頑張りとは、報われるべき願いである   作:ババネロ

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今回もどうぞよろしくお願いします。


Area-11「セントラルタワー前広場 #三位一体 #激戦 #乱入」

 二丁のサブマシンガンから弾丸が踊るようにばら撒かれ、街灯に照らされたマシンガンの金メッキのフレームが残像を残す。ミサイルを従えて突撃をかけてきたネルの突撃を許してしまったトキはそれでも余裕を崩さなかった。

 

 トキは白兵戦を仕掛けようとするネルから離れるため、全力でアビ・エシュフに地面を蹴らせて後退しようとするが、生身の筈のネルは容易くついてくる。

 

「オイオイいきなり逃げんなよ!」

 

「逃げてはいません。私の間合いを取ろうとしています」

 

「取れるかよ!」

 

「取ります」

 

 アビ・エシュフの両腕のマシンキャノンが容赦無くネルへと放たれる。直線的な軌道をとっていたネルは直角で右へと避ける。

 

 一方で、回避しながらもネルは反撃に左手のサブマシンガンを撃つが、トキはエリドゥからの演算によるフィードバックを受け、ネルの牽制射撃は避けずに、紛れこまれた直撃弾だけ躱す。

 

「…ッ!?」

 

 野生の勘のようなネルの感覚が足に急ブレーキをかけさせる。止まった先にマシンキャノンの砲弾が着弾していた。アカネのPアビ・エシュフが先読みして放った攻撃に、ネルは本当に人間が先を読んできていると実感する。

 

「ユズ!前に出ないと!」

 

 このままネルだけに任せるわけには行かない、とモモイはユズにサムス・イルナの前進を任せ、自身は両手の大型サブマシンガンをアカネに向かってフルオートでばら撒く。生徒が使うものよりも大型化されたそれは、アビ・エシュフのマシンキャノンほどではないがそれなりの口径を誇り、アカネも直撃は無視できないダメージを負うと判断し、エリドゥの予測に任せ回避を選択した。

 

「そこだ…!」

 

「カリン、視えていますよ?」

 

 アカネが回避を行なった先に今度はカリンが対物ライフルでの狙撃を行うが、アカネはPアビ・エシュフの装備するスラスターを使い、機体を素早く一回転させ、カリンの攻撃を避けた。

 

「デケェ図体の割には随分動けるじゃねぇか!」

 

 アバンギャルドくんとはワケが違う高い機動力に、ネルは流石にリオの作ったものである以上簡単にいくはずがなかった、と思いつつも攻勢を緩めない。サムス・イルナは操作が三分割されているため、モモイとユズがアカネに向けて牽制をしつつも、器用にミドリがネルへの援護射撃にミサイルを放ち、ネルはそれに合わせて再びトキへと突撃する。

 

 ミドリが放ったミサイルは容易くトキに回避される。歩行ではなく脚部裏のローラーを活用し、トキはミサイルの着弾する隙間をすり抜けていく。

 

「取り付いた!」

 

 退避する方向へと回り込んだネルが、トキへと飛び掛かる。しかし、トキは既にその未来を視ていた。トキはアビ・エシュフの右腕を引き絞るように構えさせ、ネルの突撃に合わせて、ぐるりと機体を振り回し、アビ・エシュフの右腕マシンキャノンの砲口でネルを殴打しつつ、4門の砲から接射した。

 

「──ご…!?」

 

「ネル!」

 

 先生の悲鳴のような声が響く。ネルは殴打と射撃による強烈な衝撃を受け大きく吹き飛ぶが、意識は保ち、武器も取り落とさない。それどころか、両手のサブマシンガンの銃口をトキに向けていた。

 

 吹き飛ばされながらもネルの射撃はトキに降りかかる。ネルは並の生徒であれば今の一撃で当分は動けなくなるはずなのに、受けても動く。予知があるにもかかわらず、トキの驚愕が回避行動を取らせることを遅らせてしまっていた。

 

「着地は頂きました」

 

 しかし、ネルの着地をアカネは狙っていた。右のマシンキャノンをモモイに向けつつ、左のマシンキャノンをネルの落下地点に構えさせる。それと同時に、アカネの脳裏に「2つ」の予知がなだれ込んできた。

 

「うっ…!?」

 

 突然の2つの未来に、アカネはうめく。視えたものの一つはモモイの駆るサムス・イルナがネルを庇うために射線に割り込むというもの。もう一つは、そのままアカネにブースターで突撃してシールドを前にタックルしてくるもの。

 

「これは!?」

 

『アビ・エシュフの予知機能が混乱を…!』

 

 異常なデータを検知したリオが彼女らしくもなく、僅かに慌ててアカネのバイタルをチェックし、一時的に予知機能を制限させる。結果、アカネのネルへの追撃はモモイが突撃をかけタックルを受けた事で大きく外れた。

 

 モモイたちの援護に感謝しつつ、ネルは一回転して足から軽やかに着地する。大口径の砲弾を4つ、加えて強烈な殴打を受けたためか、ネルのメイド服は一撃でボロボロになり、胸元ははだけ、ゆるく結んでいたリボンは切れて飛んでいってしまい、頭につけていたホワイトプリムはズレていた。

 

 煤も被りつつ、ネルは口から血の混じった唾を吐きながら、凶悪に笑ってみせた。

 

「器用なモンだな」

 

「ありがとうございます」

 

「褒められて素直に礼を言うのは可愛げあるじゃねぇか」

 

「私は可愛いですからね」

 

「言うじゃねぇか。もっと可愛くしてやるよ」

 

「間に合っています」

 

 見た目こそボロボロであったが、ネルはまだ許容範囲のダメージだと自己判断する。衝撃で一瞬息が止まるも、行動不能になるほどではなかった。トキが余裕を装いつつも、驚愕で回避行動を取れなくなったことから、彼女はより戦意を高めていた。

 

「(ハッ、結局は人間が造ったモンってことだ。よくできてるオモチャだが。あのトキってやつはまだ少し経験が足りないな)」

 

 C&Cとして十二分な力はあるのだろうが、まだ少し死線を潜り抜けた経験が足りないとネルはトキを評価する。

 

「(夏に戦ったあのピンク髪のちびっこも頑丈でしたが…まさか、美甘部長もここまでタフとは。小さいのに)」

 

 トキは夏にリゾートで戦ったホシノを思い出していた。結局、トキはホシノに有効なダメージを一切与えられていないのだ。

 

 状況はネルがダメージを受けた事で、先生たち側がやや不利といった状況だった。エリドゥへ攻め込む前のブリーフィングで明かされた予知機能の弱点、受け手側の情報処理能力に限界があることはわかっていたが、先生はどうやってトキとアカネを突破するべきか悩む。

 

『先生。ちょっといい?』

 

「チヒロ、どうしたの」

 

『ユズが何かに気がついたみたい』

 

 そんな中で、チヒロから先生へ通信が入った。ユズが気づいたという内容に、先生はただ頷く。

 

「さて、仕切り直しだ。お前がそれなりに器用なのはわかったが、お綺麗な戦い方だけでやれると思っちゃ困るなぁ」

 

 睨み合いの状況となっていた中で、ネルは仕切り直すようにサブマシンガンのマガジンを素早く交換しつつトキを挑発する。トキはネルの挑発に乗るようなことはせず、先ほどから耳に届く冷たくも心地よいリオの声だけを聞いていた。

 

『──ターゲットは理解したわね』

 

「……かしこまりました。不利になる前に仕掛けます」

 

 周囲には聞こえない程度の囁くような声でトキは主人からの指示を受ける。トキの視線がネル──それよりも先へと射抜くように向けられた。

 

「ですが、器用なこと以外もできますよ」

 

「あ?」

 

 アビ・エシュフの両腕をトキは内側を重ねるように合わせて前へと突き出す。ネルは8つの砲口全てが向けられたことに悪寒がし、咄嗟に飛びあがろうとするも、トキとネルの直線上の後方にヴェリタスメンバーが乗るトラックがいることに気が付く。

 

「コイツ!?ヴェリタス!避けろ!」

 

『副部長!』

 

『ダメ!アウトリガー下ろしてる!衝撃に備えて!』

 

「アームド・キャノン、フルファイアっ!」

 

 回避は不能、ネルはあえて両腕を広げ被弾面積を大きくする。このまま避ければモモイ──ユズが操るサムス・イルナの戦闘力が大幅にダウンするからだ。

 

 8つの砲から弾が放たれる。その寸前、トキに流れ込む演算結果。発射と同時に齎されたそれは予知というにはいささか遅いものだった。8発の砲弾はネルではなく、その前に割り込んだモモイのパワードスーツが構えた3枚のシールドに阻まれる。ネルはまさか庇われるとは思わず、僅かに呆けてしまった。

 

「た、助かった!」

 

「気にしないで!でも、やったのユズ!」

 

「おでこか!流石だな」

 

『い、いえ、私たちも危なかったので……』

 

 爆煙が晴れ、トキから見ればモモイは油断なくサムス・イルナのサブマシンガンを構えており、左腕に装備されたシールドが耐久限界を超えたのかパージされた。

 

「申し訳ありません」

 

 トキの横にアカネが並び立つ。モモイたちを止められなかったのはどういうことかとトキがアカネを見れば、彼女が装備しているPアビ・エシュフの左腕部装甲が歪んでいた。

 

 エリドゥの演算は当然余裕がある。アカネにもトキ同様に予知レベルの先読みが可能なはずだった。それでもなお、モモイたちが何故互角に渡り合えている理由をリオからトキは伝えられていた。

 

「リオ。君の用意したそのパワードスーツ。瞬間的に二つ以上の予知がされると、動きが鈍るみたいだね」

 

『えぇ』

 

「ずいぶんあっさり認めるね?」

 

『エリドゥ全ての演算結果を受け止めるのは生徒には不可能。アバンギャルドくんでもそれは同じ。だからアビ・エシュフ側で最適な予知だけを取り出して彼女たちに伝えていたわ。けれど、サムス・イルナを複数人で動かされたことで、そのフィルターが貫通されたようね』

 

 動揺することなく、アカネの身に起きたことをリオは語るが、戦っている相手に素直に明かす行為そのものをネルは何を意味するか理解し、舌打ちする。

 

「チッ。対策済みってことか」

 

『フィルターを強化したわ』

 

 そのリオの発言に、トラックの中でチヒロは僅かに口元を綻ばす。彼女は出発前にこっそりヒマリとウタハから聞いた話を思い出していた。

 

 

 

 

 

──予知機能の弱点?

 

──えぇ。当たり前の話ですが人間の脳が一度に受け切れる情報などたかがしれています。対策としてはナノマシンを注入して補助脳を設ければ変わるでしょうけど、そんな技術はまだ机上のものでしかありません。

 

──だからリオのことだ。使用者の安全第一でおそらく、未来予知の結果はフィルターをかけて絞ったものを装備者に与えていると思うんだ。彼女は合理主義者であるが、その手段はしっかり問うからね。特に、安全面は。

 

──ですので、先生と草鞋野さんが話した夏の経験や晄輪大祭でのウタハの運用データから考えれば、そのフィルターに負荷をかければなんらかの不具合が起こるでしょう。

 

──それつけてる子大丈夫?

 

──言っただろう?リオは安全面だけは徹底すると。おそらく、オーバーフローさせれば彼女は緊急停止を選ぶ。それまでは機械側に限界まで負荷をかけるはずだ。使用者第一。それが彼女の根底にある設計思想だ。

 

 

 

 

 

 予想通りの方向へと進んでいることに、チヒロは確かな手応えを感じていた。

 

「(……そのように、あの二人は思っているはずね)」

 

 だが、ヒマリとウタハがそのように考えれば、当然、リオも同じ結論に至った。そうしたところで、リオはトキとアカネを使い捨てるような真似は絶対にできない。彼女は非情になれても、人でなしにはなれなかった。

 

『トキ。主砲の使用を許可するわ。ヴェリタスの乗っているトラック、上部構造物を破壊しなさい』

 

「かしこまりました。主砲、使用許可を確認。展開します」

 

 トキのアビ・エシュフが背部に背負っていた2本の長物を展開する。先端には明らかに実弾を放つためではない砲口と内部の構造が全員の目に映った。

 

「おい、なんかヤベェぞ!」

 

「ユズ、ミドリ!」

 

 ネルが声を上げ、モモイが即座にトキへ向けて突撃を敢行した。

 

「させません!」

 

 しかし、トキの邪魔はさせないとアカネがモモイを迎撃する。

 

 アカネの操るPアビ・エシュフの背部コンテナからは攻撃用ドローンが展開し、背部のスラスターからは爆発的な青白い噴射炎が放たれる。

 

「うわっ!?ちょっ!?」

 

 それに対し、ユズは即座にサムス・イルナの脚部ローラーによるダッシュを止め、バックパックに備えられた横を向いたアポジモーターを全開で噴射。モモイが悲鳴を上げるなか、人体に対して有害なGを発生させつつもアカネの放ったドローンのミサイルを紙一重で回避する。

 

「避けられた!?」

 

「オラァッ!」

 

 ドローンもエリドゥの演算を受けているはずが、モモイに避けられ動揺したアカネに容赦無くネルが飛びかかる。顔面を狙った飛び蹴りにたまらずアカネはドローンを間に挟みガードするが、当然のようにドローンはそれだけでひしゃげて大破した。

 

「殺人的な加速すぎ!」

 

『頑張って耐えて』

 

「死んじゃうから!?」

 

『お姉ちゃん頑張って!』

 

 スイッチの入ってしまったユズはモモイが青い顔をしようとお構いなしにサムス・イルナを全力稼働させる。ユズが狙うのはトキただ一人。明らかにビーム砲を発射しようとチャージしている相手に、ユズは必死に操縦桿を押し込む。

 

『チャージなんてさせない…!』

 

「間に合いません。終わりです」

 

 トキはアビ・エシュフの脚部や背中に装備された補助脚を展開し、顔に装備したバイザー型のモニターを通し、ヴェリタスの乗る装甲トラック、レッドハウンドの屋根に備えられた通信装置をロックオンする。

 

『ユズちゃん!ジャンプして!』

 

『…!わかった、ミドリ!』

 

 もはや止めることは叶わない。姉と違い、論理的なはずのミドリは姉のように直感に任せ、ユズに機体をジャンプさせることをお願いする。ユズは即座にミドリの願いを叶え、サムス・イルナはスラスターを吹かして、トキとレッドハウンドの間に割り込んだ。

 

「むり、吐く…吐くよ〜……」

 

 グロッキー状態のモモイがトキの視界に入ってくる。あまりにあんまりな姿にトキは思わず一瞬、トリガーにかける意識を抜いてしまった。それは、ゲーマーである彼女たちにとっては十分以上な隙だった。

 

 ミドリはサムス・イルナの右背部に備えられたビーム・キャノンを展開。2門の“主砲”を展開したトキに向ける。

 

 刹那──アビ・エシュフの主砲と、サムス・イルナのキャノンが放たれる。トキの放った2本の青白いビームは1点に収束し、モモイへと迫る。それに対し、オレンジ色に近い色をした1本の大出力のビームがサムス・イルナのキャノンから伸び、2つのビームは互いの中間地点でぶつかった。

 

 青とオレンジのビームはぶつかった瞬間に混じり合うのではなく、爆発を引き起こす。咄嗟にユズがシールドを前に立て、モモイを庇う。

 

「うおおおっ!?」

 

「リーダー!」

 

 ネルは爆風に吹き飛ばされ、カリンが受け止める。先生はアスナに捕まって飛ばされずに済んでいた。

 

 爆発の衝撃を上手くユズはいなして、舗装を削りながら着地する。モモイはなんとか嘔吐感に耐えつつ、込み上がったものを飲み込んで前を向いて口を開いた。

 

「ど、どうだ、ユズはすごいんだからっ…おえっ、きもちわるぅ…」

 

「……えぇ、それは認めなくてはならないようです」

 

 ユズの動きは予知されていた。それでも、予知と同時に動き出せば定められた因果に向かってトキは進むしかない。

 

 トキは花岡ユズが、才を持ちながらもその道を極めた、ミレニアム最高峰の天才のうち一人であると理解した。

 

 サムス・イルナによるバグを防いでもなお、予知が出ると同時に既に動いている。それが意味することを、戦闘を観測していたリオは驚嘆しつつも、口にする。

 

『驚きね。……トキも、アカネも、人であることは変わらない。だからエリドゥの演算結果の受信のラグは誤魔化せない。コンマ以下、一糸の時間だというのに。それにあなたは反応してみせるのね』

 

 莫大な計算結果をフィルターに通し、装備者である二人に伝わるまでのタイムラグ。確かにそのラグの合間に反応できれば予知に対抗できるのは間違いないが、言うだけではなくやってのけるなど、リオは予想できなかった。

 

 加えて、ただ反応するのではなく対応もしてくる。まさか、予知能力者でもあるのかとリオは一瞬疑ったが、それはアスナに守られている先生が聞かずとも否定した。

 

「ユズはすごいね。達人ってやつだよ。たくさんの経験の中から無意識のうちに最適解を導いてる」

 

「なるほどな。ある意味人力で演算してるわけだ。そんで出力もバカ速い。アカネと新入りにあたしは反応できねぇが、おでこと比べればお前ら二人は本当に、気がつけねぇぐらいの差で遅いわけだ」

 

 外部出力と内部出力の差。ネルは理解の及ばないレベルの攻防の結果をそのように評価した。

 

 レッドハウンドが狙われ出したことで、先生は次の段階に進むべきだと判断し、ネルに駆け寄って声をかける。

 

「ネル」

 

「なんだよ先生」

 

「ちょっといい?」

 

 先生はネルへ耳打ちする。

 

「………って感じでどう」

 

「わかった。やるぞ」

 

「いいの?ネルに負担かかるけど」

 

 先生がネルに伝えた作戦を心配するが、ネルはただ不敵に笑うだけだった。

 

「気にすんなよ先生。あたしは、あたしの実力を一番よく知ってる。任せな」

 

 ネルが首を鳴らしながら銃を構える。先生はモモイ、ユズ、ミドリにもひっそりと通信を入れ、ネルに伝えた内容と同じことを話す。

 

『……わかりました』

 

『了解です!先生』

 

「任せて!」

 

 あとは生徒たちが事を為す事を祈るだけだと先生は大人しくアスナの横に戻った。

 

「作戦会議は終わりですか?」

 

「あぁ。テメェの相手は終わりだ」

 

「それは倒すという意味ですか?」

 

「ちげぇよ。時間の無駄ってことだ。お前の相手をするのはな」

 

 予備動作なしにネルが突如、駆け出す。まるでやぶれかぶれの突撃かのようにトキへと一直線に向かってくる。事前のセリフからまさか一撃で仕留めようというのか、とトキはそんなに自身は甘くないと憤慨するも、エリドゥが示した次のネルの動きは攻撃ではなかった。

 

「トキ!」

 

「くっ…!」

 

 アカネにも同様の予知が流され、二人は咄嗟にマシンキャノンによる射撃を開始。アカネは撃ちながらブースターで大きくジャンプし、トキの後方に陣取った。

 

 放たれたマシンキャノンに対してネルは飛び上がったアカネすら飛び越すような大ジャンプを行う。トキとアカネが見たネルの動きは攻撃ではなく、二人を飛び越えていくというもの。つまりは、時間の無駄とはそのままの意味であり、二人を無視していこうというのだ。

 

「勝てないと認めたということですか」

 

「それが知りたきゃ止めてみなっ!」

 

 飛び上がったネルは空中で行動などできないはずであるのに、次の瞬間送られてきた予知にはネルがさらに吹き飛んでいく様が映る。アカネとトキ、二人がネルに対して何をするつもりなのかと思えば、気がついた時には遅かった。

 

「ネル先輩!」

 

「おうよ!」

 

 モモイが乗るサムス・イルナがブースターを点火し、凄まじい加速で盾を前に突撃してきていた。そして、ネルはサムス・イルナの展開するシールドに両足をつけ、更に跳躍した。

 

『二人への行為でないから…!?』

 

 リオはシステムの欠陥に気が付かれたことを悟った。トキとアカネへの攻撃ではないために、予知がされなかったのだ。

 

『受けのシステムなら…!』

 

 そしてこの看過は、ユズによるものだった。ある時に戦ったゲームのチーターと同じく、攻撃に反応する。なら攻撃をしなければ──結果はトキとアカネの目の前にあった。

 

 ネルを突き飛ばし、そのままの勢いでモモイの乗るサムス・イルナはアカネに向かって突進を続け、アカネはエリドゥの予知により回避を行い直撃は避けた。

 

 が、物理的な問題で回避運動の直後、着地の硬直に、モモイは容赦無く左腕のサブマシンガンをフルオートで連射。

 

 たまらずアカネはPアビ・エシュフの左腕を盾にする。

 

『トキ、ネルを追撃しなさい!』

 

「承知しました」

 

『アカネはその場で迎撃を!』

 

「かしこまりました」

 

 セントラルタワー内へと飛び込んだネルに、トキは追撃の指示を受け、その場から離れていく。アカネはその場に残され、必死の表情のモモイと相対する。

 

「よぉし、アカネ先輩の相手は私たちだよ」

 

「まさか、部長を単独で先行させるなんて」

 

 エリドゥのバックアップを受けてもなお、ユズの操るサムス・イルナはアビ・エシュフと互角以上の動きを見せるため、あとは腕の差が勝敗を分けるとアカネにはわかってしまった。

 

「なんでアリスを連れ去ることに賛成したの?」

 

「賛成とか、そういう話ではないのです。モモイちゃん」

 

 油断なくモモイは構えながらも、アカネに問いかける。アリスとの仲は良好だったアカネがなぜこんなことに加担するのか、モモイには理解ができなかったからだ。

 

「C&Cとして、会長の願いを叶えることが私の責務です」

 

「……アカネ。それだと、私たちは無責任だと、そういうことになるが?」

 

「カリン。重ねて言いますが、”私の”ですよ。私はメイドです。忠誠心でも、信仰でも、依存でもなく──メイドとは、主人に仕え、主人の願いを叶える者なのですから」

 

「よくわからないけど、アカネはメイドに忠実なんだね!」

 

「……ふふっ、そうですね、アスナ先輩」

 

 モモイも上手くは理解できなかったが、覚悟のようなものを受け取ったことで、ここでの決着は避けられないと悟った。

 

「アカネ。退く気はないんだね」

 

「はい、先生。どうか、おもてなしをさせてください」

 

「……わかったよ」

 

 夜に浮かぶライトアップされた摩天楼を背に、アカネはPアビ・エシュフのスラスターを点火し、ゆっくりと浮かび上がる。その周囲を子機がふわりと回り、モモイへとそれぞれの銃口が向けられる。

 

 対抗するように、ユズがサムス・イルナのブースターを点火し、重量を感じさせるような浮き方でアカネへと向かい合わせる。

 

「では、どうぞご堪能ください」

 

「いくよっ!──ぅッ!」

 

 ユズが容赦無く機体を加速させ、モモイは強烈なGを受けながらも、アカネから目を逸らさず、サムス・イルナの両腕はミドリに操作を任せ、自身のアサルトライフルを自らの手で構え、射撃する。

 

 一人ではなく三人で一つ。アカネは突っ込んでくるゲーム開発部に対して、もしリオがこの光景を見ているのなら少しでも気づきを得ていて欲しいと、優秀な使用人らしく、主人のことを想っていた。

 

 一方で、セントラルタワーの内部へとガラスを打ち破って突入したネルはところどころに浅い切り傷を作りつつ、ロビーの中に立つ。広いロビーであり、ミレニアムタワーにどこか似た構造の内部は、ここがまさにミレニアムの次の首都であることを語っていた。

 

「さて……新入り、追いかけっこといこうじゃないか」

 

「……よくもこんな無茶を」

 

 割れたガラスをアビ・エシュフで踏み潰しながら、トキはしてやられたとネルを睨んだ。余裕がついになくなったトキに、ネルは首を大きく傾けながら振り向き、悪鬼のように嗤う。

 

「無茶?ははっ!おいおい、お前はずいぶんあたしを舐めてるみたいだな。お前にはあたしが、非力なちびっこにでも見えてんのか?」

 

 ネルが銃口をトキに向ける。そこにはトキを侮るようなものはなかった。

 

「あたしがアリスまで辿り着くのが先か、お前があたしを止めるのが先か。あたしの間合いでどこまでやれるか、見せてみろや。新入り」

 

「大は小を兼ねるとも言います。あなたはここで止めます。絶対に」

 

「スカした態度が消えたな。ようやくサシで教えてやれるな。あたしの間合いで勝てたやつは──誰もいねぇってな」

 

 静かなロビーは直後に銃声と砲撃音により戦場へと変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 セントラルタワーの方向からものすんごい戦闘音が聞こえてくるので、おそらく先生たちはパワードスーツのメイドの子と戦いを始めたみたいだ。ってことをみんなに伝えたけど、聞こえてるのは私だけらしい。

 

「耳がいいですね。本当に」

 

「不便なことも多いがな」

 

 明星さんに感心されたけど、ほんとに不便も多いのだ。戦闘中はどうしてるかって?瞬間的に耳を伏せたりしてるよ。これは頑張って訓練した。カンナちゃんもできたりする。耳ペタしてるカンナちゃんって可愛いんだよねぇ。

 

 っと、そんなこと考えてる場合じゃない。

 

「早瀬さん、先生たちの状況をお願いします」

 

『先生たちはアカネともう一人のC&Cの子が使うパワードスーツと戦い始めたみたいね』

 

「やはりか。みんな、私たちはこのままセントラルタワーへと乗り込むぞ!」

 

「オッケー!けど、妨害も無さそうだね?」

 

 ミカさんの言う通りで、マスドライバーを出てセントラルタワーへと向かっているのだけど、結局、今ミヤコちゃんにおんぶさせてる人型ドローンを最後に妨害はなくなってしまった。調月会長は何を考えているのだろうか。まとめて私たちもパワードスーツの相手をさせようって感じなのかな。

 

 なんであれ、妨害がないなら好都合。進めるだけ進んでしまおう。

 

「聖園、警戒は怠るな。何が来るかはわからないんだ」

 

「まぁ、大抵のはエリカちゃんと私でぶっとばせるでしょ」

 

「……だとしてもだ」

 

 そうかもしれないけど、油断はしたくない。ミカさんも決して気を抜いてるわけじゃないと思うけど。

 

 しばらく進んで、セントラルタワーの裏手にある街区に到達する。メインストリートもあるビジネス街のような場所で、セントラルタワーへはあともう少しといったところかな。

 

「だいぶ近づきましたね。まったく、ずっとおんぶされるのも大変なんですが」

 

「そんなに乗り心地悪い?」

 

「別にあなたが悪いとは言っていませんよ、エイミ」

 

 明星さんたちの会話を聞きつつ、私はセントラルタワーの方向へと走り出そうとして、足を止めた。視界の先、幹線道路のような広さの車道の真ん中に、大きな影が見えたからだ。

 

「あれは……」

 

「どうされましたか?会長」

 

「正面、300m先。何かがある」

 

「……確認しました。アレは…?」

 

 ミヤコちゃんもその影を視認する。見覚えのあるシルエットだ。もう少し近づいてしまえば全貌が明らかになる。

 

「アバンギャルドくん?なぜこんなところに」

 

 明星さんがその名前を告げる。目の前に現れたのは、左腕を失い、下半身を四脚に換装されているも、そのうちの足一本を失い擱座しているアバンギャルドくんだった。先生たちが先に戦って退けた個体なのだろうか。

 

「これ晄輪大祭に出てた変なロボットだよね?」

 

「そうだ聖園。だがなぜこんなところに」

 

 周囲を見渡すが、戦闘の痕跡が一切ない。となると、これは撤退したけど力尽きた個体だろうか。私では判断できないでいると、明星さんが早瀬さんに通信を飛ばしていた。

 

「ユウカ。目の前にアバンギャルドくんがあります。ウタハたちの修理しているものかもしれません。エンジニア部にコンタクトを」

 

 そっか。エンジニア部が一体鹵獲したって言ってたもんね。それならおかしくない。でも、肝心の白石さんたちの姿がない。

 

「……?ユウカ、ノア。どうしたのですか、応答しなさい」

 

「どうしたの部長」

 

「エイミ、繋がりません」

 

「会長がジャミングでもしたかな」

 

「いいえ、そんな気配は」

 

 通信の妨害をされている?今のいままで、調月会長がしていなかったのに?違和感がある。なんだこれは。

 

 私はあたりを見渡す。なんの気配もない。私たち以外に。誰かがいる感じはしない。ミカさんも同じなのか、しきりあたりを見渡しては首を傾げている。そもそも、通信にジャミングが入れば、多少の障害音は聞こえるはず。それすらないなんて、一体どういう。

 

 私たちが困惑し、その場で立ち止まっていると、今度は明星さんの腰からビーッ、という警告音がかなりの音量で流れ出した。え、なに?

 

 私とミカさん、ミヤコちゃんが戸惑っていると、今まで一切焦った顔を見せてこなかった和泉元さんが突然叫んだ。

 

「特異警報……!?みんな離れて!」

 

 必死の叫びに、私は咄嗟にミヤコちゃんを引っ張ってその場から離れ、ミカさんも大きく後方へとジャンプ。和泉元さんも明星さんを背負っているにも関わらずとんでもない速度で後退してみせた。

 

 離れても警報音は鳴り続けている。明星さんは慌てて手元の携帯を取り出した。

 

「月雪さんは私とエイミから離れないでください!」

 

「え…?」

 

「草鞋野さん、聖園さん、あなたたちは先生から携帯に、特異現象捜査部のアプリの導入をさせられていますね!?」

 

 アプリ?そういえば、前にミレニアムのジオフロントで戦ったあと、先生から私とミカさんに入れるように言われたっけ。シャーレの活動でそのうち必要になるからって。

 

 明星さんがここまで取り乱しているなんて、一体何が起きてるの。

 

「…最悪の事態です。いいえ、ですが、これは必然だったのでしょう」

 

「やっぱり、ミレニアムから出て行ったわけじゃなかったんだね」

 

 特異現象捜査部の二人が、苦々しい表情で言う。

 

 離れるように言われた対象に私は目を向けた。──大破しているはずのアバンギャルドくん。それが、ギギギ、と軋みながらも動き出している。

 

「うそぉ、壊れてるんじゃなかったの」

 

「どうやらやる気のようだ。聖園、構えろ」

 

「いいけどさぁ」

 

 とはいえ、あんな状態ではミカさんに一撃でやられて終わりだろう。さしたる脅威ではないはずだ。はずだけど、明星さんたちがこんなに警戒しているのは、何かがある。アレが普通の敵ではないと。

 

「……正面のアバンギャルドくんからデカグラマトン、ホドの反応を検知。気をつけてください。アレはアバンギャルドくんではありません」

 

「まさか前にエリカちゃんと私が戦った重機みたいなやつ?」

 

 そういうことか。でも、前に戦ったデカグラマトンの眷属みたいなのと違って、柱……確かインベイドピラーだっけ。それがない。

 

「えぇ。そして、おそらくですが……」

 

 今度は遠くからまた何かが落ちてくる。ミサイル?数発!?

 

「全員伏せろ!飛翔物多数、くるぞ!」

 

 慌てて伏せれば、4、5本の何かがアバンギャルドくんの周りに落着し、道路に突き刺さる。……あれは、言ったそばからインベイドピラー!?

 

「おそらく、今、ここに向かってきています。ホドが」

 

 明星さんが言った言葉、信じたくはなかった。調月会長と戦っているところに、デカグラマトンが乱入だなんて。最悪の状況と言っていい。

 

 落ちたインベイドピラーがぎこちなく動くアバンギャルドくんに何かエネルギーのようなものを供給し、ゆっくりとアバンギャルドくんが形を変えていく。まさか、修復をしているの…!

 

「聖園!させるな!」

 

「当然★」

 

 私とミカさんでその修復を阻むために射撃をするも、それは街の陰から飛び出してきた多数のガードロボットが防ぐ。

 

「動きを止めたガードロボットが…!」

 

 ミヤコちゃんの言う通り、どうしてさっき止めたはずのガードロボットが動いて。

 

「やられました。ガードロボットのコントロールセンターがある区画にもインベイドピラーが落下しているようです」

 

「部長、まずくない?」

 

「まずいなんてものじゃありません。幸い、この都市はそういった攻撃にも耐えられるように異常検知の段階で接続を物理的に切るので、中枢機能まで完全に取られることはありえませんが」

 

「いずれセントラルタワー以外全てを乗っ取られるということか、明星さん」

 

「その認識で構いません」

 

 冗談じゃない。早くこのことを先生に伝えないと。調月会長と戦ってる場合じゃない。

 

「エリドゥ攻略が裏目に出てしまったようです。間違いなく、デカグラマトン・ホドはこのエリドゥの膨大なエネルギーを察知したのでしょう。アレの狙いはこの都市の掌握です」

 

「……聖園、RABBIT1、状況が変わった。ただちに我々は調月会長へこの事態を知らせにいく。先生たちとの合流は後回しだ」

 

 天童さんを救う前に、デカグラマトンをどうにかしないと最悪ミレニアムが大変なことになる。彼女の帰る場所がなくなってしまう。

 

 ミカさんとミヤコちゃんは頷く。

 

「明星さん。通信は」

 

「ダメです。すでにこの区画は完全に堕ちているようです」

 

「……了解した。つまりは、まずあの目の前の敵を突破する必要があるということか」

 

「そのようです。……草鞋野さんと聖園さんの携帯に入っているアプリには、インベイドピラーの発する洗脳電波を防ぐ機能があります。月雪さんはありませんので、私の側を離れずに」

 

「承知しました。……会長、申し訳ありません」

 

「気にするな。いずれにせよ、その人形もどうなるかわからない。それは天童さんを救う希望だ。絶対に守れ」

 

「RABBIT1、了解」

 

 デカグラマトン・ホドの力を考えればミヤコちゃんが背負ってる人型ドローンも危ない。あれが壊されたら天童さんを助ける手段を失ってしまう。

 

 侵食されたアバンギャルドくんはその姿を大きく変えていた。四脚は二足の逆関節に、失われた左腕は足一本を再利用して復活。右手に装備されている大砲を束ねたような巨大なガトリングガンが回り出す。

 

「聖園。速やかに正面のデカグラマトン・ホドの眷属を破壊する」

 

「わかったよ。このままじゃ、先生たちも危ないもんね」

 

「あぁ。……アレはキヴォトスの平穏を乱す存在そのもの。強制的に排除する」

 

 侵食されたアバンギャルドくんがこちらを見つめ、その周囲に汚染されたガードロボットも集結する。時間はない。速やかに目の前の存在を排除する。私はアバンギャルドくんに向けて突撃した。

 

 




次回投稿は未定です。

サムス・イルナのイメージは某サンダーボルトでジャズ鳴らしてるアレです。本作ではアビ・エシュフのさらにプロトタイプ、ベースとなったという設定です。
名前の元ネタはアビ・エシュフの元ネタの先代です。

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