頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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ほんとは昨日投下予定でした。


Area-07「ミレニアム病院 #セーブポイント #リセット #腋から出る」

 ミレニアムサイエンススクール内の病院、その病室でエリカの身体がムクリと上半身を起こす。

 

「…………ふむ」

 

 エリカの身体は手を握ったり、開いたり何かを確かめるような動作をし、周囲を見回せば。この病室にいるのが自身だけでないことも理解した。

 

「な……!?」

 

 病室の中にいたのは、ミレニアムサイエンススクールの生徒ではなく、トリニティ総合学園の生徒。救護騎士団の団員であり、先生とエリカの窮地であればどこでもやって来れる鷲見セリナだった。

 

 セリナは体が硬直する。感じた事がない鳥肌になるほどの強烈な神秘が目の前の身体から発していた。

 

「おや、見られてしまいましたね」

 

 エリカの顔がセリナへと向けられる。直感的にセリナは目の前のエリカの身体をした何かが、エリカではないことを悟る。表情は普段のエリカと比較すればあまりにも落ち着きすぎたもので、声音も奥行きのあるどこか包み込むようなもの。

 

 何より、目つきがあまりにも穏やかで、意外と表情の変化が激しいエリカらしさが全く感じられなかった。

 

「……あなたは」

 

「鷲見セリナさんですね。いつも、エリカさんが無茶をした時に助けてもらって。実際に以前の事件の時は命を繋いでくださったようですね」

 

「ど、どうも」

 

「あぁ、私が誰か…ですか。それは答えようがありません。亡霊ですから記憶も曖昧ですし。でも、たまに………この前、アリウス?自地区に入った時、一瞬ですが記憶が全部蘇った気がしますね。もう忘れてしまいましたが」

 

 セリナは思わずは後ずさる。感じられる神秘はまるで”生徒”というラッピングされた部分がなく、抜き身そのままの気配だった。

 

 よく見ればエリカの蒼い瞳が仄かに光っていることにセリナは気がついた。

 

「亡霊…となればあなたは」

 

「私自身そもそも死んだのかはよくわかっていません。そのあたりは私の記憶も曖昧になっているのですよ。死んでしまったのはエリカさんかもしれませんし?」

 

 亡霊を名乗る何かの言う事を鵜呑みにすれば、それは死者が蘇ったとも言える。不可逆のあり得ない現象に、セリナはどうすればいいのか全くわからなかった。

 

「ただ、今私に与えられている機能はわかります。鷲見さん?エリカさんの身体はどうなっていますか?」

 

「………昨日のお昼に受けたという内臓のダメージが深刻です。これはミネ団長——私の先輩から聞いています。先ほど確認した新しいダメージ……背中の打撲と、右足の筋を痛めたことによる炎症や筋の怪我はそこまで大したことはなさそうです」

 

 普通であれば死にかけている怪我を負っても動けるという話をセリナは知っていたが、エリカの精神力とそもそもの肉体の強度が違うということが改めて今回の診察で思い知らされた。

 

「高熱も出ていましたし……どちらかというと……言いづらいですが、倒れてしまったのは体調が悪いのに無茶をしたエリカさんの自爆です」

 

 それで今回倒れた理由はほぼ自爆。……セリナは現場こそ見ていないが、トキから与えられたダメージは倒れたことには大して影響がなく、絶不調な状態での行動が続いたからだろうという結論だった。

 

 エリカは強がっているか自らわざと記憶から消しているのか、アリウス自地区での事件からそこまで時間が経っていない。そもそもとして、通常であれば現場復帰を簡単にできる状態であるはずがないのだ。一見治っているように見えても、疲労やダメージを蓄積しているようにもセリナは思えていた。

 

 その結果が高熱による気絶へとつながったのだとセリナは診ていた。

 

「旅行に行ったとも聞いていますが、色々あったようでお休み出来たかは正直……」

 

「なるほど。確かに、休養は完全に出来ていません」

 

 亡霊が嘆息すると、右手を胸に当てる。

 

「であれば、ここで一度、リセットしましょう」

 

「え?」

 

 セリナはふわりと病室内に金木犀の香りが広がったことを感じ、遅れてエリカの頭上にあるヘイローが強く発光する。

 

「エリカさんはこの心臓のおかげで傷の治りが早いですが、それをさらに加速させます」

 

「そんなことが可能なのですか?」

 

「えぇ。当然デメリットは存在しますが」

 

「どんなデメリットなんですか……?」

 

 セリナが意を決して問う。治癒の加速など、セリナの持つ医学的な知識や生物学の知識、よくあるような創作物の知識からして、碌なものではない。

 

 代表的なものとしてセリナの頭の中には寿命を削るというものが浮かぶ。

 

 しかし、亡霊から返ってきた答えは全くセリナが想像もできないものだった。

 

「腋から2週間ほど金木犀の匂いが消えなくなります」

 

「……はい?」

 

「腋から2週間ほど金木犀の匂いが消えなくなります」

 

 二度繰り返され、セリナは聞き間違えでなかったとわかった。わかったが、意味不明すぎてセリナは混乱した。

 

「え?腋から、金木犀の香り?」

 

「はい、そうです。エリカさんの心臓は少々特殊で、神秘解放を行うことで全力稼働できるのですが、そうすると心臓に内蔵された特殊な器官が働いて金木犀の香りが腋から出ます」

 

「エデン条約事件の時にあの場で金木犀の香りが漂っていたのはそういうことなんですか!?」

 

「……たぶんそうですね。あのときは戦うためでしたのでその時だけの匂いでしたが」

 

 ホシノの目の前で死にかけたエリカを助けに入った際にセリナは口には出さなかったものの、あたりに金木犀の香りが漂っていたことに気がついていた。それが腋から出ていたという。

 

「デメリットなんでしょうか」

 

「キツい香水を嗅がされ続けていると思うとどうでしょうか」

 

「それは……辛いと思いますけど」

 

「ですから、デメリットです。この前は敵が目の前にいたこと、周りに目がありすぎたこと、あなたがすぐに来てくれたのでしませんでしたが、今回はあなたしかいませんので、ここでエリカさんの体を無傷な状態にリセットします。疲労もなくなるでしょう。まぁ、ボス戦前に回復できるセーブポイントがあった。そんな感じです」

 

「……本当に記憶ないんですよね?」

 

「私はないですが、エリカさんの記憶を共有しているので」

 

 くすくすと亡霊は笑う。徐々に、エリカの体の血色はよくなりつつあり、セリナは本当にエリカが回復し始めているのだとわかった。

 

「さて……そろそろエリカさんが目覚めるようです」

 

 亡霊がエリカの体をベッドの上で仰向けにもう一度寝かせると、目も閉じる。

 

「私のことは秘密にしておいてください。あなたにも秘密が多いように」

 

「エリカさんとはそこまで話していないはずですが」

 

「そこは私が生徒ではないから感じられます」

 

「わかりました。……ですが、この金木犀の匂いはどう説明すれば?」

 

「あぁ、そこは大丈夫ですよ。これは二度目ですから」

 

 それきり亡霊は口を閉じ、喋ることはなかった。セリナは以前にも超回復に頼らざる得ない状況に陥ったことあると知り、エリカが無茶をしすぎる人なのだと、セリナらしくもなく呆れてしまった。

 

「(さぁ、エリカさん。目覚めてください。あなたの青春の夢(ブルーアーカイブ)は終わりません。心ゆくまで——楽しんでくださいね)」

 

 

 

 

 

 

 

 懐かしい匂いがして、私はゆっくりと体を起こした。

 

「……んあ?鷲見さん?」

 

「エリカさん、目覚めたんですね」

 

 体を起こすと、なんだかものすごく軽く感じた。あれ?熱も引いてる?身体のいたるところの痛みもない。

 

「なにこれ。鷲見さん、何か薬でも私に」

 

「え。えっと、いえ、私は何も……ぐっすり眠られていたので落ち着いて、団長の処方した薬がまた効いてきたのでは」

 

 なるほど、そっか。

 

 いやいや、そんなわけないって。明らかにここ最近で今が最高の状態だとわかる。疲労感もないし。手を握って開いて、ベットから降りてみても、怪我をしたはずの右足の状態は良好そのもの。まるで生まれ変わったみたいに全身が軽い。

 

「……あれ、私、香水つけたっけ?」

 

 なんでか今いる病室、前にエデン条約事件の時にも使った病室だと気がついたけど、この中に私が普段使ってる香水に近い金木犀の香りが充満していた。まるで香水溢したみたいな感じだけど、どういうこと?

 

 鷲見さんを見ても、彼女は何事もなかったかのように微笑むばかりだ。

 

 ただし、この私の体が金木犀の匂いを出すのは初めてじゃない。前にも一度あった。あのときも直前に疲労とかが限界で倒れて、起きたら同じように私の体から金木犀の香りがしていた。

 

 そういう体質なのでは、ってお医者さんが言ってた。意味が分からないけど検査をいくらしても解明できないので、そういうものと思うしかなかった。

 

 うん、まぁ、好都合だ。これなら何かが起きても問題ないし、みんなの足も引っ張らない。匂いがあるのはちょっと厳しいけど。

 

「鷲見さん。私どれくらい寝てたの?」

 

「一時間弱ですね。他の方も今は仮眠を取られていますけど、先生も合流されています」

 

「先生が見つかったの!?」

 

「見つかった、というよりは先生自身が合流した形です。詳しい話は私も聞いていませんので何があったかは」

 

 朗報以外の何ものでもない。先生が戻ってきてくれたのならどうするべきか話すことができる。調月会長と天童さん。二人のことを。

 

「それと、ミカ様も到着されています」

 

「ミカさんも?もしかして鷲見さん、一緒に?」

 

「………ま、まぁ、そんな感じです。私はこれで戻りますが」

 

 蒼森団長に私のこと診るように言われて同行してくれたのかな。助かった。実際、取れる手立てはとってくれたんだと思う。本当に救護騎士団には頭が上がらない。

 

「よし。それじゃあ先生たちに合流しよう」

 

 電話をしてどこにいるか確認すればいいかな。私の服はと見れば、病室内には気絶する前まで着ていたミレニアムのブレザータイプの制服がかけられているが見えた。銃もちゃんとあった。

 

「それでは——エリカ様。私はこれで。ご武運を」

 

「ありがとう。蒼森団長にはお礼を」

 

「……い、言っておきますね」

 

 私が目覚めたからなのか、鷲見さんはこれで帰るようだ。お礼を言って、彼女はなんでかぎこちなく笑ってから出て行った。流石にこんな何度もボロボロになって呆れられてるのかもしれない。

 

 とりあえず病衣から着替えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 先生に目覚めたことをモモトークで伝えると、合流先としてミレニアムタワーにあるという会議室にいるとのことで、私はそこへ向かった。日を跨いで、あと数時間で夜明けという中、誰にもすれ違うことなくミレニアムタワーへと到着する。

 

 1階のロビーに着くと、先ほどとは違い明かりがついていて、中で一人の生徒が待っていた。あれって——。

 

「……久しぶりだねエリカ」

 

「ち、チヒロちゃん。こんばんは」

 

「こんばんは」

 

 チヒロちゃんだった。彼女はロビーに入ってきた私を見るなり、微妙に俯き気味でメガネが反射で光って目元が見えない。うっ、これ怒ってる時のやつだ!

 

「また無茶をしたんだって?」

 

「あ、えっと」

 

「高熱出てるのに動いて倒れたって」

 

 一歩一歩、ゆっくりとチヒロちゃんが歩み寄ってくる。メガネの反射が消えて目元が見えた。ものすごく私を睨んでいた。

 

「学習能力がないの?狛犬さんは」

 

 私の目の前までやってきて、そりゃもうこのままヘッドバッドでもするんじゃないかっていう迫力があった。うう……本気で怒ってるよチヒロちゃん。

 

「……っ……?なんか香水すごいつけてる?」

 

「あ、あはは、こぼしちゃって」

 

「嘘くさい」

 

「う、うそじゃないってば」

 

「じゃあその動きまくってる耳と尻尾は何?」

 

 慌てて両手で耳を押さえて尻尾を股で挟んだ。

 

「う、ウゴイテナイヨー」

 

「嘘つけないんだから正直に言って」

 

「い、言えない!」

 

「………はぁ……」

 

 ものすっごく深いため息をつかれた。ほんとにごめん……チヒロちゃんにはいつも心配させるだけさせて……。

 

「馬鹿。本当に馬鹿なんだから。いつも終わったあとにしか言えない私も馬鹿だけど」

 

 とん、っとチヒロちゃんが優しく頭突きした。いたい。そのまま軽く抱きしめられた。チヒロちゃんからもほのかに私と同じ香水の匂いがする。寝ずに私が目覚めるのを待っていてくれたんだ。

 

 チヒロちゃんが香水をつける時は徹夜の時だから。

 

「熱も下がってる。私がこうしてよりかかっても平気。絶不調じゃなかったの?」

 

「あはは……なんかよくわからないけど、今は絶好調だよ」

 

「本当に?」

 

「耳触っていいよ」

 

「動いてない……本当なんだね」

 

「だから大丈夫。これからのことを話さないと」

 

 一先ず体が大丈夫なのは納得してくれたみたいので、チヒロちゃんは離れてくれた。ちょっとだけ照れてるのかチヒロちゃんはほっぺが赤くなっていた。新人時代からの付き合いだけど、チヒロちゃんは私を本気で怒ったあとはこうして照れるのに優しくもしてくれる。

 

 飴と鞭。まるで私を躾けるみたいに。……まぁ、そんな躾も無視しちゃう私は駄犬なんだけど。

 

「上に行くよ。ついてきて」

 

「うん」

 

 チヒロちゃんが上まで案内してくれるようだ。エレベーターホールに案内されて、既にエレベーターは来ているのか、ボタンを押すとすぐに扉は開いた。二人で乗り込む。

 

「それにしても、チヒロちゃんがどうして私を待っていたの?」

 

「ヒマリの指示だよ」

 

「明星さんの?そこは小塗さんとかじゃないんだ」

 

「……………ほんとにね」

 

 よくわからないけど明星さんの指示でチヒロちゃんは私を出迎えてくれたらしい。

 

「というと、明星さんも力を貸してくれるんだね」

 

「うん。会長とヒマリはそもそも、あんまり仲が良くないし、アリスに手を出したからってやる気になってるよ」

 

「そうなんだ」

 

 初めて会った時もあまりいいようには言ってなかった気がする。けど、白石さんの話だと以前はつるんでいたこともあったみたいなので、色々あったのかな。

 

「エリカ?」

 

「なにかな」

 

「いや……何か気になることでも?」

 

 さすがに付き合いが長いチヒロちゃんなだけある。私がちょっと違和感あるとすぐに気がつくね。

 

「私が考えてることは後でみんなに話すよ。……今回の事件はちょっと、色々とすれ違ってる気がするからさ」

 

「わかった」

 

 それからはしばらく無言だった。

 

「——お、着いたね」

 

「降りるよ」

 

 エレベーターが止まり、目的の階についたようだ。チヒロちゃんが先に降りて、私はそのあとに続く。当然廊下は暗いけど、廊下の奥の扉からは光が漏れていた。あそこにみんながいるのかな。

 

 廊下の奥の扉までくると、チヒロちゃんが躊躇いなく扉を開けて中に入っていく。私も後から入り、一瞬眩しさを感じながらも入った部屋の中を見渡す。会議用の机は幾つか片付けられて椅子がまばらに出されて座っている子もいる。

 

「先生。エリカを連れてきたよ」

 

 チヒロちゃんが呼び掛ければ、部屋の中で立って誰かと話していた先生がこちらを振り向く。話していたのは早瀬さんと生塩さんだ。彼女たちはセミナーの子だけど、調月会長のあの様子からして相談はしていなさそうだもんなぁ。

 

「エリちゃん。大丈夫?倒れたって」

 

 先生が私に駆け寄ってくる。うぅ、心配させてしまったよね。先生の顔は私を見たことで露骨に安堵している。

 

「すいません、ご心配をおかけして」

 

「……思ったより顔色良さそうだね?」

 

「はい。すこぶる絶好調です」

 

「ミヤコからはかなり調子が悪かったって聞いてるけど」

 

「なんでかわからないけど寝たら全快しました」

 

 本当になんでかわからないので言えば、先生は信じられないって目をしながらも、私が嘘をついてないとわかってくれたみたいだった。

 

「エリカちゃんお疲れ」

 

「ミカさん。きてくれたんだね」

 

 先生に続いてミカさんも声をかけてくれた。シャーレの制服姿で、ばっちりおめかしもしてる。予定よりも早くきてくれてミカさんには感謝したい。

 

「ありがとう、本当に。ミカさんがいれば百人力だよ」

 

「あはは、ありがと。それにしても本当に元気になってるね?団長からは死にそうになってたら殴ってでも寝かせて、ってモモトークで言われたけど」

 

 ミカさんはわざわざモモトークの画面を私に見せてくれた。蒼森団長は本当に私が死にそうなほど無茶をしていたら殴ってでも止めろとミカさんにお願いしていた。いや、こわっ。

 

「ミネらしいね……まぁ、それぐらいした方がいいのかもね」

 

「先生……!?」

 

「エリカ。今回は私がいなかったせいもあるけど、自分のことを大切にできないのに人を助けようとするのは本当にやめようね」

 

「……はい。ごめんなさい」

 

 茶化すのではなく今のは本気で叱られた。結果として天童さんの前では倒れなかったけど、倒れていれば余計に天童さんの気持ちを確固たるものにしてしまったかもしれない。そもそも、自分を犠牲に助けられた人の気持ちを私は考えていなかった。

 

 ナギサちゃんだって、二度も私は死にそうになって悲しませている。

 

「私も同じ気持ちかな。ほんとにあんまり酷いと、ナギちゃんとお部屋に閉じ込めちゃうよ?」

 

「き、気を付けるからさ」

 

「耳と尻尾動いてる。先生これ嘘ついてるじゃんね」

 

「これはダメかもわからんね」

 

 二人に呆れられている気がする。と、とにかく、状況を確認しよう。

 

 会議室の中にいるのはチヒロちゃんを始め、明星さんも含むヴェリタスの面々や和泉元さん。今は仮眠を取っているのか固まって毛布を被って寝ているモモイさんとミドリさん、花岡さんは起きて携帯をいじって二人の側にいる。

 

 美甘さんは機嫌悪そうに窓際に座っていて、一之瀬さんと角楯さんはそんな美甘さんの横で待機。

 

 白石さんを筆頭にエンジニア部は何人かがこの会議室に、明らかにオペレーション用の機械を運んできて設置をしているみたいで、忙しそうだ。

 

 ミヤコちゃんは……私を見てからかなり居心地が悪そうに部屋の隅に座っている。

 

 そして、ついさっきまで先生たちが話していたのは、セミナーの早瀬さんと生塩さんだった。一枚岩というわけではないらしい。

 

「まぁ、お説教はほどほどにして、エリちゃんも来たことだしこれからのことを話そうか。とりあえずミカ、今の状況をエリちゃんに話せる?」

 

「わかったよ先生。エリカちゃん、いいかな?」

 

「お願い、ミカさん」

 

 どうやら説明はミカさんがしてくれるらしい。

 

 まず、この会議室に集まったメンバーが天童さんを連れ去った調月会長に対抗しようというメンバーらしい。……正直なところ、私としては連れ去ったとは思ってないので、これはだいぶ明星さんの主観が入っているのかな、と思いミカさんに静かに聞いたら……やっぱりそうらしい。

 

「あの女は最初、アリスのヘイローの破壊を企てていました。私とウタハ、先生を呼んだのはそうしない別の道を探るためだったのですが」

 

 呼んでもいないけど、和泉元さんに普段のものとは違う、自走できない手押しの車椅子に押された明星さんが割って入ってきてそう言った。

 

「先生って調月会長に拉致されたものかと」

 

「ううん。リオからは正式に支援要請があって会ったんだよ」

 

 てっきり先生は調月会長によって拉致されたのかと思ったけど違ったらしい。これには流石に私も驚いた。

 

「リオとは一応話してね。私を呼んだのはアリスのことをもっとよく知るためだったらしいの。で、アリスのことを図るために狂言誘拐……というか、ゲーム開発部に試練を課してみようとしてたみたい」

 

「調月会長がそんなことを……」

 

「けど先生最終的には牢屋に入れられたって言ってたよね?」

 

「うん。ミカの言うとおりだよ」

 

 どういうことなのか。正式な支援要請を受けて向かったのにも関わらず、結局捕まってしまったという。なんで、という顔をしていたら明星さんがこれはまたイライラしてるのが全面に出てる状態で答えてくれた。

 

「あの女は何を思ったのか、アリスが暴走したと報告が入るや否や、私とウタハと先生を閉じ込めたのです。ウタハが言うにはあの女らしくもなく焦っていたというのですから、恐らくは早急にアリスの身柄を捕らえるために一旦私たちを閉じ込めたのでしょう」

 

「ヒマリの言い方辛辣だけど、概ね私もそう思ってるよ。たぶん、とにかく自分で保護してから……って急いだんだと思う」

 

「昔からそうなのです。なまじ実力があるせいで、自分一人で進めた方が早いと平気であの女は仕事を奪います。今回の件は完全にあの女の空回りです」

 

 本当に明星さんの言葉が辛辣すぎる。でも、これで調月さんが私をあそこまで実力行使してまで止めようとした理由はわかった。

 

「一応、ゲーム開発部の子達からは聞いたよ。リオがアリスのヘイローを壊すつもりがないことはね」

 

 先生が言う。それはそうかも。調月会長はとても天童さんのヘイローを破壊しようとしているようには見えなかった。そもそも、本気で排除しようというのなら、美甘さんたちC&Cを最初から全員ぶつけていただろう。

 

 調月会長は少し話してみてわかったけど、おそらく迂遠な物言いは好まない。直球で物事を語るタイプだ。トリニティ式のご挨拶を知っていると、ミレニアムの子たちはやっぱりはっきりすらすらと物を言う子が多いという印象を受ける。彼女はまさにそのミレニアム生の最たる例なのかもしれない。だから決めたら躊躇わない。

 

「……さて、それじゃあそろそろ、これからの話をしよう」

 

 作戦会議ではなく、これからの話。先生が向かおうとしている先が、おぼろげにだけど、私にはわかった。それはきっと私が思っていることと同じ気がした。

 

 




ただしデメリットは腋から出る。

次回は未定です。

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