頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

45 / 143
生存報告も兼ねて投下します。連続投稿はまたもなしなのはすいません。


Area-02「防衛室事務室 #鉄面皮 #パンケーキ #コーヒー」

 

 

 

 

 エデン条約事件から少し経って、ようやく書類整理が落ち着いて余裕が出始め、晄輪大祭の準備にそろそろ、という時期。私は明日からSRTの子たちとリレーとかの練習しようかな、なんて考えつつ、今日1日何をしようかとシャーレの部室についた。

 

 先生は現場へ直行しているのでいない。私と同じく脇腹にぶち込まれた上に、回復力は明らかに私より劣るヒトなのにもう元気に生徒たちの支援要請に応えてる。無理をしていないか聞いても無理してない、と言うのが先生なので、仕方がないと思うし、生徒のためにあそこまで動ける先生を素直に尊敬する。

 

 シャーレの部室の電気を点けて、自分のデスクに着く。だいぶ書類もさっぱりして、エデン条約前ぐらいにまで戻ったかな。机の上の写真立てには新しくナギサちゃんと手を結んで撮った写真と、なくしちゃまずいかなと思ってその写真の下にナギサちゃんの羽を封印してある。先生からは「まるで恋人との写真みたいだよ」ってからかわれたけど、そんなつもりはないんだよね。

 

 この写真見てると、ナギサちゃんに会いたくなってしまう。晄輪大祭に来てくれれば、トリニティの外だし案外サクッと会えるかもしれない。

 

「いけない、いけない。仕事しないとね」

 

 パソコンを立ち上げて、まずはメールチェックからだ。メールでの支援要請は基本しないようにしてもらっていて、モモトークを使うようにしてもらってる。なにせこのパソコンは連邦生徒会からの貸与品で、アカウントやメールアドレスも同じく連邦生徒会から付与されたもの。だから私たちの携帯にメールを飛ばすのは非常に手間がかかるから、そうなると見落としが出ちゃうんだよね、メールでの支援要請は。

 

 だから、実はこのパソコンにメールが届くことは多くなくて、来てもせいぜい月例の報告とかの催促だ。財務室からの私の制服の請求について詰問のようなメールと電話はようやく処理が終わったので、来てないかな〜?と思ったら、メールが1通届いていた。

 

 受信日は昨日の19時過ぎ。差出人は……なんとカヤちゃん。残業なんてしていなかったはずだけど、頑張ってるのかな最近は。

 

「どれどれ……?なにこれ」

 

 メールのタイトルは“【情報共有】不良生徒の奉仕活動支援について”というもの。メールを開けば、整ったメール本文と、添付ファイルで画像データがあった。どういうことなの、となる。タイトル的には防衛室のやるようなことじゃないけど…。

 

 内容を読んで、要約すれば『矯正局へ送れないが、重大な犯罪を犯した生徒の扱いに苦慮している自地区への支援計画』ということだった。こんな生徒いるのか、といえば少なくとも私は一人知っている。

 

 ミレニアムのセミナーに所属している黒崎コユキさん。彼女はミレニアムという三大校のトップ組織にいながら多額の横領を含む、普通なら矯正局送りになるレベルの子だったはず。前に連れ戻す依頼を受けた時に、早瀬さんと生塩さんにそのように言われていた。

 

 メール文を読んで、添付された支援計画の概要を読み込んでみれば、簡単に言えば矯正局の代わりにシャーレへ送り込むというもの。

 

「……納得と言えば納得だなぁ」

 

 この計画、やるにはいい前例がある。そう、私だ。

 

 ヴァルキューレをクビになる前の外(といってもハッキリ知ってるのはごく僅かな人)から見た私の犯した罪を見てみよう。まずは自分の手柄を増やすために行った、と言われるものから見れば、各種犯罪の教唆、捜査情報の漏洩、手柄を横取りさせないための隠蔽……これに加えて、生徒の殺害。うん、余裕で矯正局の最奥にある一番厳重な監獄に入るね。

 

 それをシャーレへ異動させ、先生という指導者の元で支援活動という名の社会奉仕に勤めさせ、一自地区の危機を救うまでに至った、と見れば草鞋野エリカという殺人犯の更生は上手くいったように見える。

 

 この計画、先生には伝わってるのかな。メールの宛先を見ればそこに先生のアドレスはなかった。つまり、私にだけカヤちゃんは送ってきてる。どういうことなんだろう。先生には明かしたくないこと?………知らない仲じゃないんだ。カヤちゃんに聞けばいいかな。

 

 携帯を制服のポケットから取り出して、モモトークではなくて、通常の通話でカヤちゃんの携帯を呼び出す。モモトークを使うと当たり前だけどモモグループの方に通話の内容が全部記録される。開示請求が入らない限りは聞かれることはないけど、念の為ね。

 

『はい、不知火です』

 

 カヤちゃんは6コールぐらいで出てくれた。声が少し、疲れてるように聞こえた。

 

「おはようございます、不知火防衛室長。草鞋野です」

 

『おはようございます。メールの件ですか』

 

「そうです。内容はわかりましたが、これ先生に話してますか?」

 

『いいえ。色々と聞きたいこともあるでしょうし、よければこれから、こちらに来ませんか?』

 

 先生には話さず、私にだけカヤちゃんが伝えてきてるのがよくわからない。ただ、内容自体はそこまでおかしいものじゃないので、悪いものじゃないはず。それに一生懸命なカヤちゃんが私に投げてきたことだし。

 

「わかりました。これから向かいます」

 

『お待ちしています。ちょうどいい豆が入ったんですよ』

 

「……カヤちゃん?まさかと思うけど、そのために?」

 

『まさか。偶然、たまたまですよ』

 

 ほんとかな?カヤちゃんも私と同じでどうにも嘘をつくのが下手というか、声がちょっと震えてる。まぁ、会える友達は今少ないし、誘いに乗ろう。

 

「とにかく、行くけど、先生にはそっちに行ったことは伝えるね」

 

『構いませんよ。では、お待ちしています』

 

 通話が切れた。朝だし、パンケーキぐらいは作って持って行ってあげようかな。トリニティに居た時はナギサちゃん何度かご馳走したら気に入ってくれたんだよね。本格的なのはできないけど、これぐらいならね。あと、ワッフルとかも用意してあげられるけど、流石に時間がそんなにないし。

 

「ちょちょいと作って行こうか」

 

 私は席を立って、諸々の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 カヤちゃんの執務室にやってきたのは結構久しぶりだ。クビになって以来かな。もちろんサンクトゥムタワーの正面口から入るのでいつも通りに、元安全局の後輩に敬礼をしつつ中に入って、職員用のエレベーターで防衛室のあるフロアまで上がる。

 

 防衛室のフロアに入れば、廊下には人気なんて全くない。

 

 防衛室には一応受付窓口があるけど、まず直接相談に来る人はいないし、トレインジャックとかの重大犯罪が起きても大半は何故か直接、連邦生徒会長に連絡が入るので防衛室が触るのはそのおこぼれだ。おまけに、それらはカヤちゃんの耳には入らないようになってる。防衛室では次席の指揮官になる防衛次長が全部処理してしまっていた。

 

 それはよくないと私は案件が上がって来たらカヤちゃんに伝えたり、勝手に動いて解決してたりしたんだけど、それが結局私のクビにつながった。防衛室の子たちからは余計なことをしないでほしい、と言われてた。……正直、防衛室が機能を果たしているのか辞めるまで不安だったけど、私が辞めてからカヤちゃんはこの前みたいに現場へ出たりしてるし、カヤちゃん自身が改革に乗り出したのかな?

 

 一応、窓口に顔を出しておかないといきなりカヤちゃんの部屋に行くのもよくないので、防衛室の事務室に入れば、ちょっと前まではよく見ていた事務所の光景が広がる。静かで、誰も喋ってない。変わらない光景。………変わったのはカヤちゃんだけなのかもしれない。

 

「すいません」

 

「………え……」

 

 窓口に座ってる子に声をかければ、相手は固まっていた。まぁそりゃ追い出した相手が平然と現れたらビビるよね。

 

「不知火防衛室長に呼ばれて来ました。執務室に上がらせて頂きます」

 

「不知火防衛室長が……?アポイントの予定はないはずです」

 

 ペラペラとメモを確認しているけど、そりゃ予定はない。さっき急に決まったことだからね。

 

「先ほど、電話で決まったことですから。不知火防衛室長に確認されてはどうですか?」

 

 こうしてもらえれば間違いないよね。私が言ったことに受付の子は従って立ち上がると、事務室の中へ入って、上座にいる子に近づいていた。防衛次長……かな。私の耳がいいことを知っている彼女は、受付の子に筆談をさせたようだ。ペンの音から書いてる文字がわかる技能は流石にないので、何を話しているのかはわからない。

 

 1分ぐらい待てば、防衛次長が立ち上がってこっちに出て来た。

 

「……お久しぶりですね。草鞋野さん」

 

「こちらこそ、防衛次長」

 

 まるで表情がない、のっぺらぼうのように変化がなく固定された様子に私はこの人が何を考えているのか読めない。声音こそ多少の抑揚はあるけど、それも感情があまり乗っていないというか。

 

「不知火室長にお会いしたいとのことですが、事前にこちらへアポイントが取れていませんので、お帰りください」

 

「いいえ、室長と直接約束させて頂きましたので、室長に確認すればわかるはずです」

 

「室長にそのような時間はありません。お引き取りください」

 

 なんで?私が少し目つきを変えて相手を見れば、受付に座っていた子が後ずさる。防衛次長は全く動じない。

 

「確認もしないとは、どういうことですか?」

 

「する必要はありません。草鞋野さんもここにいたのです。知っているでしょう?予定のない訪問は全てお帰りいただくのは」

 

 知ってるけど、聞けばいいじゃん。カンナちゃんとか急に呼ばれてたし、私そういうときはカヤちゃんに確認して通してたよ。

 

「室長が呼び出した相手は受付で確認すれば通していたはずです。私がそうしていました」

 

「それは草鞋野さんが勝手にしていたことですよね」

 

「そんなことはありません。防衛次長が」

 

「私から指示などしていません。とにかく、お帰りください」

 

 おかしい。なんでここまで頑なに……?まさか、カヤちゃんに何かあった?この短時間で。

 

「……警告します。通しなさい」

 

 銃は抜かず、目線だけを防衛次長へと向けた。動じずに、防衛次長はこちらに澄んだ目を向けていた。

 

「脅しのつもりですか?そもそも、仮にアポイントがあったとしても、不知火防衛室長に恨みを持つあなたを通すわけにはいきません。その紙袋もなんですか」

 

「これは不知火防衛室長への差し入れです。中身はパンケーキです」

 

「食べ物?防衛室の室長に対し、持ち込んだものを食べさせるなど本当に元ヴァルキューレなんですか?テロ対策意識はどうされたのですか」

 

 しつこい。元からあんまりソリは合わなかったけど、ちょっと参った。

 

 どうしたものかと思っていると、事務室の中からなんか聞こえて来た。

 

「……はい……はい……………草鞋野エリカが……」

 

「待って。そこの人はどこに電話してるの」

 

「あなたが知る必要はありません」

 

「ちょっと。さっきからなんなの?私だって、気分が悪くなるよこんなの」

 

 あんまり私は反抗しないけど、こっちが正当なら話は違う。銃を抜いて強行突破、まではいかないけど、口調が少しきつくなってしまう。本当にどうしよう。しょうがないけど、カヤちゃんを電話で呼ぶかな。はぁ、こんなことになるなら真面目に声をかけてからなんてしなければよかった。

 

 私が制服のポケットに手を伸ばそうとした瞬間、防衛次長が素早く拳銃を抜いて撃った。サイレンサー付きのカスタム品で、まるで防衛次長の表情のように無機質な拳銃。弾丸は見事に携帯に手を伸ばした私を弾いた。

 

 あまり痛いとは思わない。衝撃が伝わっただけ。

 

「上手いんですね。射撃」

 

「どうも。私はこれでも、“実力”でここにいますので」

 

「警告も無しに射撃ですか。反撃をしても?」

 

「暴れれば立場が悪くなるのはそちらでしょう、草鞋野さん。汚職警官と防衛室の次長。どちらが信じられると思いますか」

 

 悔しいが後者だ。仕方がない。カヤちゃんには悪いけど、シャーレに来てもらおうかな。私が引き上げよう、と思ったら後ろの廊下の方でエレベーターが着いた音と、二人分ぐらいの走ってくる音が聞こえる。警備の子かな。はぁ、強制的に退去されるにしても、騒ぎにならないようにしないと。

 

「動かないでください!凶悪なテロリストが……ってあれ?」

 

「だから言ったじゃん。そんなテロリストなんていないって」

 

 聞き慣れた声だった。振り向けば、そこにいたのはキリノちゃんとフブキちゃんだった。キリノちゃんは銃を抜いているけど、フブキちゃんは銃なんて持たずに左手にドーナツ店の紙袋、右手にプレーンのドーナツを持っていた。

 

「草鞋野副局長!?」

 

「おはよう、二人とも」

 

「おはよ〜」

 

 大方、偶然近くにいた二人を寄越したのかな?ヴァルキューレだって暇じゃない。ただ私がいるってだけでそんな何人も寄越すはずがなかった。

 

「テロリストがいると通報を受けたのですが!これはどういうことですか!?」

 

 キリノちゃんが銃を納めて事務室内に呼びかけると、防衛次長以外は目を逸らしていた。虚偽の通報はダメだよホント。まぁ、とにかくずっとここにいてもしょうがないから、二人を連れて出なきゃ。

 

「虚偽の通報ねぇ。私たちも暇じゃないないんだよね」

 

 私が二人に声をかけようとしたところで、フブキちゃんが食べかけのドーナツを紙袋に戻すと、受付のテーブルの前まで行って、バンっ、と手をついた。え、えっ?フブキちゃんこんなことするキャラじゃないよね!?

 

「虚偽などまさか。こちらはただ、そちらの草鞋野さんがいるとお伝えしただけですよ」

 

「どーゆーことかは知らんけどさ、ウチら、指令台からは防衛室にテロリストが立てこもってるとか言われたんだよ。で、来たらコレ。キリノ〜、虚偽の通報するとどうなるんだっけ?」

 

「ひどいと懲役刑ですよ!」

 

「ね。そういうわけだからさ……2度とこういうことしてくれないで」

 

「もしかしたら、こちらの職員が慌ててしまっていたのかもしれません。以後、気をつけます」

 

 防衛次長の声に謝罪しようという気持ちは感じられない。何が起きたかはわからないだろうに、フブキちゃんは察して相手に怒ってくれたみたいだった。あの昔はなんでも全てが面倒臭いって言ってたこの子が……イライラとか吹き飛んでしまった。

 

「……私はこれで失礼します」

 

「副局長?」

 

「二人とも、悪いけどパトカーで送ってくれる?」

 

「構いません!それに、私たちのパトカーはそもそも副局長のものですから!どうぞ使ってやってください!」

 

 事務室を出る前に最後、防衛次長を見る。本当に、ごくごく僅かに、口角が釣り上がっていた。何が目的?何がしたいの?まぁいい。ここで時間を潰したらせっかく作ったパンケーキが勿体無い。キリノちゃんとフブキちゃんの間を通り過ぎて私は廊下に出た。

 

「あっ!そちらにいらっしゃったのですか!」

 

「え」

 

 右から声をかけられた。顔を向ければカヤちゃんがいた。小走りで彼女は駆け寄って来て、笑顔を見せた。

 

「随分遅かったようですが、どうされたのですか?」

 

 チラリと防衛次長に目線を向けた。表情はまた無に戻っていた。都合が悪いらしいね、私とカヤちゃんが会うのは。けど、いいタイミングだった。私は気分を切り替えて、紙袋を少し持ち上げた。

 

「申し訳ありません。室長がコーヒーを用意されているでしょうから、お茶請けにとパンケーキを焼いていて遅くなりました」

 

 私が紙袋をカヤちゃんに渡せば、彼女は中身を見て、ちょっと驚いてからもっと嬉しそうな笑顔になった。

 

「まぁ、わざわざすいません。さすが私の元秘書です。気が利きますね!」

 

「ありがとうございます。それでは行きましょうか」

 

「えぇ。お仕事だけの話ではつまらないですから、ちょっと近況の話もしましょう!」

 

 キリノちゃんたちに目配せして、大丈夫だと伝えると、二人はそれぞれ敬礼して送り出してくれた。本当にできる部下を持てて私は幸せだよ。これが別の子たちなら問答無用で引き摺られてたかもしれない。

 

「〜〜〜〜♪」

 

 上機嫌なカヤちゃんの鼻歌を聞きつつ、私は彼女の後に続いて室長の執務室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 カヤちゃんの執務室に入ると、既にコーヒーは準備されていたのか、いい匂いがしてきた。応接用のテーブルに私も近づいて、持って来た紙皿を広げて、パンケーキを取り出して置いていく。食べやすいように一口サイズのプチパンケーキだ。

 

「わぁ、おいしそうですね!」

 

「ありがとう。シロップはお好みでね」

 

「はい!ではコーヒーを!」

 

 二人きりなので、もうタメ口で。カヤちゃんは軽い足取りでコーヒーが入っていると思しきポットと、カップを二つ持ってくる。あのカップ、ここで私が使ってたやつだよね?取っておいてくれたんだ。

 

「ふふっ、とってもおいしそうです。こんなふうに朝のコーヒータイムが楽しみなのはいつぶりでしょうか」

 

「そんなに楽しみにしてくれるなんて」

 

「エリカさんだけですよ、こんな準備までしてくれて。流石です」

 

「どうも」

 

 カヤちゃんはカップを並んで置いた。私はカヤちゃんの真向かいに座ろうとしたら、カヤちゃんがキョトンとした表情をした。

 

「どうしたの?」

 

「いえ。一緒に座りませんか」

 

「いいの?」

 

「えぇ!友達じゃないですか!どうぞ!」

 

「じゃあ遠慮なく」

 

 まぁ拒む必要もないよね、と私はカヤちゃんの隣に座った。カヤちゃんも座って、コーヒーを淹れてくれる。いい香りだ。どうぞ、と差し出されたので、カップを手に取って私は早速、口に運んだ。

 

「いただきます」

 

 一口含めば、今回のはわりとさっぱりしていた。後味も強くはない。香りがスッと鼻から抜けて、ああ、朝に飲むには合ってる。

 

「うん、おいしい」

 

「…………………………」

 

「カヤちゃん?」

 

 なんでかカヤちゃんが固まっていたので声をかけたら、彼女は呆けていた状態からすぐに復帰した。

 

「は、いえ、随分と仕草が洗練されている様子で……」

 

 あぁ、なるほどね。

 

「もしかしたらトリニティにいたからかも。一応ティーパーティー、生徒会扱いだったから、姿勢というかマナーというか、そのあたりはナギサちゃんが教えてくれてね」

 

 なんだかんだでナギサちゃんが私に色々教えてくれたおかげで、あのトリニティでの支援要請は乗り切れたよねぇ。主に校内でのやりとりは。テーブルマナーとか接待とかそういうのとは程遠い場所にいた私にはわからなかったし、あと、ナギサちゃん自身の所作が綺麗で見習いたいなって思ったのもあった。

 

 カヤちゃんも所作は整ってるから、そんな彼女から洗練されてる、なんて嬉しいな。

 

「桐藤さんが……まぁ、いいです。それで、こちらのパンケーキ、頂いても?」

 

「うん。どうぞ」

 

 パンケーキ食べてもらわないとね。プラのフォークは用意しておいたので、カヤちゃんに渡し、彼女は持って来ていたシロップをかけて、フォークで一枚取って口元に運ぶ。意外と一口は大きく、彼女はよく味わってくれたようだ。

 

「おいしい!…です!」

 

「よかった」

 

 それからしばらくはパンケーキとコーヒーを楽しみつつ、近況、といっても会ったのちょっと前だし大したことはないけど、他愛ない話をしばらくした。

 

「――ではそろそろ、本題に入りましょうか」

 

「本題…というと、あのメールの」

 

「はい」

 

 パンケーキを食べきったあたりで、カヤちゃんがメールの件に話を移した。

 

「不良生徒の奉仕活動支援、と言えばそのままですが、実態は矯正局へ入れられない立場の生徒をシャーレで更生させようという提案です」

 

「メールの通りだね?カヤちゃんが立案を」

 

「いいえ。これはトリニティのティーパーティーからのものです」

 

 ナギサちゃんから…?どういうことなの。カヤちゃんは話を続ける。

 

「先のエデン条約事件、アリウス分校に利用されたとはいえ、途中までは本気でトリニティ総合学園の転覆を狙った聖園ミカという生徒について、校内での奉仕活動では足りないため、より外部で厳しい奉仕活動に携わるべきだ、という声が上がり、連邦生徒会へ持ち込まれたものです」

 

 トリニティでそういう生徒ってなると聖園さんになるよね。けど、あのナギサちゃんがまるで聖園さんを私のように追い出すだろうか。確かに、聖園さんが犯した罪は大きいし、重大犯罪を犯した生徒をシャーレに預けるというのも私という実績があるからおかしくはない。

 

 でも違和感は強い。

 

「カヤちゃん、本当にナギサちゃんが?」

 

「それはわかりません。ですが、届出られた書類には桐藤会長の名前はありますし、サインもしっかりありましたよ」

 

 カヤちゃんが書類を見せてくれた。書類にナギサちゃんのサインはあった。……それでも、なんでだろう。あのナギサちゃんが聖園さんを追い出すようなことをするとは思えない。

 

「………信じられないな、あのナギサちゃんが」

 

「晄輪大祭も目前ですから、クリーンに見せようということじゃないですか?」

 

「ナギサちゃんはたぶん、そこまで簡単には追い出さないと思うよ。だって、退学を止めたぐらいだし」

 

 聖園さんは当初、退学すらありえたところをナギサちゃんが事件解決で戻った政治力で止めたらしい。なのに、私みたいに学校から追い出すなんてありえるかな。またこれ、何か政治的な思惑を感じる。

 

「エリカさんの人物評ですから、無下にはできませんね。桐藤会長がそのような方で、意外と情に流される方なら確かに違和感はあります」

 

「うん。やっぱりおかしいよ。ナギサちゃんからはなんて?」

 

「いえ、桐藤会長からは何も。この計画はトリニティの担当している生徒がこちらに持ち込んだものですから」

 

 ますます怪しい。勝手にやってるんじゃないのこれ。

 

「エリカさんは怪しいと思いますか?」

 

「うん。逆に聞くけど、カヤちゃんはなんとも思わないの?」

 

「筋は通っていたので特には。エリカさんが言わなければ、私の主観だと邪魔な派閥の長を追い出すのはありえなくないかなーと」

 

「……あぁ、そういうことね。確かに、連邦生徒会から見ればそう見えちゃうか」

 

 第三者からすれば別に勝手にすれば、ってことなのか。

 

「先生にも相談しないと。トリニティがなんかおかしい感じするし」

 

「ですがもう、聖園さんは明日にはシャーレに来るそうですよ?」

 

「え!?これまだ本決まりじゃないんでしょう!?」

 

「割と本人が乗り気だとかで……メールのタイトルにも情報共有と付けましたが」

 

 そういえば、そうだったような気が。先生に許可取らずこれいいの……?というか連邦生徒会は誰が許可を?

 

 私がどういうことなのかと思っているとカヤちゃんが何故か得意げな顔をしていた。

 

「ふふっ、この計画は迅速に、私が処理しました!何せ、エデン条約事件はキヴォトスの安全保障を大きく脅かすものでしたから、関連する事項はある程度、私が決済できるようになっています!なんといっても私が防衛室長ですからね!」

 

「………そうなの?」

 

「そうです!先生やエリカさんは忙しいでしょうから!」

 

 カヤちゃんに悪気はない。うん。けど参ったな。とにかく先生にこのことを伝えないと。トリニティで何かがまた起きてる。晄輪大祭も近いし、SRTの子たちには伸び伸びと楽しんでほしいのに。

 

 そういえば、先生は今日、トリニティに行くと言っていた。まさか、このことで聖園さんに会いに行ったの?

 

 私は携帯を取り出して、先生に電話をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 キリノやフブキ、カヤたちが去った後、防衛次長はその場に立ったままだった。彼女の横にいた防衛室の役員が慌てて声をかける。

 

「じ、次長…!」

 

「……構いません。既に堕ちているのなら結構。むしろ、都合がいい」

 

 防衛次長は席へと戻り、静かに安物の椅子に腰掛ける。

 

「手を汚したものがいくら清流でその身を濯ごうと、その汚れは落ちません。不知火室長、今更正義を語るなど、遅いのですよ。契約は履行されなければいけません」

 

 防衛次長の声はあまりにも機械のような平坦さで、彼女は右手にマウスを持ってパソコンの中のファイルを開く。

 

「余計な知恵をつけてくれましたね。羊は大人しく、毛を刈られるだけでよかったのに。……ラム肉はクセがあるので私はあまり好きではありませんが」

 

 防衛次長はパソコンの中である書類を印刷し、コピー機から打ち出されたそれを机の上に広げ、机の中から印鑑を取り出し、朱肉につけ、押印する。紙面に赤く記されたのは――不知火の文字。

 

「カイザーに件の“塾”に関して、晄輪大祭後に受講生が現れると伝えましょうか。SRTを今更復活など……諦めた子たちにはどのように映るのでしょうか」

 

 画面の中で表示されるある生徒たちの名簿。防衛次長はここでようやく、口元を綻ばせた。

 

「大人との約束を破るような悪い子供には私はなりたくありませんから。防衛室の生徒には、”いい子”しかなれませんよ。不知火カヤ」

 

 




「ナギちゃんのカノジョさんがどんな人か見極めないとね★」ということで聖園ミカ、一時的にシャーレに参戦します。ミカと本作の主人公の接触はあえて避けて来たのでどう描いていこうかな。

ちなみに今回のカヤちゃんの行動はエリカからの友好度が-30%ぐらいです。事前相談は大切です。

防衛次長はほぼオリキャラになっちゃった。でも、カヤちゃんだけが本当に全部陰謀に関わっていたのか、と思うと疑問符が浮かぶのでこんな形に。

また次回は未定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。