頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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作戦会議回です。長くなってしまいました。

いつも評価、感想ありがとうございます。大変励みになります。


Area-08「ミレニアムタワー 会議室 #作戦会議 #チーム分け #文句」

「ミヤコちゃん」

 

 会議が始まるので私は部屋の隅にいるミヤコちゃんに声をかけるため近づいた。彼女は私を恐る恐る見てから、少し怪訝な顔をする。うん、たぶん顔色が明らかによくなってるからかな。

 

 ……私の体がいわばリセットされるのはこれで二度目。先輩を喪ってから何故か疲労が本当の限界に達すると腋から金木犀のような香りが強くして体が全快する。何かがおかしいけれど、何がおかしいのかは検査をしてもわからない。

 

 そんな意味不明な体質だから、当然、ミヤコちゃんからすればさっきまで限界で倒れた人間がケロッとしてればそんな顔をする。

 

「先輩、体調は」

 

「問題ないよ」

 

「……確かに、顔色はいいですが。それに…っ…香水が」

 

「ごめん。ちょっとそこは…我慢して」

 

「いえ、作戦行動となれば気にはしません」

 

 妙な沈黙が流れる。ミヤコちゃんは私を疑っているようだ。まるで始めて会った時ぐらい目つきが私を信じてない。

 

「本当に大丈夫だよ。ほら」

 

「!?」

 

 なので、もう熱が下がってるのを証明するために私はミヤコちゃんに一瞬で詰めて額を優しくミヤコちゃんの額に当てた。

 

「ね?大丈夫でしょ?」

 

「————?!?」

 

 ミヤコちゃんの額はちょっと私より暖かいぐらいで、あと、ミヤコちゃんからもなんだかいい匂いがする。なんだろう、この匂い。あぁ、そっか、これはおいしそうなウサギの臭い——。いやいや、大事な後輩の更に後輩に何を考えてるんだ私は!?

 

 平静を装おって私はミヤコちゃんから離れて誤魔化すように笑っておく。ミヤコちゃんの顔は怒ってるのかびっくりしているのかよくわからない感じで顔を赤くしていた。いや、本当にごめん。寝ぼけてるのかよくわからないことをしてしまった。

 

「ミヤコちゃん?」

 

「も、もも、問題ありません。会長」

 

「だからもう少し、一緒に頑張ろうね」

 

「ひゃい…」

 

 とりあえず元気(?)にはなってくれたかもしれない。そもそも、あのハイウェイの襲撃でやられたのはミヤコちゃんのせいじゃないし。気にしないでほしい。

 

 みんなの方を見れば、白石さんが先生にプロジェクターの位置を相談していて、他の子たちもこの会議室のプロジェクターで投影される画面が見える位置に移動しつつある。ただ、ミカさんが呆れた顔でいるし、チヒロちゃんはメガネが手に持ったタブレット端末の反射のせいか光っているけど視線はこっちを向いてる。ミドリさんも顔を手で覆ってるけど指の間から目を向けていた。

 

 え、なに?

 

「……………もうお嫁にいけません……」

 

「何言ってるのミヤコちゃん?会議始まるから動こう」

 

「……了解です」

 

 ミヤコちゃんもどうしちゃったの。よくわからないけどミヤコちゃんを連れてみんなのほうへと移動した。チヒロちゃんの横までやってくれば彼女は私から視線を外して何故か半歩距離を置いてくる。やっぱり無茶したことはまだ許されてないらしい。

 

「先生、ミヤコちゃんも来たので」

 

「了解。それじゃあ始めよう。ウタハ、この位置でいいよ」

 

「わかった。先生。コトリ、ヒビキ、持ってきた図面を開いてくれ」

 

 会議が始まった。画面はエンジニア部の子達が持ってきた大きなパソコンのものが映っていて、白石さんの指示で開かれたのは何かの図面データだった。データ名称は……技術研究都市エリドゥ?

 

「この画面の内容は一旦おいといて、みんな改めてこんな夜遅くに集まってくれてありがとう。徹夜をさせるようで教師失格だね」

 

「いいえ先生!会長が無茶苦茶やってるんです!気にしないでください!」

 

 まず先生の挨拶のような謝罪のような一言に早瀬さんが反応する。早瀬さんは天童さんのことをかなり可愛がっていたし、だいぶお冠なのかもしれない。早瀬さんの隣にいる生塩さんは微笑んでいる。

 

 微笑んでいるけどそれが崩れないので、もしかしなくても生塩さんも怒っているのかもしれない。あれは普段怒らない人が見せるやつだ。

 

「ありがとうユウカ。さて、まずは状況を整理したいと思う。いいかな?」

 

 私たちは頷く。先生は生塩さんに目配せすると、彼女は表情を凛としたものに切り替えて、口を開いた。

 

「では、現在発生している事態を確認します。一つ目が、リオ会長によるアリスちゃんの連れ去りです。これは連邦生徒会の部活であるシャーレへ危害を加えた生徒の罰則という扱いで、先ほど書類が、リオ会長の印で正式にセミナーに下ってきています」

 

 なるほどね。調月会長は天童さんの確保自体は正当化したらしい。こうなってしまうと、私と先生は確かにやりづらい。どうあれ、天童さんの命をどうこうしようという気が調月会長にない以上、シャーレの介入は簡単じゃない。

 

 自治区の問題ある生徒を閉じ込めることは不当な拘束…とも現段階では言えなくなってしまう。ミレニアムには黒崎さんという自治区を跨ぐような犯罪に手を染めてしまう前例もある。

 

 かといって、シャーレの強権を使って解放したとしても、調月会長が連邦生徒会に何が起きたのか伝えれば、七神代行から私と先生に待ったがかかる可能性がある。……私と先生のことをどこまで知っているのかわからないけど、調月会長はおそらく、私と先生が性格上、簡単にはシャーレの強権を使うことがないとわかっている。

 

 だから、先に天童さんを確保するためになりふり構わなかったんだ。

 

「事後に正当化かよ。セコイ手を使いやがって」

 

「しかしリーダー。会長らしい手だ」

 

「よくわかんないけど、なんかずるいね」

 

 美甘さんは調月会長のやり口が気に入らないらしい。角楯さんと一之瀬さんもあまりいい気分ではなさそうだ。

 

「あの女にしてはよく先生と草鞋野さん……シャーレのことを見ていますね」

 

「あーヒマリ……それはちょっとわかるかも」

 

「どういうことですか先生?」

 

「アカネってさ、結構な頻度でシャーレに来てくれてね」

 

 え?そうなの?シャーレの当番表を慌てて見るけど全然室笠さんの名前はない。先生にどういうことですか、と視線を向けてしまえば、先生は困ったような顔になっていた。

 

「えっとさ、アカネって、こう、すごい私好みの理想的なメイドさんというか……」

 

「オイ先生。まさかとは思うが」

 

「う、あっ、あのね、ネル?怒らないで聞いてね?」

 

 先生、なんでこんな言いづらそうにしてるの。ま、まさか、シャーレの秘密とかペラペラ室笠さんに喋ってたの!?あの先生が!?

 

「め、メイドカフェに行く暇なくて!アカネに私だけのメイドさんになってもらってたの!」

 

 会議室の中が一瞬にして静まり返った。聞こえてくるのはプロジェクターやパソコンのファンの音や、空調の音だけ。せ、先生、そんなこと私がいない間にやってたの……?

 

「せ、先生」

 

「え、エリちゃん、ごめんね、幻滅したよね」

 

「ごめんなさい…私の頑張りが足りないから、先生の自由時間が…」

 

「なんで!?」

 

 私のせいだ……私が好き勝手飛び回るから先生も私のフォローとかに追われて、先生自身の仕事もあるのに、それに手をつけられないから…。つまりこの状況は私の…。

 

「いやいや!?草鞋野さんが気に病む話じゃないでしょ!というか先生、最近外食の経費減ったのアカネにシャーレでメイドカフェやらせてたからなんですか!?」

 

 早瀬さんが私を励ましつつものすごい剣幕で先生に詰め寄っていた。先生は汗をだらだらと流しながら早瀬さんを抑えるように手を前に出している。

 

「いやほら!?経済的にもいいし?アカネの私をお世話したい欲も満たせるし?こう、ギブアンドテイクというかさ」

 

「結果的にリオ会長の偵察にも使われてますけど!」

 

「ま、まさかこんなことになるなんて。あ、あはは」

 

「笑い事じゃないです!全く!アリスちゃんが攫われてるのに…!」

 

「……本当に面目ない…」

 

 と、ともかく?調月会長が私たちのことを把握してるのは室笠さんの情報からのようだ。

 

「先生の性癖はまぁいい。知ってるからな」

 

「あはは!ご主人様、ほんとメイド好きだもんね!」

 

「……ハニートラップ仕掛けられたら先生ダメじゃないか……」

 

 美甘さんたちは呆れ半分、というか一ノ瀬さんは屈託なく喜んでいる。おかしいな、天童さんが攫われて緊急事態なのに緊張感が雲散している。

 

「先生メイド服好きなんだ……作ろうかな?コトリ着る?」

 

「えっ」

 

 私のシャーレ制服を作った猫塚さんはメイド服を作ろうと思ったのか作ったら豊見さんに着せるつもりのようだ。豊見さんは「なんで?」って顔をしてる。そういえばさっきからミカさん黙ってるけど何してるのかと思えば、ミカさんはミカさんで先生の隣で「わーお」って顔でなんともいえない感じで立っていた。

 

 うん、私もなんか、どういう顔をすればいいのか。

 

「はあ…先生。とりあえず、アカネとメイドカフェごっこしてたのはわかったから。先に進めよう」

 

「ち、チヒロ……」

 

 緩んだ空気をチヒロちゃんが切り替えるように告げた。先生はなんだか今にも泣きそうだった。

 

「せ、先生!メイドさんがほしいなら私もメイド服着ます!前から見たいって言ってたので!」

 

「え、エリちゃん!?嬉しいけど今それ言う!?」

 

 助け舟を出さねばと私が宣言すると先生はなんでか言って欲しくなかったらしい。うっ、失敗したかな。ミカさんがダメだこりゃと手を当てている。他の子達からの視線もなんだか冷ややかなものが増して先生に突き刺さった。そんな…助け舟失敗!?

 

「もうっ!先生もエリさんも真面目にやってよ!」

 

「「ごめんなさい」」

 

 私と先生はとうとうモモイさんに怒鳴られたので頭を下げた。いや、本当に今はこんなふざけた空気をしてる場合じゃない。天童さんにただちに危険がないとはいえ、彼女はこのままだといつまでもゲーム開発部に戻ってこれなくなる。

 

「話を戻しましょう。問題1がアリスちゃんの連れ去りです。これに対して、どうするか、ですが」

 

「連れて帰るに決まってるじゃん!あんな我儘で部を抜けるとかありえないし!ユズも認めてないよね!?」

 

「えっ、あ、あっ、う、うん。そ、そもそも退部届けもないし…」

 

「私もお姉ちゃんと同じ気持ちです。ノア先輩」

 

 天童さんを連れ戻したい。これはゲーム開発部の面々の気持ちだ。私と先生は彼女たちの願いに頷く。天童さんを取り戻したいというゲーム開発部の気持ちは尊重されるべきだ。

 

「ミドたちがそう思うなら、私も手伝いかな。部長と副部長もいいでしょ?」

 

 才羽さんたちと友達の小塗さんが言えば、チヒロちゃんと明星さんは当然のように頷いた。明星さんは個人的にも調月さんを許すつもりはないだろうし。

 

「じゃあアリスの奪還は当然だけど、やろう。いいねみんな」

 

 先生がまとめるとみんなが頷いた。生塩さんがそれを確認すると、話を次に進めた。

 

「二つ目の問題。リオ会長の横領疑惑です」

 

「横領?どういうことなの?」

 

 横領疑惑?いきなり聞いてもいない問題が出てきて、ミカさんが代表して生塩さんに問いかけた。

 

「聖園さん…はトリニティの方なので正直、ここで言うべきか悩んでいますが。ユウカちゃん」

 

 ただ、当然ながら生塩さんも内容を語るのはためらいがあるらしい。ミカさんは今でこそ辞しているけどトリニティの生徒会長だったからね。普通なら別自治区へ政治的な交渉材料をタダで渡してしまうようなものだもんね。

 

「いいわよ、ノア。聖園さんはシャーレの部員だから」

 

 けれど、早瀬さんがいいという。このあたりは私が来る前からシャーレと付き合いのある早瀬さんが私たちを信頼してくれているからかな。

 

「ここ最近ですが、ミレニアムの各部活に割り振られている予算が勝手に割り増しされていました」

 

「……え?特に私たちは変わりなかったと思いますけど…」

 

「ノア先輩。ユズちゃんの言う通りです」

 

「ゲーム開発部のお二人が言うように、部員の方々には直接伝わらないようになっていました。セミナーの内部データが書き換えられていたのです」

 

 うわぁ、かなり悪質だ。

 

「黒崎がやったんじゃねぇのか?」

 

「ネル先輩がそう言うのも無理ないけど、最近コユキは私とノアで管理してるからそんなに無茶してないの。先生にも見てもらってるし」

 

「これはユウカの言う通りだよ、ネル。コユキは最近いい子にしてるよ」

 

 黒崎さんも実質、ミカさんみたいにシャーレで更生プログラムを受けているような状態だから、これは私も頷く。先生の指示には従うし、適度に息抜きをさせてあげると効率よく仕事を処理してくれて助かっていると先生は言っていた。

 

 それでもさまざまな自治区から来る支援要請を捌くのに手が足りないんだよね……ミカさんのおかげで最近はそれもちょっとは余裕ができたけど。

 

 美甘さんは黒崎さんじゃないことに納得したのか、先生と早瀬さんに対して口を閉じて、目で続けろ、と言っているようだ。

 

「ノア、続けて」

 

「はい、ユウカちゃん。ユウカちゃんが見つけて確認した結果、ほとんどの部活は微々たるものでしたが、エンジニア部がかなり大きな増額がされています。具体的な数字は避けさせて頂きますが、宇宙戦艦も建造可能な天文学的な数字です」

 

「草鞋野先輩、宇宙戦艦とは…?」

 

「ミヤコちゃん。エンジニア部は過去に宇宙戦艦用の武器を作ろうとしてたんだよ」

 

「えぇ…!?」

 

 ミヤコちゃんが小声で聞いてきたので答えてあげると露骨に驚いていた。なるほど。わかりやすい手ではあるけど、エンジニア部なら確かに動機にはなりうる事情もあるし、調月会長はエンジニア部をスケープゴートにしたわけだね。

 

 白石さんたちは大丈夫かな、と思って見てみると、猫塚さんと豊見さんはびっくりして目が点になっているけど、白石さんは特に変わった様子がなかった。

 

「ウタハは驚かないんだね」

 

「あぁ、先生。セミナーから前に聞いていたし、だから私はリオに単独で会いに行ったんだ。そして、その横領された予算がどこに使われたかも私は知っている」

 

 しなやかな白石さんの指がプロジェクターに指される。

 

「横領した予算はこの技術研究都市エリドゥ……いや、今は要塞都市エリドゥか。この建設に全て使われた」

 

 会議室内がわずかにどよめいた。こんな都市を一人で作るなんて。画面に表示される敷地面積は明らかに3大校の1自治区の首都部に負けないぐらい大きく、高層ビルも立ち並ぶ。整備された道路も多い。

 

「リオすごいね……」

 

「すごい?先生。これは褒められたものではないのですよ。結果的にあの女はミレニアムを守るためにミレニアムの財政状況を不健全なものに変えたのです。……ノア、今この場で先生と草鞋野さんにその気があれば、連邦生徒会財務室が介入可能ですね?」

 

 明星さんの指摘に、生塩さんが神妙に頷き、私を見た。先生はたぶん介入しない。これはミレニアム内の問題として処理すべきだと。

 

 だけど、私のことは生塩さんもミレニアムの他の子達も、ある意味信用してない。

 

「エリさん、財務室に介入されちゃうとどうなるの?」

 

 モモイさんがよくわからない、といった顔で聞いてくる。私だって深くは知らない。でも、不健全な会計を行った自治区が過去にどうなったか、私は知っている。

 

「……具体的に財務室がどう動くかはわからないけど、過去に不正会計をして財務室に介入された自治区は今でも財務室の定期監査を受けてて、窮屈になってるよ」

 

「窮屈?」

 

「予算案が実質、自治区の預かりじゃなくなるの。とことん無駄を省いて、正常な状態に戻るまで指導を受ける。……ミレニアムでそれがされたらどうなるかわからない」

 

 モモイさんは余計にちんぷんかんぷん、って顔になったけど、これにはミドリさんがすぐにフォローしてくれた。

 

「えっと、つまり、私たちゲーム開発部みたいに、次期の成果が不透明な部活には予算が付かない…ってことですか?」

 

 そういうことだよね、と早瀬さんに私が目線を送れば彼女は頷く。

 

 途端にモモイさんが慌て出した。

 

「ヤバいじゃん!?アリスが戻ってくる前にこの場で帰ってくる場所(ゲーム開発部)がなくなるかもしれないってこと!?」

 

「落ち着いてモモイ。シャーレは今の所そんなことする気ないから。ね?ミカ、エリカ」

 

 先生の言葉に私とミカさんは頷く。流石に、いきなりそんなことは私たちもしない。モモイさんは「よかったぁ」と安心していた。

 

「じゃあどうすんだ?お咎め無しか?」

 

「ネル先輩。そのままに私がすると思いますか?」

 

「…いや、思っちゃいないよ」

 

 美甘さんに早瀬さんが、ゴゴゴ、って聞こえそうなぐらい圧のある笑顔を向けていた。これは怖い。直接向けられていない私も体が震えたし、先生も青い顔をしてる。ミカさんは…ミカさんもなんかキュッとした顔をしてる。恐るべし…早瀬さん。

 

「では、この2つ目の問題はセミナー内で厳正に対処します」

 

 生塩さんのまとめに、全員が異議無しと頷いた。明星さんだけあんまり納得がいってなさそうだ。

 

「次が最後です。アリスちゃんと同じく取り戻さないといけないもの。先生」

 

「これは完全にシャーレの問題なんだけど、実はリオに捕まった時、私が持ってるシッテムの箱が取り上げられちゃってね」

 

 そういえば、先生がいつも手に持ってたりズボンの背中側に差し込んでたりするタブレット端末、シッテムの箱がなかった。連邦生徒会から渡されてる先生専用の端末で、私も詳しくは知らないけど、少なくとも非常時は連邦生徒会のデータベースにすら簡単にアクセスできるシャーレの特権を示すかのようなもの。

 

 それを調月会長に取り上げられてしまったという。

 

「シッテムの箱は大切なものなんだ。リオのことだから壊すようなことはしないと思うけど」

 

「先生。アレは普通のタブレット端末じゃないよね」

 

「うん。そうだよハレ。詳しくは言えないけど、ないとシャーレの仕事はできないかな」

 

 先生は言っていないけど、あのシッテムの箱にはたぶん、先生を流れ弾から守る機能がある。私は先生と一緒にいることも多いから偶然見たことがある。それに、もしかしたらあのエデン条約事件で古聖堂が全壊した中、先生がいた場所だけくり抜かれたように無事だったのは、シッテムの箱の力なのかもしれない。

 

「色々とゴチャゴチャ話があったが、今すぐ片を付けにいかなきゃならねぇのはチビを連れ戻すのと、先生の持ってる”箱”の奪還。コレだな」

 

 美甘さんがまとめてくれたけど、この2つをどうにかするのがまず目の前の解決しなきゃいけないもの。

 

「その手段はどうするべきかな?みんな」

 

「え、そこは先生が」

 

「ユウカ。君たちはどうしたい?ここで私がリオを敵として、本当にいいのかな?」

 

「どういうことですか?だって会長は」

 

 先生は冷静だ。先生の言うとおりで、天童さんを攫い、シャーレに攻撃し、ミレニアム内での不正会計をした調月さんを敵として、彼女たちがいると思われるエリドゥという都市へこれから”攻め入る”のは簡単だ。戦力にしたって、美甘さんやミカさん、私もいる。

 

 打倒する、という目的だけならおそらく今夜中にできる。

 

「……先生。先生が言いたいのは、リオをただ叩き潰すのではなく、対話をしろと?」

 

「ヒマリはやっぱり頭がいいね。そうだよ」

 

「今更あの女に説教をしたところで聞きません。あの女は敵です」

 

 こんなに強い敵視をしている様子を明星さんが見せるなんて。思わず他のミレニアムの子達も少し驚いている。

 

「言い過ぎじゃないかな。ヒマリ」

 

「ウタハ。この期に及んであの女の肩を持つのですか?」

 

「いいや。リオがしてしまったことは当然、悪いことでもある。だが、彼女はアリスを認めたんだ。ミレニアムの生徒と。であれば、リオが取った選択は結局、彼女の我儘なんだ。ミレニアムの生徒を誰一人として失わせない。同時に、ミレニアム自体を傷つけさせない」

 

「最良の選択だと言うのなら、語るに落ちていますよ」

 

「最良ではないよ。最悪といっていい。けど、リオは最悪の中でも最良を選んだんだ」

 

「……悲劇のヒーローごっこですよ。あの女がやっていることは。一人で世界を救えるなどと、そんなに私やウタハは、凡人だとあの女は言いたいのですかね」

 

 明星さんが車椅子の肘掛けを強く握っていた。……本当に、明星さんと調月さんの間で何があったかわからない。けれど、一つだけわかるのは、彼女たちは間違いなく友達同士だったという事実。

 

「ノアやユウカ、コユキ。優秀なセミナーの役員を抱えていようと、あの女が取った手はありません。アカネや、新たなメイドもあの女からすれば仲間や部下ですらない。見下しているのではありません。自分を勘定に入れていないのですよ」

 

「……自分だけ悪者になろうってこと?会長は」

 

「お姉ちゃん?」

 

 明星さんの言葉に反応を示したのはモモイさんだった。彼女は難しい顔をしていた。

 

「ゲームだとさ、すごい人が犠牲になって助かるって展開よくあるけどさ。今のアリスだって似たよう感じで。でもさ、残されたキャラたちってそのあとみんな悲しむし、見てる私たちも辛いし」

 

 モモイさんが移動して、部屋の隅に置かれているバッグを開くと、そこに入っていたのは天童さんが使っているレールガンだった。

 

「ゲームならそんな御涙頂戴な展開もシナリオがしっかりしてれば、いいと思う。でも、現実でそんなの、クソ展開もいいところだよ。勇者が剣を捨ててお姫様にジョブチェンジ?生徒会長が悪役に自分からなろうとする?こんなシナリオ、私なら絶対やだね!」

 

 否定するかのようにモモイさんは明星さんに向き合った。

 

「難しい話はよくわからないけど、現実はハッピーエンドじゃなきゃ私は嫌!会長のこと、正直私もイヤな人だなって思った!いきなり来てアリスのこと魔王とか言ったり!あのメイドさんにお腹殴られたのムカつくし!けど、危ないからダメ、諦めて、なんて絶対に認めない!私は認めない!」

 

 明星さんはまさかモモイさんにこんなことを言われるとは思わず、きょとんとしている。

 

「今さっき、ウタハ先輩が会長の我儘って言ったけど、じゃあ私も我儘言うよ!アリスは勇者で、ゲーム開発部の部員で私の友達!このままミレニアムの新しい難題になんかさせない!だからみんなで助けにいくし、会長にも私文句を言うから!」

 

「も、モモイ、おちついて」

 

「天才なら諦めるなって!ミレニアム生じゃないよ!そんな態度!」

 

 花岡さんの制止などまるで聞かずにモモイさんは言い切った。言い切ってなんだかものすごいスッキリしていた。場の空気はモモイさんの醸し出すどこか明るい雰囲気になっていた。なんでだろう、根拠はないのに、いい方向に転んでいきそうな、ある意味楽観的な空気。

 

「だいたい、一瞬私と同じ意見だったんだよ会長。なら私だって負けてないもん!」

 

「いや流石にそれは違うと思うよお姉ちゃん」

 

「違くない!」

 

「えぇ…」

 

 勢いがすごい。モモイさんはなんというか、本当に明るくて何か…うん、これは天童さんの勇者性とはまた違う、勇者のような印象を受けた。明星さんはこんなモモイさんを見て、くすりと笑っていた。

 

「ふふっ……ふふふっ、モモイさん。なるほど、確かに、リオはミレニアム生に相応しくないですね。探究を辞め、臭いものに蓋をするかのような」

 

「どうする?ヒマリ?」

 

 先生が改めて明星さんに問いかけると、彼女は車椅子、その後ろに控える和泉元さんの胸にもたれた。

 

「私があの女をどれだけ嫌っていても、皆にとってはこの学校の生徒会長です。あの女はその意識すら抜けているのですから。いい機会です。私はもういいですが、みんなで文句を言ってやればいいのでしょう。たかだか天才なだけで、思い上がるなと」

 

「決まりだな。わかりやすくなったじゃねぇか。チビをこっちに戻して、先生のタブレット取り返して、リオに文句言いに行く。ついでにあたしはあの新入りとアカネに”教育”だ」

 

 美甘さんがまた纏めてくれて、ものすごい凶悪な笑みを浮かべていた。けど本当に、わかりやすくなった。先生は場が纏ったのを感じたのか、深く頷いて、みんなを見た。

 

「それじゃあ、準備をしよう。アリスとリオに会いに行こう。このエリドゥに」

 

『おー!』

 

 

 

 

 

 

 

 ひとまず、エリドゥという都市にみんなで行くことになったので具体的な作戦を決めることになった。会議の音頭をまずとってくれたのは白石さんだった。

 

「アリスがいるのはエリドゥの中心部にあるセントラルタワーだ」

 

 白石さんがエリドゥの設計図をレーザーポインターで指しながら教えてくれる。そういえばこの設計図もだけど、白石さん妙にこの都市について詳しくない?

 

「ねぇねぇ部長。なんでウタハ部長ってこの技研都市?だっけ、詳細詳しいの?図面もあるし」

 

「マキ。それは——」

 

「……あの都市、会長とヒマリとウタハが一年の時に発表した都市計画のやつでしょ。技術研究都市エリドゥ。この世界最高峰の演算機能を持たせたコンピューターをコアにミレニアムの難題解決を目指す未来のミレニアムの姿。今でもアーカイブで昔の品評会の映像見れば見れるよ」

 

「えっ!?そうなの副部長!?」

 

「でも、当時は確か」

 

「えぇ、チーちゃん。実現不可能な夢物語と一蹴されました」

 

「天才の部長が!?」

 

「ふふっ、マキは素直に天才と言ってくれてえらいですよ。ただ、私がどれだけこの世界で燦然と輝く天才病弱美少女ハッカーであろうと解決できないものがあります。いいえ、これはミレニアム生全員が当てはまりすね」

 

 どういうことなのかな、と思ったら白石さんが答えてくれた。

 

「端的に言えば、私とリオとヒマリがぶつかったのは単純に予算の問題だよ。自治区内にもう一つ首都を作るようなものだからね。時間はどうにか出来ても、やはり天文学的な予算がかかる。ロボットをAI制御で動員し人件費を浮かせたところで、私たちは無から材料や機械の動力を生み出せるわけじゃない。まぁ、まさに一年生らしい若気の至り、夢みたいな話だったのさ。この技研都市は」

 

「でもさ、現実にあるよね?」

 

 ミカさんが言うとおり、今、その夢物語は私たちの前にある。白石さんは「だから問題なのさ」と、肩を竦める。

 

「実際問題、ここに攻め入れば当然迎撃があるだろう。君たちは晄輪大祭で私たちが用意したアバンギャルドくんは覚えているかな?」

 

「あのとき連邦生徒会の防衛室から問い合わせ来て大変だったんですからね。ウタハ部長」

 

 早瀬さんがジト目で白石さんに文句を言っていた。カヤちゃんクレーム入れたんだあれ。

 

「まぁ、そもそも不知火くんの要望もあって登場させたんだけどね、アレは。ただ、元はリオからの試験運用の依頼があったからタイミングよく晄輪大祭に突っ込めたのさ」

 

「やっぱり会長の作品だったんですね」

 

「ノアは察しがいいね。そのとおりだよ」

 

 私とホシノちゃんがアバンギャルド君の制作者に対して感じていたものはどうやら当たりだったらしい。アレのどこが問題、と考えたけどすぐに私は気がついてしまった。

 

「……白石さん」

 

「何かな、エリカ」

 

「もしかしなくてもだけど、あのアバンギャルド君が先読み回避するのって」

 

「君も流石に察しがいいね。そう。アバンギャルド君の持つ先読み機能はおそらく、本来はエリドゥという都市が持つ演算機能を使うものだ。私が用意したのはカメラを利用してリアルタイムで演算をかけていたから、ラグがあった」

 

 たぶんこれ、あの飛鳥馬さんってメイドさんが乗っていたパワードスーツも同じだ。夏の時もハイウェイの時も。まさにこれから向かう先は調月会長の用意した兵器群にとってホームグラウンド。

 

「都市そのものをリソースとした高速演算。その効果がどれほどのものかはこの場にいる誰もが想像できないものだと思う。少なくとも、有人機であれば未来予知に等しい力を持つはずだ」

 

「なるほどな。あのとき新入りがあたしの動きを読んだのもそれか」

 

「……チートみたいだった」

 

「言うじゃねぇかおでこ」

 

「おでこ…!?」

 

「確かにチート使ってるようなもんだな。どう対策すりゃいいんだ?」

 

 美甘さんの質問に、私たち全員が頭を悩ませた。現実に未来予知が存在していて、かつそれを十全に戦闘で使いこなしてくる。ハイウェイで遭遇した時はまだカメラを使ってのものだったから、私の全力で予知速度を上回れたっぽいのはわかってるけど、今度はそうじゃないとなると厳しいかもしれない。

 

「うーん、予知より速く動けばいいんだろうけど、猶予ってどれぐらいあるんだろうね?その予知がされるまで」

 

「……聖園くん。まるで予知ができる相手と戦ったことがあるみたいな言い方だね」

 

「あっ。ほ、ほら、えっと、ゲームとかだと、そういうのある、よね!?」

 

 ミカさんが明らかに誤魔化しとわかる言い方を白石さんにしてる。トリニティでそんな真似をできる子がいるのだろうか。あとミカさんも私と同じ結論に達していたのはこういうところ、相性いいのかもしれない。

 

「聖園さんの言う猶予に関してはほぼ無いと言っていいでしょう。…エリドゥの基本設計には私も関わっていますから、想定される演算の精度と速度からすれば、ゼロタイムです」

 

「反則じゃん!ズルだよ!」

 

 モモイさんの言葉にはちょっと同感。仕掛けても全部読まれるわけだ。

 

「……けど、反応はできる」

 

 どうしようもないのでは、なんて思ってたら花岡さんが呟くように言った。みんなが驚いたように花岡さんを見る。私も彼女からそんな言葉が出るなんて思わなかった。

 

「わ、わっ、すいません、すいません…!」

 

「ユズ。大丈夫。思ったことを言ってごらん」

 

「うぅ、先生……」

 

 先生に促されて、花岡さんは続きを話してくれるようだ。

 

「……さ、先読みされても、動くまでには行動の”起こり”があります。予知自体に”猶予”がなくても、予知がされて、それが脳に伝わって、体を動かすにはコンマ数秒でも間があるんです」

 

「あの、ユズちゃんの言ってることは私もそう思います。ゲームでも、どれだけ反応がよくてもコントローラーにコマンドを入力して、反映されるまでに間があるんです」

 

「つまり、こっちも超反応すればいけるってか?おでこ」

 

「はい」

 

「……流石にあたしでもそこまでの反応速度は出せるかわからねぇ。聖園、草鞋野。お前らは?」

 

「うーん。本気のエリカちゃんより私、瞬発力は無いから私は無理かも。エリカちゃんはどう?」

 

 ミカさんからやたら高評価だけど、私もちょっと流石に、そんな未来予知有りの起こりを超えられるかというと微妙だ。

 

「カメラとかを使ったものならいけると思う。けど、明星さんが言うノータイムはちょっと…」

 

 あんまりネガティブな意見は言いたく無いけど、あれ以上に相手が速いなら正直厳しい。今の万全な体調で全力を出してもいけるかわからない。

 

「あの、発言よろしいでしょうか」

 

「あなたは…」

 

 そっか、明星さんはミヤコちゃん知らないか。というか、ほとんどの子はミヤコちゃんのこと知らないね、ここ。

 

「SRT特殊学園一年の月雪ミヤコです」

 

 ミヤコちゃんが挙手して、私の横に並んだ。彼女はSRTの装備こそないけど、いつものRABBIT小隊の小隊長らしい凛々しい姿だ。調子を取り戻してくれたみたい。

 

「SRT?あ!エリさんの学校じゃん!」

 

「あはは…モモイさん、あのときはちょっと事情あって代理で会長やってただけだよ」

 

「ミヤコ、何か気になることがあるの?」

 

 話が脱線しかけそうになるけど、先生がミヤコちゃんに問いかける。ミヤコちゃんは臆せずに発言を続けた。

 

「はい。そちらの…」

 

「花岡ユズさんだよ、ミヤコちゃん」

 

「すいません会長、ありがとうございます。失礼しました。花岡さんの言い方ですと、花岡さんは相手の予知に対抗できるということですよね」

 

 言われてみれば。花岡さんの言い方はまるで自分はできる、そんな言い方だ。花岡さんはミヤコちゃんに指摘されて、あわあわとしている。

 

「確かにユズならいけるかも!チーター相手でも全然反応早いし!」

 

「けどさモモ、ユズちゃんってそんな体張れる?」

 

「無理!」

 

「お姉ちゃん、そ、そんなハッキリ言わなくても…」

 

 小塗さんとモモイさんの話の内容どおりだけど、花岡さんはおそらく前線で戦うような子じゃないというか、そもそも戦闘員ではないと思う。過去のシャーレの報告書を見た記憶だと、戦闘面はほとんど天童さんが担っていたかな。モモイさんとミドリさんの姉妹はコンビネーションに限ればかなりのものだったみたいだけど。

 

「でも、その未来予知に反応できちゃう子はこの子しかいないんでしょ?」

 

「うぅ……」

 

 ミカさんの言う通りで、花岡さんが反応できるというのなら何か突破口になるかもしれない。明星さんをチラリと見れば、彼女は何かを考えているようだ。そして、しばらく沈黙が続いて、ようやく明星さんが口を開いた。

 

「ウタハ」

 

「何かな、ヒマリ」

 

「サムス・イルナを使いましょう」

 

「……なるほど?」

 

「あの女に文句を言うならまずはその鼻っ柱を折ってやるのが一番。ならば真正面から挑んでしまいましょう」

 

 何やら手があるらしい。

 

「二人とも、妙案があるんだね?」

 

 先生が二人に代表して聞いてくれた。

 

「妙案と言いますか。エリドゥの演算機能は凄まじいですが、演算の結果を受け止められる側の強度に限界があります。相手が増えれば増えるほど、そして閉所や高所……特殊な環境になれば演算も複雑になり、受け手がオーバーフローします」

 

「簡潔に言うと、アバンギャルドくんにしろ、エリカたちが戦ったパワードスーツにしろ、処理能力の限界があるのさ。それは接近戦になればなるほど、処理能力に負荷がかかる。思い当たる節はあるんじゃないかな?」

 

「確かに…前に、リゾートで戦った時は接近戦を避けて来たし、接近したら相手を突き飛ばすような動きをしてたかも」

 

 ホシノちゃんやイズナちゃんからの接近戦をあの時の飛鳥馬さんは避けていた。

 

「……車椅子があればすぐに空間投影でデータを出せたのですが。ウタハ、データはありますか?」

 

「あるよ。コトリ、私の個人フォルダ、一番下の…そう、それだ。そのファイルを開いてくれ」

 

 白石さんの指示で豊見さんがパソコンを操作すると、画面には新たに”サムス・イルナ”という名前のファイルが展開され、中身が映し出される。それは、私とミヤコちゃんがハイウェイで戦ったパワードスーツにそっくりな機体だった。

 

「汎用拡張型パワードスーツ、サムス・イルナ。一年生の私とリオとヒマリで作ったものだよ。ヒマリ、君はこいつを遠隔操作可能にして、ユズに操作させようというのだろう」

 

「えぇ」

 

「えぇっ!?」

 

 直接戦えないなら機械を通してってこと!?

 

「しかしそれでは通信のタイムラグがあるのでは?」

 

 音瀬さんの指摘は素人の私でもわかる。確かに。どうなんだろう。

 

「そこは直接、現地で通信すれば問題ない。考えられる妨害電波とか、リオの手をこっちはわかっているからね。おそらく小細工を使わずにリオは潰してくるだろう。だから正面からサムス・イルナ、そして接近戦をネルに任せれば、だいぶ動きが鈍くなるはずだ。アバンギャルドくんも、パワードスーツもね」

 

「わかった。けどよぉ、パワードスーツ単独じゃ無理だろ。誰か乗せないと」

 

「ですから、そこはゲーム開発部の3人に任せたいと思っています」

 

「私たちに!?」

 

「追加装備もあるから重装備になる。ドライバー…機動はユズ、火器管制はミドリ、そして両腕の管制と格闘戦はモモイ、君に任せたい」

 

 二人羽織どころじゃない、三人羽織、にも見えるけどこれ、戦車みたいに操作を分担しようってことなのかな。

 

「アリスを直接助けに行きたい、モモイはそう思っているのだろう?」

 

「当然…!ミドリ、ユズ、いいよね!?」

 

「お、お姉ちゃん、危ないんじゃ」

 

「大丈夫!ユズが攻撃避けてくれて、ミドリがサポートしてくれるなら負けないよ!」

 

「決まりですね」

 

「なら、サムス・イルナの調整をしよう。30分ほしい。ヒビキ、コトリ、先に部室に」

 

「「はい!」」

 

 どうやらこれから準備してくれるみたいだ。

 

「……ヒマリ先輩とウタハ先輩がゲーム開発部を戦力化したということは、部隊を2つに分けられると思います」

 

「ノア、どういうことなの?」

 

「ユウカちゃん。今回取り戻さなくてはいけないものは2つです。アリスちゃんとシッテムの箱。ウタハ部長、シッテムの箱のある場所も」

 

「アリスと同じくセントラルタワーだろうね。リオのことだから、防衛しなきゃいけない場所を分けるとは思えない」

 

 わかった。生塩さんが言いたいことが。

 

「生塩さん。つまり、陽動と潜入班に分けるんだね」

 

「はい、草鞋野さん。チームは正確には3つになりますが、実際にエリドゥに突入する班は陽動班と潜入班に分けられます。どうですか、先生」

 

「いいと思うよ。内訳は?」

 

 やっぱり分けるみたいだ。部隊構成はどうするのかな。これはどうやら生塩さんがそのまま流れで決めてくれるみたいだ。

 

「潜入班は聖園さん、草鞋野さん、月雪さん。あとはエイミさんでいいと思います。SRT特殊学園の違法火器に対しての強行捜査はよく覚えています。エイミさんは優秀なエージェントですし、潜入には慣れていますから」

 

「よろしく、エリカ」

 

 和泉元さんが私に声をかけてサムズアップしてきた。……格好のせいでつい忘れがちだけど、和泉元さんは単独でデカグラマトンと戦闘して帰って来れるすごい人だし、この前のエデン条約事件の時はトレーラーが爆破炎上しても無傷だった。

 

 潜入というか、少数精鋭での強行突破ならいい人選だと思う。ミカさんの突破力は最高だし、ミヤコちゃんもSRTとして訓練は積んでいるからね。

 

「生塩さん、先生。それなら私が潜入班の班長をやります」

 

「エリちゃんなら言うと思ってた。お願いね」

 

「はい!」

 

 頑張ろう。ミヤコちゃんにも目配せすると彼女はビシッと気をつけしてしまった。プレッシャーをかけてしまったかもしれない。ミカさんは私たちとチームを組むので、こっちに歩み寄ってきた。

 

「エリカちゃんの指揮はナギちゃんから色々聞いてるよ。よろしくね」

 

「任せて、ミカさん」

 

「それに、ミヤコちゃんだっけ?一緒に頑張ろうね」

 

「は、はい」

 

「そっちの…和泉元さんもよろしく」

 

「よろしく」

 

 即席チームだけど大丈夫かな。

 

「残りは先生を中心に正面から行きます」

 

「みんなよろしくね。特に今回、私は結構後ろからの指揮になるから、頼りないかもだけど」

 

「いや、先生がいりゃああたしたちは勝てるさ。おっし、準備すんぞ、アスナ、カリン」

 

「りょうかーい!」

 

「了解」

 

 方針は決まった。

 

 このあと、侵攻ルートをエリドゥの図面を元に決定して、私たちはそれぞれの準備に本格的に移った。

 

 待っててね、天童さん——そして、調月会長。みんな、あなたたちと話すことがたくさんあるから。

 

 




次回は未定です。
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