「次から次にっ!」
なんでか弾が当たると一撃で着ぐるみを倒せるようになったので、手数は足りてるけどそれにしたって数が多すぎる。進みながら向かってくる相手を迎撃してるけど、その数の多さから生塩さんはレールガンを撃たずに背負ってハンドガンでの攻撃に切り替えたし、マリーちゃんはマガジンの消耗が早い。
コハルちゃんは状況が悪い。機動力を求められるこの状況で得意の射撃はできず、ほぼ私の背後を走らせるだけとなってしまった。たまに手榴弾を投げてくれて何故か効果抜群で相手に効いてるけど、弾数が多くないので投げるのは控えめにしてもらった。
「あんまり痛くはないけど、こうもポコポコ当てられると鬱陶しい!」
先頭を走ってるせいか私にヘイトが集中してやたら撃たれる。大した威力じゃないけど流石に数があるとちょっと痛い。
「……!エリカ様っ!」
「このっ!」
マリーちゃんが呼びかけてくれたので、横から突進気味に突っ込んできた着ぐるみを撃ち抜く。けれど、そいつは囮で更にもう一体後ろにいた。
「先輩はやらせない!」
連携プレーでくるならこっちもね。コハルちゃんが私の装填の隙を埋めるように一瞬足を止めてヘッドショット。相手はもんどりかえって私がトドメの一撃を放つ。
「ありがとう!コハルちゃん!」
「いえ!」
また走り出す。これだけの戦力、トリニティに向けられたらと思うとゾッとする。例の動画からしてここから出ることは出来なさそうだけど、こいつらはここで倒しておきたい。
目標となる時計塔まではあともう少しだ。
「この直線を抜ければ時計塔近くの広場です!」
生塩さんの言葉であともう一踏ん張りだと気合を入れる。振り切れ始めたのか、相手は後方から追撃してくるだけになり、弾も散発的になる。この通路のような長い直線には何も敵は、いや、なんか木箱みたいのが置かれてる。
その脇を通り抜けようとした瞬間、ガタガタと箱が揺れて猫のようなスプリングのついたものが飛び出した。びっくり箱!?アトラクション、じゃない!この産毛が逆立つ感じ、こいつも敵だよ!
「下がってください!この大きさなら!」
生塩さんが相手の大きさからレールガンのほうが早いと判断してレールガンを構えた。青白い光が開放型のバレルからほとばしる。
「アリスちゃんのように行けるかはわかりませんが…っ!」
前に見た天童さんのように、まるで剣のようには振り回さず、コンパクトな動きで生塩さんはレールガンを構えた。その姿はとても様になっていて、元から生塩さんの武器だったのではないかと思ってしまう。
「いきます…光よッ――!」
それおきまりの合言葉なのかな?なんてことを言う暇もなく、強烈な発射音と共に真っ白な光としか言えない弾がびっくり箱のような敵の箱を木端微塵にして、更にこの通路の先にもあった似たような箱を全部破壊していく。最後に、遠くの何か城のようなものに直撃し、崩れたような轟音がなった。
「ぇ………」
撃った本人が一番驚愕してる。生塩さんもここまでの威力が出るとは思わなかったらしい。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。まさか実戦出力がここまでの威力だとは…」
固まってしまった生塩さんをマリーちゃんが声をかけて再起動させる。いやほんとに凄まじい威力だよ。前に天童さんのを見た時は破壊力があった感じだけど、生塩さんのはそれと比較すると貫通力に優れてるみたいだ。
それでいて、反動も決して大きくはない。取り回しこそ問題あるだろうけど、なんて武器。
「先を急ごう!」
止まってしまったので私が声をかけてみんなを動かす。目の前はもう敵の影はない。あとは一気に駆け抜けるだけ。
鬱蒼とした木に囲われた直線を抜けると、そこは広い公園のような広場となっていて、正面には先ほど生塩さんのレールガンが着弾した城のような建物があった。一部が着弾の影響で崩落して、その中に“スランピア”と書かれた電飾が火花を上げて明滅していた。
時計塔はこの城が守るように背後にある。
「ここ抜ければ時計塔です!先輩!」
「そうだね。あと少しで」
瓦礫が動いた。
「待って、何かいる!」
ガラガラと音を立てて瓦礫が持ち上がって、その下から青白く光ったものが現れる。また着ぐるみ…と思ったけど、明らかにサイズが違う。
チチチチッ、とまるでカートゥーンのネズミみたいな笑い声が響く。耳にじゃない、頭の中に直接入ってくるような不快感。発してるのは目の前の存在なのは間違いない。瓦礫の中から出てきた影は3m以上の巨体だった。
「これは…!?」
「今までのクマさんやうさぎさんとは違う…!」
生塩さんとマリーちゃんも呆気にとられている。どうやら、生塩さんは当たりを引いたらしい。
現れたのはネズミ。それも大きな着ぐるみのようなもの。小馬鹿にするかのように笑いながら、それが瓦礫から抜け出すと素早い動きで飛び上がった。飛び上がり、無から光が集まると球体になって、その上にネズミが乗る。
大道芸人のように玉乗りを始めたネズミが、こちらをはっきりと視認すると、両手で何かを投げてきた。
「爆弾…!?散開!」
投げてきたのはわかりやすい見た目の球体の爆弾。導火線が火花を上げている。
私たちはそれぞれ分かれて、爆弾の範囲から逃れた。仕返しに、と私が一発放つ。妙な力が宿った弾丸は相手に直撃…せずに回避される。玉の上で飛んだ…!?
コハルちゃんも援護に撃ってくれるけど、まさかのそれもハズレ。デカい癖に動きが早い!
「伊落さん、援護を。隙を見てこちらが」
「はい!」
どうやら弾速のあるレールガンで仕留めようという算段なのか、生塩さんがマリーちゃんに前衛を任せた。彼女は走りながらも、見た目や性格に合わない身のこなしでネズミの注意を引く。それに反動がさっきよりも大きい。
外れた弾が壁に当たってものすごい壁を抉ってるのであれマグナム弾片手撃ちしてるの!?しかも動きながら…!?
「コハルちゃん!こっちも援護!」
「はい!」
見てる場合じゃない。私たちも生塩さんを援護する。私たちは単発なので、なんとなくだけど交互に射撃を行う。装填速度はやっぱりコハルちゃんの方が僅かに上で、私は結構必死に装填を急ぐ。
そのせいで狙いがブレるという悪循環。いくらよくわからない威力になっても当たらないんじゃ…相手がさっきまでと違ってかなり避けてくるのも面倒だ。
「レールガンチャージ…80、85、90、95――100!」
生塩さんが発射できる状態になったのか構えた。すると、ネズミはまるでその瞬間を待っていたかのようにボールを蹴り飛ばした。まずっ!?相殺できるの!?
「くっ…!発射!」
天童さんのレールガンのように、まるで光の剣が伸びたかのような白い光が大きな玉にぶつかり、大きな爆発が起きた。少し離れてた私たちはいいけど、マリーちゃんが飛ばされた。
「まずっ!」
私は咄嗟に銃をコハルちゃんへ預けて、地面を全力で蹴った。マリーちゃんがこのままだと後頭部や背中を強打する。間に合え…!
「きゃっ…!」
「うぎっ」
なんとか間に合ったけど、勢いは殺しきれず私が背中をぶつけた。痛い。でも、大したダメージじゃない。
「大丈夫!?」
「へ、平気です、それよりも、そちらは…」
「大丈夫これぐらい!」
相手はどうなった、と見れば玉が盾になったからかピンピンしてる。おまけに、こっちを指差して笑っていた。…………こいつッ。
「え、エリカ様…?」
久々に腹が立った。本気で腹が立った。人を傷つけるようなことをしておいて平気で笑うような。しかもコイツは人じゃない。化け物。警告も、容赦も必要がない。そうか、相手がどうなっても問題ないわけだ。
私は立ち上がって、コハルちゃんから射撃訓練場で譲ってもらった手榴弾を手に取ってピンを抜いた。ネズミは私を見てからかうかのように同じように爆弾を手にしていた。
「全力で投げるけど……いいよね?」
相手の回答なんて待たない。私は手榴弾を「全力」で投げた。
笑い声は唐突に途切れる。何故か?ネズミの眉間に綺麗に穴が空いたからだ。
「手榴弾で……貫いた……?」
あーあ。マリーちゃんにドン引きされてるよ。でも、相手は倒れた。まるで自分がやられたこともわからなかったのか、手に爆弾を持ったまま。
そうして、持った爆弾が炸裂して、ネズミはまた瓦礫の中に消えていった。
「や、やったのでしょうか」
生塩さんが流石にやられかけたせいか、緊張していたのか力が抜けてその場にへたり込む。流石に眉間をブチ抜かれてまだ動くとは思えない。これであの着ぐるみたちも動かなくなってくれるといいけど。
私も気を抜こうとしたけど、まだだ。まだ、気配がした。それも、さっき囲まれた時のように、周囲から。もっと強い気配。
「気を抜くなっ!まだくるぞ!」
たまらず私は叫んだ。全員しゃんとしろっ!このままだとやられる!
ヴヴヴッ、と不可思議な音がして、広場の四方に紫色のオーラを纏った何かが現れる。それはメリーゴーランドの馬だったり、カップだったり、ゴーカートだったり。遊園地のありとあらゆる遊具が私たちに向かって突進しようとしていた。
それを操るのは。さっきの白いネズミとは真逆の、黒いカラスのような人形の敵。ステッキを持って、操るように振れば、幾つか遊具が発進してこっちに突っ込んでくる。
「えいっ!」
マリーちゃんが素早く正面から来たゴーカートをマグナム弾で正確に破壊。弾けて勢いだけでパーツがこっちに飛んでくるけど、大したものじゃない。私は背後から来た木馬を誰もいない方向にタイミング合わせて蹴り飛ばす。うまくいった。
「先輩!」
コハルちゃんが私の銃を投げてくる。いいね!そういう遠慮ないの!ますますコハルちゃんが欲しくなるっ!
「ありがと!それっ!」
装填はしてないので即座に装填。今度は正面から突っ込んでくるだけ、確実に狙って一撃で私はカップを粉々にする。遊具を操るぐらいだ。こいつを倒せばこの異変は終わるのかな。
生塩さんも立て直したのかハンドガンに切り替えて迎撃を始めているし、コハルちゃんは状況に慣れてきたのかしっかり動けてる。それどころか動き出す直前の遊具を手榴弾で先に破壊していた。
ならあとは本体をやればいい。
「マリーちゃん、援護して!」
「わかりました!ご武運を!」
カラスに向かって私は突っ込む。相手も気がついたのか、羽を大きく羽ばたかせて、僅かに浮くとぐるっと回転し何か膜のようなものを飛ばしてきた。避けれられない。このまま突っ切る!
それはまるで暴風のようにぶつかってきたけど、飛ばされるほどじゃない。膜を突き破って私は前進した。
「この距離なら!」
接近して構える。相手は避けずに、杖を振った。横に現れたのは遊具ではなく、熊の着ぐるみ。おもいっきり腕を振りかぶって殴ってくる。咄嗟に銃で受け止める。すごい、この銃まさかとは思ったけど、こんな強烈な一撃も受け止めてミシリとも言わない。
ナギサちゃんに、感謝しないと。
「邪魔するなッ」
腕を押し返す。熊の手の中に銃口が見えた。頭を下げて銃弾を避ける。そのまま熊の着ぐるみの下顎に銃を突きつけて接射。仰け反って着ぐるみは消える。
その隙にカラスは私から距離をとって、コハルちゃんに狙いを定めようとしていた。
「来ないでよっ!」
コハルちゃんが必死に迎撃するけど、当たっても威力が足りないのかカラスは気にも留めない。なんとカラスはステッキでの直接攻撃に切り替えたのか、コハルちゃんへ接近するとそれを振りかぶった。
「コハルちゃん――!」
まずい、と思った時にはコハルちゃんがステッキに……あれ、なんか弾かれた!?
ガンっ!と硬質な音を立ててステッキがコハルちゃんとカラスの間で弾かれた。弾いた瞬間、なんか障壁みたいの見えなかった?
周りを見渡せばマリーちゃんがなんか強く祈ってる。え、もしかして本当になんか加護的なもの使ったの!?もしそうならすごい!
チャンスだ。相手は動きを止めた!
「こんな周りを囲まれて動かないなんて、正気かな!?」
地面が抉れたような感覚があったぐらいに全力で私は跳んだ。加速力はね、自信あるの!
カラスがこっちに気がついた。でも、もう遅い!これで決める!
ステッキを突き出されるけど避けて、私は身を翻して右手で銃をカラスの眉間に突きつけた。
容赦無くトリガー引いて、カラスの顔が変形して、膨れて、消し飛ぶ。そのまま身体も細切れになって消えていった。それと同時に、着ぐるみとかが現れてからずっとあった不快感も消え去っていく。どうやら、これで本当に終わりらしい。
「ふぅ。これにて一件落着――」
終わり、と思ったのがいけなかった。突然、時計塔から鐘の音が鳴った。わたしたちが時計塔を見上げると、突如として時計塔が爆ぜた。
「え……」
「みんな、逃げてっ!」
コハルちゃんの呆けたような声と私の叫びは同時で、私はたまらずコハルちゃんを脇に抱えて駆け出した。生塩さんもレールガンを放り投げて逃げる。マリーちゃんもすぐに動いた。
時計塔の煉瓦などの瓦礫が爆発でこっちに雨のように降ってくる。あの爆発は、人為的だ。もしかして、これを狙って…!?だとしたら、私は許せない。こんな誰かが命を落とすかのようなことをする相手が。わかっているのだろうか、誰かの命を奪ったら、もう戻れないことを。
なんとか時計塔の爆発から逃げ切った私たちはネズミとカラスと戦った場所に戻ってきていた。なんでかと言えば、生塩さんのレールガンを回収するためだ。やっぱりあのカラスたちが親玉だったのか、幽霊のような相手は消え去っていて、遊園地はただの廃遊園地に戻ったようだった。
「よいしょ…あちゃー、壊れてるね」
レールガンは大きいのですぐ見つかったけど、大きな瓦礫の下敷きになって砲身がぐちゃぐちゃになっていた。うわぁ、これ直せるのかな?
「ありがとうございます、草鞋野さん。岩をどけてもらって」
「全然いいよ。それよりも、これ直りそう?」
「幸いにも本体は無事ですね。バレルだけがダメみたいです」
「よかった。手伝ってもらってこれじゃあね」
「いいえ。…それよりも、ヒマリ先輩たちのほうが心配です」
そうだった。明星さんたちの安否を確認しないと。それに、まだ敵はいるかもしれないんだ。気は抜けない。二人のところに戻ろう。
「おや、ずいぶんと激しい戦いがあったようですね?」
「え!?明星さん!?」
だけど、戻る必要もなく明星さんが和泉元さんに車椅子を押されてやってきていた。ちょっと車椅子が煤けてるけど、本人は全くの無傷だった。
だけど、問題は和泉元さんだ。彼女も無事なんだけど、格好がまずい。車椅子を停めてその影から出てきた彼女の格好がとんでもないことになっていた。
まず胸。ここにいる誰よりも大きくて綺麗な胸が手拭いで縛られて谷間をこれでもかと強調していた。下着は何故かぱつんぱつんで黒の大人っぽい、レースで微妙に一部透けてるやつ。こ、公然猥褻…。
「え、え、えっ、エッチなのはダメー!」
コハルちゃんが叫んでいた。気持ちはわかる。なんて格好をしてるんだこの人は。和泉元さんがジト目でコハルちゃんを見てるし、明星さんは、
「ふふっ、あははっ、うふっふふふふっ」
爆笑していた。何があったのいったい。
「あ、あの。ヒマリ先輩、何があったのですか?」
「ふふっ、いいえ、ちょっと攻撃を受けてトラックとエイミの服が吹き飛んでしまいました」
「大丈夫なんだろうけど、敵は確認しました?」
「いいえ、草鞋野さん。突いたらすぐに退いたようです。何が目的だったのかはわかりませんが」
二人をどうこうすることは出来なかったみたいだけど、本当に何がしたかったんだろう。明星さんはひとしきり笑ったあと、落ち着いたのか和泉元さんに車椅子をまた押してもらって、私たちのすぐ近くにやってくる。
「なんであれ、最後に時計塔が爆発したのですね。それにノアのレールガンは巻き込まれたと」
「すいません。大事な試作品を」
「気にしなくていいと思いますよ…といっても、ノアは気にするでしょうから。あとでウタハに直すよう言ってみてください。あの女、メンテナンスは丸投げですからね」
「はい…」
「それで、何があったか話してもらえますか?」
私は明星さんに、別れて通信が途絶したあとのことを話した。明星さんは黙って私の話を聞いて考えているようだ。
「――以上です」
「なるほど……奇妙な格好をした着ぐるみはともかく、どうやら相手は時計塔の爆発で皆さんを一網打尽にしようとしたんでしょうね」
「やっぱり明星さんもそう思います?」
「えぇ。わかりやす過ぎるぐらいですが、分かるのは事後だからですね。まさかあんな大きな構造物を爆破しようなんてこっちも思いませんし」
改めて思うけど、本当にこんな手口で攻撃されたのは初めてだし、相手の得体の知れなさがあって不気味だ。あの着ぐるみなんかよりも、ちゃんと相手に”意図”が見えるのが怖い。生きてる人間のほうが恐ろしいと感じる。
「気になりますね。時計塔に何があったのか。綺麗に上層部だけ吹き飛んでいそうですから倒壊はすぐにしないでしょう。少し近くにいって瓦礫の確認をしてみますか」
明星さんの提案で、時計塔の近くへ行くことになった。
私がネズミにぶん投げた手榴弾や時計塔の瓦礫の影響で城のような構造物…たぶんここ、何かのショーの舞台だったのかな…それが崩れて直線でいけそうなので、明星さんは和泉元さんがおんぶして、みんなで乗り越えていく。
時計塔の近くまでいけば幾らかの瓦礫がごろごろしていた。
「先輩、瓦礫ばっかりですけど…」
「うーん。流石に私、鑑識の真似事は微妙なんだよね」
「手分けして探しましょう。エイミ、近くの座れそうな瓦礫に下ろしてください。あなたも探すのです」
「わかった」
みんなで探せばなんか見つかるかな、と思って私たちはそれぞれ瓦礫を漁ることにした。動くたびに和泉元さんが目に入るけど、あのパンツなんであんなパツパツなの。明らかに腰回りが合ってなくて食い込んで痛くないのかな。
「あの、和泉元さん」
「…?なに」
「その、パンツ、痛くないの?」
「痛いけど、しょうがない。代わりがないからね」
「代わり…?」
「言ったでしょ、部長が。私の服なくなったって」
「え、じゃあその下着とかは」
和泉元さんは答えてくれず、ちらりと明星さんを見るにとどめた。あ、あ〜……なるほど……つまり、今、明星さん………うん、やめておこう。このことを突っ込むのは。
それから無言でみんなで瓦礫を漁って、十数分。マリーちゃんが何かを見つけて、私たちは彼女の元に集まった。
「これはなんでしょうか…」
マリーちゃんが見つけたのは何かの制御装置だった。爆発の影響で画面はないし、ボタンも幾つかは外れてる。明星さんはそれをしばらく観察していた。
「………そのまま、おそらくは何かの制御装置でしょうが、爆弾のものにしては複雑に操作ができそうです。ノア、受け取ってください。ミレニアムに戻って解析にかけましょう」
「わかりました。伊落さん、すいませんが」
「はい!専門家の方にお任せしたほうが、間違いないですね」
彼女の言う通りで、ミレニアムに渡せば何かわかるかも。
「預かりました。……では、これで終わりでしょうか?」
「そこは…トリニティの代表である草鞋野さんにお任せしましょうか」
いきなり調査の終了をどうするか振られてしまったけど、そんなのもう終わりしかない。これ以上の戦闘は危険だし、何よりこっちはもう拠点も失って、和泉元さんに至っては(服が)満身創痍だ。
撤退しかない。
「帰りましょう。これ以上は危険ですし、おそらく私達が戦ったカラスとネズミがこの幽霊騒ぎの元凶だったと思いますので」
「わかりました。では、これで今回の合同調査は終了ということで。それで、どうやって戻るのですか?」
「素直にナギサ様に救援を頼みます。どうしようもないので」
ほんとにね。ここからトリニティの学園までそこそこ距離あるし、歩くのはしんどい。私は携帯を取り出して、ナギサちゃんを呼ぶのだった。
あのあと、救援を呼んだらナギサちゃんがすっ飛んできて随分と私を心配していた。他にも羽川さんがコハルちゃんが心配できたのか、無事を確認すると抱き締めていたし、歌住さんまでマリーちゃんの安否確認にやってきていた。さすがにそっちは抱きついたりはしてなかったけど、ホッとしたようだった。
回収した何かの制御装置は正式にミレニアムが預かることになり、今回の調査で発生した損失に関してはトリニティとミレニアムの間で協議をして補填するというところまで現地で話した。明星さんたちはこっちの無茶に付き合わせてこんなにことになったのに、全く気にしていなかった。むしろ、今回の特異現象は普段のデカグラマトンとは違ったもので、いい刺激になったので逆にお礼まで言われてしまった。
羽川さんから私に謝罪があった。調査どころか結局大きな戦闘に発展して危ない目に合わせてしまったことを。ただ、この謝罪が戻ってからで「エリカ様」と人前で呼んだものだから、私が他の生徒に新しいティーパーティーのホストになったのだと勘違いされだした始末。否定しようにも否定する暇がなくて、その日を終えてしまった。
そうして、夜明け後の仮眠をとってナギサちゃんの警備に戻り、今日もまた終わろうとしている。
本当はいけないけど、お風呂のあと、私はナギサちゃんに誘われて同じベッドに入っていた。
「はぁ、流石に今日は疲れたよ」
「お疲れ様です。まさかあんなことになるとは」
「ううん。気にしないで。全員無事だし、なんか成果もありそうだからね」
「成果、ですか?」
「制御装置、っていう遺留品があったわけで、アレがなんなのかわかれば、あの遊園地がなんだったのかわかると思うよ」
「そうですが……」
ナギサちゃんの歯切れが悪い。どうしたの、と天井を向けていた視界をナギサちゃんに向ければ、ナギサちゃんが私に抱きついた。
「うわっ」
「………危険な目に合わせて、申し訳ありません」
なんだ、そんなことか……。
そんなこと、だけじゃないのはわかってるけど。
私は、気がつかないフリをした。
「さっきも言ったけど、気にしないで。私の仕事は今、ナギサちゃんを守ること、この学園の手伝いをすることだから」
「……仕事だから、私を守るのですか?」
「もちろん、友達だからなのもあるよ。言ったでしょ?一緒に頑張ろうって」
頭を撫でてあげる。サラサラとした髪が、手触りがよかった。
ナギサちゃんは私の匂いをまるですりつけるかのように胸の中で頬擦りしていた。
「怖いのです。また、私の命令で、誰かが傷つくのが」
「大丈夫。私は傷つかないよ」
「………約束、してくれますか?」
「もちろん」
できるかはわからない。私は約束を一度破ったことがあるから。
――また、来てくれますか?
――もちろん!
そう言っていたのに、銃を向けたときのあの表情が私の脳裏から消えない。
「なら、約束です。私と」
「うん。どうしようか」
「……んっ……これを」
ナギサちゃんが布団の中でごそごそしてから、何かを私に渡した。それは白い、ナギサちゃんの天使の羽の一部だった。案外簡単に抜けるのね。
「誓約です。既に私にあなたは自身の一部とも言える銃を渡しました。だから、私も、私の羽を渡します。これを返すまで……私の元に戻ってきてください」
すごい約束。けど、なんだか指切りとかじゃなくて、本当に何か力のありそうな約束だった。あの遊園地で起きた不思議なことはあの化け物たちだけじゃない。
私の銃が不可思議な力を発揮したり、マリーちゃんが祈ったら何故か障壁のようなものが生じたり。この世に、説明不能な“特異現象”が存在しているのは私もわかった。だからこの約束も、なにか力があるかもしれない。
私は羽を受け取って、匂いをつい嗅いだ。僅かに私と同じ匂いがした。つけてくれたんだね、香水。
「ナギサちゃん。約束するよ。これを返すまで、絶対あなたの元に帰ってくるって」
「……はい。どうか、この条約が……終わるまで」
私はナギサちゃんを抱き締め返す。彼女を無事、この条約が終わるまで守り通すことを内心誓う。あんな人の命を奪おうとしてくる相手がいる。だから、この身を盾にしてでも、絶対にナギサちゃんを守り通す。
何が降り掛かっても、私の体が壊れても。この子の頑張りを報われるものにしてみせる。
「相手の正体は?」
「掴めたよ……草鞋野エリカ。元ヴァルキューレ。“キュドモス事件”の重要参考人」
「……例の、カイとかいう流れの医者から提供のあった薬のか」
「うん。今は桐藤ナギサの個人的な護衛みたい」
「そうか……シャーレ、だったか」
サオリは渡されたエリカの資料を破り捨て丸めると、ゴミ箱に放り込む。
「中立を謳いながらトリニティに協力するのか」
「あと、潜入員から“同じ香水の匂いがした”って聞いたよ」
「……くだらんな。だが、実力は本物なのだろう。元より桐藤ナギサは優先排除対象だ。巡航ミサイルでの攻撃後、直接攻撃で桐藤ナギサごとヘイローを破壊する。草鞋野エリカも優先的なターゲットに加える」
誰かの悪意を自らの悪意として、サオリは牙を剥く。
全てが灰になる。その日は刻一刻と迫っていた。
えっちなのはダメ!
ナギちゃんついに仕掛けましたがまだ早すぎました。危うい主人公を繋ぎ止めようとして結果余計に覚悟させちゃいました。
シロクロは実際に戦うとどうなんでしょうね?特にクロは四方から物が突っ込んでくるので接近戦しないと厳しそう。今作ではアツコの行動の影響で動きがその場に縫い付けようと接近戦を挑んでいます。