「ここがミレニアムかぁ〜結構栄えてるねぇ〜〜」
「そうだよ、ホシノちゃん。というか、知らなかったの?」
「そりゃねぇ。おじさん、新しいものは苦手だからねぇ」
「あ、私はよく使ってますよ、ミレニアムの製品」
シャーレのあるD.U.地区から電車に揺られて数時間。一緒に同行してるホシノちゃんとノノミちゃんからすればもはや一晩ぐらい時間をかけてもらってるけど、車窓に高層ビルなどが乱立するキヴォトス1栄えてると言っても過言じゃないミレニアム自治区が見えてきた。
「それにしても、最近おじさんひっぱりだこすぎない?ちとつらいよ〜」
「ごめんね、ホシノちゃん、無理言ってついてきてもらって」
「お礼はちょうだいねぇ」
ホシノちゃんには本当に申し訳ない。そもそも、私がミレニアムサイエンススクールに向かっているのは個人的な用事があってだ。シャーレ就任日の早瀬さんへの謝罪と、この前のチヒロちゃんへのお礼のためだ。なので、本来ならアビドスのホシノちゃんとノノミちゃんが一緒にくる理由なんてないのだけど、これはミレニアムサイエンススクール側からのお願いだった。
「それにしても、私たちを呼んだヒマリさん、という方はどんな人なのでしょうか?」
「なんでもいいよぉ〜〜ふあぁ……」
ノノミちゃんが疑問に首を傾げつつ、寄りかかってあくびをするホシノちゃんの頭を撫でるという器用なことをしている。後輩のはずなのにものすごい甘やかされてるホシノちゃん、それでいいのかな…いや、本人たちが問題ないならいいのか。
ノノミちゃんの疑問に私は答えることができない。明星ヒマリさんはミレニアムサイエンススクールで「全知」という称号を持つ天才で、チヒロちゃんの所属する部の部長、というのをチヒロちゃんから聞いただけなのだ。姿も見たことがない。
そんな人がなんで全く関係なさそうなアビドスの二人を呼んだんだろう。チヒロちゃんはすっごく面倒臭そうな感じで「ウチの部長が、学校が迷惑をかけたから謝りたいので呼んで」と言わされました感満載で言って、二人にはきてもらったのだけど、どう考えても裏がありそう。
政治とかは私得意じゃないからなぁ………そういうのは不知火室長が好きだったし。元気にやってるかな不知火室長。クビになる前はよくモモトークしてたけど、あれからはパッタリ。ただメッセージ拒否はされてないから、たぶん送れば反応は来る、かな?
「スマホ、どうしたんですか?」
「あ、いや、だいぶ時間かかったなぁって」
一瞬、不知火室長に今回の呼出のことを相談してみようと思ったけど、今はシャーレの生徒なのでやめておく。シャーレはその性質上、防衛室では知れないようなことがたくさんある。今一緒にいるアビドス高校が遭遇した”ゲマトリア”なる存在や、これから向かう先にいる天童アリスさん。
どう考えても下手に広めればキヴォトスに混乱を巻き起こしかねない情報だ。先生が話していいと言わない限り、言わない方がいいだろうね。
私のへたっぴな誤魔化しに、ノノミちゃんはあえてスルーして「そうですね〜、日付が変わってしまうなんて思いもしませんでした」と言ってくれた。優しい子だなぁ……なんというか、お母さんみたいだ。
「おっと、着くみたいだね。降りよっか」
「は〜い」
「ノノミちゃん、おぶって〜」
「ダメですよ〜ホシノ先輩。歩かないと」
「私がおぶろうか?」
「うへぇ〜エリちゃんはやさしいねぇ」
「ダメですよ♧」
ミレニアムサイエンススクールの校舎近くまで、さらに自動運転のバスに乗って到着すると、とても学校とは思えない校舎がそこには聳え立っていた。まるでビジネス用のビルのような作りで、生徒たちも白衣を着ている子がちらほらいて研究職の人たちみたいだ。
私が知ってるのはヴァルキューレとアビドス、あとはちょっと前に先生と一緒にいった百鬼夜行のお城みたいな校舎なので、わりと衝撃的。
「ほへー、すごいね。ウチとは大違いだ」
「ほんとですね!セリカちゃんが見たら固まっちゃいそうです」
ホシノちゃんたちも圧倒されてる。とはいえ、圧倒されっぱなしじゃいられないので、チヒロちゃんの指定通り、校舎の中の一階エントランスへ入らないと。迎えの人がいるらしいので。
他校の生徒、しかも3人ともなれば多少は目を引くのか通りがかる生徒たちから視線が飛ぶ。ただ、積極的に関わろうということもないのか、特に声をかけてくる生徒はいない。ミレニアムは新技術や開発を頑張ってる子たちなので、私たちに構ってる暇はないのかも。
「校舎の中も綺麗だね」
ホシノちゃんがけだるげに言い、私もそうだねと頷く。校舎のエントランスは人も多いけど綺麗で、よく清掃されていた。よく見れば清掃をしているロボットが動いてる。それで、このエントランスに迎えの人がいるらしいけど。
「あ、いた」
お迎えの人が先に私たちを見つけたのか、そんな声が届いた。挨拶しようと振り向いて、私たちは口が空いたまま固まった。
そこにいたのは肩までぐらいの長さの、ホシノちゃんより濃いピンク色の髪をした子だった。けど、格好が問題だった。ミレニアム生の制服であるコート(黒色)を崩して腕にかけて、その下の制服はYシャツがはだけ…いや、もうほぼ脱げてたぶん水着?水着だよね、水着であってほしい黒のビキ、ニ?チャックがなんでついてるの…?とにかく、それはもうノノミちゃんにも負けないぐらい豊かな胸がビキニに包まれて曝け出されていた。
周りの子たちは全く気にしてない。あれ?これ普通なの!?
「え、えっと、こんにちは」
「…?どうしてぎこちないの?」
「え、いや、うん、なんでもないよ。私は草鞋野エリカです。あなたがチヒロちゃんの言ってた迎えの子?」
「正確には違うけどそうだよ。和泉元エイミ、よろしく」
信じられないぐらい大胆な格好してるけど、声音と態度はものすごく淡白だった。めんどうくさい、というのが露骨に出てる。むっ……よくないと思うなそういう態度。いやいや、他校の子だから気にしない、私。
「ついてきて」
「あ、うん」
「いやはや、進んでるねぇ。おじさん眼福だよ」
なんとか固まってたホシノちゃんが再起動して、まだ微妙に固まってるノノミちゃんの手をとって引っ張り出した。アビドス砂漠という極限環境にいても、やっぱりお嬢様なノノミちゃんにこの和泉元さんの格好は凄まじい衝撃だったらしい。
「部長、連れてきたよ」
「ありがとうございます。エイミ」
和泉元さんに連れてこられたのはミレニアムの校舎にあるどこかのオペレーションルームだった。まだ最近できたばかりで稼働してないのか、機械の保護用フィルムとかが剥がれてないし、養生のビニールが置いてある。
入室する際に聞こえてきた声が、おそろしく綺麗で、その声の主がアビドスの二人を呼んだ人なのだろう。
和泉元さんは入室するとそのまま私たちを先に行かせるように、横へとずれて、入り口の脇の壁にもたれかかった。私が部屋の奥へと視線を向ければ二人の影が、大きなモニターの前にあった。
「他校の生徒をこうして招き入れるのは異例ですが、ミレニアム1の天才美少女ハッカーである私はそのあたり、柔軟ですので。シャーレ、そして、遠路はるばるアビドス高等学校のお二方。ようこそ、ミレニアムサイエンススクールに。私が明星ヒマリです」
車椅子に座った儚いという印象を真っ先に受ける長い白髪の生徒――明星ヒマリさん。胸に手を当て、印象から受ける真逆の力強さをも感じさせる態度に、私は思わず敬礼しそうになる。まるで彼女がこの学校の生徒会長にも思えるようなプレッシャーだった。
「君が私たちを呼んだのかな?私は小鳥遊ホシノだよ」
ホシノちゃんの態度がリーダーらしいものに変貌して、明星さんに自己紹介する。明星さんはホシノちゃんの重圧をまるで感じていないのか、気楽な様子で笑顔を見せる。
「初めまして、小鳥遊ホシノさん。そして、隣の方が」
「十六夜ノノミです。こんにちは、明星さん」
「えぇ、こんにちは」
最後に、私に視線が向く。まるで何もかもを知られてしまいそうになる視線に私は、逃げずにまっすぐ見返す。ほんのわずかに、明星さんの目が見開いた気がした。
「初めまして、明星さん。私がシャーレ、補佐官をしています。草鞋野エリカです」
「あなたが…。チーちゃんから話はよく聞いていますよ。優秀なヴァルキューレの警察官だったと」
「ヒマリ、その呼び方やめて」
「いいじゃないですか。私たち、学生ですよ」
「いや、そういう話じゃないって」
チヒロちゃんは明星さんとは友達らしい。部長と副部長だし、そりゃそうか。
「光栄です。明星さん」
「あら、別にいいんですよ?チーちゃんを呼ぶみたいに、名前で呼んでくれても」
う、なんだろう。学年もたぶん同じだろうに、どうにも明星さんの雰囲気に圧倒されているせいか、そんな気がおきない。どう答えたものかと思ったら、チヒロちゃんが助け舟をくれた。
「ヒマリ。初対面の相手にそんな要求をしない」
「そうでしょうか?同い年ですし、私は気にしませんよ?」
「あんたはよくてもエリカはそうじゃない。悪いね、エリカ。うちの部長が」
「いや、大丈夫だよ。チヒロちゃん」
気をつかわせて申し訳ない。せっかくお礼を言いにきたのにお世話になりっぱなしだ。
「まぁ、いいでしょう。時間もあるわけではないですし、早速本題に入りましょうか」
明星さんは言うなり、視線をアビドスの二人に向けて、車椅子に座ったまま頭を少し下げた。
「この度はミレニアム生がご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした」
「……っ!?ほ、ほんとに、あのヒマリが頭下げた……!」
いきなりの謝罪。事前に言われていたとはいえ、最初の挨拶の時点で尊大、とも取られてしまうような明星さんの態度からすれば驚きだった。私やノノミちゃんがどういう顔をすればいいのかと悩んでいる間、ホシノちゃんは特に動じていなかった。
「謝られても、アレがそっちで作られたものとは確定してないでしょ?」
「疑わしきは罰せず。ですが――これからさらに迷惑をかけるのに、一度も謝らないのはよくない、と思いましたので」
部屋の中の温度が、数度上がった気がした。が、学校の上位者どうしの睨み合いってものすごい重圧だ……!事件の現場とはまた違う、変な汗が出そうになる。
「暑い」
「え?」
重苦しい空気の中、突然後ろにいた和泉元さんのマイペースな声が聞こえたかと思うと、天井の空調機からゴーっという音を立ててとんでもなく冷たい冷気が流れてきた。
「さっむ!?」
「え、エイミ!?何をしているのですか!?」
「いや、人口密集度が上がって暑いから冷房を入れただけだよ」
「いや、これ、冷房ってレベルじゃなくない?」
「お、おじさん、流石にここまで寒いのは苦手かな」
「カーディガン着ててもこれは、寒いです…」
私の悲鳴からみんな和泉元さんへ一斉に振り向くと、和泉元さんの格好はもっとすごいことになっていた。なんともう水着だけ。おまけに、水着のパンツ、ちょっと待って?チャック、ついてる?それに手をかけ――。
「………………………」
「あ、あれ?エリちゃん?急に黙ってどうしたの」
「こ、公然わいせつ罪ーーーー!」
「うわぁ!?エリカ落ち着いて!?」
「え、エリカさん!?」
「離してください!チヒロちゃん!ホシノちゃん!私はあの人を捕まえないといけません!」
チヒロちゃんの説得とホシノちゃんの押さえつけ、あとは和泉元さんに服を着てもらいなんとか私が落ち着いたのは数十分後だった。部屋の冷房はマイナスの設定になっていたらしい。冷凍庫か何か?
「落ち着いた?エリちゃん」
「ごめんなさい……急にカッとなって」
危ない。また悪い癖が出てしまった。流石にこんなところで暴れたら早瀬さんに謝りに行くところではなくなる。
「気にしないでください。……エイミ、なぜあのような温度設定が?」
「会長が用意してくれたんだ。暑いと困るって言ったら」
「……このか弱いミレニアムの至宝であり全知の天才病弱ハッカーの私を凍死させたいんですか?あの女は」
「いや……たぶん完全な善意100%でしょ」
ミレニアムの3人の話が少し聞こえたけど、冷房が壊れたわけではなかったらしい。部屋の空気は緊張したものではなくなっているので、まぁ、結果オーライ!ってことにしよう!うん。
「こほん。話を戻しましょう。アビドス高校の方を呼んだのは端的に言うと根回しです」
「根回し?どゆこと?」
「私たちミレニアムはある調査をアビドス自治区内で行いたいのです。その際、このエイミが武装して自治区内へ侵入しますので」
「あぁ、なるほど。けど、それなら私たちだけでよかったよね?エリちゃんと一緒に連れてきたのはなんで?」
明星さんがホシノちゃんを呼んだのはどうやら七神代行と同じような理由だった。あと、ホシノちゃんの言う通りそれなら私も一緒に呼ばれたのは謎だ。明星さんは疑問にすぐ答えてくれた。
「私たちの調査対象が規格外の存在だからです。シャーレに支援要請を行うことも私たちは考えています。ですから、草鞋野エリカ、あなたにも来てもらいました」
「こちらにも根回しということですか?」
「えぇ。先生、彼女の活躍は私にも届いています。直接伝えてもよかったのでしょう。ただ、私たちは本格的に調査を始めたわけではありません。今の段階で細かい話をしても仕方がないですから」
「珍しいね、部長がこんな面倒臭い手続きみたいなことするなんて」
「エイミは私をなんだと思っているのですか?」
「さぁ?」
「…………気に食わないですが、あの生徒会長から全権を託されている以上は、学校間の紛争は避けるべきだと、常識的に考えていますよ。私は」
「えっとぉ、つまり、今日は“ご挨拶”、ということでしょうか?」
ノノミちゃんがまとめると「その通りです」と明星さんが頷いた。最初の印象がすごかったけど、思ったより話ができる人だった。思えば、早瀬さんもあんな無礼なことしたのに怒りを抑えてくれたからミレニアムの人たちはかなり理性的な人が多いのかも。
ヴァルキューレのミレニアム支部は出動件数がかなり少ないって聞いたことがあったけど、これが理由かな?
「明星さん。我々を呼んだ理由は理解しました。では、その“調査対象”とはなんですか?先生に本官から説明するにしても、簡単な内容はお聞きしたい」
相手が正当なプロセスを通し、誠実であろうとしてくれているならこちらもしっかりその姿勢を見せなくてはいけない。姿勢を正し、問いかける。
「いいでしょう。チーちゃん、お願いします」
「はいはい」
明星さんがチヒロちゃんに声をかけると、チヒロちゃんが唯一稼働している端末を動かし、画面に何かが映る。あれは…なに?大型の兵器……?
「……ッ……!」
ノノミちゃんが息を呑む。あれを知ってるの?
「やはりご存じでしたか?十六夜さん」
「それは……」
明星さんの言葉に、ノノミちゃんが言い淀む。蛇のような白い大型の兵器。砂漠で動いてる断片的な写真からアビドス砂漠で動いてるみたいだけど、だから知ってる?けど、それにしては反応が。
「“ビナー”でしょ?そのヘビ」
「ビナー?」
あの機械の蛇はビナーというらしい。ホシノちゃんは流石に生徒会長も兼任してるからか知ってるようだ。本当になんなんだろう。これは。誰が一体なんの目的であんなのをアビドスに?
「デカグラマトン。最初に遭遇したのはアビドス高校の皆さん、そしてシャーレの先生と聞いています」
え、あれがデカグラマトン!?先生がゲマトリア絡みの報告の中にちらっと書いてた!?あんな化け物みたいな大型兵器と戦ったの!?アビドスのみんな。
「シャーレ、連邦生徒会会長代行、そして、私と対立するミレニアムの生徒会長、調月リオへ、アビドス砂漠でのデカグラマトンとの交戦記録は共有されています」
「なぜですか?本官はそのようなこと聞いていません」
「それはそうでしょう。私たちミレニアムが情報を欲したからです。先生にも伝わっていないと思います」
連邦生徒会が独自に渡したってこと…?七神代行が、独断で?
「水と油、もちろんあの女が油ですが…私とリオですら、自治区として、連邦生徒会へ借りを作るのは避けたいという見解は一致しています。それでも情報が欲しかったのです」
チヒロちゃんが明星さんの話に合わせて画面を操作する。新たに表示されたのは先ほどのビナーと同じような白い大型兵器。側面にはミレニアムのマークが描かれているけれど、明らかにデカグラマトンの一種なのがわかる。
「ホド。元はミレニアムサイエンススクールの傑作演算機である“Hub”と呼ばれたものです。これがデカグラマトンによって“洗脳”され、ビナーと同じ預言者としてミレニアム自治区内で暴れています」
「そんな………どうして…」
ノノミちゃん、本当にさっきから様子がおかしい。心配になるけど、今は話を聞きたい。
「幸いなことに、元が演算機器です。機動力はなく、ビナーのように環境を破壊することはありません。撃退し、今はどこかに身を潜めているところです」
「ふーん。なるほど、つまり、君たちは私たちの自治区に入って、ビナーを調査したいってことか」
「えぇ。遠回りをしましたがその通りです。そして、デカグラマトンの影響力を鑑みれば」
「私たちの……先生のシャーレへの支援要請が必要、ってことですか」
学園都市そのものを滅ぼしかねない脅威。これはまさしくシャーレが立ち向かわなくちゃいけない案件だ。明星さんは私の言葉に頷く。
「エリカ、悪いけど、この話を持ち帰って先生に伝えてほしい。厄介ごとに巻き込んで申し訳ないけど」
「いいえ、チヒロちゃん。先生は二つ返事だと思います。私もです」
「そっか」
帰ったらすぐに先生にこのことは伝えよう。
「ホシノ先輩……」
「うん、ノノミちゃん。こっちとしても、協力しない理由がないからいいよ。エイミちゃんだっけ?アビドスに来た時はウチに寄っていきなね」
ホシノちゃんがノノミちゃんの手を握りながら明星さんからの話に了解する。もはや交渉みたいだけど、無事成立したみたいだった。
「ふぅ。ひとまず、そういうことで。私とエイミ、二人だけの部活ですが“特異現象捜査部”、これがデカグラマトンの調査を担当しています。調査が本格的なものになったらまた連絡を入れますので、よろしくお願いします」
なんだか壮大な事件の話を聞いてしまったけど、私の当初の目的はチヒロちゃんへのお礼だ。話が終わってひと段落した空気になったので、私はチヒロちゃんの方に歩み寄った。
「チヒロちゃん」
「ん?なに、エリカ。まだ聞きたいことある?」
「この前のお礼」
言いつつ、私は懐からコーヒーの豆を取り出す。以前、不知火防衛室長にも勧めた予約して抽選に当たらないと手に入らないものだ。チヒロちゃんは少し驚いた様子で私のプレゼントを受け取った。
「え、ありがと。これ、限定品じゃ」
「偶然2個当たったからせっかくだし、この前のATMのお礼にって思ってさ」
「……嬉しいけど、いいの?あれ、全然力になれなかったし。それどころか今日も厄介ごとに巻き込んだし」
「いいよ、気にしないで。それに、さっきみたいな話は臨むとこだよ。チヒロちゃんも含め、キヴォトスの市民、生徒の安全を守るのが私の役目だからさ」
いつもお世話になってるから、それ以上の気持ちは私にないんだよね。チヒロちゃんは一見ダウナーに見えても、頑張ってくれてる人を支えてくれるすごい人なんだ。ヴァルキューレはどうにもITに疎いから、助けられてばかり。
だから、頑張ってる人を守れるって思うと私はとっても頑張れるんだよね。
「あらあら、チーちゃんも隅に置けないですね」
「うっさいヒマリ」
照れ臭そうなチヒロちゃんにちょっと嬉しくなりつつも、これで私の用の一つ目は済んだ。
「じゃあ、もういいかな?明星さん」
「ふふっ、えぇ。チーちゃんの珍しい表情も見れましたし。アビドスの二人も急に悪かったとは思っています」
「いいよいいよ〜、よく見ればヒマリちゃんだっけ?可愛いし」
「………!なんと、聞きましたか?チーちゃん、エイミ!!私がまごうことなき美少女だと!」
「まぁ部長、顔だけはいいから」
「なんですかそれは。私は全てが美少女ですよ」
もう緊張した空気はとっくに消えていて、なごやかな雰囲気になっていた。明星さんと和泉元さんはこういうノリらしい。いいコンビだなぁ。さてと、これ以上はここにいてもしょうがないので、一旦出ようかな。ホシノちゃんたちに目を向けると、同じ気持ちなのか頷いてくれた。
「じゃあ、私たちはこれで」
「んんっ。えぇ、お疲れ様でした。エイミがそちらに行く時はよろしくお願いします」
「うん。任せてよ。それじゃあね〜」
ホシノちゃんを先頭に私たちは部屋を出ていく。
最後にチヒロちゃんへ手を降って、私たちはオペレーションルーム、後から聞いたけど“特異現象捜査部”の部室から出ていった。
「チーちゃん、あぁいう子が好みなんですか?ケモ耳の」
「は?」
「私もワンコになればいいのでしょうか」
「意味がわからないんだけど」
「部長は変温動物だと思う」
「エイミ、言葉が過ぎますよ――ちょ、やめなさい。また冷房を効かせるのは」
「(……エリカ、無茶しなきゃいいけど)」
特異現象捜査部の本格的な出番はまだまだ先ですが、やっぱり勝手に他の自治区に入るのって学校同士だと問題ありそうだなぁ、って思っての回でした。
チーちゃんは本来関与がなかったところですが、主人公のせいで巻き込まれました(本人たちに自覚なし)