頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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あけましておめでとうございます。
今年も本作をよろしくお願いいたします。
年始の時間を作れたので投下します。



Area-06「ミレニアムタワー #ヴェリタス #ゲーム開発部 #聞き込み」

 ミレニアムでの捜査1日目は特に収穫がなく終わってしまった。あのゲーセンの後はふらふらと歩くだけになってしまって、日が暮れる前にシャーレに戻り、ミカさんとニコちゃんのお店から出前をとってシャーレで一晩過ごした。

 

 後から先生も戻ってきてどこに行ったかはわからないけどお土産のケーキを買ってきてくれていた。コーヒーを二人に淹れたらコーヒー派じゃないミカさんも美味しいって褒めてくれたのはかなり嬉しい。沼に沈めてあげたいね…コーヒーの。

 

 というわけで、また私たちはミレニアムへと朝からやってきていた。

 

 ミレニアムでホテルとればいいって?予算ないんです。

 

「ん〜、朝から電車は疲れるね〜」

 

「そうかな?」

 

「疲れるよ〜。だってお客さんいっぱいだし」

 

 ギチギチに詰め込まれたわけではなくて、満席程度だったので私は大して気にしなかったけど、ミカさんは嫌だったようだ。

 

「それにしても、なんで急に私の制服着たいってなったの」

 

「ナギちゃんも着てたらしいし、着心地いいのかなって」

 

 そして何故か今の聖園さんはナギサちゃんみたいに私の制服を着ていた。体格的にはミカさんの方が実は若干小さいので、胸元あたり大丈夫かなと思ったけど、なんとかなっていた。まぁもう、当分は着ることないし、今ミカさんが着ちゃったやつは胸あたりが伸びてもしょうがない。

 

 なんというか、ミカさんの気質のせいもあってか、ポニテにヴァルキューレ安全局の帽子を被ってもコスプレ感が拭えない。ナギサちゃんが着た時はあんなに後輩っぽかったのに。

 

「ナギサちゃんが着てたのはやむにやまれずだよ。似合ってはいたけどね」

 

「私は?」

 

「………まぁ、可愛いんじゃないかな」

 

「もう、ひどーい。それ似合ってないってことだよね」

 

 うっ。いや、元より私たち安全局の制服は白が多いからミカさんの普段の色合いと合ってはいるんだよ。

 

「いやいや、そんなことないよ。で、肝心の着心地は?」

 

「話逸らしたでしょ……着心地は悪くない、かな?動きやすい感じ」

 

「そりゃね。動くための制服だから」

 

 納得はされてないけど、とりあえず話を強引に逸らすことには成功した。ファッションに関するコメントはあんまり期待しないでほしい……私、普段着なんてほぼないからね…制服のストックがたくさんある時点で察して。

 

「それでエリカちゃん、今日はどうするの?」

 

「どうするもこうするも、昨日と同じだよ」

 

「また聞き込み?」

 

「今はそれしかないよ」

 

 といっても、ミカさんの気持ちはわからなくもない。昨日1日でわかったけど、たぶんパトロール的に回って聞き込みをしても犯人には辿り着けない。おそらくは張り込みが一番効果的だ。昨日だけでも数人は晄輪大祭が嫌だという人がいて、容疑者が全くもって絞り込めない。

 

 それに、美甘さんの言う通りでまだ嫌がらせレベルだからか嫌がらせを受けた現場に遺留品がない。鑑識の心得は流石にないから、ちょっとどうしようもない。

 

「今日ダメだったら別の方法を考えよう」

 

「わかったよ」

 

 じゃあ早速ミレニアムの校舎内へ、と思ったところで携帯に電話がかかってきた。誰からかと思えば、チヒロちゃんからだった。珍しい。チヒロちゃんから電話なんて。エデン条約事件の時以来かな。

 

「はい、草鞋野です」

 

『おはよう、エリカ。今大丈夫?』

 

「うん、大丈夫だよ」

 

『ウタハから聞いたけど、晄輪大祭の件でこっちにきてるんでしょ』

 

「そうだよ」

 

『それなら、ちょっとウチの…ヴェリタスの部室に来て欲しい。捜査に使えそうな情報が幾つかあるから』

 

「え?ほんと?助かるよ〜」

 

 昨日の今日でチヒロちゃんがもう援護を用意してくれていた。流石すぎる。私はチヒロちゃんにすぐ行く旨を伝えて、電話を切った。

 

「エリカちゃん、今のは?」

 

「友達から。ミレニアムの子なんだけど、捜査に役立ちそうな情報あるってさ」

 

「あれ?でも、この支援要請ってあの白石さんっていう人以外に話したっけ?」

 

「今電話した子は白石さんの同級生だし、関わりもあるから聞いたんじゃないかな」

 

 チヒロちゃんと白石さんは友達ってことは聞いたことがあるので、納得だし、チヒロちゃんは私が行き詰まった時、タイミングが合えば助けてくれるんだよね。申し訳ないと思いつつも、心強い。

 

 ハルナを助けたあの産地偽装エビ事件も、チヒロちゃんが正規の手段で色々と情報を探ってくれてたりした。あのときはチヒロちゃんよりもハルナの方が当たりを引くのが早かったけど。

 

「今からその子の部活がある部室行くけど、いいかな。ミカさん」

 

「いいよ。聞き込みでまた終わるのも嫌だもん」

 

「そうだね。期待していいと思うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェリタスの部室があるミレニアムタワー。前に来た時と同じくシャーレの特権でセキュリティをパスして中に入った私とミカさんは目的の部室がある階まで上がった。ここには以前、先生が支援要請を受けたゲーム開発部もあるけど、私はまだ一度も足を運んでないんだよね。

 

「すごいねー、敷地内にこんなビルまで立ってるなんて」

 

「ほんとね」

 

「なんでなんだろう。空間の有効利用ってこと?」

 

「どういうことかな、ミカさん」

 

「え?横より縦の方が効率がいいかなって」

 

「……それもそうだね」

 

 言われてみれば当たり前のこと。トリニティにいた時は景観保護の条例みたいなのがあるのをチラッと聞いたので、ミレニアムみたいに学校の敷地内にガンガン高層ビルを建てていくのは難しい。

 

「ミカさんはこういう風にトリニティも現代的になってほしいの?」

 

「別に。ただ、便利にしてもいいところはしても良いと思うんだよね。ま、私はそんなこと考えなくていい立場になったけど」

 

「気を悪くしたらごめんね?ミカさんって、ティーパーティーでどういう役割だったの?」

 

「お茶飲んでお菓子食べてお話してただけだよ。難しいことはナギちゃんに任せてたし」

 

 ふふふっ、と笑うミカさん。絶対嘘を言ってる。まるで神輿——アイドル的な象徴のような子に見えて、ミカさんは間違いなく生徒会長に相応しい子なんだと思う。改めて感じるけど、ナギサちゃんとは別方向に突出した指導者としての才覚がある。

 

 そんな彼女がこうなってしまったのは、アリウスに植え付けられた憎しみを見誤ったからなのかな。……本物の憎悪というものはあまりにも昏く、深く、激しいもので、悪く言えば箱入りのミカさんにそれを推し量れというのは不可能に近い。

 

 けど、今、ミカさんは過ちを犯しつつも前に進み、知ることが出来たことがたくさんある。

 

 罪を清算し、再び彼女が表舞台に立てたら……うん。やっぱりこの支援要請の間に、ミカさんが少しでも前を向けるようになってほしい。

 

「変なこと聞いちゃったね」

 

「ま、簡単なことは私も対応してたよ」

 

「あー…紅茶風呂の回数増やして欲しいとかそういう陳情?」

 

「そうそう。あれ、高いからあんまりやりすぎちゃうとよくないんだよね。そっか、エリカちゃんもナギちゃんと一緒にやってたから知ってるんだ」

 

 一応トリニティの中でも年次予算が組まれてるので紅茶風呂という、あの贅の限りを尽くした温水プールのような何かは年内でできる回数が決まってたりする。その回数を増やして欲しい、という陳情が私がいた僅かな期間でもあった。あんなの週の半分もやったら予算が下半期を前に尽きる。それでも下半期前まではやれる財力に私は驚いたけど。

 

「なんかエリカちゃん顔がこわばってるけど」

 

「ごめん……予算のこと思い出したらヴァルキューレ時代のこととか、今の現状とか浮かんでイライラしてきた」

 

 安全局時代も装備更新できないし、今のシャーレも予算絞られてるからあんなボロボロの車を摑まされたし、本当になんとかしてほしい。ミカさんの分の新しい学生証と雀の涙とはいえ、準備資金を用意してくれたのは嬉しいけど。

 

「あ、あはは……大変だね」

 

「ミカさんも他人事じゃないからね。このままだとミカさんのデスクの上に今年度の間はパソコンないこともありえるから」

 

「えっ」

 

 ふふっ、そもそもシャーレの中で飲めるコーヒーやらなんやらは全部私と先生の自腹だ。なんでシャーレが貧乏かって?だって設立した連邦生徒会長いないから。たぶんシャーレの運用諸々の引き継ぎがされてないっぽい。まだ一年目だからいいけど、これから大変だよ。

 

 ミカさんに今のシャーレの懐事情を理解してもらったところで、ちょうどエレベーターが止まった。外へ出ると、廊下は静かでまばらに部室の出入りをしている生徒がいるぐらいだ。

 

「エリカちゃん、こんな朝からミレニアムは部活動してるの」

 

「ほぼ研究職みたいな子もいるし、ミレニアムって年に一回か二回、開発賞的なのあったはずだよ」

 

「すごいね。だから技術力が高いのかな」

 

「日々研鑽ってことで、そういうことかも。ミカさん」

 

 ずっと研究室に缶詰、ってことも少なくはないはず。私はオフィスの中でのデスクワーク、やれるけどそこまで好きじゃないから、すごいと思うんだよね。

 

 少し廊下を歩けばヴェリタスの部室の扉が見えてくる。扉に貼られてる札、グラフィティっぽい感じで部名が書かれていて、これは確かマキちゃんだったかな。作ったの。扉をノックすると数秒後にガチャリと開いた。

 

「はーい!どちら様?」

 

 出てきたのは赤毛にお団子頭が特徴的な小塗マキちゃん。さっきの札を作った子。

 

「——げっ!?安全局の狛犬!?」

 

 そして、温泉開発部よりはひどくないけどあんまりいい出会い方をしなかった。彼女が中学生の頃、無許可で壁に落書き、もといグラフィティを描いてるところを注意して戦ったことがある上に、何度か捕まえてる。

 

 なので、彼女がミレニアム高等部、そしてヴェリタスに入ってチヒロちゃんの後輩になったと知った時はチヒロちゃんがしばらくグラフィティ禁止にしてたんだよね。今はもう止めるのやめてるけど。

 

「……元気そうだな。小塗」

 

「ひっ」

 

「なんてね。久しぶりマキちゃん」

 

 といっても過去は過去。今の私はシャーレだし、出会い頭に「げっ」なんて言われて生意気な後輩だなぁ、って思っても微笑ましく感じるぐらいだ。マキちゃんは若干引き攣った笑顔を見せていた。

 

「ひ、久しぶりです。エリカ先輩。そ、それと隣の警察の人は……?」

 

「こっちは聖園ミカさん。安全局の制服だけどシャーレの子だから警察じゃないよ」

 

「ほっ……」

 

 なんでホッとするのかは気にしないでおこう。

 

 私がヴェリタスを捕まえに来たわけじゃないとわかると、マキちゃん「どうぞ」と中に通してくれた。私とミカさんが中に入ると、室内は換気がしっかりされていても若干のむわっとした感じと、仄かにエナジードリンクの匂いが漂っていた。

 

「なにこの臭い……」

 

 ミカさんはダメだったらしい。エナドリはトリニティであんまり見かけなかったもんね。部室内の自席に座ってるチヒロちゃんがこちらに気がついて立ち上がると、歩み寄ってきた。

 

「来たね。エリカ」

 

「お待たせ」

 

「それとそっちは……聖園ミカさん、だっけ?」

 

「そうだけど、初めてだよね?どちら様?」

 

「私は各務チヒロ。このヴェリタスの副部長をやってる。あなたのことはウタハから聞いたよ」

 

「ふーん、そうなんだ。ここすごいね、こんなにたくさんモニターとかあって。近未来だね」

 

「トリニティだとあまり見ないかもしれないけど、ミレニアムだと珍しい設備じゃないよ。とりあえず、私の席まで来てくれる?二人とも」

 

 チヒロちゃんが言うので私たちはチヒロちゃんの席へと向かう。部室内にいる部員はどうやらマキちゃんだけらしく、残りの二人はどこかに行っていないらしい。

 

「チヒロちゃん、音瀬さんと小鈎さんは」

 

「二人は晄輪大祭の準備で手伝いに行かせてる。会場内の案内用ドローンとかのね」

 

「なるほど。チヒロちゃんとマキちゃんは何してたの?」

 

「私たちは私たちで、晄輪大祭に参加する全学園の生徒たちの名簿作成。すぐ終わるけどね」

 

「なんかごめん。忙しいところに」

 

「いいよ。その作業の途中でちょっと怪しそうなの見つけただけだから」

 

 チヒロちゃんが席に着いて、私たちはその後ろから画面を見た。画面に映っていたのは何人かの生徒の名前だった。

 

「この子たちはなんなのかな?」

 

 ミカさんが聞くと、チヒロちゃんは画面を見ながら答えてくれた。

 

「未だに参加競技か、裏方での役割の希望を出してなかったりしていて、かつ、保管庫の機材への悪戯がされた時間帯のカメラに映っていた生徒。試しに絞ったら出てきた」

 

「つまりこの子たちが犯人ってこと?」

 

「待って、ミカさん。まだそう決めるのは早いかな。けれど、怪しいものは怪しいね」

 

 チヒロちゃんはあくまで怪しい、って言ってるだけなので偶然ということもありえる。人数は4、5人ってところかな。

 

「チヒロちゃん。それぞれがどこの部活とかは抑えてる?」

 

「もちろん。一人目から読み上げるから。メモして」

 

「聖園、メモ」

 

「え」

 

「あ」

 

 あ——じゃないよ私!学習して!?誰だよミカさんのことコスプレっぽいとか失礼なこと考えたのは?!私だよっ!

 

「め、メモするね!チヒロちゃんお願い!」

 

「………草鞋野副局長さん」

 

「な、なにかな」

 

 ちらりと、チヒロちゃんがこちらを見る。なんか不機嫌そう!出会った頃みたいな苗字呼びだし!

 

「はぁ……まぁいいけど」

 

 い、いいのかな。ミカさんの方を見れば少し固まっていた。

 

「わーお……これがナギちゃんが言ってた……すごいね。背筋がピーンッてしちゃいそう」

 

「ごめんね?つい癖で」

 

「いいよ別に。エリカちゃんも人を使う立場だったんでしょ?長いことやってると抜けないよね」

 

 よくないから本当に気をつけないと。生徒手帳を開いて、私はメモを取る準備を整えた。そうすればチヒロちゃんが一人目から順にプロフィールを言ってくれる。二人目、三人目、と読み上げて四人目で聞き覚えのある名前が出てきた。

 

「四人目。一年の才羽ミドリ」

 

「え!?ミドが!?」

 

 マキちゃんが突如席から立ち上がってこっちに駆け寄ってきた。この子確かゲーム開発部の子だよね?画面に映る写真を見ると大人しそうな子って印象だけど。マキちゃんは同級生で、あだ名で呼んでるぐらいだし、仲いいのかな?

 

「副部長、嘘でしょ!?」

 

「だから、フィルタリングの結果だから」

 

「落ち着いて、マキちゃん。何もこれから私たちが一人一人捕まえるわけじゃないから。私がシャーレなのはもう知ってるでしょ?」

 

「そうだけど……」

 

 そのあとの五人目は知らない子だった。よし、とりあえずこの5人とまずは接触してみようかな。私はメモ帳を閉じて、制服のポケットに仕舞った。

 

「ありがと、チヒロちゃん。とりあえず、まずはこの子たちに接触してみようと思う」

 

「どういたしまして。何かあったらまた言って」

 

「うん。このお礼はまた、精神的に」

 

「そう言っていつもしっかりお礼するくせに」

 

 ここでの目的は達したので、私は部屋から出ようとする。ミカさんも後に続いた。部室を出て扉を閉めると、ミカさんは大きく息を吐いていた。

 

「はぁ……」

 

「大丈夫?」

 

「普段かがないような臭いでお鼻がびっくりしちゃったみたい」

 

「外で待っててもらえばよかったかな」

 

「ううん、大丈夫だよ。そういえば、あのメガネかけたチヒロちゃんだっけ?なんかほんのりエリカちゃんと同じ香水の香りしたけど」

 

 あ、そうなんだ。ってことはチヒロちゃん徹夜明け?

 

「そりゃそうだよ。チヒロちゃんにも私と同じ香水渡してるからね」

 

 なんかものすごい微妙な顔をミカさんがしてる。

 

「な、なに?」

 

「んーん。ナギちゃんも大変だなって」

 

「なんでナギサちゃんが大変なの…?」

 

「なんでもないよ。それじゃあ、さっきの子たちに話を聞きに行くんでしょ?まずはどこから?」

 

 そうだった。気を取り直して……一番近いのは、ゲーム開発部だね。同じ棟なわけだし。私はゲーム開発部のあるフロアに向かうため、再びエレベーターへと向かった。

 

「まずはゲーム開発部からだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 ゲーム開発部の部室がある階に降りた。ただこんな時間なのでゲーム開発部に人はいない気がする。いなかったらいなかったで他の子のところに行くだけ。

 

「ゲーム開発部ってエリカちゃんどういう部活なの?」

 

「名前の通りみたいだね。色々ゲームを作ってるみたい。一応、部員の天童アリスさんとは知り合いだよ」

 

「へー、どんな子なの?」

 

「レールガンを軽々持ち上げる子かな」

 

「どんな子なのか全然わかんないかも」

 

 そうだね。天童さんに関しては情報と見た目が全く一致しない。あの鉄の塊というか、明らかに対人兵器じゃない宇宙戦艦用のレールガンを振り回すあんな小さくて可愛らしい子がいるとは思わない。

 

 ミカさんの腕力ならあのレールガン持てるかな?

 

「まぁ、可愛い子だよ。髪の毛長くて、お姫様みたいなんだよ」

 

「そうなの?」

 

「ほんとほんと」

 

 話しながらゲーム開発部の札がついた扉の前にやってくる。ヴェリタスの部室みたいに電動でかつ音漏れ防止の分厚いドアじゃなくて、普通のドアだった。微かだけど中からパソコンのキーを叩く音が聞こえる。お、いるね。

 

「誰かいるみたい」

 

「え、なんでわかったのエリカちゃん」

 

「中から物音が聞こえるから」

 

「耳良すぎじゃない……?」

 

「聞こえすぎもたまによくないけど、基本的には仕事で役立って助かってるよ。自分の種族にさ」

 

「エリカちゃんの前では内緒話しないでおこう」

 

「そうして」

 

 笑いながら私は扉をノックした。そうするとタイプ音は止んで、扉がガバッと開いた。当然私は扉の前にいたので、

 

「あだっ!?」

 

「うわっ!?ごめん!」

 

 ゴッ、と鈍い音がしてドアが当たった。そんなに痛くはないけど反射的に声を出してしまったので中から出てきた人が謝っていた。誰だろう、と扉の影から出てきた人を見れば、ブロンドの髪が目立つ小柄で可愛らしい子。頭の上についた猫耳型のヘッドセットが特徴的。

 

「才羽さん……?」

 

「そうだけど。久々に苗字で呼ばれたかも。どちら様?」

 

 中から出てきて、全貌がわかる。標準的なミレニアムの制服に、学校指定の上着にはピンクのラインが入っていて、よく見れば全体的に装飾品もピンクのワンポイントが入ってるし、ヴェリタスで見た才羽ミドリさんの顔と全くの瓜二つの造形なのに、纏う雰囲気はとっても活発な印象を受ける。

 

「えっと……あなたがミドリちゃん?」

 

 ミカさんが聞くと、才羽さんはまたしても驚いた顔をした。

 

「おおう。間違えられるのも久しぶり。違うよ!私はモモイ!ミドリの姉だよ!」

 

「双子ちゃんだったんだ……エリカちゃん知ってた?」

 

 報告では……確かにそうだったかも。この目の前の才羽さん——才羽モモイさんは私たちが探してるミドリさんの双子のお姉ちゃんだね。

 

「エリカ?エリカって先生の?」

 

「あ、知ってるんだね。そう、私シャーレの草鞋野エリカ」

 

「初めまして!前に先生が手伝いをしてくれてた時にお話は聞いたんだ。隣の人もシャーレの人?同じ校章だし」

 

「そうだよ。私は聖園ミカ。エリカちゃんの同僚だよ」

 

「そうなんだ。よろしくね!」

 

 見た目通りのとっても元気な子だった。ゲーム開発部、って聞かなければとってもエネルギッシュでアウトドア系の部活にいても違和感がない。一年生ってことだし、これぐらい元気がいいと気持ちがいいね。

 

 ミカさんもモモイさんの見た目と態度にだいぶ緩んでるのか、ちょっと空気が穏やかだ。

 

「それでどうして二人はここに?」

 

「えっと、あなたの妹さん、ミドリちゃんとお話をしたいんだ」

 

 率先してミカさんが今度は話をし始めた。私はそのまま続けさせることにした。聞き込みも昨日まではほぼ聞いてるだけだったし、どんどんやって慣れていかないとね。

 

「ミドリと?ミドリなら中で寝てるよ」

 

 え、寝てるの?まさか寝泊まりしてるのかな。

 

「起こしてもらうことってできるかな?」

 

「いいよ!ちょっと徹夜しちゃって仮眠してただけだし!あ、中入って入って!」

 

 モモイさんがまた勢いよく部室の中へと消えていく。ほんとに元気な子だ。ミカさんと目配せして、私が先に中へと入った。中に入ればそこはちょっと整理整頓がされずにごちゃっとした子供部屋のような部室で、テレビの前に置かれた横長のソファにモモイさんとそっくりな後ろ姿の子が眠っていた。

 

「ミドリ、起きて!シャーレの人が来てるよ!」

 

「……ぅ……お姉ちゃん、シャーレって……そんな誰が……」

 

 ミドリさんが起きて、こちらに顔を向けた。モモイさんとそっくりだけど、確かに全く受ける印象が違う。こっちの子の方が画面で見た通り大人しそう。

 

「どうも、シャーレの草鞋野エリカです」

 

「聖園ミカでーす」

 

 二人で挨拶をすると、ミドリさんは一拍置いて飛び上がった。

 

「うわぁわぁっ!?な、なんで部室にもう上げてるのお姉ちゃん!?」

 

「え?話がしたいって言うから」

 

「馬鹿なの!?他所の人の前で妹の寝起き晒す!?」

 

「ちょっ、馬鹿ってなにさ!」

 

「もうっ!最悪…!」

 

 どうやら性格も全く違うらしい。こんなに見た目がそっくりなのに、これは確かに見間違う人はいなさそう。私とミカさんは双子の喧嘩を苦笑いで見守るしかなかった。

 

「まぁ気持ちはわからなくもないね、エリカちゃん。他所の人が来るなら身だしなみは整えたいもんね」

 

「それはそうだね。けどつい容疑者の自宅に踏み込む癖で入っちゃったよ」

 

 私が容疑者、なんて言ったもんだから双子の喧嘩が止まってこっちを見てきた。ものすごく「何事!?」って顔をしてる。

 

「よ、容疑者ってなに!?私たち何かしたの!?もしかして昨日オンライン対戦で煽ったから!?」

 

「そんなんじゃ捕まらないよお姉ちゃん!」

 

 余罪……いや、煽りも行きすぎて脅迫とかに繋がるからあんまりやってほしくないけど。うーん、この反応は白っぽい。そもそも、今の被害状況で私たちみたいな介入があれば普通慌てるもんね。私の勘が、二人はたぶん違うと言ってる。

 

「煽りってなに?」

 

「え?知らないの?」

 

「私ゲームとかしないからさ」

 

「そうなの?煽りって言うのは——」

 

「お姉ちゃんそんなこと説明しなくていいから!あの、ごめんなさい急に騒いで」

 

 ミドリさんはぺこぺこと謝った。なんだか活発な姉に良くできた妹、みたいな感じがする。どうにもモモイさんは可愛らしいので生意気だなって感じがあんまりしない。双子でわちゃわちゃしてるの見たらちょっと癒された。

 

「気にしないで。改めまして、私は草鞋野エリカ。シャーレの補佐官です」

 

「同じく、聖園ミカだよ」

 

「才羽ミドリです。シャーレっていうと先生の」

 

「うん。けど今日は先生のお願いってわけじゃなくて、私たちは別件でここにいるの。今、時間あるかな?ちょっと話を聞きたいんだけど」

 

 私のお願いに、ミドリさんは素直に頷いた。さてどこで話を聞こうかな、と思ったらミドリさんが立ち上がり、部屋の隅から丸い椅子を取り出して私たちの分を置いてくれた。しっかりした子だね。

 

「あの、どうぞ」

 

「ありがとう、ミドリさん」

 

 向かい合って私たちは座った。ミドリさんとモモイさんが一緒に並んで座ると、本当に双子なのに見分けがよくつく。

 

「疲れてるところにごめんね。徹夜してたみたいだけど、ゲーム開発部も晄輪大祭の準備?」

 

「ううん。私たちは新しいゲームを作ってるんだけど、なかなか行き詰まってて」

 

「昨日、お姉ちゃんの筆が乗ったので仮で作ったシナリオを読みながらブレストしたり、シナリオありきでどういうゲームにしようか話してたら遅くなっちゃって」

 

 私とミカさんは顔を見合わせた。やばい、なんもわからない。私はゲームに縁がないし、ミカさんもたぶんそう。とりあえず、あんまり聞くと脱線しそうなのでちょっと上手く流そう。

 

「それで部室で寝てたんだね」

 

「はい。すいません……寝起きのこんな状態で」

 

「ううん。いきなり来ちゃったこっちが悪いから気にしないで」

 

 ミドリさんは髪の毛がちょっと跳ねてるし、悪いことしちゃったね。手短に話を終わらせてあげよう。そう思って口を開きかけたらミカさんが先に声を出した。

 

「モモイちゃんはシナリオ?書いてるってことはお話をかけるの?」

 

「え?一応シナリオ担当だからね」

 

「へぇ〜、どんなお話なの?見せてほしいな」

 

 ミカさん!?さっきの目を見合わせたのは本題に素早く入ろうって感じじゃなかったの!?

 

「いいよ!」

 

「お姉ちゃん!?外部の人に見せるのは」

 

「え?けどこの人たちシャーレの人たちでしょ?意見もらおうよ」

 

 たまらずミカさんに私は耳打ちした。

 

「ミカさんっ……ミドリさんにお話聞かないと」

 

「……わかってるよ。だから私がモモイちゃんの相手するからよろしく」

 

 あ、そういう感じなのね。ならいいかな。モモイさんが席を立って、別のパソコンが置かれている低いテーブルに移動したのでミカさんもついていき、そんなに広い部屋じゃないけど別れたので、私はミドリさんの隣に座った。

 

「隣ごめんね」

 

「え、あ、はい」

 

 近くに座ると少しミドリさんは体を引いていた。

 

「重ねて言うけど突然ごめんね」

 

「いえ、その、大丈夫です。先生の生徒さん、なんですよね」

 

「うん。それでなんでここに来たのかわかる?私たちが」

 

「いえ全く。それこそ、お姉ちゃんが何かしました?」

 

 即答、迷い無し。目元も特にこっちを避けようとしない。ブレない。

 

「そっか。じゃあ聞くけど、一昨日、晄輪大祭の機材が置かれている保管庫の近くで何してたの?」

 

「えっと、確かにあの保管庫の近くにいましたけど、なんでそんなことを知ってるんですか?」

 

 露骨に警戒された。それはそうだよねぇ。知らない人にいきなりこんなこと言われたらストーカーとか疑うよ。

 

「私たち今ね、晄輪大祭の準備に嫌がらせをしてる生徒たちを探してるの」

 

「それって、私たちが先生にしたみたいな」

 

「そうだよ、支援要請」

 

「えっと、あの保管庫の近くなんですけど……このゲームのポイントになってて」

 

 ミドリさんがそう言いながら見せてくれたのはスマホに入ってるゲームだった。ソシャゲってやつかな?

 

「位置情報を使ったゲームで、ちょうどあの保管庫のあたりで……こういう風にモンスターが出現するんです」

 

 画面の中でミドリさんが言った通りアクセスポイント、と書かれたマーカーの付近をキャラクターが動くと戦闘画面に変わった。なるほど、そういうゲームもあるんだね。

 

「わかったよ。ちなみに、一緒にやってた人とかいる?」

 

「はい。お姉ちゃんとやってました」

 

 流石にあんな活発な子が晄輪大祭妨害しようとは思わないなぁ。

 

「ちなみに晄輪大祭は嫌?」

 

「嫌も何も、学校の行事なので」

 

 割り切ってる子だね、ミドリさんは。やっぱり白かな。

 

「私、疑われてるんですか?」

 

「うん。犯行があった日にカメラに映って、かつ当日の出場競技の希望とか出してない子だったんだよ。君が」

 

 私が問うと、ミドリさんは慌てて携帯を弄った。

 

「えっ、私ちゃんと当日の競技、二人三脚とか申し込んでましたけど……あれ、入ってない。お姉ちゃん!」

 

「え!?なに!?」

 

「晄輪大祭!申し込みしたよね!」

 

「私のはしたよ!」

 

「え、私のも一緒にしてくれるって」

 

「あ…忘れてた」

 

「おねえちゃーん!」

 

「ご、ごめんって!」

 

 うーん、完全にシロだねこりゃ。こんな仲のいい双子で、いい子な二人がこういうことしなさそうだし。少し話して思ったけど、ミドリさんはたぶんそんな悪戯で妨害、とかは理性でしない人かな。

 

「もうっ、お姉ちゃんはほんと」

 

「あははっ……うん、わかった。ミドリさんは何もしてないみたいだね」

 

「はい。悪戯って……そんなことしてもしょうがなくないですか?」

 

「私もそう思うよ。じゃ、問題ないから私たちはそろそろ出ていくね」

 

「すいません。わざわざ来てもらって」

 

「いいよ。こっちこそ眠たいところごめんね。ゲーム作り、頑張ってね」

 

 私がニコッと笑ってあげると、ミドリさんはきょとんとした。

 

「ミドリさん?」

 

「え、は、はいっ、頑張ります」

 

 どうしたんだろ。まぁいいや。じゃあミカさんも呼んで、ってなんかミカさんこめかみ抑えてナギサちゃんみたいに鎮痛な感じになってるけど、どうしたの。

 

「ミカさん?」

 

「…………………」

 

「どう?私のシナリオ」

 

「あの、ほんとに、これ、あなたが書いたの?」

 

「……?そうだよ」

 

「そっかぁ………」

 

 どうしたんだろう。モモイさんのシナリオを読んでるんだろうけど。

 

「ミカさん、もう行くよ」

 

 私がもう一度声をかけると、ミカさんは「ありがと」と消え入りそうな声で立ち上がった。な、何を見せられたの一体。

 

「じゃ、じゃあ私たちはこれで。ごめんね、急に来て」

 

「別にいいよ!先生にもよろしくね!」

 

「伝えておくね。じゃあね」

 

 二人に手を振ってゲーム開発部の部室を出た。天童さんと、確かいるはずの部長さんの姿がなかったけど、気にすることじゃないかな。

 

 それにしてもミカさんは一体どうしたんだろ。

 

「ミカさん、どうしたの?そんな青い顔して」

 

「エリカちゃん………モモイちゃんって、すっごく元気で可愛い子なんだね」

 

「よくは知らないけど、たぶんそうなんだろうね」

 

「そんな子がさ、すっごい暗いシナリオ書いてるってどう思う?」

 

 どんなシナリオ?と私が聞こうと思ったけどミカさんは続けて口を開く。

 

「大切な人が殺されてね?主人公が復讐していくんだけど、最後に倒したと思った相手が実は生きてた大切な人で、本物の黒幕がそうするように仕向けてて、最後は主人公の心が壊れちゃう。そこに行くまでの過程も丁寧に心をボキボキ折ってて」

 

 うわぁ、なんかものすごいヘビー。そんなのがあの元気な子から出力されてたの。

 

「人って……見かけによらないね……」

 

「そうだね……」

 

 どうにも後味が大変よくないらしいので、一旦休憩も兼ねてミカさんをカフェに連れて行こうかな。残り4人だけど、この中に悪戯をしてる子たちがいるといいけど。すんなり行くかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん、あのシナリオ見せたらどうだって?」

 

「微妙だったみたい。やっぱり普段書かないようなのは向いてないかも」

 

「じゃあボツ?」

 

「うん。やっぱり王道冒険活劇ものかな!アリスが戻ってきたらみんなで考えよう!」

 

 

 




モモイの鬱シナリオはサラッと書ける概念きらいじゃないです。

マキちゃんがモモミドと仲良くしてるところを公式でもたくさん見たいですね。めちゃくちゃ癒されそう。

ちなみにチーちゃんは主人公がやたら女連れてくるのはもう慣れてます。香水渡されてるし主人公の手助けをよくしてるのでまだ余裕ぶってます。

次回はまた明日22時投下します。
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