頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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これが投下される頃には生放送の情報で大変なことになってるんだろうなぁ。
今回もこの話単独での投下です。


Area-05「ゲームセンター #うるさい #スコアトップ #台パン」

 白石さんからの支援要請を先生に報告したところ「手伝えないの申し訳ないけど、お願い!」とよろしくされたので、張り切っていこうと思う。

 

「——ということで、先生には許可をもらったから、始めよう」

 

「おっけー。けど、何すればいいのかな?」

 

「捜査は足から。まずは地道に聞き込みだね」

 

「えー、もっとこう、あなたが犯人です!みたいなのやらないの?」

 

「それじゃ探偵だよ」

 

 そういうのは私よりかはナギサちゃんが向いているね、たぶん。私は警察なので、まともに捜査できるならちゃんと証拠固めてから行く。ミカさんには退屈かもしれないけど、知ってもらわないとね。こういうのも大事だって。

 

「ミカさん。今回の支援要請の目的を確認しよっか。白石さんから頼まれたのは?」

 

「悪戯してる子たちを懲らしめる、かな」

 

「それもするけど、その先もだよ」

 

「その、先?」

 

「ただ罰するだけじゃダメなの。その子がどうしてそんなことをしたのか、動機を聞いて、どうすればせずに済んだのか考えて、次はもうしない、ってしてあげないとね」

 

 憎しみの連鎖、ってわけじゃないけど、やっぱり怒られたままだと相手はそのままで止まってしまう。けれど、最後には相手が前を向いてあげられるように諭してあげれば、少しはいい方向へ歩いていける。

 

 私がカンナちゃんにそうされたように、ミカさんもこれからそうなっていくように。

 

 ミカさんは私の言葉に一瞬訝しげに目を細めたけど、本当に瞬きの間でいつもの軽い表情になる。

 

「ふーん。そっか、わかったよ。今はエリカちゃんに従うね」

 

「そうしてくれると嬉しいかな」

 

 納得は…してないかな。まだいい。

 

 よし、じゃあ気分を切り替えて早速ミレニアムの校舎周辺とかを歩いてみようかな。

 

「エリカちゃんは犯人の目星はついてるの?」

 

「いやついてないよ。ミカさんは」

 

「私もわかんないや。晄輪大祭が嫌な人っているの?」

 

「どうだろうね。ミレニアムだと運動が苦手な人も少なくはないし……運動会自体が苦手な人はいるかな」

 

「へー」

 

 運動が苦手で、嫌な人は否定しない。嫌なものはいやだもんね。だからといって、イベントを無茶苦茶にすることはいけないことだ。そうやって嫌いなものを排除しよう、ってやり続ければ行き着くところは碌でもないものになってしまう。

 

「…まぁ、地道に探せばいずれ出てくるよ」

 

「そういうものかな。じゃあ、どこいこっか」

 

 ミカさんに問われ、さてどこにまずは行ったものかと考える。今いるのはエンジニア部の部室前で、白石さんから追加でモモトークに送られてきた物品の盗難や汚損、一部破損被害などの情報から読み解けるものは多くない。せいぜい、どれも被害自体は白石さんの言う通り、僅かな手直しで済む大したものではなく、犯人も自制、というか、おっかなびっくりやってるようにも思えた。

 

 テロリストのような思想があるわけでもなく、愉快犯としても被害規模は小さい。エスカレートしていっても大事にはなりきらない。

 

 犯人はいたって普通の子だと思われる。おそらく自身が悪いことをしているという自覚もあることだろう。

 

 これが私の描いた犯人像だけど、これが厄介だ。こんな子、ミレニアムにはごまんといる。白石さんのようなマッドな人もいれば、チヒロちゃんのようなものすっごい良い子もいるし、和泉元さんのようなとんでもない人もいるけど、ミレニアムの子たちは基本的に大人しいし、ヴァルキューレの世話になる子は少ない。

 

 つまり、アテが全くない。安請け合いして大丈夫だったのだろうか。

 

「あのさ、エリカちゃん。もしアテがないならさ、私行ってみたいところがあるんだ」

 

「どこかな」

 

「ゲームセンター」

 

「えっと、なんで?」

 

 この流れで遊びに行こう、って言ったらちょっと副局長の私が出ちゃうぞ。

 

「悪いことする子って言えば不良だし、不良と言えばゲームセンターかなって」

 

 それはちょっと昔の漫画のやつ!って、ツッコミたくなる衝動を抑えた。

 

「ゲーセンかぁ。ちょっといるかわかんないね」

 

「けど、いるかもしれないでしょ」

 

 ね?っとおねだりするかのようなミカさんの表情と仕草に、私はウッとなってしまった。ナギサちゃんとは違う指導者としての力だよこれ。ミカさん、自分がべらぼうに可愛いことを理解しているんだね……魅力を最大限に生かしてるというか。

 

 お願いを聞いてあげたくなるけど、そこは堪えて——。

 

「ほら、いこうよっ!」

 

「え、ちょっ!?」

 

 堪える間もなく、ミカさんが私の手を引っ張って歩き出した。強引!さっきまでのお姫様みたいな雰囲気どこ!?いや力強すぎっ!

 

「ミカさん!どこのゲーセンに行こうって」

 

「ちゃんと事前に調べておいたからね!場所は知ってるよ!」

 

「やっぱりミカさん、自分が行きたいだけじゃ」

 

「捜査、のためだよ!」

 

「嘘でしょ絶対!」

 

「嘘じゃないもーん」

 

 

 

 

 

 

 

 ミカさんに引きずられるがままに私たちはミレニアムの市街地に向かい、途中で私も諦めてミカさんと歩いてゲームセンターへとやってきてしまった。ミレニアムの校舎敷地内から出て十数分の市街地内にあるゲームセンターで、大通りから少し入った場所だった。

 

「ここ?」

 

「うん。あのお店の前にあるのがUFOキャッチャーなんだね!」

 

「そうだけど…もしかして、ミカさんこういうところ初めて?」

 

「そうだよ。トリニティだとそんなに多くないし、私とか立場あったしさぁ」

 

 納得の理由だった。ミカさん、お嬢様だもんなぁ。ナギサちゃんみたいなザ・お嬢様、って感じとはまた違うけど、れっきとした聖園家の令嬢。ティーパーティーだったし、余計にこういうところにいけなかったのかな。

 

 はぁ…甘いよねぇ、私も。

 

「中、入ろうか」

 

「え?いいの?」

 

「捜査のために、って言ったのはミカさんでしょ」

 

「………そうだったね!」

 

 嬉しそう。まぁ、焦ったところでしょうがない。それに犯人がいる可能性は0%じゃないからね。ただ、ちょっと入る前に。

 

「あれ、入らないの」

 

「待って。そのまま入ると耳がさ」

 

「あ〜……エリカちゃん、耳がよく聞こえるんだ」

 

「そう。種族的にね」

 

 こんなゲームセンターにそのまま入ったら耳が大変なことになる。なので、私は耳を意識してペタンとする。

 

「……ちょっと可愛いかも」

 

「そりゃどうも」

 

 これ恥ずかしいからあんまりやりたくないけど、背に腹は変えられない。あとはポケットに入れていたニット帽を被る。こうすればだいぶマシだ。

 

「よし。いいよ」

 

 私が言えば、ミカさんは再びゲームセンターへの足を進めた。UFOキャッチャーをやりたそうだし、後でやってもらってもいいかもしれない。

 

 店内に入ると、筐体の音とかプレイしてる人の声が聞こえてやっぱりうるさい。そのままだと耳が一時的に聞こえなくなってしまうところだった。パトロールとかでしかゲームセンターは来たことがない。なので、私もこういうゲームに興味が全くない、とはいえない。

 

「すごいね!こんなにいっぱい色んなゲームがあるなんて!」

 

「そうだね。コインを落とすゲームとか、レースゲームとか」

 

「楽しそう。あれ何かな?」

 

「アレは……釣りのゲーム、かな。あんなのもあるんだね」

 

 ミカさんが指を指したのは竿が幾つかついてるテーブルみたいな筐体で、周りには付属の竿を操作してまるで釣りをしているように見えた。あぁ、やっぱり釣りだね。引き上げたらテーブルの上でホログラムの魚が吊り上がってる。

 

「……やりたい?」

 

「ううん。いいよ。見てるだけでも楽しそうだし」

 

 変に遠慮してるなミカさん。こういうとき、気の利いたことを言えればいいんだけど。ヴァルキューレ時代の同僚や部下を相手に私はそういうことできなかった。シャーレに来ても出来てない。小さい頃、まだ百鬼夜行に住んでいた頃、近所になんでも挑戦する有角の子がいたけど、あの子ぐらいの勢いがあればなぁ。

 

 店内を見渡す限り、怪しそうな雰囲気の子はいない。D.U.であればスケバンの1、2人は見るけど、ここでもミレニアムらしい治安の良さがあるようだ。

 

「それでミカさん。この店内のどこを重点的に見たいのかな?」

 

「そうだね。えーっと、こういう場所だと、格闘ゲーム?の周りに不良がたむろしてるってネットで見たよ」

 

「D.U.ならおかしくはないね。まぁ、見てみよっか」

 

 いわゆる格ゲーってやつだね。何度かそのゲームに絡んだ乱闘騒ぎで出動したことがあるかな。白熱のしすぎで喧嘩になっちゃう子が多いという印象。一生懸命になるのはいいけど、行き過ぎはよくないね。

 

 それにしても、さっきからチラチラとゲームのスコアボード、というものかな。それを見てると、リズムゲームとかダンスゲームの1位が全部UZQueenという名前に染まってる。数字も2位以下を大きく突き放してるし。クイーン、つまりは女王様。何者なんだろう。

 

「あのあたりかな?」

 

 ミカさんが格ゲーエリアを見つけたらしく、聞いてくる。私もミカさんの視線の先を追ってみれば、それらしき筐体が見えた。近づいてみよう。

 

「こなくそっ……!」

 

「わぁ…」

 

 近づいたら、いかにもな生徒がいた。ミカさんがまさか本当にいるとは思ってなかったのか思わず声を漏らしていた。後ろ姿だけど、龍の刺繍がされたスカジャンを着てる背が低い子。いやいや、こんなもはや古典的なまでの子D.U.でもいないけど!?

 

 その子はガチャガチャと必死に筐体のレバーやボタンを押していた。画面を遠目で見れば押されているようだ。

 

「………エリカちゃん、ほんとに不良いたよ」

 

「……いやいや、まだわからないって」

 

「そうかなぁ」

 

 まぁまぁ、見かけで人を判断しちゃいけない。よく観察してみよう。スカジャンの他に見えるのはなんかじゃらじゃらと鎖のついた二挺のサブマシンガン。金色のパーツが見えてスカジャンと合わせて装飾がされてるのがわかる。細かい傷は見えるけど、全体的には綺麗でこまめに手入れされてるね。

 

 髪はオレンジ寄りで、体格はわかってたけど初等部ぐらい、かな。けど、装備品のせいでなんだかただならぬ感じがする。迂闊なことはやめたほうがいいかもしれない。

 

「クソッ!……はぁ〜あ…負けちまったよ」

 

 試合は終わったようだ。目の前の子の負けらしい。最後まで粘っていたけど、相手の方が一枚上手だったようだ。

 

「んで?後ろでピーチクパーチク言ってるお前らはなんだ?」

 

 いきなりだった。振り向かずに目の前の子が話しかけてきた。ゾワッとする。なんて威圧感。思わず体が硬直する。ミカさん、と横目で見れば、流石に平気なようだ。

 

「あ、ごめんね?邪魔しちゃった?」

 

「人を不良だなんだと言われりゃな。おかげで負けちまったよ」

 

「それはごめんね。けどさ、君、すっごく不良っぽいし」

 

 み、ミカさーん!?待って!なんかこの子只者じゃないっぽいから!

 

「ま、否定はしない。アタシは確かに落第しかけてるし、ガラも悪いからな。けど、そっちはそっちで、いかにも箱入りお嬢サマって感じの声だ」

 

「へぇ」

 

 これまずくない?絶対これ以上はこの二人銃を抜くよね。ミカさん、手に持ってる銃のケースの留め具に触ってるし、目の前のスカジャン着た子も今にも振り向いて飛び掛かってきそう。

 

 こんな安い挑発に乗りあっちゃダメだって!

 

「ちょうど負けてイライラしてんだ。少しは楽しませてくれよ」

 

「あははっ、私とやるの?そのゲームのキャラみたいにしてあげよっか?」

 

 ちょっ——暴れちゃダメだって…!

 

 制止する間もなく二人は互いに銃を向け合って撃ち合いが始ま……らなかった。

 

 振り向いたスカジャンを着た子は私たちを見るなり一瞬で好戦的な表情から驚いたものになって、最終的にものすごく微妙な表情になる。しっかりと向けられた2つの銃口も即座に私たちの足元へ下がった。

 

「あれ?やらないの?」

 

「チッ………」

 

 スカジャンの下に着ているのは、ミニスカートタイプのメイド服。だいぶ崩してるけど、私はこの制服を見たことがある。結んでないけど青のリボンが特徴的だし、ちゃんと見れば頭にホワイトプリムもつけていた。

 

「というかメイドさん?」

 

 ミカさんもまさかスカジャンの下がメイド服だと思っていなかったのか、面食らって銃を下ろしていた。いや、私も気が付かなかった。気づかなかったけど、私は情報だけ彼女のことを知っていた。

 

「あなたは……C&Cの」

 

「そうだよ。お前は先生が言ってたシャーレの生徒だよな。そんで隣はトリニティの元生徒会長だろ」

 

「あれ?なんで知ってるの?」

 

「………ミスったな。なんでもいいだろ。アタシは美甘ネルだ」

 

 美甘ネルさん。C&Cの部長であり、先生の報告書ではあの剣崎さんや空崎さんにも匹敵するという実力者。学年的には私たちと同じだし、エージェントなだけあって、他校の状況にも詳しいのかな。思わず口滑らせたけど。

 

「私は聖園ミカ。ねぇねぇ、なんでスカジャンの下にメイド服?」

 

「メイド服は制服だよ。スカジャンはアタシのファッションだ」

 

 ものすっごく制服って言った時嫌そうな顔してたので、不本意なのかなメイド服なの。

 

「はぁ。さっきの話は聞かなかったことにしてやる。んで、なんでこんなところに居るんだ。あんたらは」

 

 銃を収めながら椅子の上で器用に胡座をかいた美甘さんは私たちに聞いてきた。戦う気はないらしい。どうみてもヤンキーなんだけど、C&Cの部長なのがわかっちゃう。いくらミカさんが元とはいえ、トリニティの生徒にミレニアムの生徒が襲い掛かったら自地区間の問題になっちゃうもんね。

 

 ミカさんも銃をケースにしまって美甘さんの質問に答えてくれた。

 

「私たちはね、晄輪大祭の準備を邪魔してるっていう生徒を探してるの」

 

「晄輪大祭を邪魔?………あぁ、カリンが言ってたやつか。大したことないって聞いたけどな」

 

「そうだね。けれど、白石さんから私たちシャーレにその犯人を見つけてほしい、って支援要請が入ったんだよ」

 

「んで、不良ならゲーセンってか?」

 

 察しが良すぎる。インテリヤンキーとでも言えばいいのかな。ものすごく地頭の良さを感じる子だ。そりゃそうだ。そもそもミレニアムの子だもんね。ミレニアムの中で落第って、言っても私たちヴァルキューレと比べればなぁ。

 

「あ、ごめん。別に美甘さんを疑ってたわけじゃないんだ。自己紹介遅れちゃったね。私は草鞋野エリカ」

 

「知ってるよ。先生から聞いてる。ははっ、悪戯したやつも不運だな。こんなバカみてぇに強い二人におっかけられるわけだ」

 

 美甘さんは褒めてるのかよくわからないけど、私たちの実力を知っているらしい。初対面のはずなのに……諜報にも長けてるのかな。本人が、ってわけじゃなくて彼女の部員たちがそうなのかもしれない。

 

「それで美甘さん。もしよければだけど、犯人とかに心当たりがあるなら教えてほしいんだ」

 

「知らね。というか、ミレニアム自体運動が好きなやつは多くないから誰でもやりかねないぞ」

 

 ものすごくどうでもいい、という感じで答えられてしまった。ミカさんが美甘さんの態度をちょっと解せないと思ったのか微妙な表情で話を続けた。

 

「えっと、よくわからないけど、ネルちゃんは——」

 

「次ちゃん付したらぶっ飛ばす」

 

「……あなたは学校の大事な行事を邪魔されて何とも思わないの?」

 

 この質問はミカさん自身にも問いかけてるようにも見えた。美甘さんはミカさんの質問を受けてつまらなそうな顔をした。

 

「まぁ本気で潰そうとしてるんならアタシらが何かしなきゃいけないと思うけどな。本気でやろうとは思っちゃいねぇだろ」

 

「本気……?」

 

「晄輪大祭を本当に潰してぇなら、とっくに騒ぎになってる。ここはミレニアムだぞ?その気になればふざけたモノが暴れ出すのが目に見えてる。機材にいたずらする程度じゃ、そいつらもただ、私は嫌だ、って言ってるだけだ」

 

 美甘さんの答えはその通りだな、って思った。だから白石さんもあぁいった頼み方をしたのかな。

 

「ただ、最初はそうでも人間、やってる内にヒートアップしちまうもんだ。そういう意味じゃ、今のうちにあんたらシャーレが来たのはそいつらにとって幸運かもな」

 

 手遅れになる前に、か。C&Cはそれこそ、ミレニアムにおけるSRTみたいな存在だ。もう取り返しがつかない、そうなった時に出てくる最後の手段であり、暴力装置。先生が見せてくれたゲーム開発部の支援要請に関する報告書内で語られた戦闘は熾烈なものだった。それでも、この目の前の小さな子の底は見えない。

 

 美甘さんは自分達が出る幕がないことを望んでいるのかもしれない。

 

 それに、やっているうちにヒートアップ、まさにミカさんがエデン条約事件で直面したことだ。引くに引けなくなり、行き着くところまで行ってしまう。

 

 ミカさんは私に、もしあの事件の最中関わっていたらクーデターは起こす前に失敗したかもしれない、と言っていた。あれは私に、止めて欲しかった、と言っていたのかもしれない。

 

「ま、そんなわけで、別にアタシたちはまだ、何もしない。納得できたか?」

 

「………うん」

 

「チッ。なんで他校の生徒会長様にこんな話をしなきゃならねぇんだ」

 

「美甘さん、お邪魔したね」

 

「あぁそうだな。だから、邪魔したついでにちょっとだけ付き合えよ」

 

 美甘さんが席から降りて立つと、私たちの間をすり抜けていく。ちっちゃいけど、じゃらじゃらとしたサブマシンガンの鎖やスカジャンのおかげで後ろ姿は漫画のようなヤンキーそのもの。

 

 付き合うって何かのゲームに?私たちはよくわからないけど、彼女の後に続いてゲームセンターの中を歩いて行った。

 

「あったあった。コイツならフェアだろ」

 

 美甘さんに案内されやってきたのはパンチングマシーン、って書かれたゲーム?の筐体だった。たぶんパンチをすればその衝撃というか威力が出て、そのスコアを競うゲームなのかな。ようは、力比べってことか。

 

「お前ら格ゲーとかそういうのはやったことなさそうだからな。これならシンプルだ。ちょっと遊んでけよ」

 

「えっと、エリカちゃん?」

 

「別にいいよ」

 

「アタシの気晴らしに付き合えって話だ。銃はここじゃ不味いからな。コイツなら問題ない」

 

 どうだ?と美甘さんは挑発的な笑みを見せてきた。なるほどなぁ〜銃じゃまずいからこれで、ってなんともわかりやすいし、この子すごい良い子じゃない?私たちがこういうところに縁がないと察して、自分がやり慣れてるゲーム以外を提案してきて。

 

 うーん、こんな格好だけどメイドさんなんだなぁ。

 

「おい、草鞋野。お前なんか変なこと考えてないか」

 

「いやいやそんなことないよ。美甘さんもC&Cなんだって」

 

「当たり前だろ。アタシはメイドとしても一流だ」

 

 思いっきり肯定されて逆にびっくりしちゃった。私が驚いたのを見て美甘さんがニヤリとしていた。うっ、この子本当にC&Cの部長さんなんだ。強さとかそういうのじゃなくて、お客さまへの気遣いで思い知らされるとは思ってもみなかった。

 

「聖園。コイツで勝負だ」

 

「いいけど、これなに?」

 

「簡単だ。なぐりゃいいんだよ。この赤いところを…なっ!」

 

 流れるような動作で学生証をかざして美甘さんは筐体に備え付けられた赤い的の部分を殴った。ズドン!とすごい音がしたけどマシンはビクともしない。流石のミレニアム製。的の上にある半透明なモニターには4563と表示されていた。どういう基準で採点されてるんだろう。聞いてみよう。

 

「これどういう基準なの?」

 

「わかんね。色々計算してんだろうけど、とにかく威力が出れば点数が出る。最高で9999まではカウントできるらしいぞ」

 

「へぇ。あなたがこのゲームのチャンピオンなの?」

 

 ミカさんが美甘さんに聞くと、途端に彼女はぐっ、という顔をする。あ、違うんだ。美甘さんの点数がスコアボードに記録され、流れてきたランキングでは美甘さんの記録は2位で、1位はALICEという子みたいだ。点数は7800点。いやいや、どういう力?美甘さんのパンチも凄まじい強さだったけど。

 

「このアリス、っていう子がチャンピオン?」

 

「そうだよ。まぁいいだろ、次はお前らの番だ」

 

 あ、私もやるんだね。一応、ミカさんはシャーレ用の生徒証渡してるので、止められてるクレジット利用はできる。

 

「ミカさん、どうする?」

 

「先にやっていいよ」

 

「じゃ、先にやるね」

 

 こういうの初めてだなぁ。ちょっとワクワクする。それにしても、アリスってまさか天童さんなのかな。そうだろうね。あのレールガンを軽々と振り回すほどの腕力、純粋な力に変換したら高得点出るよね。

 

「よし、せー……のっ!」

 

 1クレジット投入して、私は全力で赤い的を殴った。殴ったあとに返ってくる衝撃は少なくて腕を傷めずに済むし、ミレニアムの技術力を感じる。スコアはすぐに出て、3640と表示された。

 

「お前意外と腕力ないな」

 

「そうだね。私は体術とかで相手の体重利用することも多いし」

 

 投擲も純粋な筋力だけじゃないからね。技術で飛ばしてるし。まぁこんなものだと思う。

 

「初めてやったけど、なんかスカッとするかも」

 

「そうだろ?アタシもよく負けた時はこいつをぶん殴ってる」

 

 ストレス発散の方法としてボクシングのトレーニングをしてた子も知ってるので、まぁ悪くはないと思う。体の力を思いっきり使ったあとの脱力って気持ちいいし。

 

「次はミカさんだね」

 

「オッケー。じゃ、やってみるね」

 

 ミカさんの番になって、彼女も学生証を筐体のパネルにかざした。ミカさん、線が細くて全然力がないように見えるけど、私を投げ飛ばしたり、手榴弾を軽く弾いたり、銃弾を簡単に手で掴めたりでものすごい力が強いはず。数値化されるとどうなっちゃうんだろう。

 

「そーれ☆」

 

 軽いグーパンチというか、明らかに女の子な殴り方だった。でも結果は全く意味不明だった。ガゴォン!という音と共に、筐体の的部分がべっこり凹んだ。私も美甘さんも思わず目を点にしてしまった。

 

「は………?」

 

 美甘さんが声を漏らす。しょうがないと思う。私もまさかここまで腕力が強いとは思ってもみなかった。こんなとんでもない衝撃を受けてしまえば筐体はダメだろう、って思えばスコア表示は動いていた。最終的に表示されたのは点数じゃなくて、意味不明な文字の羅列だった。

 

「あれ……なんか、文字出ちゃった……」

 

「も、文字化けしてんだよ。バグってやがる」

 

「もしかして、壊しちゃった……?」

 

 ミカさんがあたふたし出した。こ、これは不慮の事故だよ。とにかく店員さんを呼んで修理費をシャーレに……。

 

 私もどうしようかと思ってたら最終的に、ビーッと機械音が鳴って、スコアが9999と表示されてミカさんの成績が確定していた。よ、よかった、壊れたわけじゃなくて処理に時間がかかってたみたいだ。

 

「カンスト、だと」

 

「よかったぁ。壊れたわけじゃなかったんだね?これ、私の勝ちでいいんだよね」

 

「そうだよ。はぁ、意味わかんねぇ。その力はどっから出てんだ」

 

「軽く殴っただけだよ」

 

 今ので軽く…なんだろうね、ほんとに。たぶん本気で殴ったら機械が吹き飛んでたんじゃないだろうか。このカンストは計測不能、ってことだね。

 

「まぁいいや。スカッとするだろ」

 

「……そうだね。ちょっとはしたかも」

 

「だろ?じゃあ、アタシはまた対戦に戻るから。あんたらは仕事、頑張れよ」

 

「またね〜」

 

 美甘さんはまた格ゲーをするのか元来た道を戻って行った。私たちはその場に残されたけど、どうしようかな。今更だけど、このゲームセンター、今は生徒の数がかなり少ない。もしかしなくても、晄輪大祭が近いからかな。

 

「ミカさん、とりあえずここを出ようか」

 

 ミカさんに話かけると、彼女は美甘さんのほうをジッと見ていた。何か言いたいことがあるのかな。

 

「ミカさん?」

 

「え、あっ、何かな?エリカちゃん」

 

「ここには探してる生徒、いなさそうだよ。次の場所に行かないと」

 

「そうだね。じゃあ次はどこにいこっか」

 

 美甘さんとの出会いで何か思うところがあったのかな。わからない。何にせよ、捜査に戻らないと。

 

 

 

 

 

 

 

 ミカたちが去ったあと、美甘ネルは先ほどまで遊んでいた筐体にはすぐ戻らず、店内の別の場所にある両替機にやってきていた。先ほどまで遊んでいたパンチングマシーンのように学生証を直接使うものもあれば、格ゲー筐体のようにお金を投入するものもあるためだ。

 

「(ったく、先生も何が傷心の子がくるからよろしくね、だ。アタシは保母さんじゃないんだぞ)」

 

 ネルはエリカとミカが、ミレニアムにやってくることを事前に先生から朝電話を受け、知らされていた。そして、もし出会って様子を見て、困っていたら助けてほしいとも言われていた。

 

 ネル——を含むミレニアムの上層部はエデン条約事件の詳細をある程度は知っている。先の事件の際にミレニアムとトリニティは、特異現象捜査部との繋がりから独自のパイプを繋ぐことに成功していた。ゆえに、ネルはミカが何を起こしたのかを知っている。

 

「よくわかんねぇな、政治ってもんは」

 

 じゃらじゃらと出てきた小銭を財布に入れながらネルはため息をつきつつ吐き捨てた。そういった話が理解できないわけではない。だが、理解でき、考えられても手をつけるかと言えばネルはそうしなかった。

 

「それにしては親身になっていましたね」

 

「いっ…!?」

 

 危うく財布をネルは取り落としそうになった。慌ててネルが横を見れば、そこにいたのは室笠アカネだった。彼女はいつもと変わらないメイド服姿に眼鏡をかけ、ゲーム機の光でメガネのレンズは白く光っていた。

 

「ネル先輩。そんな仕事を抜け出してパチンコに興じるおじさんじゃないんですから」

 

「お前いつから」

 

「最初からいましたよ。投げキャラ、苦手なんですね」

 

「対面お前かよ!」

 

 ネルはついさっきまで対戦していたのはアカネだと知り再戦を挑もうとしたが、明らかにアカネはネルを連れ戻しに来ており、こうなったアカネをネルは止めることができない。下手をすればゲームセンターが木っ端微塵になってしまうからだ。

 

「はぁ。あぁいうのはお前が得意だろ」

 

「ネル先輩もメイドじゃありませんか。あぁいったお嬢様のお相手はできますでしょう?」

 

 できない、と否定したいが、否定できないのがネルには痛いところだった。ただのコスプレのはずがC&Cは仮初であるメイド部としての能力も相当なものに現在はなってしまっている。ネル自身も、料理に関してはピカイチだった。

 

「それにしても、アレがそんな学校を転覆させるようなタマには見えねぇよ」

 

「ですが、記録としてはそのようになっています」

 

「よくわからねぇ。嫌なら嫌って言っちまえばいいだけなのにな。あれだけの力があんならよ」

 

「誰しもが先輩のようにはなれないですよ」

 

「アタシは別に大したことはしてない。ただ、自分がそうしたいからそうしてるだけだよ」

 

「ふふっ、それもそうですね」

 

 ネルはゲームに戻ることを諦めて、財布を制服に仕舞った。

 

「ネル先輩。先輩はもし、C&Cの誰かが裏切ったらどう思いますか?」

 

「あ?なんだよそんな藪から棒に」

 

「いえ、ふと気になったものですから」

 

 ネルはアカネの質問の意図が読めなかった。アカネの様子は普段と変わらない柔和なもので、せいぜいエデン条約事件のことを考えて発言したものだとネルは思うしかなかった。

 

「ぶん殴る。んで連れ戻す」

 

「……え?」

 

「だから、ぶん殴って連れ戻す。話はあとですりゃいいからな」

 

「乱暴すぎません…?」

 

「知るかよ。けど、アタシは嫌だからそうする。それだけのことだっつの」

 

 しがらみなどクソ食らえだとネルは遠い世界の政治の話を頭の中から蹴り飛ばしつつ、ゲームセンターの出口へと歩みを進めて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 目の前を桜色の髪が揺れ、眼前の敵を屠っていく。暴走するアンドロイド市民だったものや、無茶苦茶な動きで自爆さえしかけてくるドローン兵器。よくもまぁ、こんな場所に前はゲーム開発部と忍び込んだと思う。

 

 ミレニアムの廃墟。打ち捨てられた過去の技研都市。私がこんなところにまた来ているのはエリちゃんたちに言えない、正体不明の信号がシッテムの箱に届いたから。救難信号とも違う、けれども生徒が送ったとも思えない、おかしな信号。けれども、誰かが私を呼んでいることだけはわかった。

 

 その信号が発せられたのは以前、アリスを見つけたあの空間。椅子だけがポツンと置かれた、まるで玉座のような神秘的な場所。先導してくれるのは私が大人のカードで呼び出した生徒だった。

 

『先生、間もなく予定ポイントです!』

 

「ありがとうアロナ。引き続きお願いね!」

 

『はい!先生の身体はこのアロナが全力で守ります!』

 

 アロナはあのエデン条約事件で私が大怪我したのを自分のせいだと思って、ちょっと最近張り切り過ぎている。空回りしちゃわないかちょっと心配だ。現に、明らかに私へ飛んでくる流れ弾を阻む障壁がいつもより強固になってる。シッテムの箱の電池が切れちゃったら大変なことになるので、充電用のバッテリーを持ってきてよかった。

 

 程なくして、予定ポイントへと到達する。アリスが座っていた広間はあの時と変わらない様子だ。

 

「——ありがとう、セリナ」

 

『————』

 

 お礼を告げて、ここまで力を貸してくれた生徒を帰す。目の前で❨セリナ”は一瞬私に振り返り微笑んだあと、ふわりと解けるように桜色に弾けて消えて行った。大人のカードで呼び出せる生徒たちは何も語らない。意志もあるかもわからない。そして、過去現在未来、どこにいる生徒なのかもわからない。

 

 その中で、指定せずに生徒募集を行うとセリナは高確率でやってきてくれて、かつ他の生徒よりも意識があるように思えた。あのように帰る時に微笑むのはセリナだけ。まぁ、私の知ってるセリナも不思議な子だし、彼女は特別なのかもしれない。

 

「クククッ。てっきり、草鞋野さんを呼び出しているのかと思えば、そうではないのですね」

 

「嫌な予感ほど当たって困っちゃうな。あんたなの?信号を飛ばしてきたのは」

 

「えぇ」

 

 アリスの玉座、その先の暗がりからヤツは出てきた。

 

 素人目で見てもわかるお高い黒いスーツに身を包んでスラッとした体つき。顔がのっぺらぼうのような、稲妻が走るかのような、よくわからないものじゃなければかなりいい男だな、と思っちゃう。

 

 ゲマトリア。私とは別の、このキヴォトスにいる外来の大人。そのうちの一人である黒服。

 

「忠告を聞き入れて頂いているようで嬉しいです。鷲見セリナですか。彼女の神秘もなかなかのものであるとは思いますが、あなたへかける負担は少ない部類でしょう」

 

「別にあんたの言葉に従ってるわけじゃないよ。呼べばセリナは来てくれるから」

 

「そうですか。それにしても、何故一番近しい生徒である草鞋野エリカを呼ばないのですか?」

 

 黒服が何故かしつこく聞いてくる。エリちゃんをなんで呼ばないかって?呼ばないんじゃないんだよなぁ。

 

「エリカは呼ばないんじゃない。呼べない、んだよ」

 

「ほぉ……それはおかしなことです。大人のカードには不可能はないはずですが」

 

「なに?アンタ私じゃなくてあの子に用があったの?」

 

「期待はしていませんでしたよ」

 

 エリちゃんの二重人格説はホシノやヒマリからもこっそり報告は受けた。ヘイローが輝いていたことも聞いた。

 

「あの子を呼ぼうとしてもこのカードは応えない。エリカを呼んでも別の子が来るからね」

 

「誰です?」

 

「答える必要ある?」

 

「ごもっともです。私としたことが、好奇心に身を任せすぎましたね」

 

 黒服の目的はエリちゃん。これでハッキリした。相変わらずこいつのやりたいことは変わらないらしい。私も詳しくは理解できていない。アロナと話しても結局よくわからずじまい。それでも、黒服がしたいことはわかる。

 

「ホシノ、その次はエリちゃんってこと?」

 

「それはわかりません。しかし、注目度の高い生徒であるということは言っておきましょう」

 

 これでよく私と同志に、なんて言えたものだと思うよ、本当に。とりあえず、ゲマトリアのことはまだエリちゃんにはちゃんとは伝えていないけど、そろそろ話さなくてはいけないのかもしれない。

 

 私たちシャーレは正義のヒーローじゃない、でも、明確な敵がいるということを。

 

「いい加減本題に入ってくれない?こっちはあんたみたいに暇じゃないの」

 

「久しぶりに会えて、つい話し込んでしまいました。いけませんね」

 

 どこまで本気なのかわからない。なんでか黒服や、マエストロから私は気に入られている。まともなイケメンに好かれないのか私は。こんな怪人に好きになられても困る。ともかく、本題に黒服は入ってくれるみたいだった。

 

「先生をここにお呼びしたのは、謝罪とお礼、警告です」

 

「何…?」

 

「まずは謝罪から。先のトリニティでの騒動……あなた自身に怪我を負わせたこと、謝罪しましょう」

 

「は?なに?アレまさかあんたらが仕向けたの?」

 

「いいえ、誓ってそれはありません。ですが、ゲマトリアの者が干渉したものです」

 

 意味わからん。大人がアリウスを動かしてるとは思ってたけど、まさかゲマトリアが背後にいるとまでは思ってなかった。

 

「そして、お礼を。反転せず、そのまま顕現した神秘を見せてくれたこと。こちらもゲマトリアを代表して感謝しましょう」

 

 黒服は本当に懲りてないらしい。エリちゃんに手を出せば今度こそこいつをぶん殴ってしまいそうだ。そして、エリちゃんの身に何が起きているのかもうっすら見当がつく。異様に、シャーレへ来た直後より強くなっている理由も。

 

「次に警告を。デカグラマトン。かの者を探っている者たちがいるようですが……手を引くべきでしょう」

 

 こいつ、ヒマリたちのことを言ってるな。

 

「なに?自分の研究成果が調べられんのが嫌なの」

 

「いいえ、先生。かの者へたどり着いたところで、あなた方は何も得るものはありません」

 

「無駄足だって?」

 

「そう言っています」

 

 本気で言ってるみたいだけど、何が?まるで結末を知っている映画を薦めないような言い方。余計に気になるんだよなぁそういうの。やっぱりただ手を出すな、って言ってるのか。

 

「今日の要件はそれだけです」

 

「こんなの電話一本すればいいでしょ」

 

「着信拒否にされてしまっては、こちらもどうしようもありません。手紙では、彼女の目に触れるでしょう」

 

 変に気を利かせてきやがる。

 

 まぁいい。話がそれだけなら、私はもう帰ろう。大人のカードをまた取り出して、私は無作為に誰かを呼ぶ。そうすれば、現れたのはセリナではなく、金髪の生徒。ハンドガンを手にし、ヴァルキューレの制服の上から花屋のエプロンをかけた子。

 

 名前も知らない。だけど、キサキから聞いた話でようやく誰なのかはわかった。

 

 もうこの世にいない生徒。本来は呼べないはずなのに、何故か呼べる。

 

 連邦生徒会の生徒名簿とは別の、シッテムの箱の生徒名簿には本来エリちゃんのことが載っている欄がバグってしまってちゃんとした情報が表示されない。

 

「なるほど……クククッ。これは……先生、最後に面白いものを見せてくれましたね」

 

「見世物じゃないよ」

 

「失礼。しかし、そうですか……あなたの忠犬は本当に——一体、誰なのでしょうね?」

 

「あの子は草鞋野エリカ。それ以上でもそれ以下でもないよ。シャーレでみんなのために一生懸命な、大切な私の生徒だ」

 

 過去現在未来、その中で大人のカードが呼べないものがいくつかある。

 

 それは、死者。

 

 この世に存在しないものは、呼べない。

 

「あの時は先を越されてしまいましたから、次は少し、あなたの先を行ってみたいものです。先生」

 

「好きにしろ」

 

 黒服がアリスの座っていた椅子を撫でていた。こいつがアリスに手を出そうとしてるなんて簡単に予想できた。私が先に見つけられて、本当によかったと思う。

 

「あぁそうだ」

 

「なんでしょうか、先生」

 

「私はいいけど、次に生徒へ手を出したらその高そうなスーツごと、あんたを台無しにしてやっから」

 

「それは怖い。次に会う時はもう少し、話をできるといいですね」

 

「私はやだよ」

 

 黒服に背を向けて、私は元来た道を歩み出す。名前も知らない金髪の生徒はよく見慣れた動きで私の前を駆けて行った。

 

 




次回はまた未定です。

ネルはいいお母ちゃんになれる気がする。
ちなみに黒服は先生とお喋りしたかっただけです。
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