頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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ようやく主要人物たちが水着を着れる回


Area-07「名湯(予定)バレンシアの湯 #にごり湯 #肌すべすべ #露天風呂」

「いやはや、こんなとこで出会うなんてね〜」

 

 ウチの自治区に不法侵入して何故か膨大な量の砂を持っていったゲヘナの生徒を追ったらなんだか妙な自治区に辿りついた。レッドウィンターの方まで来たのは初めてだったけど、なんか暑いし。

 

 そしたらなんか、ヒフミちゃんがお友達と一緒にいた。人気の少ない湖の浜辺に戦車にパラソル立てて二人きり。デート中だったかな?

 

「ヒフミ。下がって。この人強い」

 

 彼氏さんというか彼女さんというか、トリニティ特有の有翼で天使みたいな銀髪の綺麗な子、水着姿で可愛いけど、なんだかまるで傭兵みたいな空気感の子が銃を私に向けて来た。おっと、誤解されてる。

 

「待って待って、おじさんはヒフミちゃんの知り合いだよ〜」

 

「アズサちゃん!その人は知り合いですから大丈夫です!」

 

 よかった。ヒフミちゃんが止めてくれたね。ヒフミちゃんの水着も可愛いね。

 

「知り合い……?」

 

「自己紹介しなきゃだね。おじさんはアビドス高校の小鳥遊ホシノだよ〜」

 

「アビドス…?」

 

「まぁ、レッドウィンターとは真逆の砂漠にあるちっちゃい学校だよ〜」

 

 今のウチの知名度は全くないのでしょうがない。もはやかつてのマンモス校としての面影ないし。武器を一旦収めて、二人の方へ近づく。乗ってる戦車は当然だけどトリニティのクルセイダーだった。これ、足早くていいし、確か履帯外せて走ることもできたよね。…いや、それはレッドウィンターの戦車だったっけ?まぁいいや。

 

「なんかごめんね。デート中だったんでしょ」

 

「デート……?逢引…?」

 

「あはは…大丈夫ですよ。逆に聞いてしまってすいませんけど、ホシノさんはどうしてこちらに?」

 

「まぁちょっと後輩たちから遊んでこいってねぇ。もう、おじさんにはここに来るまでにクタクタだよ〜」

 

 まるきり嘘だけど、ほんとのこと言って純粋に遊んでるっぽい二人を邪魔するのもね。今回私は現地に単独で突っ込んでるけど、まぁこれはワケあり。

 

『小鳥遊さん、動きを止めたけど、どうしたの?』

 

 耳につけたヘッドセットから聞こえるのはウチの子の声じゃなくて、ミレニアムのチヒロちゃんの声だ。エリカの友達だって言う彼女からちょっと気になる話が聞けたのと、今、ミレニアムの特異現象捜査部にウチの校舎の一部を貸してるから見返りとして助けてもらってるのよね。いやぁ、いつものアヤネちゃんのオペレートとはまた違った感じで新鮮だねぇ。

 

 もちろん、チヒロちゃんの呼びかけには答えられないので無視するしかない。

 

「あの、お一人なら一緒に遊びませんか?」

 

「おほ〜、お誘いは嬉しいねぇ。若い子と遊べるなんて感激だよ」

 

 誘いに乗りたいけど、ちょっと今回は遊べないからねぇ。断ろうかな、なんて思ってたらアズサちゃん、と言ってた子がまだ私のこと警戒してた。ちょっとこの子、トリニティの生徒にしては前に出会ったSRTの子みたいな空気感だね。

 

「……君は何年生なんだ?まるで中年のような喋り方をするが」

 

「おっと、学年言ってなかったね。3年生だよ〜」

 

「上級生だったのか…失礼した」

 

「いいよいいよ〜」

 

 礼儀正しいけど、私から目を離さない。実力も一眼で見抜いてきたし、なんかワケありっぽいね。ヒフミちゃんを守ろうって感じだから悪い子じゃないんだけど。

 

「ヒフミちゃん、嬉しいのは嬉しいけど、ちょっと今回は一人でゆっくりしようかなぁ、って思ってるからさ」

 

「あ、そうなんですね。なら、仕方がないですね。そういえば、その水着はどうされたんですか?」

 

「これ?ノノミちゃんが選んでくれてねえ。おじさんにこんな可愛いの勿体無いよねぇ」

 

「そんなことないですよ!ホシノさん、可愛いですから似合ってますよ!」

 

「ありがと、ヒフミちゃんはいい子だね」

 

 本当はこの水着もみんなで遊ぶために買ったので、夏の後半はちゃんとした用途で使いたいね。今回はあくまで潜入用ってことで使ってるけど。さて、あんまりここに留まってもしょうがないし、デート中の二人を邪魔するのも悪いのでとっとと退散しようか。

 

「じゃ、私はこれで。楽しんでね〜」

 

「はい、ホシノさんも!」

 

「………」

 

 ものすんごい疑われてるなぁ、あの子に。私、それなりに嘘つくのは下手じゃないんだけどね。エリカみたいに尻尾と耳が動いちゃったりしないし。

 

 二人から離れてしばらく歩いて、明らかにウチから持って来たと思しき砂で作られた無限にあるような砂浜が遠くに見えた。あれかぁ。まぁ、返せって話でもないし、なんに使うのか見たかっただけだったのでいいかな。あの感じだとビーチを作りたかっただけっぽいね。

 

「はいほい、ごめんよ〜チヒロちゃん」

 

『何か問題が?』

 

「いや、知り合いがいただけ」

 

『開発権保持の人?』

 

「たぶん一般の観光客かな」

 

 ヒフミちゃんのことなので、不法行為を働くにしても外道なことはまずしないと思うので大丈夫だろうね。このまま何事もなく遊んで帰ってくれるといいけど。

 

『それで、お目当てのものは見つかったの?』

 

「あったよ〜。なーんか、ずいぶん立派なビーチに使われてるね。あれなら別にどうでもいいかな」

 

『他校のことだからあんまり口を挟むつもりはないけど、自治区に入られて勝手に物を持ってかれて、制裁とかは?』

 

「ないない。ウチがゲヘナに喧嘩なんか売ったら潰れちゃうよ〜。それに砂はいくらあっても困るからねぇ、今は」

 

 直接的に生徒に危害を加えられたわけでもない。ただ、この前のカイテンジャーといい、最近ウチのこと舐めてるんじゃないかなぁ、って人が多いので見に来ただけなんだよ。悪用してないなら、別に放置で良し。

 

「それにしても、普通の携帯が通じないのはなんだろね」

 

『わからない。衛星通信でウチの回線に繋いでるから今はこうして通信が出来てるけど』

 

「先生たちとも連絡取れないし、ちょっと心配だね。…ついでに見ていこうか」

 

『私に気を遣ってるなら別に』

 

 エリカは本当に罪作りな子だと思う。ただ、このキヴォトスであんな真っ当に正義の味方してたならしょうがないかもね。

 

「いやいや、私も気になるからさ。気になるといえば、エリカちゃんとチヒロちゃんはどこで出会ったの?」

 

『バイト。ヴァルキューレにエリカがいた時に』

 

「なるほどねぇ。いやはや、ヴァルキューレに呼ばれるなんて、ヒマリちゃんは後輩も優秀だね」

 

『それ、本人に聞かせないでよ。面倒臭いから』

 

「そーお?嬉しいと思うけどなぁ」

 

 ミレニアムの子たちとの交流はエリカの紹介がなければなかったわけだけど、悪くはなかったと思ってる。前なら他校との関わりなんておことわりだったけど、ミレニアムに関しては新しい学校だからしがらみもないし、いきなり幹部生徒の明星ヒマリと接触できたのはよかった。おまけに、相手からは継続的に協力を求められる。

 

 あんまり政治は好きじゃないけど、今後のことも考えればこの繋がりは悪くないはずだ。

 

「とりあえず、この通信障害の原因探ろっか。こういうのはチヒロちゃんが得意なのかな?」

 

『現地にいないからなんとも言えないけど……こうして小鳥遊さんと話せてるからPMCとかのジャミングの類じゃなくて、単純に携帯の基地局が死んでるだけだと思う。そこから大きな電波塔とかない?』

 

 なるほど〜、的確な分析だね。というわけで周りを見てみるわけだけど、あったあった。でっかい電波塔だ。距離的にはちょいっとあるから面倒臭いけど、あの小山に入って調べればいいかな。

 

「大きいのがあるね〜」

 

『それだ。もしかしたらその電波塔が機能不全起こしてるのかも。小鳥遊さん、手先は器用な方?』

 

「どうだろ。そこそこ?」

 

『なら、もし壊れてたら私の指示で色々してもらうかも』

 

「ほへ〜、できるかなぁ、そんなの。ま、行ってみよっか」

 

 とりあえず、行ってみないと何ともわからないので行ってみようか。

 

 

 

 

 

 

 

「う〜〜ん!いい湯!」

 

 水着に着替えた私たちは体を流してからお湯に浸かっていた。白濁としたお湯で効能は入る前に下倉さんが教えてくれたけどお肌にいいらしい。らしい、というのは詳しく聞いたら下倉さんは「壊すの専門だから細かい効能とかは部長に聞かないと」と苦笑いしていた。

 

 前に戦った時はこんな余裕なくてわからなかったけど、下倉さんもこうして話せば悪い子ではなかった。

 

「暑いはずですのに、どうしてでしょうか、気持ちがいいですわね」

 

「はい。トリニティ様式の大浴場とは全く違う……なんでしょうか、体の芯から効くような」

 

 お嬢様の二人もお気に召したみたいでよかった。ハルナもナギサちゃんも今までにないぐらい汗もかいて砂にまみれてただろうに、ここまで文句も言わずについてきて。特にナギサちゃんの本来の目的は阿慈谷さんの保護。こんなことに付き合わせる必要は本来ないのに、彼女は手伝ってくれてる。

 

 たった半日以上だけど、わかるものがある。本当はきっと、ナギサちゃんは生徒会長という器を被るには善良で、普通の範疇に過ぎない子なんだと。それを経験と、責任感と、周囲からの期待に応え過ぎて頑張り過ぎてしまう。

 

 対等で、彼女を支えてくれる子はいなかったのか。いればきっと…私たちと敵対することもなかったはずだ。

 

 こうやって温泉に浸かっている姿を見れば、彼女がどうしてもただの女の子に見えてしまって、助けたくなってしまう。

 

「ナギサちゃん、ごめんね。こんな強行軍になっちゃって」

 

 謝れば、ナギサちゃんはきょとん、としてからくすりと笑った。

 

「ふふっ、急にどうされたのですか?むしろ、無理を言って同行しているのは私のほうですのに」

 

「それでもだよ。本当は依頼者なのにさ。さっきは指示に従って、なんて言っちゃったけど」

 

「気にしないでください。何度も伝えていますが、私は今、あなたの部下として動いています。それがとても新鮮な気持ちです。誰かの下に付く、誰かの指示で動く、誰かがフォローしてくれる。何故だか、とても、安心できるんです」

 

 ナギサちゃんは目を閉じて、胸に手を置いてそう言った。心の底からの言葉で、私の中に響く。ずっと頑張って来た彼女にとって、誰かが支えてくれるのは本当は待ち望んでいたのかもしれない。…そうやって思ってくれてるのなら、少しは助かるかな。

 

「できることなら………もう少し、とも思いますが、それは叶いませんから。今回の支援要請の間だけは、こうさせてください」

 

「……そっか――なら、よろしく頼む」

 

「その声、本当に痺れてしまいそうです。本当に頼もしくて、あの戦車隊から守っていただいた時、かっこよかったですよ」

 

 て、照れるなぁ。そんなに意識してやってるわけじゃないから、こう息抜きしてる時にいわれると。

 

「……お願いできるのなら、エデン条約の調印式時に、私の護衛もお願いしたいぐらいです」

 

「え?それは別に支援要請すればいいのでは?」

 

 照れから立ち直って、割と冷静に思ったことを言った。トリニティの生徒会長からシャーレに支援要請を出せば特段何も問題なく承認されるし、今のところ連邦生徒会も、少なくとも七神代行は連邦生徒会会長のやり残したエデン条約は無事に終わってほしいと思ってるけど介入できない、って話だからシャーレに支援要請来たら七神代行も色々力を貸してくれるはず。

 

「通るのですか?」

 

「通るも何も、ナギサちゃんがそう望むならね」

 

「元から先生はオブザーバーとして同席頂く予定でしたが……そうですね。では、エリカさん、そのつもりでいてくださると嬉しいです」

 

「了解。まかせてよ」

 

 秋の予定が増えた。先生はオブザーバーだけど、私はナギサちゃんの護衛ってことは近くにいるってことなんだろうか。まだ先の話だし、詳しいことはそのとき聞けばいいかな。

 

 ふと、視線を感じてハルナの方を見たらなんかハルナが頬を膨らませていた。そんな子供っぽい表情するんだ…なんだか可愛い。

 

「どうしたのさハルナ」

 

「な・ん・で・も、ありませんわっ」

 

「え、いや、なんかあるでしょ。なんかまずいことした?」

 

「エリカさんはなんにも悪くありませんわ。えぇ、何も」

 

 ぷいっ、とハルナがそっぽ向いた。えぇ……なんで急に機嫌悪くするの…。

 

「よくわからないけど……この支援終わったら一緒にご飯食べに行こうか?」

 

「……二人きりなら是非」

 

「なんで二人きり指定なのかわからないけど、わかったよ」

 

 先生やナギサちゃんも入れてお疲れ様会したかったけど、しょうがない。それは後でもできるからいいか。ハルナの機嫌が悪いのはちょっと困る。私の前でしでかしてほしくないからね。

 

「それで、本題だけど、オクトパスバンクはカイザーグループのペーパーカンパニーだったわけで……これからどうしよっか」

 

 雑談はそこそこに、この事件の解決にそろそろ移っていかなくてはいけない。

 

 チェリノちゃんが夏至祭をするのもそうだけど、オクトパスバンクとオレンジパウンド高校の契約をクーリングオフできる可能性もあるし、潜入捜査で悠長に時間を使うわけにはいかない。

 

 それに、もし、ここの自治区を治めていたオレンジパウンド高校がカイザーグループに騙されていて、そのうえレッドウィンターまで巻き込んでいるならば実態の無いオクトパスバンクに正当な権利はなく、連邦生徒会にタレコミを入れれば、何らかの措置がされるはず。

 

 ただ、そのためには証拠と、犯人…というか重要参考人が必要になる。

 

「ここの自治区の元生徒会長はレッドウィンターが抑えてると仮定しようか」

 

 トモエさんが依頼した時に生徒は粛清した、と言っていたし、たぶん抱えてる。

 

「そうなると、証拠と重要参考人として残るのはオクトパスバンク側の人。どこにいるんだろうね」

 

 残っているのはオクトパスバンク。たぶん、大人。子供だからって舐めてないかな。大胆にも声をかけてきてるわけだし。

 

「先ほどの下倉さんという方の証言から、この自治区に留まっているとは思いますが」

 

「“収益性が高そうなところ”がヒントになりそうですわね」

 

 ゲヘナの温泉開発部の悪名と高名は大人からしても知るところだろうし、もし温泉が無事残れば間違いなくその地の名湯になる。だから、将来性は抜群だし、投資する価値はある。

 

「それなら、やっぱりこのアウトランド・リゾートの開発が進んでるところに行くのが自然だね」

 

「同感ですわ。ただ……」

 

「私たちにはこのリゾートの全貌がまだわかっていない、ということですね?黒館さん」

 

「そうです。このままではしらみつぶしとなるのは明白。それは避けたいところですわ」

 

「だから、なんとか先生たちに連絡取らないとね。先生はリゾートの栄えてる方に行ってるわけだし」

 

 作戦会議はこれで終わり。電波塔の調査に移ろう。私は浸かっていた湯船から立ち上がる。お湯のおかげか、風が吹くと涼しい。

 

「それにしても、エリカさんの水着姿は可愛らしいですわ」

 

「ありがと、ハルナ」

 

 私の水着は青のビキニだけど、フリルつき。ようやく可愛い水着を着て友達と夏を過ごす、という夢が叶ったわけだ。ちょっと嬉しい。ハルナとナギサちゃんも私に続いて立ち上がる。二人の水着は対照的だ。

 

 ハルナは黒の大人っぽいワンピース型…がベースだけど脇腹は生地が一部なくて、黒いせいかすごい色っぽい。くびれもしっかりあるし、すっごい綺麗だ。ドレス姿の時も思ったけど、ハルナは自分自身の容姿がどれだけ魅力的なのかわかってるし、その上で自分に合った服装を用意できる。同じ女としても、羨望を感じちゃうぐらいだ。

 

「見とれてらっしゃる?」

 

「まぁ、そりゃ……」

 

「気に入って頂けて何よりですわ」

 

 気に入ってるかどうかは別なんだけどまぁいいや。ナギサちゃんは白のビキニだけど、これから上がったら白のパーカーと麦わら帽子を被るので、お嬢様なナギサちゃんには合ってるかなって。

 

「ナギサちゃんも綺麗だね」

 

「……っ…あ、ありがとうございます」

 

「恥ずかしい?」

 

「いえ、あまり人前でこう、肌を見せることはありませんから…」

 

「夏だし、ドーンと行こうよ!」

 

「そ、そうですね!」

 

 これからやってくことは遊んでられないけど、せめて格好ぐらいはさ。

 

「じゃ、あがろっか」

 

「あぁ、そうですわ。エリカさん」

 

「なに?」

 

「体を拭いたら日焼け止めを塗ってくださる?」

 

 あ、そうだ。危ない危ない。ハルナやナギサちゃんは肌綺麗だし、ちゃんとケアしないとね。

 

「もちろん。ナギサちゃんも」

 

「いいのですか?」

 

「やってあげるから、私にも塗ってほしいな」

 

「誰かの日焼け止めを塗ってあげるなんて初めての経験です」

 

「色んなこと、経験しようね!」

 

「はい!」

 

「(………手強いですわ)」

 

 なんだかハルナがまた不機嫌に見えたのは気のせいなのか。ともかく、私たちはお風呂から上がって日焼け止めを塗りあった。

 

 

 

 

 

 

 

「よし、じゃあ準備いいね?行こっか」

 

「はい」

 

「えぇ」

 

 日焼け止めを塗り終わって、装備も身につけた私たちは下倉さんに挨拶して電波塔に行こうと動き出す。ちなみに、ナギサちゃんとハルナはメインアームだけ、私は腰にベルトを通して幾つかのグレネードは装備してある。

 

「まずは下倉さんに挨拶を――」

 

 なんて言いかけた瞬間、銃声が聞こえた。銃声、というかショットガンかなこれ。直後に、応戦する音。何があったんだと私たちは慌てて脱衣所を兼ねた小屋から出た。その直後、私はここ最近で一番の身の危険を感じた。

 

 咄嗟だった。全力で地面を蹴り飛ばしてその銃口を下から跳ね上げる。けど、跳ね上げた瞬間に、相手の左手が銃から離されて腕を掴まれるとそのまま引っ張られてぶん投げられた。

 

「うっ!?」

 

 なんとか空中で姿勢をとって着地しようとするけど、それを相手は見逃さない。太陽と月の双眸が私を射抜いた。

 

「警告します!それ以上動けば撃ちます!」

 

 はっきり、今日一番の大きな“警告”が届く。私から見ても合格点な声の張り方。威圧感を伴うそれは、相手の動きをしっかり止めた。

 

「おっと、エリカちゃんと同じ銃ってことはヴァルキューレの人?なんでここに?」

 

「……それはこっちの台詞だよ、ホシノちゃん」

 

 私をあの細い腕で、腕だけの力でぶん投げたのは水色のパーカーに白の可愛らしい水着を着たホシノちゃんだった。ここはアビドスから遠く離れてるし、あんな怪しいリゾート開発権を彼女が使うとは思えない。

 

 何より、他のアビドスの子たちが見えない。それなのに、今、ホシノちゃんは生徒会長モードだ。

 

「ごめんね吹っ飛ばしちゃって」

 

「いいよ。飛びかかったのはこっちだし。けど、さっきの発砲音、ホシノちゃんだよね?」

 

 周りを見渡せば、騒ぎを聞きつけた温泉開発部の面々が集まって来たし、ホシノちゃんの近くに下倉さんがかなり警戒した様子で火炎放射器を構えて臨戦状態。これ、私たちが割って入らなければ一戦交えてしまうところだったかな。

 

「知り合い?」

 

「うん。ある高校の実質生徒会長さんだよ。とりあえず、全員武器をしまってくれるかな」

 

 私の声に、下倉さんは露骨に嫌そうだし、ホシノちゃんもなんとも言えない顔。うーん。

 

「……はぁ、ここで生徒同士が争うのは不毛だからさ、やめてほしいんだ」

 

「もしかしてエリカちゃん、力づくで止めようって思ってない?」

 

「ホシノちゃん、私は躊躇わないよ?」

 

 生徒会長クラスの生徒と戦えば、相打ち覚悟でないと抑えられないと思う。それでも、本気でやるよ、って目をホシノちゃんに向ける。それに返すように、鋭いナイフのような強烈な威圧感が私を襲う。

 

「うーん、さすがに一人でこの数相手にするのは骨が折れるし、負け負け。おじさんの負けでいーよ」

 

 ほっ。よかった。ホシノちゃんが折れてくれた。正直、本気になった“暁のホルス”なんて相手にしたくない。どう足掻いても地力で負けてるし、今のホシノちゃんは盾がないからガンガン攻めてくるはず。超攻撃的な動きをされると分が悪い。

 

「よかった。ありがとう、ホシノちゃん。下倉さんもいいね?」

 

「…むぅ」

 

 不服そうだけど、とりあえず構えは解いてくれた。

 

「それで、何がどうして戦おうとしてたの?」

 

「私はあの電波塔に用があってさ。なんだかここ、スマホが繋がらないし、あの電波塔が壊れてるんじゃないかなって」

 

 ホシノちゃんもあの電波塔に何かあると思ってここに来たみたいだ。なんでアウトランド・リゾートにいるのかはわからないけど、目的はわかった。

 

「それで?」

 

「で、そこの赤髪の子を見かけて、あの電波塔について聞いたら電源を勝手にこの温泉に繋いじゃったんだって言うから、一時的にでも戻してって言ったら」

 

「そんなのダメに決まってるじゃん!温泉のポンプとか諸々の施設止まっちゃうんだよ!?」

 

「って、具合でさ」

 

 なるほど。それで喧嘩になって撃ち合いになりかけたと。ホシノちゃんからすれば本気で問題解決に取り組むと並の実力じゃないし倒して進んだ方が早いと踏んだのかな。流石に一学園の、しかも戦闘力で異名までついてるホシノちゃんと下倉さんでは実力的にね…。

 

「それで、今度はこっちの質問タイムだけど、なんでエリカちゃんたちはここに?」

 

 事と次第では、やるけど、ぐらいの感じでホシノちゃんが聞いてくる。私もホシノちゃんと戦うのは嫌なので正直に話してしまおう。

 

 ホシノちゃんに、私たちはアウトランド・リゾートの調査と、レッドウィンターからリゾートの土地を全て占領して返すように言われてることを伝えた。下倉さんたちにも当然、聞こえてしまっているので私が話を進めるうちに、温泉開発部の全員が私に武器を向け始める。

 

「――というわけで、私はここに来たんだ」

 

「うへぇ、大変なことになってるね」

 

 ホシノちゃんは話を聞いてる間、この土地がカイザー絡みで被害を受けてることを知って、目つきが変わっていた。口調や口元は気が抜けてるけど目が一切笑ってない。

 

「……つまり、私たちの温泉も撤去するってこと?」

 

 下倉さんが火炎放射器を構え、発射口からちろちろと炎が溢れる。私は四方から銃を向けられてるのをわかりつつ、銃を抜かない。

 

「ううん。君たちもある意味被害者。……私がやることは結論から言えば、この土地をレッドウィンターへ返すだけ。そこから先はレッドウィンターの判断だよ。ここに残された観光施設を残すのか、オレンジパウンド高校を復活させて、君たちの施設も無くしてもらうのか。事が事だから、連邦生徒会に調停もしてもらえるかもしれない」

 

 不正な権限と権利で作られたこの状況を清算して、正当な権限のもとに行使される権利によって判断される状態へと戻せれば、あとは流れ次第。それに、だ。

 

 おそらく、チェリノちゃんは今この状況を何も知らない。トモエさんのことだ。私たちが仮にここを全て押さえてもその残った施設は“有り難く再利用”ぐらい平気ですると思う。チェリノちゃんのための夏至祭に合わせて用意した、って。

 

 そうなるぐらいなら、いっそのこと、みんなで協力してオクトパスバンクを追い出せばいい。証拠を見つけてね。

 

「だから、“協力”。私たち生徒同士で争っても、今は悪い人たちの掌の上だよ」

 

 手を差し出す。シャーレの生徒として、今この地で私がすべきことはかつてのような制圧ではなく、みんなをまとめ上げること。そして、あとは大人である先生に導いてもらうこと。

 

「下倉さん、お風呂とっても気持ちよかったよ。水着まで貸してくれて、その上でお願いするのは本当にごめんなさい。一時的でもいいの、電波塔に電気を戻してくれないかな?」

 

 頭を下げてお願いする。銃で撃って相手を制圧するのは簡単だ。脅して動かすことも簡単。けれど、そうしたくない。そうしてほしくない。これからナギサちゃんはそういうことをしなくても済むような条約を結ぼうとしている。

 

 だから、この世界がそんなに濁っていない世界だって見ていてほしい。

 

「まぁ……そこまで言われたら……」

 

「ありがとう!」

 

 乗り気ではないけれど、下倉さんも頷いてくれた。こうしたことはヴァルキューレでは出来なかった。けど、今、シャーレならできる。

 

 さぁ、先生に連絡を取ろう。先生たちがどうなってるかも心配だからね。

 

 




土地の権利関係とか諸々は適当なんだすまない…雰囲気で読んでほしい。

シリアスは極力減らそうと思ったのにうごごご……。
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