頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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本話よりエデン条約編に突入です。

開始前にひとつ。
この章のメインヒロインは ナギちゃん です。 


第四章 楽園とは、そこに”在る”ものである
Area-01「サンクトゥムタワー #生徒会長代行 #申請窓口 #コーヒー」


 慌ただしい夏の終わり。私は久しぶりにサンクトゥムタワーへとやってきていた。何のためにか?それは、今私の目の前にいる彼女が理由だ。

 

「……お久しぶりです。草鞋野エリカさん。以前の補習授業部での騒動の際は色々と、失礼しました」

 

「いえ、桐藤さん。互いに立場がありましたから、お気になさらないでください」

 

 他人行儀に私たちは挨拶を交わした。ナギサちゃんはティーパーティーの制服に身を包んで、護衛と思しき役員の子を二人従えていた。護衛の子が私を見る目は厳しい。まるで、初めてナギサちゃんと出会った時のように。

 

 あの夏の、たった2日間とはいえ一緒に冒険した時は、ナギサちゃんは立場を捨ててまで友達の無事を確認しに行った。だから、あの時はただのナギサちゃんとして、私は接していた。

 

 けど、今は違う。

 

 私は、連邦捜査部シャーレ、先生の補佐官である草鞋野エリカとして。

 

 ナギサちゃんは、トリニティ総合学園のティーパーティー、3人の生徒会長のうち一人、桐藤ナギサとして。

 

 決して、気安く関わることができない立場でここにいる。

 

「それにしても、わざわざサンクトゥムタワーまでご足労して頂いて。私一人でも手続きは大丈夫なはずですが」

 

「いえ、これから無理を頼むのですから、これぐらいはさせて頂きたいのです」

 

 ナギサちゃんがここにトリニティのティーパーティーとしてやってきたのはある手続きのためだ。そしてそれは、私とナギサちゃんの”約束”のために起こる。だから、七神代行に話を通さなくてはいけない。

 

「……行きましょう。打ち合わせの時間まであと少しですから」

 

「えぇ。先導をお願い致します。草鞋野さん。私、サンクトゥムタワーは疎いので」

 

 たぶん素直にあんまり来た事ないので教えてね、ってことなんだろうけど、ナギサちゃんの素を知らないと「連邦生徒会までわざわざ来てやったんだから案内ぐらいしろや!」と聞こえかねない。

 

 チラッと見ればナギサちゃんの表情はなんとも裏を読みにくそうなもので、護衛の二人は“そのように”受け取ってしまったのかまた私への視線が鋭くなった。しょうがないね、こればっかりは。

 

 落ち合ったのはサンクトゥムタワーの正面だったので、私が前を歩いて入り口に近づく。守衛のヴァルキューレの子は私の後輩の子だ。私を見るなり一糸乱れぬ敬礼を見せた。素晴らしい敬礼だよ。……私も流石に返礼しないのはまずいので、ちゃんと返礼する。

 

「ご苦労様です!草鞋野副局長!」

 

「お疲れ様。それと、副局長はいい加減やめてね?」

 

「失礼しました!草鞋野補佐官!」

 

「よろしい。…さ、中に入りましょう」

 

 声の大きさも100点満点。この子、安全局にいた頃も優秀だったし、この子がいれば正面門は安泰だね。

 

 自動扉をくぐって、タワーの中に入る。一階のフロアには申請関係の窓口もあるし、そこそこの人がいる。

 

「あの、草鞋野さん、先ほどの方は?」

 

「彼女はここの守衛なのですが、以前私がヴァルキューレにいた頃の部下でして」

 

「なるほど。ふふっ、ヴァルキューレでなくなっても尊敬されているとは」

 

「いいとは言っているんですが、嬉しいものです」

 

 ナギサちゃんと言葉を交わしつつ、中を歩いていく。用がある職員用のエレベーターは奥にあるんだよね。

 

「連邦生徒会はこのような業務もされているのですね」

 

「はい。一般の生徒は窓口業務もこなしています。インフラに関わる申請や工事のために道路を使ったり……色々な申請が世の中必要ですから」

 

「少し認識を改める必要があるようです。連邦生徒会もこうして、日々業務に追われているのですね」

 

 そんなまるでいつも暇みたいな。ナギサちゃんこれ全部天然なんだろうなぁ。言い方や雰囲気のせいでもものすっごい含みある感じ。声がそんなに大きくないから周りに聞こえてないのでいいけど。

 

 周りはこっちをチラチラ見てるけど、ぱっと見ヴァルキューレの生徒が先導してるからあんまり凝視はしてこない。この制服、もうちょいで脱いじゃうけど、こういう場面だと結構役に立つんだよね。

 

「このエレベーターで上がります。護衛の方は上がって、別室でお待ちいただくことになりますが、よろしいですか?」

 

 話の内容が内容なので、護衛の人たちは上に上がったら待合室があるのでそこで待ってもらうことになってる。私の言葉に護衛の二人は怪訝な顔つきだ。

 

「何かありますでしょうか?」

 

 言いたいことがあるなら言ってもらわないとね。私が問いかけると、意外にも二人のうち一人が迷うことなく口を開いた。

 

「草鞋野さん。あなたは汚職警官だと耳にしたことがあります。そのような方といくら連邦生徒会会長代理がいるとはいえ、ナギサ様をお任せするのは承服しかねます」

 

 おおぅ、結構キツイの来たなぁ。どうしよう……困ったな。ナギサちゃんを見れば、目を伏して本当に小さくため息をついていた。トリニティも色々あるもんね。聖園さんの反乱行為や、欺瞞のためとはいえ百合園さんが一時期死亡したなんてこともあったわけだし、ティーパーティーとしては私みたいな前科ものに任せるのありえないよね。

 

「そもそも、ナギサ様のご提案とはいえ、ティーパーティー……フィリウス派としては納得はまだしていません。本当によろしいのですか?」

 

 ナギサちゃんにまでこんなこと言っちゃうんだ……ナギサちゃん、自分の派閥のコントロール大変なんだろうね。ナギサちゃん、やっぱり担ぎあげられちゃってるんだろうなぁ。

 

 はっきりとした護衛の子達の物言いに私が黙っていると、ナギサちゃんが二人に振り向かずに答えた。

 

「私が決めたことです。彼女の実力は疑うものではなく、立場としても縛られるものがありません。トリニティ内部から………裏切り者が出たのならば、第三者である彼女に護衛を任せるのはおかしなことではないと思いますが?」

 

「…………そこまで仰られるのであればこれ以上は何も申しません」

 

「そちらも、よろしいですね?」

 

「わかりました」

 

 流石の威厳だね、ナギサちゃん。本当に私と一緒に冒険したナギサちゃんはどこに行ってしまったのかと思わずにいられない。あのときは帰りに私が限界で寝ちゃって、ハルナと代わりばんこでD.U.まで運転してくれたらしいし。起きたらシャーレの近くまで来てて、ナギサちゃんが蛇行運転してたので最後は代わってあげたけど。

 

「では、よろしいでしょうか。エレベーターで上に上がりましょう」

 

「お願いします。草鞋野さん」

 

 話は終わったみたいなので、エレベーターに乗る。高速エレベーターなのであっという間に登っていく。登る最中、窓からD.U.の景色を一望できる。夜は綺麗なんだよね。防衛室にいたときは何度か見て、この街を守ってたんだなぁ〜って感傷に浸ったりしてた。

 

「…着きました」

 

 エレベーターが止まる。ドアの開くボタンを押して、護衛の方を先に出し、その次にナギサちゃん、最後に私が出る。この護衛の子達、一見ただのトリニティの生徒だけど、ちゃんと護衛としての訓練積んでるんだね。当然か。

 

「それじゃあ、護衛の方はここを右にいって、突き当たりの待合室でお待ちください」

 

「…わかりました。草鞋野さん、もしナギサ様に何かあれば」

 

「お任せください。これでも本官、護衛任務での失敗はありませんので」

 

 言われっぱなしなのも嫌なので、ちょっと自信を持って言ってみると、相手はなんともイラッとした表情を見せてから離れていった。二人が消えるのをしばらく待って、待合室に入ったことを確認するとナギサちゃんがため息をついた。

 

「ふぅ……ごめんなさい、エリカさん」

 

「いいよ、気にしないで、ナギサちゃん」

 

 苦笑いなナギサちゃんに私も同じく苦笑いだ。代行の部屋までは並んで歩くことにした。

 

「大変そうだね?」

 

「……えぇ。しかし、彼女達も悪気はないのです。エデン条約が近づいていますから」

 

「神経質になってるってことね。そりゃ、私みたいな子に条約締結までボディーガードを任せるなんて怖いよね」

 

 私と、ナギサちゃんの“約束”。それはあのアウトランド・リゾートでの冒険の最中で出来たもの。エデン条約の調印式が終わるまで、ナギサちゃんを傍で護衛するという支援要請だ。

 

 この支援要請を受けるにあたって、私は一時的にシャーレの補佐官の役目を外れる必要が出てしまった。そりゃさ、トリニティとゲヘナっていうセンシティブな関係の学校同士の条約締結なのに、本来は中立をとってオブザーバーのような立場でいないといけないシャーレの生徒が一方に肩入れをし過ぎる形になってしまうんだよね。

 

「私個人としてはエリカさんは信用、信頼に値する方です。あの夏の冒険で、私はあなたを知りましたから」

 

「ちょっとこそばゆいな〜それ。けど、そう言ってもらえて嬉しいよ。もちろん、私だってナギサちゃんを知れたから、おあいこだね」

 

 もし、ナギサちゃんと一緒にアウトランド・リゾートに行かなければ私はこの依頼を引き受けるか悩んだと思う。けど、私はナギサちゃんを知ってしまった。本当は優しくて、お人好しで、もっと言ってしまうと人の上に立つのはきっと向いてない。それでも必死に頑張ってる子。

 

 頑張りは報われるべきものだから。私はナギサちゃんを支えたいと思ってこの支援要請を先生に相談する前に受けた。

 

 先生は事後承諾になったけど、笑って許可を出してくれた。先生曰く、隅におけないね、とのこと。……なんだか会話が成立していない気がしたけど、許してくれたのはわかったのでよかった。

 

 そんな先生はもちろん本来の立場として、中立の立場で条約のオブザーバーとして参加することになっているようだった。

 

「……とはいえ、少し黒館さんには申し訳ないですね」

 

「え?なんでハルナの名前が出てくるの?」

 

「あ、いえ。そういえば、あれ以来、黒館さんとはモモトークをこっそりしているんです。私が知らないおいしいスイーツのお店など、色々教えてくれています」

 

「へ〜、まぁハルナ、食べることに関しては本当にすごいからね。いいお店だけだと思うよ、紹介してくるの」

 

 意外な交流が続いてるんだね。

 

「そういえば、ナギサちゃんはハルナがテロリストなの調べたよね」

 

「えぇ。ですので、本来であれば彼女はトリニティの生徒会長として話すことも許されないでしょう。しかし、あのたった二日間で、私は彼女を信用できる友人と思ってしまいました。今更、その認識を改めようとは思っていません」

 

「そっか。仲良くしてあげてね。ハルナも悪い子じゃないからさ」

 

「もちろんそのつもりです。エデン条約が結ばれれば、もう少しおおっぴらに彼女と話せるでしょう」

 

 こういう意味でも、エデン条約は成功してほしいね。だって、こうやって話せば仲良くなれるんだもん。ただその学校にいるからって理由だけで仲良くできないなんてさ。

 

 喋ってたら七神代行の部屋についていた。扉を私はノックする。

 

「草鞋野エリカ、桐藤ナギサ、参りました」

 

『どうぞ』

 

「失礼します」

 

 中から代行の声が聞こえて、私たちは執務室の中に足を踏み入れた。

 

 扉を開けるとまず届いたのが……コーヒーの匂い。

 

「え…?」

 

 代行だけしかいないと思ったら、見知った顔がいた。

 

「……不知火防衛室長?」

 

「久しぶりですね、エリカさん。待っていましたよ」

 

 なんでここに?代行の方を見れば、特に彼女はおかしな様子はない。至って普通の様子。不知火室長がいるのは、彼女も承知の上ということ?

 

「草鞋野さん、桐藤会長。こんにちは。ようこそ、連邦生徒会へ。どうぞそちらに」

 

 促されるまま、私とナギサちゃんは不知火室長が座っている応接用のテーブルに着く。七神代行も不知火室長の横に座った。

 

「桐藤です。こうして顔を合わせるのは就任後の総会以来でしょうか?」

 

「はい。……それと、本日は事前にお伝えしていませんでしたが、防衛室の室長、不知火カヤ室長が同席致します」

 

 七神代行に紹介された不知火室長はコーヒーを優雅に一口飲むと、なんとも余裕のある雰囲気で私たちを見た。

 

「ご紹介に預かりました。防衛室で室長を任されています不知火です。そちらの桐藤会長とは初めてお目にかかりますね。よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします。早速ですが、何故、不知火さんがこちらに?」

 

 ナギサちゃんの疑問はごもっともだ。元より今日の話は不知火室長に関係のある話じゃない。エデン条約に対して連邦生徒会は不干渉を掲げているのだから。

 

「本来、この会談は一時的に草鞋野さんをシャーレの超法規的権限により、トリニティ総合学園へ交換留学という形で在籍させることを認めるためのものです。通例であれば私が対応しないものでしたが、草鞋野さんの立場やシャーレという所属組織の特殊性を鑑みて、連邦生徒会会長の代行として処理をする……というものでしたが」

 

 そう、その通りだ。超法規的権限の行使になるので七神代行の承認を得ることで処理を省略してしまおうということでここに来たんだけど、これに不知火室長は関係ないのだ。

 

「エデン条約、話は聞いていましたが色々と不穏分子も多いと聞きました」

 

 不知火室長が口を開く。不穏分子。エデン条約を妨害する勢力はまだいる。先生が上げたあの補習授業部の件での報告書は、補習授業部を試験に合格させた後も続きがあった。

 

 アリウススクワッド。聖園さんと共謀したアリウス分校の擁する工作部隊で、アズサちゃんが所属していたという。彼女達はまだ暗躍しており、エデン条約に対する脅威は未だ去っていないんだよね。

 

 だから私がナギサちゃんのボディーガードになるって話。

 

「……どこでそのような話を?」

 

「桐藤さん?私は防衛室長ですよ。キヴォトスの安全保障に大きく今後影響を及ぼすエデン条約を知らぬ存ぜぬ、とはいかないのですよ」

 

「なるほど、理解できる理由です。しかし、連邦生徒会のスタンスは干渉しないというものですが」

 

 バッチバチだなぁ、ナギサちゃんと不知火室長。七神代行は静観してるけど、どういうことなのこれ。

 

「残念なことです。連邦生徒会会長の残したエデン条約。押しつけるような形になった上、それを放っておくような真似となったのはこちらも申し訳なく思っています」

 

 前に、代行に生徒会の過半数はエデン条約がトリニティとゲヘナに押しつける形になったのは申し訳ないし、お膳立てぐらいはしたい、なんて話をしていたのを思い出した。筋は通ってる、かな。

 

「あの、不知火室長、発言よろしいでしょうか」

 

「えぇ、構いませんよ、エリカさん」

 

 私が手を挙げれば、不知火室長は発言を認めてくれた。彼女はその隙にとコーヒーに口をつけた。

 

「では、失礼ですが……何故不知火室長がこちらに?今の謝罪のため、とは思いませんが」

 

 本題に入ってもらおう。ちょっと不知火室長は勿体ぶることが多いんだよね。私の問いに不知火室長は微笑んだ。

 

「もちろんですよ、エリカさん。そのためだけに、私が時間を使ってここにいるわけではありません。短期間でしたが、あなたは私の部下でした。そんなあなたを身一つで渦中に放り込むのは心が痛みます」

 

「……それは、お気遣い頂いてすいません」

 

「いえいえ。聞けば、生徒の傷害沙汰も起きたと噂程度ですが耳にしました。危険を顧みないあなたのことです、そういうことがあっても歩みは止めないでしょう。ですから、バックアップをご用意しようかと」

 

 バックアップ…?どういうこと?私が訝しんでいると、不知火室長はずっと伏せて置いていたバインダーを裏返して、表を私たちに見せてきた。私は絶句した。そこに載っていたのは――。

 

「SRT特殊学園、FOX小隊。今は学校の閉鎖と転入手続きの停止が続いている関係上、休学中の生徒達ですが……非常に優秀な生徒達であり、きっとお役に立つでしょう。どうですか?エリカさん、桐藤さん。彼女達も今回の支援要請に加えるのは」

 

 どういうこと。どうして、不知火室長がこんなことを言ってきてるんだろう。RABBIT小隊の件からSRT特殊学園の子達に悪いイメージは持ってないようだけど、これはまるで。

 

「連邦生徒会が斡旋を…これは、どういうことなのですか?七神代行」

 

 ナギサちゃんが七神代行に問い詰める。これは明確な一校への肩入れで、仕事の斡旋行為。SRTは元々連邦生徒会長の直属で、今は指揮権が浮いてるから指示なんてできないはず。なのに、どうしてここでニコちゃんたちの名前が出てくるの?

 

 私も目を向ければ、七神代行は額を揉んでいた。

 

「……これは不知火防衛室長より提案があったものです」

 

「えぇ、そうです。私が提案し、言うだけは言わせてもらおうかと」

 

「不知火室長。あの子達は今、SRTとしての活動はできないはずです。それこそ、RABBIT小隊のように装備の持ち出しやそもそも、ヴァルキューレへの転入を望んでいないわけでもありません。SRTとして活動することは、彼女達の将来に影響が出てしまいます」

 

「そうでしょうか?私は今回の件、チャンスと思っています。SRTの件も心を痛めているのですよ。あんなに優秀なエリートたちがこのままヴァルキューレに迎合していくのが……」

 

「本人達は望んで、今も待っています」

 

 ニコちゃんたちはアルバイトをして今のどうしょうもない時間を耐えてる。不知火室長の提案はそんな彼女達の苦労を無に帰してしまう。私の懸念に不知火室長は「おや?」と不思議そうな顔をした。

 

「本当にそうでしょうか?それは“仕方なく”そうしているのではないでしょうか。あなたの後輩達はきっと、本心ではそう思っていないかもしれませんよ?」

 

「それは……」

 

 無いとは言い切れない。不知火室長はどうしたいんだ。

 

「悩む必要はありませんよ。エリカさん、何も悪いことはないじゃありませんか。確実に支援要請を遂行できる。それだけですよ」

 

 不知火室長が優しく微笑んでいた。確かに、彼女達がいればナギサちゃんは確実に守れるだろう。それこそ、アリウススクワッドがどういう特殊部隊なのかわからないけど、FOX小隊は凄腕だ。遅れはとるとは思えない。

 

 いた方が、助かるのは間違いない。

 

「…………」

 

「エリカさん。あなたは認めれば、一時的に指揮権も握れます。どうです?期間限定でSRTの生徒会長になれますよ?」

 

 SRTの、生徒会長?何を言ってるんだ、不知火室長は。

 

 どうにも、おかしい。なんでこんな提案を…?

 

「不知火防衛室長。お気遣いは大変嬉しく思いますが、お気持ちだけ頂きます。こちらは正義実現委員会がいます。それにエリカさん個人を指名したのは、私の身の回りの護衛のためです。多人数は都合が悪いのです」

 

 私が困惑してると、ナギサちゃんが助け舟を出してくれた。

 

「親しいから、という理由で指名されたのであれば、そちらの支援要請も通りませんよ?桐藤さん」

 

 不知火室長がいつも細めている目を少し開いてナギサちゃんを咎めるように睨んだ。え、なんでこんな空気になってきてるの。これ、私の一時転入手続きの場だよね…?

 

 あたふたしそうになる。どうしよう、どうしよう、と思っていたらテーブルの影でナギサちゃんが私の手の上に手を重ねてきた。

 

「…………そのような個人的な理由で指名していると不知火室長は思われているのですか?」

 

「えぇ………エリカさん、ですか」

 

「トリニティでは、私であっても名前で呼ばれることはあります。なんら、おかしくはないですが」

 

「苦しい言い訳ですね」

 

「そうでしょうか?私が彼女を指名した理由はいくらでも。まずはその実力です。彼女ほどの実力者がフリーでいることなど珍しい。それに、元警察官として要人の警護はお手のもの」

 

「なるほど。しかし、エリカさんの評判はいいものだけではありません。ティーパーティー内の調整は出来ているのですか?」

 

「ご心配には及びません。それに、外部のあなたに、そんなことを話すとでも?」

 

 な、なんで喧嘩みたいになってるの!?不知火室長明らかに不機嫌になってるよね?ナギサちゃんもかなり真剣な顔つきだし。

 

 こんな状況になって七神代行はどうするの、と目を向ければ頃合いか、と言った具合にメガネを外して眉間を揉んでいた。

 

「お二人とも、そこまでにしてください。あくまでこの場は草鞋野さんの手続きのための場です。不知火室長、ダメもとでというお話だったはずです。無理強いはしないと約束したはずですが」

 

「………わかっていますよ。残念です。では、私はこれで。仕事がたくさんありますので」

 

 あ、行っちゃった……しっかりカップとソーサーを持って不知火室長は出て行ってしまった。

 

「ふぅ……これで少しはコーヒー臭さが抜けますね」

 

 ナギサちゃんが割と容赦無く冷たく言った。こわっ。これはナギサちゃん本気で嫌味言ってる。

 

「申し訳ありません。桐藤会長。まさかあんな提案とは思わず」

 

「内容も確認せずに発言させたのですか」

 

「草鞋野さんの役に立つことだ、と聞きませんでしたので……ダメ元でも、と」

 

 七神代行からすればとりあえず言わせてスッキリさせようって感じだったのかな。不知火室長、押し強い時あるもんね。

 

「後で注意をしておきます」

 

「……わかりました。失礼ですが、あなたも、苦労されているのですね」

 

「恐縮です。では、本題に戻りましょう」

 

 そこからは淡々と手続きが進んで、晴れて私は”トリニティ総合学園三年生”の学生証を手に入れた。写真は一時的なものなので後から付ける。

 

「――以上です。以降、期間満了まで以下の生徒、草鞋野エリカを本学の生徒として認め、転入を許可致します」

 

 詠うような綺麗なナギサちゃんの言葉で、私のトリニティ入りは許可された。ナギサちゃんはなんでか安心したような表情で、嬉しそうだった。うーん、期待されてるね。頑張らないと。

 

「手続きはこれで終了です。草鞋野さんの制服は?」

 

「こちらで用意してあります。一時的ですが、彼女は私のボディーガードとして動きますから、私と同じティーパーティーの制服を着てもらいますので」

 

 あ、そうなんだ。トリニティの制服かぁ、お嬢様学校なんて縁がなかったからちょっと楽しみだったりする。

 

「了解です。では、これで本日の手続きは終了です。お疲れ様でした」

 

 

 

 

 

 

 

 手続きが終わって、そのあと、私はナギサちゃんを連れてシャーレにやってきていた。護衛の二人?ナギサちゃんが帰してしまった。本当にこれからしばらく専属ボディガードとして私を扱うつもりらしい。

 

 シャーレには今、私とナギサちゃんしかいない。先生は別件の支援要請で今は外してるんだよね。確か……山海経に行ってるはず。そこの玄武商会からの支援要請だったかな。

 

「お疲れ様、ナギサちゃん。助かっちゃったよ」

 

「いえ、気にしないでください。それにしても、彼女は一体……」

 

「不知火防衛室長は私の元上司でさ、それと、SRT学園絡みでちょっと前に話したことがあったんだ」

 

「SRT……確か、閉鎖されているとの話ですが」

 

「うん。言ってた通りね。生徒も一部は転入拒否したり、受け入れの関係で未だに休学状態の子もいるんだ。だから、極力派手な行動はしないようにしてるんだ」

 

「なるほど……彼女が何故あのように護衛を増やそうとしたのかはよくわかりませんが、事情はわかりました」

 

 今座ってる応接用のソファーにはないけど、私の席にある写真盾にはニコちゃんの写真がある。本当に、どうしてあんな話を不知火室長はしたのやら。

 

「ちょっと疲れたね?休憩がてら、何か飲む?」

 

「それなら、紅茶を…」

 

「いいよ。あんまり淹れるの上手く無いけど」

 

「そうなんですか?黒館さんから、エリカさんはコーヒーやお茶を淹れるのは上手だと」

 

「ほんとあの子は人がいないとこで何を自慢してるんだか。期待しないでね?ほんとだよ?」

 

「ふふっ、ではそういうことにしておきます。お茶を飲んだら着替えてトリニティに行きましょう」

 

「了解。向こうに行ったら、ある程度の事務とかも手伝うよ」

 

「よろしいのですか?」

 

「これでも、一応一個の局を実務的に預かってたし、書類と1日格闘もできるからさ。エデン条約、個人的にはいいなって思ってるし、やらせてよ」

 

「ありがとうございます。ぜひ、お願いします」

 

 ナギサちゃんの口に合う紅茶を淹れられるのだろうか。茶葉は一応それなりの選んであるけど。まぁ、なるようになるか。

 

 

 

 

 

 

 

 ――こうして、私とナギサちゃんの激動の日々は驚くぐらいに穏やかに始まった。

 

 




とりあえずここまで!次回はまたしばらくお待ちください!

ちなみにカヤちゃんの会話は当然FOXに聞かれてますので「何余計なこと言ってんの!?」って感じでまたユキノが頭抱えてます。SRTの必要性を訴えるには絶好のチャンスとカヤちゃんは思ってましたが難しいですね。

あと、ナギサに同伴していた子達はいわゆるティーパーティーのモブの子達なのでお察しください。
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