頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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思ったより筆が乗ったのと、時間があったので結局連続で投稿しちゃいます。



第一章 愛とは、語られることのない詩である
Area-01「D.U.地区 シャーレ近辺 #静か #先生いる?」


「セリナ〜」

 

「はい、先生。呼びましたか?」

 

「呼んだよ〜」

 

 ゲーム部の一件が片付いてからしばらく、百鬼夜行の百夜堂へのお手伝いと、その過程で知り合ったイズナのもふもふ尻尾と耳を堪能する支援要請があったりしたけど、私は元気。元気かな?デスクの上にはエナジードリンクまみれだし、昨日の朝昼晩全部コンビニ弁当だった。心が澱んでる。

 

 なので、これまた最近知り合った生徒である鷲見セリナ……セリナを呼んだ。

 

「なんの御用ですか?」

 

 椅子をくるっと回して振り向けばそこにいるのは白衣の天使。桜色の髪と瞳が優しさを強調してて、お嬢様学校の生徒かつ看護師見習いの子だけあって柔らかな空気が漂ってる。

 

「先生?」

 

 呼べばどこからともなく現れてくれて私を助けてくれて、やっぱり天使かもしれない。

 

「天使だ……」

 

「えっ」

 

「あ」

 

 いや、普通にキモいな。セリナはいきなり現れて可愛いし優しいし優秀だから間違いなく天使なんだけど、生徒呼び出してなんも言わずいきなり「天使だ」はキモい。またイオリに蹴られる。しばらくイオリは当番こないからいいけど。

 

 私に天使って呼ばれたセリナは何故か引かずに照れてた。かわいい。

 

「ごめんごめん、ちょっと疲れてて」

 

「あ、そうなんですね!確かに先生、昨日も草鞋野さんと遅くまで仕事されてましたもんね!」

 

「そうそう。だいぶシャーレの名前が広まってきちゃってるのかひっきりなしに支援要請がね。嬉しいことだけど」

 

 セリナの言う通りで、ここ最近のシャーレへの支援要請がガンガン増えてきている。私に対するモモトークで直接のものや、学校からの正式な書簡でのもの、シャーレに直接電話してくる子もいる。

 

 そして、私だけでなく、エリちゃんにも支援要請が入るようになってきた。私と一緒に規模の小さな支援要請を受けてきて、そこでしっかり彼女は生徒たちを助けていたので、当然だと思う。

 

「やっぱりそうなんですね。最近はトリニティでもよくシャーレの名前は聞くようになりました」

 

「え?そうなの?あんまりトリニティの子への支援要請ってまだ、そんなに入ってないけど」

 

「トリニティの子は流行り物に敏感な子も多いですから、先生の活躍は雑誌なんかで知ったんだと思います」

 

「へ〜。そういうセリナも?」

 

「私は……ええっと、似たようなもの、だと思います」

 

 セリナが答えづらそうなのでこの話はここで止めておこう。どうにも、セリナからはエリちゃんと似たようなものを感じる。セリナの……黒服のクソ野郎の言葉を借りるなら“神秘”による神出鬼没さは助けたい人をかならず助けられるすごい力なんだろうけど、きっと過去にはそれを嫌がった人もいたと思う。

 

 深くセリナに過去のことを聞こうとすると、決まって彼女は困ったような悲しいような苦笑いをするから。

 

「そうなんだ。それにしても、セリナ、急に呼んでお仕事大丈夫だった?」

 

「はい、大丈夫です。今日は遅番なので、まだ時間に余裕ありますから」

 

「了解。それじゃあ、もうしばらく私とおしゃべりしてくれる?」

 

「先生が望むなら喜んで!」

 

 抜群の笑顔が映えるな〜〜。セリナにはとりあえず、エリちゃんが今いないので隣のデスクに座ってもらった。彼女は座って、ちらりとエリちゃんの机の上を見る。綺麗に整頓されていて、溜まった書類なんて一枚もない。

 

 デスクの上にあるのはパソコン一式と電話、それと2枚の写真の入った写真立て。

 

「この写真は……」

 

「エリちゃんのヴァルキューレ時代の後輩たちだって。2枚目は正確には学校が違うらしいけど」

 

 2枚の写真のうち、一枚はヴァルキューレの後輩との写真で、エリちゃんが生活安全局の副局長だったときのもの。白髪の真面目そうな子、私も生徒名簿で知ってるけど、確かキリノという名前の子と一緒に写っていて、エリちゃん曰く「後輩ですが、私の理想といっても過言ではない子です」と自分のことのように自慢してきていた。

 

 もう一枚はピンク色の髪とセーラー服が特徴的なイズナとはまた違って狐っ子との写真だ。彼女の後ろで肩に手を置いて笑顔のエリちゃんと、少し照れているその子。SRT特殊学園という廃校が決まってしまったという学校の子だ。エリちゃんは「とってもいい子で、お料理も上手で、優秀な子です」と誇りのように言っていた。

 

「2枚ともいい写真ですね。草鞋野さん、慕われているのがよくわかります」

 

「だよね。エリちゃん、好かれてる子多そうなんだよね」

 

 だから、エリちゃんにも最近はよく支援要請が入ってる。彼女とまだそんなに長くはないけど行動をともにして、なんでシャーレにまで流れてきてしまったのか本当に謎だ。頑張りすぎて、疎まれてしまうというのは事前にリンちゃんから聞きはした。けど、それだけであんなひどい記事が書かれるだろうか。

 

「私も何度かお話しして、すごく良い方だと思います。私のこと、気持ち悪がったりしなくて」

 

「セリナ……」

 

「けど、だから心配なんです。先生と同じく、頑張りすぎてしまわないか」

 

 私の机のように、如何にも無理してるってわかるような状態と違って、さっきから見てる通り、エリちゃんの机はこのシャーレという激務環境の中で“異常”なほどに綺麗なんだ。肉体の強度が“外”の私と“キヴォトス”のエリちゃんだと後者が圧倒的に強いとはいえ、それでもエリちゃんも少なくない支援要請に応えてる。

 

 心配だった。頑張りすぎていないか。無理をしているのを隠していないか。エリちゃんに無理をしないで、って言っても彼女は決まって「これぐらい平気です!」と笑顔で答えてくる。

 

「生徒を支えなくちゃいけない私がエリちゃんのこと、ちゃんと支えられないのは本当に不甲斐ないなって…」

 

「そんなことはないです。先生はしっかりと草鞋野さんのことも見ていると思います」

 

「そうかなぁ。この前のアビドスでATMと戦った時も怪我しちゃってたし」

 

 怪我自体はチナツから見た目が派手なだけで消毒すればなんの問題もない、とのことだったけど、それでも、私は後悔してしまった。私が一緒にいてあげれば、って。

 

「あれぐらいの怪我であれば大丈夫です。火宮さんの診察は正確ですから」

 

「…………」

 

「それに、先生。ずっと傍にいるのはその人のためにはならないこともあります」

 

 セリナが手をぎゅっと握ってくれる。暖かくて、柔らかい。セリナの瞳は少し、前髪の影に隠れて見えない。

 

「それはセリナの、経験則?」

 

「はい」

 

 弱々しい声だけど、間違いなくその通りだと聞こえた。

 

 エリちゃんは、他の生徒と比べれば少し大人に近い。だからこそ、私に判断をとってもらいながら支援要請を受けられている。

 

「一方的な気持ちも健全ではないと思いますから」

 

「………なんとなく、わかったよ。セリナ。ありがとう、話を聞いてくれて」

 

「いえ、先生のお役に立てるなら私、嬉しいです」

 

 顔が上がって、セリナの笑顔が戻る。

 

 エリちゃんは生徒だ。だから、彼女のやりたいことは支えてあげたい。けど、彼女自身も、私を支えたいと思ってる節がある。お互いに、支えあう関係。先生は、生徒がいないと、成り立たない。そういうことだろうか。

 

「ん〜〜〜よしっ!気合い入れ直した!」

 

 セリナの手を解いて、自分の頬を叩く。もう一度セリナにお礼を言おうと一瞬閉じた目を開くと、もうそこにはセリナはいなかった。ついさっきまで座っていた椅子にはセリナの体温が残っていて、確かに彼女はそこにいたはずだ。

 

 代わりというか、エリちゃんのデスクに、さっきまでなかったものと手紙が置かれていた。

 

「ちゃんとしたお食事をとってください……ふふっ、セリナ、ありがと」

 

 置かれていたのはお弁当だ。あの子が来てくれたのはこれを渡すためだったのかもしれない。まともな食事に久々にありつけるのでものすごく嬉しい。

 

「さてと、エリちゃんは今頃どうしてるかな」

 

 今日、エリちゃんがいないのは支援要請を受けた――わけではなく、個人的な理由でいないのだ。ただ、それでも遊びに行ったわけではないあたり、真面目すぎる。

 

 行き先はミレニアムサイエンススクール。まるで私と入れ違うかのように彼女はあのキヴォトス最先端の学校へと向かった。

 

 




セリナの過去はいつ明かされるのか。
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