色々挑戦した内容かもしれませんがよろしくお願いします。
Area-01「ゲーム開発部部室 #コーデバトル #チーター #ゲームの女王」
調月リオの目の前で、彼女の友人がメイドにより床へ伏せさせられていた。
「随分と手荒いじゃないか、リオ」
「……ウタハ。あなたがここに来るとは思ってなかった」
腕をきつく締めあげられ、床に叩きつけられてもまるで調子を変えずに、いつものどこかニヒルな様子でウタハはリオを見ていた。
ウタハを押さえつける金髪を後ろで結い上げたロングスカートの瀟洒な雰囲気のメイドはリオへ指示を乞うように視線を向け、リオはウタハを離すように手のしぐさで指示する。
解放されたウタハは服をはたきながら、よろりと立ち上がった。
「いたたた…少しは手加減をしてほしい。私はただのメカマンだよ?」
やれやれ、といった口調のウタハに、リオは表情一つ変えない。鉄面皮な友人にウタハは変わらないなと思いながらも、言葉を止めなかった。
「C&Cの子だろうけど見ない子だね?君専属のエージェントかい」
「コードネーム04、飛鳥馬トキと申します」
「どうも。白石ウタハだよ。アカネみたいにメイドらしいメイドだね」
「……光栄です」
メイド——C&Cの秘匿されたエージェントである飛鳥馬トキはウタハがアカネの名前を出したことに僅かに動揺した。あくまでウタハはトキの制服がアカネのものに近かったから言っただけであったが、トキは自身の教育係であったことを見抜かれたのかと思ってしまった。
ウタハは改めて連れ込まれたオペレーションルームのような場所を見渡す。アバンギャルド君と思われるギリギリ人型をしている小型のモックアップや、巨大なモニター。そこにある椅子は一つだけで、リオ専用の部屋であることがウタハには見て取れた。
「ここに来た時は興奮したよ。ミレニアム中心部を凌ぐ数多の摩天楼。全て無人化された交通インフラ。洗浄システム……何より、街の奥に見えるマスドライバー。私たちが夢見たミレニアムの姿だ…!」
まるで子供が欲しかったおもちゃが手に入った時のような喜びようだった。トキは思わず引き気味になる。ウタハはここに来るまでにトキが拘束していたのだ。捕まり、本来であれば相応の措置がされるはずの状況。そんな中でもこのような姿を見せる。
白石ウタハは天才の一人だ。それを、トキは見せつけられる。
「技術研究都市エリドゥ——だったかな?ヒマリと君が構想していた人の叡智を超える強大な演算システムにより都市自体が自己進化をし、ミレニアムの存在理由である”千年難題”を解決する夢の都市だ」
「………憶えていたのね」
「当然だよ。友人たちの夢であり、私も一技術者として心躍る話だったから」
懐からウタハは使い古したスパナを取り出し、手で弄ぶ。
「ただまぁ、まさかその夢の実現のために私の部活の予算がいつの間にか天文学的な数字になっていたとは思いもしなかったが」
バチンッ、とまるで電撃が弾けたかのよう音と共に、ウタハを再度拘束しようとしたトキの手が弾かれ、彼女はのけぞる。ウタハを包み込んでいたのは青白いバリアであり、リオはそれを見慣れていた。
「ユウカが使っているバリアシステムね」
「その強化版だよ。最近は物騒だからと彼女に頼まれて改良品をテストしたかったんだ。怪我はないかい?」
「……はい」
チラリと横目でトキを気遣いながら、ウタハはリオに向き直る。
「ふむ。ただ出力が高すぎるな。発動するとバリアの光度のせいで視界が不良だ」
バリアが消失する。トキは飛び掛からなかった。
「話を戻そう。私の部活もだが、他複数の部活もおかしな予算額になっていたらしい。第三四半期分のデータだけだが」
「晄輪大祭の準備で増えた。そうじゃないのかしら」
「そう見えるようにされていたのは事実だよ。ユウカもそう言っていた。ただ、私の部活だけ宇宙戦艦を建造したかのような数字になっていたんだ。アバンギャルド君の改造費はそれなりにかかったが、それでもね。君にしては随分と稚拙な手だ。わざとかい?」
「……………」
「この際、わざとでもいい。こんな素晴らしいものを見せてくれた見物料とでも思っておくよ。ただ、君に会いたかったのは、このエリドゥという君の成果を見るためだけじゃない」
ウタハがリオへと歩み寄る。トキが引き止めようとするがリオが目線で制した。
「教えてくれリオ。君は何と戦おうとしているんだ。それは、私とヒマリが協力する必要がない程度のものなのかい?」
「……………協力?」
まるで予想をしていなかったかのような言葉を聞いたリオは思わず聞き返す。ウタハは頷く。
「合理主義者である君があんな誰かに気が付かれるような真似をしたんだ。いつもの君なら、私たちの前に現れた時にはもう”結果”を出してくるはずだろう」
稚拙な工作は焦りだとウタハは見抜いていた。そして、ウタハが部長を務めるエンジニア部だけがおかしな数字になっていたことは、リオの無機質な機械のような瞳の奥に揺れるものが証拠だとウタハは感じ取った。
「教えてくれリオ——ミレニアムの生徒会長。君の学校と生徒への愛は誰よりも深いことはわかっている。そんな君が無茶をしてまでしようとしていることは、なんなんだい」
ウタハの右手がリオの頬に触れる。その手つきは友人に触れるものとしては愛撫が過ぎ、恋人に触れるようなものとしては熱が足りていなかった。
リオの手がウタハの手首を掴む。
「協力。あなたは今、そう言ったわね」
「言ったね」
「ならあなたは”残酷な真実”を前にしても、そう言い続けられるのかしら」
「………後輩たちと楽しくしている姿を見せ過ぎたのかもしれないね」
ずいっと、ウタハの顔がリオに迫る。
「君は私のことを忘れてしまったのかな?」
手が冷たい人は心が暖かい、その逆だとでも言いたいばかりの瞳がリオを射抜く。
「天童アリス。あなたたちがそう呼ぶ、生徒の見た目をした世界を終焉へと導く兵器。不可解な軍隊の中枢と思われるアレを私は破壊したい」
僅かにウタハの眉が歪んだが、彼女は特に声を荒げたりはしなかった。
「薄々、人間が使用することを考慮していないスーパーノヴァを使用できた時点で、只者じゃないとは思っていたが」
「ヒマリとの調査で天童アリス……正式名称AL-1Sの正体はある程度わかったわ。廃墟のDivi:Sionシステムの指揮官。つまりはこの世界の敵よ」
「前にヒマリと君が利用できないかと喧嘩した”廃墟”の高性能CADシステムか。本質がそういうものだったということだね。人の手には負えないものだったか」
「……いずれ、あのシステムはこの世界を食い潰す。そうなる前に彼女を破壊する」
「急ぎすぎだ」
「彼女のことをただの生徒、などと言うつもり?」
「彼女は可愛い後輩の一人だよ」
見解の相違。それが過去、三人の天才が分断された理由であり、ウタハは僅かに瞑目する。
「となれば、君は私を排除しなくてはいけないが、わざわざあんな回りくどい呼び方をした」
「…………」
「いつもならブルドーザーのように、こう、と決めたらやり通す君が、そうするための判断をする材料である情報収集。それが甘い毒のように、君の判断を鈍らせたんだね?」
リオの口は開かない。ウタハの手首を掴むリオの手の力が強まった。
「それで知ってしまったのかな、君は——彼女が今、多くの生徒から愛されるミレニアムの生徒だということを」
「秘密主義が過ぎることは自覚しているけれど、あなたは知っていたの?」
「いや、全く。重ねて言うけど私は天才なんてものじゃなくてただの機械バカさ。けれど、友人のSOSを見逃すほど、察しが悪いわけじゃない」
「あなたは私を止める。そう思っているけれど」
「君は私のことを本当に忘れてしまったのかい?」
ウタハが不敵な笑みを浮かべ、掴まれていない左手でリオの心臓の上に手を押し付ける。冷徹で機械のような無慈悲な合理的判断下すリオの柔らかな胸の奥に、確かな鼓動があった。
「私は理想主義者なんだ。君のことを誤解しない友人がここにいる。止めはしない、だが軌道修正ぐらいはさせてくれ」
「軌道修正?」
「アリスという人間は、まだ誰も傷つけていない。だからよく調べるべきだ。危険だからと処分するのはミレニアム生らしくない。ちゃんとアリスという人間を調べたのかい?苦手分野だからと疎かにしていないかい?」
「苦手分野?」
「人の心さ」
「調べる必要があるの?」
「あるさ。合理的判断、といくら言ったところで、君にも心がある。君は世界を救済するために人を滅ぼすべきだと言うような正義の味方ではないだろう」
「…………つくづく、あなたが生徒会長になればよかったと、そう思うわ」
「私は君のような責任感はないから無理だな。ヒマリにも同じことを言われたよ」
「同じにしないでちょうだい」
「そういうところもよく似ているな、君たちは」
リオがウタハの手を離し、ウタハもまた、リオから離れる。
「それでヒマリはどうしたんだい?」
「……明日、話をするつもりよ。改めて互いの認識をすり合わせるために。秘密裏に」
「私も同席させてくれ。君たちだけではまた喧嘩別れになるだろうからね」
「信用がないのね」
「当然だ。たまには私が君たちのことを取り持とうとする苦労もわかってくれ」
やれやれ、といったウタハの様子にリオはモニターへと体を向ける。まだ何も映していない画面には、僅かに喜色を浮かべた彼女の顔が映っていた。
「見て見てエリカちゃん!可愛くない?」
「確かに可愛いけど、天童さんの髪をおもちゃにしてないかな」
ハルナとのなんだかんだで、楽しめた…んだと思う休暇から一週間。私とミカさんはミレニアム自地区で天童さんが所属するゲーム開発部の部室にやってきていた。
戻ってくるなり先生たちは支援要請でミレニアムに行ってたからシャーレにはいなくて、その依頼内容は姿を全く見せないミレニアムの生徒会長、調月リオさんを探して欲しいというものだった。
で、そんな依頼を受けてた先生とミカさんは全く進捗がなかった。探そうにも手がかりが全くなかったらしい。
「アリスちゃん、どう?」
「……………」
ミカさんの手によって可愛らしいお団子ヘアーになった天童さんは鏡を見て自分の姿にびっくりしてるようだった。あんまりオシャレとかには気を遣ったことがないって天童さん本人が言ってたので、ミカさんがそこで何故か燃えてしまい「こんなにお姫様みたいなんだから可愛くしないとダメ!」とメイクしたり髪型で遊んだりし始めてしまった。
他のゲーム部の部員さん、モモイさんはミドリさんと今後のゲーム開発について話しているし、部長である花岡さんは格闘対戦ゲームのオンライン対戦を無言でやり続けていた。なんかドガガガとかものすごい操作音聞こえるけど大丈夫?
髪型などをいじくられた天童さんは変わった髪を触ったり、ナチュラル系のリップなどがついた唇に触れたり、私から見ても本当にお姫様のような魅力が磨きかかっていて可愛い。
「これが、アリス…?」
「そうだよ。ふふっ。エリカちゃんが前に言った通りだね?本当にお姫様みたいに可愛らしいかも」
「………モモイ、ミドリ!二人はどうでしょうか?アリスのこの装備!」
「え?なになに?どうしたの」
「アリスちゃん、おめかしをしてもら……って?」
天童さんが感想を求めて才羽姉妹さんを呼べば、二人とも固まっていた。気持ちはわかる。ミカさんは元々ノーメイクでも信じられないぐらいの美貌と愛らしさを兼ね備えてる反則的な人なんだけど、それを更に女神のような魅力へと昇華させるメイク術も自前で持っていて、それが全力で天童さんに向けられた。
「ふぅ……10連勝」
「ユズ!ユズ!?アリスちゃんがやばいよ!」
「え!?え?……うわ……アリスちゃん……すごい…!」
褒められた天童さんはなんか得意げだし、ミカさんはドヤ顔をしていた。これはドヤ顔をしていいと思う。
「うんうん。素材が最高にいいからねぇ〜。アリスちゃん、お洋服は?」
「アリスは制服以外だとあんまりお洋服ありません!ミカ!」
「本当に!?勿体ないな。それなら今から買いにいっちゃお!」
「いやいや待った待った。私たちは一応、ゲーム開発部に呼ばれてきたんだから」
危ない。勢いでショッピングに行っちゃうところだった。ミカさんが「もう」と顔を膨らませれば天童さんも真似して膨らませた。我儘なお姫様が二人に増えちゃった…。
「あ、そうだ。今エリさんが言った通り、シャーレを呼んだんだった」
「…お姉ちゃん忘れてたの?」
「忘れてないよ!てっきり先生が来るかと思ってたんだけど、すぐ出ていっちゃったし」
モモイさんの言う通りで、先生は調月会長の捜索に専念していて、今回のゲーム開発部からの詳細がよくわからない支援要請には私たちが応えることになった。先生も顔出しはしてなんでかモモイさんを格ゲーで5、6回ボコボコにしてから出ていったけど。
「すぐ……?」
ミドリさんがものすごい微妙な顔をしていた。30分ぐらいは居てくれたので確かにそうかも。
「それで、結局どうしてシャーレを呼んだの?」
居住まいを正して、私はモモイさんに問いかける。部長は花岡さんなんだけど、どうにもこの部活の実質的なリーダーというか船頭役はモモイさんのようだ。
私の問いかけにモモイさんは元気よく答えた。
「そろそろ次回作の構想を練りたくてアイデアが欲しかったの!」
「ゲームの?」
「そう!」
ミカさんが聞いてもモモイさんは特に恐縮することなく言った。なるほど、ゲームのアイデア出しね。力になれるかは置いといて、久々に穏やかな支援要請かもしれない。先生が最初にゲーム開発部と知り合ったのも部の存続を賭けたゲーム開発だったもんね。
そういえば、その同時期に私はシャーレに来て、アビドスでカイテンジャーと戦ったんだよね。
「インスピレーションが欲しくてさ。先生なら色々ありそうだし、聞きたかったんだけど」
「それならエリカちゃんも適任じゃない?」
「どういうことですか?聖園さん」
「ミドリちゃん、なんたってエリカちゃんは現代の騎士様だからね。たくさん冒険譚を持ってるよ★」
いやいやいやいや!ミカさん何を言ってるの!?モモイさんや天童さんがすごい目を輝かせて急に私に寄ってくる。
「冒険譚!?」
「もしやエリカは勇者なんですか!?」
「そんなすごいことはしてないよ!?私ほら、ただの元警察官だから」
そんな正義の味方みたいなこと私はして………して……いやダメだ。否定できない。
少なくともナギサちゃんを助けた一連の流れは現実に英雄譚のような噂として流れてる。ミカさんを思わず見れば彼女は口笛を吹いていた。最近気安くなってきたせいかミカさんの元からの悪戯っ子なところが出てきた。
——そういえばエリカさん。最近ミカさんとも打ち解けられたと思いますが。
——そうだね?いい子だと思うよ。
——……それはいいことですが、ミカさんは慣れてくるとよく悪戯をしてきますからお気をつけて。
ナギサちゃんの忠告通りだ……。
「あ、あのっ、エリカ先輩。お話、聞かせてもらえませんか?」
「み、ミドリさん」
ミドリさんまで姉と一緒に寄ってきて見上げてきた。こ、この子たちものすごく可愛い。早瀬さんがセミナーの会計とは別に後輩としてかなり可愛がってるのは聞いてるけど、納得しかないよ。こんな子たちにおねだりされて断れる先輩いるの?
流されそうになるけど、私に待っただ。私の語れるシャーレでの事件の内容、どれもこれも機密情報が多過ぎる。特にこの前のミカさんも当事者だったアリウス自地区への殴り込みは殴り込んだことすら外部へ漏らすことを禁止と取り決めてある。バラした途端にアリウス自地区は火の海だ。
話せそうなことある?エデン条約事件の時のこと……ミカさんがとんでもない政治犯なのがこの子たちに露見する。もっと前、黒崎さんを確保したオークション……おもいっきり違法行為に加担している。却下。
「あ!アリス聞いたことがあります!エリカは砂漠で寿司と戦ったことがあるって!先生が言ってました!」
「……なにそれ?」
思わずミカさんが私にツッコンだ。アビドス砂漠での一件……これならまぁ、話せるかな。アレは特に自地区相手じゃなくて明確な不法行為をしている犯罪者集団に対して戦った話だからね。ただ、この子たちは好きそうな話かなぁ。
ミカさんもあの時の話は知らないかな。
「ミカさんは覚えてる?私が送った手紙」
「え?あぁ、春すぎぐらいにくれたあの無礼な手紙?」
「引きずってたの!?」
「半分冗談だよ♪」
「半分なんだ……」
「まぁ生徒会長が自分の学校の生徒にカイテンジャーがいるなんて言われたら、イラッ★ってくるよね」
たぶん大体ジョークなんだろうけど、ミカさんに言われると心臓に悪い。
ゲーム開発部の子たちはミカさんが生徒会長だったことにものすごく驚いていた。
「せ、せせせせっ、生徒会長!?」
「あっ、元だよ!エリカちゃんと同じだね」
「シャーレすごっ。先生人材マニア?」
「違うと思うよお姉ちゃん……」
「ミカ、すごい人だったんですね!」
アリスちゃんに最終的に褒められて(?)なんかミカさんは胸を張っていた。
「話を戻すけど、私がシャーレに赴任したばかりの時かな?ちょうど先生がみんなを手伝ってた時に、先生の代わりに連邦生徒会から頼まれたんだよね」
「エリカさんマジですごい人じゃん……」
「連邦生徒会に頼られるって……」
「モモイさん、花岡さん、単に先生がいなかったからだよ」
単純に二馬力になったから七神代行も頼んだだけだと思うよ。
実際、細々とした支援要請は私と先生(&ミカさん)で分担してやってるからね。先生も一人の時より助かってるといつも言って相変わらず撫でてくれる。
「アビドス自地区ってみんなは知ってるかな?」
「この前の晄輪大祭で、少人数なのに総合順位凄かった人たちですよね。生徒会長さんとか無茶苦茶強かったですし」
ミドリさんの記憶には晄輪大祭のことは強く残ってるようだ。そりゃそうだよ。なんで少数精鋭とはいえ、人数は上の私たちSRTが下位なのか。ホシノちゃんとか底が知れない。
「そう。そのアビドス自地区にカイテンジャーが潜んでるって話を受けて、偶然居合わせたアビドス廃校対策委員会の小鳥遊委員長の協力を受けてアビドス自治区に入ったんだ」
「まるでドラマみたいです!偶然いるのがすごいです!」
「偶然必要な人がいる……ヒーローの基本だね!」
とりあえず、天童さんとモモイさんには受けがいいらしい。
そこからアビドス自地区に合流してアビドス砂漠を歩いたことを話すと、ゲーム開発部の子達だけでなく、ミカさんもアビドスの惨状を聞いて驚いていた。
「………そんなふうになってる自治区があったなんて」
花岡さんは特に強いショックを受けてしまったようだ。アビドス高校は奇跡のような学校だ。何よりも、ホシノちゃんが本当に強い人だと思う。夏の時も、弱った私を励ましてくれたり。
私になんでことある毎に甘えたような態度をするのかはよくわからないけど。
「エリカ、お話の続きをお願いします!」
「おっと、そうだね。それからね——」
砂漠の中で見つけた不可解なATMと、それが変形してロボットになったこと。そのロボットに天井ぶち破られるほどの腹パンを受けて吹き飛んだあと、砂漠の中での戦い。……今思うと、戦いと呼べるほどの応酬ではなかったかもしれないけど。
気がつくとモモイさんががむしゃらにメモをとっていた。
「すごい、すごいっ…!ATMが寿司ロボに変形!?何を食べたらそうなるの!?」
「寿司でも食べたんじゃない?お姉ちゃん」
本当になんでATMを変形させたのかは今でも謎だ。自衛用、にしてはそんなにだし。膂力やミサイルでの制圧力はあったみたいだけど、正直所詮はATMだったから装甲も皆無でおもちゃの域を出てなかった。
「——ということで、これが私のシャーレ赴任時の大きな支援要請かな。参考になった?」
「なったよ!すごい!」
「インパクト十分です!」
モモイさんとアリスさんの勢いは本当にすごいや。元気いっぱいすぎて大変だ。ミカさんもあまりに前のめりな二人にちょっと気圧されてる。
「ミドリ、やっぱり掴みのインパクトは大事だよ!それこそいきなり世界が滅ぶとか!」
「ポスト・アポカリプス系ってこと?」
「そう、それ!」
出力が物騒。アビドス砂漠から連想させてしまったのかな。
「え、えぇっと、モモイちゃんたちはなんのゲームを作ろうとしてるのかな?」
前の支援要請の時以来、若干モモイさんに苦手意識が出来ているミカさんが恐る恐る聞く。ほんとにどれだけトラウマになってるミカさん。
「ローグライク系のゲームだよ。けど、今の話聞くとさ、荒廃した土地で冒険するオープンワールド系のゲームでも…」
「いやいや、マップの作成だけで年単位になっちゃうし予算なんて足りないよお姉ちゃん」
「うぐっ」
「あはは……流石にアセットだけでもちょっと厳しいかも…」
「ゆ、ユズまで」
「身の丈に合わない超大作を作ろうとして挫折するのは初心者のやることだよお姉ちゃん。実際私たちやったし」
「け、けどここいらで冒険したくない!?」
「ユーザーが望むのは前作からの正統進化だよ。コツコツ、現実的に作ればさ」
「でも変化がショボいとつまんなくない!?ここは、バーンと新規開拓だよ!」
なんか才羽姉妹さんたちが段々ヒートアップしてきた。慌てそうな花岡さんは割と落ち着いてるのでいつものことなのかもしれない。
しばらく二人の言い合いが続いていると、いきなり私の方を向いてきた。
「エリカさん!お姉ちゃんになんとか言ってあげてください!エリカさんみたいに真面目にコツコツやるべきだって!」
「それはこっちのセリフだよミドリ!エリカさん!ミドリに冒険して得るもの得た方がいいって言ってあげてよ!」
「え、えぇ!?私!?」
なんで私に選択肢が!?うーん、なんかどっちを取り持ってもカドが立ちそうだ。こういうのは先生の役目だよー!
と、嘆いてもしょうがないのでどうしよう。ミカさんの援護は望めない。私の選択が必要だ。
「うーん、折衷案は」
「「ダメ!」」
「え、ダメなの」
白黒つけなくちゃダメらしい。困った。私が唸っていると、才羽姉妹さんは「じゃあ仕方がない」と声を合わせてゆらりと立ち上がった。
「こうなったら」
「勝負で」
「決めるしかないねお姉ちゃん」
え、喧嘩!?そりゃまずいと思って立ち上がりかけた私を横目に、二人はついさっきまで花岡さんがやっていたゲーム機に近づいていく。あ……ゲームで決着をつけようってことかな。
「ん?あれ、ユズ。招待来てるよ?」
「え…」
モモイさんがモードを変えようとゲームを触ったら何かに気がついたらしい。遠目に画面を見れば、確かにアイコンが光っていた。招待、って言うぐらいだから戦い人がいたのかな。
「わざわざユズちゃんに挑むってことは自信あるんじゃないかな」
「このバランスが終わったゲームに加えてムチャつよのユズに?」
さっきチラッと聞こえたけど10連勝って言ってたし、花岡さんってゲーム上手いみたいだね。流石はゲーム開発部の部長。
「天童さん。花岡さんってどれぐらい強いの?」
「ユズはどんなゲームでも最強です!エリカ!」
「最強……?」
「うぇ、そ、そんなことないよ」
「いやいや、それは謙遜だよユズ。なんたってユズはUZQueenだからね!」
ユズクイーン…UZQueenって、あ!
「あの前にゲームセンターでスコアトップを総なめしてた!?」
「そういえばあったね、エリカちゃん」
前にミカさんと来た時に入ったゲームセンターでどの筐体でも見た名前だ。色んなジャンルのゲームで、特にリズムゲームで見たし、それが花岡さんなんだ。
「エリカさん知ってたんですね」
「いやまさか花岡さんとは思わなかったよミドリさん」
人は見かけにはよらないというけど、花岡さんもそうだ。
花岡さんは微妙な感じになりつつも、招待を受けたからには応えるらしい。
「もう、すぐ終わらせてよ!私たちの番がつかえてるんだから!」
「うぅ……ちょっと待っててね…」
花岡さんがコントローラーを握って、対戦を受けるとキャラクターの選択画面になった。私はやったことないからよくわからない。ミカさんも同じなのでとりあえず後ろから眺める。それにしても、いつまでミカさんは天童さんを後ろから抱きしめて人形にしてるのか。
「相手は待ちキャラ?カウンター狙いかな」
「ユズちゃん相手に?キャラ的には有利だろうけど」
相手はなんかゴツいキャラを使ってるけど、花岡さんが選択したキャラは細くて早そうだった。
画面が変わって試合が始まるみたい。2ラウンド先取で勝負が決まるみたいだ。
ゲームが始まる。花岡さんの雰囲気が背中だけでもガラリと変わった。なんか、こう、オーラみたいな近寄りがたい感じがしてくる。ミカさんも同じような気配を感じ取ったのか驚いてアリスちゃんに聞いていた。
「アリスちゃん?あの子ってゲームで人変わるの?」
「人がかわる?ユズはユズですよ?」
「そっかー」
視線を画面に戻すと、花岡さんのキャラが掴まれて投げられていた。相性?みたいなものがあるみたいだし、不利なのかな。
「お姉ちゃん今の」
「なんかおかしくない?」
が、どうにも何かおかしいらしい。花岡さんのキャラが素早く接近して、なんだかすごい動き、たぶんフェイント?入れながら攻撃を入れると、相手のキャラはそれがわかっていたかのように綺麗にまた掴んでカウンターを当てていた。花岡さんのキャラの体力ゲージは半分を切っていた。
「今の見切れるの!?」
「待って。お姉ちゃん、この相手のID今調べてみる」
「有名プレイヤー?実況者?」
ゲームをやったことがない私でも、相手が妙に反応が良過ぎるように見えたので、詳しいゲーム開発部の子達だと違和感がすごいんだろうね。
「ユズ!」
「大丈夫」
天童さんが心配そうな声で花岡さんを呼んだけど、花岡さんは特に取り乱していないようで、これまでの接近する戦法から飛び道具を使った戦法に切り替えた。そうすると、相手は攻撃が当たるたびに掴むような動きを繰り返し、更に隙を晒す。
「通信に介入してフレーム単位で先に掴んでるのかな。けど」
今度は花岡さんのキャラが飛び道具を使いながら接近していく。相手はまだ掴みの動作を続けていた。
「掴みモーションのあと数フレームだけ操作不能になるから……」
掴むような動きをした直後、目の前にまでやってきていた花岡さんのキャラが相手のキャラを今度こそ蹴り上げる。
「こうなるね」
そして、空中に浮かんだ相手のキャラを花岡さんのキャラが空中で追撃して、まるでボールのようにステージの地面をバウンドし始め、そのままバスケットボールを扱うように何度も相手のキャラに攻撃を続ける。あっという間に相手のキャラの体力が半分まで削られていく。
すごい。柔軟な対応力だ。
「わかったよお姉ちゃん。この人、チートで有名な悪いプレイヤー」
「えっ!?最悪じゃん!」
チート、っていうとゲームデータを改竄してってやつだよね。ふむ。おもいっきり違法行為だ。
「エリカちゃん、これいいの?」
「ダメだよミカさん。ミドリさん、画面は録画できるの?」
「あ、はい。してますよ」
「もし望むならヴァルキューレのサイバー犯罪対策班にその録画投げるけど」
カンナちゃん経由でお願いできると思うので、私がそう言うと、才羽さん二人はそこまで、って顔をした。このあたりはゲーム開発部次第かな。
花岡さんのほうへまた目を向けると、バウンドから相手キャラが抜け出していた。
「ダウン値を強制的にMAXかな。無駄だよ」
が、立ち上がった相手キャラが白く点滅し終わった瞬間に、これまでと違って格闘攻撃を叩き込んでいた。手の動き今、私でも見えなかったけど。
「……今なにしたの?手増えなかった?」
ミカさんですら捉えきれなかったらしい。花岡さん、一体何者!?
画面の中でじわじわと花岡さんが相手を追い詰めていく。なんだろ、相手の体力ゲージの削れ方が妙に遅い。
「ダメージ判定の最小化かな。関係ないけど」
「こ、こいつ往生際悪すぎ!ユズ!やっちゃえ!」
「ひどいね。けど、ユズちゃんにそんなチートなんか無駄だよ」
「ユズ!見せてあげてください!UZQueenの力を!」
ガガガガガッとコントローラーが壊れるんじゃないかってぐらい手が分身していた。ゲームの処理が追いついているのか怪しいけど、なんか画面の中はすごいことになっていた。実際の戦闘でもあんな熾烈な格闘戦をしかけられたら私やミカさんは対応無理だと思う。
秒単位以下の中の世界を捉えることができる花岡さんは本当にとんでもない人だ。
「わっ!相手のキャラ消えたよ!?ユズ!」
「もう遅いよ」
最後の足掻きなのか、相手のキャラが消えた。そう思ったら花岡さんが冷たい声で言い放ち、画面の中で花岡さんのキャラが座ると画面の全体が真っ白になった。
「画面全体必殺で、ガードしてもその体力じゃ耐えきれない。終わり」
そして、画面に勝利される”Win!”の文字。花岡さんは不正プレイヤーに真っ向から勝ったらしい。そのまま相手は嫌になったのか対戦から抜けてしまって、花岡さんの勝利で終わってしまった。
「すごいよユズ!チーターざまぁみろ!」
「流石だねユズちゃん」
「すごいです!ユズ!」
「うわっ、あははっ、あ、ありがとう」
才羽さんたち、天童さんに囲われて花岡さんは照れくさそうに笑っていた。この子達のこの感じ、いいなぁ。すごい生き生きしてるというか。
ミカさんが私の方へと寄ってくる。
「なんだか、青春って感じするね」
「そうかも。シャーレの活動のやり甲斐あるよ」
微笑ましく私たちはしばらくゲーム開発部の子たちを見守った。
それから数分後、落ち着いたので再び才羽さんたちがさっきの続きと言わんばかりにゲームで対戦を始めてしまった。そしたら花岡さんが私とミカさんになんでか頭を下げた。
「すいません。せっかく来てもらったのに……」
「ううん。すごいもの見せてもらったよ。花岡さん、本当にゲーム上手なんだね」
「うぅ……なんだか恥ずかしいです」
「全然そんなことないって!私でもあなたの手先の動きを見切れなかったし。エリカちゃんもそうでしょ?」
「そうだね。本当にすごいよ。きっと先生も褒めてくれると思う」
私がそう言ってあげると、花岡さんは照れ照れだった。……そういえば、先生結構生徒から人気があるみたいで、慕われてるみたいだけど、花岡さんもなのかな。
まぁ、それは置いといて、あんなすごいものを見せられたら花岡さんがゲーム開発部の部長というのも納得だ。
「だといいですけど……すいません、しばらく二人の決着は付かないと思うので。…アリスちゃん、外でアイデア探しをしてきてくれないかな?」
「はい!クエストですね!」
「うんお願い。お二人も、アリスちゃんと一緒にお願いできますか?ここにいてもしばらくは動きがないと思うので……」
花岡さんからのお願いに私たちは頷く。ウキウキで飛び出していく天童さんの後を追って、私とミカさんもゲーム開発部の部室から出て行った。
扉を閉める直前、才羽さんたちの元気に言い合う声が聞こえてくる。楽しそうだ。
次回はまた明日。
ミカが参戦です。Wお姫様です。
そういえば関係のない話ですがとうとうキララの実装が決まったので本物エリカの実装も近いのかな…(ゲヘナギャルが好き)