頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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また今話含めて3話分ほど連続投稿します。


Area-06「バレンシア小山 #森林浴 #獣道 #透け透けの術」

 ゲヘナのIII号戦車隊との戦いを終えて、そこから更に歩いたけど流石にナギサちゃんの体力がきつそうだったので途中から私とハルナの代わりばんこでおんぶして移動した。私だけでも平気だって言うのにハルナが頑として譲らないので交互におんぶしたけど、ハルナもだいぶ疲れてない?

 

「ようやく着きましたわね」

 

「はい。雪解け水だからでしょうか?水が少しひんやりとしています」

 

 無限に続いたゲヘナのビーチの終点は閑散としているけど、そのおかげかとても綺麗なプライベートビーチのようで、私たち以外に人影はなかった。対岸にはうっすらと海の家が何軒もあるし、人も多そう。

 

「先生はあっちにいるのかな」

 

「先ほどの忍者の方のお手伝いをされているのでしょうか」

 

「たぶんね」

 

 なんでイズナちゃんが陰陽部の指示でシズコちゃんを助けに行ったかはわからない。百夜堂というか、一応シズコちゃんも百鬼夜行のお祭り運営委員会の委員長で、幹部生徒の一人だから護衛なのかな。レッドウィンターの土地って、百鬼夜行やゲヘナとかからしたら欲しいものなのかな?

 

「ねぇ、ナギサちゃん。教えて欲しいんだけど」

 

「答えられる範疇のことであれば」

 

「ナギサちゃんからしてレッドウィンターの土地って欲しい?」

 

 私の問いに、ナギサちゃんは「そうですね…」と考えてくれた。

 

「正直なところ、トリニティから離れていますし、手に入れたところで…とは思います。ゲヘナも同じですし」

 

 ごもっともな回答だった。

 

「なら、オデュッセイアは何故こちらに?」

 

 ハルナの追加の問い。これは私が答えられる。

 

「オデュッセイアは潜水艦持ってるから、もしこの湖がどこか地下で外洋に繋がってるなら船からいけるリゾート地ってことでいいかもね」

 

「なるほど……」

 

 ゲヘナに関してはあの調子だったので、特に何か特別な理由はなさそうだし、オデュッセイアは単純に観光資源の増加目的。となると、百鬼夜行はどうなの、って思ったけどこれはイズナちゃんが言ってた通りシズコちゃんの百夜堂規模拡大以上の理由はなさそう。

 

「議長が仰っていた“リゾート狩り”というのも気になりますわね」

 

「名前の通り、この自治区の土地を奪い合っているのだと思いますが……」

 

「目的はみんなそれぞれ、営業地の拡大だったりで、目的自体は理解できるね」

 

「その結果が何になるかと言えば――やはり、ここがわからねば、ということでしょう」

 

 当初の目的のキッチンカーによる潜入捜査は出来てないけど、結果的になんの成果もないというわけでもなく、少しずつ情報は集まってる。ハルナの言う通り、核は「全ての土地を開発した先に何があるか」だと思う。オクトパスバンクの配布した開発権に書かれていた“土地の使用権”。文面だけであれば“使用権”であって、“所有権”じゃない。

 

 怪しいなぁ。

 

「とりあえず、砂だらけだからどうにか綺麗にならないとね。水浴びしたいけど流石に水着もないんじゃ」

 

「電話はもう通じるのではなくて?」

 

「っと、そうだね。見てみようか」

 

 おそらくは付近の基地局ごと無限ビーチに沈んでしまったところを抜けたので、電波は多少拾えるはず。私は携帯を取り出して画面を見ると……なんとまだ圏外。どういうこと?周囲を見渡すと、私たちがいる左右の先にはゲヘナによる砂撒きがされずに森林も残ってるし、特に私たちの左手はレッドウィンターの方面で森からまた山へと変わっていく。

 

 よく見れば、電波塔のようなものが見えるので圏外なのはおかしい。

 

「どうしたのですか?エリカさん」

 

「ナギサちゃんも携帯見てくれる?圏外なんだ」

 

「わかりました……私もダメです」

 

 トリニティ所属で通信会社が異なるであろうナギサちゃんもダメ。ハルナの方へ目向ければ言うまでもなく結果は同じなのか、首を横に振っていた。

 

「ハルナ、対岸の様子って見えるかな」

 

「いくらわたくしのライフルのスコープといえど、倍率が限界かと」

 

 目測で対岸への距離は、と出したいところだけど、どうみてもかろうじて対岸が見えるほどで、海の家が見えるのはある程度のサイズがあるからなのかな。泳いで渡ったらかなり時間かかりそうな湖だねここ。

 

「それにしても、本当に立派な湖ですね。これだけ豊かな自然があって、異常気象もなければ長閑な学園だったのだと思いますが……何故このような状態に…?」

 

 ナギサちゃんが湖面に近づいて、とても透き通っている水面を覗き込みながら言う。やっぱり、そもそもの話として何故こんな僻地の学園が資金難に?そんなお金が必要になることをしていたのかな。

 

「わたくしたちでは分かりませんわね。ただ、いささか、生徒がやったにしては悪意が目立つかと」

 

 ん?どういうこと……?

 

「ハルナ、それはどういうこと?」

 

「大人がやったこと、ということですわ。そもそも、ペーパーカンパニーを使って偽の取引を持ちかけるなど、本当に生徒たちだけでやれるとお思いで?狂言ならまだしも」

 

 ペーパーカンパニーを作って詐欺を働くという事例はキヴォトスでは枚挙にいとまがない。カイテンジャーだってそうだし、

 

 

 

――エリカさん!この金木犀なんてどうですか?

 

――優しい匂いですね。これの香水ってないんですか。

 

――よければ作りましょうか!?きっと、優しくて包み込んでくれるようなエリカさんに似合います!

 

 

 

 ……あの事件も、私が“事件わらし”となってしまった事件でも、そうだった。

 

 同じかもしれない。あのときは結局、私はペーパーカンパニーの背後にいた相手を捉えられなかった。

 

「仮にそうだったとして、どこの誰がやってると思うの?」

 

「この手のやり口はカイザー絡みが多いですわね」

 

 そもそも、今回の事件ってもしかしなくてもアビドスに対して行われた手口と同じだったりする?相手が困窮したところに付け込んで、一気に捲りとる。アビドスと違ってこの自治区は全部持って行かれた挙句、チェリノちゃんへ話を持ちかけた生徒もいたということは、生徒も利用されてしまっていた。

 

 もしかしたら、失敗体験を元に改善して事を起こしたのかもしれない。ただ、証拠がない。

 

「やっぱり、もうちょっと潜入捜査したいね。仮にそうだとしても、証拠がないよ」

 

「ま、その通りですわね」

 

「しかし、どうやって調べましょうか。キッチンカーは置いてきてしまいましたから」

 

「そこだよねぇ」

 

 携帯も何故か通じず、賑わっていると思しき対岸は遠い。行くにしても時間がかかってしまう。戻ってキッチンカーを引っ張ってくることはできなくはないけど、今からだと体力的にも厳しいし、流石に陽が暮れちゃう。

 

「………やはり、先生になんとか連絡を取ることが先決ではないでしょうか」

 

 ナギサちゃんは冷静に提案してきた。確証がないけど、大人が相手なら私たちだけじゃどうにもならないかもしれない。だから素直に、今は大人である先生の力を頼りたかった。そのためにも、なんとか電波が拾えるところに行くしかない。

 

 となれば、あの見えている小山にある電波塔に行くしかない。

 

「とりあえず、あの電波塔に行ってみようか」

 

「電波が拾える可能性があると?」

 

「うん。ダメ元だけどね。あと、そうだ。林に入るから虫除け、はい」

 

 私は自前の虫除けスプレーを二人に向けてシュッシュッ、と吹いておいた。蚊とかに刺されたらいやだし、特にハルナは珍しく足見えちゃってるから刺されちゃうと可哀想だ。

 

「スーッとしますわ。エリカさん、ありがとうございます」

 

「さっきは日傘を貸していただきましたが、虫除けまで…すいません」

 

「どういたしまして。ナギサちゃん、これぐらいは大丈夫。3人で使うために持ってきたからね」

 

 今回は急だったし、こういったことに慣れてないナギサちゃんのために色々用意しておいて本当によかった。この虫除けはよく効く。そういった配合をされていて、どこにも売っていない非売品だ。

 

「そういえば、エリカさんの香水もですが……この虫除けも私たち人には良い匂いです。どこか行きつけのお店があるのですか?」

 

「どうだろうね」

 

 行きたくても、もう行けないし。

 

 

 

 

 

 

 

 森の中に入った途端に襲ってきたのは蒸し暑さだった。いや、森ってだけでこんな蒸す?私は砂まで浴びてるから色々と最悪だ。一応ハンドタオルで顔は拭いてるからまだいいけど。ナギサちゃんはかなりしんどそうだ。ハルナもかなり暑そうで、上着のシャツが…透けっ!?

 

「は、ハルナ、服、透けてる」

 

「……あら…参りましたわね」

 

 私とナギサちゃんはまだ制服の上着があるからいいけど、ハルナはそうもいかない。ただのカフェの店員風の服なせいで、見事にシャツが汗で透け、インナーも白のせいでそこも見えて、最後には黒い下着が浮き出ていた。

 

 うわ…下着もこんな大人っぽいのか……高そうだし、ハルナらしい。私はこういうの似合わないからちょっと羨ましい。

 

「どうしましょうか」

 

「替えの服もないからなぁ」

 

 ナギサちゃんも私も、どうすることもできない。うーん、こんな姿を誰かに見られたらハルナが可哀想すぎる。

 

 ハルナのほうへ目を向けると、腕を前に組んで隠すような仕草をして私のことをちょっと薄めた横目で見た。

 

「エリカさんその、あまり見つめられても困りますわ」

 

「ご、ごめん……電波塔に急ごう。先生に連絡をとって、水着とか買ってもらえるかもしれないから」

 

 恥ずかしいよね。流石に申し訳ない。私は前を向いて歩き出す。どうにかして連絡を取らなくちゃ。ハルナのためにも。

 

 ハルナの方にできるだけ視線を向けずに前へ進む。それにしてもこの森林、どうにも歩きやすいというか、獣道のように日常的に人が通っている跡がある。電波塔だけでなく、何か学校の施設もあるのかな。

 

 獣道を歩いて十数分。茂みとなっていたそこから出ると、急に未舗装だけど整備された道に出た。乗用車1.5台分ぐらいの幅で、地面には車が通った痕がある。タイヤの太さからしてトラック?ここにもリゾート開発を狙う他校の生徒がいるのかな。

 

 ハルナを庇うように私は前に立って銃を抜いた。ナギサちゃんのほうをチラリと見れば、同じく拳銃を抜いて頷く。ハルナは戦わせられないので、今度は二人でなんとかしなくちゃ。

 

「ナギサちゃん、もしかしたら失礼なこと言うかもだけど、大丈夫?」

 

「今の私は、あなたの後輩ということで扱ってください」

 

「ありがと。じゃあ、指示にはすぐに反応、動く」

 

「はいっ」

 

 気合を入れ直して、また道を進む。車で上がるにはちょうどいい勾配なので歩く分にはそこまできつくない坂道。耳はよく澄ませておく。まだ、正面、後方から何かが迫るようなものはない。聞こえてくるのはハルナとナギサちゃんの足音、息遣い。森に住む鳥の鳴き声。

 

 電波塔は進む左を見ればあるので、たぶんこの道を上がれば辿り着けるかな。

 

「っ!」

 

「何か聞こえましたの?エリカさん」

 

「お耳がこんなにピンッと…」

 

「二人ともすぐに茂みへ」

 

 まだ遠いけど、何かが降りてくる。二人を茂みに隠して、私も続いて脇の茂みに隠れる。車の走行音。近づくにつれ太い排気音…大型車だということがわかる。これはトラックだ。2分ぐらい経って、そのトラックが見えた。

 

「………なにあれ」

 

 思わず、そんな声が漏れた。トラックはトラックなんだけど、積んでるのはめちゃくちゃ長い筒状の泥まみれの物体。あと、キャビンのドアには掠れたゲヘナのマーク。荷台から飛び出してるその筒に赤布つけてないから交通違反なんだけど、流石に今飛び出すわけにはいかない。

 

「……運転していたのはヘルメットを被った……作業員さんでしょうか」

 

「だね。まるで土木工事をやってるような感じだけど、こんなところで?」

 

 マコト議長の一派とはまた別の派閥なんだろうな。

 

「あの、今更ですが……黒館さん、ゲヘナの統制は一体どうなっているのですか」

 

「統制?そんなものありませんわ。皆自由に生きておりますゆえに」

 

 今ものすごい微妙な顔を私とナギサちゃんはしてると思う。生徒会長がすぐ近くで何かをやってるのに全く関係なさそうだもんなぁ、さっきのトラック。

 

「よし、この先に何かありそうだね、行ってみよっか」

 

 トラックが完全に行ったのを確認して茂みから道に戻る。

 

「ねぇ、ハルナ。さっきのトラック何だかわかる?」

 

「温泉開発部ですわね。あの作業員風の姿は」

 

 うわぁ、やっぱりそうなんだ。なんとなくそんな気はしたけど。

 

「温泉開発部……先ほど仰っていた校舎を破壊したという」

 

「えぇ。当然、自由に開発できる土地があると聞けば出張って来ましたわね」

 

「名前からして温泉を掘り当てることが目的なのですか?」

 

 ナギサちゃんは純粋に、ただ熱意が凄すぎてやりすぎると思ってる程度だと思うけど、彼女たちはそんなレベルの話じゃない。その目的自体は当たってるけど。

 

「それが目的なんだけど、それを自分の自治区だけじゃなくて無断で他の自治区でも良い源泉の気配があればしちゃうんだよ。D.U.で過去にも無届け、無許可で工事して温泉掘ってたことあるよ」

 

「えっ」

 

「もちろん私たちヴァルキューレが出動して、痛み分け。今はその温泉は連邦生徒会管理のスーパー銭湯になってるかな」

 

 あれはひどい取り締まりだった。退去勧告も聞かないので警備局が突入した結果、重機を使用して抵抗して何人ものヴァルキューレ生が病院送りになった。特に幹部生徒と思われる火炎放射器を使う子にかなり手を焼いたはず(物理的にも)。

 

 最後は連邦生徒会まで出てきて強制的に温泉を接収してようやく収まったはず。

 

 私がなんでその場にいたかのように言っているかといえば、人手が足りないと助っ人を頼まれたからだった。

 

「ヴァルキューレと痛み分け……凄まじいですわね」

 

「ほんとね。ただ、温泉を引き当ててしまう力は本物だし、そのスーパー銭湯は今でも人気なんだ。今度一緒に行こう。仕事の後のお風呂は気持ちいいからね」

 

「機会があったら是非」

 

「エリカさんとは一緒に行ったことありましたわね」

 

「あれはハルナと偶然一緒に、違法オーロラソース工場で爆発に巻き込まれたからだよ。あのソース落とすのに行くしかなかったから行っただけ」

 

 ナギサちゃんと行けるのは一体いつになるかわからないけど、楽しみにしておこう。

 

 さて、登れば登るほど、なんだか重機が動く音や工具の音、声も聞こえてくる。工事現場だよねぇ、この感じ。やってるかな。どうやらこの先は開けた空間があるみたいで、そのまま飛び込んでも戦闘になる可能性があるから、私は二人を連れてまた近くの茂みへと入る。草木の間から見てみる。

 

「……大型の重機が見えますわね」

 

「そうだね。百鬼夜行の露天風呂風かな…竹の壁とか見えるし」

 

 私たちがいる方向からは竹製の壁が見えて中は伺えない。そして、おそらく露天風呂がある方向の木が切り倒されてるようにも見える。そこまで高い標高じゃないけど、十分に綺麗な景色が見えそう。

 

「温泉開発部の土木技術は優れていると聞いていますが、かなり本格的ですね」

 

「それは間違いないですわ。温泉開発部もテロリストなのは否定できませんが、その技術は本物ですわ。未だに廃部にならないのは功績も多分にあるからですわ」

 

「それはどういう…?」

 

「彼女たちが引いた温泉は全て成功していると言っていいでしょう。もちろん、残っていればの話ですが、残っているものは全てが名湯と言っていい代物ばかり。ゲヘナは火山地帯が近いのもあるのでしょうが、彼女たちが用意した温泉に外れはありませんわ」

 

 え、そうなの。それで廃部にならないんだ。連邦生徒会からも解体要請とか出てなかったけど、ゲヘナ出身の生徒が止めたのかなぁ。

 

「初めて聞いたよそれ」

 

「まぁ、内部から見ても無茶苦茶と言っていい方々です。実際にお相手されたエリカさんなどからするとテロリスト以外の何者でもないでしょうし、存じ上げないのは当然かと」

 

「いやまぁ、知っても破壊活動はダメだけどね」

 

 電波塔はこの近くにあるわけで、ここを通らないといけない。うーん、どうしようかな。変に取り繕って戦っても勝てそうにないし、まともにやりあったら温泉開発部の人たちかなり容赦ない。万が一火炎放射器使う人がいて、襲ってきたらナギサちゃんのために私は相手に”警告”をできる余裕も無くなって、本気で倒さなくちゃいけなくなる。

 

 現状、彼女たちは悪いことをしてるわけじゃない。むしろ、悪徳企業に騙されてる生徒なわけでできれば話し合いで事を済ませたい。

 

「もうこのまま普通に行く?」

 

「大胆過ぎるのではないでしょうか」

 

「けど、このまま待っててもどうしようもないし、別に私たちは温泉開発部止めたいわけじゃないし」

 

「それはそうですね」

 

 とはいえ、なんて声をかけようか。

 

「………ハルナ、どう声をかけるべきかな?」

 

「簡単ですわ。お風呂に入らせてほしいと言えば」

 

「え」

 

 もっと大胆な意見出てきた、と思わずハルナの方を見ると近いせいでさっきより余計に色っぽいハルナが見えた。シャツが肌に張り付いてうっすら透けてるし、この前の着飾った時と違って汗もかいてる。……うっ、近いせいでハルナの匂いがする。嫌じゃないから本能的にこれはよくない。

 

 種族的な問題であんまり悠長にするのはよくないということがわかったのでハルナの案で行こう。そうしよう。けどお風呂入っても下着…。

 

「エリカさん」

 

「な、なにかな」

 

 なんで近寄ってくるの!?さっきは見ないでとか言ったのに!うぅ、耳元で息あたる。

 

「彼女たちのことです。入浴客も含めての温泉ですから、何か用意はあるでしょう」

 

「そうかな…」

 

「あと……わたくしが率先して行くのはその…」

 

 服の袖を弱々しく掴んできた。ぐっ……わかってるよ、それは。私が前に行かないといけないのは。

 

「はぁ、ふぅ……よし……」

 

 なんとか息を整える。ナギサちゃんの方を見ればなんでか頬が少し赤くなっていた。私の視線に気がついて、取り繕ってたけど。

 

「ナギサちゃん。武器は仕舞って、普通に話しかけてみるから」

 

「承知しました」

 

「ハルナは……まぁ、そのままでいいから」

 

「えぇ、お願いしますわ」

 

 茂みから出て、温泉開発部がいるであろう方に歩いて行く。そうすれば、すぐにつなぎ姿の温泉開発部の生徒が出てきた。ヘルメットを被って安全帯や工具を手にする姿はとても頼もしそうに見える。

 

「あの、すいません」

 

「うわ、なんだあんたら……げっ!あ、アンタ、ヴァルキューレの狛犬!」

 

 ま、まずい!?この子前のD.U.での事件で戦った子だ!やばい!

 

「ま、待って!今日は違うの!お風呂に入れて欲しいの!」

 

 誤解される前に、はっきりとお風呂に入りたい旨を伝える。相手は半信半疑な様子で私たち見ている。そりゃそう。

 

「ほんとに?なんだってこんなとこに」

 

「色々あって……えっと、このゲヘナの子の個人的な護衛というか、新人の部下の研修ついでというか、そんな感じで」

 

 嘘言うの無理〜!絶対疑われてるし!尻尾と耳動いちゃうんだよー!

 

 このままじゃ騒ぎになっちゃう、私が慌て出しそうになった時だった。スッと、ナギサちゃんが私の横に出てきた。

 

「あの、申し訳ありませんがご協力頂けませんか?こちらの方はさる名家の方で、諸事情あってここまで歩くことになりました。疲労も限界で、休息をさせたいのです」

 

「うーん、けどなぁ……ちょっと待って、先輩呼んでくるから」

 

 私と違って流石の貫禄だった。ナギサちゃんの姿勢にブレはなく、手を前に、澄ました表情は相手を刺激することもない。疲労が限界、というのはきっとナギサちゃん自身のことだろうに、一切それを感じさせていない。私のために、前に立ってくれた彼女は間違いなく、生徒会長の器たる人なんだと思った。

 

「流石ですわ」

 

「いいえ、今の私にはこれぐらいしか」

 

 ハルナの賛辞にもナギサちゃんは謙遜してそんなことを言う。着ている服は間違いなく私と同じ物のはずなのに、まるでティーパーティーの制服を着ているように見えた。

 

 しばらくして、先ほどの作業員の生徒が誰かを連れて出てきた……って!?

 

「うっわ〜……まさかここで会うなんてね」

 

「下倉、メグ…」

 

 赤髪に、私よりも少し高い身長。恵まれた体格におしげもなく縦縞の上着で胸元を見せつけて、腰にゲヘナの指定コートを巻きつけミニスカートを履いたその姿。忘れるはずがない。

 

 あのとき、あのスーパー銭湯が出来るきっかけになった事件で警備局の装備に甚大な被害を齎した火炎放射器使いの生徒。私が本気で鎮圧にかからなくちゃいけなかった原因になった……下倉メグが現れた。

 

「お知り合いですか?エリ…っ、草鞋野副局長」

 

「知り合いも何も………」

 

 思いっきり盾でブン殴って制圧したので、結構恨まれてると思う。しかも火炎放射器もその時破壊したし。相手もなんだか微妙な表情だ。

 

「事情は聞いたよ?お風呂入りたいんだって?」

 

 頷く。相手は当然こっちをよく観察する。これは嘘を言ってないので大丈夫。

 

「ふーん。まぁ、確かに砂だらけだし、その子も汗だくでしんどそうだね」

 

「……お願いです。入れさせて頂けませんか?」

 

 ナギサちゃんが、頭を少し下げた。あの、トリニティの生徒会長であるナギサちゃんがゲヘナの生徒のために、ゲヘナの生徒へ頭を下げてる。たぶん、トリニティの人が見たら卒倒してしまうような光景だ。

 

「……桐藤さん……」

 

 流石のハルナもあっけにとられてるのか、そんな呟きを漏らす。

 

 下倉さんはナギサちゃんの真摯な態度にどう反応するのか。

 

「わかった。じゃあ、入れたげる」

 

「本当ですか!ありがとうございます!」

 

「た、助かりましたわ」

 

「ありがとう!」

 

 私たちが弾けるようにお礼を言うと、下倉さんは「ちょうどよかったし」と言った。ちょうどよかった?

 

「タイミングがよかった、ということでしょうか?」

 

「ん?そうそう、ほら、ここってすぐ近くに遊泳用の湖あるでしょ?だから水着の貸し出しもしようって話になってさ。それで着てくれる人探してたんだ」

 

 それはタイミングがいい!

 

「水着、貸してくれるの!?」

 

「なんかめっちゃ乗り気だね?ほんとにあのとき私をブン殴った人?」

 

「あ〜それはごめんね。本当に水着を貸してくれるの?」

 

「うん。用意したやつ、私に合うのなくってさ〜」

 

 ご立派だからね……いや〜、それにしても本当にタイミングよかったみたいだね。下倉さんに案内されるがままに進んでいくと、こだわりなのか割と百鬼夜行の露天風呂の様式に沿って色々作ってるみたい。あと、竹をデザインに取り入れた脱衣所も兼ねた小屋の中には水着がハンガーにかかって並んでいた。

 

「色々と種類が豊富ですね」

 

「どこでこんなに水着を?」

 

 まさか盗品じゃないよね、と思って聞いたら下倉さんは興味深い話をしてくれた。

 

「なんかここで露天風呂作って色々やるって言ったら、ここのリゾートの営業担当の人がくれたんだよね」

 

「営業担当…?」

 

「名刺があって……これこれ」

 

 下倉さんがどういうわけか胸の谷間から取り出した名刺を見せてくる。なんか微妙にふやけてる名刺に載っていた社名はオクトパスバンク……。これを見てわかったことがある。オクトパスバンクの企業ロゴだ。

 

「タコに金貨………カイザーグループですわね」

 

 どう見ても、カイザーグループ……あのアビドスを陥れた連中と同じだ。

 

「どったの?そんな怖い顔して」

 

「これ、渡した人はなんでくれたか理由言ってた?」

 

「うーんと、収益性の高そうなところには優先的にどうのこうのって」

 

 ナギサちゃんとハルナにアイコンタクトする。二人とも頷いてくれた。作戦会議が必要だね、これは。

 

「わかった。ありがとう。お風呂には、水着を着て入ればいいんだね?」

 

「そうして。で、あとで感想教えてね!」

 

「もちろん」

 

 私たちはどの水着にするのか選びつつ、これまでの疲れと汚れを落とすために、そしてこれからどうするか考えるためにお風呂へと向かうのだった。

 

 




主人公の過去は徐々に触れていきたい所存。

なお、エリカは匂いフェチではなく、本能的にハルナの匂いがいい匂いだと思ってしまっています(エ駄死)
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