頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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今話入れて3話分連続投稿します。

流石に独自解釈や設定が増えてきたのでタグで注意としてつけときます。


Area-03「旧オレンジパウンド自治区 区道2号 #渋滞 #動かない #帰りたい」

 レッドウィンター自治区、というより正確には別の何かが支配してるアウトランド・リゾートへは私の運転で行くことになった。単純に運転に一番慣れているのが私だから、というだけで、大きな理由はない。

 

「ようやく見えてきたね〜!確かに前に来た時は春なのに真冬みたいだったけど、なんか暑い」

 

 先生の言う通りで、以前レッドウィンター自治区へ出向いた際は近くに来るだけで極寒で、雪も積もってた。こんな夏の暑さなんてないし、日差しも強くなかった。

 

「噂には聞いていましたが、これが異常気象ですか」

 

「わかりませんわね。何故こんなことが起こるのか」

 

 ナギサちゃんとハルナもこの状況には困惑しかない様子だった。道は一応舗装されてるけど整備状況は最悪で、もちろん戦闘も日常茶飯事なので、舗装の至る所が弾痕で捲れ上がって穴があいている。それらを徐行しながら避けて走っているので、遠くにアウトランド・リゾートらしき街の影が見えてもなかなか近づかない。

 

「それにしても、エリカさんの運転は丁寧ですね。ここまで揺れをあまり感じませんでした」

 

「そうかな?」

 

「当然ですわ。エリカさんはカーチェイスでも確保率100%。これぐらい朝飯前ですわ」

 

「なんでハルナが自慢げなの」

 

 ナギサちゃんの素直な賞賛に照れたらなんでかハルナが自慢していた。先生は何故か私たちを見て生暖かい視線を向けてきている。なんなんだろうか。

 

「黒館さんはエリカさんとどういったご関係なのですか?」

 

「ご、ご関係、というほど進んだものではございませんわ。さしずめ私たちはそう、運命の――」

 

「ナギサちゃん。その人、私とは警察と犯人ってだけだから」

 

「えっ」

 

「え、エリカさん!?そんな無体な!」

 

「少なくとも私の前では、でしょ。今回も変なことしたら捕まえるからね」

 

 ナギサちゃんが何故かしばし呆然として、吹き出した。

 

「ふふふっ」

 

「どうしたのナギサ、急に笑って」

 

「いえ、エリカさんもそのような言葉遣いをされるのだと思って」

 

「あ、ごめん。気分悪くしちゃったかな」

 

「いえ。決して。黒館さんとは仲がいいのですね」

 

 そんなことない、と否定したかったけど、私は少し先で何やら渋滞のようなものが見えたので速度を緩めた。なんだろう。こんな僻地で渋滞?先生も席から立って私の横に顔を出して正面を覗いている。

 

「おかしいね。こんなところで渋滞なんて」

 

「渋滞ですか…事故でもおきたのでしょうか」

 

「こんなところで事故なんて起こりますの?」

 

 お嬢様二人の感想は全く見当はずれで、どうやらこの渋滞は遠くのリゾートへの入場待ちの車列だった。あそこでこのチケットを見せて入れるのかな?まぁ、おかしくはないか。

 

「このチケットを使うのかもしれませんね」

 

「まぁ、そりゃなんのためのチケットか、って話だもんね」

 

 ただ、それにしたってこんな渋滞するだろうか。並んでいる車を観察してみようかな。サーフボードとかキャンプ用品らしきものをルーフの荷台に乗せていたり、キャンピングカーとかも見える。私たちみたいに商売目的で来たようには見えない。

 

 となればただの観光客?

 

「おい桐藤、ちょっと」

 

「は、え、エリカ、さん?」

 

「ぅわっ!?ご、ごめん!つい昔の癖でちゃった!!」

 

 私のおばか!なんでナギサちゃんをキリノちゃんたちみたいに扱ってるの!この子、トリニティの生徒会長でしょうが!恐る恐るナギサちゃんを見れば戸惑っていらっしゃる。うわー!どうしよ。

 

「うふふ、その声、何度聞いても痺れてしまいますわね」

 

「確かに……とても鋭く、思わず返事をしてしまいたくなるような声でした」

 

「え、えぇ、そうなの?」

 

 よくわからないけど、悪くはなかった、のかな?先生はまた笑っていた。もうっ。助けてくださいよ!

 

「エリカ、それぐらいナギサが素直でいい子だからつい呼んじゃったんでしょ?」

 

「先生、それはどういうことでしょうか」

 

「前のエリカの部下の子はね、素直で真っ直ぐな子だったんだよ」

 

「……まさか、私はそのような人間では」

 

「少なくとも、今のナギサは、なんのしがらみもないから、そう見えるよ。私も」

 

 フォローのつもりなのか、先生はナギサちゃんにそのように語っていた。キリノちゃんとは似ても似つかないけど、ナギサちゃんが本来は純粋でいい子なのはわかる。肩の荷が今は乗っていないからなのかな。

 

「それで、エリカさん?彼女に何を言いかけましたの?」

 

「いや、とりあえず前の車に話を聞いて来てほしいって」

 

 ハルナに聞かれたので、先ほどのセリフの先を言う。ナギサちゃんにさせそうになったのは聞き込みだ。この車列の人たちがなんの目的でやってきたのか。チケットは持っているのか。

 

「私がお話を?」

 

「うん。単純にこの並んでる人たちが何をしに来たのかなって」

 

 もちろん、ナギサちゃんにやらせるつもりはない。私が行こうと思ってシートベルトを外したら、何故かナギサちゃんもシートベルトを外した。

 

「ナギサちゃん、ごめん。ついつい言っちゃったけど私がやるからいいよ」

 

「いえ。今の私はトリニティの桐藤ナギサではなく、シャーレの、あなたの同僚のナギサという立場です。同じ”役目”を果たさせてください」

 

 柔らかい笑顔でそんなことを言われた。ナギサちゃんいい子だなぁ……それに比べてテロリストのハルナは、と思ったけど真面目な時はハルナもいい子だ。

 

 先生をチラリと見ると先生は行ってきなさい、と頷いた。

 

「運転は私が代わるから、エリカ、ナギサ。頼んだよ」

 

「了解です、先生。本官たちにお任せください」

 

 何も本当にヴァルキューレみたいに毅然とした態度で何かをするわけじゃないので、少し空気を軽くしつつ私は返事をした。席から離れてドアを開けて私は車から降りる。ナギサちゃんも私に続いて降りた。

 

「それで…聞き込みとはどのようにされるですか?私、小説ぐらいでしか知識がないのですが」

 

「うーん、そうだね。まぁ、3台ぐらい聞こうと思ってるから、最初の2回は横で見てて、メモを取ってくれるといいかな」

 

 話しつつ、私は制服のポケットに入れていた警察手帳とペンをナギサちゃんに渡す。もちろんバッジは外されているので、生徒証しか入ってないけど。

 

「これがエリカさんの入学当初のお姿なんですね」

 

「無愛想でしょ?」

 

「いえ、そのような」

 

 ナギサちゃんは気遣ってくれてるけど、私の生徒証の写真はまぁひどいものだと思う。カンナちゃんですら「目が死んでる」とハッキリ言ったのだ。その通りだと思う。

 

「それで、メモですか。何をとれば?」

 

「そのまま、重要そうだなぁ、って思った証言をとればいいよ」

 

「わぁ…まるで小説の刑事さんのようです」

 

「今は、それが私たちなんだよ?ナギサちゃん」

 

 楽しそうなナギサちゃんにそう言ってあげると、彼女はくすりとした。それにしても小説か〜、私そういう読書とは無縁だからなぁ〜……法規関連のはよく見てたけど。

 

「じゃあ早速行ってみようか。すいませ〜ん」

 

 私たちのキッチンカーの前に止まっている赤色のセダンの窓をノックすると、乗っていたのは一人の獣人系の市民だった。彼は私たち姿を認めて、慌てて窓を開けた。

 

「え、お巡りさん?何かしちゃいました?」

 

「あ、いえ。私たち非番でここに来てまして〜」

 

「あぁ…じゃあ夏休みの学生さんだね。どうしたんだい」

 

「この渋滞どうしたのかなって。ずっとこんな感じですか?」

 

「僕もさっき来たばっかりだからわからないけど、なかなか動かないね。海みたいな湖があるって聞いたから来たんだけど、これだけ待ってるってことは入場するのに何か必要なのかな」

 

 この人は一般の観光客だね。もうちょっと先の人に聞いてみようかな。

 

「ありがとうございます。もうちょっと先の方見てみますね!」

 

「そうかい。気をつけてね」

 

「は〜い」

 

 ひとまず会話を終えて、歩き出す。ナギサちゃんはメモをしっかり取れていた。

 

「観光客のようでしたね」

 

「うん。普通の観光客だね。もうちょい先の人に聞いてみようか」

 

 ちょっと早歩き気味で前の方へ向かっていく。どれぐらい動いていないのか聞いてみようかな次の人には。

 

 

 

 

 

 

 

 エリちゃんとナギサが出て行ったあと、ハルナがだいぶ面白いことになっていた。

 

「ハルナも行けばよかったじゃん。気になるなら」

 

「わたくしが嫉妬しているなんてそんなことありませんわ」

 

「一言も嫉妬なんて言ってないぜ、お嬢様」

 

「先生。からかうのも程々になさってください」

 

「めんごめんご」

 

 遠くに歩いていく二人をうぎぎ、と凝視するハルナは本当にエリちゃんを好きなんだなって。刺さる人には刺さるエリちゃん、本当にぶっ刺さった子はこうなってしまうわけだ。ある意味魔性の女…なのかもしれない。ハルナの場合は実際に助けてもらったのも大きいんだろうけど。

 

「それにしても、何故わたくしを頼られたのですか?先生」

 

「いや、経験者だからさ。こういう潜入捜査の」

 

 なんでハルナに頼ったのかといえば、やっぱり前回の潜入捜査があったからだ。あのときは見事にコユキという生徒を救ってみせたし、咄嗟の機転もよかった。今回はリゾートだけど、“世間知らずのお嬢様がままごとでカフェを開く”というシチュエーションはある種受けがいい。

 

 生徒たちを囮にするようなものは避けたかったけど、本当に危なくなれば私がもちろん前に出るつもりだ。

 

「期待頂けるのは悪くありませんわ。桐藤さんを誘ったのは説得力の補強、ということになりますの?」

 

「いや、ナギサはナギサで目的があるから。あくまで同行だよ。今着てる制服もエリちゃんと一緒だから、側から見たらハルナの護衛の二人だね」

 

「私的に警官を護衛に使う……というのもマッチしていそうですわね。これから向かうところに」

 

 ハルナは悪戯っぽく言ってみせた。

 

 正直言って、今回の事件は私としても放っておけないんだ。この依頼をトモエから聞いた時、嗅いだ覚えのある臭いがした。悪い大人の臭いだ。だから、夏休みだなんだと、そんなことはどうでもいい。

 

「……先生、お顔が怖くなっていますわよ」

 

「え?嘘?やだなぁ、そんなことないよ」

 

 隠しきれないぐらい、警戒をしているのはしょうがないと思う。

 

 ハンドルを握りつつ、これから向かう先に視線を向ける。

 

「先生は今回の件、何を知っているのですか?」

 

「何も。たださ、今回みたいなやり口。なんか見覚えあってさ」

 

「エリカさんみたいですわね。勘ですの」

 

「そう。勘だよ。けど、勘ってさ、経験を元に頭ん中で勝手に予測した結果って言うじゃん?」

 

 やり口が生徒のものじゃない。明らかな悪意と、確かな目的を感じる。生徒たちを利用し、食い物にしている大人がいる。かつて、アビドスの子たちを弄んだあいつらみたいな。

 

 だけど、黒服のクソ野郎みたいな感じじゃない。地に足がついたものだね。

 

「なんであれ、私の生徒に手を出すのなら、わからせてあげないとね」

 

「情熱的ですのね。相変わらず」

 

「そうそう。私は熱血教師なんだよ」

 

 相槌を返しつつ、エリちゃんたちを見続ける。二人はだいぶ先まで行ったのかちょっと姿が小さくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 2台目に声をかけたけど、1台目と同じく観光客だった。もしかしたらこの渋滞はリゾートの入り口で何らかの検問があるのかもしれない。レッドウィンター連邦学園の自治区境の検問所は知ってるけど、こんな渋滞を作るような厳しさではないはず。そもそも、士気が低いせいで、結構雑だったって聞いたことがある。

 

 いっそのことそこまで行ってしまおうかな、なんて思ったらちょうどよく引き返してくる車が見えた。ボロボロの軽バンで、私は手を振って止まってもらおうとした。すると、相手は素直に速度を緩めて私たちの前に止まってくれた。

 

「あれ、エリカじゃん」

 

「君たちは…」

 

 手回しハンドルの窓なせいか、ぎこちなく開いた窓から顔を見せたのは、先生と知り合いのスケバンの子だった。サングラスを頭に乗せてバカンス気分なのがわかるけど、なんだかイライラしてそうだった。特に助手席の子はそっぽを向いている。

 

「そっちのは見たことねーけど、警察に復帰でもしたん?」

 

「ううん、私たちもここにバカンスに。けどこの渋滞にはまっちゃって、どういうことなのかな〜って聞いて回ってたの」

 

「なるほどな」

 

 チャンスだ。こっちに戻ってきた人ならこの先のことを知ってるはず。早速聞こうと口を開いたら、私が聞くよりも早く隣から緊張で硬くなった声が聞こえた。

 

「あ、あのっ、もしよければ、この先で何があったのか、お聞かせ願えませんか?」

 

「新人?」

 

「そうなの。ちょっと練習も兼ねてね」

 

「ふーん。ま、どうせもう帰るし教えてやるか。先生には世話になってるし」

 

「ありがとうございます!」

 

 初々しいナギサちゃんにほっこりしつつ、スケバンの子はこの先で起きていることを教えてくれるようだ。

 

「私たちもこの先のリゾートに行って遊ぼうとしてたんだけどさ、なんか入るのに馬鹿みたいな額の入場料が必要だとか言われてさ」

 

「入場料ですか?おいくらだったのでしょうか」

 

「一人5万クレジットだったかな」

 

「5万クレジットですか、それなら払え――」

 

「高いね!せいぜい2千円とかならわかるけど!」

 

 古典的なお嬢様ムーヴしそうになってたナギサちゃんをフォローする。いや、一流のスパリゾートとか富裕層向けの会員制の施設ならわかるけど、今から行くとこ誰でも入れるはずだからね?そもそもただの一地区だし。

 

「えっと……」

 

「本当に新人なんだな。まぁ肩抜こうよ、なぁ」

 

「は、はぁ…?」

 

「そ、それでさ、誰が検問してたの?レッドウィンター?」

 

「いや?あれはオデュッセイアの連中じゃないかね」

 

 オデュッセイア、といえばミレニアムとも関係が深いオデュッセイア海洋学校だけど、こんな内陸も良いところになんでいて、おまけに入場料を取ってるんだろう。ナギサちゃんも困惑している。

 

「オデュッセイア海洋学校といえば、ゴールデンフリークス号をはじめとした観光用の船舶も多数所有し、このような内陸部に観光資源を取りに来る必要性は皆無かと思いますが、どうしてでしょうか」

 

「知るかよ。銭ゲバなのは聞いたことあるけどあんなボッてくるとは思わなかった。まぁいいや、先生ならたぶんカードで払えるだろうし、エリカたちは楽しんでこいよ。アタシらはD.U.の海岸に行くからよ。じゃーな」

 

 スケバンの子たちはそれきりで車を急発進させて行ってしまった。排出された排気ガスを避けるためにナギサちゃんが羽を顔の前に出していたけど、ちょっとむせていた。

 

「けほっ…粗暴な人たちでしたね」

 

「まぁ、あの子たちも根っからの悪人ってわけじゃないし、収穫はあったね」

 

「オデュッセイアが検問…というより入場ゲートをやっている、ということですね」

 

「そそ。本当にいろんな学校が来てるって言うけど、もうある程度の縄張りは出来てるのかも」

 

「……既に出来ている領地で私たちが開拓者として入るのは厳しいのではないでしょうか」

 

 ナギサちゃんの推測はたぶん合ってる。下手すればこの先の検問でドンパチするハメになる。そもそも、トモエさんがこのあたりわざと言ってないのは流石の不親切さだ。おそらくは私の戦闘力頼りに強引に問題を起こしてレッドウィンターの風紀委員を介入させようって魂胆もあるかもしれない。

 

 トモエさんは言っていなかったけど、そもそもレッドウィンターが介入できないのは理由がないだけで、理由をでっちあげればいくらでも彼女は得意のアジテーションでバーサーカーと化したキヴォトス随一の生徒数を誇る学園の治安維持部隊を投入することができる。

 

 今回はきっと先生も何かを感じとってあえてトモエさんの思惑に乗っているんだろうけど、オクトパスバンクの隙を見つければ即刻アウトランド・リゾートが焦土になってもおかしくない。

 

 トモエさんからすれば、私たちはその隙を作るための針でしかないはずだ。

 

「ナギサちゃんの推測はきっとあってるね。なら、別ルートを探してみようか」

 

「あるのでしょうか」

 

「無ければ聞かないと」

 

 利用してくるのならこちらも利用しなくちゃね。特に今回はただ友達の無事を確認したいという純粋なお願いをしてきた子を連れてる。私は携帯を取り出して、トモエさんに電話をかけた。

 

『はい、佐城です』

 

「トモエさん、こんにちは」

 

『こんにちは、エリカさん。どうしましたか?』

 

「アウトランドの近くに来たんですけど、なんだかオデュッセイアの子たちが法外な入場料を取ってるみたいなんです。他に中に入れるルートはありますか?」

 

『あら、そうなんですね。広いエリアですからいくらでも中に入れると思いますが』

 

「レッドウィンターの正規の検問所はないのかな?」

 

『まだありませんね。ですから、そこ以外に道が通じていればどこからでも』

 

 トモエさんの声は本当に聞こえがよくて、嘘や真実がわかりづらい。きっと、なんの事前情報もなければトモエさんは本当に善良で優しくて、むしろ助けてあげたくなるような女の子にさえ見えてくる。

 

「ところで、もうリゾート内で縄張り争いが起きてたりする?」

 

『えぇ、起きてますね。紛争…とまでは行きませんが各々のリゾート地で顧客の取り合いをしているようです』

 

「あの検問、いつからやってたのか知ってる?」

 

『今日からですね』

 

 聞かれなかったので言わなかった、と言わんばかりの白々さにトモエさんがこの怪物的な巨人の学園を治めている生徒だと強く実感させられる。必死だったナギサちゃんのなりふり構わなさが可愛く思える。

 

「わかった。ありがとう」

 

『どういたしまして。お気をつけてくださいね』

 

 通話を終わらせて、息を吐く。先生もこんな感じなのかなぁ、仲良くしなくちゃいけない生徒とこういう形で渡りあわなくちゃいけないのは。

 

「エリカさん、今のは……」

 

「レッドウィンターのトモエさんだよ。ナギサちゃんも聞いたことあるでしょ?」

 

「油断ならない方であるとは存じています」

 

「ほんとね。油断したら呑まれちゃいそう。それじゃ戻ろうか。先生にこれからのこと話さないと」

 

「はい」

 

 このまま渋滞の中待ち続けても意味がない。だったら別の道から行かないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……会長、これは」

 

「正式名称、対艦用レールガン“スーパーノヴァ”。アスナに直撃して動けなくさせる程度の威力はあるそうね」

 

「えぇ、確かにその通りです」

 

 アカネは多数のモニターを背に語る主人の言葉に答えつつも、疑念が尽きない。スーパーノヴァと呼ばれたレールガンは、ミレニアムサイエンススクールきっての天才集団であるエンジニア部が開発した、まごうことなき“現代のオーパーツ”であり、それを自在に操れる使い手が現れてしまったこともある種不幸であった。

 

 ミレニアムサイエンススクールの生徒会長であり、学生らしからぬ、まるで企業の代表取締役のような貫禄を見せる調月リオ……このミレニアム最高の秀才であり、天才の彼女の目に留まってしまったのだから。

 

 アカネはC&Cの任務でこのスーパーノヴァを持った生徒、天童アリスと交戦したことがある。まだ一年生であり、経験値は絶対的に足りていなかったが、それゆえの無謀さと、その無謀を通すだけの力であるスーパーノヴァを以って、ミレニアム最強の暴力装置であるC&Cと渡り合ってみせたのだ。

 

 それをリオが見逃すはずがないとアカネは表情に一切出さず、苦い思いをする。

 

「アカネ。“彼女”は仕上がったというのは間違いないのね」

 

「はい。コールサイン04、トキ」

 

「こちらに」

 

 アカネはC&Cの教育係として、背後に控えていた少女を呼びかける。アカネと同じく、正統派と言っていいクラシカルなロングのメイド服を身に纏い、両手を前で重ねたミレニアムの奉仕者たる姿。

 

 トキ、と呼ばれた彼女はともすれば人形のような無機質さを感じさせるほどの整然とした様子であった。

 

「リオ様、なんなりとご命令を」

 

 そして声音さえも、彼女は無垢な人形のような平坦であった。

 

 リオの注文で、アカネはトキを鍛えあげたが、元からの気質なのか、ここまでのものを求めたわけではなかった。だが、居場所を求めるトキがそう“成って”しまった。これまで二人のメイドを仕立てたアカネも、トキの仕上がりにはある種の恐怖を感じつつある。

 

「トキ、テストよ。この任務を以ってあなたは正式にC&Cのコールサイン04として、そして、今後は私の専属として動いてもらうことになる」

 

「承知しました」

 

「専属…?会長、どういうことですか」

 

「アカネ」

 

 リオの瞳がアカネを咎める。主人の発言に異を唱えるなと言っていた。

 

「今後はトキの存在を明かすことも禁じる。いいわね?」

 

「……わかりました」

 

 承服しかねる。アカネはそう思ったものの、身体と言葉は彼女の役目が支配し、望まぬ言葉と表情を見せる。トキがアカネの横から一歩前へ出た。

 

「テスト内容はプロトタイプ・アビ・エシュフの戦闘テスト。装備はノアに今後渡すことを想定したスーパーノヴァのコピー品…スーパーノヴァMK2“アララト”も同時にテストしてもらう」

 

「了解しました」

 

「会長。僭越ながらご忠告を。トキはまだ見させたくない、ということであれば何故実戦でのテストを」

 

「偽装は済ませてあるわ。ちょうどここ最近、キヴォトスでは人型ロボットが暴れる事件が起きているそうね」

 

 リオが手に持つ端末を操作する。すると、空間投影型のディスプレイが現れ、映像が流れる。それらは全て、本来であればミレニアムの生徒が見ることが叶わないもの。

 

「……これはシャーレの、草鞋野さん…?」

 

「連邦捜査部シャーレ、彼女らが交戦したカイテンジャーの試作兵器と思しき人型兵器。遠隔操作による反応速度の遅れ。離脱を考慮していない機動性の無さ。ハンドメイドの程度の低い完成度ね」

 

 カイテンジャーが聞いていればリオに怒りを覚えるような評価であったが、現時点では正しい評論だった。アカネはすぐに気が付くと同時に、この主人に倫理観などないということも思い出した。

 

「(いや、正確にはわかっている。わかっていても、会長はそんなものを前に、止まらない)」

 

 セミナーという、自身の直下組織に問題児であり本来は問答無用で矯正局へ放り込まなくてはいけない黒崎コユキを招き入れたのは決してその能力をミレニアムのために生かしてほしい、などという優しさではない。また、コユキが同じくセミナーのユウカやノアに愛されるという感情さえも考慮して。それをアカネは知っている。

 

「寿司ネタを模した偽装を施したプロトタイプ・アビ・エシュフをこの地区に投入する」

 

 平然と偽旗作戦を提示し、さらにリオがテストの地として提示したのはレッドウィンター連邦学園の自治区であった。

 

「何をしようというのですか、会長!?他の自治区への介入は…!」

 

「この地区はまだ正確にはレッドウィンターの土地ではないわ。カイザーコーポレーションのダミー会社の持ち物。つまりはレッドウィンターも介入できない治外法権。そして、今この地には多数の自治区から生徒がやってきている。戦闘データの収集に適しているわ」

 

 正気の沙汰ではないとアカネは思わずリオに忠告したくなる。下手を打てば、あらゆる自治区に対し喧嘩を売ることになる。しかも、もしテスト中にやられようものならトキの身柄は保証できない。彼女は今、公的には“存在しない生徒”なのだ。

 

「04単身での任務遂行は不可能です。会長」

 

「バックアップは用意してあるわ。同じ偽装を施したAMAS数機、それと現地へはアカネ、あなたが輸送機で高高度を飛行して運びなさい。トキはテスト後、アビ・エシュフに搭載したロケットブースターで輸送機に帰還し、戻ってきなさい」

 

「了解しました」

 

「……了解、しました」

 

 トキは当たり前のように了解し、アカネは一瞬の戸惑いを飲み込み承伏する。命令に背くことはできない。ミレニアムサイエンススクールの奉仕者であるアカネは、ミレニアムそのものと言っていいリオへ逆らう術を持たないのだ。

 

 話はそれだけ、と言いたいのかリオは二人に背を向ける。無言の命令にトキとアカネは従い部屋から出ようとした。しかし、そうしようとした瞬間、

 

『ようやく繋がりましたよ、ウタハ』

 

『助かったよ、ヒマリ』

 

 音声のみであったが、突如として特異現象捜査部の部長であるヒマリと、エンジニア部の部長であるウタハの声が室内に響いた。

 

「…ヒマリに、ウタハ?勝手にネットワークに侵入して強制通信。なんの真似かしら」

 

『いや、なに。同級生のよしみとして一つだけ伝えておこうと思ってね、リオ』

 

 ウタハの声音は穏やかであった。アカネもよく知る、冷たい鉄を解くような暖かさのある声。

 

『君が“スーパーノヴァ”をデッドコピーしたのは知っている』

 

「なんのことかしら」

 

『あぁ、気を悪くしたなら謝る。君のことだ。実用性を重視し、よりスリムに、軽量化……開放式のバレルにでもして、改良していることだろうね』

 

 アカネは驚いた。先ほど、リオが見せた――いずれセミナーのノアに渡すつもりだというスーパーノヴァMK2“アララト”の形状をウタハは言い当てたのだ。そして、デッドコピーしたという言葉にリオは気分を害されたことも察してみせた。

 

 ミレニアムというスペシャリストが集まる“部活”の長は、大抵の者が只者ではないのだ。リオという“最高”と同じ場所に立てずとも、また“別の頂き”に立つ者たち。

 

 白石ウタハという少女は、存在しえない幻想をこの世に科学の力で蘇らせた存在だった。

 

『君がしたいことに興味はない。けれども、これだけは伝えておこう』

 

「手短に」

 

『――どれほどの未来に技術が進もうと、機械は人が悪さをしなければ悪にはならない。私たちが作った聖剣(未来)をどうか魔剣(地獄)に堕とさないでほしい』

 

 ロマンチストと一笑に付すには、あまりにも真剣な祈りにも似た言葉だった。

 

 リオの表情は伺いしれない。その背はまるで動いていなかった。

 

『ウタハ。この女にそのような浪漫を解いても意味がないのは一年生の頃からわかっているでしょう』

 

『だとしてもだ。リオ、もう一度言う。覚えておいてほしい。機械は悪さをしない。私たちが、間違わなければ』

 

 ピッ、と電子音と共にウタハの通信は途切れる。リオが切ったのだ。

 

「任務内容を微修正するわ。テストはアビ・エシュフだけにしなさい」

 

 その“選択”はミレニアムのビックシスターが祈りを聞き入れたのか、それとも独善的な支配者がただ今後の支障になると判断したのか、アカネにはわからなかった。

 

 




原案ノアが好きすぎて余計なものが生えてしまいましたが追加は武器だけです。あの鍵のようなスーパーノヴァはどんな役割があったのでしょうね?
プロトタイプ・アビ・エシュフには福岡νガンダムのロングレンジ・フィン・ファンネルみたいに装備する予定でした。


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