頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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なかなか執筆時間が取れないので生存報告も兼ねて投稿です。

三周年イベントでついにエリカ(本物)がしっかり登場しましたがキララと合わせていい子過ぎる…君本当にゲヘナ?




Area-11「山海経屋台エリア #絶品 #あつあつ #美味すぎる」

『ぜんばいっ、まげまじだっ!』

 

「とりあえず落ち着いて?」

 

 キサキさんからの支援要請を受けて、先生にも報告してOKもらったし、じゃあアスレチックスタジアム外縁の山海経エリアを見回って悪質クレーマーを探そう、と動き出そうとしたところで何故か泣きながらニコちゃんが電話してきた。何があったの…。

 

 負けました、ってことは1000m走で負けたんだろうけど。ニコちゃんは特殊部隊の隊員、それも精鋭中の精鋭なわけで、おまけに私の歩法を真似て少なくともスタートで一気にリードを稼げるはずだから簡単には負けないはず。

 

『うぅっ、うううっ』

 

「ニコちゃん、確かに勝ち負けも大事だけど、まだ始まったばっかりだから楽しんでいこ?私は楽しんでるみんなも見たいからさ」

 

『すびばせんっ』

 

「落ち着くまでちょっと他の子に替わってくれるかな?」

 

 まずは泣き止んでほしいので、他の子に何があったのか聞いてみよう。ニコちゃんは素直に私の言葉に従って誰かに携帯を渡したようだ。

 

『かわりました。先輩?』

 

 電話を受け取ったのはクルミちゃんのようだ。

 

「クルミちゃんだね?ニコちゃんはどうしたの」

 

『言った通り1000m負けたんですよ。先輩の技まで使って』

 

「そっか。……あれってさ瞬間速度は出るけど、一瞬で地面を何度も蹴るからその時は足止まってロスがあるから、持続してスピードは出ないよね。負ける可能性は0じゃないね」

 

 あと負担がすごい。実際私も使う時は4、5回までに留めていて、一回で稼げる距離も実は大したことがない。あくまで接近戦用のもので、私もニコちゃんも戦闘で使用する時は稲妻を描くようにジグザグに回避も兼ねて使ってる。

 

 だから、ミカさんみたいなフィジカル自体の格が違う人と直線距離で競うとたぶんそんなに移動距離に差が出ない。ミカさんはシャーレ初日の模擬戦で私の真似て使ったけど、あれ以降は「うーん、あのいっぱい地面蹴るやつ?地面一回蹴った方が速いから使ってないよ?」と言われた。

 

 あの技はミカさんや剣崎さんみたいなトンデモない人たちに対抗できるように生み出した小手先の技なのでさもありなんという感じだ。

 

「で、どんな子に負けちゃったの?」

 

『普通の子でしたよ。メガネにツインテの』

 

「え?どこの子?」

 

『トリニティの図書委員会の子だったような。ちょっと、待ってください。……ユキノー!さっきのニコを負かしたの誰だっけ!』

 

 トリニティの図書委員会の子……?トリニティにいた時は図書委員会とは接点なかったかな。委員長として古関ウイさんの名前は聞いたことあるけど。数秒待つと、クルミちゃんはユキノちゃんに名前を聞いたのか答えてくれた。

 

『円堂シミコ、って生徒らしいです。ニコ、スタートで先輩の技使って一回は離して、そのままあとはそのまま走ったんですけど、ふっつうに追いつかれて最後、コンマ差で負けました』

 

「その子、速いんだね」

 

『見てた時は全然速そうに見えないんですけどね。なんかあまりに普通に走ってるんで目がバグっちゃいましたよ。で、先輩の技まで使って、一番槍なのに負けてギャン泣きしてます』

 

「……そっか。別に私は気にしないからね?」

 

『まぁ、ニコもあぁ見えてユキノ並に気合入れてますし。どうせすぐ泣き止むから平気ですよ。先輩は気にせずパトロール続けてください』

 

 クルミちゃんはそれで電話を切ってしまった。よかったのかな。それにしても、見た目普通の子が勝ったってちょっと気になるな。

 

「ナギサちゃん?」

 

「なんですか?それとニコさんは大丈夫でしたか?」

 

「大丈夫なんじゃないかな。聞きたいんだけど、図書委員会の円堂さんって運動できるの?」

 

「……はい、できたかと。身体能力測定の結果を見たことがありますが、校内でも上位に入っていたはずです」

 

 わーお。それって要は単純な身体能力は並じゃないってことじゃん。

 

 それで図書委員会なんだ……トリニティの子も探せば色んな逸材がゴロゴロしてそう。コハルちゃんだって一見大人しそうな子に見えて優秀だし、ナギサちゃんも一緒に動いてるとヴァルキューレに引っ張って捜査局に推薦したくなるぐらいには向いてる。

 

「まぁ、負けたものはしょうがない。これから午後私も頑張ろう」

 

 砲丸投げはどんな生徒が出てくるんだろうね?我ながら物を投げることに関しては誰にも負けない、って自信があるけど。楽しみしておこう。

 

「もうよいか?」

 

「ごめんなさい、キサキさん。待たせてしまって」

 

「構わぬ。其方は今、生徒会長なのだろう?生徒のことを気にかけるのも仕事じゃ」

 

「いやいや、お飾りだよ」

 

「………だとしてもじゃ。お主の偶像に、電話の先の生徒は縋っておるのかもしれんぞ」

 

 キサキさんにそう言われて、私はあえて見て見ぬふりをしていることが心の奥から浮かび上がってくる。私だって、そこまで鈍感じゃない。……カヤちゃんが何故、FOX小隊をエデン条約事件に介入させられたのか。先生からの要請以前に、何故休学状態にあり、“表向き”はバイトに明け暮れているニコちゃんたちが何ら変わりなく即応体制を維持できていたのか。

 

 違和感はいくつもある。お飾りのはずの生徒会長である私へ向ける目は、間違いなく本当にそう願っていた、と思わせるには十分なもので。

 

 あの子たちは、一体何を考えていたのだろうか。何をしようとしていたのだろうか。

 

 私と仲がいい、ヴァルキューレの総務課の総務課長からも夏ごろに聞いている。

 

 

 

——FOX小隊?転入手続きなんてきてないっスよ、エリさん

 

——煉ちゃん、それは単純にRABBIT小隊が公安局、警備局、安全局に喧嘩を売ったから?

 

——いや、そもそもないっス。最初から転入の希望なんて総務課は受け取ってないんすよ

 

 

 

 夏のアウトランド・リゾート……カイザーローンによって引き起こされた1学園の自治区を乗っ取りかけたあの事件の裏で、FOX小隊はアビドスで目撃されていた。シロコさんが教えてくれたのだ。ビナーの調査を行っていた際、ビナーとの戦闘中に遠くに人影が見えたと。

 

 話を聞く限り、その人影はFOX小隊の特徴と一致していた。

 

 ユキノちゃんたちが……何かをしようとしていたのは間違いない。SRTの正義を誰よりも強く信じていた子たちだ。そして、彼女たちは特殊部隊員としては優秀だ。優秀、すぎるぐらいに。

 

 だから、今、こうしていると彼女たちの望みが少し、ほんの少し、見えてしまったような気がして……私の勘が、彼女たちに銃を、向けなくてはいけないと言っている。

 

 それが怖くて、また同じ過ちを犯すような気がして——私は“お飾り”と強く言い聞かせて目を背けている。

 

「まぁ、この晄輪大祭ぐらいは少し格好つけようかな、って思ってるよ」

 

「ふふっ、エリカさん。少し、先輩面をさせて頂きますと、生徒会長ともなれば多少の格好は付けてしまうものですよ。そうでもなければ、皆、着いてこないものです」

 

 ナギサちゃんに言われて、そんなものかな、と思った。あの子たちが何を考えていようが、結果として今の私はSRTの生徒会長であって、頑張っているみんなに報いるのなら嘘でも生徒会長らしくしていた方がいいのかもしれない。

 

「その意気じゃな。……こほん、それじゃあ、おねえちゃんたち、おねがいます!」

 

「その声どっから出てるんですか?」

 

 思わずツッコんでしまった。いやだってしょうがないよね!?声どころか顔付きまで変わってるし、キサキさんを知ってる人ですらたぶん、じっくり見れば見るほど顔はそっくりだけど表情が絶対しないようなものになって他人の空似か、ってなるよ。完璧な変装だ。

 

「お主には言われとうないの。梅花園に忍び込んでもバレぬように訓練したのじゃ。でないと、おちおち外食にもいけんのじゃ、妾は」

 

 なんだか苦労していそうだった。外食いけないのはちょっと嫌かも。ちらりとナギサちゃんを見れば頷いていた。うん、ほんとね。トリニティとかのクラスになるとまず外食なんか生徒会長はいけない。私がトリニティに行ってた時も朝昼晩全部、ティーパーティーの用意したもので、洋食しか出なかった。ご飯粒が食べられなかった。

 

「まぁ、妾のことはよい。気にするな」

 

「そうしますけど……」

 

 頑張って慣れるしかなさそうだ。

 

 とりあえず、キサキさんを先頭に私たちはまた山海経の屋台があるエリアへと戻ることになった。キサキさん、歩き方まで徹底して変えてる。大きな鞄を持ってとてとて、っとしたおぼつかない感じで、ほんとに見た目相応の幼い子って感じだ。

 

「すごいですね……最近私も変装して外を歩くことがありましたが、ここまでは」

 

「ナギサちゃんそんなことしてたの?」

 

「あ、いえ…まぁ、同じような理由で」

 

 ナギサちゃんアグレッシブになったなぁ。誰の影響なんだろう?ハルナかな。ハルナもお嬢様なのにテロリスト、行動力という点で見れば突き抜けてる。

 

「さて、それで悪質コメントを書いた人、どうやって探そうかな」

 

「……ネット上の犯罪?になるんですか、これは」

 

「休業にまで追い込んでるからね」

 

 探すだけなら簡単だ。ヴェリタスに頼めばすぐに身バレすると思う。けど、違法捜査になるのでシャーレとしてもあまりよろしくない。……偶然見つかった、とかそういう方便もできなくはないけど、極力避けたい。

 

 それに、今はみんな晄輪大祭を楽しんでるし、ミレニアムの子たちは今日という日に向けて頑張ってきた。その頑張りが報われた日になってほしいので、余計ないざこざには巻き込みたくない。

 

「ミレニアムの手は借りないよ」

 

「エリカさんならそう仰られるとは思っていました。しかし、どう見つけますか?」

 

「無難に巡回するしかないね。そうですよね?」

 

 キサキさんに問い掛ければこちらに視線を僅かに向け、頷いた。

 

「けど、キサキさん。ターゲットにされそうなお店の目星はついていますよね」

 

 またしてもキサキさんは頷く。なるほどね。彼女は黙ったまま、歩いていく。最初からそのお店に向かっているのかもしれない。お話だけで事が済めばいいけど、どうしたものかな。

 

 人気の無かった場所からまた山海経の屋台が並ぶエリアに戻ってくる。開催が始まってから時間が少し経っているのでかなり人が増えた。流石に山海経のエリアだけあって、人気店も多いからか並んでいる人も多い。

 

「すごい人ですね」

 

「うん、さすが山海経って感じ」

 

 私たちの反応にキサキさんが心なし嬉しそうにしていた。やっぱり自分の自治区を褒められて嬉しくない生徒会長さんはいないだろうね。

 

 この人混みなのでキサキさんを見失うと再開するのは難しいだろうし、ほぼひっついた状態で彼女に続く。ナギサちゃんは私の制服の背をつまんでいた。離れちゃうよりはいいかな。

 

「——程よい辛味と酸味……素晴らしいですわね」

 

 今なんか聞き覚えのある声聞こえた。こんな喧騒の中でもスッと耳に入ってくる綺麗な声。本当に心からの賞賛。そりゃあの子がここに来ないわけがない。

 

「ふふっ。確かにそうですね。量が足りないですが」

 

 そして、もう一つの声。………うっ、あの人もいるのか。

 

 いやいや、ここであの子たちに構ってる場合じゃない。キサキさんを追いかけ、ってキサキさんが声のした方に歩いて行ってる!?

 

「エリカさん、もしやあの声は」

 

 ナギサちゃんにも聞こえたらしい。まさかと思うけど食通みたいなコメントしてるからってキサキさん疑ってたりする?ありえなくはない。たまらずナギサちゃんと共に人の合間をすり抜けながら酸辣湯麺を売っているであろう屋台に私たちは近づいた。

 

「ねぇ、おねえちゃんたちはネットでごはんの感想とか書いてる?」

 

 もう声かけてる!?慌てて駆け寄ればキサキさんは屋台の前で立ち食いしていた二人に容姿通りの幼女のような声をかけて直球で質問をしていた。相手は体操服姿のハルナと——ハルナよりも身長が高く、ナイスバディとしか言いようがない長い金髪の生徒、鰐渕アカリさん。

 

 鰐渕さんはハルナが率いるテロ集団、美食研究会の会員の一人で、胃袋はブラックホールかと言わんばかりの無限の食欲を持ってる。

 

「わたくしたちはあまりそういったことはしていませんわね」

 

「無いとは言いませんけど」

 

「ならさいきん、せんがいきょうには行ったことある?」

 

「ないですね」

 

 鰐渕さんがキッパリと言った。まぁ、ハルナたちならネチネチコメントで何か言うよりその場で店を爆破だ。犯人ってことは絶対にないだろうね。

 

「それにしても、こんなところでお会いするなんて。奇遇ですね、草鞋野さん」

 

「……久しぶりだね。鰐渕さん」

 

 キサキさんに追いついて、私たちはハルナたちと向かい合う。鰐渕さんは正直言うと、ちょっと苦手だ。暖簾のような相手というか……ハルナ抜きの美食研究会の会員とはそれぞれ単独で対峙したことが数度あるけど、彼女が一番何を考えてるのかわからないし、ちょっと怖い。

 

「ハルナと一緒にいるところで会うのは初めてでしょうか」

 

「そうだね。決まって君たちが悪さをする時、不思議と私はハルナとは会わなかったし」

 

 まさかとは思うけど、何か騒ぎを起こそうってわけじゃないだろうね。ハルナのことを犯人として扱ったことは幸運(?)にも無かった。少しハルナを睨めば、彼女は途端に慌て出した。

 

「お、お待ちになってくださいな!エリカさん、わたくしは何もしておりませんわ!」

 

「ほんとに?まだ、ってだけじゃないの?」

 

「誓ってここで騒ぎを起こす気はありませんわ!」

 

「……まっ、流石にハルナなら晄輪大祭で騒ぎを起こさないよね」

 

 テロリストなのに一般的な常識を理解してるからねハルナ。知ってて悪さしてるからタチが悪いけど。でも、食べてる時のハルナは嘘をつかないし、信じられる。

 

「ほっ……」

 

「そんな露骨に安心しなくても」

 

「とうとう逮捕されてしまうのではないかとハルナは焦ったんですよ」

 

「アカリさん?わたくし、そんなことは」

 

「ふふっ、そういうことにしておきますね。それで、この子はお二人のお連れさんですか?」

 

「そんなところだよ」

 

 キサキさんの正体を明かすわけにはいかないのでそのように言う。けどさ、正直ハルナは知ってそう。既にナギサちゃんに気がついたのかチラチラ見てるし、キサキさんのことも観察し始めてる。

 

「…迷子、というわけではありませんわね。また何かありまして?」

 

「ちょっとね。ただ、二人はそのまま晄輪大祭を楽しんで欲しいかな」

 

 ハルナのことだから協力を申し出そうなので牽制しておく。食べ物ことになれば余計に彼女は手伝おうとしてくるだろうし。

 

「言い出す前にフラれてしまいましたね、ハルナ」

 

「そんなことはありませんわ。……本当によろしいので?」

 

「大丈夫。なんたって今の私はSRTの生徒会長だからね」

 

 なんの自信だ、って話だけど胸を張って言えばハルナは「仕方がないですわね」と引き下がってくれた。

 

「ハルナ、それでは私たちはお暇しましょうか。正直に言うと、私はあまり、草鞋野さんといい思い出がないので」

 

「はっきり言うね」

 

「矯正局に何人も送っているあなたを怖がるゲヘナの生徒は多いのですよ?」

 

 狙ってゲヘナ生を捕まえてたわけじゃないんだけど、学校自体が自由すぎるせいで自然とゲヘナ生はやんちゃする子が多すぎる。流石に矯正局の半分は盛られてるけど、少なくない数のゲヘナ生を矯正局にブチ込んだのは事実。鰐渕さんはD.U.の署に一時的に勾留で終わってたけど。

 

「次に会う時もこうやって話すだけで済むといいですね。ハルナを捕まえるのはあなたも嫌でしょう?」

 

「え?なんで?なんかやらかしたら捕まえるけど」

 

 いや、ハルナが悪さしてたら捕まえるけど。そもそもヴァルキューレでも指名手配されてたことあるし、美食研究会の悪事というか、やらかしてきたことはよーく知ってる。ハルナが私に捕まったことないのは本当に単純に、ハルナを現行犯で捕まえられてないのと、悉くヴァルキューレ時代は結果的に捜査協力者になってしまったからだ。

 

「………あれ?」

 

 鰐渕さんが何故か目を丸くして驚いていた。なんで驚くの?驚く事ある?

 

「ハルナをなんで今捕まえないのかって言ったらシャーレの生徒だからなのが大きいからだよ?ヴァルキューレの時は色々あって捕まえる前に別れたりしてたけど」

 

「うーん、なるほど。そういうことですね。やっぱりもう退散しましょうか」

 

 鰐渕さんが苦笑いでその場から立ち去り、ハルナは微笑みながら「では」と鰐渕さんに続いて立ち去っていった。なんだかよくわらなかったけど、まぁ、あの二人はシロってことだね。

 

「……エリカさん、あのお隣にいた方は?」

 

「ナギサちゃん、あの人は美食研究会の人だよ」

 

「あの方が……何か因縁があるようですね」

 

「因縁ってほどじゃないよ。けど、鰐渕さんは梃子摺ったよ。使ってるアサルトライフルがすごいカスタム品で手数が多くてさ」

 

 一見荒事とは無縁そうな鰐渕さんだけど、彼女の使ってるアサルトライフルはアクセサリーマシマシで、それでも十全に使い切ってくるので厄介だった。単純な戦闘能力もたぶん彼女が一番美食研究会の中で高いと思われる。

 

 ナギサちゃんはハルナのテロリストとしての面をあまり知らない。今後、知った時それでもナギサちゃんはハルナと友達でいれるのかちょっと不安だ。

 

 まぁ、悪さをしないというのなら今回は脅威じゃ無い。信じておこう。

 

「……あの子たちは食事に関してだけ言えば真っ直ぐすぎるぐらいだから、陰湿なことはしないと思うよ」

 

「……わかった、信じよう」

 

 キサキさんに耳打ちすれば、頷いてくれた。

 

 ちなみにハルナたちがいたお店は先払いらしくちゃんと支払いはされていた。まぁ、あの子たち無銭飲食はやらないんだよね。テロリストたる所以はやっぱりお店爆破が10割だ。

 

 道草を食ってしまったけど、キサキさんが本来目指していたお店に向かってまた歩き始める。

 

「先ほどのお店、ハルナさんが手放しで褒めていたというのであれば、本当に美味しいのでしょうね」

 

「そうだね。こうやって歩いてても全部美味しそうに見えるし」

 

「何より、生徒の皆さんが生き生きとされていますから」

 

 ナギサちゃんの言う通りで、屋台にいる山海経の生徒たちはみんな活気に溢れていて、この屋台のエリアは何だかものすごく熱気を感じる。それは調理に使う炎に加えて、客と店双方の熱量も凄いからだと思う。

 

「……お主らは妾を褒め殺してどうするのじゃ」

 

「あ、いや、純粋にそう思っただけなんですよ?私も彼女も」

 

「わかっておる。先生そっくりじゃな。そういうところは」

 

 先生、いいと思ったことは褒めまくるからなぁ。前の支援要請でキサキさんのこと色々褒めたんだろうか。

 

 またしばらく人混みを歩いていくと、見えてきたのはどうやら小籠包をメインに売っている屋台のようだ。店員さんは二人で、一人は随分と活気に溢れている感じだけど、もう一人が妙におどおどしているというか。

 

 キサキさんがその屋台にたどり着く。

 

「いらっしゃい!お嬢さん一人かい?」

 

「あっ……先輩、この子いつも来てくれた子です」

 

「え?そうなの?」

 

「こんにちは!店長さんおひさしぶりです!」

 

「ひ、ひさしぶり…」

 

 バレてないんだ…そりゃまぁ、山海経の門主様ってあんまり外で見られないなんて言うし、変装してあんなガラッと人柄も変えちゃえばわかんないよね。ナギサちゃんはキサキさんの変装が本当に上手く行っていることにちょっと驚いていた。

 

「すいません。こちらの子とはお知り合いなんですか?」

 

 私が声をかけると、相手は遠慮がちな声で反応してくる。

 

「え、常連さんというか…えっと、そちらは」

 

 キサキさんに店長さんと呼ばれた人はこの屋台を手伝っているのか、屋台主さんと同じエプロンを着ていた。メガネにマスクとあんまり目立ちたく無い感じがしてるのはやっぱりお店への悪質なコメントのせいかな。

 

「私はSRT特殊学園の草鞋野エリカです。こちらはシャーレの生徒さんです」

 

「桐藤です。どうも」

 

「なんか育ちのいいお嬢ちゃんっぽいし、玄龍門のSP連中みたいな感じ?」

 

「似たようなものと思ってください」

 

 屋台主さんは納得したのかそれ以上は聞いてこなかった。

 

「まぁいいや!せっかくだし小籠包どうだい?ウチのは旨いよ〜!それに今日は後輩の手も入ってるからねぇ」

 

「そ、それは言わなくていいですよっ」

 

「何言ってんだい!あんたの味はみんな落ち着いてホッとするって言ってるだろ?実際今日は売れ行きいいじゃないか。私が作ったやつは過激な味が多いからさ」

 

 自信がない子だけど、決して料理がまずいという感じじゃ無さそうだ。ならなんで悪質なコメントを書かれてしまったのか。

 

「ねぇ!おねえちゃん!しょうろんぽーわたしもたべたいな!」

 

 キサキさんが私にねだってきた。うぐっ!?も、ものすごく可愛い!なんというか目がキラキラしてるし本当にちっちゃい子がねだってるみたいで、財布の紐が千切れる。お巡りさんは小さい子に弱いんだよ〜。

 

「えへへ〜、いいよ〜」

 

「エリカさん…!?」

 

 とりあえずキサキさんに一個購入してあげた。小籠包と言えば熱いスープが中にあるけど、そのあたり大丈夫なのかな。使い捨ての少し深めのお皿に小籠包と、同じく使い捨ての箸がキサキさんの手に渡る。

 

 うーん、おいしそう。

 

「すいません。私にも一つ」

 

「はいよ!」

 

 せっかくだし、私たちも食べてみよう。私も小籠包を購入して手渡されると、それをナギサちゃんに差し出す。

 

「一緒に食べよっか」

 

「いいのですか?」

 

「もちろん。ナギサちゃんは食べたことある?」

 

「いえ……作法はございますか?」

 

「特に無いけど、あっつあつのスープがこの皮の中に入ってるから、火傷しないように注意かな」

 

 お皿を下に、私は箸でナギサちゃんの口元に小籠包を寄せる。

 

「!?」

 

「ほら、あーん」

 

「え、えっ、えっと」

 

「食べないの?」

 

「っ……ままよ……!い、いただきます!」

 

 ナギサちゃんが小籠包に小さく齧り付いた。少し汁が垂れ皿にボタタ、っと落ちる。ちょっとナギサちゃんは熱いの平気なのかな?一口食べて、味わうと口元を手で押さえた。

 

「おいしい…」

 

「でしょ?」

 

 よかった。口に合ったらしい。もう一口食べさせてあげようかなとしたら「一人で食べられます!」と怒られてしまったので、私は仕方なくナギサちゃんにお皿ごと小籠包を渡した。

 

「そっちの子は小籠包食べるの初めてなのかい?」

 

「はい。彼女なかなか忙しくて」

 

「へー、噂じゃシャーレって休みないんでしょ?先生ともう一人生徒でフル稼働とか」

 

「あはは……まぁ」

 

 そんな噂流れてるんだ。知らなかった。

 

「それにしても、初めて食う小籠包が私たちの屋台って言うのは光栄すぎるね。よかったじゃないか?おいしいって言われて」

 

「…………」

 

 屋台主さんに褒められても店長さんはあまり嬉しそうではなかった。かなり参っちゃってるね。一体どんなことを書かれたんだろう。

 

「もー、まだ気にしてるの?あんなネット弁慶なんて放っておけばいいんだよ!」

 

「けど……」

 

「それに、接客が悪いだの、材料が悪いだの、あんたの料理の味は言ってないんだからさぁ」

 

 屋台主さんの言う通り、料理の味はよかった。この様子を見るに、お店を休んじゃってるのはこの子自体の気質の影響もあるのかな。だからといって休業に追い込んだ、って事実は消えないけどさ。

 

「……あの、自信をお持ちになってください。私は初めてこの料理をいただきましたが、作り手の真心を確かに感じます」

 

 ナギサちゃんがストレートに褒めた。穏やかな声で優しく、まるで傷を包むような感じがする。さまざまな思惑が飛び交うトリニティの政局で戦うナギサちゃんだけど、一度こうやってその席から外れると、本当に天使みたいな、誰かを癒すことができる優しい子なんだと常々思う。

 

 店長さんはナギサちゃんの言葉に、目を潤ませていた。キサキさんはナギサちゃんの次の言葉を待っているようだ。

 

「中のスープは熱いですが、その先にあるのは胸の奥にじんわりと広がるような心に響く味。一口食べれば、あなたがお客さんを想って料理をされているのが伝わってきます。心から——あぁ、おいしいと思えるのです」

 

「ぇ………」

 

「私たちシャーレはあなたのように頑張る方を応援しています。何があったのかは存じ上げません。ですが、どうか、あなたの御心のままに」

 

 今のナギサちゃんは羽をバックの中にぎゅっと仕舞ってる。でも、私は隣にいるナギサちゃんがいつものティーパーティーの制服姿で立っているように見えた。これが、本当のトリニティの生徒会長。

 

「店長さん!わたしもそうおもうよ!」

 

「あなたまで……うぅ、いいのかな?私、お店続けても」

 

「うん!」

 

 キサキさんもこの人が作る料理が好きなんだろうね。思いがけず励ます形になったけど、シャーレの役割を果たせたかな。このまま、ナギサちゃんとシャーレにいれたらそれはそれでいいかもしれない。なーんて考えちゃうけど、ナギサちゃんにはトリニティでやらなきゃいけないことがあるからね。

 

 さて、じゃあ後は私の番だ。私の今の役目。警察組織の一員としての役目。

 

「——チッ……なんなんだあいつ……この程度で警察か?」

 

 この人混みの中だから小声で言えば聞こえないとでも思ったのか?

 

「桐藤。ここを頼む」

 

「はっ」

 

 頑張ってる人を追い込むようなやり口は少し強く言わないとダメだ。

 

 私はその場から踵を返して、声がした方へと向かう。相手は私たちが屋台から右斜め後方、つまりは反対側の屋台の列の前にいた。山海経の生徒で、制服からして玄武商会の一員だろうか。私が見つめながら近づいて来ていることがわかると、並んでいた列から抜け出そうとしていた。

 

「ッ!?」

 

「逃げるな。そして騒ぐな」

 

 前に回り込む。遅い。

 

「な、なんだ、あんた」

 

「騒ぐなと言った」

 

 相手は睨み返してきて、なんの権限があって、という感じだ。

 

「お前があそこにいる生徒の店を休業に追い込んだコメント主だな」

 

「はぁ?なんの証拠があるんだよ」

 

「——チッ……なんなんだあいつ……この程度で警察か?」

 

「なっ」

 

 声音、間、何もかも真似をして言ってあげると相手は顔を真っ赤にした。

 

「なんで聞こえて」

 

「私の耳はよく聞こえる。残念だったな。——おっと、逃げるな。晄輪大祭の暗黙のルール、わかっているのか?」

 

「卑怯だぞ…!」

 

「卑怯なのはお主のほうじゃな」

 

 キサキさんがこちらに来てくれてコメント主の耳元で囁いた。

 

「妾の声、知らぬとは言わせぬ」

 

「………!な、なぜ、あなたが」

 

「答える義理はない。……草鞋野“生徒会長”、苦労をかけた」

 

「いいえ、お気になさらず」

 

 敬礼しちゃうと流石に注目を集めちゃうので、直立したまま答える。

 

「来い。少し、話がある」

 

「い、いやだ、私は何もして」

 

「二度言わせるか?妾は来いと言っておる」

 

 怖い。このままキサキさんに預けてしまうのを思わず躊躇うほどに。コメント主の生徒は観念したのか、もう逃げる気は失せたようだ。キサキさんが彼女を引っ張って連れて行く。これで支援要請は完了、かな?特に私は何もしてないけど…。

 

「エリカさん、彼女が?」

 

「そうみたいだね。キサキさんが連れて行ったみたいだし、後は任せよう」

 

「よろしいのですか?」

 

「これ以上は過干渉かな、って。それに、キサキさんならきっと上手くやるよ」

 

「彼女のことはよく知っているのですね」

 

「まぁ、過去に私を庇おうとしたぐらいだし、いい人だなとは思ってるかな」

 

 ただ、あんな優しい人が怒る時ほど怖いことはない。あの悪質なコメントをした子がどういう処遇になるかまでは……私たちが知るところではない。

 

 携帯で時間を確認すると、もう11時になっていた。

 

「よし、それじゃあナギサちゃん。私たちは通常のパトロールに戻ろう。途中で一緒にご飯も食べようね」

 

「えぇ、喜んで」

 

 午後になれば一度競技に出なくてはいけないし、ナギサちゃんと一緒に動ける時間はしばらく無くなる。それまでに彼女に楽しんでもらわないとね。私たちは再び人混みの中を歩き始めた。

 

 




また次回は未定です。
シミコの身体能力が一体どこまでのものなのかは未知数ですが無茶苦茶いいのは確か。

ドレスヒナ引けるといいなぁ〜。

追記:シミコの名前間違えて申し訳ない…
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