頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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今回は連続投稿はなしです。

ちょっと長めになっちゃいました。
ハイランダーモブのうち銀髪ロングの子が無茶苦茶好みです。


Area-011「ミレニアム中央駅 #ハイランダー鉄道 #黒字路線 #終電逃した」

 ナギサちゃんを連れてハイランダー鉄道のミレニアム中央駅にやってきていた。FOX小隊の子たちは流石というべきか、ちゃんと言った通り装備を整えてやってきていた。駅の少し離れたところで落ち合った私たちは今後の流れを手短に確認していた。

 

「室長は戻られましたか」

 

「うん。けど、そのほうがいいと思う。最悪私たちが失敗したときはもう、連邦生徒会に出て来てもらうしかないから」

 

「……この状況ではバックアップも望めませんでしょうし、不知火室長の判断は間違っていませんでしょう。それで、草鞋野副局長に預けられたと」

 

「そういうこと」

 

 まずはユキノちゃんと不知火室長のことを話した。本当に最後の手段は不知火室長が非常事態宣言の提案をして、連邦生徒会が動くしかない。けどそうなればそうなったで、長い間トリニティとゲヘナは連邦生徒会の監視下に置かれて衰退は避けられない。だから本当にどうしようも無くなった場合の“後始末”の方法だ。

 

 けど、私たちが上手くいけばそうならなくて済む。

 

「指揮権の委譲については了解しました。では今後はどのように?」

 

「無茶だけど、ハイランダーに列車を貸してもらうしかない」

 

 私の提案は流石にFOXの子たちでも無茶だと思ったのか、難しい顔した。

 

「先輩、流石に無理ですよ。ハイランダーの子たちって常日頃から理不尽に遭ってるせいで、列車の運行を荒らすとすぐ手を出して来ますよ」

 

 クルミちゃんが言うのは本当で、列車のジャックは当たり前、車両の破壊や横転、軌道の破壊等々……連邦生徒会の援助がなければとっくに潰れてしまってもおかしくない被害を毎年被ってる。けど潰れないのはやっぱりネフティスのように企業ではなくて学校だからだね。

 

 そんなわけで、私の提案は本当に無茶がすぎる。ようは臨時列車をすぐ出せって言ってるようなもんだからね。

 

「トリニティの列車全てを止めてしまうことは不可能ではありません。今は私がトリニティのホストですから。ハイランダーに申し入れれば可能でしょう」

 

「桐藤会長が仰ってるのはそれで線路を開けて、ということですか。そのうえで列車を借りれればすぐに着くとは思いますが」

 

「交渉をどうするかだね。このあたりはニコちゃん得意だったよね」

 

 交渉とか尋問はニコちゃんが得意だ。私が聞いてみるとニコちゃんは苦笑いだ。

 

「草鞋野先輩、ハイランダーの子たちを説得する自信は流石に…」

 

「ま、ニコでも厳しいよね」

 

 オトギちゃんも無理だと言って来た。けど、なんとかしないといけないんだよなぁ。やっぱりシャーレの権限で押し切るしかないか。不知火室長はあのあとすぐにモモトークを送ってくれていて、なんでも連邦生徒会の室長全員をサンクトゥムタワーにこの夜中集めてくれてるらしい。なので、どうしようもなければシャーレ+連邦生徒会の権限で大抵はゴリ押せる。

 

 やるしかない。無茶をしてでもナギサちゃんを送り届けるんだ。

 

「とにかく、駅に行って交渉する。通じなければシャーレの権限を使って列車を徴用します。無茶苦茶だけど、時間がないので」

 

「了解しました。FOX各位、装備点検」

 

「「「了解」」」

 

 いや、交渉だからね!?と言っても、話し出した瞬間にハイランダーの子たちが応戦し始めることだってありえなくはないので、私も装備を点検する。ナギサちゃんも釣られてかちゃんと点検してた。……トリニティの子、基本真面目だからちょっとヴァルキューレに入れたくなるな。

 

 ナギサちゃんの割と慣れた様子にチラリとFOXの子たちが意外そうな目をして見ていた。

 

「桐藤会長、様になっていますね」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「えぇ。まるで本当に草鞋野先輩の部下のようですね」

 

「まぁ、実際色々あってそういうことしたことあったからね」

 

 ニコちゃんにそう言ってあげると「……そうなんですね」と何故か間を置いて反応していた。

 

「相変わらずですね…先輩」

 

「え?なにが、クルミちゃん」

 

「なんでもないでーす」

 

 よくわからないけどいつも通りではあるよ?よし、装備はOK。行こうか。

 

「指揮はここから私が執る。いいな?」

 

「FOX1、了解。2、3、4いいな」

 

 ユキノちゃんが確認を取ってFOX小隊全員が頷く。最後にナギサちゃんを見た。彼女も銃を構えて頷いた。護衛対象なんだけど、この前の夏のせいかやっぱりナギサちゃんが部下に見えてしょうがない。

 

「エリカさん。かまいません。この難局、私も護られてばかりでは切り抜けられません。どうあれ、今のあなたはシャーレの生徒であり、私と同じティーパーティーなのですから。あなたのことも送り届けねばいけません」

 

 そうかなぁ。FOXの子たちに視線を飛ばすと、そうです、と言わんばかりの顔をしていた。私も護衛対象なのか…。まぁ、体調も万全じゃないし、私はフォローに回った方がいいかな?ここは、後輩たちに華を持たせよう。

 

「わかった。桐藤は私と一緒に後衛。FOX3、フロント」

 

「了解!」

 

「FOX1、2は3のフォロー、4は遊撃」

 

「「「了解」」」

 

「よし、いくぞ!」

 

 私の号令に従って全員が駆け出す。終電も過ぎて静まり返ったミレニアムの市街地は誰もいない。ミレニアム中央駅はまだ明かりがついているが、職員はそう多くないはずだ。最悪強行突破になっても押し切れなくはないはず。

 

 駅の入り口が見えてくる。穏便に済めばいいけど。

 

 なんて思ってたのに、いきなり駅から爆発音が聞こえた。さらにそのあとに銃撃音。え、中で戦闘が始まった!?

 

「FOX3!注意しろ!」

 

「了解!」

 

 クルミちゃんがこのままだと飛び込んでしまうため慎重になるように声をかけるとクルミちゃんは減速してくれた。うっわ、なんか駅の屋根突き抜けたし、戦車砲みたいな音が聞こえたけど。どうなってるの。

 

「この音は……FOX2より各位、8.8cm砲らしき音が聞こえます」

 

 ニコちゃんが砲撃音で相手の武装を当てた。8.8cmだとゲヘナのティーガー…?でも、こんなところで暴れ出す必要がない。とにかく中を見ないとどうにかならないので駅の入り口までやってくると、改札口からすぐにホームなためか中が見えた。

 

 ハイランダーの生徒たちが機関銃やキャノン砲などで応戦してるのが見える。ハイランダーの子たちはかなり武闘派な子が多いから簡単にはやられないと思うけど、相手が戦車砲なんて持ち出してるんじゃ分が悪そう。

 

「一体何と戦って…?」

 

 私が疑問に思ってると、嗅いだ事のある匂いがした。

 

「え?」

 

「どうしたのですか、エリカさん」

 

 いや、うそでしょ。そんなはずない。私の身体から…ではなく、他の場所から、私が使っているのと同じ香水の匂いがする。ありえない…この香水はナギサちゃんとチヒロちゃんしか持ってない。この二人以外からはしないはずの匂い。

 

 それが、駅の中から漂ってくる。

 

「……まずい…!ニコッ!止めろっ!」

 

「せんぱっ……うぐっ!?」

 

 飛び出そうとした瞬間にニコちゃんに背後から組まれたけど私の勢いは止まらなかった。そのままニコちゃんを背にしたまま駅の構内に飛び込んだ。改札を飛び越えて、ホームまで一気に飛び、組みつかれたまま着地したので二人分の衝撃で傷が痛んで意識が霞む。ダメだ倒れるな。アレを止めろ。アレは残しちゃいけない。

 

「……ぅ…ふぅ、ふぅ、ふっ!」

 

「急に飛び出しては…!」

 

 痛い、痛すぎる。傷口も痛ければこれ瓦礫でやられた打撲もかなりキく。全力で動いたら、し、死ぬかもしれない。

 

「な、なんだお前ら!?」

 

 急に乱入したもんだからハイランダーの子が声を荒げて聞いてくる。返事をする余裕もなく、その子に顔だけ向けたら私たちの横を砲弾が通り過ぎて彼女は爆炎の中に消えていった。砲弾の直撃を受けて、吹っ飛ばされて駅舎の壁に叩きつけられて気を失っていた。

 

「なんてことを…!」

 

 下手人を見れば、相手はアリウスの生徒だった。10人はいるけど、先頭にいる3人がニコちゃんの言う通り、8.8cm砲なんていう規格外の装備を平然と振り回してる。天童さん並の膂力…!そして漂ってくる強い金木犀の香り。

 

 連邦生徒会長が封印したはずの“黄金の一滴”……!私が先輩を撃つ原因になった劇薬がどうしてアリウスの手に。

 

「どこまでも君たちは…そんなものに手を出せば、戻れなくなるんだぞ!」

 

「先輩…!落ち着いてください!」

 

「落ち着けるものかっ!」

 

 羽交い締めにしようとしてくるニコちゃんから逃れるように、私は素早くその場から離れる。脇腹が熱い、頭が痛い。気持ちが悪い。足はまるで泥に沈んでいるかのように感覚がおかしい。

 

 けれど銃を持つ手から力は抜けない。もっと強くなる。

 

「草鞋野エリカだ!見つけたぞ!殺せっ!」

 

 薬を飲んでない、後衛の生徒が私に向かって言ってくる。この子たちはどうして平気で人殺しをしようと…!戻れなくなっちゃうんだぞ!

 

「そう簡単に…人を殺すなんて言うな!」

 

 発砲する。ただのライフルのはずなのに、放った銃弾は8.8cmを持って暴れている子に当たればまるで砲弾が直撃したかのように大きくひるんで倒れる。まだ動いている。なんとか立ち上がって撃とうとしている。

 

「突っ込んでくるぞ!まずは草鞋野を始末しろッ」

 

 尻餅をついた8.8cm持ちの生徒を一人狙う。あの薬を飲んでいるなら早く止めないと。残りの8.8cm持ちの二人がこっちを狙って来た。回避のため、私は床を思いっきり蹴飛ばした。

 

「――――ッ!」

 

 足の感覚がおかしい。意識が飛びそう。でも歯を食いしばって銃を構える。私は紙一重で回避なんてできるほど器用じゃない。だから、全力で床を蹴って捉えきれないほどの速度で稲妻みたいにジグザグに移動する。

 

 視界が早くて歪んでるのか、痛みで意識がおかしくてぐにゃぐにゃしてるのかわからない。

 

「早い!?」

 

「あなたが遅いんだよ」

 

 膂力が強くなったところで、動きが速くなったわけでもない。飲んだのが一本だけならその程度だ。真正面に詰めて、銃口を眉間に。銃弾に対する耐性も上がってるけど、この距離で撃たれたらひとたまりもないでしょ?

 

「先輩!回避を!」

 

 誰かの声が聞こえた。咄嗟に強く蹴って後方に大きく飛ぶ。空中で一回転しながら見えた光景は、私が倒そうとしたアリウス生へ、左右から8.8cm砲が放たれ、爆炎に包まれる光景だった。信じられない…どうしてこんなことを。

 

「う……!」

 

 着地して、くらりとして、思わず膝をつく。そうしたら当然のように8.8cm持ち以外の子から銃撃が飛んでくる。動け…!動け!

 

「先輩!バカなんですか!?死にますよ!」

 

 動かない足、銃弾の雨が降り掛かろうとしていたところに、クルミちゃんが割って入ってくれた。言葉を返せなかった。完全に冷静さを失ってるのにようやく気がつく。今の私のやらなくちゃいけないことはなんだ?ナギサちゃんのために、トリニティに戻ることのはずだ。

 

「アレを見て、冷静になれないのは私たちだってわかります!」

 

「……ごめん」

 

「けど、謝るぐらいなら、怪我人らしく引っ込んでください!FOX2、先輩を下げて!」

 

 一瞬で私のように距離を詰めたニコちゃんが私を今度こそ捕まえて後退させてくる。私は抵抗しなかった。クルミちゃんは盾を立てて、砲撃にすら耐えてみせている。本当に、強くなったね。

 

「あの狐のガキを援護しろ!」

 

 重機関銃やキャノン砲によるハイランダーの援護攻撃が始まっていた。鉄道の乗務員とは思えない重火器の数々での反撃で、アリウス生たちは一旦引いて車両の影などに隠れ、散発的な攻撃へと切り替える。まだ残っていた8.8cm持ちの子も同じように下がっていた。

 

 ハイランダーの子たちが築いた簡易的な防衛ラインまで引き摺られて、ようやく私は頭が少し冷えた。

 

「少しは、落ち着かれましたか」

 

「うん。ごめん、ニコちゃん。危険な目に」

 

「……私から先輩に言えることはありません。けれど、どうか、一人で背負わないでください。前にも、そうお伝えしました」

 

 ニコちゃんが私を後ろから抱きしめてくれた。体が熱を持っているせいで、ニコちゃんの体温が低く感じる。それが少し気持ちよくて、意識を失いそうになる。

 

「先生が内密に調査する、と言っていたのはあの薬なのですね」

 

「はい。桐藤会長。違法薬物“黄金の一滴”。このキヴォトスにおいて存在を許されていないものです」

 

 ニコちゃんが私から離れて、ナギサちゃんの質問に答えていた。あぁ、だからFOX小隊はトリニティにいたんだね。あの薬がアリウスに流れたって、聞いて。不知火防衛室長が出て来たのも納得だ。

 

「エリカさんがあぁまで激昂するもの……あれが……あなたを……」

 

 ナギサちゃんの声が少し怒っていた。ナギサちゃんには、このことで背負ってほしくない。これは私と“先輩”の話だから。

 

 ふらつきながらもなんとか立ち上がる。アリウスの子たちはハイランダーの子たちが想像以上に高火力なせいかうまく動けないようだった。少しだけ時間ができた。この場の責任者に声をかけて、列車を貸してもらえるか交渉したい。

 

「……っ……」

 

 ダメ。気絶するな。せめて列車で移動中に気絶するんだ。ぐっ…こんな、全力で少し動くだけで全身に負担が…本当に、今の私は”死んでない”だけなんだ。

 

「エリカさん…お加減が」

 

「だい、じょうぶ。ナギサちゃん、戦況が安定してるうちに、ハイランダーの子と交渉を」

 

 ナギサちゃんに言えば、彼女は意を汲んでくれてハイランダーの子に声をかけにいった。FOXの子たちは、と見ればクルミちゃんも一度引いて来たけどものすごい怒ってるのがわかる。私のことずっと見てる。ほんと、何をやってるんだ私は。

 

 優先順位を間違えるな、草鞋野エリカ。今は、あの事件のことで動くべきじゃない。

 

「すいません!この駅の責任者の方は!?」

 

「私だ!あんたヴァルキューレってことはその人は草鞋野さんで間違いないな!」

 

「え?エリ……えっと、副局長のことをご存知で?」

 

 私のことを知ってる?ハイランダーの責任者の子、特徴的なクリーム色の乗務員制服の胸元を見れば、駅長って書かれてる。この駅長さんの顔に見覚えは……いや、ある。この子、前に会ったことある。

 

「やっぱりそうなのか…!あなたはいつも、こういうときに来てくださる!」

 

 駅長さんが私に駆け寄って手を握ってくれる。どこで会ったっけ。

 

「覚えてらっしゃいますか?以前、D.U.の路線でトレインジャックをすぐに治めていただけましたよね?」

 

 あっ。そっか!あのときの車掌さんか!私が安全局にいた頃に何度か防いだ鉄道ジャックの時に、3回ぐらい会ったことがある。駅長さんになってたんだ。世間って狭いねぇ。

 

「思い出しました。出世されたんですね」

 

「ありがとうございます。ですがこれは、草鞋野さん、あなたのおかげなんです。あなたが事件を防いでくれたおかげで、私の業務成績も上がって…おかげで、立場ばっかりですがこんな駅長までやらせてもらってます」

 

 ちょっと嬉しいな。私のしたことが、こうしてここまでこの子の頑張りが報われるものに繋がったなんて。

 

「それで今回は……我々を助けに来た、というわけではありませんね?」

 

 駅長さんは帽子のズレを手で直しながら、ちょっと緩んでた表情を締まったものにした。運がよかった。うまく交渉できるかもしれない。

 

「すいません。今、私たちはトリニティに向かわなくてはならないんです」

 

「既に終電を過ぎていますので、これからの便はもうありません。こんな状況ですからそもそも出せませんが」

 

 申し訳なさそうに駅長さんは言うけど、目は真っ直ぐだ。ハイランダーの子は気が強いし、言動も荒いけど、根っこは乱れのない完璧な列車運行を是としてる。特例を原則認めない、まるで軍隊のような厳しさすら感じてしまう姿勢がある。だから、恩人であっても、こうして折れない。

 

「どうにかなりませんか」

 

 でも、私も退けない。私も真っ向から見た。

 

「駅長!奴ら仕掛けて来そうです!」

 

「なに!?もっと撃て!銃身が燃えても構わんから撃て!」

 

 アリウスの子たちが痺れを切らしたのか徐々に前進しようとしていた。8.8cm持ちの子を盾に強引に突破しようというのか。

 

「なんだってんだ。草鞋野さん、規則上厳しいのです。しかし、あいつらは何モンですか」

 

「今日のお昼、トリニティでテロが起きてて、アレは私を追って来たテロリストです」

 

「ニュースで見ましたが……テロリストですか。それに、あなたが…何故?」

 

「色々あって。それに、同じく狙われてる方がいて、その方をトリニティに返さなくてはいけないんです」

 

 私がナギサちゃんに視線を向ければ駅長さんはナギサちゃんを見てくれて、ナギサちゃんは帽子をとって駅長さんに顔を見せた。駅長さんほどの立場、それもここはトリニティとミレニアム間の路線だから流石に察してくれたみたいだった。

 

「……事情はわかりました。では尚更、ここから退場いただきたい」

 

「ごめんなさい。駅を巻き込んで」

 

「ですが、退場いただくのは改札からではない」

 

 まさか、と思うと駅長さんは機関銃で応戦している生徒に近づくと声をかけていた。

 

「変われ」

 

「は、はぁ」

 

「それと、最終便の一本前の運転手、まだいるな?」

 

「あそこでライフル撃ってるやつがそうです」

 

「列車を出すぞ。特別急行だ。トリニティ側の許可はもらった」

 

「どういうことですか!?いつの間に」

 

「いいからやるんだ」

 

「責任持てないですよっ」

 

「そのために駅長やってるんだ。責任は取るから早くやれっ!」

 

 駅長さんの指示に従って、駅員さんが動いてくれる。駅長さんは私をチラリと見て、笑ってくれた。まるで、借りは返した、と言わんばかりに。

 

「ハイランダーに手を出しやがって!無賃乗車までしてタダで帰れると思うな!トリニティミレニアム路線は黒字路線なんだよっ!金がなきゃ体で払いやがれ!」

 

 ハイランダーの子たちがけたたましい機関銃の音と、砲身を労らずにキャノンが連射を始める。アリウス生もついに砲撃を始めて来た。行こう。返してくれた恩を無駄にしないために。

 

「副局長、話は聞きました。私とFOX4が殿を務めます」

 

「お願い!」

 

 ユキノちゃんが私の返事を待たずに、残りの二人にも指示を出す。

 

「FOX2と3は副局長と桐藤会長をお連れしろ!」

 

「「了解」」

 

 ニコちゃんとクルミちゃんがすぐに私たちへ合流する。駅長さんに指示された駅員さんが上手く遮蔽に隠れつつ「こっちだ」と呼びかけてくれている。ニコちゃんが前に出て、その駆け出す。私とナギサちゃんはそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

「よかったの?FOX1」

 

「なにがだ?」

 

 ハイランダーの隊列に混ざり、アリウス生への攻撃を始めたユキノに、オトギがいつもの調子で話しかける。状況としてはあまりよいとはいえないにもかかわらず、二人はあまり緊張していなかった。

 

「先輩、あの様子だと無茶すると思うけど」

 

「……だからFOX2とFOX3をつけたんだ」

 

 ユキノはここに残るつもりだった。ただのアリウス生は間違いなくハイランダー生に制圧可能なレベルだ。ハイランダー鉄道学園の生徒の練度は高いことをユキノは知っている。このキヴォトスで大きな事件でなければ時刻表通りに何をしてでも列車を運行する武闘派だ。多少訓練をされている相手では歯が立たない。装備類もキャノン砲や重機関銃など、軍隊顔負けの容赦のないものが目立つ。8.8cm砲を持っている生徒もおそらく時間をかければ火力の暴力で落とし切れる。

 

 それでもユキノはここにオトギと共にあえて残った。

 

「FOX4、いや、オトギ。私とオトギでは、副局長のイエスマンになって無茶を許してしまうだろう」

 

「それはそう。ま、クルミとニコなら止められるね。あの人、あのまま突っ走ったら間違いなくヘイロー壊れるまでやるよ」

 

「あぁ。いつもそうだ。自分のことは後回しで」

 

「困った先輩だよ」

 

 オトギが苦笑いしながら、スコープの先にいるアリウス生を一人ダウンさせる。オトギもエリカの無茶に怒っていないわけではない。それでも、オトギの性格上どうしても同情が勝る。もし、オトギの立場がエリカと同じものであり、敬愛する先輩を苦しめ、死に追いやった薬を相手が使っているとなれば、自分を抑えれる自信がオトギにはなかった。

 

「あいつらには話聞かないとね。あの薬の出どころをさ」

 

「そうだな」

 

「どうやって片付ける?」

 

 ユキノはアリウス生たちを片付ける方法を考える。8.8cm砲持ちの生徒は残り二人で、これを抑えればほぼ勝ちが確定し、エリカたちは列車でここを脱出する。列車さえ出れば急いで倒す必要はない。

 

「時間稼ぎでまずは済ます。ただし、8.8cmは列車の脅威となる。武装だけでも優先して破壊するぞ」

 

「了解。さて、連中も先輩たちがいないことに気が付きだしたね」

 

「もう遅い。私がチャンスを作る。FOX4、決めろ」

 

「任せてよ」

 

 

 

 

 

 

 

 私たちは案内されるがままに、駅の一番奥のホームへと案内されていた。停められていたのはミレニアムとトリニティの間を走ってる白い車体の真新しい高速鉄道で、行き先は「回送」になってる。

 

「好きなとこに乗ってくれ!すぐに出す!」

 

 運転手さんだろうか、私たちに呼びかけてすぐに彼女は運転席のある1両目の中に消えていく。私たちも2両目の中に入った。中はボックス席になっていて、私たちは纏まって一つのボックス席に入った。

 

 座席に着いた途端、一気に体の痛みと疲労感が出てくる。

 

「うっ………」

 

「先輩!しっかりしてください!」

 

「エリカさん!」

 

「ちょっと、疲れただけだから」

 

 窓の外を見れば、列車の何台も向こうで煙と光が見える。銃声も窓越しに届く。ユキノちゃんとオトギちゃんは…?

 

「ねぇ、ニコちゃん。二人は」

 

「FOX1とFOX4はここに残ります」

 

 殿って本当に残るつもりなの…?私が思わず立ちあがろうとしたらクルミちゃんが盾を私の頭上にスッと広げて来た。

 

「先輩は大人しくしてください。大丈夫とか、疲れただけとか、嘘言わないでください。嘘つくの下手なの、私たち知ってますからね」

 

「二人なら大丈夫です。それにハイランダーの子たちもいますから」

 

 本当に大丈夫なのかな。まぁ、ハイランダーの子たちは高火力な武装も多かったし、大丈夫だと思いたい。それに、ここで私がまた余計なことをすれば駅長さんの厚意を無駄にしちゃう。

 

 信じよう。みんなを。

 

「ごめんなさい。一人で、突っ走っちゃった」

 

 謝れば、クルミちゃんは盾を下げてくれた。表情はまだ少し怒ってる。ニコちゃんも真剣なまま。

 

「ナギサちゃんも。君のために、って言った側から」

 

「……そうです。今は、私を護ってください」

 

 ナギサちゃんが言いづらそうに、そう言ってくれた。下手な同情なんかせずに、叱ってくれる。この子はどこまで、いい子なんだろう。

 

『ご乗車の皆様、間もなく、ミレニアム・中央発、トリニティ・オーガス着、特別急行が発車します』

 

 アナウンスが流れ列車が出る。ユキノちゃんたちが戦ってる方から一際大きい爆炎が見えた。

 

「今のは……!」

 

「FOX2よりFOX1、状況は」

 

 ニコちゃんがユキノちゃんに確認すると、ニコちゃんの顔色があまりよくないものになる。まさか、こっちに敵が?それは当たりのようで、向かってきてる敵が見えた。8.8cm高射砲を持ったアリウス生。“黄金の一滴”を飲んでしまった子が、必死の形相でこっちへと向かって来ている。

 

「一人抜かれました。FOX3、迎撃を」

 

「了解」

 

 クルミちゃんが出ようとする。一人じゃ無茶だと止めたいけど、それはできないことだってわかってる。今の私にできるのは、ここで座ってトリニティに着くのを待つだけ。体が万全なら…!

 

「大丈夫ですよ、先輩。あなたに盾の使い方習ったんですから」

 

「クルミちゃん…」

 

「FOX3、これより迎撃行動に――」

 

 行ってしまう、と思ったところで窓の外、少し遠くに見えていたアリウス生に天井からカラフルな液体がかかった。なにあれ。それと同時に私の携帯が震える。倒れてから始めての着信。私が携帯を取り出せば、そこに映っていたのはチヒロちゃんの名前だった。

 

「もしもし!チヒロちゃん!?」

 

『ここは任せて』

 

「ま、任せてって」

 

『どうせまた無茶苦茶してんでしょ。さっきも女の子お姫様抱っこして』

 

 なんだかチヒロちゃんの声が不機嫌だった。うっ、やっぱり白石さんから私が大怪我したの聞いたんだろうな。それにさっき、ナギサちゃんをお姫様抱っこしたの見てたの…?

 

『どこの誰だか知らないけど、足止めすればいいんでしょ』

 

「ありがとう!でも、無茶しないで!相手はヘイローを壊すのも躊躇わないから」

 

『そうなんだ。わかった。気をつけるよ。エリカも、気をつけて』

 

「そっちもね」

 

 通話はそこで終わってしまった。窓の外のアリウス生は更に機関銃による銃撃も受けたり、大量のカラーボールを落としたと思われるドローンが頭上から電撃を浴びせて、8.8cmを一瞬で破壊してしまった。

 

「先輩、あれは……」

 

「たぶん、ミレニアムの子」

 

 ニコちゃんが予想外の状況に聞いて来たので答えてあげる。チヒロちゃんの部活であるヴェリタス。ハッカー集団の集まりだって言うけど、直接戦闘でも強い子がいて、あのカラーボールと重機関銃の攻撃はたぶんマキちゃんだろうね。ドローンはハレちゃんかな。

 

 近くにいたチヒロちゃんが呼んでくれたんだね。

 

 列車が動き出す。がくん、っと揺れてから少しずつ加速していく。

 

『FOX1より、草鞋野副局長へ。ご武運を』

 

 駅から列車が出て、無線機の通信圏外へと出る直前、ユキノちゃんが最後に通信を飛ばして来た。私が応えようにも、返すことはできない。無線がもう届かない。車窓からどんどん、ミレニアムの綺麗な夜景が遠ざかっていく。

 

 ダメだ。意識が………。

 

 

 

 

 

 

 

 まるで眠るように、エリカが意識を失い隣に座っていたナギサに寄りかかる。ナギサは慌てて彼女を抱き止めた。

 

「エリカさん…!しっかり!」

 

「草鞋野先輩!見せてくださいっ」

 

 ニコも気を失ったエリカの容体を確認する。ニコがエリカの首に触れれば、体温は怪我の影響で変わらず高いものの、気を失ったというよりは眠ってしまったかのように見えた。躊躇いなくニコがエリカの制服の上を上げれば、怪我をした脇腹はまだ変化がない。傷口が開いたわけでもないようだった。

 

「……ひとまずは、大丈夫だと思います。クルミちゃん、あちらの席はリクライニングできるようですから」

 

「わかった。寝かせるよ」

 

 小柄なクルミが明らかに体の大きいエリカを抱えると、近くの別の席に座らせ、背もたれを寝かせた。そうしてまたクルミは戻ってニコの席に座った。ナギサはひとまず列車が発車したことで追撃を振り切れたことに安堵した。

 

「ありがとうございます。なんとか追っ手を振り切れました」

 

「いえ。草鞋野先輩があの駅の駅長と顔見知りでなければこうもすんなりとは行かなかったかと」

 

「ま、先輩の人徳だよね。過去の頑張りが報われたわけってこと」

 

 エリカが積み上げてきたものに助けられた。ナギサはそう思って、今は眠っているエリカの顔を見た。汗が少し滲んで辛そうに見える。駅に入った直後に見せたエリカの動きは、古聖堂でエリカがアリウス生徒に見せた動きとまるで同じようなもので、普段の銃を簡単には撃たないエリカとは真逆の暴風と言ってもおかしくはない攻撃的なものだった。

 

「エリカさんのことは、私もわかっているつもりです。そんな彼女が、あのような我を失ってしまうほどのもの……それが、先生が明かさず、あなた方に探すよう伝えたものなのですね」

 

 ニコたちを真っ直ぐ見てナギサは問いかける。ニコは頷く。

 

「“黄金の一滴”。キヴォトス史上最悪の薬物といっても過言ではありません。その存在は失踪前の連邦生徒会長が隠したほどのもので、我々SRTの募集人数を大幅に引き上げる要因にもなったものです」

 

「紅茶を愛するものとしてその呼称はあまり好ましいものではありませんが……一体どういうものなのですか?効果は先ほどのアリウス生から見て取れましたが」

 

「見ての通り、異常な膂力やタフさを得ますが、薬効が抜ければ離脱症状で一ヶ月は動けないほどの劇薬です。そしてこれは1本の場合。入っているアンプルの量で2、3本と増やしていけば効果は倍増していきます」

 

 一本であそこまでの力を得れば2、3本と飲めば、ミカのような強さになるのではないか。

 

 ナギサは身近な強者としてミカのことを思い浮かべる。幼馴染としてナギサはミカの力の強さをトリニティの誰よりも理解している。多くの生徒はただ神輿にされた頭の弱いお嬢様などと思われているが、ナギサは知っている。ミカの力がこのキヴォトスにおいても理外の位置にあることを。エリカも十二分に異常な強さだとわかっているが、ミカにはおそらく数段劣る。

 

 あの細い体のどこにあるのだという無尽蔵な体力とタフさ。容姿からは考えられないほどの膂力と、力任せの格闘戦の強さ。極め付けは体のスペックの高さを生かしたまるで天使のように飛ぶような機動力とその中でも正確に弾を当てる射撃精度。

 

 それが薬を飲むだけで得られるのであれば、確かにアリウスは欲するだろうとナギサは思った。

 

「飲めば飲むほど……ということであれば、当然離脱症状も」

 

「離脱症状は伸びますが、10本を超えると肉体が変異し、化け物のようになり破壊衝動に駆られ、薬の効果が切れ肉体が崩壊するまで暴れるようになります。そうなってしまえばあとはヘイローが壊れるだけです」

 

 まるで知っているかのようなニコの言葉に、ナギサはすぐに理解する。ハルナが言葉を濁して、あのリゾートからの帰りに言わなかった理由を。エリカの過去に、何が起きたのか、エリカ自身が「人殺し」と自らを蔑んだことも。

 

「エリカさんが撃った直後に………彼女の言う“先輩”が亡くなったと」

 

「過剰摂取すればもはや助かる術はありません。草鞋野先輩は……彼女を救ったんです。それなのに……連邦生徒会長は彼女を、スケープゴートに」

 

「どういうことですか」

 

「飲めば化け物になる薬。そして、暴れ出せば止めることなどほぼ不可能。そんなものをばら撒かれて、キヴォトス全域で同じことが起きてしまえばここは滅びます。世界のために、一人を犠牲にすることを選んだんです。連邦生徒会長と――草鞋野先輩自身は」

 

 ニコの顔が悔しさに滲む。クルミはたまらず口を開いていた。

 

「あ〜っ、今思い出してもイライラする!なんで公表しなかったんだ!あのとき言ってれば犯人だって…!」

 

「犯人は見つかっていないのですか?」

 

「そりゃそうだよ!重要参考人というか実行犯が死亡。結果残されたのは製造方法だけ!誰が指示したのかわからずじまい!山海経で協力してたやつも原材料の一つを渡してたり薬の製造に協力してただけで黒幕は知らなかったし」

 

「……ヴァルキューレの記録から抹消され、連邦生徒会の限られた人しか見られない記録の中にしか残されていませんが、草鞋野先輩を傷つけたあの事件は“キュドモス事件”と呼ばれ、迷宮入りとなっています。今日の今日まで、真犯人は見つかっていません」

 

「そうして、出来たのが“事件わらし”……ということですか」

 

「はい。生徒を化け物に変える薬物なんて公表できません。あの花屋のことを覆うために同じぐらい大きな事件が必要でした。それが…汚職警官」

 

 全貌、とまではいかないがナギサは事の流れを知り、絶句する。何よりも信じられないのが、エリカがそれを全て受け入れて休学という名の実質退学をさせられてもなお、行き着いた場所で折れずにいるというところに。

 

「迷宮入り。しかし、終わったはずのことだったのですね」

 

「製法は隠されたからね。作れた“先輩”も死んでるし……連邦生徒会長がいなくなって、そのガードが緩んだんだろうけど」

 

「草鞋野先輩はずっと耐えて来たんです。それなのに、あんなふうに使われているのを見てしまえば…」

 

「無理をするのも、当然…」

 

 エリカのナギサを守ろうという覚悟は本物だとナギサは疑いようがなくわかっており、だからこそ、古聖堂で先生が行方不明の状態でもナギサを優先して戦ってみせた。それほどまでの癒えない傷。ナギサは今一度、エリカを見る。できることならば抱きしめて、その傷を癒してあげたいとすら思う。

 

 だが、生半可な気持ちではただの同情となるともナギサはわかっていて、そうすることはできなかった。

 

 ナギサは気持ちを切り替えるように、思考を切り替えまずは目の前の問題について考えることにした。襲撃から数時間、今ようやく落ち着いた時間がとれたからだ。

 

「……エリカさんの過去は少し、わかりました。今の問題は、あの薬をアリウスがどこから入手したのか」

 

 ナギサはその真犯人がアリウスに接触したのか、と考えるがどうにも違和感が拭えない。なんの目的があって、となる。同時に、アリウスが何故、”今になって”トリニティを襲撃したのかも、腑におちずにいる。

 

「……どこからかはともかく理由は……?」

 

 ナギサはなんとなくだが、アリウスが何故このタイミングで攻撃を仕掛けてきたのか、一つの仮説が思い浮かんだ。エデン条約の調印式でトリニティとゲヘナの上層部を一掃する。ミサイルだけでなく直接攻撃も仕掛け、もしミカが健在なら並のアリウスの生徒では敵わない。

 

 だが、ミカは現在幽閉されてあの場にはいなかった。だから最初に遭遇したアリウスの生徒は薬を飲んでいなかった。

 

 そして、ミレニアムで遭遇した相手は飲んでいた。ナギサの側に、エリカがいたから。ナギサはあの薬は元々、ミカのような規格外な相手への最後の保険だったのではないかと考えた。

 

「………あの薬が、最後の一押しをしてしまったのかもしれません」

 

「どういうことです?」

 

「アリウス分校の戦力は決して高いものではありません。それでも条約調印式を襲撃してみせたのは確実にトリニティとゲヘナ相手に勝てる材料が揃っていたのでしょう。その一つがあの薬なのではないでしょうか」

 

 ナギサは薬を飲んだ生徒の力が、少なくとも膂力だけはミカに劣らぬものだと感じていた。あんな生徒がゴロゴロいれば最悪押し切ることだってできるだろう。

 

「では、それを誰が揃えたか」

 

 ニコとクルミは、まるで探偵のように推理を進めるナギサに驚く。エリカの制服を着ているナギサはまるでエリカが傍にいて、一緒に知恵を貸してくれているように感じていた。

 

 アリウスに襲撃されたことにナギサは恨みや憎しみという感情をあまり感じていなかった。怒りはあったが、それでも冷静さを失わせずにいる。だからかこうして、ナギサは考えられている。

 

「その人物こそ、今回の騒動の黒幕なのかもしれません。連邦生徒会長の隠したものを見つけ出し、アリウスに与えたものこそが」

 

 誰かはわからないが、ナギサは黒幕がアリウスの生徒ではない、という予感のようなものがあった。アズサが何故アリウスを裏切ったのか。何故ミカが、アズサを受け入れたのか。アズサという少女は不器用で、とても演技できるような生徒ではない。憎しみや、殺意があるのなら、ミカに見抜かれていたはずだとナギサは考える。

 

 もはや伝説となるような過去、それほどまでの時間的距離があるにもかかわらず、アリウスが何故自分達を殺そうとしてきたのか、ナギサは理解できないでいた。それほどまでの恨みや憎しみを煮詰めたような環境でアズサのような生徒が一人でも生まれるとはナギサは考えづらかった。

 

 自分達にされたことであれば一生そのことを考え続けるかもしれないが、他人にされた行いはどこまでいっても“他人事”なのだ。

 

 アリウス生が持つ憎しみは本当に、彼女たちの憎しみなのだろうか。ナギサはそう思わずにいられない。

 

「教唆…誰かが、彼女たちを指揮しているのかと思います」

 

「桐藤会長は、このテロに真の黒幕がいると?」

 

「全て推測に過ぎないものですが、このテロ攻撃に至るまで、アリウスが本当に我々を憎んだだけで行うとは思えていないのです。何か、目的があるのではないか、何か…と」

 

 ナギサが推理できたのはそこまでだった。結局、アリウスに関する謎が多すぎるのだ。そして仮に、アリウスの生徒たちが何者かに操られているにせよ、犯した罪は消えないのはナギサもわかっている。

 

「……ただ、どんな目的があるにせよ、トリニティで起きた混乱は納めなくてはなりません。そのために、私とエリカさんがトリニティに戻る必要があります。今しばらく、お力を貸してください」

 

 ニコとクルミにナギサは頭を下げる。一自治区の長があまりにもあっさり頭を下げたことに二人は驚くが、ナギサが大きくエリカに影響を受けているのだということに気がついた。

 

「(本当にあなたは罪な人です。草鞋野先輩)」

 

 ニコは生徒会長すらも変えてしまったエリカを改めて尊敬すると共に、ニコ自身よりも深い愛をエリカに注いでいるナギサに悔しくなった。

 

「(やっぱり先輩すごいや。ユキノが生徒会長にしたいって気持ちわかっちゃうな)」

 

 クルミもエリカへの気持ちは変わらず、ユキノが目指している未来に期待を抱く。

 

 それぞれの感情がありつつも、FOX小隊の二人は職務を全うするために姿勢を正す。

 

「お任せください。我々FOX小隊がエスコートしてみせます」

 

「私の盾は先輩の仕込みですから。どんな攻撃も弾いてみせます」

 

 まるでエリカのような真っ直ぐさにナギサは二人がエリカの愛弟子たちなのだと見せつけられる。たとえ犯罪者と罵られようと、自らを殺人者と蔑んでも、エリカの積み上げてきたものは悪いことだけではない。良いことも、エリカが否定しようがないぐらい積もっているのだとナギサは感じた。

 

「(そして、それが未来につながっていく。今できることを全力で。そうすればいつか、ゲヘナとも)」

 

 ハルナといつか、堂々とカフェでお茶をする。ささやかな、簡単にも思える夢をナギサは想う。

 

 一旦休憩しようとナギサは力を抜いて背もたれに体を預ける。が、そうしようとしたところで携帯が鳴った。襲撃されてからこれまで一度も鳴らなかった携帯だ。ナギサは慌てて携帯を取ればディスプレイに表示されたのは頼れる大人の名前だった。

 

「先生!?今までどちらに!?」

 

『やぁナギサ、色々あってね。エリちゃんも一緒かな?』

 

「はい!今、トリニティに向かってます!」

 

『やっぱり外に退避してたのね。よかった。あとどれぐらいで着く?』

 

「わかりませんが……少なくとも、夜明けの前には着くと思います」

 

『ならよかった。破壊された古聖堂に向かってほしい』

 

「古聖堂に…?」

 

『うん。そこで、全ての決着をつけるから』

 

 ナギサは先生が何をしようというのかわからなかった。だが、先生もまたエリカと同じく諦めの悪い人だと知っている。

 

「わかりました。向かいます」

 

『ありがとう。待ってるよ』

 

 全ての決着をつける。ナギサはその言葉を信じて、再びあの古聖堂へ向かうことにした。

 

 




ざっくりですがやっと主人公の過去を出せてきました。
先生がエリカにSRTが調査することを伏せてたのは今話みたいにナギサのことを放り出して飛び出しかねないと思ったからです。それほどまでのトラウマです。

ナギちゃんは結果的にトリニティから離れたことで結構冷静になっています。ミカがリンチされてたり、ここぞとばかりに派閥争いになる本編の状況を見てないのも大きいです。

11/5追記 すいません。やっぱり連続投下します。
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