頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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Area-02「ミレニアム都市部 #ギャル #アイデア探し #ご主人様」

 天童さんを連れて外に出た後何が起きたか?

 

「完璧だよエリカちゃん」

 

「何が」

 

「ニューアリスです!エリカ!」

 

 ご覧の有様だよ。

 

 ミカさんが天童さんを連れてまず向かったのはトリニティにあるハイブランドのミレニアム支店だった。そこでミカさんは無駄にめちゃくちゃ高い身体能力を生かして天童さんを凄まじい速度で着せ替え人形にし、最後にワンセットに絞ってコーデを完成させた。

 

 大人しめだけど、天童さんが可愛いからかよく似合ってる。ワンピースの上にカーディガントップスを羽織って、ボトムスはワイドパンツ。髪型は天童さんの髪がものすごい長いからお団子を作ってサイドテール気味になってる。

 

 いや可愛いよ?ものすごく。

 

「私たちってゲームのアイデア探しに出たんだよね?」

 

「そうです!」

 

「ショッピングに出たんじゃないよ」

 

「……?そういえばそうです!」

 

「ミカさん」

 

「やめてよエリカちゃん。ナギちゃんみたいな笑顔になってるって」

 

「ふふふっ」

 

「笑い方まで似てるって!?」

 

 なるほど。これはロールケーキをぶちこむ、なんてナギサちゃんが言う気持ちは少しわかったかもしれない。

 

「はぁ……ミカさん、支援要請なんだからちゃんとやらないと」

 

「わかってるって。けど、アリスちゃんのコーデは許して?可愛いからさ」

 

 ミカさんが天童さんの後ろに立って彼女の肩を掴んで、愛嬌いっぱいの笑みを浮かべる。ずるいなこの人は本当に!

 

「二人が可愛いのはわかってるから真面目にやって」

 

「わーお………」

 

 とにかく、本筋に戻ろう。お会計に関してはミカさん持ちだった。支援要請に対応した成果分がちゃんと連邦生徒会からお給金として出てるらしい。アリウス事変の解決分のお金はミカさんにも払われたようだ。

 

「ミカ、ありがとうございます!お洋服、よかったんですか?」

 

「いいって。アリスちゃんの可愛さを広めないなんてこの世の終わりだよ」

 

 言い過ぎでは、と思いつつもミカさんにより完成された自称ニューアリス……天童さんは本当に可愛かった。早瀬さんが見たら大変なことになるんじゃないだろうか。

 

「あ。これもありかもしれないです。コーデバトル!」

 

「天童さん、どういうこと?」

 

「お洋服は装備です!より美しく可愛いコーデをした方が勝ち!みたいなゲームもありかもしれません!」

 

「現実でもそんなところあるからアリじゃないかな?」

 

「そうなのミカさん」

 

「え?そうでしょ」

 

 そういうものなの?う、なんかミカさんが私を凝視してからさっきのお店をチラリと見てる。マズイ、このままじゃ私を着せ替え人形にさせられる。

 

「と、とにかくアイデア探しに戻ろう!ほら!いこ!」

 

「はい!」

 

「チッ…」

 

「今舌打ちしたよねミカさん!?」

 

「気のせいじゃないかな★」

 

 まぁいいや……よし、気を取り直して。

 

「それじゃあクエストに出発です!」

 

「おー!」

 

 ミカさんと天童さんって相性いいのかな……?いや、天童さんの可愛さにメロメロになってるだけかもしれない。

 

 天童さんを先頭にミレニアム内を歩くことになったけど、そもそも今いるのはミレニアムでも校舎のあるエリアから離れた都市部のほうだった。いきなりミカさんがここに来てしまったのでここからスタートだ。

 

「アリス、普段はこのあたりに来ません!もしかしたら意外な出会いがあるかもしれません!」

 

「意外な出会いかぁ。天童さんは普段はどこに行ってるの?」

 

「モモイたちとゲームセンターに行ったり、コトリたちと郊外の何もないところで実験したりしてますし、他にも友達と遊んでます!」

 

「活動的だね」

 

「はい!楽しいです!」

 

 天童さんに関しては、先生からミレニアム郊外の”廃墟”という場所で眠っていたところを起こしてミレニアムへ連れて帰ってきたと聞いてる。記憶もないし、最初はまるで機械みたいな受け答えをしてた、なんて記録にもあったけど、とてもそうは見えない。

 

 元気いっぱいの1年生で、先輩として誰もが応援したくなる子だ。

 

 歩道橋に天童さんが登っていく。歩道橋というか、対岸のビルのデッキに続くペデストリアンデッキだねここ。

 

 私たちも続いていくと、それなりに人通りがあるけど、目立つ姿があった。いかにも女子高生といったミレニアムの制服をラフに着た二人組に、天童さんが声を駆けに行った。

 

「アスナ先輩!カリン先輩!」

 

「お、アリスちゃん…か、かわいい〜!どうしたのその格好!?」

 

「……………!」

 

 私たちも追いつけば、金髪の……うわぁ、すごい……じゃなくて、綺麗な生徒さん。この子確か、C&Cの一之瀬アスナさんと、もう一人は浅黒い姿に一之瀬さんに負けず劣らず美人な角楯カリンさんだ。

 

 一之瀬さんは天童さんの姿に驚いて、角楯さんは絶句してる。可愛過ぎるから?

 

「えへへ!ニューアリスです!ミカがやってくれました!」

 

「ミカ?」

 

「私だよ〜」

 

 角楯さんに名前を呼ばれて、ミカさんが応える。途端に角楯さんの雰囲気が変わった。うわ、めっちゃ警戒されてる。一之瀬さんは……あんまり変わってないかな。

 

「あなたがアリスちゃんをこんな風にコーデしたの?すごい可愛いよ!」

 

「そうでしょ?でもアリスちゃんの素材が最高にいいからね」

 

「わかってるね、あなた!」

 

 グッと一之瀬さんとミカさんが握手していた。

 

 なんだかよくわからないけど、私は角楯さんに声をかけた。

 

「ご苦労様です。シャーレの草鞋野です。直接顔を合わせるのは初めてかな」

 

「お疲れ様です。そうかもしれない。C&Cの角楯カリン。ネル先輩と、アカネから話は聞いてる」

 

 肩にかけてるバックからして角楯さんは狙撃手なのかな?入ってるものが長そうだ。

 

「……それで、彼女は確か」

 

「色々あって今はシャーレで奉仕活動中。……伝わってると思ったけど」

 

 角楯さんは頷く。知ってないわけがない。エデン条約事件でミレニアムとはある程度協力したし、セミナーの生塩さんたちの様子からしてトリニティの内情はよく調べているはずだ。もしかしなくても、今のこの二人の格好も何かの情報収集中じゃないのだろうか。

 

「私は聖園ミカ。あなたは?」

 

「一之瀬アスナだよ!アスナでいいよ!」

 

「アスナちゃんって言うんだね。よろしくね」

 

「よろしく!」

 

 一之瀬さんって天童さん並みに元気な人なんだね。なんでか人懐っこい大型犬が頭を過った。

 

「そっちはリーダーと先生が言ってた草鞋野さんだね!こんにちは!」

 

「こんにちは、一之瀬さん」

 

「アリス。君たちはどうしてここに?」

 

 角楯さんが天童さんに聞くと「クエスト中です!」と答えた。

 

「そうなの!?私たちもむぐっ」

 

「アスナ先輩…!?」

 

 慌てて角楯さんが一之瀬さんの口を塞いでいた。いや、まぁ、私たちシャーレだから万が一バラしてもよほどのことじゃなければね。

 

 ミカさんがその場合ちょっと引っかかるけど、流石にミカさんも元生徒会長なだけあって弁えるところはしっかり弁えてるから、ちょっと前にやった連邦生徒会からの義務であるコンプライアンステストの結果は意外にも満点だった。

 

「どうしたんですか?」

 

「私たちもクエスト中なんだ」

 

「そうなんですね!依頼主は誰なんですか?」

 

「んっ!リオ会長だよ!」

 

「ちょっ!?」

 

 待った。今なんて?

 

 角楯さんが私を見て、マズった、という顔をしていた。

 

「一之瀬さん。今ね、先生はその会長さんを探してるんだけど、どこにいるの?」

 

「え、ご主人様が?」

 

 ご主人様ってなんだろうか。先生、C&Cにどういう呼び方させてるの?ミカさんも同じ感想なのか「うわーお…」と声を漏らしていた。

 

 いや、先生の呼ばれ方は置いといて、なんで行方不明の生徒会長からの指示を受けているのか。

 

「うーん、わかんない!」

 

「わかんないって」

 

「はぁ……すまない。こればかりは本当なんだ。草鞋野さん」

 

 角楯さんが眉間を揉みながら申し訳なさそうに言った。一之瀬さん、もしかしてかなり自由奔放な人なのだろうか。一応ミレニアムでも最上位に位置するエージェント集団の人だよね…?

 

 とにかく、どういうことなのか角楯さんに聞けば、C&Cはここ最近、調月会長からの指示がほとんどなく、ほぼ早瀬さんの指示で動いていたらしい。それが突然、ここ数日のうちにメールで指令が届き、内容は言えないけど街中で聞き込み調査をしているとのこと。

 

「つまり、C&Cにも調月会長の居場所は伝わってないんだね?」

 

「そう。正直、こっちも知りたいぐらいなんだけど、会長は私たち以上に隠密にも優れてるし」

 

「隠れんぼもすごいんだよ?アカネちゃんぐらいじゃないかな、同じぐらい得意なの!」

 

 室笠さんは前にシャーレの天井に潜んで爆破したなんてこともあったらしいし、そういうことなのかな。

 

「確かにアカネ先輩は隠れんぼ得意です!ニンジャです!」

 

「お話聞いてると、もしかしてこの人たちミレニアムのスパイさん?エリカちゃん」

 

「えっと、まぁ、そんな感じかな」

 

「へー。メイドさんがいたりスパイさんがいたりなんかすごいねミレニアム」

 

「私たちもメイドだよ!C&Cはメイド部だからね!」

 

「先輩。これ以上引っ掻き回さないで…」

 

 なんだか収拾がつかなくなりそうなので、角楯さんが一之瀬さんを抑えていた。

 

「では、私たちはこれで」

 

「えー、もう少しおしゃべりしていこうよ?」

 

「任務はこなさないと。行こう、先輩」

 

「も〜、しょうがないなぁ。……あ、そうだ!アリスちゃん、部長が探してたよ!」

 

「えっ、チビメイド様が!?」

 

「そう!じゃあねー!」

 

 角楯さんに強制的に引っ張られていく一之瀬さんは手をぶんぶん振った。本当に大型犬みたいな人だった…。それにしてもC&Cのリーダーをチビメイド様ってアリスちゃん大丈夫なのそれ。

 

 離れて行ったC&Cの二人は向こうでこのあたりでは珍しいゲヘナ生に声をかけていた。いかにもギャルっぽい子たち。こんな時間に他校の自治区にいるって何してるんだろう。まぁ、今の私たちが気にする話じゃないか。

 

「アスナちゃんってワンコみたいだったね」

 

「私を見ながら言うのは私が可愛げがないって?」

 

「そんなことないよ。というか、エリカちゃんはどっちかというとドーベルマンとか警察犬でしょ」

 

 ミカさんの評価を受け流しつつ、天童さんが「次に行きましょう!」と走り出す。追いかけながらなんで走り出したのか聞くと。

 

「だってネル先輩に探されてるんです!」

 

 と、答えられた。怖いのかな。いや、怖いだろうなぁ。美甘さん、ヤンキーっぽい見た目だから。それ以前に、ゲーム開発部とC&Cって戦ってるもんね。

 

 

 

 

 

 

 

 それからミレニアムの中を歩き回ったけど、すごいな、と思ったのは出会う生徒みんなが天童さんと知り合いで、どの子とも良好な関係を築いていたことだ。それに、彼女はまるでこのミレニアムの中でシャーレのような活動をこなしていた。

 

 さまざまなことのお手伝いやお願いを聞いたり、天童さん自身がちょくちょく「勇者」と自称してこなしていく様は、まるでゲームの中で様々なことをこなしていく主人公のようだった。

 

 ミカさんも天童さんの愛されっぷりにはびっくりしていた。

 

「なるほど。それで今日はアリスと一緒なのか。エリカ」

 

「そうだよ」

 

 色々こなしていくうちに、いつの間にかエンジニア部の面々と出会っていた。何故か踏み込んだ色んなパーツを売っているお店が並ぶエリアに今は来ていて、天童さんはシャーレの制服のデザインも担当した猫塚ヒビキさんに今の格好を写真撮られまくってるし、コーデについてミカさんにものすごい聞いている。

 

 私はそんな彼女たちを遠巻きに見ている白石さんに話しかけられていた。

 

「あのお嬢さんもだいぶ馴染めているようだ」

 

「ミカさんのこと?」

 

「そうだよ」

 

 馴染みすぎてる気がしないでもない。

 

「そうだ、君にも聞かなくちゃいけなかった。シャーレの制服の調子はどうだい?」

 

「絶好調だよ。この前もあったある事件で、ミカさんは真正面からガトリング掃射を受けたけど平気だったよ」

 

「それはよかった。うん、ヒビキも君や聖園くんに着られて嬉しがっていたよ」

 

「どういうこと?」

 

「似合っている逸材に渡せたとね」

 

 うっ、なんかそういう表情で褒められると変な気分になる。白石さんが美人だから本当にね。

 

「それに、アリスに渡した光の剣も調子が良さそうだ」

 

「光の剣?」

 

「あのレールガンさ」

 

 そういえばそうだった。あの天童さんが使っているレールガンはエンジニア部の作品だ。この前の晄輪大祭でも信じられない威力を見せていて、カヤちゃんから「なんですかあの戦術兵器は!」とシャーレに問い合わせが来た。

 

 光の剣、って呼ばれてるみたいだけど、言われてみれば発射されれば青白い軌跡が伸びていく様は剣と見えなくもない。

 

「星の海を行く舟に取り付ける筈だった主砲が、勇者の剣、というのはまたなんともいえないロマンがあるとは思わないかい」

 

「そうは言われても……かっこいいとは思うけど」

 

「いい感性だ。エリカ。チーちゃんはこのあたりわかってくれなくてね」

 

「チヒロちゃんは真面目だからなぁ」

 

 あ、そういえばこの前の旅行のお礼をまだできてない。何か持っていかないとね。といっても近々ヴェリタスに行く予定がないんだよねぇ。

 

「そうだった。君はチーちゃんと付き合いが長かったね」

 

「まぁそれなりに。白石さんもそれなりの付き合いなんだよね?」

 

「君には及ばないがね。チーちゃんよりはリオやヒマリとの付き合いの方が長いかな」

 

 まさかここで調月会長の名前が出てくるとは思わなかった。彼女は調月会長の友達だと言うなら、知ってるかな。彼女の居場所。

 

「白石さん。今先生がセミナーからの支援要請で調月さんのことを探してるみたいなの」

 

「会長を?どうしてだい」

 

「なんだかセミナーでも姿をしばらく見てなくて、電話でのやりとりしか出来てないんだって」

 

 私が伝えると、白石さんは苦笑いしていた。

 

「彼女らしいね。おそらく自分の研究で忙しいのだろうな」

 

「そうなの?」

 

「あぁ。入学したての頃かな…私やヒマリとつるんでいた頃、出かけると言った日に来なくてね。ヒマリと大喧嘩したことがある。それで遅れた理由が、研究がいいところまであと少しだったというんだ」

 

 意外な話だ。ミレニアムのビックシスターといえば、かなり生真面目って噂を聞いたことがある。そんな人が?

 

「ははっ、意外だろう?」

 

「顔に出てた?」

 

「出てたけど、しょうがないさ。彼女は責任感が強い。その遅れた理由の研究だって、誰かのためのものでね。彼女は誰かのためならと頑張れてしまう優しい人なのさ」

 

 懐かしむかのような白石さんの様子が、どうしてか少し悲しそうに見えてしまう。私がどう声をかければ迷っていると、また先に白石さんが口を開いた。

 

「だから今回の失踪騒ぎも似たような話なんじゃないかな?そのうちひょっこり姿を表すだろうさ」

 

「……それ先生に伝えたほうがいいかな」

 

「そうだね。いいと思う。まぁでも、ノアやユウカのお願いがあるだろうから止める話でもないだろう。それでセミナーの仕事をほっぽり出してるなら問題は問題だ」

 

 そりゃそうだ。生徒会長が不在で役員だけで運営されているのは大変だろうし、何かあった時に困ってしまうから、やっぱり見つけないとね。とりあえず先生にあとで情報共有はしておこう。

 

「ふむ。あちらも写真撮影会は終わったようだ。コトリも待たせているし、私たちはこれで」

 

「うん。またね、白石さん」

 

「あぁ、また」

 

 白石さんが去っていく。なんというか、彼女の包容力みたいなものは色々と刺激が強いと思う。全くそんなことはないはずなのに、遊び慣れてるようななんというか。……若干違うかもだけど、仲正さんに似たような空気感だ。

 

「お待たせ!アリスちゃんの写真いっぱい撮ってもらったけどこれとか可愛くない?」

 

「確かに可愛いね」

 

「アリスのコーデパワーがダンチです!」

 

 ミカさんが猫塚さんに撮ってもらった写真をもらったのか、スマホの画面を見せてくれたけど確かにものすごい可愛い。アングルも凝ってるし、まるでアイドルのプロマイドみたいだ。

 

「ついでにツーショットもしたんだよ?ほら!」

 

「お姫様が二人いるみたい」

 

「二人はプリンセス!ですね!」

 

 素直な感想を述べると本当にそうだった。写真の中にいる天童さんとミカさんの愛らしさはすごいことになっている。

 

「あとでナギサちゃんに送ったら?」

 

「もう送ったよ〜。お仕事してるだろうから返事ないけど」

 

 だろうね。

 

「ミカ!エリカ!次の場所に行きましょう!」

 

 どうやら、まだまだクエストは続くらしい。元気よく駆け出した天童さんに続いて、私たちは駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ、チビ……待ってたぜ」

 

「うわぁ!チビメイド様です!」

 

「なっ、誰がチビだ!」

 

 白石さんたちから別れてまたしばらく歩き続けて、私たちはあるゲームセンターの前で美甘さんに声をかけられた。天童さんは先輩であるにも関わらずチビと美甘さんに言って怒られていた。

 

「いい加減先輩って呼べっての」

 

「ううっ、ね、ネル先輩」

 

「そうだ。……んで?なんでまたオメェらも雁首揃えているんだ?」

 

 天童さんの次は私とミカさんに聞いてきた。そりゃそう。私が先生の代わりにゲーム開発部の支援要請を受けていることを説明すると彼女は納得したのか「大変だなぁシャーレは」と意地の悪そうな顔で言っていた。

 

「まぁいいや。おい、アリス。ちょっと付き合え」

 

「え、アリスはクエストが」

 

「いいから!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!?ミカ、エリカ〜!」

 

 天童さんは美甘さんにゲームセンターの中へと引きずられていってしまった。その姿を私とミカさんは微笑ましく見てしまった。いやいや、見送ってる場合じゃないな。とりあえず追おう。

 

 私とミカさんも遅れてゲームセンターの中に入ったが忘れてた。

 

「耳がああああっ!?」

 

「なにいきなり!?」

 

 慌てて帽子を取り出して頭に被って中でペタンと耳を畳んだ。危ない。耳がおかしくなるところだった。

 

「ふぅ……危なかった」

 

「エリカちゃんたまに意味不明なことするね」

 

「いやこれは耳がいいから」

 

「……そういえばそうだったね。めっちゃ耳よかったね」

 

 耳が良過ぎるのも考えものだね。ゲームセンターは室内だからリズムゲーム多めのお店だと危ない。ちょうどこのお店はそうだったみたいだ。

 

 準備も済んだので改めて店内の奥の方へ行けば、天童さんと美甘さんは仲良く(?)一つの筐体の前に並んで格ゲーをしていた。

 

「エリカちゃん、私たちも休憩しない?」

 

「そうだね。といってもどこでって感じだけど」

 

 ゲームのアイデア探し…になってたかはわからないけど、美甘さんに捕まってしまった天童さんを引き剥がすのは大変だと思うので、ミカさんの案には賛成。とはいえ、どこで休憩しようかな。

 

 休憩といっても天童さんたちから離れるわけにはいかないので、どうしようかな。

 

「私たちもゲームしてみる?エリカちゃん」

 

「一応私たち仕事中だからね」

 

「もうっ、硬いなぁ。ナギちゃんみたいだよほんと。す…友達同士は似ちゃうってやつ?」

 

「私たちそりゃあ相性いいみたいだからね」

 

「………エリカちゃんそれいつも思うけど天然?」

 

「?」

 

 どういうこと?まぁ、私とナギサちゃんの相性は改めて考えるといいと思う。私と彼女がもしヴァルキューレで知り合ったらよかったのに、なんてことも一瞬考えたことあるぐらい。現実はそうじゃなかったけどね。

 

「はぁ、大変な人に引っかかってるなぁ……」

 

「意味がよくわからないけど」

 

「なんでもないよーだ。じゃあ座って待ってよ。あの二人が終わるまで」

 

「……そうだね」

 

 よくわからないけど、まぁいいや。とりあえずミカさんが、天童さんたちの後ろにある待つための長椅子があるのでそちらに向かおうとしたら、私たちの前に別の筐体の影から出てきた人がいた。

 

「わ」

 

「おっと…失礼しましたお嬢様。お怪我は?」

 

 現れたのはロングスカートのメイドさん。古式ゆかしい瀟洒な雰囲気を漂わせた室笠アカネさんだった。ぶつかりそうになってよろめいたミカさんを見事に立ち直させた室笠さんはスカートを両手でつまみ会釈する。

 

「わ、私は大丈夫だよ?エリカちゃん、このメイドさんは…」

 

「室笠アカネさん。見ての通り、美甘さんと同じC&Cの人だよ」

 

「へぇ。じゃあ私のことも知ってるよね?」

 

「存じ上げております。聖園ミカ様。現在はシャーレで奉仕活動中、でしたね」

 

「ふふっ、すごいね。トリニティの外でもこんな素敵なメイドさんがいるんだね」

 

「お分かりになりますか」

 

「うん。だって私、気配感じなかったもん」

 

 言われてみればそうだ。私も室笠さんの気配を感じなかった。だからミカさんがぶつかりかけたんだね。さっきそういえば、一之瀬さんが彼女は隠密行動が得意だって言ってたけどこういうことなんだ。

 

「えっと、室笠さん。もしかしなくても……」

 

「察しがいいですね草鞋野さん。さすがです」

 

 私が美甘さんを指差すと、室笠さんはニッコリとして頷いた。あぁ、美甘さんサボってたわけね。

 

「といっても、キリがよくないでしょうから、もう少し待ちますが」

 

「そうなの?てっきりすぐ言うのかと思ったけど」

 

「空気を読んで、ですね。この場合は。そういえばお二人はアリスちゃんの付き添いですか?」

 

「そうだよ。それで二人が遊び始めたから休憩しようかなと」

 

「なるほど。場所が違えば、お茶の一杯ぐらいはご用意できたのですが」

 

 室笠さんが残念そうに言う。それはまたの機会かなぁ。

 

「メイドさんって誰がご主人様なの?先生?」

 

「おや、ご存知ないのですか?聖園さんはシャーレの生徒なのでしょう?」

 

「私は新人だもん。ね?エリカちゃん」

 

「まぁ、そうだけど。さっき一之瀬さんたちと会った時にわかってるはずだよ。C&Cの責任者は調月リオ会長だよ」

 

「はい。そうです。私たちの主人は会長です」

 

「へぇー。じゃあ本当に優秀なんだね、ミレニアムの生徒会長って。使用人って主人の格が出るからさ」

 

「トリニティ、それもティーパーティーの方からそう言われるのは光栄です」

 

「ふふっ。誇っていーよ」

 

 なんでこんなミカさん挑発的な話し方をしてるの……?まさか、何かを警戒してる?室笠さんを見てるけど、特に違和感はないし、いつも通りだと思うけど。

 

 室笠さんは特にミカさんからの話を受けても変わりはなかった。いつも通りの瀟洒なメイドさんのまま。しばらく、変な空気になって天童さんたちを眺めるだけの時間になってしまった。

 

「だああっくそ!勝てねぇ!あと少しでコンボいけそうなのによ!」

 

「ネル先輩はレバガチャしすぎです!落ち着けばいけます!」

 

 どうやら一旦勝負がひと段落したらしい。タイミングが合ったのか、室笠さんが二人に近寄っていった。

 

「げっ!?アカネ!?」

 

「どこでサボっているのかと思えば。先輩、戻りますよ」

 

「待ってくれ!あと一回!一回だけ!」

 

「ダメです」

 

「クソぉ!離せアカネ!抱えるな!?」

 

 強引に美甘さんは室笠さんに担がれてしまった。

 

「て、テメェらみるな!見せもんじゃねーぞ!」

 

 私たちには恥ずかしいのそんなセリフを吐いて、二人はゲームセンターから出て行ってしまった。

 

「いっちゃったね」

 

「そうだね。……ねぇミカさん」

 

「なぁに?」

 

「なんであんな物言いを?」

 

「ふふっ。どうしてだろうね?でもさ」

 

 ミカさんが美甘さんたちが去り、閉まる自動扉を眺めながら言った。

 

「私とエリカちゃんが気が付かないぐらい気配消す必要がなんであったんだろうね」

 

「……それは美甘さんにも気が付かれちゃうからじゃない?」

 

「そういうことにしておこっか」

 

 それだけ言って、ミカさんは「アリスちゃーん」と天童さんの方へと行ってしまった。

 

 室笠さんに怪しい感じは全くなかった。そのはず。

 

 けど、ミカさんが私よりも、もし、何かに敏感なら?

 

「…………C&C、か」

 

 今一度、外へと繋がる自動扉を見る。磨りガラスになっているドアは外の様子がおぼろげにしかわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「先生、お疲れ様です。今日はこれで上がりますね」

 

「お疲れエリちゃん」

 

「お先にしつれいしまーす」

 

 エリちゃんが執務室を出ていき、背もたれに体を預けた。パソコンの画面の右下にある時計は20時を指している。

 

 ミレニアム生徒会長、調月リオの居場所は2日前、エリちゃんとミカがゲーム開発部の支援要請に向かった日から進展が何もない。あの日よかったのはエリちゃんとミカがアリスと仲良くなったことぐらいだろうか。ミカから見せてもらったアリスの写真はすごかった。ユウカに送ってやったらモモペイでいきなり数万送金されてびっくりした。

 

 すぐに送り返したけど。

 

「コユキ探してた時のエリちゃんもこんな気持ちだったんかね」

 

 あの時よりタチが悪いのはマジで手掛かりがないことだ。そもそも、エリちゃんが休暇でいない間に私とミカでミレニアムの中練り歩いたけど全く目撃情報もなく、ユウカとノアにミレニアムのセキュリティとか全部ひっくり返してもリオが自治区内にそもそもいるかどうかすらわからなかった。

 

 その過程でミレニアムの全部部活の予算が何故か過剰に計上され、その過剰分がどこかに消えるという大規模な不正会計が発覚し、ユウカたちも早く会長を探してほしいと焦っていた。

 

「ミカも今日から3日いないしどうしたもんかね」

 

 ミカは予定通り、トリニティの更生寮に戻っている。次来るのは4日後だ。緊急時はシャーレに呼び出していいことになってるけど、今のところそんな事態にはなってない。今日だって大抵の支援要請は私とエリちゃんで十分だった。

 

 ただ、会長探しを急ぎたいのでミカがいないのが微妙に痛いんだよね。

 

「アロナ……はもうおねむの時間か。ヒマリはしばらくいないってチヒロが言ってたし」

 

 リオと同級生だというヒマリにも話を聞こうと思ってヴェリタスの部室を訪ねたらチヒロにはしばらく外すと伝言を残して連絡もできなくなっていた。特異現象捜査部の活動じゃないかな、とチヒロは言っていた。

 

「はぁ、ダメだ。こうも手掛かりがないんじゃ手詰まりだ。エリちゃんも手掛かりとか集めようにも見つからないって言ってたしなぁ」

 

 流石のエリちゃんは色々情報収集してくれていた。

 

 アリスとミレニアムを回る中、C&Cの部員に偶然会ったりしたのでリオの居場所を聞こうとしたけど、事前にユウカから聞いていた通り、C&Cのメンバーは誰もリオの居場所を知らなかったらしい。エリちゃんもなんの手掛かりもないとどうしようもない。

 

「最終手段でリンちゃんに頼んでリオの生徒手帳の履歴発行してもらおうかなぁ。すごい時間かかりそうだけど」

 

 以前に、エリちゃんがコユキの居場所を特定するのに使用した生徒手帳の履歴書き出し。アレは本来生徒会長、つまり自治区の長の印があって初めてできるんだけど、シャーレの権限の中にはそれを飛び越えて発行……連邦生徒会会長と同等の権限が与えられてる。

 

 ただ、もちろん申請書を書いて回覧して担当生徒会役員が認めないと履歴は出てこないので、時間がかかる。だいたい一週間ぐらいかな?せかせばすぐ出てくると思うけど、いわば生徒のプライベートを本人の預かり知らぬところで見る行為なので、本当に慎重になるべきものなんだ。

 

「……やっぱやめよ。なんか悪いし」

 

 なので、心情的にちょっとこの手は使いたくない。エリちゃんもアレはリオが当時手を貸してくれたみたいなものみたいだし。

 

 さて、時間が時間だし、ご飯でも食べに一旦休憩しようかな。

 

 そう思って、席を立ち上がろうとした瞬間だった。

 

「どうぞ、先生」

 

 漂う紅茶の香り。スッ、と私のデスクの上にメイドさんの腕とミカが最近持ってきた私たちと飲む用のカップとソーサーが出てきた。

 

「こんばんは、アカネ。今日は天井壊さなかったね」

 

「はい。流石に夜は近所迷惑だと思って」

 

 一体どこに潜んでいたのか。アカネがいた。私にお茶を差し出す姿は本当に漫画やアニメでしか見たことがないメイドで、スタイルのいいアカネは私からすると理想的なメイドさんだった。つまりめちゃくちゃ好みだ。

 

 ひとまず、紅茶を一口。うん。おいしい。ナギサやミカ、エリちゃんと最近紅茶を淹れるのが上手な生徒たちのおかげで美味しい紅茶を飲んでるけど、アカネのもおいしい。

 

「パーフェクトだよ、アカネ」

 

「勿体なきお言葉です。先生」

 

 カップをソーサーの上に置いて、私は椅子をくるりと回してアカネに向いた。

 

「ところで、今日は”ご主人様”って呼んでくれないんだ?」

 

 私が感じた”違和感”をはっきりと口にする。アカネの湛える微笑は崩れなかった。

 

「なんのことでしょうか」

 

「いんや?ま、元々私はアカネの先生だから何も問題はないんだ。ちょっと普段と違うから気になっただけ」

 

 慈愛の怪盗がカンナに化けたという事例がエリちゃんから報告されてるけど、清澄アキラという生徒が現れるのは盗品があるところだ。ここにはない。

 

 このアカネは間違いなく、私が知る——ミレニアムサイエンススクール、C&C所属の室笠アカネだ。

 

「ふぅ。わざわざこんな時間に、ひっそり入ってきたってことは何か相談かな?」

 

「私からではありません。私たちの主人からの”支援要請”です」

 

 私たちの主人、ね。

 

「どんな内容なのかな?」

 

「しばらく先生にはお休み頂きます」

 

「おやすみ?」

 

「はい。かの天才たちの言葉を借りるのであれば——勇者には、囚われの姫が必要——ですから」

 

 




次回はまた明日になります。
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