっだぁ!?いっ、いたい」

 

 たまらずカヤはその場で膝をついた。そして溢れ出す腹の底からの怨嗟。

 

「はぁっ、まったく!またですか…!私のお友達は困った人ですね!やらなくていいことをいつも勝手に!」

 

「やらなくてもいいこととは?」

 

「SRTの有用性を示せということであれば適当な武装集団を鎮圧すればいいと思って用意していたんですよ!それを勝手にエリカさんが殲滅し…!?」

 

 カヤは誰と話しているんだ、と顔をゆっくり上げた。

 

「ひっ」

 

 そこにいたのは月明かりの影になって、赤い瞳をぼぅっと灯らせたSRT特殊学園、FOX小隊の小隊長を務めているユキノだった。

 

「ゆ、ユキノ、い、いたのなら、何故声をかけないのですか」

 

「電話をするから黙っていろ、と命令されたのは不知火防衛室長ですが」

 

「…そ、そうでしたね!あ、あははっ、ついつい熱くなってしまいましたよ、私としたことが」

 

 カヤがふらふらと立ち上がる。ユキノから発せられる威圧感は消えない。カンナから感じた怒りとは比較できない、もはや殺意に近いものだとカヤは本能的に感じていた。思わず内股に彼女はなる。

 

「それで、先ほどの電話と、草鞋野副局長がどうされたと?」

 

「あ、あなたたちが言ったではないですか!正当な方法でSRTの正義と有用性を示す必要があると!ですから、おあつらえむきの相手を用意したんです!」

 

「続きを」

 

「その用意した“生贄”がエリカさんとあなたたちの後輩にやられたんです!全く、用意した見返りにカイザーの連中の要望は通さなくてはいけないのに、こちらの利益は0ですよ!おかげで!」

 

 頼りになる猟犬、そのリーダーであるユキノにカヤは遠慮なく愚痴を言った。命令には従順。まさに比類のない武器であるFOX小隊にカヤは絶大な信頼を寄せていた。カンナのように癇癪を起こして席を途中でいなくなることはないと思っていた。

 

「なるほど、理解しました。不知火防衛室長。あなたは我々のために“事件”を用意してくれたわけですか」

 

「えぇ。それもあの人のせいで全部台無しでしたが」

 

「FOX2」

 

「了解」

 

 ドグッ、と鈍い衝撃がカヤの腹部に伝わった。あまりの衝撃にカヤは何が起きたか一瞬わからなかった。いつの間にか目の前には桜色の髪が見えた。ゆっくりと確認すれば、そこには笑顔の能面が張り付いたニコがいた。

 

 カヤはニコに、腹部を殴られていた。

 

「うっ、ぐっ…!?」

 

 ニコが腕を引き、首根っこを掴まれ強引に床へ叩きつけられ、カヤはなんとか込み上げてくる腹の奥からのものを気合いで抑え込んだ。

 

「う、うぅっ、はっ、はっ、あ、ぅあ、な、なんで」

 

「FOX3、4。座らせろ」

 

「「了解」」

 

 背後から脇に腕を通され、カヤは手荒に近くのソファに叩きつけられた。

 

「うぐっ……はっ、うっ、あ、あなた、たち、連邦生徒会の、室長である私に、こんな、ことをして、ただで済むと」

 

「不知火防衛室長。忘れないで頂きたい。我々は確かに武器であるが、SRT特殊学園の生徒であり、その銃口は“正当なる権限”によって向けられることを」

 

「あ、あなたち、拾った恩を、わすれっ」

 

「室長、少し、お静かに」

 

 ニコが、そっと手をカヤの肩に置いた。身の毛もよ立つほどの、ユキノや、先ほどから黙っているクルミやオトギよりも、“殺してやる”と言外に言わんばかりの迫力をニコからカヤは感じた。

 

「ひ、ぃ、やぁっ、やだぁっ!」

 

「FOX3、4。室長を座らせろ」

 

「えぇ……いやなんだけど」

 

「クルミ」

 

「はぁ…了解、FOX1」

 

 ユキノは酷い状態のカヤを気遣うことなく、話を続けた。

 

「防衛室長、我々は確かにあなたに協力すると言った。その見返りとしてSRTの有用性を示す場を設けるとも。だが、先ほどのような手段は辞めてもらいたい。……草鞋野副局長のご友人であると言うのであれば、あのような行い、やって何とも思わないのですか?」

 

「…な、なにが、思うことがあるのですか。私は、あなたたちのために。選ばれたエリートであるあなたたちが、超人である私のように、評価されないのが、不憫だと」

 

 もはや泣きながらの弁明であったが、だからこそ、これは本心からだとユキノはわかり、頭を抱える。そして、エリカの友人でありながら、エリカがあのようなことになってしまった原因について、全く知ろうともせずに“本当に”罪を犯したカヤに。

 

「あなたがそのように思う限り、副局長は決して友とはならないでしょう」

 

 何故、とカヤの表情が困惑に満ちる。

 

「どうして?だって、エリカさんは、はじめて優しくしてくれて、趣味も、たくさん…」

 

「ご自身で考えてください。超人なのでしょう」

 

 ユキノはカヤに能力がないことは知っていた。正確には防衛室長としての能力が。ユキノは彼女がある意味リーダーとしての適性があることも理解しており、人脈だけは確かで、利用できると思い近づいていた。

 

 だが、これではエリカに合わせる顔もなくなるとユキノは打算的に人を利用した自らの浅はかさを呪った。

 

「不知火防衛室長。今後はあのような真似はしないでもらいたい。我々SRTは確かに閉鎖されたが、何もその権利はまだ消滅していない――シャーレにつけば、行使もできる」

 

「う、裏切るつもりですか!?」

 

「いいえ。だが、これ以上は勝手な真似はされても困る。あなたが草鞋野副局長の友人でありたいのなら、我々に従ってもらう」

 

「彼女を人質にしても何も意味はないでしょう!」

 

「副局長は親しい友人であっても己の正義を全うされる方です。あなたは彼女に銃を向けられたいのですか?」

 

 その言葉はユキノ自身の気持ちでもあった。

 

「なら、具体的に、何をすればよいのですか?」

 

「不正手段を用いず、我々を投入するに相応しい場所を探して頂きたい。あらためて、それがあなたに今後協力するための我々の条件だ」

 

「……いいでしょう。わかりましたよ、やってあげますよ!」

 

「“正義とは、正当なる権限のもとに行使されるべき権利である”。この言葉をあなたが真に理解できたとき、草鞋野副局長はあなたを友人としてみてくれるでしょう。期待していますよ、不知火防衛室長」

 

 この日、4人と1人の間の手綱は逆転した。

 

 

 

 




エリカの本来の戦闘スタイルはわりと某団長に近いです。
役割は普段の拳銃のみだと、ミドルのサポーター。フル装備だとフロントのタンクになります。

FOX小隊も本作では割と冷静ですが、逆にそのせいでユキノは人選ミスに今気がついてしまい、かなり頭痛い上にカヤの子供すぎる様子に同情すらしてしまっています。そのため主導権を逆転させて、なんとか真っ当な手段でSRT復活をもくろんでいますが、カヤちゃんもこのままとはいかないでしょう。

カヤちゃんがひどい目にあってますが作者は決して嫌いじゃないんです!本当です!!

一旦カルバノグ編は閉じますが、タイムスケジュール的なものなので後ほど続きます。

次回から夏編に入ります。
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