頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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今度こそ連続投下はここで止まり!

エデン条約編は今話で終わります。


Area-013「エピローグ」

 アリウスの指揮官らしき子が召喚した凄まじい数のユスティナ信徒を前に、私たちは一歩も引くことはなかった。確かに数は多かったし、動きも最初に戦った時のように技術を使って手強くなっていた。

 

 でも、それでも、ここに揃った私たちを止めるには足りない。ホシノちゃんとクルミちゃんが強引に前線を押し上げ、その後方からノノミさんやコハルちゃん、私といった援護組が二人を囲もうとする相手を倒していく。

 

 更に先生を狙おうとする個体もニコちゃんやシロコさん。セリカちゃんに殲滅されていく。撃ち漏らしがあっても、最後に控えているハナコちゃんとナギサちゃん、そして離れたところでドローンによる空撮をしてくれているアヤネちゃんがターゲッティングをもして盤石の体制だ。

 

『みなさん!周辺の敵部隊は壊滅したようです!』

 

 もちろん、CPをアヤネちゃんが請け負っているおかげで、私たちの動きは即席の部隊なのにかなり足並みが揃っていた。これで負けるなというのがおかしい。そして、今の知らせはかなり大きい。

 

 アヤネちゃんの言う通り、先ほどから古聖堂の周りで響いていた戦闘音が落ち着きつつある。たぶん他にここへ集結した子達がアリウスの子達を倒したんだろうね。

 

 つまりはもう、詰み。アリウスのテロ攻撃は失敗したんだ。

 

「ならあとはあの3人を抑えればこっちの勝ちだね」

 

「はい!これで、やっと終わる…!」

 

 私がそう言えば、隣にいたコハルちゃんが更に気合を入れていた。散々振り回されたもんね。コハルちゃんも。

 

 傷を負い、後方に位置取っていたアズサちゃんが飛び出していく。決着を付けるつもり?人のこと言えないけど、アズサちゃんもボロボロだ。援護をしてあげないと。けど、ニコちゃんたちは倒しても増えていくユスティナ信徒の対応に追われてる。一体一体倒せてもやっぱり物量っていうのは圧倒的だ。

 

「コハルちゃん、ここを任せるよ。アズサちゃんを援護するね」

 

「はい!先輩も気をつけて」

 

「うん」

 

 アズサちゃんの援護もそうだけど、可能であるならば、あの3人に投降を呼びかけたい。犯した罪の大きさは濯げるかわからない。でも、まだあの子達は引き返せる。私と違って、まだ終わってない子達なんだ。

 

 ただ走ってるだけなのに、かなり身体が重い。動けてる理由がわからないぐらいだ。襲いかかってきたまるで司祭のような化け物の腕を避けて、すれ違い様に一撃で倒す。

 

 明らかに生徒の亡霊じゃないこれはなんなんだろう。

 

 アズサちゃんは上手く交戦を避けて最短距離で向かってるのか速い。なんとか接敵する前に追いつかないと。目の前を塞いだユスティナ信徒をまた撃って進路をこじ開ける。本当に数だけは多い!

 

 そうやって走って撃って、なんとかアズサちゃんに追いつく。追いついたけど、アリウスの子達の前にもう辿り着いてしまった。

 

「アズサ…!お前は…お前だけは!」

 

「サオリ……」

 

「全ては虚しいだけだ…!こんな抗ったところで!」

 

「それでも私は、虚しいことだとしてもやれることをやるだけだ」

 

 なんでだろう。きっと彼女は私と先生を撃った子なのに、どうしてか、彼女を見ていると悲しさが勝る。どうして、そこまで世界を憎むのだろうか。確かにこの世界は理不尽かもしれない。大切な人を、ものを容易く奪っていく。

 

 けれど、さっきヒフミちゃんが言ったように、そんなのは嫌だって、諦めずに進むことはできる。私のように、終わってしまった人でも。してきたことは、抗った過去は、全て無駄にはならなかった。

 

「全ては虚しいだけ……それはね、諦めてるってことだよ」

 

「草鞋野エリカっ!ノコノコと!」

 

「もう、投降して。これ以上の抵抗は不幸になるだけだよ。君たち以外のアリウス生は全滅した」

 

「投降だと…!?」

 

「まだ、引き返せるかもしれない。君たちはその手を血で汚していないから」

 

 銃は向けずに言葉だけで呼びかける。大人しそうな対物ライフルを持った子は戦意を喪失しているのか、抵抗しなさそうだ。ただ、ロケットランチャーを持った黒髪の短髪の子と、サオリという指揮官の生徒はまだ諦めていないのか私を睨み返してきた。

 

「そんな目で見るな…!私たちを、憐れむような」

 

「不愉快だね…アンタ」

 

「誰かの憎しみを自分の憎しみにするなんて、そんな疲れることやめようよ。本当にこれが、あなたたちのしたいことなの?」

 

「なんだと!?」

 

「君たちがしたいことは本当にこんなことなの?こうするしか、なかったの?」

 

 私の問いかけに、アリウスの子達は目を逸らした。それはもう、答えだよ。

 

「サオリ、彼女の言う通りだ。これは私たちの憎しみじゃない。兵を引いてくれ」

 

 アズサちゃんも私の説得に協力してくれた。どうか、聞いてほしい。もうこれ以上、誰かが傷つけ合う必要はない。大勢は決して、これ以上抵抗すればもうそれは道連れを増やすだけにしかならない。

 

「まだだ…!こんなところで…!」

 

「ッ…!?」

 

 けれど、言葉は届かなかった。

 

 サオリが銃を抜いて私に突撃してきた。速い…!こんな力をまだ。

 

 私は咄嗟に横へよけると、追撃に戦意がないと思っていた対物ライフルを持った子がこっちへ砲口を向けていた。

 

 避けることはできなかった。直撃。よりにもよって、傷口のある脇腹に。痛みはすぐにこなかった。弾は制服に当たった瞬間に勢いを失って制服を貫かずにその場で変形する。でも、衝撃は死なずにそのまま私に伝わった。

 

「がっ、ぎっ…!」

 

 激烈な痛みが脇腹に走り、傷口の感覚がおかしいものになる。

 

「エリカ!?やめろ、ヒヨリ!エリカが死んでしまう!」

 

 追撃はそれ以上来ない。ヒヨリ、と呼ばれた私を撃った子は“死”という言葉を聞いた途端に、顔を青くして対物ライフルの銃口を空へ向けた。よかった、この子はちゃんと、わかってるんだ。

 

「はあっ、はっ、はっ、アズサちゃん、彼女を…!」

 

 サオリは、と周囲を見れば彼女は瓦礫の山を飛び越えて、どこかに消えていく。あれは、地下?逃げたようには見えない。まるでアレは。

 

「追ってください!まだ何か手段があるようです!」

 

 ハナコちゃんが叫んでいる。やっぱり、奥の手があるってことだ。追うしかない、と思っても脇腹の痛みが引かない。眩暈がしそうだ。気持ち悪さもある。なんとか目の前の二人への警戒を怠らない。

 

「私が行く!」

 

 アズサがサオリを追うために退いていった。そしてそれと入れ替わるように、ホシノちゃんがこっちに滑り込んでくる。

 

「エリカ!しっかりして!」

 

「私のことは、いいから、あの二人を捕まえて」

 

「……っ!わかった、捕まえるよ」

 

 ホシノちゃんが私に盾を渡してきた。せめてこれで動けないなら攻撃を防げということだろうか。ホシノちゃんは両手でショットガンを持つと、残った二人のアリウスの子へ銃口を向けていた。

 

「……おふざげが過ぎているんだお前達は。逃げられると思うなよ」

 

 冷たい声だった。ホシノちゃん、こんな声も出せたんだ。

 

「捕まるとでも?」

 

「捕まえるんだ」

 

「そう。なら、やってみれば?」

 

 まるで破滅の一歩手前のようにユスティナ信徒の数が増殖していく。ホシノちゃんがなんとか突破しようと試みるも、これまでとは増え方が違う。まるで壁みたいに増えていく。この場に残ったアリウスの子二人の姿もその壁に阻まれて見えなくなっていく。

 

 ちらりと周りを見れば、先生がアズサちゃんを追っていったのか姿が見えなくなっている。ナギサちゃんの周りにもどんどんユスティナ信徒が増えていた。まさか数に任せて特攻してなんとしてでも、私とナギサちゃんをやってしまおうというのか。

 

「先生とアズサちゃんだけでは…!」

 

「エリカちゃん!とにかく今はここを切り抜けないと!」

 

「わかってる!…うっ……!」

 

 あー、やばい。ふらふらしてきた。これお腹やばくない?と見たら、せっかく新調した制服の右スカート上が赤くなってきていた。どんだけ血がまた出てるんだ。それに、外傷だけじゃない。

 

「ゲホッ!」

 

 咳が出て口で抑えたら掌が真っ赤だった。………まずいなぁ、これトドメ刺されちゃったかな。

 

「っ……!エリカ…!」

 

 ホシノちゃんの声が遠い。けど、まだ。まだだ。先生が、戻るまでは。

 

「こんな、反則みたいな量。なら、私も、ちょっと、反則しないと、ね」

 

 脇腹が熱い。傷口が開いてる。口の中は血の味がする。でも、この馬鹿みたいな数をなんとかしないと。ナギサちゃんの方を見れば、何か叫んでる。聞こえない。私、耳がいいはずなのにな。

 

 脳裏に流れ込むのは、何故だか知らないはずなのに“識ってる”知識。誰かの記憶。それとも私の記憶?死にそうだから頭ん中おかしくなったのかな。

 

 口が勝手に動く。誰かの声が頭の中で重なる。

 

「――神秘解放」

 

 

 

 

 

 

 

 ホシノは寒気がした。朦朧としたエリカのヘイローがまるで光って焼け落ちてしまうのではないかというぐらい輝いていた。そして、エリカの体を紫色の光が吹き荒れ、六角形の紫水の結晶がエリカの頭上を踊る。ただの布であるはずのエリカのシャーレの制服は、上着が青く輝く。

 

 その手にあるトリニティ製のライフルを黄緑色の光が包み込み、まるで槍のような形をとってから、一際輝いて弾ける。

 

 エリカの頭上を踊っていた六角形の紫水の結晶が五つに輝き、爆発する星のようになると最後に光の粒子となって溶けていき、エリカの体へと降り注ぐ。

 

 ふらふらとしていたエリカの体は安定し、いつものようなスッとした姿勢をとり、閉じていた瞼が開かれる。神秘的で、まるで女神が降臨したかのような儀式。だが、エリカの目はひどく虚だった。

 

「……誰……なの……」

 

 ホシノは、目の前の存在がエリカのように思えなかった。姿は同じ。だが、まるで中身が違う。エリカのような何かはホシノを一瞥すると、正面に広がるユスティナ信徒たちへと向いた。

 

 そして、漂ってくる強い金木犀の香り。ホシノはエリカの香水と知っていたがこんな強い匂いではないはずだと感じた。

 

「エリカさん……こんなに傷ついて」

 

 自身の体であるはずなのに、まるで慈しむかのような視線をエリカは向けていた。そして声音もまるで普段のエリカとは違う。もっと深く落ち着いた声音。ボタボタと血が流れているのにまるで他人事のように身体の惨状を見ていた。

 

「これ以上傷付けば……なら」

 

 エリカの顔が普段と全く別に見える真剣なものになり、その手にあるライフルが迫り来るユスティナ信徒の壁に向けた。トリガーは容易く引かれ、放たれたのは……暴虐と言うに等しい結果だった。

 

 一発の弾丸が一体のユスティナ信徒に直撃したかと思えば、そこからまるで拡散するかのように弾が広がり、猛獣が食いちぎるように弾が当たったユスティナ信徒の部位が無くなっていく。

 

 それを、2度、3度と繰り返せばあっという間にユスティナ信徒の数が減っていく。

 

「脆いですね。まるで、落葉樹のようです」

 

 何がおかしいのか、エリカの姿をした“何か”は微笑んでいた。ホシノはこの異常な光景を他の生徒達がどう見ているのか周りを見渡せば、特に何も感じていないのか、ホシノのような反応を見せていない。

 

「(私の神秘が、強いから…?)」

 

 おそらく、大半の生徒達がエリカの身に異変が起きたことを気がつけていない。ナギサだけはおかしいと思っているのか、遠くからホシノ達を気にしていた。そして、ホシノ自身が知覚できるのはキヴォトスでも規格外に近い神秘の持ち主だからだった。

 

「亡霊としての年季が違うのですよ。そんな伽藍堂で、何ができるのですか」

 

 その発言にホシノは何が起きたのか、この“何か”が何者なのか、悟った。だが、ありえないとホシノは目の前で起きていることを信じられずにいる。死んだ人間は蘇ることはない。そんな当たり前のことが、今、ホシノの前で音を立てて崩れていく。

 

「私には愛があります。あなた方にあるのは機械のような命令だけ……そのような覚悟も持てぬなら、さっさと成仏しなさい」

 

 次々と“何か”はユスティナ信徒を撃ち、喰らい、すりつぶしていく。無限に思える物量がまるで意味がない。

 

 そのまま、ひたすらにエリカの姿をした“何か”は壁のように現れていたユスティナ信徒の半分以上を食い尽くしたところで、ようやく動きを止めた。

 

「ここまで、ですか。エリカさん…香水をまだ使ってくれているのですね。やっぱり、優しいあなたに似合う……いい、匂い…」

 

 電池が切れたかのように、エリカの身体が倒れ込む。ホシノは咄嗟に崩れていく身体を支えた。異常な金木犀の香りは嘘のように消えており、光っていた制服はただの青色に戻っていた。

 

「エリカ!しっかりして!エリカ!」

 

「…………」

 

 出血がひどく、エリカの顔から血の気が引いていく。ホシノの腕の中で段々と死に近づいていくエリカに、呼吸が浅くなる。これでは、また、とホシノはパニックになりかけた。

 

「い、いやだ、また、私は…!」

 

「傷を抑えてください!」

 

「え」

 

 だが、まるで突然そこに現れたかのように今までここにいなかった生徒の声がホシノに届く。顔を上げれば、そこにいたのは白い看護服のような制服を着たトリニティの生徒だった。

 

「……神秘がこんなに濃く…おかげですぐに来れましたけど……!応急処置をします!周りの敵を!」

 

「わかった!」

 

 言われるがままにホシノはエリカを現れた生徒――セリナに任せて迎撃に移る。もう既に退いたのか、ホシノの視界にミサキとヒヨリの姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 エデン条約は御破算になった。そりゃそうだ。あんな状態で結び直すなんてことはできなかった。けど、アリウスの企みも失敗に終わった。結果的に、トリニティもゲヘナも誰一人欠けることはなかったのだ。

 

 私?私はまた脇腹撃たれてからの記憶が曖昧だ。ホシノちゃん曰く傷が開いて吐血してぶっ倒れたらしい。そしたら、どこからともなく鷲見さんが現れ、私に応急処置をしたとのこと。

 

 その間に、ホシノちゃんがどうにか周りのユスティナ信徒を倒してくれた。助かった。

 

 先生とアズサちゃんはサオリを追った先で、彼女との決着はついたけど、巨大な化け物が現れてその隙にサオリは逃げ出してしまったとのこと。追おうにも痕跡はなくて、先生は捜索を打ち切った。私もそうだけど、撃たれた相手に寛容すぎるというか。生徒だから、なんだろうね。

 

 私は一発ぐらいは殴らせろ、と思うけど、結果的に死んでなかったのかと、アリウスの子達が誰かに唆されてるように思えてどうにも憎むことができなかった。

 

 本当なら、あぁいう子達はシャーレで面倒を見てあげなくてはいけないのに、今回は敵対するしかなかった。先生が以前ナギサちゃんたちと敵対したときもこんな気持ちだったのかな?

 

 色々ありはしたけど、トリニティはよくも悪くもエデン条約締結前の状態にだいたいは戻った。戦後処理を手伝おうにもぶっ倒れていたので私は病院にぶち込まれ、初めて会った蒼森ミネさんにしこたま搾られた。

 

 救護騎士団の団長で名前だけは聞いてたけど、美人な上に本当の騎士のような出立なせいか、かなり怖かった。死んでも救うみたいな気迫があった。

 

 なので、古聖堂での決戦から一週間は病院ベッドにくくりつけられて、外界の情報はほとんど入ってこなかった。

 

 なんとか一週間で退院して、ナギサちゃんに会おうとしたけど、あまりに忙しいらしく、私にもう構うことはできないと他のティーパーティーの役員から言われ、古聖堂での戦い以降、私はナギサちゃんに会えていない。まぁ、そのうち落ち着いたら会いに行こうと思う。銃も預けっぱなしだし。

 

 ……トリニティ製のライフルはそのまま私に貸与されたままなのはいいのかな?何か言われるまでは使おうと思う。

 

 不知火室長がナギサちゃんに言っていた復興支援もされるようで、トリニティの復興は早そうだった。

 

 そして、今、私がどこにいるかと言えば、D.U.にあるニコちゃんのバイト先だった。夏の時のようにお昼を食べに来ていたのだけど、今日は最初一人だった。

 

 あぁ、そうそう。有給をとるという私と先生の企みは速攻でパーになった。私たち二人でぶっ倒れてたら仕事が溜まっていたのである。なので。その処理に今は追われてるし、それ以外にもやることが増えた。なので、食事は別々にした。時間がないので休み時間をずらしたのだ。

 

「……で?そんな貴重な私の休み時間に、なんでいるの」

 

「酷いですわね。快気祝いに参りましたのに」

 

 ニコちゃんから定食を配膳してもらい、じゃあ食べようと思ったらハルナが現れた。快気祝いというのは本当のようで、トリニティで有名なショップのデザートの紙袋を持っている。

 

「色々と大変だったようですわね。ナギサさんも、あなたも」

 

「まぁね。無事片付いたからいいけど」

 

 ハルナとナギサちゃんの友情は無事続いているようだった。エデン条約が失敗したとはいえ、あのテロ攻撃の中で両校の風紀委員と正義実現委員会の連携や、救護騎士団と救急医学部による負傷者の救済が上手くいったのか、ゲヘナとトリニティの関係は一部改善したらしい。

 

 そう、ナギサちゃんの頑張りはちょっとだけとはいえ、報われたのだ。

 

「ハルナはナギサちゃんと会えてるの?」

 

「いえ、わたくしも会えていませんわ。とはいえ、今は復興で忙しいでしょうし、こんな状況ですが一ヶ月半後には晄輪大祭ですのよ?」

 

「ほんとね。よくやるよ」

 

 仕事以外でやること、というのが光臨大祭の準備だった。ギリギリまで開催を検討して、ようやく開催の方向性で固まったらしい。開催を押したのはなんでも不知火室長らしい。難局を乗り越えたトリニティとゲヘナ、その姿に感銘を受け、今一度キヴォトス全体をスポーツで繋ぎ、今後の秩序を守る助けになればと。

 

 これは不知火……あぁいや、カヤちゃんから自信満々に電話で教えてもらった。名前で呼び合うようになったらなんというか、カヤちゃんも物凄いやる気が空回りしてそうな子だとわかったけど、シャーレは頑張る子の味方なので、助けてあげたいと思う。

 

 それにしても、ナギサちゃんにハルナも会えていないとは。

 

「これどうしよ」

 

「なんですのその羽」

 

「え?ナギサちゃんの羽」

 

「ぶっ!?」

 

 ハルナがいきなり水を噴き出した。お上品なハルナがそんな反応したことに笑いそうになるけど、悪いのでこらえてあげる。

 

「お客さま大丈夫…って…く、黒館ハルナ…!」

 

 ニコちゃんが慌ててお手拭き持ってきたけど、当然彼女はハルナの悪行をよく知ってるのでかなり微妙な顔をした。大丈夫だよ、ニコちゃん。ここの料理は気に入ってるみたいだから。

 

「けほっ、けほっ。い、いまなんと!?」

 

「なんてって、これでしょ?ナギサちゃんの羽だけど」

 

「えっ。せ、先輩!すぐにそれしまってください!」

 

「に、ニコちゃんもなに、どうしたの!?」

 

 急にニコちゃんがハルナと一緒に慌て出した。

 

「「いいから仕舞って!」」

 

「わ、わかったよ。急になんなのさぁ」

 

 あまりに必死なので羽を私は仕舞った。そんな顔を真っ赤にして必死な形相にならなくても。よくわからないので私が黙っていると、おそるおそるニコちゃんが口を開いた。

 

「先輩、まさかとは思いますけど、何か、その羽の代わりに何か渡しました?」

 

「銃渡したよ。私の」

 

「それは、あのエリカさんが大切にされていた拳銃ですか?」

 

「そうそう。ほら、二人して殺されそうだったから死なないように誓いみたいな感じでさ。絶対一緒に帰ってこようねって」

 

 結果、あのまじないみたいな誓約のおかげか、私たちは生き延びて日常に帰ってこれた。いやぁ、馬鹿にできないよオカルト。実際今回の支援要請はお化けと戦ったわけだし?明星さんにトリニティってそういうとこあるのか今度聞いてみよう。

 

「意味をわかっていらっしゃるのですか?」

 

「え?なんの?」

 

 ハルナがもはや怒っているのかというぐらいの気迫を私に向けていた。ニコちゃんどうしよう、と顔を向ければニコちゃんも同じ顔つきだった。なんで?私の味方はどこに。

 

「………トリニティにおいて、天使族の子が羽を渡す風習があるのは事実です。現代では多種族となったので、その風習だけが残り、渡し合うものは羽か命の次に大切なものとなりました」

 

「へぇーさすが歴史のある学校だね。ハルナそういうの詳しいの」

 

「………年頃の、乙女なら知っていますわ。誰でも」

 

「そうなのニコちゃん」

 

「はい」

 

 そうなんだ。私あんまり流行には詳しくないし、知らなかった。

 

「で?意味は?」

 

「………………い、意味は」

 

 なんでかハルナが言い淀んでいた。そうしたら代わりにニコちゃんが喋り出した。

 

「い、意味は大切な人とずっと一緒に無事でいようという意味です!はい!」

 

 なんだ、それならそのままじゃん。

 

「じゃ、返さなくてもいいかな?」

 

「か、返してあげてください!」

 

「そういうものなの?」

 

「うっ、そ、それは……」

 

 ハルナ、言いたいことがあるならハッキリ言って欲しいんだけど。今日はやけに話しづらそうだった。

 

「先輩!先輩が、お好きなタイミングですればいいと思います!」

 

「まぁそうだね」

 

 ニコちゃんの言う通りだ。急いで返すものじゃない。武運長久を〜って感じでなんか縁起のいいまじないだし。当分はあのトリニティのライフルで頑張っていこうと思う。せっかく、シャーレの制服も着たし、武装もヴァルキューレ時代から変えていきたいんだよね。

 

「「はぁ……」」

 

「二人してため息ついて、幸せ逃げちゃうよ」

 

「「誰のせいだと思ってるんですか(の)!」」

 

「仲良いね」

 

 おっと、定食に手をつけないとね。今日はカツ丼とお味噌汁だ。

 

「とりあえず、ご飯食べるからさ。ハルナ、用があるなら先にシャーレで待ってて。先生にもそれ渡すんでしょ」

 

「……わかりましたわ。では、あとで」

 

 ハルナはとりあえずシャーレに先に行ってもらった。色々不満そうだなぁ。もしこのあと時間あるなら、仕事終わりに一緒にデザート食べにいってあげよう。

 

「ニコちゃん、本当にこの前は助かったよ」

 

「え、あ、はい。そんな。先輩と一緒に任務ができて、嬉しかったです」

 

「そりゃよかった」

 

 FOXの子達の腕は鈍ってなくて本当に助かった。この子達がいなきゃ死んでたし。恩人だよ。まぁ、なので、恩返しのつもりで”あの話”を受けたわけだけど。

 

「あ、そうだ。光臨大祭なんだけど、SRTも一応出場することになったから」

 

「え!?そうなんですか!?けど、生徒数とか、そもそも私たち学校が……」

 

「そこは先生が、せっかくだから参加して楽しんで欲しいって」

 

「先生が……」

 

 先生らしいというか。この前の支援要請には結局、SRTの名前は載せられなかった。これはトリニティとゲヘナの面子を七神代行が考慮してだ。そのことに、私はちょっと不満があったけど、代わりにと提案されたのがSRTを特別に光臨大祭に出られるようにしたというもの。

 

「それでね、はい」

 

「なんですか?生徒手帳……って、えっ!?」

 

「というわけで、よろしく頼むよ。ニコちゃん」

 

 私が渡した生徒手帳はちょっと前のトリニティ所属を示すものから別のものに変わっていた。それはシャーレの所属を示すものではなく、校章は“山羊”をモチーフにしたもの。そう、つまり、

 

「生徒会長不在だとダメって規則があるらしいから、シャーレの超法規的権限で一時的に私が、SRTの生徒会長になったんだ。もちろん、SRTも同じ権限で一時的に復活。校舎所在地もシャーレに変更。光臨大祭の間だけだけど、SRTは堂々とできるよ。この前の任務の報酬ってことでね」

 

 今日昼食をここで取ったのはそういうサプライズの意味もあった。ニコちゃんは涙を浮かべていた。めっちゃ喜んでる。

 

「お、おかみさん!すいません!ちょっと電話してきまーす!」

 

 ニコちゃんがそのまま私の生徒手帳を持ってお店から飛び出してしまった。おおう…まぁいいや。伝える手間が省けるし。さて、あとでRABBIT小隊にも伝えないとね。

 

 ナギサちゃんに会いたいな。お互い色々話したいこともあるし。

 

 ハルナも交えて、3人でお茶会もいいかも。そうだ、あとは百合園さんとも会いたい。結局、ティーパーティーを抜けてしまうまでに会うことはできなかった。

 

「うーん。お味噌汁が染み渡る。病院食味薄かったからなぁ」

 

 今はただ、このお味噌汁の味が日常に戻ったのだと強く実感させられる。じゃあこれを食べて、仕事に戻ろう。

 

 

 

 

 

 

 

「ナギサ、彼女に意味を伝えたのかい?」

 

「つ、伝えられるわけないじゃないですかっ」

 

「ナギちゃんヘタレ〜!」

 

 ナギサはティーパーティー……のテラスではなく、珍しく放課後に自身の部屋に個人的にミカとセイアを呼んでいた。ミカはまだ自由の身ではないが、ここに呼べたのはナギサが身体を張って危機に立ち向かった姿が校内で評価され、影響力を取り戻したからだ。

 

 だが、呼んですぐにミカから恋バナが始まり、結果ナギサはいじられ始めたのだ。

 

「こればかりはミカに同意だな。あれは女難の相があるぞ。ド直球にいくべきだ。規則を破って同じベッドで寝たんだから」

 

「そうそう。やっちゃえばよかったんだよ!」

 

「そ、そんな卑猥なことできるわけがないでしょう!こういうのはゆっくりと!」

 

「放っておくとどんどん女を侍らせていくぞ、彼女は。先生と同じだ」

 

 セイアにそう言われるも、ナギサは困っていた。ミカもセイアもナギサの様子がおかしいことに気がついた。

 

「……ナギちゃん?」

 

「お二人は、私の政治的な力が大きく戻ったことをご存知ですか?」

 

「知っているとも。だからこのバカをここ呼べているんだろう」

 

「セイアちゃんはもう一回病院食を食べたいのかな?」

 

「私はあの控えめな味は好きだよ。……おい、やめないか。デコピンでも脳震盪は起こる」

 

「冗談冗談。それで、ナギちゃん、どういうことなの?」

 

 ナギサは懐から一つのティーパーティーのバッジを取り出す。表面が削れ傷だらけのそのバッジはこの3人のうちの誰のものでもないものだった。

 

「それはなんだい」

 

「エリカさんのバッジです。これをティーパーティーの役員の方から朝渡されまして。もう役目を終えたのだからと、エリカさんの短期留学を終わらせてしまったというのです」

 

 ナギサとしては戦後処理まで手伝ってほしいところであったが、あの怪我では無理はできないということもわかっており、納得は出来ていた。だがあまりにも性急すぎるものであり、その理由もまたナギサは見当がついていた。

 

「ふーん……フィリウス派も、変わんないね」

 

「……飽きもせず、まだ政治ごっこかい」

 

「えぇ。神輿に過ぎたる力は不要というのでしょう」

 

「独裁者が誕生するとでも思ったのかな?あはっ★そもそも、私がいるんだから意味ないのにね?ティーパーティーじゃなくなっても、私はナギちゃんの友達なんだから」

 

「けど、このまま黙っているのかい?」

 

「まさか。私は夏からここまで、学びましたから。自ら聞き、見て、知り、そして動く。変えましょう、トリニティを。エデン条約など無くても、楽園はすぐそこに、いつでも見出すことができるのですから」

 

「ナギちゃん、変わったね」

 

「そうでしょうか?」

 

「うん!素敵だね。恋って」

 

「……えぇ」

 

「幼馴染二人して、色ボケになるとはね」

 

「セイアさんもすればわかりますよ」

 

「なんだろう、ナギサにマウントを取られるのは新鮮だが、ミカの数倍イラっとするね」

 

「どうしてですか!?」

 

「ま、ともかく、ナギちゃんはこれぐらいで諦めるの?」

 

「まさか。羽を渡したのです」

 

「……永遠にあなたのものになる、か。この風習、恥ずかしくて敵わないな」

 

「セイアちゃんは狐だから関係ないもんね」

 

「ミカ。どうやら君には私たちの種族について教えなくてはいけないようだね。偉大な天使様にはいらぬ知識かもしれないがね」

 

「お二人とも、言い過ぎですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 ――こうして、私とナギサちゃんの激動の日々は幕を閉じ、お互いの居場所で日常へと戻っていく。頑張りは報われるべきものだ。そのために奔走して、少しでもあの子の願いを叶えられたのなら、私は嬉しいと思う。

 

 秋は楽しいイベントが盛り沢山だ。まずは光臨大祭、ふふっ。せっかくだから、SRTの子達と色々練習しよう。やるからには、いい成績納めないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クククッ……ベアトリーチェにしては、面白いものを見せてくれましたね」

 

「どういうことだ?」

 

「マエストロ。私は今、少しですがあなたの気持ちがわかりましたよ。あれほど美しいものはない、と」

 

「例の“女神”か。叶うことならば、そちらも拝みたかったが…アレ以上は欲が過ぎると言うもの」

 

「あなたが生み出した神秘に呼応し、漏れ出した“神名”。恐怖に反転することなく顕現した崇高……草鞋野エリカさんですか。先生、あなたの腕の中にいるのはただの忠犬ではないようですよ?」

 

 




色々と謎を残しつつも次章からは光臨大祭編です。

サオリとの決着は泣く泣くカット。

原作と違い、主人公によって健在+長く気絶せず、身体を張って危機に立ち向かったのでナギサの影響力がかなり回復しています。ただ、そのままだと独裁者になりかねないと勝手に妄想したティーパーティー役員によって、そのための暴力装置になりかねない主人公とは遠ざけられてしまいました(あんまり意味ないけど)。

SRTが一時復活したのは書いた通り、キヴォトスの秩序を守った功績の見返りです。主人公が形だけとはいえ生徒会長になったのはカヤの思惑です。

そしてやっとゲマトリア出てきました。やっと出せたよ…。

次回はまた未定です!
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