頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

61 / 143
連続投下2日目です


Area-18「アリウス自地区市街地 #無人 #不退転 #正義の味方」

「……姫ちゃんがこんな無理をするなんて」

 

「リーダーもこうなるのは目に見えてたのに、わからないのかな」

 

 ミカとエリカがアリウス自地区へ繋がるカタコンベに侵入を果たした頃、カタコンベを抜けた先にあるアリウス自地区外れの廃墟となった市街地へ辿り着いた先生とアツコ、ヒヨリ、ミサキは一度休息のために原型を留めている家屋の中に隠れていた。

 

 元より、サオリよりも体が頑丈でないアツコの疲労は限界に達している中で、先生は市販の解熱剤を飲ませ、他にも晄輪大祭中の不測の事態にも備えられるように腰につけたポーチから包帯や消毒液などで可能な限りの応急処置も済ませていた。

 

「ふぅ……ミサキ、ヒヨリ、見張りありがとう」

 

「別に。感謝される話じゃない」

 

「ど、どうも」

 

 冷たい態度を取るミサキと、礼を受け取り慣れていないヒヨリの対照的な反応を先生は受け流しつつも、処置したばかりのアツコを改めて見る。先生は眠っているアツコが、姫と呼ばれるほどはある特別可憐な容姿だと感じていた。

 

 このキヴォトスにおいてはおかしな印象ではあるが、先生はアツコが銃を取って戦うような人物ではないとも思っていた。

 

 だが、これまでの道のりで、アツコの戦闘技術はサオリから仕込まれたと本人が自称する通りに、並の生徒とは一線を画し、今日の昼間に晄輪大祭の優勝カップを巡る騒動で見たニコの性格に反した熾烈な動きを思い起こさせた。

 

「アツコはフロントマンなんだね。ポジション」

 

「姫って言われておきながらね」

 

「い、いつも、危ないとはみんな言ってるんですけど……」

 

「ヘイトを自分に集めて、回避しつつ時間を稼いで、二人……今はいないけどサオリも含めた残りのメンバーが殲滅する、っていうのが基本戦術?」

 

「は、はい。アズサちゃんも前はいましたし……」

 

 先生は3人だけのアリウススクワッドでも、小隊単位での戦闘力は明らかに上澄だと思った。

 

「それで、さっきの話でだいたいアリウスのことと、みんなのことはわかったよ」

 

 アツコが倒れ休憩となった状況で、先生はこれまでのアリウス分校の歴史——といってもミサキが知る限り、10年前の内紛からのものだが——と、アリウススクワッドのメンバーたちのことを聞く事が出来ていた。

 

「あとは、2つ聞きたいんだ」

 

「なに?」

 

「まずは、ミカのことだよ。あの子はアリウスに接触したと思うんだけど、連携とかしてたの」

 

 先生はエリカと同じく、ベアトリーチェのような黒幕の存在を予感していたが、それがアツコにより先生もわかった以上、ミカがアリウス分校とどういう取引があったのか知りたかった。

 

 ミサキは先生に問われ、ため息をつく。

 

「……あの女との連携なんてないよ。アズサをトリニティに潜らせるには絶好のタイミングで来てくれた。それだけ」

 

「つまり、最初からミカは」

 

「マダムに利用された。……ただ」

 

「アズサちゃんは……アリウスが、私たちがどこかおかしい、って思ってたから」

 

 ミサキとヒヨリはミカが利用されただけということはわかっていたが、同時にアズサもベアトリーチェからここを追い出されたのだとも感じていた。エデン条約事件の最終局面においてアズサからかけられた言葉は、アリウススクワッドのメンバーに届いていた。

 

「大人が言う事だから、そう思っていたけど、そもそも、トリニティなんてどうでもいい」

 

「……アリウス分校の最初の校舎を作ったのも、実はトリニティの聖徒会でしたし」

 

 自分たちの憎しみではない。そのことをミサキとヒヨリは理解している。先生はそれがわかると、更にベアトリーチェなる大人への怒りが湧く。ミカの、最初はただの善意、優しさから始まった想いも踏み躙り、アズサもいらなくなった駒のように放逐する。どこまで子供を食い物にしているのだと。

 

「……あんた、顔が怖いよ」

 

「え、やだなぁ。そんなことないよ」

 

 ミサキに指摘され、先生は顔を両手で揉んだ。

 

「き、聞きたいことは、あともう一つあるんですよね?」

 

「そうそう。ヒヨリ、黄金の一滴っていう薬はどこから手に入れたの?」

 

 もう一つの先生が聞きたかったこと。黄金の一滴の出どころの話題に、ヒヨリは一瞬何のことだかわからなかったがすぐに思い出す。

 

「あぁ!あの胡散臭い薬ですね!」

 

「アリウスも胡散臭いって思ってたんだ……」

 

「実際に効果を見るまではみんなそうだったよ。あれを一本飲むだけで、規格外の力を手にできたから誰も言わなくなったけど」

 

「二人は飲んだことあるの?」

 

 先生が躊躇わずに聞けば、ミサキもヒヨリも首を横に振る。

 

「アレはアリウスでも元があまり強くないけど戦意が高い子を中心にマダムが配った。出どころは知ってる」

 

「本当に!?」

 

「……食いつきすごいね」

 

 ミサキが呆れるが、先生からすれば黄金の一滴の出どころは喉から手が出るほど欲しかった。エリカを現在進行形で苦しめているものであり、服用しエデン条約事件の中で降伏したアリウス生の一部は未だにミレニアムの病院で治療を受けているものもいる。

 

 生徒を脅かす最たるもの。先生はなんとかして黄金の一滴の情報を手に入れたかった。

 

「まぁいいけど。あの薬を持ってきたのは申谷カイとかいう胡散臭い山海経の生徒と、開発者としてもう一人がセント・シリウス学園の生徒会長——絵庭サロネ、って名乗ってた」

 

 後者の名前に、先生は頭をハンマーで殴られたような衝撃が走った。おもわずくらりとしそうになる。

 

「せ、先生!?」

 

「あ、いや、ごめん。体調が悪いわけじゃないんだ。……ミサキ、今の本当に?」

 

「うん。間違いない。量産自体はマダムがやったけど、サンプルはそいつらからもらった」

 

「絵庭って生徒の容姿は覚えてる?」

 

「全身外套と顔はマスク。声は出さずに機械の合成音声を喋らせる徹底ぶり。背丈も厚底を履いてれば誤魔化せる。正体がわからない」

 

「な、なにか、その絵庭サロネ、って何かあるんですか…?」

 

 先生は少し迷ったものの、彼女が受けている衝撃の理由を明かした。

 

「……その子はね、亡くなってるの」

 

「え」

 

「ひ、ひっ!?じゃ、じゃあ、私たちが見たのはゆ、幽霊ってことですか!?」

 

「ヒヨリ。あまり、騒がないで」

 

「あ、姫ちゃん、起こしちゃいましたか…!?」

 

 目が覚めたアツコが寝かされていた壁際から立ち上がり、先生の横へとやってくる。ヒヨリがアツコに平謝りしたが、アツコは大丈夫だと言ってやめさせた。

 

「アツコ、体は?」

 

「……正直、辛い。でも、まだいけるから、平気」

 

 先生は気休めの言葉はあえてかけなかった。アツコの体はふらつきながらも、表情だけはしっかりとしたものだった。

 

「それで、絵庭サロネ、彼女のことを話していたの?」

 

「アツコは知ってるの?」

 

「あまりは。ただ、ここ数年、裏社会、それも深いところで名前が少しずつ知れてる。申谷カイがついてたのはあくまで取引のために効能の保証と説明のためで、窓口役になってたみたい」

 

 アツコは話しつつ、服のポケットからアンプルを一本取り出した。

 

「それは……!」

 

 先生はそれが山海経でも見た黄金の一滴の入ったアンプルであると確信する。

 

「ひ、姫ちゃん、持ってたんですか!?」

 

「うん。これはアリウスに齎されたオリジナルの2本のうち、1本。もう1本が量産用にマダムの分析に回された。……それで、既に絵庭サロネが亡くなっているって、どういうこと?」

 

「みんなは、私のエリちゃん、草鞋野エリカの起こした事件はどこまで知ってる?」

 

 エリカに関する質問にはアツコがすぐに反応した。

 

「キュドモス事件の概略は裏社会に流れてる。ヴァルキューレ警察学校の生徒が薬物の製造をしていた生徒を誤って殺害したって……その被害者が、絵庭サロネってことなの?」

 

「たぶんね。私でさえも詳しくは知らないんだ。山海経の生徒会長からあらましを教えてもらっただけでさ。けど、その子が亡くなった、っていうのは知ってるし、それに、セント・シリウス学園はとっくの昔に廃校になってる」

 

「どういう学校だったの?」

 

「薬学系の学校だったみたい。ただ、その学校自体もデータが残ってない。そこにあったこと、あとは空っぽの校舎が残ってるだけ」

 

 先生は更に謎が深まったことに頭を抱えたくなった。そもそも、絵庭サロネという生徒の詳細な情報を知っているはずのリンやキサキが、亡くなったという事実のみしか明かさなかったのだ。

 

 薬物事件の他に、何かが複合的に起きていた、というのは想像に難くない。エリカに聞くことも先生は考えたが、エデン条約事件時に黄金の一滴を服用した生徒を見て暴走したとSRTの生徒たちからは報告を受けており、とてもではないが聞けなかった。

 

「……それ、触らない方がいいんじゃないの」

 

 よく知らなくても明らかに厄介ごとどころではない話に、ミサキは思わず先生に忠告をしてしまう。

 

「私が先生じゃなかったらね。正直、かなり複雑な事件みたいなんだ。キュドモス事件は」

 

 わざわざ連邦生徒会会長が直々に情報を隠蔽し、その上でエリカ本人も連邦生徒会長が用意したと思われるあまりにも残酷なカバーストーリーを受け入れているという事実が、並大抵の出来事ではないと先生はわかっていた。

 

「…………彼女、草鞋野エリカについて、一つだけ先生に伝えておくね」

 

「アツコ?」

 

「彼女は、普通の生徒とは違う。体の中に、2つ以上の神秘が宿ってる」

 

 アツコの伝えた内容はミサキとヒヨリからすれば意味がわからず何かの符号かと思われたが、先生は理解できてしまった。

 

「そっか。ありがとう。教えてくれて」

 

「別にいい。……休憩はここまでにしよう」

 

「うん、そうだね」

 

 強制的に話は終わり、先生は今関わっている目の前の事件とは別に、嫌な予感が湧きつつあった。

 

「(神秘が2つ。2、ふたり、二人分。あぁ、いやだなぁ。本当に嫌な予感がする。アニメとかゲームとか、詳しくなきゃよかったのに。シッテムの箱で呼び出せる、あの生徒はじゃあ)」

 

 裏で、もっと大きなものが動いている。先生はこれから先もまだ大波乱が続くだろうと内心ため息をつきながら、今やらなくてはならないことへと頭を切り替える。エリカのことも、過去の事件のことも、サオリを救ってから考えるべきだと。

 

「ここから先はアリウスでも優秀な生徒が防衛についてる。……たぶん、この薬を飲んでる生徒もいると思う」

 

 アツコがアンプルを割った。

 

「………アツコ!?」

 

 それを彼女は一滴人差し指の腹に垂らすと、舐めた。残ったものは廃屋の床に投げ捨てる。先生は止められなかったことに崩れ落ちそうになるが、アツコが「大丈夫」と微笑んだ。

 

「一滴ぐらいなら栄養ドリンクみたいな効果しかない」

 

「え、そうなの」

 

「……アツコが言ってるのは本当。マダムは人体実験もアリウスの生徒たちでやってた」

 

「…………クソババァがよ」

 

「こ、言葉悪すぎません!?先生ですよね!?」

 

「あぁ、ごめん。本当につい。一応聞くけど、その実験に付き合った生徒は?」

 

 先生が恐る恐るミサキに聞けば「全員無事」と答えた。

 

「はぁ……アツコ、それを先に言ってほしい。心臓止まるかと思ったよ」

 

「ごめんなさい。でも、おかげでだいぶ動けそうだから」

 

「む、無茶しないでくださいね、アツコちゃん!?サオリ姉さんから何かあったら怒られます!」

 

「ふふっ、大丈夫だよ、ヒヨリ。サオリはそんなことしないから。むしろ、私に怒ると思うな」

 

 軽口を叩けるほどに回復している様子に、先生は改めて床に落ち、金木犀の濃い香りを漂わせている黄金の一滴の効果は尋常ではないことを目の当たりにする。以前に山海経の生徒からもらったデータは誇張でも何でもないものだとようやく理解できた。

 

「じゃあ、行こう」

 

 アツコが銃を構え直し、廃屋の外へ飛び出す。あまりに勇ましい姿に、姫というよりは姫騎士の類では、と先生が場面に相応しくない感想を抱きつつ、ヒヨリ、ミサキに囲まれ後に続いた。

 

「サオリがいるっていうアリウス・バシリカまで、その旧校舎の通路を使ってどれぐらいなの?」

 

「あと1時間ぐらいだと思う」

 

「日付が変わるのはあと1時間半。ギリギリだね」

 

「……道中の戦闘は避けようがないの以外、逃げに徹したほうがいい。アツコ」

 

「うん。わかってるよ、ミサキ」

 

 本来はアツコが捧げられるはずだった儀式が執り行われるのは日付が変わる瞬間。まじない的には境界の間だということを先生はアツコから聞かされ、サオリ救出までのタイムリミットを逆算していた。

 

 廃墟となった市街地を駆け抜けながら、旧校舎があるという地区まで4人がたどり着くと、ある角でアツコがハンドサインで3人を止めた。

 

<敵がいる>

 

 手話による伝達に、慣れているミサキとヒヨリはすぐに武器を構える。先生も生徒のために手話はわかるため、シッテムの箱の中にいるアロナにちらりと目配せした。

 

「ど、どうしますか…………」

 

 ヒヨリがアツコに耳打ちすると、アツコはもう一度手話で突破を提案する。旧校舎への道に待ち構えているのは5人だった。

 

「……やるなら私が。あの数は姫とヒヨリじゃ時間がかかる」

 

<わかった。なら初撃を。撃ち漏らしは私がやる>

 

「了解。……先生は巻き込まれないようにヒヨリと一緒にいて」

 

「わかったよ」

 

 ミサキがロケットランチャーを上方へと構えた。先生はふと気になったので、狙いをつけているミサキに質問した。

 

「あのさ、ミサキ」

 

「……なに。今話しかけるなんてありえない」

 

「あ、ごめん。ただそれ……多連装ロケットシステム、じゃないよね」

 

 先生の質問に、ミサキが露骨にイラっとした表情し、舌打ちした。そこまでキレなくても、と先生は思いつつも、信頼関係は無いも同然なので当然といえば当然だった。

 

「あ、あのぉ、一応私が説明するとぉ、ミサキさんの使ってる弾頭は、ミレニアム製のMLRS弾ってやつです」

 

「高そうだね」

 

「高いですね………」

 

「補給どうしてたの?」

 

<ミサキは極力通常の弾頭と、サブで使ってるリボルバーで頑張ってた>

 

「うるさい。集中できない。黙って」

 

 ぴしゃりと放たれたミサキの怒りの言葉に先生を含む3人は口をキュッと結んだ。

 

 この状況で和ませようとする先生の精神力と、それに乗れる相変わらず巨木のような図太さのヒヨリに盛大なため息を吐きながらミサキは狙いをつけ終わる。

 

「3秒で発射。カウント。3、2、1、0——発射」

 

 大きな発射音と共に、飛翔音。ミサキの放った砲弾は空中でMLRS弾の名に恥じない性能を見せる。まるで花火のように赤い光が幾つも真っ暗な雲空の下で煌めいた。

 

「な、なんだ!?」

 

「MLRS!?アリウススクワッドか!?」

 

 待ち構えていたアリウススクワッドの生徒たちは上空から降り注ぐロケット弾に為す術なく被弾していく。5人のうち2人がこの時点で脱落した。

 

「くそっ!すぐに報告を……がっ!?」

 

「……ふっ…!」

 

 混乱しているアリウス生に対して、アツコが一気に突撃をかけ、一人に飛び掛かるとそのまま股に挟み地面に叩きつける。気絶したその生徒から前転し飛び退くと、反撃しようとしていたアサルトライフルを構えた生徒にアツコは手に持ったサブマシンガンを向け、射撃しながら吶喊する。

 

「なっ、ひ、姫……!?」

 

「たあああっ!」

 

 姫と呼ばれるに相応しい鈴のような声で勇ましい雄叫びをあげながらアツコはサオリから教え込まれた通りの近接術で一気に接近し、相手から銃弾が放たれる寸前で、向けられていたアサルトライフルを左手で押さえ込み、弾丸はアツコの体の左側外、地面に向かって放たれる。

 

「籠の鳥でこの速さなのか…!?」

 

「私は、守られるだけの姫じゃない…!」

 

 アツコが相手の腹部にサブマシンガンを向け、トリガー。衝撃を腹に受け、相手は思わず銃を取り落とし、アツコは足払いのうえ、前のめりに倒れた相手の首筋に肘を殴打。たまらずまた一人の生徒が沈んだ。

 

「つ、つよ…本当にお姫様?」

 

「ほ、ほんとにそうですよね」

 

「……ヒヨリは知ってるでしょ」

 

 残りの一人がこのままではアツコにやられるだけだと一旦距離をとる。アツコは時間はかけられないと最後の一人を制圧しようとしたが、動きを止める。相手の手の中に、先ほど自分が放り投げたものと同じようなアンプルがあったからだ。

 

「黄金の一滴…!」

 

「アリウススクワッドを止めないと、アタシたちがマダムに殺される…!殺るか、殺られるかなんだ……あ、アタシだって!」

 

 追い込まれた生徒が黄金の一滴を服用する。一本丸々となれば、その効果はその場にいる全員が知るところだった。急激に身体能力が増強され、薬を飲んだ生徒がアツコに飛び掛かる。

 

 銃床で殴りかかられ、アツコは咄嗟に回避するが、背後に気配があった。

 

「ヒヨリ援護!」

 

「せ、先生!ですがここからでは姫ちゃんに当たります!」

 

 アツコを羽交い締めにしようと、もう一人の生徒も黄金の一滴を飲んで復活していた。ヒヨリが先生の指揮に従い援護をしようにも、射線上にアツコがいるため、相手が避ければアツコに当たり致命的な隙が出るため撃てなかった。

 

「二人も飲んでしまっては……!」

 

 アツコはなんとか脇腹から銃口を背後に向け羽交い締めにしようと迫る相手へと撃つも、痛覚も麻痺している相手には全く効かなかった。

 

「捕まえたぞ!」

 

「眠らせてマダムのところにっ!」

 

 二人以外の生徒も薬を躊躇いなく飲み、起きあがる。計5人の薬を飲んだ生徒がアツコに襲い掛かろうとしていた。

 

「邪魔だよ★」

 

「がぅ!?」

 

 突如、白い何かが割り込み、アツコに飛びかかろうとしていた生徒が廃墟へと吹き飛び、遠くで煙を上げて姿が見えなくなった。

 

「な、なんだぁ!?」

 

「いきなり邪魔を!」

 

 現れた何かに、また一人の生徒が飛びかかろうとするが、今度は青い稲妻のような影がその場でアリウス生を転ばせると、銃床で殴り、気絶させた。

 

「全員動くなッ!」

 

 鋭い威嚇するかのような叫びが、その場にいる全員の動きをピタリと止める。

 

 現れた二人——エリカとミカに、アリウス生たちが驚愕する。

 

「ば、馬鹿な!?聖園ミカに、草鞋野エリカ!?なぜ、ここに!?」

 

「チーム8が撹乱をしたんじゃ」

 

 アリウス生たちの言葉に、エリカが「フンっ」と鼻で笑った。

 

「撹乱?あれでか?D.U.の不良のほうがもう少しマシなことをするぞ」

 

「あははっ、本当にね。あんなので私たちが止められると思ったの?」

 

 先生は何故あの二人がこの場に来たのか理解できなかったが、次にエリカが発した言葉で全てを察した。

 

「桐藤……ナギサはどこだ?どこにやった!」

 

「(ナギサも攫われてるんだ……それで二人が……)」

 

 エリカの怒りように先生はまずいと感じていた。エリカは滅多に怒りはしない。だが、そのブレーキが壊れてしまっているのではないかと。それはミカにも言える。先生はなんとか二人が暴れ出す前に声をかけようとする。

 

「エリちゃん!ミカ!」

 

「「先生!?」」

 

 二人は先生が驚いたように同じく驚いた様子で先生の声に反応した。隙ができた、と一人のアリウス生がエリカに飛びかかろうとするが、それは簡単にエリカによって回避され、ミカが最初の一人目とは違う方向に蹴り飛ばした。

 

「……動くなと言ったはずだ」

 

「ほんとにね?次はどこに飛ばそうかなぁ〜♪」

 

「ぐっ…!なんなんだ、こいつら…!」

 

「ふふっ、どうしたの?そんなさ——正義の味方を前にした、悪役みたいな顔しちゃって」

 

 ミカが不敵な笑みを浮かべつつ、エリカと背中合わせにアツコの前に立つ。

 

「……聖園ミカ、あなたは、どうして」

 

「アツコちゃんだっけ?あははっ、別に私、あなたたちのこと許したわけじゃないよ。でもさ、ここに来るまでに何人か、エリカちゃんが“お話”を聞いてくれたんだ」

 

「君たちアリウススクワッドも仲間の救出のためにアリウス分校と対立していることは聞いた。私と聖園はシャーレの生徒だ。アリウスを牛耳るベアトリーチェと敵対しているというのなら、私たちは君たちも助ける」

 

「そういうわけ。先生もそっちにいるなら、まぁ、加勢しないわけにはいかないよね。敵の敵は味方、って言うじゃん」

 

 この状況で、最高ともいえる援軍の登場に、先生は巻き込んでしまった申し訳なさと同時に助かったという気持ちがあった。

 

「エリちゃん、ミカ!この先の旧校舎にサオリたちが囚われてる場所にいける通路があるの!だから!」

 

「了解です、先生!」

 

「オッケー!そういうことなら」

 

 ミカとエリカが、それぞれ銃口を向ける。アツコを制圧しようとしていたアリウス生たちはたじろぐ。

 

「そんな数で私たちに勝とうなんて、正気かな?」

 

「ここは通させてもらう!」

 

 先生たちが旧校舎へとそれから侵入したのはそれから僅か3分後だった。

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……ここ、は」

 

「あら、目が覚めたのですか?」

 

「………ッ……あなたは…一体……!?」

 

 祭壇。おぞましい化け物を称えたステンドグラスを背に、供物として捧げられたナギサは目を覚ましてしまった。そして、目に入ったのは赤い体に白いドレス……それが服ではなく肉体からシームレスに変化した肌のようなものであることにナギサは気が付く。何よりも、ナギサを見上げる複数の目が、目の前の人型が化け物であることを十二分に示していた。

 

 ナギサはなんとか気を失う前のことを思い返すが、どうやっても晄輪大祭の会場であるスタジアムの外縁部で迷い、何故かいたアリウス生に捕まった後からの記憶がなかった。

 

 自身の状態を確認するために首を動かせば、何か木のような柱の上に蔦のようなもので拘束され、衣服は全て剥かれていることに気が付く。

 

「……何の真似ですか。このような」

 

「その前に自己紹介をしておきましょう。私はベアトリーチェ。このアリウス自地区を治めているものです」

 

「貴方が……!?」

 

 人ならざるものがアリウスを操っていた、という事実にナギサは驚きつつも、今まで噛み合わなかったピースがこの場でついにハマり、頭の中がクリアになる。

 

「そういうことですか。あなたが、アリウスを教唆した………!」

 

「教唆とは人聞きの悪い。私はただ、子供達に伝えたにすぎません。アリウスの真実を」

 

「真実?」

 

「この自地区の現状を招いたのはトリニティのせいであり、アリウスには復讐の権利があることをです」

 

 ナギサは瞳を閉じ、改めてベアトリーチェを睨んだ。

 

「——そうですか、あなただったのですね。一連の、全ての元凶は」

 

「まるで探偵のよう。いいでしょう。儀式までまだ時間があります。お遊びに付き合ってあげましょう」

 

 勝利を確信しているかのような余裕に、ナギサは疑問に思いながらも口を開く。

 

「ミカさんを唆したのはあなたですね」

 

「…いきなりそこに気が付くとは。そう、私です。聖園ミカの記憶は封じましたが、彼女に白洲アズサを預けて、まずはトリガーとしました。あなたの幼馴染でしたか、滑稽でしたよ。ふふふっ、身体は女神のように熟してもまるで子供のような夢を信じて」

 

 ナギサは人生で初めて、激怒という感情を発露した。ミシリ、と彼女を捕える拘束具が音を立てる。

 

「火事場の馬鹿力でしょうか。……流石は三大天使の一角。聖園ミカと同じぐらいの潜在能力はあるのですね」

 

「あなたはっ…ミカさんの想いを利用して…!」

 

 アリウスとの和解。もし成し遂げられていれば、ミカの今の評価は明らかに反転していた。それほどの偉業だ。だが、それはあり得ることはなかった。目の前のベアトリーチェという存在によって。

 

「利用することの何が悪いのですか?桐藤ナギサ。あなたもそうでしょう。生徒会長…首長の真似事をする中で、そうしてきたのではなくて?」

 

「そうだとしても……あなたがアリウスを歪めなければ、私は……!」

 

 そもそもとして、アリウスが歪められなければ、ヒフミやコハル、ハナコ、アズサを傷つけずに済み、エデン条約は何事もなく締結されていた。

 

 何も起きなければ、生徒会長として、最悪と言っていい行いをナギサはする必要もなかった。

 

「………黄金の一滴、アレを用意したのもあなたですね?」

 

「量産したという点ではそう。けれど、あの薬を持ち込んだのは私ではありません」

 

「え……」

 

「あの薬はアリウススクワッドに、弱すぎる生徒を薬物投与で強化できるか探らせている最中に、彼女たちに接触してきた人物から貰い受けたもの。私が発明したわけではありません」

 

 ナギサの顔に驚愕が満ちる。エデン条約の一連の事件と黄金の一滴は絡みこそあれど、問題としては全くの別件だったのだ。

 

「あぁ、黄金の一滴に絡んだ事件はある程度、私も知っています。草鞋野エリカ……今頃、あなたはどこかと哀れに探し回っていることでしょう」

 

「あなたは……どこまでも人を見下して……!」

 

「黙りなさい。小娘」

 

「っ……!」

 

 ベアトリーチェが態度を一変させる。

 

「見下す?思い上がりも甚だしい。私は大人です。あなたたち子供を扱うのは当然の権利でしょう」

 

 まるでナギサをモノでも見るかのような視線に、ナギサはベアトリーチェをまさしくバケモノであると感じる。

 

「……私をこれからどうしようと?」

 

「桐藤ナギサ。あなたは自身の神秘が強大であること自覚しているでしょう?あなたは最高の生贄になる。これからやってくる隣にいる子供のお姫様と一緒に」

 

 隣、と言われナギサは首を右に向ける。

 

「なっ……!」

 

 ナギサと同じように、そこにはかつてナギサの想い人のヘイローを破壊寸前にまで追い込んだアリウスの生徒——錠前サオリがいた。

 

「なぜ彼女が!?」

 

「私は非効率なことは好みません。ですから、餌を用意しました。先生…あなたたち子供がそう呼ぶ大人。彼女は認めたくありませんが最大の脅威となります。彼女ごとロイヤルブラッドをここに誘い込み、先生を処分してから儀式を始め……より高次の存在へと私は昇華します」

 

「罠だと…そう言うのですか、あなたは……!」

 

「皆が彼女を持ち上げますが、私からすれば馬鹿な娘にしか見えません。子供のために自分を捨てるなど……現に彼女はここに向かってきています」

 

 それはそうだろう、とナギサは苦い顔をする。先生であれば生徒の声は無視できない。からなず助けようとする。罠だと伝える手段などなく、ナギサはもはやこれはどうすることもできないと悟った。

 

「ようやく気が付きましたか?もはや全ては虚しく……あなたの思考も、感情も、全てが徒労に終わるということを」

 

「ぐっ…こんな、拘束……!」

 

「無駄です。あなたは弱い。ただ小賢しいだけの子供」

 

 嘲るベアトリーチェに、ナギサはせめて意志だけは屈するものかともがく。

 

 そうしていると、儀式が執り行われるこの場、バシリカへ慌てた様子でアリウス生が駆け込んできた。

 

「マダム!」

 

「……なんですか。こんな時に」

 

 露骨なまでに不機嫌な声でベアトリーチェはアリウス生へ応える。アリウス生は必死の形相でベアトリーチェへ報告した。

 

「わ、草鞋野エリカと、聖園ミカも自治区に侵入し、こちらへ向かってきています!」

 

「——は?」

 

 ベアトリーチェの身体が硬直する。まるで、ありえない言葉を聞いたかのような。

 

「馬鹿な!そんなことはありえない!あの小娘どもは狐が見せた予知夢の中には…!」

 

「た、対処は!対処はどのようにすれば!?」

 

「黄金の一滴を全員飲みなさい」

 

 正気を疑うような発言に、ナギサは空いた口が塞がらなかった。

 

「で、ですが、適合できないものも」

 

「全員飲みなさい。聞こえていないのですか?適合できないものも、死にはしません」

 

「し、しかし、体の弱い生徒は、まともに……うぎゃっ!?」

 

 意見したアリウス生をベアトリーチェは蹴り飛ばし、蹴られた生徒は石造りの壁に叩きつけられ、短い悲鳴をあげるとそのまま倒れ、その場で呻いた。

 

「私は、あなたの意見を求めていません。私は命令しているのですよ?——薬をいいから飲みなさい!飲んで、時間稼ぎをしなさい!通せば、わかっていますね?」

 

「ひっ、ぐっ、ぁ、ああっ、わ、わかり、ました」

 

 体を引きずりながら、伝令役の生徒は出ていく。ナギサはとうとうベアトリーチェを射抜くように見つめる。

 

「全く使えない愚図が………なんですか?あなたも覚えはあるでしょう。あのような生意気な相手が」

 

「あなたのやっていることは自地区を治める者がすることではありません…!あれはただ、恐怖で操っているだけです…!」

 

「黙りなさい!」

 

「ぅ…!?あ、ああああああっ!」

 

 ナギサを縛る拘束具からまるで電流のようなものが流れ、ナギサは激痛のあまり悲鳴をあげる。それは数秒続き、終わった頃にはナギサは意識が朦朧としていた。

 

「……あ……ぅ……………」

 

「そろそろ、おしゃべりの時間はおしまいです。さようなら。闇に堕ちなさい……天使」

 

「えりか、さん……たすけ……」

 

 ナギサの意識が落ちていく。今度は奈落に、二度と這い上がれない谷の底へと墜落していくかのように。

 

 最愛の少女を呼ぶ声は————届くことはなかった。

 

 今は、まだ。

 

 




ゲーム内でも何故タンク!?と当時驚いた記憶があるアツコ(編成するとそして強い)。

磔にされて助けを待つのはメインヒロインの風格…出てるかなぁ。

次話も同じく午後11時投下です。よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。