頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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連続投下5日目、最後になります。

今話でこの6章は終了となります。エピローグなので短めです。


Area-21「シャーレビル・カフェ #デートの約束 #新入社員 #依頼」

「また無茶をされたのですね」

 

「ほんとね」

 

 晄輪大祭から一週間、つまりはあのアリウス自地区での騒動からも一週間が経過した。私は包帯だらけのまま復帰した。

 

 ただし、あのとき、自治区から帰る途中、貧血でぶっ倒れてナギサちゃんにトリニティへお持ち帰りされ、またしても蒼森ミネ団長にしこたま絞られた。

 

 ナギサちゃんにも当然怒られ、さらにようやく会えた百合園さんにはティーパーティーのお茶会に強制参加させられ散々「考えなし」「バカなのか」「ただありがとう」と罵倒とお礼をたくさん言われた。

 

「それで、アリウス自治区はどうなったのですか?」

 

「ハルナ、興味あるの?」

 

「あなたの冒険譚でしたら、いくらでも」

 

 アリウス分校はあのバシリカでの戦いのあと、残った生徒たちによって無条件降伏となった。ほとんどの生徒が黄金の一滴を服用して動けなくなってしまっていたし、アリウススクワッドのように自地区から幹部生徒たちも複数離脱し、もはやアリウス自地区……アリウス分校はその組織を維持できるだけの力は無くなってしまっていた。

 

 トリニティが何故アリウス自地区にたどり着けたのかはあとでわかったけど、アズサちゃんたち補習授業部も協力してくれて、なんとあの子たちは戦車ごと乗り込んでいたらしい。

 

 ハナコちゃん曰く「皆さんまるで、私たちの話がもう終わったみたいに除け者にするので」とのこと。なんで知ってるのかといえば、アズサちゃんが錠前さんたちのことを知りたくて補習授業部全員でお見舞いに来てくれたから。

 

「ニュースにもなっていないあたり、トリニティの力が働いていますね」

 

「うん。アリウス分校はさ、もしエデン条約事件で勝利してたら連邦生徒会とも戦おうとしてたの。それに、晄輪大祭の当日に事件を起こした」

 

「なるほど……パブリックエネミーの完成ですわね」

 

 アリウス分校の所業が知れ渡ればもはや、彼女たちは二度と太陽の下を歩けない。事件の公表を避けるように進言したのは先生と、そして、一連の事件の最大の被害者と言っていいナギサちゃんだった。

 

「ナギサさんは聖人もかくや、という勢いですわ」

 

「それ、みんなから言われてナギサちゃん嫌がってたよ」

 

「知っています。昨日、いろいろと愚痴を聞きましたわ」

 

「……仲良いね」

 

「えぇ」

 

 ハルナとナギサちゃんの友情も相変わらずみたいで安心した。まぁ、ナギサちゃんもアリウスを許したとかそういう単純な話で公表を避けるように言ったわけではない。そのまま公表すればいよいよ持ってトリニティ内でのナギサちゃんの立場が強くなりすぎてしまうため、今後のために伏せるらしい。

 

 幸いにも今回、アリウスに殴り込んだトリニティの生徒は少数で、SRTの生徒たちも機密事項の取り扱いには慣れているので秘密の出来事にできた。

 

「そういえば、銃が随分と綺麗になっていますわね」

 

「あ、これ?そうそう、ボロボロになったから再整備してくれてさ」

 

 ハルナ言ったのはガンラックにかけてある私のライフルだ。トリニティ製のナギサちゃんから渡された銃は正式に私のものとして永久に貸与されることになり、整備は言えばトリニティでやってくれるらしい。消えてしまったトリニティの校章も改めて描き直され、細かな傷も補修され、塗装もされ直した。

 

 整備代は聞かないでおいた。絶対ものすごいかかってる。

 

「あの銃はもういいのですか?」

 

「うーん、そうだね。ナギサちゃんに使ってもらおうかなって」

 

「…………永遠に?」

 

「どうだろ。わかんない」

 

 コーヒを一口飲み、ナギサちゃんに預けたままの銃のことを考える。大事にしてもらってるし、なんかもう普段使いもアレらしいので、いいかなって。代わりにナギサちゃんの羽は大事に持っていてほしいと本人から言われた。言われんでも机に綺麗に保存されてるから安心して、って言ったらナギサちゃんが珍しく言葉にならない悲鳴と共に「ばか…」と罵倒された。なんで?

 

「まぁほら、あれって元が試作品だし、私みたいにガンガン使う人が持ち続けたらいつか直せなくなっちゃうから。ナギサちゃんぐらいの子が持てばもっと長く使えるんじゃないかな」

 

「それはそうでしょうけれど……」

 

「だから本格的にもうこの子でやっていくし、ハルナにも狙撃のコツとか聞こうと思って」

 

「聞く必要ありますの?あなたの狙いは正確ですし」

 

「いやいや、私なんか何となく猿真似してるだけだよ。ヴァルキューレやSRTの後輩にはもっと凄い子いるし、トリニティの子たちにも目標に出来そうな子がごろごろいるんだから」

 

「……そういうことであればいくらでも教えますわ。わたくし、厳しいですわよ?」

 

「期待しとくよ」

 

 さぁて、もうそろそろお昼だね。私たちが今いるのはシャーレのカフェだ。先生と私で好き放題に色んなものを置いてるのでゲームセンターだったりマッサージルームだったり、簡単な勉強ができるスペースだったりとカオスな空間だけど、利用者がほぼいないのでさっきみたいな込み入った話をするにはちょうどよかった。

 

「これから私は外回りに行くけど、ハルナはどうする?」

 

「この前の埋め合わせ、まだしてもらっていませんわ」

 

「あぁ、キャンプファイヤーの」

 

「そうです。ただ、今日のところは勘弁して差し上げますわ。代わりと行ってはなんですが……こちらを」

 

「ん?」

 

 ハルナが私に渡してきたのは何かのチケットだった。内容を見てみよう。

 

「227号温泉郷?」

 

 チケットを見ると、2名までの宿泊券で1泊2日。温泉には入り放題。どこにある温泉宿なのか、と案内図と住所を見て驚いてしまった。

 

「レッドウィンター!?あそこにこんなのあったっけ?」

 

「ありますわよ。ゲヘナの温泉開発部も関わっているとか」

 

「……あ、そうなんだ。それで、これに一緒に行こうって?」

 

「えぇ。春先からエリカさん、まともに休めていますの?」

 

 うーん、そう言われるとそうだけど。仕事を放り投げるわけには……。

 

「話は聞いたよ!」

 

「わっ!?」

 

 いきなりバンっ!と勢いよく扉が開けられ、先生が入ってきた。

 

「あら先生、お邪魔してますわ」

 

「おっすハルナ。んでエリちゃん、休暇でしょ?明日から行ってよし!」

 

「え、いや、いいんですか?」

 

「全然。もうほんと、最近エリちゃん大変だったでしょ」

 

 傷はもう塞がってるし、温泉にも入れるだろうけど……まぁ、先生が良いって言うならいいのかな。

 

「じゃ、あとは若い二人で仲良くね〜」

 

 言うだけ言って先生はまたカフェから出て行ってしまった。なんか腑に落ちない感じがするけど、せっかくの先生の厚意を無駄にするのも申し訳ないので、行こうかな。

 

「……じゃ、いこっか」

 

「いいのですか?」

 

「あそこまで言われたらいかないとね。案内はよろしくね」

 

「……ええ、喜んで!最高の旅にして差し上げますわ!」

 

 たまには温泉宿でゆっくり……ハルナと二人きりも久しぶりだなぁ。この子のことだし、本当に伸び伸びとできるかな。期待しとこ。

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふっふっ、聞きなさい!大型依頼が入ったわよ!」

 

「アルちゃんほんと〜?騙されてない?」

 

「今回は間違いないわよ!トリニティの資産家からの依頼なんだから!」

 

 D.U.のある廃墟群の中にあるそこだけが整備されたビルの1フロアで、このビルを社屋としている便利屋68の社長を自称する陸八魔アルは幼馴染である浅黄ムツキにからかわれながらも自慢げに胸を張っていた。

 

「トリニティの資産家って………これ確か、この前の大きな事件の時に摘発された人じゃないの?」

 

 依頼文書をアルから渡され精査していたのは同じく便利屋68に所属する鬼方カヨコだった。カヨコの記憶する限りでは違法なオークションなどを開催していた罪でトリニティの正義実現委員会に捕まり、経由してヴァルキューレに逮捕されたはずだった。

 

「司法取引をして、執行猶予がついたらしいわよ」

 

「………なるほどね。他のブローカーとか売ったんだ」

 

 カヨコは便利屋68では貴重なタブレット端末でヴァルキューレの官報などを確認し、どういった取引があったのか察する。よくある話であり、大抵はもう一度捕まり今度こそ矯正局で長期的に投獄されるパターンであることもカヨコは知っていた。

 

 一度噛み付いたら離さないヴァルキューレは再犯すればすぐに捕まえにくる。

 

「で、依頼内容は…………なにこれ?永久凍結バナナの奪還?」

 

「そう!その人が大事にしていたお宝らしいわよ。けど、盗まれてしまって、盗んだのがなんと、ウチのゲヘナの生徒なのよ」

 

 ふざけた物品の回収が今回の仕事と知り、カヨコはため息をつく。どうせ大した依頼内容じゃないと思えば、その通りだったと思ったのだ。

 

「盗んだ生徒は誰?」

 

「名前はわからないけど、写真はもらったわ。この子よ」

 

 アルがカヨコとムツキに写真を突き出す。カヨコは座っていたソファから立ち上がり、アルの手元にある写真を見る。見てから、怪訝な顔をした。

 

「………社長、写真の生徒、知らないの?」

 

「知らないわ。綺麗な子だと思うけど」

 

「アルちゃんちゃんとメガネかけて見た〜?」

 

 首を横に振るアルに、ムツキは更に笑ってから、慣れた手つきでテーブルの上に置かれたアルのメガネを手に取り、左手でアルの顎に指を当てるとグイッと彼女の顔をムツキの顔に向き合わせ、メガネをかけさせた。

 

「はい!もう一回見てみようね!」

 

 仕方がない、とアルはメガネをかけたまま写真を見る。見てからピタリと動きを止めた。

 

「あはははっ!アルちゃん、とんでもない人に喧嘩売ろうとしてるよ〜!」

 

「黒館ハルナ……戦えば倒せるだろうけど、真正面からって注釈がつくよ。社長」

 

 写真に写っていたのは違法オークションに参加していたハルナだった。メガネをかけずボヤけた視界で写真を見たアルは誰が写っているのかよくわかっていなかったのだ。固まるアルをムツキはバシバシと叩いて笑い、カヨコは大物……というよりは面倒な相手を引いたことにため息をついた。

 

「……ただなんかこの写真、横に写ってる子、見たことあるような」

 

 固まっているアルを無視し、カヨコはビュッフェの料理をハルナが食べさせている生徒の顔に見覚えがあったが、見切れているため完全にはわからなかった。

 

「き、聞いてないわよ!なんで黒館先輩がそんなもの盗んだの!?」

 

 再起動したアルが悪党としても学年でも大先輩にあたるハルナがなんで名前からして意味不明な物を盗んだのか理解できず叫ぶ。

 

「もしかしたらこのバナナ食べるためとか〜?」

 

「何年もののバナナだと思うのよ!ありえないわ!」

 

 ムツキの推測に、ゲヘナでもお嬢様と呼んで差し支えないハルナがそんなことをするはずないだろうとアルは否定する。

 

「どうするの社長?断る?」

 

「うっ、う、受けるに決まってるでしょ。それに、何も捕まえて来いって話じゃないわ。永久凍結バナナを確保すればいいだけよ。どこにあるのか聞けばいいじゃない」

 

「どうやって?黒館家自体も強い力があるから、突っ込むのはやめたほうがいいよ」

 

「……なんとか、手薄なところで…例えばそう、ほら、お嬢様なら旅行とかきっと行くでしょうし!」

 

 希望的観測すぎるアルの手段に、カヨコはそんな都合よくいくはずがない、と思いながらも「わかった。スケジュールを探るよ」とアルのことを手伝うことにした。

 

「ふふっ、アルちゃん、これはじゃあ先輩への挑戦だねぇ〜」

 

「そうね、そう思えばなんだか燃えてきたわ!」

 

「空回りして案件炎上にならなきゃいいね〜!」

 

 受注の方向性で話がまとまったところで、部屋の扉が開いた。

 

「あ、アル様!ただいま戻りました!」

 

「あらお疲れ様、ハルカ。支払いは受け取って来たのかしら?」

 

「はい!それと、あの、人員募集の張り紙を見た方が来てます!」

 

 ガタッ、とアルが席から立ち上がり、ドカッと机に片足をかけた。

 

「でかしたわ!ちょうど人手もほしいところだったの!即採用!即OJTよ!」

 

 食い気味のアルに、ハルカはぱぁ、っと明るい顔になり「は、入ってください!」と外で待たせていた人物を招き入れる。

 

 現れたのはスラリとした少女で、装備は一目で使い込まれ歴戦の傭兵といった風格があった。ただ、顔を何故かヘルメットで覆っていた。

 

「あなたが入社希望者ね?顔を見せて頂戴」

 

「………わかった」

 

 落ち着いた声音で応え、入社希望の生徒がヘルメットを脱ぐ。長い髪は結い上げられ顔立ちは凛々しく、目つきは鋭い。アルは思わず後退りしそうになる。

 

「な、名前は?」

 

「——錠前サオリ。絶賛自分探し中だ。よろしく頼む」

 

 慣れていない笑みはひどく悪い笑みに見え、今度こそアルはひっくり返ってしまった。

 

 




長らくお付き合い頂きましたがこれでこの章は終わりです。ありがとうございました。
この章で一区切りついたので、次章は少し肩の力が抜ける話にしたいなと思っています(あとハルナのターン)。

便利屋68……ようやく出番です。せっかく良い感じで別れたのにまた出会ってしまうサッちゃんの明日はどっちだ。

次回の新章1話は明後日3/30 22:00からとなります。またよろしくお願いします。
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