頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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連続投下3日目です。

全く今話と関係無いですが、ハイランダーの双子に負けました。


Area-19「アリウス・バシリカ #怪物 #最終決戦 #儀式」

 まるでボールのように私の前でアリウス生が飛んで行った。

 

「ふーん。話はエリカちゃんたちから聞いてたけど、これが黄金の一滴?ほんとに私並なの?」

 

 アリウス・バシリカというところに先生たちが助けようとしている錠前サオリと、おそらくはナギサちゃんがいると思われるので私とミカさんは先生に合流して、アリウス分校の旧校舎から目的地につながる道を進んでいたけど、途中からアリウス分校の生徒が急激に増え、全員が黄金の一滴を飲んでいるという異常な状況に遭遇した。

 

 流石にまずいか、と思ったら相手のほとんどはミカさんに全く通用しなかった。

 

「どうしたの?エリカちゃん。そんな引き攣った顔をして」

 

「…いや、その薬、並の子もミカさんほどじゃないとはいえ、かなり強くなるはずなんだけど」

 

「ほんとに?誇張してない?」

 

 今も物陰から殴りかかってきたアリウス生を左手一本でミカさんは止め、そのままパンチをしてノックアウトする。アリウス生は壁にめり込んで気絶してしまった。

 

「エリちゃん!」

 

「ッ!?」

 

 呑気に見てる場合じゃない!私も横から襲い掛かられたので、銃床でアッパーを相手に食らわせて気絶させる。あっぶな。油断も隙もない。

 

「先生、ありがとうございます」

 

「いや大丈夫……エリちゃんもミカのこと言えなくないかな」

 

「そんなことないです」

 

 あんな動かず腕の力だけでノックアウトなんて無理だ。他のアリウスの子達は消耗を避けるために今は先生の護衛だけに専念してもらって、私とミカさんがつゆ払いしてるけど、流石に数が多すぎる。

 

 まさか全戦力をここに集結させようとしてるの?

 

「アツコ、あとどれぐらいで着くの?」

 

「あともう少し。けど、本当に生徒が多い」

 

 正面からスクラムを組んで突撃してくるし、本当に多い。私とミカさんが同時に肉壁となって迫ってくる生徒たちに発砲する。そうすれば流石に私とミカさん両方の攻撃を受けて、耐えきれずに倒れた。

 

「……弱いのは、薬に適合してない連中にも無理に飲ませてるからなんじゃない?」

 

 戒野さんが、相手が弱い理由を告げた。薬に適合しないって…そんな子にも飲ませて無理やり特攻させてるってこと?ベアトリーチェとかいう大人は本当に、どういうつもりで…。

 

 先生を見れば、先生も顔をしかめていた。

 

「とにかく急ごう。これ以上、アリウスの子達と戦うのは避けたい」

 

「そうですね、けど、ほ、ほんとうに皆さん、なんでこんな必死に」

 

 槌永さんが理解できないと言わんばかりに倒れている生徒を見て言う。本当に、これじゃあまるで、絶対に、何をしてでも私たちを通すなって言われてるみたいだ。それこそ、命を引き換えにして。

 

「あのババァに、みんなで薬を飲んで止めないと、って脅されてるんだと思う」

 

 いや今ものすごい綺麗な声で、ものすごい汚い言葉出なかった!?

 

「ひ、ひひ、姫ちゃん!?そんな汚い言葉使うなんてどうしたんですか!?」

 

「ぶっ……ふふっ……」

 

 いかにもお姫様といった様子の秤さんが、ババァ、なんて言うとは思わないよ!初対面の私も流石に驚くよ!槌永さんは顔を青くしてるし、戒野さんは吹き出している。

 

「あははっ、すごいこと言うね!けど確かに、あれはクソババァだよね」

 

 ミカさんまで!?

 

「ちょっと二人とも、あんまり汚い言葉はダメだよ。さっき思わず私は言っちゃったけど」

 

 先生が流石に二人を嗜めた。いやほんと、やっていることは最悪だから気持ちはわかるけど、わざわざ罵倒するのにも値しない相手だと思う。こんなことをしてくる犯人にかける言葉はもう「逮捕」と「収監」だけだ。

 

 それからしばらく走って、物陰からの奇襲や必死に突撃してくるアリウス生を退けながら、私たちはようやく開けた場所に辿り着いた。

 

「ここは、聖堂……?」

 

 ミカさんが呟く。確かに、造りはまるきりトリニティ式だからそうかも。ただ、長いこと放置されているのか、かなり薄汚れているし、置かれている石で出来た椅子も割れたりしてとてもミサはやれそうにない。

 

 奥、明かりが差し込んでいるところには大きなステンドグラスが見えた。見えたけど、その前に聳え立っている木のようなものが2本あった。

 

「…………え」

 

 その1本の先に、くくりつけられている人が見えた。

 

 服は脱がされ、綺麗だった翼は荒れて、意識を失っている。

 

「ナギサ、ちゃん?」

 

 私が探していた、私の大切な友達が、生贄のように捧げられていた。

 

「ナギちゃん……そんな」

 

 ミカさんも、隣で立ち尽くしている。

 

 そして、ナギサちゃんの隣にもある同じようなものには、私と先生を以前追い込んだ錠前サオリがナギサちゃんと同じように磔にされている。

 

「リーダー…」

 

「サオリ姉さん!」

 

「サオリ…!」

 

 アリウススクワッドの子たちも悲鳴のような声で錠前さんを呼んだ。

 

 私は今すぐにあのふざけた木のようなものを破壊しようと銃を向けた。向けたが、射線の先に大きな影が割り込む。それは女性のような形をしていた。

 

「ようこそ生徒の皆さん、そして先生。私の敵対者よ」

 

 ドレスを纏ったような赤い女性のような怪人、そうとしか形容できない容姿の人が私たちを待っていたと両手を広げて出迎えた。あぁ、そうか。こいつが、こいつが。

 

「貴様がベアトリーチェだな」

 

「……そう。私がベアトリーチェ」

 

「警告する。ただちに人質を解放し、その場に伏せろ。さもなくば」

 

「さもなくば?」

 

「身の安全は保証できない」

 

 ピリピリと、尋常ではない気配がベアトリーチェからしてくる。生半可な気持ちで、無力化を狙ってできる相手じゃなさそうだ。

 

 私の警告に、ベアトリーチェはくすくすと笑っていた。

 

「身の安全は保証できない?子供ごときが何を言うのかと思えば。警察ごっこも大概にしたらどうなのですか」

 

「…………繰り返す。直ちに人質を解放しろ」

 

 挑発……じゃないこれは。私を本当に子供だと、舐めるなと言ってきている。この人は違う。これまで相手にしてきたような相手とは。

 

「先生。……こうしてようやく言葉を交わせるのですから、あなたに問いましょう」

 

 私を無視して、先生へとベアトリーチェは声をかけてきた。

 

「見えますか?今、この天使から私は神秘を搾取し、キヴォトスの外から到来する力も使い…より高位な存在に私自身を昇華しています」

 

 待って、それって……!もう、儀式が始まってる!?ナギサちゃんを…!?

 

「同じ大人であるあなたなら理解できましょう。この意味を。より高位な存在となり、全てを救う——大人の義務」

 

 大人の、義務?全てを救う?

 

「その高みに至った先、頂きこそ大人が到達すべき境地……過程で子供(これら)を使い果たしたとしても、必要な犠牲なのです」

 

「……………」

 

 先生は黙っている。ベアトリーチェの意味のわからない話に耳を傾けている。

 

「この崇高……先生、あなたは理解しているでしょう。生徒を裁く権利も、救うことも、その手で全てを左右できる絶対者であるあなたはわかるでしょう」

 

「すごいね、まるで神様みたいだ」

 

 先生の声は驚くぐらい感情がこもっていなかった。心底、どうでもいい、そんな風に聞こえた。先生からこんな声を聞いたのは初めてだった。

 

「えぇ、そうです。そうで——何故、他人事のように?」

 

 ベアトリーチェは困惑していた。まるで、決めつけていたかのように。

 

「悪いけど、私は別になんでもない。ただの人だよ」

 

「何を」

 

「……なんかみんな勘違いしてるけどさ、別にシャーレは何でも好き勝手できる組織じゃなくてさぁ、ただの連邦生徒会の一部活でしかないのよ。どこかの自治区に調査に行きたきゃ先に手紙送って連絡するし、ある生徒たちにキャンプ場を使わせたきゃ担当室にアポ取って協議して、管理移管してもらったり」

 

 本当は、シャーレは何でもできる。全て自由にできる強権がある。けど、私たちはこれまで、無茶な行使こそしても、無闇にその権利を使うことはしてこなかった。

 

「私は別に生徒を裁く権利はないし、世界を救うなんて大それたこともできない。物事の善悪も私の尺度で決まる話じゃない。餅は餅屋に任せるからさ——何でもできる、そんな神様みたいなことはできやしないよ」

 

「馬鹿なことを……それほどまでに力を持ちながら、何故、振るわぬのですか…?」

 

「私は先生なんだよ。だからあなたが言う力の定義はよくわからないけど、私は私の力と役目を以って、生徒たちのための先生で……それ以上にもそれ以下にもなれない」

 

「意味がわからない………!何がしたいというのですか、あなたは」

 

「私は、生徒みんなの喜び、悲しみ、怒り、苦しみ、全てに寄り添いたい。ただそれだけだよ」

 

 先生……本当にあなたという人は、先生みたいな大人だからこそ、生徒の味方であれるんだね。

 

「……あなたの考えはわかりました先生。それにしても、まさかまたこうして会うとは。聖園ミカ」

 

「ほんとにね?私はエリカちゃんみたいに優しくないからさ……消えてよ」

 

 今まで見た中で、目で追いきれないほどの速度でミカさんがベアトリーチェに襲いかかった。だけど、それはベアトリーチェの前に現れた光が阻んだ。

 

「ッ…!?ミカを止めた…!」

 

 先生の驚愕する声。私も同じ驚く。光が人型を形作る。あれは、ユスティナ聖徒会!?けど、今までの普通のと違う。身体も大きいし、凄まじい威圧感。そう、これはまるで、どこかの学園の生徒会長を前にしたような。

 

「ミカさん!」

 

 援護のために私はミカさんの拳を掴んでいる強いユスティナ信徒の足を狙って撃つ。そうすると、相手はミカさんを振り払って、私たちのほうへと蹴り飛ばした。

 

「うっ!?」

 

 その上、虚空から武器を出現させて両手に持ってこっちに構えてくる。うそ、何あの馬鹿でかいガトリングガン!?避け…たらダメだ!背後には先生がいる!

 

「先生!伏せて!」

 

 私の叫びと、ガトリングガンからおびただしい量の弾丸が吐き出されたのは同時だった。

 

 ミカさんはなんとか空中で一回転しながら体勢を立て直すけど、そこはガトリングガンの射線上。真正面から飛んでくる弾丸の雨をまともに受けた。

 

「ぐっ…!?」

 

 そして、私も避けることはできず盾になるように背を向け、先生の被弾面積を少しでも減らす。幸いにも、アリウススクワッドの三人も先生を庇ってくれて、なんとか先生には弾が当たっていない。

 

 その場に縫い付けられた私たちにベアトリーチェが小馬鹿にしたかのように話してくる。

 

「聖女バルバラ。かつてのユスティナ聖徒会の聖処女。戒律の守護者そのもの。アリウスは彼女たちによりここに居場所を与えられた。つまりは聖地……ミメシスとしての性能はあのトリニティの古聖堂の時よりも高い。あなたたちよりも、遥かに優秀な生徒(どうぐ)です」

 

 本当に、この人は……!私たちを、道具…!?

 

「何を言っているのか、わかっているのか!あなたは!?」

 

「子供は大人に従うもの。当然のことを言ってるのに理解できないのですか?だからヴァルキューレから追放されたのでしょう。あぁ、でも、あなたは殺人を経験しているという点では、ただのアリウスの使えない道具たちとは違う」

 

 銃撃は気付けば止んでいた。

 

「エリちゃん!落ち着いて!」

 

 先生が呼び止めて、私はなんとかベアトリーチェへ飛び掛かるのを抑えた。

 

「フゥ————!フゥ————!」

 

「そんなに鼻息荒く……猟犬がいいところでしょうか。まぁ、そこのアリウススクワッドよりは使えそうですね」

 

 ガチガチと、歯が当たる。手が震える。ライフルの照準がブレる。頭の中が真っ白だ。目の前の全部を壊せと胸の奥から誰かが叫んでる。全て壊して自分の欲しいものを手にしろと言ってきている。

 

 まるでそれが私の本能かのように。

 

「流石にしっかり手綱を握っていますね。先生」

 

「……もう黙れ。あんたは私を絶対理解できない。あんたと喋るぐらいなら黒服と胡散臭い話したほうが百倍マシだよ」

 

 ベアトリーチェが凄まじい形相で私越しに先生を見ていた。先生の怒った声で、暴れていた私の中の本能が少し抑えられた。

 

「アツコ。今すぐこちらにきなさい。そうすれば第二の儀式を始め、あなた以外のそこにいるものたちは見逃してあげましょう」

 

「…………え…」

 

「もちろん、サオリも解放します。元からあなたの時間はここまで。約束のとおり。アリウススクワッドは役目を果たせなかった」

 

 嘘だ。間違いない。ベアトリーチェは最初から私たちを見逃そうなんて思ってない。

 

「ひ、姫ちゃん」

 

「アツコ。ダメ。絶対嘘だよ」

 

 槌永さんが困惑し、戒野さんが嘘だと断じた。途端に、ゾワっとする気配がした。

 

 咄嗟だった。膝をついている先生を庇うように、同じく体勢を崩して膝をついていた二人に虚空から現れた化け物のようなモノが腕を突き出していた。槌永さん私の右、つまり銃を持っている利き手だから撃てば防げる。けど、戒野さんは逆。銃撃しては間に合わない。

 

「は?」

 

 戒野さんの前に入って、私は化け物が突き出した貫手を体で受けた。なんとか致命傷だけは避けて、左の脇腹に貫手は掠った。

 

「ぅ、ぎっ……こんのぉ!」

 

 顔のような部分に手榴弾のピンを抜き押し付け、そのまま蹴り飛ばす。この聖堂の入り口まで吹っ飛んだ手の長い大きなヘイローを背負った化け物のようなものは爆散し、消えていった。

 

「な、なんで」

 

 ぐっ、いったい。シャーレの制服じゃないから、脇腹やっば、ダメかも。だくだく血が出てる。戒野さんが私を信じられないような目で見てる。

 

「エリちゃん!……ベアトリーチェ!!あんたはっ!」

 

「先生!指揮を!」

 

 けど、怯んでる暇はない。もう、戦うしかない。秤さんは二人が殺されかけたことに固まっていたので、私は声をかける。

 

「秤さん!」

 

「あ…」

 

「あの人は約束なんて守る気ないよ!見て!?こんなになるような攻撃を二人にしてくる!わかるでしょう!?」

 

 秤さんがなんとか銃を構え直す。既に臨戦状態となっている最前列のミカさんの横に私は並んだ。もう制服の脇腹は真っ赤だ。あーあ、また制服を汚しちゃったし、破けちゃったから弁償しないといけない。

 

 カヤちゃんに怒られるな。

 

「エリカちゃん、大丈夫じゃないよね。どんぐらいまでいけそ?」

 

「……ナギサちゃんと、錠前さんを救うまではいけるよ」

 

「オッケー。それじゃ、やろっか」

 

 一緒に、目の前のユスティナ信徒、バルバラとかいうやつと、ベアトリーチェへ銃を向ける。ベアトリーチェはわなわなと震えていた。

 

「………なるほど、少しは境地に至る前に参考ぐらいにはと思っていましたが、無駄だったようですね。先生、では予定通り、ここで果ててください。その使えない道具たちと一緒に」

 

 急速に、敵が増えていく。トリニティの古聖堂で戦ったユスティナ信徒だ。それがバルバラと並んでいた。

 

「さっきはびっくりしたけどさ、そんな数を揃えるってことは自分が弱いってことを理解してるんだね?おばさん」

 

「……えぇ、そうです。私は“彼ら”のように侮りません。確実に、あなた方を始末する。そのために、ここへ誘い込んだのですから」

 

「へぇ〜、じゃあおもてなし準備は万全!ってことだね。それなら、私も本気でやってあげるね」

 

 ミカさんが煽るように言った。いや待って?本気?ミカさん、今まで本気じゃなかったの?どういうこと?

 

 何をする気なのか、ミカさんが祈り出した。こんな今にもあの目の前の軍勢が攻め込んできそうな状況で、なんで祈るの?いや、必勝祈願みたいな…?とにかく、儀式が完遂される前にナギサちゃんを解放しないと。

 

 私は駆け出そうとして、止まった。妙な、風切り音が聞こえたから。

 

「——聞こえる。星の声が。聞こえる。私を呼ぶ声が。ねぇ、あなたたちにも聞こえる?」

 

 まるで歌声のようなミカさんの言葉は魔法を唱えているようにも聞こえた。

 

 直後、目の前で加速度的に増殖していくユスティナ信徒の頭上から天井を突き破って何かが落下した。威力は凄まじく、降ってきたものの直撃により一瞬で何十体もの信徒が消失する。みんなが、敵であるベアトリーチェさえも、口を開けたまま固まった。

 

「み、ミカ?何をしたの?」

 

 かろうじで、先生がミカさんに何をしたのか聞くと、ミカさんは普段通りの調子で答えてくれた。

 

「お星様を呼んだだけだよ」

 

 お星様。それが降ってきたって、つまり、なに?ミカさんは任意で隕石を降らせられるってこと!?

 

「ありえない!そんなこと!隕石を自由に落とせる!?一体お前はなんの」

 

「ふふっ。こんな狭いところで数を揃えても意味ないよ?だって、たくさんの星の呼び声が聞こえるの。あと何発耐えられるかな★」

 

 規格外。私、こんな子に同じぐらい強いって言われてたの?絶対違うと思う。

 

 数が意味をなさないと悟ってか、ユスティナ信徒が今度はバルバラに溶け合っていく。なるほど、力をあの一体に集中させようって魂胆なんだね。

 

「いいでしょう。桐藤ナギサへの儀式は終わる。今の段階でも、十二分。バルバラと私で、あなたたちを虚無に帰してあげます」

 

 ベアトリーチェがいきなり変態を始めた。女性らしい体つきがどんどん変形していく。まるで、花の形をしたような化け物に、変わっていく。

 

「…………それが、あんたの本当の姿なんだね」

 

「えぇ、そうです。これこそ、高位の存在となった私の姿。もはやあなたたちは敵わない。死になさい」

 

 バルバラへのユスティナ信徒への合体が完了したのと同時に、私とミカさんはバルバラとベアトリーチェへと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 日付が変わるまであと十数分といったところで、サンクトゥムタワーの防衛室室長執務室内のデスクでカヤは伸びていた。財務室の室長であるアオイからの執拗なまでの書類の誤記や未申告だったFOX小隊の装備に関する予算使用を帳簿に記載するように求められ、アオイが付きっきりでカヤは1日書類と格闘していた。

 

「………え、エリカさんがいれば、こんなことには」

 

 相変わらずエリカを役員たちの要望をそのまま受け入れ追い出したことを棚に上げながら、エリカの事務処理能力がカヤは恋しくなっていた。

 

「いっそ、FOX小隊を秘書に…いや、私的利用は後々突かれそうですし……」

 

 FOX小隊の誰かを秘書に据えようと考えるも、カヤは冷静にも政治的な弱点になりうると思い、自身でその案を無かった事にする。

 

「まぁ、もう今日はいいです……疲れました……とっとと寮に戻って寝て……」

 

 重い体をなんとか起こしてカヤは連邦生徒会の役員向けに用意されている官舎へと戻ろうとするが、立ち上がった途端に携帯が鳴った。こんな時間に誰だ、もう業務終了だから出ない、とカヤは思いながら発信者を見ると、七度ユキノと表示されていた。

 

 今まで一度もユキノはこのような時間にかけては来なかった。カヤのどんよりした思考は瞬時に切り替わる。

 

「はい。不知火です。どうしましたか?ユキノ」

 

『たった今、晄輪大祭終了と同時に、トリニティの生徒からアリウス分校による人攫いが発生したと通報がありました』

 

「は?いやいや、会場の警備は何をしていたんですか」

 

『……面目もありません。SRT、ヴァルキューレ共に防げず』

 

「全く。それで、どこの誰が攫われたんですか」

 

『トリニティ、桐藤ナギサ生徒会長です』

 

 冗談だろう、とカヤはユキノの報告を信じられなかった。そもそも、桐藤ナギサは晄輪大祭に参加していないはずであった。

 

「はぁ……あのですねぇ、参加もしていないはずの人物がなんでそんなところにいて、なんでアリウスが攫うんですか。ユキノ、競技で疲れているのではないですか?」

 

『いえ、彼女は草鞋野先輩が一時的にSRTに転入させ、今日1日は行動を共にしていました』

 

 無茶苦茶な内容にカヤは頭が痛くなりそうだった。トリニティの生徒会長が何故SRTに1日体験入学のようなことをしているのか、ありえない話であり、そんな権限を誰が持っているのか。

 

「……あっ」

 

『防衛室長?』

 

 が、すぐにカヤは思い出す。どうせ使うこともないが、一応正式な処理であるため箔も付けようと、生徒会長として全ての権限を使えるようにエリカをSRTの生徒会長として認めていたことを。

 

「…………意味がわかりませんが、状況はとりあえず、事実としてそうなっていると?」

 

『はい』

 

「なら、エリカさんや先生はどうしたのですか」

 

『それが…2名とも現在行方がわからず、音信不通です。加えて、現在シャーレで奉仕活動中の聖園ミカも姿が見えません』

 

「そうですか……で?それが何か」

 

 何か尋常ならざる事態が発生しているのは明らかであったが、カヤはユキノに冷たくもこう返すしか無かった。

 

 電話の向こうで、ユキノが一瞬呆けているのがカヤにもわかった。

 

『は………?何をおっしゃっているのですか!?自治区の生徒会長が攫われ、シャーレの部員も姿を消しているのです!シャーレがアリウス自治区へと向かったのは明白でしょう!』

 

「ユキノ。状況はわかりましたよ。でも、シャーレが無茶をして誰かを助けに行くのはよくあることです。そして、以前のエデン条約事件の時とは状況が違います。連邦生徒会、しいてはSRTが介入できる案件ですか?それは」

 

 カヤはユキノが何を求めているのかは理解できていた。エデン条約事件の際に行動を共にし、ユキノたちFOX小隊のことは少しでもわかっているつもりだ。だからこそ、カヤは改めてユキノに問う。本当にそれは——キヴォトスの存亡に関わる事態なのかと。

 

『しかし、晄輪大祭で事件が発生するなど前代未聞です…!室長、何かが起きてからでは』

 

「先代室長からの引き継ぎ書に書かれていたのですが、私たち治安維持を預かるものは風邪薬と同じだそうなのですよ」

 

『なっ……』

 

「何より、ユキノ。私たち防衛室とSRTの役目はなんでしょうか?このキヴォトスの安全保障を脅かすことへの対処です。行方不明者の捜索はヴァルキューレに任せるべきです」

 

 SRTがすべきことはそうではない、とカヤはユキノを諭すが、まだユキノは食い下がった。

 

『シャーレは……このキヴォトスにならなくてはならない存在です…!シャーレが無くなればキヴォトスはたちまち、元の混迷の世界へと逆戻りします!』

 

「………それを望んでいたのではなかったのですか?我々は。さすれば、SRTが復権すると」

 

『ッ!?』

 

 当初、手を組んだ目的をカヤはユキノに思い出させるように伝える。冷たく、まるで温度を感じさせないカヤの声音にユキノは何も返せず沈黙する。しばらくして、カヤがため息をついた。

 

「はぁ………まぁ、ですが、確かにそうかもしれません」

 

『…………』

 

「シャーレがいたからこそ、芽のうちに問題は摘まれ、本当に我々が必要となる事案は絞られています。七囚人、デカグラマトン……そして、エデン条約事件のようなキヴォトスの明日を左右する事案がですよ」

 

『室長…』

 

「いいでしょう。実を言えば、エリカさんの生徒会長としての権限は今日の23時59分まで有効です。あとで私がエリカさんに何が起きたのか聞いて、事後承諾でエデン条約の時のように七神代行の許可を得れば問題ないでしょう」

 

『では!』

 

「好きなように動いてください。ただし、前のようにあなた方の名前は残せないと思いますが」

 

『構いません。感謝します!不知火防衛室長』

 

 電話が切れ、カヤは携帯をデスクの上に置き、背後の窓から小雨になりつつある天気を見ながら、ニヤリと笑った。

 

「あなたたちの功績は残りませんがねぇ、もしこれで大きな事件ならあなたたちを投入した私の功績は内部に残るわけです。ふふふふふ、本当に安全保障に関わる案件なら私が実績独り占め。またしても連邦生徒会長への道が明るくなるでしょう…!頼みますよ?ユキノ、FOX小隊!」

 

 真っ当な物言いも何もかも、全て、結局カヤの中では連邦生徒会長への席を取るための点数稼ぎにしか過ぎなかった。

 

 もはや既に、カヤの実績はリンも、わざわざマンツーマンという形でカヤを指導したアオイからすれば、認め直す程度には積もっていたのだが、そんな周りの密かな評価を気がつけるわけもなく、エリカが評した通り————今日も彼女は空回っていた。

 

 後に、エリカからの報告を受け、事件全てを機密情報としてお蔵入りにしなくてはいけなくなってしまうのだが、今のカヤはそんなことを知る由もなかった。

 

 




この主人公いつも重傷になってんな……なお、ミカは今シャーレの制服を着ているので回避タンク並みの回避力に加えて純粋なタンクとしての強度も上がっていて、隕石降らしながら戦うことができます。なんだこの戦術兵器。でも原作一人で無限湧きするユスティナ信徒とアリウス生一晩止めてたのでミカは本当に強すぎる…。
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