頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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連続投稿はここで一旦終了です。

この章は肩の力を抜いて読めるように頑張ります。


Area-02「定食屋”いなりや” #デリバリー #マイ椅子 #メガ盛り」

 レッドウィンターからの支援要請。受けたはいいもののすぐに私と先生は問題に直面した。そう、私たちに商才などなかったのである。

 

「ど、どうします?全員ぶっ倒します?並の生徒なら先生のために全部ぶっ倒せます」

 

「エリちゃん落ち着いて。出来てもやっちゃダメ」

 

 トモエさんから依頼を聞いた翌日、レッドウィンターへ出発する前に、とりあえず近くの定食屋でご飯食べつつ作戦会議をすることになったけど、全くいい案が浮かばず思わず混乱した私は変なことを口走っていた。

 

「お二人とも大変そうですね。どうしたんですか?」

 

「あ、ニコちゃん」

 

 このお店はニコちゃんがアルバイトしてるところなので、当然ニコちゃんがいる。割烹着姿がほんとによく似合ってて可愛い。先生が言った通りだ。ニコちゃんはサービスのお茶を汲みながら私たちに話しかけてきていた。

 

「ちょっと支援要請でレッドウィンターに行くことになって」

 

「レッドウィンターに?ちょうど遅めの夏至祭の案内が来てましたね。その協力ですか?」

 

「似たようなものかなぁ。ここも何かするの?」

 

「いいえ、店長さんは特に何も」

 

 チェリノちゃんが本来やりたい拡大版の夏至祭は現在アウトランド・リゾート地区となっているところで行うつもりなので、トモエさんはその開催前に片をつけてほしいと言われた。つまり期日があんまりない。地道に解決は不可能なのだ。

 

 となれば、一番てっとり早いのはオクトパスバンクを潰してしまうのがいいのだけど、これもできない。

 

 チヒロちゃんに調べてもらったら、なんとオクトパスバンクは架空会社だった。もう真っ黒です。

 

「草鞋野先輩が動くということは色々事件の気配がしますね。手伝いましょうか?」

 

「うーん、ニコちゃんたちの力が借りられたら百人力だけど、ヴァルキューレへの編入の邪魔しちゃうし」

 

「そうだね。ニコの申し出はありがたいけど、負担かけちゃうと悪いから」

 

 FOX小隊が来たらそれこそもう黒幕とっちめて終わりなので、レッドウィンターで土地の開拓なんてする必要がない。というか、このリゾート券に書かれてる開発って何を持って開発というのか全くわからない。

 

「気遣っていただきありがとうございます。ふふ、私たちの力を評価して下さってるからですね、先輩」

 

「派手に動くことになっちゃうし、たぶん報道も入るからね。ニコちゃんたちは顔も広く知られてるからね」

 

「そうですね。そう思うと、ちょっと軽率だったかもしれません」

 

「ううん。その気持ちだけでも受け取っておくね、ニコちゃん」

 

 ただ、FOX小隊の力が借りられなくても、誰かの手を借りなくちゃいけない。現地ではもちろん実力による領地の取り合いや売上による勝負も起きているらしい。実力者がいたら私一人じゃ戦力的に厳しい。

 

 RABBIT小隊の子たちも当然FOX小隊と同じ理由でつれていけない。

 

「ごゆっくりどうぞ〜」

 

「お茶ありがとね、ニコ」

 

「いえいえ」

 

 ニコちゃんがテーブルから離れていく。先生はどうしたものかと悩んでいた。

 

 何か助言してあげたいけど、何も浮かばない。このままでは時間だけが悪戯に過ぎていく。やっぱりもう全部殲滅でいいのでは?と物騒な気持ちが出始めた頃、定食屋さんの引き戸が開けられた。

 

「いらっしゃいま――せ…?」

 

 ニコちゃんの元気のいい声が途中で困惑に満ちたものになり、同時に入口から何か重いものを引きずる音がした。ガガ、ガガガガ、と角を立てているような音だ。まさか強盗か、と私が拳銃に手を当てつつ入り口の方を覗くと。

 

「………本日の日替わりランチを」

 

 そこにいたのはどう見てもどこかのお嬢様学校の生徒会長の天使のような羽を背にし、豪奢な椅子を引きずった生徒だった。変装にもなっていないデカいサングラスと不織布マスクが絶望的に似合っていない。

 

 彼女は空いているテーブルに近づくと、引きずっていた椅子を備え付けの椅子と取り替えて座った。マイ箸ならぬマイ椅子…!?

 

「ひ、日替わりランチ一名様でーす!」

 

 作戦時は冷静沈着なニコちゃんが動揺してる!?

 

「先生、あれ」

 

「どうみてもナギサだね」

 

 トリニティ総合学園の生徒会長の一人…というか、今は聖園さんや百合園さんが動けないため実質的な代表者となってしまった桐藤さんが、こんなトリニティから遠く離れたD.U.のごく一般的な定食屋さんにやってきている。

 

 なんで??

 

「声かけようか」

 

「え?いや先生どうみてもお忍びですよアレ」

 

「そうだけどさ。こんなところにいる時点でおかしいもん。心配だよ」

 

 気持ちはわからなくもない。桐藤さんは私がハルナと黒崎さんを追っていた頃に実質先生と敵対した結果破れ、かなりのトラウマと政治的な発言権を大きく喪失したと聞く。エデン条約の締結は今夏中にはもはや不可能で、秋以降になったらしいし。

 

「やぁナギサ。元気?」

 

「ごぶぅ!?」

 

 サービスのお水を口につけた瞬間に桐藤さんは水を盛大に噴き出した。

 

「あ、ごめんごめん。店員さん!拭くものをください!」

 

「はーい!」

 

 ニコちゃんが慌てて駆け寄ってテーブルを拭いてくれた。桐藤さんは少し咽せながらも先生がいるということで変装は無駄だと思ったのかサングラスを外してくれた。トリニティであった時よりもなんだか覇気がなくて、ようやく私と同じぐらいの子に見える。

 

 というか疲れてる気がする。

 

「お久しぶりです、桐藤さん」

 

「けほっ…ふぅ……先生だけでなく、草鞋野さんもいらしたんですね。ごきげんよう」

 

 なんとか取り繕ってるけど、なぜここにと言わんばかりの表情だ。こっちセリフなんだけどね。

 

「…………なんでここに、と言いたげなお顔ですね」

 

「そりゃね。例の条約とかのこともあって忙しいだろうし。何より今のナギサが一人で出歩くなんて他の子が許さないと思うし」

 

 桐藤さんは前の件で命を狙われた。だから本来はこんな一人でD.U.を出歩くなんて危険極まりない行為だ。そのことをトリニティの他の委員長たちが知らないわけがない。確か、先生から聞く限りではティーパーティーは一時的にホストの代理を他の委員長がしているらしい。

 

「忙しい…といえば忙しいですが、スケジュールが大きく後ろ倒しになったので今は時間が少し空いています。それに、私も並程度には戦えますよ」

 

 ちょっと意地を張ってるような言い方だった。強がってるというか…少なくとも、あのときに見たトリニティという大きな学校を纏めている支配者のような風格は微塵もない。桐藤さんの拳銃は丁寧に整備されていて白とピンクで華やかさもある小さな銃だ。確か、公安局で一時期採用されてた私服警官用のやつと同じだね。

 

 ただ、あくまでそういった用途のものなので、桐藤さんがよっぽど身体能力がいいとかじゃないと本当に並の制圧力しかないと思う。

 

「あのときは奇襲されたので。真正面からなら私だって」

 

「ナギサ、まぁまぁ…ここは奢るよ」

 

 色々あったのかもしれない。先生が桐藤さんの横に座ったので、私も同じテーブルについた。ここの定食屋さん、デリバリーが多いせいかお店がものすごく空いているのだ。確かに隠れ家的に訪れたというのなら桐藤さんのチョイスは悪くないかもしれない。

 

「それでナギサはなんでD.U.まで?」

 

「私だって学生ですよ先生。定食屋さんに足を運ぶのはおかしくないと思いますが」

 

「そりゃね。けど、ナギサのイメージ的にこういうところ行かなさそうだったから」

 

 先生の言う通りで、カフェとかならわかるけど、ここの定食屋さんは本当に普通のお店で、学生向けに量が値段の割に結構多い。すくなくともこんな桐藤さんみたいなザ・お嬢様は来ないであろうお店だ。

 

 そして、トリニティの中にあるなら100歩譲ってわかるけど、ここは学区外のD.U.だ。連邦生徒会とヴァルキューレのお膝元と言えば聞こえはいいけど、どの学校の自治区にも属さないアウトローもたくさんいるカオスな街であることは違いない。

 

 下手をすればこんな桐藤さんみたいな綺麗な格好をしていれば襲われる確率が高い。

 

「日替わりランチの“牛肉のニラ玉定食”です!」

 

「ありがとうございま…………」

 

「お客様?」

 

「な、なんでもありません。いただきます」

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

 ニコちゃんが運んできた定食は案の定、ご飯は山盛り、おかずも山盛りだった。桐藤さんは固まるもすぐに気を取り直した。たぶん食べきれないだろうなぁ。

 

「ニコちゃん、取り皿くれるかな?」

 

「はい、先輩!」

 

 サッと、特殊部隊特有の素晴らしい身のこなしで取り皿を提供してくれた。桐藤さんは私の意図を理解し、おずおずと「どうぞ」とおかずの皿を取り出した。翼が心なし元気なくしおしおになってる気がする。

 

「ナギサ、相談したいことがあるなら言ってほしい。あんなことがあったけど、君も私の生徒であることは変わりないから」

 

 先生がものすごい真面目なトーンで言ってくれている。私はニラ玉をよそいつつ、先生に続いた。

 

「桐藤さん。私は直接あなたと何かあったわけではないですし、先生に言いづらいのであれば私に言ってくれて構いません。シャーレは桐藤さんの味方ですよ。……先生も食べます?」

 

「あ、いや、私はいいかな。お腹いっぱい」

 

「じゃあ私が」

 

 ニラ玉はおいしいし、牛肉もどう考えても600円の定食のお肉じゃない。1200円ぐらい出してもいいと思う。桐藤さんもひとまず口にして、その美味しさに驚いたようだった。

 

「おいしい……」

 

「おいしいですよね」

 

「はい……なんでしょうか、ものすごく、心が温まる味です」

 

 桐藤さん、なんだか泣いてる?目尻に涙浮かんでる。先生がナチュラルに背中をさすってあげていた。

 

「うぅ……ぅ、うっ……」

 

「き、桐藤さん……?」

 

 そうしたら本当に泣き出してしまった。ど、どうしちゃったんだろう。桐藤さんは泣きながらそのあともご飯を食べ続け、最後に味噌汁を飲み干して、満腹になったおかげか泣き止んでいた。

 

「ごちそうさまでした」

 

「おいしかった?」

 

「はい。ここ最近では、一番」

 

「よかった。……何かお話、あるんだよね?私とエリちゃんが聞くよ」

 

「ありがとうございます」

 

 落ち着いたようなので、桐藤さんを連れて定食屋さんを出ることにした。お会計は先生が済ませ、椅子は私が持ってあげた。しっかりした作りなせいか結構重量があった。引きずるのもしょうがないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「それで何故こちらに?」

 

「盗聴の危険性も少ないからね、ここ」

 

 桐藤さんを連れてやってきたのは子ウサギ公園のRABBIT小隊の野営地だった。先生の言った通り、ここは盗聴されることもまずないし、桐藤さんが万が一襲われてもSRTのみんながいれば不測の事態にも対応できると思ってだと思う。

 

 ミヤコちゃんが嫌そうな顔をしつつも、私がごめんねと手を立てれば「仕方がありません」とため息をついて私たちだけにしてくれた。他のメンバーはそもそも今、食材を集めたりでいないらしい。

 

「あの方たちは……」

 

「まぁちょっとワケありでね。エリちゃんの後輩の後輩ってところかな」

 

「草鞋野さんの。ということは警察の方なんですね。お気遣いありがとうございます」

 

「全然。それでナギサ、わざわざ一人で来たってことは……君個人からの支援要請だね?」

 

 先生の問いに、桐藤さんは弱々しく頷いた。彼女は膝の上に手を置いて、ぎゅっと握っていた。

 

「………虫が良すぎるとは重々承知です。先生にあのような仕打ちをして、私の代わりにトリニティの危機を救って下さって。返しきれない恩があります。それでもなお、私は……ティーパーティーのホストではなく、ただの桐藤ナギサとして先生にお願いがあり参りました」

 

 真っ直ぐ、真摯な瞳が私と先生を見ていた。煙に巻くような雰囲気はなく、本当にただ純粋な気持ちだ。演技とは思えない。よく見れば、桐藤さんの制服からティーパーティーのバッジが外されていた。

 

「ナギサ、ティーパーティーのバッジは」

 

「お部屋に置いてきました。それだけの覚悟をもってここに私はいます」

 

「本気みたいだね」

 

 エデン条約がまだ締結されていないのに、下手すればそれを投げてしまう。それでもなお桐藤さんがここに来たというのはなんて覚悟なのだろうか。

 

「これ以上、私は、私の大切な人を失いたくありません。ですからどうか先生、草鞋野さん。力を貸してください」

 

 桐藤さんが席から立ち上がる。等身大の決意。桐藤さんと私は今日、初めて会ったのかもしれない。

 

「うん、いいよ。シャーレは生徒の味方だからね。それで、何をするのかな?」

 

「私とこのリゾートへ行ってほしいのです」

 

「ん?」

 

 なんだろう、一気に雲行きが怪しくなった気がする。桐藤さんが見せてきたチケットのようなものにものすごく見覚えがあった。どうみてもアウトランド・リゾートの開発権だ。

 

「ナギサ、それ、どこで?」

 

「トリニティで一週間ほど前に流通した怪しげなチケットです。既に回収しましたが一部が使用されています。その中には……ヒフミさんも含まれています」

 

「阿慈谷さんが?」

 

「はい。この噂のリゾートには海辺のような湖があると聞きます。そこに彼女はご友人と一緒に向かったそうで。どうやら、補修授業部の……アズサさんがこういった夏のイベントに触れたことがないので体験させようと」

 

 至ってまともな理由だった。ただ、確かに危険な場所に行っているのは違いない。

 

「それなら正義実現委員会に保護を頼まれては?」

 

「個人で動かすことはできませんし、何より今は正義実現委員会の委員長もこことは別のリゾート地で羽を伸ばしてもらっています。それを邪魔するほど私は無粋ではないのです」

 

「なるほど。……えっと、整理するね?桐藤さんは友達が心配だから護衛がてら私たちについてきてほしいってことだよね」

 

「端的に言うとそうなります」

 

 すごい個人的な支援要請だ。普通の依頼なんだけど、頼んできてるのが桐藤さんなのでただの依頼にはならなそう。それに、だ。

 

「そこ、私たちもこれから行く予定なんだ」

 

「それはなんと……偶然ですね」

 

「偶然なんだけど、私たちも遊びに行くワケじゃなくてね」

 

 先生の方へ視線を動かすと、先生は頷いた。どうやら桐藤さんを巻き込むらしい。いいのかな…外交問題にならないかな。

 

 それから先生はトモエさんからのお願いを桐藤さんに明かした。

 

「――事情は概ね理解しました」

 

「ナギサが個人的に行くなら止めないけど、大丈夫?外交問題にならない?」

 

「たくさんの自治区の生徒が来ているのなら今更かと。それに、問題がないようにすればよいのではないでしょうか」

 

「どういうこと?」

 

「今から私はシャーレのナギちゃんということで、よろしくお願いします」

 

 もしかしたら、私たちと同じぐらい桐藤さんも冷静じゃないのかもしれない。ただ、行くというのは絶対曲げないのはわかった。なら、ちょっとは手助けしないと。ちょうど桐藤さんと私の身長は同じぐらいだ。なら……。

 

「桐藤さん、それなら私の制服貸しましょうか?予備のがあるので」

 

「よろしいのですか?」

 

「うん。髪型も変えて、装備も私の拳銃を使えばパッと見はわからないと思うし」

 

「………ありがとうございます」

 

「先生、これならとりあえずは大丈夫かと。どうします?」

 

 桐藤さんが同行するのはこれで決まったと思う。先生に聞けば「まぁいいかな」と桐藤さんの同行を認めたようだった。

 

「ただ、もうこうなったら潜入捜査しようか。ナギサはお菓子作り得意だよね?」

 

「えぇ。人並みですが……?」

 

「カフェやろうか」

 

「「はい?」」

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、先生があのあと「他の準備はしておくからナギサと一緒にいてね」と言われ、桐藤さんに私の制服の予備を着てもらって指定されたシャーレの下にやってきていた。

 

「不思議な感覚です。他校の制服を着ることになるとは」

 

「よく似合ってますよ、桐藤さん」

 

 桐藤さんは私の予備の制服を着て、元々姿勢のいい人だからよく似合っていた。サラサラのブロンドはポニーテールにして、武器も普段の銃は装飾が多くて不釣り合いなので私の拳銃である“サイレント・リベレイター”に変更してもらった。

 

 代わりに私はアサルトライフルを持っている。

 

「武器まですいません」

 

「テストした限りでは扱えていましたし、その子との相性も良さそうですね」

 

「ありがとうございます。よく整備されていて、素直な拳銃だからだと思います」

 

 こうして話していると同僚と話しているふうに思えてくるし、桐藤さん本人は至って普通の子というか、話せば話すほど、本当に指導者向きの性格の子じゃないと思えてくる。先生の話を聞いていると聖園さんもそうだし、もしかしたら桐藤さんも周りに担がれてしまっているのかもしれない。

 

「それにしても、ダミー会社を使って他校に領地を騙し売って、そこで更に生徒を争わせる。まるで何かの介入を誘うかのようですね。草鞋野さん」

 

「そうですね。桐藤さんはどう思います?」

 

「……その、桐藤さんだとバレてしまいますので、名前で呼んでもらって構いません。同い年ですし」

 

「じゃ、喋り方もいいかな。ナギサちゃん」

 

「…はい。大丈夫です。エリカさん」

 

 柔らかな笑顔で、羽のおかげもあって天使みたいだった。トリニティの子はこういうちょっとしたところでくらっとくる魅力があるからすごいよねぇ。

 

「話を戻そっか。ナギサちゃんの言う通り、まるで外交問題をわざと起こしてくれと露骨に言ってるよね。今回はレッドウィンター側の配慮で抑えられてるけど」

 

「はい。ヒフミさんとは違い、本当に開発のために入ってしまった生徒もトリニティにいます。嘆かわしいことですが、あの規模であればそれこそ学校を立ち上げることだって出来るでしょう」

 

「それが黒幕の狙い…?」

 

「わかりませんが、不気味です」

 

 ナギサちゃんの推測をする姿はまるで探偵のように見えるし、持っていないはずなのにティーカップが見える。ヴァルキューレの制服なのに気品が全く損なわれてない。こんな子は部下にいなかったしなんだか新鮮だ。

 

「改めて聞きますが、本当によかったのですか?私を連れていくのは」

 

「そりゃ生徒から助けを求められたらね。それに、こっちとしても人は欲しかったからね」

 

「人手が……?」

 

「うん。そこでナギサちゃんが来てくれたのは助かったんだ。だからギブアンドテイクって感じかな」

 

 私が遠慮なく言えば、ナギサちゃんが驚いたような顔をする。どうしたんだろう。

 

「何か顔についてるかな?」

 

「い、いえ………エリカさんは私が思っていたような方とは違ったな、と」

 

「どういうこと?」

 

「見返りもなく人を助けると私は思っていました。昔のご活躍は聞いていますから」

 

「そんな聖人じゃないよ私は。それが私の仕事で、責務で、義務だったからね。今ナギサちゃんが着ている制服の…校章がヴァルキューレのものであったなら、この服を着る限り私はそれを果たしているだけだよ」

 

「果たすべき役目であると、そういうことですか?」

 

「ナギサちゃんがティーパーティーとして、学校を守ろうとしたのと同じだよ」

 

「私と……」

 

 ナギサちゃんは色々負い目を感じてるのかもしれないし、そう思うことは必要だ。けど、ナギサちゃんもまた“正義”を持ってぶつかったんだから、それを否定することはできない。先生と違って、直接ぶつかってないからかもだけどね。

 

「ふふっ…なんでしょうか、少しエリカさんのことがわかったような気がします」

 

「それはよかった」

 

「それにしても、先生は遅いですね。レディを待たせるとは」

 

「先生も女の子だけどね」

 

 遅いのは間違いないけど。どこまで先生は行ったんだろう。

 

 そうしてしばらく待っていると、車が走ってくる音が聞こえた。これは何かのバンかな?

 

「あ、来た」

 

「本当ですね。あれは……キッチンカーですか?」

 

「そうだね」

 

 運転席に先生が見え、白の明らかに無地なキッチンカーがこちらにやってきていた。そのキッチンカーは私たちの前に止まる。申し訳程度に側面に「わるきゅーれカフェ」と先生の字で大きく書かれていた。

 

「お待たせ!キッチンカーを借りてきたよ!」

 

「どこからですか!?」

 

「もちろん、わたくしのポケットマネーがあればこの程度……エリカさんと先生のためなら、これぐらいなんともありませんわ!」

 

 キッチン部分が開き、現れたのは……いや、会っちゃダメでしょ。なんでハルナがここに?ご丁寧に制服も着替えてカフェの店員風になってる。ただもちろん、悪魔の羽は隠せてないし、ハルナはゲヘナの生徒だ。つまりは、ナギサちゃんからすれば敵も同然だ。

 

 おまけにハルナは指名手配されてもおかしくない凶悪なテロリスト。ナギサちゃんの目や耳に当然入っているはずだ。悪名高き美食研究会の名は。

 

 ナギサちゃんの方に視線を向ければ……あれ?意外と平気そう。

 

「あの、先生、エリカさん。あちらの方はどちら様でしょうか」

 

 あれ!?知らないの!?

 

「ふふ。お嬢さん、わたくしは黒館ハルナ。この世の美食を探求し、全て味わうことを是としておりますの。先生からカフェを開くとお聞きしましたので、そのお手伝いと、カフェであなたが出す洋菓子の指南をさせて頂きますわ」

 

 先生を思わず見た。何を考えてるのだろうか。もしナギサちゃんのお菓子がハルナの好みでなかったらエデン条約がご破産である。先生は何故か問題ないよと親指を立てていた。いや問題しかないけど!?

 

「なるほど……助っ人ということですね。ゲヘナの方のようですが、ここは背に腹を変えられません。桐藤ナギサです。どうぞよろしくお願いします」

 

 スカートの裾を取って、ナギサちゃんは挨拶した。す、すごい気品だ。なんでかハルナの笑顔がひくひくしてる。ハルナもお嬢様だよね?いや、お嬢様はテロを起こさないので本物の天然お嬢様の迫力にやられてるのかもしれない。

 

「まさか、かのティーパーティーの洋菓子、ということですか。先生、感謝致しますわ。このような美食、今のゲヘナとトリニティではまず味わえないでしょう」

 

「そんなことないよ。ナギサもハルナも生徒同士だし、仲良くすればいつだって食べられるよ」

 

 その通りになるといいなぁ。

 

 ハルナは「とうっ!」と颯爽とした様子でキッチンカーから飛び降りると、ナギサちゃんの前までやってきて握手を求めた。うーん、ほんとにこう見るとどっちもトリニティのお嬢様っぽいんだけど、片方はゲヘナなんだよね。

 

「よろしくお願いしますわ」

 

「えぇ、こちらこそ。お近づきのしるしと言ってはなんですが、こちらはいかがですか?」

 

 ナギサちゃんいきなり行くの!?その人おいしくないと爆破されるよ!?

 

「フィナンシェですか。一口サイズのものですが、どちらの?」

 

「私が自分で作ったものです。急でしたがカフェの商品を試作する必要がありましたので」

 

「……では早速頂いても?」

 

「もちろんです。お口に合うといいのですが」

 

 自信なさげに言うナギサちゃんがとっても可愛いお嬢様をしていた。ハルナはビニールの包装を開けると、その一口サイズのフィナンシェを口に放り込んだ。そして、ゆっくり、確かに味わう。

 

 最後に、ごくんと飲み込んで残った風味を確かめていた。

 

「素晴らしいですわ。当然、マーガリンは使わずに作られていますわね。使われているバターはトリニティでも最高品質のものでしょう」

 

「そうなのですか?普段使っているものですが」

 

「……それに、何より甘さがしつこくなく、おやつにはもってこいです。これはよく紅茶と合いますわね」

 

「はい。友人と長く話すことが多いので、口が気持ち悪くならないように調整しています」

 

「作り手の細かな気遣いを感じますわ。……先生、ありがとうございます。このような素晴らしい出会いを設けてくださって。わたくし、感動していますわ」

 

「そりゃよかった」

 

 なんだかよくわからないけど、ハルナのお眼鏡にはかなったらしい。あと、やっぱりナギサちゃん優しいね。フィナンシェ、きっと聖園さんたちとのために作ってたんだね。

 

「よし、それじゃあ揃ったことだし、行こうか。リゾートへ」

 

「この四人だけで行くんですか?先生」

 

「ほんとは美食研究会の子全員に来てもらおうと思ったけど、やることあるらしくて、ハルナだけ無理を言ってきてもらったんだ」

 

「ゴールデンマグロはアカリたちに任せましたわ」

 

「ゴールデンマグロですか?よろしければお手伝い頂いたお礼に、このあと差し上げましょうか?」

 

「頂けるのですか!?」

 

「えぇ、たまに夕食で頂きますので」

 

 なんだろう。決してハルナも負けてないぐらいお嬢様なはずなのに、何かがナギサちゃんに負けている気がする。やっぱりテロリストだからか。

 

「し、しかし、ここは鉄の意志でお断りしておきましょう。部員たちの美食体験を奪うのはよろしくなくてよ」

 

「よくわかりませんが、大丈夫なのですね」

 

「えぇ、問題ありませんわ」

 

 相性が悪いのか、いいのかよくわからないけど、とりあえずハルナとナギサちゃんは大丈夫っぽい。

 

「よし!じゃあ行こうか!みんな!」

 

「「「はい!」」」

 

 先生の声に従って私たちはキッチンカーに乗り込んでいく。

 

 なんだかよくわからないパーティーになってしまったけど、とにかくアウトランド・リゾートへの潜入捜査が開始されたのだった。

 

 




ナギちゃん、生徒会長じゃなければヒフミよりも、もっと普通の子なんじゃないかなって……なんでハルナと一緒に行動することになったのかといえば、典型的なお嬢様といえばこの二人だと個人的には思ってWお嬢様したかったから。

ナギちゃんの戦闘力はモブよりちょっと高いぐらいかなと思ってます。元ネタ的に神秘は凄そうですが、政治力とかに能力ポイント全部振ってる感じ。今回はただのナギちゃんとして同行するので、ナギちゃんが憧れた至って普通の生徒となってます。
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