頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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未定ということは間を置かずに出してもいいということ…!

結構長くなってしまいましたので単発で投稿します。

またオリキャラが一人増えます。


Area-03「トリニティ総合学園・更生寮 #うるさい寮長 #不良生徒 #隔離」

 トリニティ総合学園の敷地内にあるその学生寮は古く、寮の中では校舎から最も遠い場所にあった。そんな場所に先生は朝からシャーレにも寄らずにやってきていた。彼女はある生徒に呼ばれており、寮の入り口に立ち、扉をノックした。

 

「すいませーん。シャーレでーす」

 

 先生が呼び掛ければ、落ち着いた声で「どうぞ」と声がかかる。古びた木製の扉を押して先生が中に入れば、エントランスを兼ねた談話室が目に入り、火のついていない暖炉の前で一人の生徒が編み物をしていた。

 

 彼女は先生に気がつくと手を止めて、かけていた丸メガネを外し、先生の前に立ち軽く会釈する。

 

「おはようございます。先生」

 

「おはよう。君は?」

 

「ここの寮長をしている藤川といいます」

 

 藤川、と名乗った女生徒は肩ほどまでの長さの栗毛色の髪に、生真面目そうな印象を先生は受けた。制服はよく見ればティーパーティーのものと同一で、優秀な生徒なのかと先生は思った。

 

「君はティーパーティーの生徒なの?」

 

「元になります。パテル派所属だった、といえばよいでしょうか」

 

「………そっか」

 

 先生はかける言葉が見つからなかった。パテル派、つまりはミカが率いたトリニティ内の派閥であり、今はもはや逆賊とまで罵られることさえある派閥だ。始末の悪いことに、パテル派の生徒たちの一部はミカに対する暴行や、嫌がらせを行ってしまっていると先生は聞いていた。もちろん介入し、止めたこともあるが、先生はトリニティ総合学園の専属ではない。

 

 ここ最近は何も先生は対応できていない。

 

 そんな派閥の生徒がここにいて、ミカのいる寮の長を務めている。先生は少し、嫌な想像をした。

 

「不安に思われているようであれば、私はミカ様へ危害を加えるような真似をしていないと言いましょう」

 

「ごめん、顔に出てたね。じゃあ君は個人的にこの寮の長に?」

 

「いえ、元からここの寮長です。この寮はそもそもとして、不良生徒が罰則期間中などに住まう寮です。規則正しい生活をし、礼儀作法を学び直し、不道徳な行いを慎み、更生させる。私はティーパーティーからその役目を与えられています」

 

 先生は過去に非行に走った少年が駆け込み寺のような寮で暮らして更生していく様を見た番組を思い出す。この寮もきっとそうなんだろうと藤川の説明に納得した。

 

「パテル派は先の事件によりティーパーティーから追放されましたが、私の役目は派閥に囚われていないおかげでしょう。ナギサ様はティーパーティーのバッジこそ返還するように指示しましたが、それ以外は変わりなく役割に励むよう仰っていました」

 

「そうなんだ。……もしかしてだけど、別に個人的にミカを慕ってるとかもない感じ?」

 

「偶々いたのがパテル派だった、というだけです。とはいえ、ミカ様のおかれた状況は自業自得とはいえ、察するにあまりある状況です。……罪人は己の正義という快楽を吐き出すための道具ではありません。更生できる余地が少しでもあるのなら、導くべきです」

 

 真っ直ぐに先生を見つめて述べる藤川に、先生は自らも姿勢を正しそうになる。ただ、彼女のような生徒がいることを知り、先生はここに来ることになったミカから聞いた“計画”が必要なのか疑問が浮かぶ。既にこの寮という更生施設があるのならば、先生がミカから聞いたシャーレへの出向による更生は不要なはずだ。

 

「君は、ミカがシャーレへ行くことを知っているの?」

 

「知っていますし、だからここで先生を待っていました。この時間帯であれば、規則的な生活を送る以上、ミカ様を起こすべきですが、私はあえて彼女を寝坊させています」

 

「私に、話したいことがあるんだね?」

 

「単刀直入に申し上げます。ミカ様をシャーレ所属になさらないでください」

 

 言い方こそ固いものであったが、それは先生へお願いしているようにしか聞こえなかった。先生は真っ直ぐな姿勢に応えるべく、優しく返す。

 

「理由を教えてくれないかな」

 

「ミカ様をシャーレへ行かせる、という話は、この寮では更生は望めない…だから外部で、というのが建前です。実際はフィリウス派がナギサ様の傍からミカ様を離すためのものとなります」

 

 先生は突然、政治の話となったことで困った。

 

「ナギサとミカは幼馴染だよね?別に一緒にいてもおかしくは…そりゃ、あんなことしちゃったけどさ」

 

「現在、ティーパーティーはナギサ様の一強状態であり、その力はフィリウス派自体の力をも超えようとしています。自治区を救ったのですから当然といえば当然です。そんなナギサ様の側近として、エリカ様がいらっしゃいましたが、彼女も気がつけば姿が見えません」

 

 エリカの名前が突然出て来て先生は驚いたものの、エリカから新しいティーパーティーの幹部と勘違いされたと聞いていたのを思い出し、藤川は未だに勘違いしたままの生徒なのだとわかった。

 

「フィリウス派が恐れているのは派閥の解体と、ナギサ様の独裁です。ですので、次にミカ様という幼馴染の排除にかかっている、というのがこのシャーレでの奉仕活動の実態です」

 

「なんだかよくわからないけど、ナギサが独裁とかそういうことするとは思えないけどね」

 

 そもそも、独裁するつもりがあればナギサはとっくに先生ごと補修授業部を排除していたことは想像に難くなく、先生は生徒たちの暴走が少々目に余ると感じた。感じた、としても無闇に介入すれば軋轢を呼び、余計に事態がこじれるのは目に見えていた。

 

「そもそも、藤川さんだっけ?よくそんな話知ってるね」

 

「ミカ様が愚痴のように言っていましたので」

 

「え、ミカがそんなこと言ってたの?」

 

「失礼ながら、ミカ様は聡明な方です。神輿にしていた派閥の人は皆わかっていませんが」

 

「いや一言もミカのことを……それより、神輿って?」

 

「先生は気がついていなかったのですか。現在のティーパーティーのホスト3人は全員、派閥からの推薦で据えられています。言葉通りの意味です。ある程度の重石であれど、担げば自由に向きは変えられる。そんな生徒が望まれた結果でした」

 

 聞いて先生はすぐに理解したが、気分がいいものではないのが確かだった。

 

「あまりいい話じゃないね」

 

「はい。ですが、あの事件以降ナギサ様は自ら現場に足を運んだり、頻繁に一般の生徒とのお茶会を開いて校内の状況を把握されたりと、事件以前のようにティーパーティー役員からの情報のみで判断をするということはなくなりました」

 

「そうなんだ。ウチの子のせいかな?」

 

「……?」

 

「あ、いや、こっちの話。だいたいわかったよ。ナギサ個人の影響力が増して、そこに更にミカが残ったままだと武力的にも優位に立てないから追い出そうってことね」

 

「仰る通りです。シャーレでの奉仕活動はナギサ様が止められないところまで煮詰めて、無理に承諾させたもののようです。なので、これは撤回できそうにありません。連邦生徒会にも承諾されてしまったようです」

 

 先生はいつの間に、と生徒たちの素早さに驚く。連邦生徒会側は誰がそんなことを許可したのか気になったが、それを確認するのは後回しだった。

 

「状況はわかったよ。とりあえず、ミカのことだけど、その奉仕計画に関して詳細を見てみないとわからないから、一先ず今日はミカを連れていくね。できるなら、毎日じゃなくて週に一回当番に来てもらうぐらいにできないか、確認してみるよ」

 

「……ありがとうございます。そうして頂けると助かります。ミカ様は罪を犯しましたが、だから追放するというのは本人のためにも何の解決にもなりませんから」

 

 藤川の安堵したような様子に、先生は思わず彼女を撫でそうになった。キヴォトスでも稀に見るいい子であり、先生はそういった生徒を見るとどうしても嬉しくなって優しくしたくなる。しかし、藤川の話し方などを見て、先生は嫌がるだろうなと思って我慢した。

 

「君はすごいね、藤川さん。もうそんな風に考えられてるなんて」

 

「そうでしょうか。ここの寮長をしてそれなりですが、これまでもこれからも、ここの寮生にはどの子にも同じようにするだけです」

 

「そっか。うん、それじゃあ、ミカを呼んでくれるかな」

 

「わかりました。……そちらの応接間でお待ちください」

 

 藤川がその場から離れ、先生は言われた通り先ほどまで藤川がいたソファの近くにある別のソファに腰を下ろした。暖炉の上にはいくつかの写真が立てかけられ、すぐにそれらが過去の不良生徒たちと藤川が一緒に撮ったものだとわかった。更生の記念といった様子で、どの写真もいい写真だった。

 

「(この中にミカのも加わるのかな)」

 

 ミカの犯した罪は、始まりはただの悪戯だったが、取り返しはつかなくなってしまった。ミカのことを止められず、そのあとも何もできず、先生はミカのことを考えれば考えるほど無力感に苛まれる。しかし、こうして、藤川のような生徒の存在を知り安心もした。先生だから生徒を一人で導く必要はない。他の生徒の助けも借りて、みんなで歩んでいけばいいのだろうかと思い始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ミカが降りて来たのはそれから三十分後だった。本当に寝ていたためか、身だしなみを整えていたことは先生も容易に想像できた。

 

「おはよう!先生!」

 

「おはよう、ミカ」

 

 明るく元気で、とても先の事件のことなど感じさせない。ミカの変わらない様子に先生は危うさを感じると同時に、先ほどの藤川の話ぶりから割と本音を簡単に零すようになっているのではないかな、とも考える。

 

「あれ、寮長の子は?」

 

「朝ごはん食べに行くって。裏口から出ていっちゃった」

 

 藤川が気を遣ったことは明白だった。できる子なのだろうと先生は思い、パテル派への弾圧がある中でポストにそのまま収まっていることが何よりもその証拠に見えていた。

 

「そっか。じゃあ後で私たちも朝ごはんを食べよう」

 

「いいよ!」

 

「その前に、ミカ。ここに私を呼んだ理由を教えてほしい」

 

 ソファに向かい合って座りながら、ミカに先生は問いかける。

 

「理由?モモトークで言った通りだよ。シャーレでしばらく奉仕活動しなくちゃいけないんだって」

 

「藤川さんから概要は聞いたよ。色々と面倒なことになってるんだね」

 

「…………話したんだ………」

 

 まるで秘密の話をバラされた、というようなミカの露骨に不機嫌な態度に先生はため息をつきつつも、話を続けた。

 

「ミカ。彼女はあなたのことを心配して教えてくれたんだよ。私としても不本意な理由でシャーレに来てもらうのはよくないからさ」

 

「ま、確かにナギちゃんの派閥の子が私のこと怖がってよくわからないごっこ遊びしてこの話になったけどさ。別に私は嫌じゃないよ?」

 

「本当に?」

 

「うん。それにシャーレには……というより、草鞋野エリカちゃんに興味があってさ」

 

「エリちゃんに興味?」

 

 ミカはソファから立ち上がり、身体と羽を伸ばす。そのまま朝陽が差し込む窓に近づき、外を眺めながら口を開いた。

 

「ナギちゃんってさ、ハッキリ言うとビビりなんだよね。昔っからそう。何かを言おうとしても枕詞が必要だし、本音に変な飾りをつけて、嘘みたいに聞こえちゃう。ナギちゃんも自覚なかったし、それに輪をかけて自分で動かなかった」

 

 先生の耳に届いたミカの声音は普段通りのものだったが、表情は伺い知れず、ミカがどういった感情で言っているかわからなかった。

 

「けどさ、夏を過ぎて、ある日を境にナギちゃんの様子が“おかしく”なったの。物の言い方とか、雰囲気は変わらないのに、言っている内容とか行動がすごい直球になったの。前は一般生徒の話とか、それこそここの寮長と話そうなんてなかったのにね」

 

 ミカが振り向く。彼女の顔に浮かび上がる表情はただただ寂しさだった。

 

「草鞋野エリカ。あの子にナギちゃんは羽根を渡した。知ってる?私たちの種族ってね、羽根とその人の大切なものを交換したら“結婚します”ってことなんだよ」

 

「えっ!?それは初耳なんだけど!?」

 

 結婚指輪相当のものを自分の教え子が渡されていた、という事実は先生にとって中々の衝撃だった。ミカは先生の様子がおかしかったのかクスクスと笑った。

 

「まぁ、ナギちゃんそこでチキって、草鞋野エリカに本当の意味言わなかったんだって」

 

「あ〜………そうなんだ。今エリちゃん、その羽根、ガラス製の写真立てに写真と一緒にして飾ってるよ……」

 

 先生は力が抜けてソファにもたれかかった。ミカは先生の話を聞いて笑っていた。

 

「あははっ、本当に?意味知ってる子が見たら大変なことになっちゃうよ」

 

「エリちゃん刺されないか心配になってきた」

 

「というわけでさ、人の幼馴染に手を出したプレイガールがどんな子なのか知りたくなったから、フィリウス派の子たちの妄言に乗ってあげたってところだよ」

 

 ミカが改めて椅子に座り直す。まるで悪戯をする前の子供のような雰囲気のミカに、先生は重く考え過ぎたかもしれない、と思った。とはいえ、フィリウス派の暴走は目に余るものであり、行き過ぎた行動は流石にどこかで窘める必要があると先生は判断した。

 

「ミカ。とりあえず、ミカの目的はわかった。でも、だからといってミカを追い出すような真似に加担する気も私はないよ」

 

「そうなの?私はもうどうでもいいけど」

 

「どうでもいい、なんて言う子が幼馴染のことでそんな動こうとしないよ。ナギサのことが心配なんでしょ?」

 

「………………」

 

 ミカは答えない。先生は話を続ける。

 

「好奇心だけで動いてるわけじゃないのはわかるよ。諦めてるから、ミカはエリカを測ろうとしてるんだね」

 

「諦めてるって」

 

「このまま追放されてもエリカにナギサを任せよう、なんて思ってない?」

 

 先生の指摘に、ミカは一瞬表情が消え、困ったように笑った。

 

「私そんなこと思ってないよ?本当にただ、気になっただけ」

 

 明らかな嘘に、先生はどうしたものかと考える。

 

 先生はコハルから、ミカの私物が燃やされた、と聞いていた。それを止めたのもコハルで、止めはしたが9割は燃やされてしまったともコハルは言っていた。だから先生はミカの様子の確認も兼ねてわざわざトリニティへとやってきていた。

 

「(これは手強いなぁ)」

 

「先生?」

 

「わかった。とにかく、今日は一度シャーレに来てもらおうかな」

 

「やったー!」

 

 晄輪大祭のこともあり、先生はトリニティがこのままで大丈夫なのか不安になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 カヤちゃんとの話が終わりシャーレに戻って、昼前ぐらいに先生から聖園さんを連れてくるという電話が入ってからまた1時間ちょい。お昼を食べ終えたあたりで聖園さんがキャリーケースを引きずりながらやってきた。

 

「やっほー!久しぶりだね?エリカちゃん」

 

 いきなりものすごいフレンドリーだった。そういえば聖園さんとは黒崎さんの件以来なので、あのときはナギサちゃん同様、敵対というか色々あったので威厳ある生徒会長って、感じだったけど。今日はどこにでもいる普通の子、って感じする。

 

「お久しぶりです、聖園さん。先生は一緒ではないのですか?」

 

「先生は連邦生徒会の不知火さんだっけ?あの子に用があるみたいで遅れてくるって」

 

 先生がカヤちゃんに?怒る、ってことはないけど、防衛室側の意見を聞いてるのかな。荷物の量からして数日はここにいるんだろうけど、とりあえずどうしようかな。立っててもらうのもあれだから、座ってもらおっか。

 

「聖園さん。とりあえず、あちらに座ってください。お茶を淹れます」

 

「ありがと〜。ここまで列車でじっとしてたから疲れちゃったんだよねぇ」

 

 コーヒーじゃなくて紅茶がいいよね?お湯をやかんに入れて、給湯室の電気コンロで沸かしつつ、諸々茶器も用意する。ナギサちゃんにも飲めるレベルであることは確認してもらってるし、聖園さんも気に入ってくれるといいけど。

 

 長旅で疲れてるだろうし、これがいいかな。

 

 お茶を淹れて、私は聖園さんの前にソーサーとカップを置く。そしてそこに、お茶を注ぐ。

 

「ハイビスカスかな?」

 

「はい。長旅だったようですし。トリニティでも売っているものなので、知っている銘柄かもしれませんが」

 

「私はナギちゃんほど詳しくないから美味しければなんでもいいよ」

 

 注がれた紅茶を聖園さんは早速、カップを手に取る。今時の子のように見えるけど、やっぱり所作はすごい綺麗で、お嬢様なのがすぐにわかる。聖園さんって、ナギサちゃんとはまた別方向に……言い過ぎかもしれないけど、女神様のような美貌というか可愛さというか、そういう感じがする。

 

 口にあったかな?紅茶は。

 

「………うん、いいね。へぇ、ちゃんと淹れてるんだね。トリニティ以外でもちゃんと紅茶飲めるの、感動しちゃうなぁ」

 

「ありがとうございます。一応、ちょっと拘ってまして」

 

「ナギちゃんが気に入るわけだよ。お菓子はないの?」

 

「あー、朝の作り置きであればパンケーキはありますけど」

 

「頂戴?こんな美味しい紅茶があるのに、お菓子がないなんて勿体ないよ!」

 

「はい、今すぐに」

 

 どうやら気に入ってくれたしい。パンケーキは朝にそこそこ作って今日の三時のおやつにも、思っていたので、まだ残ってる。私の分と先生の分だったけど、私は朝食べたし、まぁなくてもいい。

 

 ただ出すだけだと味気ないし、この前作った林檎の砂糖煮もつけようかな。

 

「はい、どうぞ」

 

「え、すごいね!?」

 

「いえいえ」

 

 というわけで、温め直したパンケーキに、林檎を乗せてその上から生クリームをかけたパンケーキを出してあげた。流石に生クリームはそこいらのスーパーで売ってる市販品だけど、個人的にはまずくないと思ってるやつ。

 

「こんな短時間で用意して、もしかして食べようとしてた?」

 

「あはは…まぁ、三時のおやつに、とは思ってました」

 

「いいの?」

 

「まぁ、私は朝食べたので」

 

「そっか。じゃあ遠慮なく………んっ……悪くないね!生クリームがちょっと食べたことない味するけど」

 

「あ〜……あんまり口に合わないですか?」

 

「ううん。おいしいよ。ナギちゃんとお茶するとロールケーキばっかりになっちゃうから、パンケーキなんて久しぶり〜」

 

 ぱくぱくと聖園さんはパンケーキを平らげてしまった。楽しそうに食事する姿はついつい見惚れてしまう。まるでアイドルのような魅力があるし、今まで会ってきた生徒会長の子たちとはまた違う指導者って感じがする。

 

 けど、今の彼女はそれが反転して、きっと厳しい立場にあるんだろうね。制服だってよく見ればティーパーティーのバッジはないし。

 

 罪を犯したのだから、当然なんだろうけど、コハルちゃんから聖園さんに弾圧に近い行いがされている、っていうのは聞いていた。同情はできないけど、かといって元ヴァルキューレの生徒として、犯人への過剰な私刑は見逃せるものじゃない。

 

 無理な介入はできないけど、せめてしばらくここにいる間は伸び伸びとしてほしいな。

 

「ご馳走様!エリカちゃん、ありがとう!」

 

「いいえ。先生が来るまでは時間もありそうですし、ゆっくりしていてください」

 

「エリカちゃんはどうするの?」

 

「支援要請が入ったらすぐ動かなくてはいけませんし、ちょっとそれまでは事務作業です」

 

 いきなり来て初日に支援要請に応えるのは大変なので、聖園さんにはゆっくりしてもらおうと思った。私の初日?私が空回りして早瀬さんと戦う羽目になったよね。今でもあの時はやらかしたなと思う。

 

 聖園さんは私の言葉を聞いて、少し考えるような仕草をした。

 

「うーん、それなら支援要請が今すぐ出れば、エリカちゃんは外に出るの?」

 

「え?まぁ、そうですが」

 

「それなら、私から支援要請出しちゃおうかな」

 

 もしかして、トリニティで受けてる仕打ちについてかな…それなら聞かなきゃ、と思って私は聞く姿勢をとった。

 

「私と戦って?」

 

「はい?」

 

 が、聖園さんから出てきた言葉は全く予想しないものだった。唐突すぎて私が固まっていると聖園さんは続け様に話してきた。

 

「これからしばらくはシャーレで一緒になるわけだし、お互いの実力は知っておかないと。私も、エリカちゃんも、お互いに何ができるのか知らないもんね」

 

 言ってることは至極当然というか、どうなるかはわからないけど、カヤちゃんの話ならしばらくは聖園さんと一緒にいることになるので、おかしくはない。でも、なんでいきなり?

 

「受けてくれないの?」

 

「まぁ、その、模擬戦ということであれば先生が来てからでも遅くはないと思いますけど」

 

「大丈夫だよ。ミカの好きにしてていいよ、って先生言ってたし!」

 

 たぶんそういう意味じゃないと思う!うーん、まぁ、いい…のかな?とりあえず、模擬戦はしてみるとしよう。それならシャーレの地下に大規模な演習施設あるし、そこでやればいいかな。この時間帯ならまだ誰も来てないだろうし。

 

「わかりました。やりましょう。それなら場所は――」

 

「どこか、広いところがいいかな?外の」

 

「外ですか?」

 

 聖園さんから模擬戦の場所に注文が入る。外がいいらしい。なんでかはわからない。けど、外かぁ。外で戦えそうな場所、というと、子ウサギ公園ぐらい?子ウサギタウン自体は誰もいないし、あの公園もRABBIT小隊だけしかいない。模擬戦してる間にミヤコちゃんたちに周りを見ていてもらえばいいかな。

 

「わかりました。それならD.U.の区画に人気がない場所があります。そこでやりましょう」

 

「ありがと、ワガママ聞いてくれて。じゃ、いこっか!」

 

 なんだか振り回されてる気がする……。とりあえず、模擬戦だから軽めの装備で行こう。シャーレの制服に普段のグレネードとかを付けたハーネスと、ナギサちゃんから預かってるトリニティ製のライフル。聖園さんがどれぐらいの強さなのかはわからないけど、先生の報告書からして実力者だっていうのだけはわかる。

 

 模擬戦ぐらいは先生に報告は必要ないだろうし、さっさとやって戻ってこよう。

 

 

 

 

 

 

 

 子ウサギタウンへは車でやってきた。シャーレの車はようやく新しいのが来た。19万キロという超過走行のオンボロの小型車だったけど。

 

「乗り心地最悪〜!エリカちゃんと先生こんなの毎日乗ってるの?」

 

「前のが壊れて…」

 

「あ、そうそう。あとタメ口でいいよ?ナギちゃんの知り合いだもん」

 

「……じゃあ失礼して。前のが壊れて、一応これそれの代わり」

 

「シャーレって貧乏なの…?」

 

「まぁ、うん」

 

 聖園さんがものすごい「うわぁ」って顔してる。生活基準がトリニティの子とじゃ違いすぎるからなぁ。トリニティにいた時に金銭感覚が本当に狂いそうになった。水とかですら高いし、紅茶風呂っていうなんかもう入ることすら躊躇うようなお金をお湯にじゃぶじゃぶつけてるトンデモ贅沢があったり、それが日常のこの子たちからすれば今乗ってたこんなポンコツの車はそれこそ、小銭のような値段だと思う。

 

 いやまぁ、実際乗り心地は気にしない私ですら悪いと思った。これ流石に変えてくれないかなぁ…財務室には制服の件でちょっと厳しそうだけど。

 

「それでここが公園なの?何にもないけど」

 

「まぁ本当に広いだけで、利用方法もキャンプがメインだからね」

 

 公園の駐車場に車を止めて、降りる。ドアを普通にバン、と閉めたら跳ね返ってきて外れた。聖園さんの方も同じように外れていた。聖園さんに怪我はないけど、彼女は慌てて扉を持ち上げて嵌めようとしていた。

 

「あ、あれ!?ご、ごめん壊しちゃった!」

 

「大丈夫です。私の方も壊れたんで。……とりあえず立てかけておきましょ」

 

 ダメだ。流石にここまでポンコツだと使い物にならない。というかさ、今私たち同時に車の扉しめたけど、その衝撃で車の屋根、なんか皺入ってない…?これ、車凹んだよね?

 

 どうしようもないのでドアをとりあえず立てかけておくことにした。

 

「行こうか」

 

「ソウダネ」

 

 帰りのことも置いといて、聖園さんを連れてキャンプ場へと向かう。

 

「ところであのごついのなに?」

 

「ここのキャンプをしてる子たちの持ち物だよ」

 

 前に貸してもらったソナーとかを備えた装甲車が駐車場に停められていた。最初はRabbit小隊がここを要塞化してたせいもあって遮蔽して保管していたけど、最近はもう普通に駐車場に停めてるようだった。

 

「ふーん。SRTって書かれてるけど、確かナギちゃんとエリカちゃん助けた人たちだよね」

 

「知ってるんだ」

 

「ナギちゃんが古聖堂の出来事は教えてくれたからね。お礼ぐらいは言っておかないと」

 

 私とナギサちゃんはそれぞれでお礼は言ってあるし、SRTとしてはあの事件に名前出せないから私たち以外からの感謝ってあんまり受けてないんだよね。

 

 キャンプ地までの移動の間は無言になった。そりゃ私と聖園さん、まともに話すの今日が実は初めてなんだもん。何を話せばいいのか。

 

 RABBIT小隊のテントが見えてくる。誰かいるかな?声をかけようかと思ったらちょうどテントから人影が出てきた。出てきたのは風倉さんだった。風倉さんはすぐにこっちに気がついたのか、こっちを見ていた。

 

「こんにちは、風倉さん」

 

「どうも。ミヤコたちはいないよ。FOX小隊の先輩たちと打ち合わせだからね」

 

「そうなの?ごめんね急にきちゃって」

 

「それで、会長さんはなんの用で?」

 

 会長さんって呼ばれるの慣れないな。SRTの生徒会長に名前だけ貸したわけだけど、風倉さんのように茶化して言うならまだしも、他の子たちは本気で呼んでくるのでちょっと戸惑う。特にミヤコちゃんやFOX小隊の4人。晄輪大祭終わったら元に戻るんだけど大丈夫かな。

 

「ちょっと向こうのキャンプ場の広いところを貸して欲しいんだ」

 

「え?キャンプでもするの?そっちの人と」

 

「ううん。ちょっと模擬戦をね」

 

 模擬戦をすると言えば、風倉さんはよくわからない、といった顔をするけど「まぁいいよ」と道を開けてくれた。

 

「私、聖園ミカ。あなたは?」

 

「SRTの風倉モエ。……トリニティの生徒会長?どうしてここに」

 

「ふーん、私のこと知ってるんだ。この前はナギちゃんたちを助けてくれてありがと」

 

「どうも。えーっと、SRTとして当然の義務を果たしたまでですが、嬉しいお言葉です」

 

 まるで台本丸暗記みたいな風倉さんの言葉に吹き出しそうになる。確かに、こういうのは風倉さんのキャラじゃないかもね。空井さんとかミヤコちゃんなら自然に返せたんだろうな。

 

「言いたいことはそれだけだよ。じゃ、向こうではじめよっか」

 

「はい」

 

 聖園さんがまるで虚空から取り出したかのようにいつの間にか右手にサブマシンガンを手にしていた。トリニティ製の正式採用のものだけど、なんだか私の持っているライフルのように特別な感じがする。私も肩にかけていたライフルを手にする。

 

 RABBIT小隊の子たちのテントからは大きく離れて、私たちは30mほどの距離で向かい合った。聖園さんは自然体だ。緊張とか、そういうものが一切見えない。

 

「エリカちゃん!最初に言っておくけど、本気で戦ってね!」

 

「本気で?」

 

「ナギちゃんから色々聞いたけどさ、エリカちゃんって、相手を倒そうとかしないんでしょ?」

 

 ナギサちゃんには見抜かれてたみたいだ。私は基本、銃を抜くのは最後の手段で抜いても無力化を最優先するので、間接狙いで怯ませたところを体術で組み伏せる形になる。そうしないで戦うのはそれこそ、古聖堂で爆撃を受けた時のような危険な時だけ。

 

 聖園さんは、私にヴァルキューレ式の戦闘をするなと言ったようだ。正直、抵抗はある。怪我をさせてしまったらどうしようとか。

 

「まぁ、もしやりづらいなら、そうしないといけない状況にすればいいかな?」

 

「え、どういうこと?」

 

「ふふっ、私ね、ちょっとは強いんだ。少なくともナギちゃんよりはね」

 

 聖園さんが武器のセーフティーを外した。仕掛けてくる。そう思った瞬間には、目の前に、可愛らしい顔があった。

 

「ッ!?」

 

「だから、手を抜くと怪我しちゃうよ?」

 

 耳元で囁くような声。やられるっ!?

 

 可能な限り、全力でその場から右へ飛び退く。聖園さんは何もせずに、その場に立ったまま。いきなり遊ばれた。今の速度は何?ナギサちゃんよりちょっと強いなんてもんじゃない。

 

「わぉ。すごいね?見えないぐらい速いじゃん」

 

「……それは、どうも」

 

「じゃ、ウォーミングアップはいいかな?行くよ★」

 

 銃口が向けられ、聖園さんのサブマシンガンから銃弾がばら撒かれた。わざとぶらして…!面での射撃に回避が大きくなる。横に跳んで私は銃を構えた。確かにこれは、制圧をしようなんて余裕はないかも。

 

 動きながらの射撃は当然のように当たらない。聖園さんは最低限の動きで回避し、こちらに走ってきた。走ってきたけど、その速度が凄まじい。たまらずハーネスからスモークグレネードを取り出し、ピンを抜いて投げつけた。

 

「えいっ!」

 

 が、可愛らしい掛け声と共に爆裂前のスモークグレネードは弾かれてキャンプの方に飛んで行った。いや、結構本気で投げて当たれば怯むぐらいの威力はあったはずだけど。ともかく、牽制は無意味だった。

 

 装填を素早く行って、ライフルでの牽制に切り替える。これも避けられる。一発打てば相手からは何十発と返ってくるし!

 

「すばしっこいね。まるで稲妻みたい」

 

「どうもっ!」

 

 褒められても、一言しか返せない。さっきからジグザグに動いて避けてるけど、こっちの攻撃も当たらないし、手数は向こうの方が上だからかなり不利だ。

 

「ほらほら、もっと動いて!」

 

「ぐっ!?」

 

 回避方向を読まれて、一気に接近される。というか、これ、私の移動法をもう真似された!?突き出されたサブマシンガンの銃口をライフルで突き上げてなんとか顔面への接射を避ける。

 

「これ便利だね!一瞬で地面を何回も蹴るとこんな瞬間移動みたいなこと出来るんだ」

 

「後輩は習得に時間かかったのに、こんな一瞬で…!」

 

「それに、エリカちゃんの戦い方って綺麗だね。まるで騎士みたい」

 

「褒められてるの、それは!?」

 

「あははっ、どうだろう、ねっ!」

 

 制服を掴まれたと思ったら私は宙を舞っていた。飛ばされた…!?

 

 高く斜め上に飛ばされて、なんとか聖園さんを認識すれば、彼女はこっちに銃を向けていた。これは避けられない。

 

「仕方がない!」

 

 躊躇わず私は普通のグレネードのピンを抜いて、手を離した。対ショック姿勢を取り、近くでグレネードは爆発。爆風で私はその場から飛ばされて、聖園さんの攻撃をなんとか回避した。

 

 どうにか一回転して、地面を抉りながら着地する。ぐっ、流石に衝撃で少しふらつくけど、聖園さんの弾丸はなんだか当たってはいけない気配がすごいして、耳がゾワっとする。

 

「すごいね…そんな避け方するなんて」

 

「当てられる、よりはマシかなって」

 

「へぇ。諦め悪いんだね」

 

「そりゃもうね」

 

 仕切り直しだ。逆にこっちから仕掛けないと。聖園さんめがけて、今度はこっちから突っ込む。聖園さんは当然、両手で銃を構えて射撃してきた。今度はブレのない、かなり正確な射撃。

 

 聖園さんの動きは確かに戦闘員じゃない、一般の民間人らしい無駄な動きが見える。けど、そんなのあそこまでいけば関係ない。単純に、彼女は強い。ただただ、強烈なまでに力がある。

 

 それに、一瞬で私の動きを真似できる戦闘センス。勝ち筋が見えない。まるで大きな壁を前にしているような感覚だ。

 

 突撃しながら撃っていけば、聖園さんはひらりひらりと避ける。私の射撃が正確すぎるせいなのか。逆に聖園さんの攻撃は避けづらい。それでも今は点での射撃に切り替えてくれているからまだ避けられる。

 

「接近戦なら!」

 

 当たらなければ当たる距離にいけばいい。最後に大きく跳んで、聖園さんの懐に入り込む。あの時のアリウスの生徒にしたように、一瞬で視界から消えて、正面の真下から顎を狙う奇襲攻撃。

 

 流石にこれは当たる、と思った一撃だったけど、聖園さんは私のように素早く後退して避けた。

 

「あっぶな……もうっ、顔を狙うなんてよくないと思うよ?」

 

「さっき狙ってなかったそっちも!?」

 

 またしても距離が開くけど、まだいける。間をおかずに、即座に射撃。回避行動の直後だからか、聖園さんの動きが大きくなって、彼女はたたらを踏んだ。チャンスだ。聖園さんに飛びかかるように接近する。

 

 間合いに入って、向けられた聖園さんのサブマシンガンを左手で抑える。そのまま、足払い。

 

「うわっ!?」

 

 聖園さんの体がふわりと浮く。仰向けに倒して、跨るように彼女の上に体を落とす。聖園さんの背中が地面につくかつかないか、そのタイミングで、聖園さんが左手で私のライフルを掴んだ。

 

「くっ……うぐっ!?」

 

 まるで何かに吸い込まれたのかと勘違いするほどの強烈な力で引っ張られて、私は一緒に倒れ込む、と同時に腹部に衝撃。聖園さんが私のお腹に右足を向けていた。聖園さんが笑う。

 

「それっ!」

 

「うわぁっ!?」

 

 ぶわっ、と私は前方向に飛ばされた。これ、巴投げ!?この子、体術もいけるの…!?

 

 どうにもならず、今度は転がる。立ち上がらないと、まずいっ。

 

 立ち上がってライフルを構えれば、聖園さんの姿は見えない。どこに!?どこへ行ったの!?

 

「ここだよ〜♪」

 

 声がしたのは真上、見上げれば、聖園さんがまるで天使の羽で飛んでいるかのように頭上にいて、身を翻しながら銃をこちらに向けていた。

 

 回避は不可能。けど、相手も空中で動けない。

 

「これで終わり!」

 

「そっちもだよ!」

 

 避けずに私は銃を向けた。そうして同時に私たちはトリガーを引いた。

 

「「え」」

 

 そしたらなんでか、お互いの銃口が光って、次の瞬間には目の前が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんですかこれは」

 

 ミヤコの前に広がっていたのはところどころ地面が抉れ、クレーターが出来たキャンプ場の惨状だった。まるで激しい戦闘や爆撃でも受けたのかと言わんばかりの状況で、そんな状況なのにキャンプの中ではエリカと、ミヤコが見たことがない生徒――ミカが正座させられ先生に叱られていた。

 

 それをモエはチョコレートをかじりながら眺めていた。

 

「モエ、RABBIT3、これは一体なんですか」

 

「おかえりミヤコ。見ての通りだけど?」

 

「見ての通りって……」

 

「草鞋野会長とあのトリニティのお嬢様が模擬戦した後だよ」

 

 ミヤコは自分の耳がおかしくなったのかと思った。模擬戦、であのような惨状になるだろうか。

 

「いやぁ、凄かったよ?どっちもびゅんびゅん動いてさ、最後にはなんか銃からビームみたいな光出て大爆発してダブルノックアウト。映画みたいで面白かったわ」

 

「………テントに被害は?」

 

「ないよ?一回流れ弾で煙幕飛んできたぐらい?煙かったけど、特に被害なし」

 

 安心はしたものの、ミヤコは尊敬する先輩と、その友人であろう生徒の両方がかなりバツの悪い顔つきで先生の前にいたことで、先生がかなり怒っていることは察せられた。少し、ミヤコは耳をすませた。

 

「……確かにミカには好きにしてとは言ったけど、こんな公園を壊すようなことはしちゃダメ」

 

「ごめんなさい」

 

「エリカも。ミカと戦えばどうなるかわかってるでしょ。あなた自分がどれだけ強いのかいい加減自覚しなさい」

 

「ごめんなさい」

 

 ふざけがちな先生が真面目なトーンで二人を叱っているため、ミヤコは話が終わるまでは声をかけないでおこうと思った。代わりに、ミヤコはテントに一度戻ってから出てきたサキに声をかける。

 

「サキ、お風呂の準備を」

 

「え?なんでだ?ちょっと早くないか?」

 

「先輩たちが泥だらけですので」

 

「そこまでしてやる必要なくないか?」

 

「草鞋野会長が可哀想ですので、準備してあげましょう」

 

 サキは先生にペコペコと頭を下げているエリカとミカを見てなんとも面倒臭そうな顔をした。

 

「自業自得だろ」

 

「…………………」

 

 正直なサキの言葉にミヤコは何も返せず、ため息をつくしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 あのあと、先生に模擬戦したのがバレて、気がつけば公園を破壊していたのでものすごい怒られた。ミヤコちゃんの慈悲でお風呂には入れたものの、壊れた車を転がして帰るしかなく、帰りはドアがない上に、閉めた衝撃でフレームが歪んで微妙に真っ直ぐ走らない車で帰った。先生?先生はSRTの装甲車でおかえりいただいた。

 

 聖園さんのシャーレ出向に関してはとりあえず今週一週間だけで、来週以降は週一に変更されるらしい。これはカヤちゃんと先生が相談して決めた。

 

 とりあえず、制服が必要とのことで、ミレニアムに連れていかないとかなぁ。

 

「いやぁ、最後なんか爆発したね」

 

「そうだね……」

 

「私もたまに弾が光るんだよね」

 

「ダジャレ?」

 

「そんなつもりないよ。あなたのも光るんだね」

 

「なんかあの銃を使ってからね」

 

 帰りの車で、模擬戦の最後に互いに撃った弾が光ってぶつかりあって爆発したことに触れたけど本当にあれはよくわからない。聖園さんの制服を用意してもらうついでに、明星さんを訪ねてもいいかもしれない。

 

「ふふっ、でも、これでエリカちゃんの実力はわかったよ」

 

「お眼鏡にはかなった?」

 

「うん。十分。だって一人で私とあれだけ長く戦ったの、あなたが初めてだもん」

 

「……有効なダメージは何一つ与えられてなかったと思うけど」

 

「あんな押し倒されたのは初めてだし、エリカちゃんは強いと思うよ。ナギちゃんが護衛に選んだのも納得」

 

 なんだかまるで認めてもらったかのような言われ方だ。弱くない、と言われるのは悪くないけど、先生に怒られたのがやっぱり堪える。うーん、挽回しないとなぁ。明日改めて聖園さんと今後の話を先生交えてするけど、明日まで先生怒ってないといいなぁ。

 

「とりあえず、夕ご飯食べに行こっか」

 

「どこどこ?どこに行くの?」

 

「私の行きつけの定食屋さん。ナギサちゃんも来たことあるよ」

 

「へー、じゃあデートコース?」

 

「いやいや。そういうわけじゃないよ。他の子とも来てるし」

 

 二人きりで食べに行ったことはないし、そもそもニコちゃんもいるからね。

 

 なんだけど、聖園さんはなんともいえない顔をしていた。

 

「わーお……まぁいいや、おいしいの?」

 

「もちろん。後悔はさせないよ」

 

「期待しちゃうなぁ。楽しみにしておくね」

 

 聖園さんとの距離感はいまいちわからない。けれど、この一週間で少しでも彼女のことを知れればと思う。あんなことをしてしまった子だけれど、きっと悪い子ではない。私はそう思った。

 

 




本作の主人公はシャーレ制服だと回避型になるので、ミカと遮蔽物のないところで戦うと見てる側はヤムチャ視点になります。

本話冒頭で出ましたオリキャラの”藤川”はミカのエピソードに出てきた寮長さんがモデルです。あの子、原作でも先生に気がついてもあえて見逃してるフシがありますし、かなり出来てる子だと思うんですよね。ミカへ厳しく当たるのはあくまで”寮長”だからでしょうし。

次回もまた未定です。

※ これまで誤字報告頂いていた読者の皆様本当に申し訳ありませんでした。この話時点までの誤字報告は全て適用しました。誤字報告本当にありがとうございました。
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