頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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今回の連続投下は本話までとなります。


Area-03「エンジニア部部室 #暴走 #不可解な機械 #敗北」

 先生は朝早くから調月会長の捜索に乗り出してしまい、シャーレにはいなかった。ミカさんもトリニティに戻っていて不在なので、私は一人でシャーレに残って支援要請にはならない相談事とかの回答をしたり、近場で困った生徒がいれば助けたりしていたら、珍しくチヒロちゃんから連絡が入った。

 

 ヴェリタスの後輩さんたちがミレニアム郊外の荒野で正体不明の機械を見つけたと。先生に最初連絡したけど忙しいのか連絡がつかなったそうで、私が代わりに呼ばれたというわけだ。

 

 そんなわけでお昼過ぎにD.U.を私は出発し、ミレニアム校内のエンジニア部に向かった。なんでエンジニア部?と思ったけど、ヴェリタスはハッカー集団で、ソフトウェア専門。機械そのものとなればエンジニア部だかららしい。

 

「あ!エリカです!」

 

「ん?天童さん…それにゲーム開発部のみんな」

 

 エンジニア部の部室、という名の大きな工場兼格納庫の前までやってきたところで、天童さんたちと出会った。

 

「こんにちは。みんなはどうしたの?」

 

「マキに呼ばれたんです。すごいものを見つけたって」

 

 そういえば、小塗さんと才羽さんたちは友達だったね。この前の晄輪大祭準備の時にそんな感じがあった。

 

「インスピレーションになればいいかな…って」

 

 ついでに、花岡さんの言うようにゲーム開発のために見にきたようだ。

 

「エリカはどうしてここに?」

 

「チヒロちゃんに呼ばれたの。なんか正体不明の機械を見つけたから立ち会いしてほしいって」

 

「エリカはチヒロ先輩と仲がいいのですか?」

 

「うん。ヴァルキューレの時に色々助けてもらって」

 

「すごい繋がりだ……」

 

 モモイさんが意外そうな顔をしてるけど本当にね。チヒロちゃんと私が知り合いなんて殆どの人は思わないだろうなぁ。

 

 とりあえず、ここでずっと話してもしょうがないので、私が先にエンジニア部の部室へと入る。中は静かだった。いつもなら白石さんとかの声が聞こえてそうだけど。他の部員さんも今日は休みなのかな?工作用の機械とか停止してる。

 

 大方、エデン条約事件の時からよく使ってる試験場みたいな広場にヴェリタスの子達もいるのかなと思って奥に進んでいけば、予想通り人影があった。

 

「チヒロちゃん、来たよ!」

 

「アリスたちも来ました!」

 

 私と天童さんが声をかけると、チヒロちゃんやヴェリタスのメンバー、マキちゃんがこっちを向いた。チヒロちゃんは澄ました顔でいつも通り、小塗さんは私を見るなり、また「げっ」って顔をしてからアリスちゃんたちを見て笑顔になった。

 

 他には音瀬さんと小鈎さんもいる。あの二人を見るのは久々だし、エンジニア部の豊見さんと猫塚さんの姿もある。白石さんがいないのが気になった。

 

「お疲れ様、チヒロちゃん」

 

「お疲れ。悪いね、来てもらって」

 

「全然。これも支援要請だから平気だよ。それで、これが?」

 

 チヒロちゃんたちの後ろにあるのは球体状の機械…なのかなこれ。なんか見た目が……不気味というか、異様な感じがする。

 

「なにこれ!ロボットって聞いたけどホラーみたいな見た目じゃん!」

 

「でも見たことないでしょ?もしかしたら古代ミレニアム人が作ったロボットかも!」

 

 モモイさんの評価にマキちゃんは世紀の発見だというぐらいに興奮していた。

 

「古代ミレニアム人……流石に違うと思う」

 

「マキ、興奮しすぎでは」

 

「ハレ先輩もコタマ先輩もロマンがないよ!?ウタハ先輩がいたら絶対このロマンわかってくれたと思う!」

 

 マキちゃんもしかしてこういうの好きなのだろうか?なんとなくわからなくもないけど。

 

「チヒロちゃん、どこで見つけたの?」

 

「電話でも言った通り、ミレニアム郊外、というか近郊の荒野かな。”廃墟”は知ってる?」

 

「……シャーレだから報告書で少しはね」

 

「そう。それで、その荒野は”廃墟”とミレニアムの中間地点ぐらい。見つけたところにはあの20体ぐらいあったけど、その中から5体ぐらい引き上げてきた」

 

「そうなんだ。そもそもなんでそんなところに行ったの?」

 

「マキがグラフィティのアイデア探しにフィールドワークをしてて、それで見つけたみたい」

 

 見つけた状況はわかった。じゃあ、あとはこの機械かそのものだけど。

 

 しきりに観察している豊見さんと猫塚さんにも話を聞いてみよう。

 

「豊見さん、猫塚さん」

 

「おや、エリカさん!お疲れ様です!」

 

「お疲れ様です。エリカさん」

 

「うん、お疲れ様」

 

 二人とはシャーレ生徒用の制服のデータ取りとかで、実は定期的にやり取りしてて、特に猫塚さんはこの制服の開発責任者なので、わりと密にやり取りをしてる。

 

「一昨日ぶりだね。それでこの機械、なんだかわかった?」

 

「いえ、全く!」

 

「外装にメンテナンス用のハッチもないし、給電・接続用のポートもない。ウタハ先輩でもわかるかどうか」

 

「白石さんはそういえばどうしたの?」

 

「しばらく外部で研究があるからって出張してる。今までも時折あったからいつものことだと思うよ」

 

 タイミングが悪いのかなこれは。そういえば、明星さんの姿もない。不可解なものとなれば彼女の出番だけど。

 

「エリカ。たぶん何もないから帰ってもいいよ?」

 

「ううん、チヒロちゃん。一応シャーレの生徒として、少しは何かするよ。豊見さん、ちょっと見せてもらっていい?」

 

「構いませんよ!」

 

 このまま何もしないのもよくないので、チヒロちゃんの言葉にはやんわりと断りを入れつつ、動かないロボット?のようなものを間近で見てみる。私に出来ることがあるとすれば。ヴァルキューレの警察官としての経験を生かしたことだ。つまり、この機械の見た目から遺留品のように何かを読み取ること。

 

 まずは外装表面。マキちゃんが言うような古代の何かだったら、もう少し経年劣化が見られるはずだけど、おかしなことに表面に傷がない。ここまで持ってくるのに傷がつきそうなものだけど、一切ないのだ。

 

 なんというか、デザインも民生のロボやドローンというよりは、無駄を省いた軍事兵器のようにも見える。

 

 手で触れてみると、おかしな感触だった。

 

「……なにこれ、柔らかい…?」

 

「やっぱりそうだよね。柔らかい」

 

「猫塚さんも同じ?」

 

「うん」

 

 猫塚さんも同じ感想だったらしい。このロボットの外装は明らかに鉄に見えるのに、なぜか指先で押すと微かな弾力を感じる。

 

「豊見さんは何かわかった?」

 

「ダイラタンシー現象かとも思いましたが、指で軽く押しても抵抗するので違うかなぁ〜と」

 

「えっと…?」

 

 なんだろうその現象。私が困っていると後ろからチヒロちゃんが教えてくれた。

 

「簡単に言えば、ある物体へボールを投げて遅ければ液体のようになって、早ければ衝撃を吸収するクッションみたいになる、って現象かな。だいぶ語弊はあると思うけど」

 

「あ、そういうことね。それならわかるかも」

 

 横で豊見さんが説明したかったのか「むぅ」と膨らんでいたけど、しょうがない。チヒロちゃんの説明は簡潔でわかりやすかった。豊見さんの詳しい解説はまた今度お願いしよう。

 

「となると、全くわからないものってことだね」

 

「あえて言うなら”弾力装甲”といったところでしょうか!実際に私とヒビキで攻撃してみましたが全く通用しませんでした!」

 

 なんだろう。一気にきな臭くなる。これがエンジニア部の作品だというのならまだわかる。晄輪大祭で応援用ロボットという名の球体型戦車を披露していたし、会場内でデモンストレーションをしていた時にかなりの堅牢っぷりを見せていたから。

 

 けど、これは誰もいない荒野に何台も転がっていた。

 

「………チヒロちゃん。明星さんに連絡は?」

 

「かけても忙しいって留守電。何してるんだか。いて欲しい時にいないんだから、あの人」

 

「ちなみに、チヒロちゃんでも解析は?」

 

「接続がそもそもできないから無理だよ。エリカ」

 

 嫌な予感がする。何か、犯罪が起きる時と同じ。私の勘が警鐘を鳴らしてる。

 

「しかし動かないとなると結局これがなんなのかもわかりません」

 

「うん。マキ、あとはエンジニア部に任せて戻ろう」

 

「えぇー!?でも、でも!」

 

 音瀬さんと小鈎さんの言うように、どうあれ、白石さんが揃ってからの話になる気がする。だから、今はこれをエンジニア部に預かってもらうしかない。細心の注意は払いつつも。

 

「コトリ、先輩が戻ってくるまで、待とう」

 

「そうですね。壊すこともできないとなるとちょっとお手上げです」

 

 場が解散ムードになりかけてるので、お開きかな。一応、あとで先生に報告してみよう。

 

「お姉ちゃん、参考になりそう?」

 

「うーん。バックボーンがわかればなんか題材にはできそうだけど」

 

「設定は帰ったら作ってみようよ、モモイ」

 

「そうだね、ユズ。そうしよっか」

 

 ゲーム開発部の子達も帰るみたいだし、私も一度シャーレに戻ろうかな。

 

 みんながこの場を離れるようと歩き出す。そんな中で、最後になった私の横を——。

 

「天童さん?」

 

 ——何故か天童さんが通り過ぎて、球体型の機械に近寄っていく。

 

「アリス、どうしたの?」

 

 何故か機械に近寄った天童さんを連れ戻そうと、モモイさんとミドリさんも戻ってくる。他のみんなは遠巻きに立ち止まって振り返っていた。

 

「……………………」

 

「そういえばアリスちゃん、ここに入ってから全然喋ってなかったけど、気分とか悪い?」

 

「そういえばそうだ。アリス、だいじょぶ?戻ろう?」

 

 無言の天童さんを心配してか、モモイさんたちが声をかける。どうしたんだろう。じっと、この機械を見つめてるけど………。

 

「天童さん、何かこの機械に気になるものでも見つけた?」

 

 彼女は賢い子だ。もしかしたら、私では気が付かない何かを見つけたのかもしれない。と私がそう思って聞くけど、それでも天童さんは無反応だった。

 

 もしかして本当に気分が?そう思って、天童さんに手を伸ばそうとしたところで「うわっ!?」とモモイさんが声を上げた。

 

「お姉ちゃん?どうしたの急に?」

 

「なんかあつっ…!?うそ、私のゲーム機!?”廃墟”に行ってから壊れてたのになんで…!?」

 

 なんだか慌てた様子でモモイさんが懐からポータブル型のゲーム機を取り出していた。彼女は何か熱気を感じたのか。画面が起動しているけど、何かゲームが映っているわけでもない。

 

「お姉ちゃん!?」

 

「なんかゲーム機が発熱して」

 

 それ危なくない!?もしかしたら発火するかもしれないから、消化器を。

 

「——アリス、知ってます。これ……」

 

「天童さん…!?」

 

「これは——」

 

 無言だった天童さんが喋り出し、彼女は球体型の機械へ手を伸ばした。

 

 それに触れるな、と私の中の奥底から言われた気がした。だけど、私の口が心の中からの制止を吐き出す前に、天童さんはソレに触れた。

 

「え」

 

 誰の声だったのか。もしかしたらその場にいた私たちみんなの声だったのか。

 

 天童さんが機械に触れた瞬間、まるで動く気配がなかった機械たちがセンサーのような部分を発光させ、球体から4本の足を生やし、起動する。

 

 咄嗟だった。私はミドリさんとモモイさんを乱暴にみんなのほうへと首根っこ掴んで放り投げた。

 

「「うわああああっ!?」」

 

 それと同時に、私は起動した謎のロボット5機に囲われ、四方から触手のようなものに襲われた。

 

「ぐぅっ!?」

 

 シャーレの制服のおかげか、それらの触手は私を貫くことなくなんとか全身への打突で止まる。

 

「エリカっ!」

 

 チヒロちゃんの叫びが聞こえた。大丈夫、これぐらいなら…!

 

「………………」

 

「天童さん…!」

 

 機械たちが私を倒せないと判断してか包囲はそのままに触手のような、おそらくコードを収めると、その包囲の中に天童さんが入ってくる。開かれた瞳はいつもの天童さんの青いものではなく、妖しく光る赤色。

 

「AL-1S起動完了」

 

 AL-1S…?それ、どこかで……。

 

「Type.F、システム、戦闘モードで起動完了」

 

 Type.F、それがこのロボットたちの名前?それにまるで、こんな天童さんがこのロボットたちの指揮官みたいに…!?

 

「プロトコルATRAHASISを実行します」

 

 アトラハーシス…?なに、何が起ころうとしてるの、一体。

 

「正面、敵性有機生命体を排除します」

 

 天童さんの持つレールガンが私に向けられる。回避……ダメだ…!後ろにはみんなが…!どうする!?右、左、上……いやこれなら、下に…!

 

「出力50%。発射」

 

「ええいっ!」

 

「エリカーー!」

 

 全力でレールガンを殴って、砲口を地面に向けさせる。刹那、私の視界は真っ白になった。

 

 全身に強烈な衝撃が加わる。舌は噛まないように口はなんとか閉じた。耳が衝撃音でどうにかなりそうだ。私の体はどうなった。バラバラになったのか。いや違う、これは私が宙に浮いてる。

 

 受け身、受け身を…!

 

「だっはっ!?」

 

「エリカ!エリカっ!」

 

 背中から床に叩きつけられた。頭も打った。痛い。チヒロちゃんの声がなんとか聞こえた。

 

 目を開ける。すると、さっきまで私がいた場所は隕石でも落ちたのかというぐらいめちゃくちゃになっていた。

 

「しっかりして、エリカ!」

 

「うっ、な、なんとか、だいじょぶ」

 

 体は動きそうだ。ふらふらするけど、なんとか手を使って起き上がる。体の状態はと確認すれば、煤けてる以外は特に問題なさそう。ただ、衝撃が凄まじいから、体の中がどうなってるかはわからない。

 

「あ、アリスちゃん…なんで…!?」

 

「アリス!どうしちゃったの!?」

 

 モモイさんとミドリさんは投げちゃったけど、とりあえず大丈夫そうだ。

 

「みんな退避を……伏せて!」

 

 チヒロちゃんが避難を呼びかけるけど、Type.Fと呼ばれていたロボットが機体下部から銃口を取り出し、発砲してくる。だけど、飛んできたのは銃弾ではなく、紫色に光る光弾だった。

 

「ちょ、ちょっとちょっと!?何がどうなってんの!?」

 

「コタマ先輩」

 

「聞いたことがない発砲音です…!強いて言えばゲームのレーザー砲みたいな」

 

「みんな絶対当たらないで!何を撃ってきてるのかわからない!」

 

 全員、エンジニア部の工作機械とかの遮蔽物に身を隠す。チヒロちゃんの忠告通り、これは当たらない方が良さそうだ。全く何を撃ってきてるのかわからない。幸いにも隠れているものを射抜くほどの威力はないみたいだ。

 

「有機生命体の排除失敗。チャージ再開」

 

「まずい、またレールガンを!」

 

「気をつけてください!出力が明らかに上がってます!」

 

 猫塚さんと豊見さんの言うことが正しいならこのままだと全員レールガンで吹っ飛ばされておしまいだ。なんとか天童さんを止めないと!

 

「チヒロちゃん」

 

「エリカ、何言い出すかはわかってるからやめて」

 

「ごめん。私がなんとかする」

 

「エリカ…!」

 

「バックアップお願い」

 

 私のお願いに、チヒロちゃんが大きくため息をついた。ほんとにごめん。いつも土壇場であなたにはこういうお願いばかりだ。

 

「……わかった。マキ!エリカがやるから援護するよ!」

 

「え!?行くの!?」

 

 ライフルを構える。問題ない。この前トリニティで再整備されてからすこぶる調子がよくなってる。トリニティの校章がキラりと光った。

 

「エリさん!私たちも!」

 

「エリカさん!」

 

 ミドリさんとモモイさんも、天童さんを元に戻したいから協力を申し出てきた。助かるけど…。

 

「ここで援護をお願い。突っ込むのは私だけ」

 

「危ないよ!?さっきもあんな」

 

「だからだよ。……今、ここには先生がいないから。シャーレの生徒である私が、みんなを守るの。もちろん、天童さんのことも」

 

 装填完了。予備の弾丸もすぐに装填できるように準備できてる。行こうっ!

 

「……行くぞ!」

 

 まずは私が隠れていた大型の切削加工機から飛び出す。天童さんに従っているロボットたちが私に向けて光弾を撃ってくる。

 

 それをステップで避けていく。光弾だけど、速さは普通の弾丸よりも若干遅い…?十分見切れるレベルで、回避は簡単だった。これが何体もいたら大変だろうけど。

 

「草鞋野さん!スーパーノヴァは本体左側面に緊急のキルスイッチがあります!それを押せば!」

 

 豊見さんがアドバイスをしてくれる。なるほど、それを押せば止まるってことだね。ならなんとか天童さんに取り付かないと。

 

 みんなからの援護射撃が始まる。9人からの援護射撃はかなりの密度だ。それに距離が近いのでみんなの射撃精度もかなり高く、上手く天童さんを避けてロボットだけを狙っている。

 

 ただ、装甲の材質が”弾力装甲”と言われたように本当に当たった弾全てが弾かれている。

 

「天童さんっ!」

 

「敵性体の接近を確認。迎撃」

 

 レールガンがこっちに向けられる。即座に発射。私はいつものように地面を一瞬のうちに数度蹴って高速で回避する。避けたことで放たれた弾はエンジニア部の部室の壁を破壊し、周辺にあった機材も爆発した。

 

「ぶ、部室が…!」

 

「ウタハ先輩になんて説明すればいいんでしょうか!?」

 

「そんなの後でしょコトリ!」

 

 エンジニア部二人の悲鳴と、あのロボットを持ち込んだマキさんの声が聞こえた。被害は抑えたいけど、ちょっとこれは無理そうだ。まるでミカさんと相対した時のようなぞわぞわとした感覚がある。

 

「接近戦なら!」

 

 回避の先でもう一度跳んで、一気呵成に懐にへと飛び込む。天童さんの得物は格闘戦に向いていない。悪いけど、一発頭にぶちこんで気絶させて——!

 

「システム、格闘戦モードに移行」

 

「うっ…!?」

 

 突き出すように向けた私のライフルの銃口は、天童さんがレールガンを離し、両手で白羽どりされた。嘘でしょ…!?今のを反応できるの!?

 

「うえ!?一瞬エリさん消えたと思ったら!?」

 

「アリスちゃんが……止めた……!」

 

 モモイさんと花岡さんのように捉えきれないはずの一撃だった。それをこんな簡単に止めてくるなんて。

 

「排除実行」

 

 掴まれたまま、私のお腹に天童さんの強烈な蹴りが入った。途端に湧き上がる嘔吐感。

 

「うぶっ。げぼっ!?」

 

 私の口から吐瀉物に混じった血が吐き出される。ぐっ、衝撃を逃がせずに、もろに…!

 

「エリカ!みんな援護を!」

 

「でも副部長!このままじゃエリカ先輩に当たるよ!」

 

「マキの言う通りです!射線を…!」

 

「ダメ…ロボットが…!」

 

 このままもう一撃くらったらやばい。今度こそ意識が沈む。トリガーを…!

 

 なんとか掴まれたままトリガーを引いたけど、それを天童さんは首をひねるだけで避けた。嘘でしょ…!?この距離で避けるなんて…!

 

「こん、のっ!」

 

 ごめんと思いながら、私も天童さんの身体に向けて前蹴りを放ってなんとか抜け出そうとすると、彼女は私のライフルを離して一気に後退し回避する。幸いにもレールガンはまだ床に置かれたままだ。

 

「プロトコル再実行。格闘戦モード継続。敵性有機体、仮称αと認識。最大障害。排除続行」

 

「エリカ周り!」

 

 チヒロちゃんの呼びかけと同時にその場から飛び退く。またしてもロボットたちから触手が伸びてくる。今度は捕らえて確実にってこと!?

 

 頭上や左右から襲いかかる触手を避け、前進する。下がればレールガンを取られるからだ。

 

「天童さん!元に戻って!」

 

 今度こそ発砲。肩の辺りを狙った。直撃。彼女は少しよろめくけど、それだけだった。

 

「損傷軽微。戦闘続行」

 

「天童さんっ!」

 

 どうすればいいの…!?やっぱり、完全に制圧するしか…!

 

 そんな私の迷いと焦りが、ついに隙を見せて相手のロボットの触手が纏まった一撃を脇腹に受ける。

 

「ぐふっ!?」

 

 2機分を束ねた一撃に私は呆気なく吹き飛ばされた。

 

「ぶっ…」

 

 また口から血が出る。私の内臓、こんな何度も傷つけられてるけど、ほんといつか壊れてしまうんじゃないだろうか。ダメだ、今のは重い。体が、動くまで時間かかる。

 

 なんとか頭だけ動かして天童さんを見れば、彼女はレールガンを拾って私に向けていた。みんなが必死に援護の射撃をするけど、天童さんに当たる前にロボットたちが盾になっていた。

 

「う、ぎっ」

 

 動けない私をロボットが捕まえ縛り、触手で空中に浮かび上がらせる。拘束を解こうにも、四肢を完全に掴まれて、抜け出す力も出せない。

 

「てんど、う、さん」

 

「敵性体α、拘束。チャージ開始」

 

 光がレールガンの砲口に集まっていく。まさか、こんな、何もできずに……!

 

 レールガンの発射の瞬間まで私は目を閉じずに、終わる瞬間まで諦めたくなかった。何か手は、手は、ないのか。

 

「オラァッ!」

 

「!?」

 

 発射直前、天童さんの背後に同じぐらいの影が現れて、天童さんを容赦無く殴った。すると、天童さんは意識を失ったのか、そのまま倒れ込むけど、そこを殴った人——美甘さんが抱えた。

 

 そして、私を捕らえていたロボットの触手が、何かに撃ち抜かれ、私も地面に落ちる。着地してもよろめいて尻餅をつく。

 

「いたたた……」

 

「よぅ、無事か」

 

「美甘さん」

 

「爆発音があったと通報があったがなんだこの騒ぎは」

 

「それは」

 

「まぁいい。話はあとだ。オメェら!この気色悪い機械をぶっ壊せ!」

 

 天童さんを取り戻そうとしているのか、美甘さんを包囲しようとしていたロボットのうち一台がセンサー部分に弾丸を撃ち込まれたのか爆発炎上する。美甘さんの呼び声に応えて現れたのは一之瀬さんと角楯さんだった。

 

「やっほーエリカちゃん。大丈夫?」

 

「あんまり大丈夫じゃないかな……」

 

「あとは私たちがやる。退避を」

 

「ありがとう、角楯さん」

 

「草鞋野!このバカも持ってけ!」

 

 美甘さんは戦闘の邪魔だと言わんばかりに私に天童さんを預けてきた。なんとか、おぶれるかな…よいしょ、っと。私が退避すれば、三人は私たち全員を守るように並んだ。

 

「やるぞ」

 

「了解!」

 

「わかった」

 

 そこからはあっという間にロボットたちが排除される蹂躙劇が待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「………そろそろ、ナギサ様に軟禁されますよ」

 

「本当にごめん。蒼森さん」

 

 エンジニア部の部室での騒動の後、私はシャーレに一旦戻ってきた。私のボロボロの体はミレニアムで応急処理と、偶然シャーレの当番だった蒼森さんにより更に詳しい診察や検査を受け、安静にすれば問題ないという診断になんとか落ち着いた。

 

「エリカ様。あなたが己を顧みない性であるのはもはや治療しようがないのはわかりました。ですから、せめて致命傷や直撃は避けるべきです」

 

「そうしたかったんだけどね」

 

「これ以上は申し上げません。では、お大事に」

 

「ありがとう、蒼森さん」

 

「いいえ……あぁ、そうです。一つ報告を」

 

「報告?」

 

「ミカ様の更生寮はトリニティ内の組織改革により救護騎士団の預かりとなりました。ミカ様のお力が必要であればどうぞお呼びください」

 

「………助かるよ」

 

「ではこれで」

 

 現在時刻は18時。当番の子は帰る時間なので蒼森さんは執務室から出て行った。

 

 はぁ。今のは私一人じゃ手に追えないだからせめてミカさんを呼べ、ってことだよね。先生が戻ってきたら聞いてみよう。

 

 本当なら蒼森さんがやった当番の内容を見るシャーレ当番日誌を確認しなきゃいけないけど、ちょっとその余裕がない。先生が何時に戻ってくるかわからないけど、それまでに色々と確認しなくちゃいけないことがある。

 

「えぇっと…」

 

 私は負傷で明らかに熱を持ち出して気だるい体を無視して、自分の席のパソコンではなく、執務室の隅にあるネットワークから切り離されたスタンドアロンのパソコンに着く。ここには、先生が教えてくれたベアトリーチェなどが所属する結社、ゲマトリアやデカグラマトンの詳報など、一般の生徒には見せられない報告書類が保管されてる。

 

「これかな。ミレニアム、ゲーム開発部」

 

 そして、私が見たかったのは七神代行と先生の間でしか共有されていない、無編集の支援要請の報告書。ベアトリーチェの一件以降、先生が私やミカさんにはアクセスの権限を与えてくれたので、見ることができる。

 

 報告書のデータを開けばなんとなくではあるけど、天童さんが暴走した理由がわかる。そもそも、天童さんが廃墟で拾われたのは聞いたけど、彼女は”AL-1S”と自分を最初言っていたらしい。これは今日、天童さん自身が発していた名前だ。

 

 そして、この支援要請でゲーム開発部は”廃墟”にあるというゲーム開発のための指南書のデータを回収しようとしたらしいんだけど、それらしきAIをモモイさんのゲーム機の中に格納したらしい。

 

 天童さんが暴れ出す直前、モモイさんのゲーム機が反応していたので、もしかしたら、それが何かおかしなことをして、天童さんがおかしくなったのかもしれない。

 

 報告書には”廃墟”でモモイさんがなんらかの操作盤に接触した時AIはこう自称したらしい。

 

「Divi:Sionシステム……?」

 

 これが何なのかは報告書に追記という形で記されていた。

 

「高性能CADシステムを含む、複合兵器生産システム……こんなものが無人で稼働し続けてるの…?」

 

 ミレニアムの”廃墟”は危険地帯として過去、ヴァルキューレにも伝わっていたけど、詳細に関してはミレニアム側から伏せられていた。そりゃこんなの危険すぎるよ。しかも、報告書を見る限り、廃墟にはそのシステムで生産された兵器が彷徨って侵入者を排除しようとしてくるらしいし。

 

「排除、か」

 

 じゃあ、それはなんのために?

 

 天童さんが発見されたのはそんな廃墟の奥深く、地下を抜けた玉座のような広間だったという。

 

 もし、天童さんを守るようにそれらの兵器がいたのなら、一応は辻褄が合う。そして、ミレニアムと”廃墟”の間の荒野で見つかったあの謎のロボット。それに触れて様子がおかしくなった天童さん。

 

「……嫌な予感がする」

 

 これは明星さんの力が必要じゃないだろうか。私の対応できる範疇を明らかに超えてる。先生にやっぱりすぐに連絡して状況を……。

 

「ん?」

 

 携帯が鳴った。まさか先生、と見てみるけど、かけてきたのはモモイさんだった。

 

「はい、シャーレ、わらじの」

 

『エリさん!来て!お願い!』

 

「うわっ……どうしたの急に」

 

『アリスが部室から全然出てこなくて!』

 

「天童さんが……?」

 

 いきなりなんだろうと思ったら天童さんは目を覚ましたらしく、暴走することもなかったみたいだけど、起きた途端にみんなを部室から追い出してしまったらしい。夜ご飯も断って部室に立て籠ってしまったとのことで、困っているとのこと。

 

 電話の向こうでは「お姉ちゃん何考えてるの!?エリカさんは!」とかミドリさんの怒鳴り声も聞こえてくるし、マイクから口元を離して「だって先生も電話でないし!」と言い返しているのが聞こえた。

 

「モモイさん?モモイさん!」

 

『うわごめん!それで来てくれる!?』

 

「その前に先生が電話に出ないって?」

 

『そうなの!全然出なくて!』

 

 あの先生が長時間外した上で電話に出ないなんて。次から次に、何かが起きてる。とにかく、先生がいないなら、私がなんとかしなくちゃいけない。今から出て、高速を飛ばして、抜け道を使えば1時間弱でいけるか…?

 

「……わかったよ。今から行く。流石に1時間はかかるから」

 

『ありがとう!エリさん!待ってる!』

 

 電話が切れる。事故を起こさなきゃいいけど、気合いでどうにかするしかない。鎮痛剤は万が一に備えて蒼森さんが置いて行ってくれたから飲む。先生も心配だ。まさか支援要請か何かでトラブルに巻き込まれたのか。

 

 けど、調月会長を探しに行ったのに行方不明になるのもおかしいし。

 

「………仕方がない」

 

 もう私一人ではどうにもならない。何かが起きた時、戦力としてもだ。

 

 今から合流では間に合わない。せめて明日の朝だろうか。

 

 私は携帯の電話帳を開き、ま行の欄をタップした。

 

 

 

 




次回はまた未定です。

ケイからの暴は全て主人公に受けてもらいました。
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