頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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今回は連続投稿はなしで、新章のプロローグ的な話となります。


第五章 催事とは、本番よりも事前と事後が重要である
Area-01「ミレニアム秘密基地 #砂場 #失敗作 #天才」


「なんですかこの趣味の悪いロボットは」

 

「アバンギャルド君というらしい」

 

 ミレニアムの自治区内、ある格納庫でウタハとヒマリは下半身が戦車に腕が4本、頭部はなんともいえない気の抜けたデザインをしているロボットを見上げていた。ヒマリのそのロボットを見る表情はゴミをみるようなもので、ウタハは苦笑いするしかなかった。

 

「あの女らしいセンスの無さですね」

 

「……性能は折り紙つきだよ」

 

「擁護になっていませんよ、ウタハ」

 

「リオのデザインセンスについては一年生の頃に話が着いているからね、今更言ってもしょうがないさ」

 

「デザインがひどいと泣かせたのはウタハでしたからね」

 

「あのときは正論で攻めすぎたと後悔はしてる……」

 

 共通の知り合いの話をしながらもウタハは手に持ったタブレットで目の前のアバンギャルド君の性能を確認していた。ヒマリは興味がないのかウタハが口頭で性能を言い出すまで車椅子の背もたれに深く体を沈めていた。

 

「無限軌道による走破性と、強靭な履帯によって高速走行を実現。装甲材は……新素材開発部が最近発明した低重力下でのみ生産可能な新種のチタニュウム合金。並のマシンガンではビクともしないね。重要な動体部を曲面にしているのも考えている」

 

「出来損ないの人型戦車にしか聞こえないのですが?」

 

「武装は4本の腕に状況に応じて換装。通常装備はバズーカ、超大型アサルトライフル、黄金率シールドと。普通のバズーカ並の口径でアサルトライフルか。これを複数本乱射すれば確かに制圧力は凄そうだ」

 

「当たらなければ意味がないのでは?」

 

「流石にリオだろうから対策はしているね。照準システム周りは搭載してる演算機能の高さの暴力で、偏差撃ちや置き撃ちもしてくるみたいだ。なかなかできそうな子だ。ウチの応援ロボといい勝負になるな」

 

 応援ロボが何故純然たる戦闘マシンと渡り合えるのか、ヒマリはあえて考えないようにした。

 

「フザけた見た目に反して性能は悪くないのはわかりました。ただ、何故わざわざ“秘密基地”にこれを運んで私たちにチェックさせているのですか、あの女は」

 

 彼女達が今いる場所は“秘密基地”と呼んでいるミレニアム自地区内でも知っているのが、ウタハ、ヒマリ、そして二人の同級生であるミレニアム生徒会長のリオしかいない。まさに天才達の遊び場とも言える場所であり、ミレニアムの生徒達が見れば大半は目を輝かせ時代を一気に進めてしまいそうな発明品が3人にとっては“失敗作”としてゴロゴロ転がっている“遊び場”だった。

 

 性能だけでいえば、真新しいアバンギャルド君を遥かに超える高性能なパワードスーツが既にあり、それはちょうど二人の背後に無造作に転がっている。

 

「今更この程度のもの、後ろにある“サムス・イルナ”の方が性能はいいでしょう」

 

「リオがメールで頼んできたのは晄輪大祭の演習競技でコイツをボスキャラとして使えというものだ」

 

「……性能試験ですか。晄輪大祭に紛れて…らしい、ですね」

 

「ついでに、というところがいかにもだね」

 

「それで?本来の目的は?」

 

 ヒマリの問いかけに、ウタハは一瞬答えるか迷ったが、付き合いの長い友人同士であり、答えることにした。

 

「この前のレールガンもそうだが、リオは“何か”と戦うつもりらしい」

 

「“何か”……あのレールガン、リミッターをかけたのはウタハでしょう?」

 

「そうだね。アレは生身で撃つのを本来は想定していない。それこそ、“サムス・イルナ”のような高性能なパワードスーツで運用しないと、最大出力を扱えきれない。生身で使えば反動で体を傷つけるね」

 

 ウタハは友人が調整まで丸投げしたのはせめてもの配慮だったのかもしれないと感じていた。そのままノアが“アララト”を使えばそれだけで甚大なダメージを人体に受けていたことが容易に想像できた。

 

「あのシャーレの制服はあの女が悪用した時にカウンターとでも?」

 

「ノアが撃った10倍の出力でも耐えられたから、そのつもりだよ。……まぁ、食らった時の衝撃は消せなかったが」

 

「よくてミンチでしょうね。サーモバリック爆弾を至近で食らっても問題ないような生徒ではないと意味がないのでは?」

 

「そんな生徒がいたら是非ともお目にかかりたいね」

 

 ここではないどこかのお嬢様学校の生徒がくしゃみをしていたが、そんなことは今の二人が知る由もない。

 

「そういえば、シャーレの制服といえば聞きたいことがあったのですよ」

 

「なんだい?」

 

「あの制服に発光機能なんて付けましたか」

 

 ヒマリはつい最近、ある学園の生徒からトリニティ内で起きたテロ攻撃により平和条約が破綻した、エデン条約事件の一部顛末を聞いていた。そちらはついでで、本題はその関わった生徒が事件の最中に遭遇した、ある――特異現象だった。

 

「発光機能?そんな機能はつけていない。アレは“入札仕様”でやってるからね。“遊び”のないものだよ」

 

 ウタハはヒマリの問いに、そんな機能はないと否定する。エンジニア部がやりがちな、あれもこれも、と機能を足していき本来の用途から製品の仕様が外れがちになるのはよくあることだったが、そんな彼女達も知的好奇心や無邪気な技術的野心の一切を封印し、革新性と実用性を重視した遊びのない発明を行うことがある。

 

 それがミレニアムの外資を得る最たる手段である他の自治区とは次元が違う技術力を生かした“装備品入札”への参加だ。

 

 シャーレの制服はそのやり方に準じたものであり、余計な機能を有していない。発光機能などウタハは搭載する必要性がなく、それが起こり得ること自体ありえないことだ。

 

「なら……素材に、何か発光しそうなものはありますか?」

 

「発光というか、発色は常時してるね」

 

「どういうことですか?」

 

「アレは新素材開発部と以前合同で作った“相転移繊維”という素材を使っている」

 

「意味はわかりますけど、あえて聞きますよ?どういうことですか」

 

「簡単に言えば、それで作った布は一定以上のエネルギーを相転移する布になるというわけさ。で、その効果を発揮するには体表の熱を僅かだがもらう必要があるんだけど……」

 

 ウタハはポケットからサンプルと思しき布を取り出す。真っ黒な布で、中に何かが包まれている。

 

「氷?」

 

「あぁ、これは永久凍結してる氷でね。今、この布は冷えてるから黒いんだけど、人体の暖かさに触れると……」

 

 ウタハは布と氷をわけ、布を手の上に置くと、布は徐々に黒から藍色、深い青、水色と変化し空色ぐらいの青で色の変化は止まった。

 

「発色するんだ。この色の時点でレールガンの弾は貫通しない。もしマグマのような体温にまでいけば赤になるだろうね。そうなればもはや衝撃すら吸収できる……とはいっても、繊維が熱に耐えられないだろうけど」

 

「なるほど。上手く噛み合わせましたね。セーラー服の色合いと機能を組み合わせてデザイン的にも違和感がなく、心臓や重要な内臓があるバイタルパートを重点的に防御すると」

 

「そういうことさ。あと、色の変化は氷につけてたから極端なだけで、着てない時は少し色落ちした空色ぐらいかな。というわけで、発色は想定した機能だよ」

 

「発光はしないのですね?」

 

「しないよ。したらそれはもう素材に外力が加わって変化してるとしか思えない」

 

 ヒマリはウタハの言い切りを信じる。彼女の技術力は確かであり、時にヒマリの想像を超える。レールガンもそうだった。リオとヒマリが揃ってその模倣に走っているあたり、技術屋としての革命的な部分はどう足掻いてもヒマリは勝てそうにないと思っている。

 

「ならやはり…特異現象ですね」

 

「そこは君の得意分野だから、私はどうしようもできないね」

 

「得意分野は譲ってくださいな」

 

「当然。適材適所さ。けど、発光か…ヒビキにアイデアとして教えておいてあげよう。チアガールの衣装は目立つ必要があるし、アクセントにはちょうどいいかもしれない」

 

 ヒマリはウタハからシャーレ制服の発光が意図したものでないことを知り、ますますその現象を起こした生徒、草鞋野エリカのことが気になっていた。小鳥遊ホシノが内密にとアビドスでの調査の見返りに調査を依頼され、ヒマリはこの特異現象を解き明かす必要があった。

 

 車椅子を翻し、ヒマリは背後で沈黙しているパワードスーツに向くと、放置されているにしては綺麗なままの装甲に細く油汚れとは無縁の指を這わせる。かつての無邪気な少女3人によって生み出され、楽しかった頃の記憶の象徴のようなパワードスーツは今では死者のように冷え切っていた。

 

「ウタハ。死者は蘇る、と思いますか?」

 

「定義による。生前に生体パターンを取り込めば魂だけを抜き出すことも理論上は可能だよ。本人が死んでも生体パターンを転写されたものはその先も存在し続ける。それによって生まれた存在が本人かは……わからないがね」

 

「……やっていませんよね?」

 

「狂気に踏み込む勇気は私にはないよ。浪漫は浪漫で終わるからいいのさ」

 

「安心しましたよ。ですが、理論的に可能であるのなら、参りましたね」

 

「その口ぶりだと、わざわざ君がアバンギャルド君の確認に付き合ったのはそれかい?」

 

「えぇ」

 

 ヒマリは車椅子に備え付けられた空間投影モニター等を起動させ、ウタハにある人物の写真を見せた。映っていたのは金髪碧眼にあどけなさが残る容姿の生徒。プロフィールのデータも横に表示されていたが、所属していた学校については全てブランクになっている。

 

「絵庭サロネ……?随分と可愛らしいお嬢さんだが。これがその“死人”かい?」

 

「えぇ。キュドモス事件の実行犯であり、記録上は存在が抹消された生徒です。チーちゃんがなかなか教えてくれませんでしたが、草鞋野エリカが見せた“特異現象”を話したら教えてくれましたよ」

 

「じゃあこのデータはチーちゃんが?」

 

「はい。以前、連邦生徒会のデータを覗いた時に見つけたようです。草鞋野さんのことを心配して独自でキュドモス事件を探っていたようですが、そのときの副産物だそうで」

 

「記録が抹消というのが怖いね。けど、本題はそこじゃないね?このヘイローが壊れたはずの生徒が蘇ったのかな」

 

「草鞋野エリカが瀕死の重症を負い、追い込まれた際にまるで“人格が入れ替わり、草鞋野エリカ自身を慈しむかのような姿を見せた”と聞いています」

 

「…………なるほど?生体コードを草鞋野エリカの体に移したのか?けど、どうやって?」

 

「彼女がどういう最期を迎えたのかはわかりません。伝聞では草鞋野エリカが撃ってヘイローを破壊したと言います」

 

「粘膜的な接触ぐらいしか考えられないが、そんなことをしてる余裕はないだろうし、謎だね」

 

「本当に。やはり、もう少し情報を集めるしか無さそうですね。といっても、デカグラマトンを追う方が優先なのでこれはついでになりそうですけど。詰まった時に暇潰しには使えそうです」

 

「そうかい。暇潰しぐらいなら私も付き合うよ。チーちゃんの大切な友人のことだし」

 

「頼もしいですよ、ウタハ」

 

「リオはどうだい?」

 

「余裕のない彼女にこんなことを話しても余計なことをしでかすだけです。言いません」

 

 ヒマリの吐き捨てるような言い方にウタハは苦笑いするしかない。相反する友人に挟まれたウタハただただ、関係が良くなることを祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ニコは困惑していた。彼女がバイトをしているD.U.のシャーレ近くの定食屋は店内飲食よりもフードデリバリーでの利用者が多く、店内に客がいることは多くない。それこそ、先生やエリカを始めとして、この近くで働いている生徒や住民しか利用者がおらず、普段は見た目上閑古鳥が鳴いているように見える。

 

 だが、まるでそれを逆手にとっているかのように“彼女”はまたこの定食屋にやってきていた。しかも、一人ではなく、本来は一緒にいれば問題になる生徒と一緒に。

 

「(なんで黒館ハルナと桐藤ナギサが一緒に…?)」

 

 テーブル席に座り、お茶を飲みながら向かい合っているナギサとハルナの姿にニコはどうしてトリニティのトップと、そのトリニティが嫌悪してならないゲヘナの中でも最悪の部類であるテロリストが一緒にいるのか。

 

 ナギサは変装しているのかどういうわけかスーツ姿で髪の毛を結い上げており、持っている銃はエリカが渡したというヴァルキューレ製のもので、まるでハルナのSPのようにも見える。ハルナはいつも通りの制服姿であった。

 

「あの夏ぶりですね。ハルナさん」

 

「えぇ、ナギサさん。あんな事件があったのですから、お元気そうで安心しましたわ」

 

「私はその……エリカさんをあのような目に合わせてしまったことを」

 

「気にすることではありませんわ。程度は違えど、わたくしがそうしてもらった時のように彼女は為すべきことを成そうとしたまで……あなたがそのことで謝罪でもするようなら、わたくし、逆に許しませんわ」

 

 話している内容はニコの耳によく届いた。二人がエリカに対し抱いている感情がなんなのかはニコも知るところであり、学年的には先輩にあたる二人は強敵であった。ニコはあくまでエリカの後輩、部下でしかなく、エリカからは全く意識されていないのがわかっていた。

 

 悔しさはあったが、ニコの性分なのかそのことよりも、この二人の関係が気になっていた。SRT特殊学園の生徒として、密会としか言いようがないこの状況を見逃すという選択肢がなかった。

 

「それにしても、聴聞会は随分とあっさり済みましたのね」

 

「耳が速いですね。どこでそれを?」

 

「一応わたくしも、ゲヘナではそれなりの身分ですわ。その気になればいくらでも」

 

 ニコは黒館家に関する情報を多くは持っていなかった。古い家であるのはわかっており、ゲヘナという荒れ果てた自治区で生き残っているということはそれだけ強い家であるのは想像できた。

 

「……ミカさんを今、退学にされても困りますから。エリカさんがいなくなった以上、私には力が必要です」

 

「独裁者にでもなるおつもりで?」

 

「まさか。ですが、事を成すには想いだけではどうにもなりません。力も必要なのです。ミカさんには笑われましたが、快諾頂けています」

 

「どういう学校へ変えていくおつもりで?」

 

「少なくとも、今のようなゲヘナよりも漂う悪臭を、蓋を外して換気ぐらいはしようかと思っています」

 

「……なるほど、上手くいくことを祈っております。実際にわたくしも目にしましたが、なかなか鼻につくものでした」

 

 体制の改革をこのような場所で話さないでほしい、とニコは思いつつ、この二人は尋問したくない、とも思った。本物のお嬢様であると同時に、口がよく周り、追い込まれれば余計に頑なになるであろうことが容易に想像できる。巨人といっても差し支えなく、痛めつけるような尋問――拷問は意味を為さない。

 

「(先輩、相変わらずとんでもない人を堕としてる)」

 

 そういう趣味なのか?とエリカに問い詰めてみたかったが、そんな趣味はエリカにないことをニコはわかっている。

 

「それでナギサさん?まさかそのような煙たい話をするために今日はお会いしたわけではないのでしょう?」

 

「もちろん。ですがすいません。近況報告のつもりでしたが、あまり気持ちがいいものではありませんでしたね」

 

「気にしてはいませんわ。味方があまりいないのはわたくしも存じております。少しぐらいは捌け口にしてもらって構いませんわ」

 

「ありがとうございます」

 

 少なくともナギサとハルナが友人関係であることはニコもわかった。トリニティのトップとテロリストが何故友人関係を築けているのかニコはよくわからなかったが、これならばエデン条約など必要あったのかとも疑問に感じていた。

 

 エデン条約事件と関係者では言われ始めたアリウス分校による類を見ない規模のテロ事件以降、トリニティとゲヘナの一部部活間での関係が改善傾向にあることは、来年度のキヴォトス防衛白書を作成中であるカヤから耳にしており、エデン条約不要論が密かに連邦生徒会では出始めている。結局のところは両校の生徒の意識問題であり、条約などによる強制的な関係を作ったところで遠からず破綻したのではないかと。

 

「ニコちゃん、日替わり定食のブリ丼2つ」

 

「あ、はい」

 

「あの子たちお友達でしょ?一緒にお昼とってもいいわよ」

 

 女将からナギサとハルナの分に加えて、ニコ自身の分も渡されニコは困った。決してナギサとハルナはお友達という関係ではないからだ。ナギサは任務での護衛対象だっただけであり、ハルナに至っては現在限定的とはいえSRTが復活しているためその気になれば今のこの場で逮捕してしまうこともできる指名手配犯である。

 

 ニコがハルナを逮捕しないのはエリカからハルナが行った義賊的な働きを聞いており、かつエリカの個人的な友人であり、今日現在はシャーレによってSRTが一時的に復活できているため、生徒のためにと頑張っている先生の想いを量ってのことだった。

 

 だとしても、ニコは女将の厚意を無下にはできない。身分も明かさず、何も聞かずに雇ってくれているこの定食屋の女将にニコは頭が上がらなかった。

 

「(けど、ここは素直にあの先輩二人がどこまで行っているのか聞くのもアリかな)」

 

 何にせよ、何か収穫はほしいと思ったニコはSRTの生徒としてではなく、ただの一生徒として、尊敬する先輩の友人二人に諸々聞くチャンスだと考えてみることにした。

 

 食事を受け取り、配膳のために二人へニコは近づく。

 

「すいません。日替わり定食の鰤丼です」

 

「あら、来ましたわね」

 

「ありがとうございます」

 

 ナギサとハルナの前に食事を置いて、ニコは空いている3つ目の席に何食わぬ顔で座った。そして、愛嬌たっぷりの声音と顔つきを生かして有無を言わせない。

 

「あの、よければ先輩方とご飯を一緒に食べても?」

 

 ニコの提案に、ナギサとハルナは顔を一瞬見合わせたものの、ナギサは恩人であるニコを拒否する気など湧かず、ハルナは下手なことをして逮捕されたりエリカの後輩であるニコをぞんざいに扱おうとも思わない。

 

 二人はニコの同席に異を唱えなかった。

 

「構いませんよ?ただ、お仕事中でなのは平気なのですか?」

 

「女将さんからむしろ一緒に食べれば、と」

 

「であれば、問題ありませんわね、ナギサさん」

 

「はい」

 

 FOX2、潜入成功――などとニコは思いながら割り箸を二人に渡しつつ、一緒に持ってきていたポットからお茶も注ぐ。気を効かせてしまうのはニコの性格ゆえだった。

 

「ニコさん、改めて先日は本当に助かりました。私も、エリカさんも」

 

「いいえ。私たちは仕事をしただけですから」

 

「トリニティとして、FOX小隊の皆さんには恩給を与えたいとは思っていますが、それも叶わず…」

 

「そんな恩給だなんて。トリニティとゲヘナに平和が戻ったのなら、それが私たちとっては最高の報酬です」

 

「謙虚過ぎますわね。そこまでエリカさんに倣わなくても良いのではなくて?」

 

「草鞋野先輩の姿勢は私たちによっての理想ですから、大丈夫です」

 

 あの先輩にしてこの後輩ありとハルナはまざまざと見せつけられる。穏やかな雰囲気がよくニコはエリカに似ていて、ハルナは彼女が一番エリカに懐いていると感じており、ナギサも同じように感じていた。ナギサに至ってはニコがもっともエリカに近い戦闘をしているのも知っており、想いも一番強いこともなんとなくではあるが察していた。

 

「それでナギサさん?今日の本題は何なのですか?」

 

 ハルナが話を切り替えようとナギサに問いかける。ナギサはニコをチラリと何故か見てから口を開いた。

 

「お二人は近々、晄輪大祭が開催されるのはご存じですね?」

 

「もちろん。わたくしもあの祭典には参加させて頂きますわ」

 

「はい、桐藤会長。SRTも一時的ですが復活し、参加可能です」

 

「……そういえば、エリカさんがSRTの生徒会長に一時的に任命されたとか」

 

「事実です。ただ、あくまで晄輪大祭にSRTが参加するための名義貸しで実権は無しですね」

 

「まぁ、彼女のことですから、実権を与えられたら辞退されそうですわね」

 

 ニコはあのエリカに生徒手帳を見せられた日を思い出す。結果として、カヤは約束を守りSRTを復活させ、さらにエリカを生徒会長に据えたのである。一時的なものであるため、完全に契約を果たしたわけではないが、少なくともカヤは約束を守る気ではいる、というのは伝わる出来事だった。

 

 ユキノたちにエリカの生徒会長就任を伝えれば、普段は寡黙でおとなしいユキノが嬉しさのあまり小躍りして可愛かったと、ニコは後からオトギに教えられていた。

 

「話が逸れてしまいましたね。桐藤会長、すいません」

 

「いえ、大丈夫です。では、早速ですが……今日は晄輪大祭の後夜祭のキャンプファイヤーについてお話が」

 

 和やかだった空気が一瞬にして張り詰めたものになった。

 

 ここに座っているのは恋をする3人の少女であり、ナギサの語った「後夜祭のキャンプファイヤー」は大きな意味を持つ。このキャンプファイヤーで一緒に踊った生徒同士が恋人同士になるという言い伝えだ。

 

 実際にナギサやハルナは前回開催時にそうなった生徒を数人知っている。つまり、言い伝えではなく事実なのだ。

 

「どうやら、抜け駆けは許されないようですわね」

 

「牽制ですか……?桐藤“先輩”」

 

「どのように取られても構いません。しかし、トリニティの生徒として誓約は強い力を持つことを知っていますから、見逃すわけにはいきません」

 

 ナギサは腰に備えたエリカの拳銃を取り出し、愛おしそうに見つめる。ニコとハルナは一歩先を行かれていることに気が付き、ぐぅ、と内心唸った。

 

「ふふっ。ここで白黒つけよう、というのであればやぶさかではありませんわ」

 

「お店の中ではやめてくださいね?外でならいくらでもお相手します」

 

「………そこまで挑発していませんよ?私は何も、宣戦布告に来たのではないのですから」

 

 じゃあ一体なんなのだ、とハルナとニコは一旦燃え上がった闘志を収める。ナギサは銃を仕舞ってから続きを口にした。

 

「エリカさんは多くの人から慕われています。この前のハイランダーの生徒もそうです。一体どれだけの女の子を毒牙にかけているのか」

 

「そんな先輩を不誠実な方みたいな言い方は…」

 

「ですが……否定ができないのが、痛いですわね」

 

 エリカがどれだけ“やらかしている”のかを3人はよく知っていた。そのうえ、3人ともある意味、その最たる被害者である。

 

「ですので、“敵”は少ない方がいいとは思いませんか?」

 

「敵って……それを言い出したら私たちは」

 

「先の事件で実感しましたが、共通の敵がいれば、今は敵同士でも協調は可能だとわかりました。ですから、私はお二人に提案したいのです。私たち3人でエリカさんと踊ればよいのでは、と」

 

 ナギサの提案は一見、非常に合理的であったが、側から見れば無茶苦茶であった。もしこの場にミカやセイアがいれば「正気なの?」「熱でもあるのかい」などと心配されていた。だが、ここにいるのはニコとハルナである。ナギサと同じく“お熱”な生徒だ。

 

 冷静に恋などできない。二人はナギサの提案をすぐに理解し、悪くないと考えた。

 

「……いいですわね」

 

「確かに、それなら」

 

「残るのは私たち3人になります。その後のことはまたその時に考えるとして」

 

「問題は、どうやってエリカさんを確保するか、ということですわね」

 

「それなら。先輩のことですから私たちが頼めば踊ってくれると思います」

 

「……意識されていないと思うとやっぱり癪ですわね」

 

「ただ、今は都合がいいので、見逃しましょう」

 

 いないところで散々にエリカは言われているが、自らが蒔いた種であるため、ホシノがこの場にいれば「あーあ…」とエリカに合掌していたであろう。

 

「今日お話ししたかったのはこのことでした」

 

「もしかして、それでここに来られたのですか?桐藤会長は」

 

「はい」

 

「………気がついていたんですか?」

 

「ええ。エリカさんを心配される目があまりにも……ですが、私はあなたを恋敵として見ると同時に、あなたのような人が部下にいなければエリカさんは危ないとも思っていますから」

 

「それは、嬉しいような、なんというか」

 

「無茶をしすぎなのですわ、エリカさんは。ニコさんなら、しっかり止めてくれるでしょう」

 

 事実先の事件ではクルミと共にエリカのストッパー役になっていた。最終的に止めきれずエリカは倒れてしまったが。

 

「ふぅ。とりあえず、そういうことで、キャンプファイヤーが終わるまで“共同戦線”を張らさせてもらいます」

 

「いいでしょう」

 

「はい」

 

 かくして、恋する3人の天使と悪魔と狐は共同戦線をはることになった。

 

 晄輪大祭そのもののことをそっちのけだったせいで、そもそもキャンプファイヤー以前に数多の障害があることを忘れて――。

 

 




久々に主人公が一切出てきませんでした。

サラッと流されましたが本作では聴聞会が速攻で終わりました。ナギサがかなり実権を取り戻したのと、ティーパーティーが3人が本音でだいぶ話せるようになっているのが影響しています。ただ、エデン条約4章はやらない、というわけではないのでご安心ください(?)

次回はまた未定です。
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